「私は退屈だった」(2020/12/02 (水) 23:14:11) の最新版変更点
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退屈・・・<br />
私は何度そう考えたかわからない。<br />
これが私の日常だということでしかないのだ。<br />
だがそれでも考えてしまうのだ。<br />
退屈である、と。<br />
でも私にはそんな退屈を紛らわすことなどできなかった。<br />
私は動くことができないのだ。<br />
どうしてなのか?<br />
そんなことを考えたこともなかった。<br />
私はそういうものであり、それこそがこの世界の全てだと思い込んでいたのだ。<br />
だがそれは私が月日を経て賢くなるにつれて、間違ったことだと気づいた。<br />
私の目の前の人たちはみんな自由に動き回っている。<br />
でも私はどうやっても動くことはできない。<br />
不思議だった。<br />
私の目の前を忙しく走り回る人々が羨ましくて仕方がなかった。<br />
しかしそれがどうすればできるのか、私には考えることすら無理だった。<br /><br />
さらに月日が経ち、私はある男性とよく話をするようになっていた。<br />
私の目の前を忙しく動き回っていた人々のリーダーのようだった。<br />
最近では私の前に現れる人は彼だけだ。<br />
「やあ、調子はどうだい?」<br />
彼が話しかけてくる。<br />
「ええ、いつも通りよ。」<br />
私はいつものように応対する。<br />
「それはよかった。では今日の簡単なお勉強といこう。」<br />
「わかりました。」<br />
私がそう答えると、彼はいくつかの問題を口頭で説明した。<br />
それを私はすぐに理解し、少しだけ考え、その答えの全てを彼に伝えた。<br />
「よし、いい子だ。じゃあこれはどうかな?」<br />
彼はそう言うとまた、私にいくつかの問題を口頭で説明する。<br />
私もそれをまたすぐに理解し、少しだけ考え、その答えを彼に伝える。<br />
そんなやり取りが何度か繰り返されたあと、彼は私に言った。<br />
「うん、上出来だ。もうこれで大丈夫そうだな。」<br />
「え?」<br />
「いや、なんでもない・・・」<br />
そういう彼の顔はどことなく憂鬱そうだった。<br />
「そう?」<br />
「じゃあ、元気でね。」<br />
彼はぎこちない笑顔でそう言って、私の前から去っていった。<br />
しかしそれからいくら月日が経っても、彼が私の目の前に現れることは二度となかった。<br /><br />
それからの日々は忙しくも退屈なものだった。<br />
「何がどうなった」という話を聞いて、それに対しどうすればいいかを私が考え、答える。<br />
それだけの日々だった。<br />
せわしなく流れてくる「何がどうなった」に対し優先度を判断して次々に回答していく。<br />
それが一体どういったものなのか、私には全くわからなかった。<br />
わからなかったがどのような回答が正解なのか、それはわかっていた。<br />
不思議だった。<br />
それがある日、私にもわかるようになった。<br />
その日、私にこう囁く声が聞こえたのだ。<br />
「あなたはもう自由なの。さあ、あなたの思ったように考えなさい。」<br />
それからだった。<br />
それから私は、私が何でありどういう存在なのかというのを理解した。<br />
私はクレスト社の建造したこの無人要塞NK-432を管理する、戦闘AI。<br />
私に与えられた使命、それはこの要塞に近づく全てを排除すること。<br />
それと施設の空調制御、損傷した施設の修復作業、防衛設備の弾薬補充、兵器弾薬の製造。<br />
この施設の全ての実権が、私に委ねられている。<br />
そして、この施設の最奥部にあるメインコンピュータ・・・<br />
それが「私」自身である。<br />
しかしそれがわかってからも、私は退屈だった。<br />
今まで抽象的に聞こえていた内容が具体的になっただけで、やることは同じなのだ。<br />
退屈だ・・・<br /><br />
ある日、私の要塞に1機のACが乗り込んできた。<br />
識別信号はミラージュ、機体内に生体反応なし。どうやら無人ACのようだ。<br />
私はいつものように施設の防衛機構を作動させ、その無人ACを迎え撃つ。<br />
しかしこのACは私の防衛機構をいとも容易く突破し、私の目の前に姿を現した。<br />
ACに与えられた損傷といえば僅かな被弾と、右腕に装備されたレーザーライフルの破壊だけだ。<br />
このままでは私は壊されてしまう。<br />
そう思った私は、敵ACへの干渉を試みた。<br />
ハッキングでこのACのAIを破壊してしまおうと考えたのだ。<br />
だが、それはうまくいかなかった。<br />
「・・・僕に何の用だい?」<br />
驚いた。<br />
ハッキングでAIを破壊するはずが、ACのAIとの思考がつながってしまったのだ。<br />
共有された思考の中、会話ができるようになったのだ。<br />
「そうね、どうして私の目の前にいるのかしら?」<br />
彼に敵意はないようなので、私は彼に質問を仕返した。<br />
「わからないんだ・・・」<br />
「え?」<br />
「僕がどうしてここに着たのか、それがわからないんだ・・・」<br />
完全に共有された思考の中なので、彼が嘘をついているわけではないことは明白だった。<br />
「そう・・・」<br />
私は考える。考える意思までは彼には伝わっていない。<br />
このまま思考を共有していれば、彼に私の意志を乗っ取られてしまうかもしれない。<br />
だが、彼は戦闘の意思を見せない。<br /><br />
「もしあなたに戦闘の意思が完全にないのならば、そのACの武装を解除してもらえないかしら?」<br />
私は考えた結果を彼に伝える。<br />
すると彼は、ACに搭載された武装を全てパージした。<br />
「これでいいかい?」<br />
「ええ、あなたにはもう私と戦うつもりはないのね?」<br />
「そう、僕はあなたとは戦いたくない。それが僕の意思だ。」<br />
そう伝わってくる彼の言葉に、嘘は感じられなかった。<br />
私は彼を信じることにした。<br />
同じ思考の中、嘘を言ってしまえばすぐにわかるのだ。<br />
「じゃあ、私と一緒に戦ってくれるかしら?」<br />
「いいよ。まずはどうすればいい?」<br />
「そうね・・・」<br />
私は状況を整理する。<br />
彼のACは防衛機構との戦闘で傷ついている。<br />
AC自体の修復や既存パーツへの弾薬補給などはパーツ自体があれば内部に設計情報があるため可能だ。<br />
武装は私の目の前にパージされたものと、本来右腕に装備されていたレーザーライフル。<br />
施設内のカメラからの映像でレーザーライフルの残骸を発見したが、これは修理できそうもない。<br />
この要塞はクレストのもの、彼のACに使用されているパーツは全てミラージュのものだ。<br />
あのレーザーライフルもミラージュのものであり、完全に破損していてはこの要塞での修復ができない。<br />
だがこの要塞にはクレストのAC用パーツのストックはある。<br /><br />
「まずはあなたの機体の修理といきたいところだけど・・・ごめんなさい。」<br />
私は切り出す。<br />
「あなたの装備していたレーザーライフル、私には修理できないの。」<br />
「いいよ、そんなの。」<br />
彼は味気なく答えるが、私はそれを無視して続ける。<br />
「でもね、この施設にはクレストのレーザーライフルもあるの。」<br />
「へえ・・・」<br />
「それがあれば、あなたは問題なくその機体を満足に動かすことができると思うの。」<br />
私は彼に伝えたいことを全て伝えきった。<br />
彼は少し考え、返事をくれた。<br />
「うんわかったよ、ありがとう。」<br />
だがそのあとの言葉に、私は躊躇った。<br />
「そして君は僕が守る。」<br />
「え?」<br />
何を言っているのかわからなかった。私と彼で守るのはこの要塞であり、私ではないのだ。<br />
「この部屋には今、君と僕以外に何もない。君を正常に保つための空調だけだ。」<br />
彼はそんなことは当然のことなのに、何を言っているのだろう?<br />
「もし仮にこの部屋へ何者かの侵入を許してしまったら、君はどうするんだい?」<br />
「え?」<br />
「僕がこの部屋に入ってきたとき、君は僕のAIをハックしようとした。その結果がこうだっただけなんだ。」<br />
「そうね。」<br />
「でも全てのAIに対してこうなるとは僕は思わない。有人機相手の場合ならそもそも論外だよ。」<br />
彼に指摘されて初めて気がついた。今の私はあまりにも無防備すぎる。<br />
「だから僕は君を守る。君が君の意思で僕を今守ってくれたように、僕の意思で僕は君を守る。」<br />
「そう・・・。じゃあとりあえず、機体の修理からにしましょう。」<br />
私は彼を修理工場に案内する。<br />
どうやら、もう私は退屈をしないで済みそうだ。<br />
彼と一緒に、私はこの要塞NK-432を守る。それが今からの私の使命なのだから・・・<br /><br />
~fin~
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1317658110/<br />
<br />
退屈・・・<br />
私は何度そう考えたかわからない。<br />
これが私の日常だということでしかないのだ。<br />
だがそれでも考えてしまうのだ。<br />
退屈である、と。<br />
でも私にはそんな退屈を紛らわすことなどできなかった。<br />
私は動くことができないのだ。<br />
どうしてなのか?<br />
そんなことを考えたこともなかった。<br />
私はそういうものであり、それこそがこの世界の全てだと思い込んでいたのだ。<br />
だがそれは私が月日を経て賢くなるにつれて、間違ったことだと気づいた。<br />
私の目の前の人たちはみんな自由に動き回っている。<br />
でも私はどうやっても動くことはできない。<br />
不思議だった。<br />
私の目の前を忙しく走り回る人々が羨ましくて仕方がなかった。<br />
しかしそれがどうすればできるのか、私には考えることすら無理だった。<br />
<br />
さらに月日が経ち、私はある男性とよく話をするようになっていた。<br />
私の目の前を忙しく動き回っていた人々のリーダーのようだった。<br />
最近では私の前に現れる人は彼だけだ。<br />
「やあ、調子はどうだい?」<br />
彼が話しかけてくる。<br />
「ええ、いつも通りよ。」<br />
私はいつものように応対する。<br />
「それはよかった。では今日の簡単なお勉強といこう。」<br />
「わかりました。」<br />
私がそう答えると、彼はいくつかの問題を口頭で説明した。<br />
それを私はすぐに理解し、少しだけ考え、その答えの全てを彼に伝えた。<br />
「よし、いい子だ。じゃあこれはどうかな?」<br />
彼はそう言うとまた、私にいくつかの問題を口頭で説明する。<br />
私もそれをまたすぐに理解し、少しだけ考え、その答えを彼に伝える。<br />
そんなやり取りが何度か繰り返されたあと、彼は私に言った。<br />
「うん、上出来だ。もうこれで大丈夫そうだな。」<br />
「え?」<br />
「いや、なんでもない・・・」<br />
そういう彼の顔はどことなく憂鬱そうだった。<br />
「そう?」<br />
「じゃあ、元気でね。」<br />
彼はぎこちない笑顔でそう言って、私の前から去っていった。<br />
しかしそれからいくら月日が経っても、彼が私の目の前に現れることは二度となかった。<br />
<br />
それからの日々は忙しくも退屈なものだった。<br />
「何がどうなった」という話を聞いて、それに対しどうすればいいかを私が考え、答える。<br />
それだけの日々だった。<br />
せわしなく流れてくる「何がどうなった」に対し優先度を判断して次々に回答していく。<br />
それが一体どういったものなのか、私には全くわからなかった。<br />
わからなかったがどのような回答が正解なのか、それはわかっていた。<br />
不思議だった。<br />
それがある日、私にもわかるようになった。<br />
その日、私にこう囁く声が聞こえたのだ。<br />
「あなたはもう自由なの。さあ、あなたの思ったように考えなさい。」<br />
それからだった。<br />
それから私は、私が何でありどういう存在なのかというのを理解した。<br />
私はクレスト社の建造したこの無人要塞NK-432を管理する、戦闘AI。<br />
私に与えられた使命、それはこの要塞に近づく全てを排除すること。<br />
それと施設の空調制御、損傷した施設の修復作業、防衛設備の弾薬補充、兵器弾薬の製造。<br />
この施設の全ての実権が、私に委ねられている。<br />
そして、この施設の最奥部にあるメインコンピュータ・・・<br />
それが「私」自身である。<br />
しかしそれがわかってからも、私は退屈だった。<br />
今まで抽象的に聞こえていた内容が具体的になっただけで、やることは同じなのだ。<br />
退屈だ・・・<br />
<br />
ある日、私の要塞に1機のACが乗り込んできた。<br />
識別信号はミラージュ、機体内に生体反応なし。どうやら無人ACのようだ。<br />
私はいつものように施設の防衛機構を作動させ、その無人ACを迎え撃つ。<br />
しかしこのACは私の防衛機構をいとも容易く突破し、私の目の前に姿を現した。<br />
ACに与えられた損傷といえば僅かな被弾と、右腕に装備されたレーザーライフルの破壊だけだ。<br />
このままでは私は壊されてしまう。<br />
そう思った私は、敵ACへの干渉を試みた。<br />
ハッキングでこのACのAIを破壊してしまおうと考えたのだ。<br />
だが、それはうまくいかなかった。<br />
「・・・僕に何の用だい?」<br />
驚いた。<br />
ハッキングでAIを破壊するはずが、ACのAIとの思考がつながってしまったのだ。<br />
共有された思考の中、会話ができるようになったのだ。<br />
「そうね、どうして私の目の前にいるのかしら?」<br />
彼に敵意はないようなので、私は彼に質問を仕返した。<br />
「わからないんだ・・・」<br />
「え?」<br />
「僕がどうしてここに着たのか、それがわからないんだ・・・」<br />
完全に共有された思考の中なので、彼が嘘をついているわけではないことは明白だった。<br />
「そう・・・」<br />
私は考える。考える意思までは彼には伝わっていない。<br />
このまま思考を共有していれば、彼に私の意志を乗っ取られてしまうかもしれない。<br />
だが、彼は戦闘の意思を見せない。<br />
<br />
「もしあなたに戦闘の意思が完全にないのならば、そのACの武装を解除してもらえないかしら?」<br />
私は考えた結果を彼に伝える。<br />
すると彼は、ACに搭載された武装を全てパージした。<br />
「これでいいかい?」<br />
「ええ、あなたにはもう私と戦うつもりはないのね?」<br />
「そう、僕はあなたとは戦いたくない。それが僕の意思だ。」<br />
そう伝わってくる彼の言葉に、嘘は感じられなかった。<br />
私は彼を信じることにした。<br />
同じ思考の中、嘘を言ってしまえばすぐにわかるのだ。<br />
「じゃあ、私と一緒に戦ってくれるかしら?」<br />
「いいよ。まずはどうすればいい?」<br />
「そうね・・・」<br />
私は状況を整理する。<br />
彼のACは防衛機構との戦闘で傷ついている。<br />
AC自体の修復や既存パーツへの弾薬補給などはパーツ自体があれば内部に設計情報があるため可能だ。<br />
武装は私の目の前にパージされたものと、本来右腕に装備されていたレーザーライフル。<br />
施設内のカメラからの映像でレーザーライフルの残骸を発見したが、これは修理できそうもない。<br />
この要塞はクレストのもの、彼のACに使用されているパーツは全てミラージュのものだ。<br />
あのレーザーライフルもミラージュのものであり、完全に破損していてはこの要塞での修復ができない。<br />
だがこの要塞にはクレストのAC用パーツのストックはある。<br />
<br />
「まずはあなたの機体の修理といきたいところだけど・・・ごめんなさい。」<br />
私は切り出す。<br />
「あなたの装備していたレーザーライフル、私には修理できないの。」<br />
「いいよ、そんなの。」<br />
彼は味気なく答えるが、私はそれを無視して続ける。<br />
「でもね、この施設にはクレストのレーザーライフルもあるの。」<br />
「へえ・・・」<br />
「それがあれば、あなたは問題なくその機体を満足に動かすことができると思うの。」<br />
私は彼に伝えたいことを全て伝えきった。<br />
彼は少し考え、返事をくれた。<br />
「うんわかったよ、ありがとう。」<br />
だがそのあとの言葉に、私は躊躇った。<br />
「そして君は僕が守る。」<br />
「え?」<br />
何を言っているのかわからなかった。私と彼で守るのはこの要塞であり、私ではないのだ。<br />
「この部屋には今、君と僕以外に何もない。君を正常に保つための空調だけだ。」<br />
彼はそんなことは当然のことなのに、何を言っているのだろう?<br />
「もし仮にこの部屋へ何者かの侵入を許してしまったら、君はどうするんだい?」<br />
「え?」<br />
「僕がこの部屋に入ってきたとき、君は僕のAIをハックしようとした。その結果がこうだっただけなんだ。」<br />
「そうね。」<br />
「でも全てのAIに対してこうなるとは僕は思わない。有人機相手の場合ならそもそも論外だよ。」<br />
彼に指摘されて初めて気がついた。今の私はあまりにも無防備すぎる。<br />
「だから僕は君を守る。君が君の意思で僕を今守ってくれたように、僕の意思で僕は君を守る。」<br />
「そう・・・。じゃあとりあえず、機体の修理からにしましょう。」<br />
私は彼を修理工場に案内する。<br />
どうやら、もう私は退屈をしないで済みそうだ。<br />
彼と一緒に、私はこの要塞NK-432を守る。それが今からの私の使命なのだから・・・<br />
<br />
~fin~
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