「かの彼:第一幕」(2011/07/10 (日) 20:55:37) の最新版変更点
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#1
「――ミッション開始。ネクスト、ワンダフルボディを撃破する!
……ネクスト戦は初めてだったか? まぁ、いずれ避けられんのだ。初体験といこうじゃないか」
私は通信を送りながら、リアルタイムで送られてくる映像に目を通す。
足元の砂漠を踏みしめるように立つ 堅牢性に優れたローゼンタールの新標準機「TYPE‐LANCEL」は
荒廃した景色には似つかわしくない 青と白のストライプパターンという清涼感に溢れるカラーリングに塗り変えられ、
肩にはサイケデリズムに溢れたややヘタクソなエンブレムが貼られている。
「なぁに、心配するな。相手とて名のあるリンクスじゃないんだ。お前の『ストレイド』なら十分にやっていけるさ――」
以前の上司から『前線から退いてオペレーターに転向しろ。』と言われた時には、目の前が真っ暗になったが……
今では ヘッドセットを付けてモニターの前に腰掛ける仕事にも慣れ、駆け出しの育成に勤しむ日々も悪くないような気がしてきた。
そんな思いに耽っていたところに割り込んで来たのは、暗く底冷えする(ように努めているような)声……
モニターには「signal from Strayed」の文字が点滅し、自動で彼の通信を受信する。
そう、彼こそがこのネクストの持ち主であり 私の担当するリンクス。 つまりは、私の相棒にして――
「――オペレーター。何度言ったら分かるんだ? 俺の機体は『ストレイド』じゃない……」
「……『久遠零式~時の絆~』だ。」
――最大の悩みのタネである。
#2
遡ること3ヶ月程前――
言われるがままに前線を退き オペレーターになったは良いが、私はその後の数日間を ひたすらコンピューターとにらめっこする事に費やしていた。
元々、私は企業の尖兵だった。何も考えずに闘ってきた私がオペレーターになるには 無論、一から勉強を仕直す事が必要だったのだ。
だが、それよりも もっと深刻だったのは…… オペレーターを必要とするリンクスの不足であった。
ご存知のとおり、リンクスになる為には『AMS適正』という物が必要だ。
そして、その才能は厄介な事に後天的に身につける事ができない。 ……リンクスの絶対数は限られているのだ。
さらに、そのAMS適正を持っていたとしても リンクスになりたがる者が多い訳でもない。
無理もない……いくら企業からの厚遇を受けれるとはいえ、激しい戦乱の中に身を置き いつ寝首を掻かれるかも分からず、
日頃は訓練と実験に時間を費やして、少ない休日も一度招集がかかれば全てがご破算。 例え生き残ったとしても、その身はコジマに蝕まれ――
そんな人生、誰が望むものか。
キーボードを枕にし、机につっぷして 行き詰まり、息詰まる思考を巡らせていたそんな時、コンピューターが甲高い電子音を鳴らした。
マズい。私の頭の重量でキーボードが悲鳴を上げたか。 そう思いながら スリープ状態になっていたディスプレイを立ち上げる……
……そこにあった、『新着メール:1件』の文字は 陰鬱な気分を一気に吹き飛ばし、私の胸を大きく高鳴らせた。
タイトルの無いそのメールの中身は、住所とそれに添えられたたった一文。
『I wanna be a links.』 ……その一文のみだった。
そこから先の事はあまり話したくない。
要点のみを掻い摘むと、「出迎えてくれた男はノースリーブの黒いコートに指なし手袋を着用していた」
「時折右手を押さえて苦しがっていた」「そのくせ、AMS適性と戦闘技術はそこそこあった」
「前日、リンクス時代の上司から『死ぬまでにはお前のリンクスを見てみたいもんじゃわい』と催促されたばかりだった」……という訳だ。やむを得なかったのだ。
【何故、私の連絡先を知っていたのか?】
【何故、彼は既にAMS手術を済ませていたのか?】
【その戦闘技術は何に由来するのか?】
それらが気になる人もいるだろう…… しかし、恥ずべき事かもしれないが 実は私も知らないのだ。
実際、出会った時 最初に訊ねたのだが…… やれ世界がどうの、機関がどうのと のらりくらりとかわされて、結局、現在に到るまで うやむやのままで済まされてしまった。
しかし、過程はどうあれ 彼と私は 同時にリンクスとオペレーターになり、同時に当面の目標を果たす事が出来た。
『寄りべを見つけた迷い猫』……お互いの境遇からそういった意味を込め、私は あの機体に『ストレイド』と名付けて、彼に贈ったのだが……
……贈ったのだが?
#1
「――ミッション開始。ネクスト、ワンダフルボディを撃破する!
……ネクスト戦は初めてだったか? まぁ、いずれ避けられんのだ。初体験といこうじゃないか」
私は通信を送りながら、リアルタイムで送られてくる映像に目を通す。
足元の砂漠を踏みしめるように立つ 堅牢性に優れたローゼンタールの新標準機「TYPE‐LANCEL」は
荒廃した景色には似つかわしくない 青と白のストライプパターンという清涼感に溢れるカラーリングに塗り変えられ、
肩にはサイケデリズムに溢れたややヘタクソなエンブレムが貼られている。
「なぁに、心配するな。相手とて名のあるリンクスじゃないんだ。お前の『ストレイド』なら十分にやっていけるさ――」
以前の上司から『前線から退いてオペレーターに転向しろ。』と言われた時には、目の前が真っ暗になったが……
今では ヘッドセットを付けてモニターの前に腰掛ける仕事にも慣れ、駆け出しの育成に勤しむ日々も悪くないような気がしてきた。
そんな思いに耽っていたところに割り込んで来たのは、暗く底冷えする(ように努めているような)声……
モニターには「signal from Strayed」の文字が点滅し、自動で彼の通信を受信する。
そう、彼こそがこのネクストの持ち主であり 私の担当するリンクス。 つまりは、私の相棒にして――
「――オペレーター。何度言ったら分かるんだ? 俺の機体は『ストレイド』じゃない……」
「……『久遠零式~時の絆~』だ。」
――最大の悩みのタネである。
#2
遡ること3ヶ月程前――
言われるがままに前線を退き オペレーターになったは良いが、私はその後の数日間を ひたすらコンピューターとにらめっこする事に費やしていた。
元々、私は企業の尖兵だった。何も考えずに闘ってきた私がオペレーターになるには 無論、一から勉強を仕直す事が必要だったのだ。
だが、それよりも もっと深刻だったのは…… オペレーターを必要とするリンクスの不足であった。
ご存知のとおり、リンクスになる為には『AMS適正』という物が必要だ。
そして、その才能は厄介な事に後天的に身につける事ができない。 ……リンクスの絶対数は限られているのだ。
さらに、そのAMS適正を持っていたとしても リンクスになりたがる者が多い訳でもない。
無理もない……いくら企業からの厚遇を受けれるとはいえ、激しい戦乱の中に身を置き いつ寝首を掻かれるかも分からず、
日頃は訓練と実験に時間を費やして、少ない休日も一度招集がかかれば全てがご破算。 例え生き残ったとしても、その身はコジマに蝕まれ――
そんな人生、誰が望むものか。
キーボードを枕にし、机につっぷして 行き詰まり、息詰まる思考を巡らせていたそんな時、コンピューターが甲高い電子音を鳴らした。
マズい。私の頭の重量でキーボードが悲鳴を上げたか。 そう思いながら スリープ状態になっていたディスプレイを立ち上げる……
……そこにあった、『新着メール:1件』の文字は 陰鬱な気分を一気に吹き飛ばし、私の胸を大きく高鳴らせた。
タイトルの無いそのメールの中身は、住所とそれに添えられたたった一文。
『I wanna be a links.』 ……その一文のみだった。
そこから先の事はあまり話したくない。
要点のみを掻い摘むと、「出迎えてくれた男はノースリーブの黒いコートに指なし手袋を着用していた」
「時折右手を押さえて苦しがっていた」「そのくせ、AMS適性と戦闘技術はそこそこあった」
「前日、リンクス時代の上司から『死ぬまでにはお前のリンクスを見てみたいもんじゃわい』と催促されたばかりだった」……という訳だ。やむを得なかったのだ。
【何故、私の連絡先を知っていたのか?】
【何故、彼は既にAMS手術を済ませていたのか?】
【その戦闘技術は何に由来するのか?】
それらが気になる人もいるだろう…… しかし、恥ずべき事かもしれないが 実は私も知らないのだ。
実際、出会った時 最初に訊ねたのだが…… やれ世界がどうの、機関がどうのと のらりくらりとかわされて、結局、現在に到るまで うやむやのままで済まされてしまった。
しかし、過程はどうあれ 彼と私は 同時にリンクスとオペレーターになり、同時に当面の目標を果たす事が出来た。
『寄りべを見つけた迷い猫』……お互いの境遇からそういった意味を込め、私は あの機体に『ストレイド』と名付けて、彼に贈ったのだが……
……贈ったのだが?
#3
「分かった…… その……なんだ。機体の名前は…… く、くぉんぜろしき?
……で良いから、とっとと終わらせて帰って来てくれ…… 話し合うのはそれからにしようじゃないか……」
コイツとの馴れ初めを想起しつつ、モニターの前で軽い目眩を感じながら ヘッドセットに向かって呟いた。
この時、『純正ローゼンタール』というバランスを崩してでも この機体に追加のレーダーを積まなかったことを私は後悔した……
頭部に標準装備されている申し訳程度のレーダーでは 未だに敵ネクストを見つけることができなかったのだ。
「いや、それも違う…… 正式には『久遠零式~時の絆~』だ。サブタイトルが抜けている。次からは気をつけてくれ。」
「サブタイトルだと……?!」
どこの世界にサブタイトルが付いた兵器があるんだ!!
そう叫びつけたくなった気持ちを すんでのところで飲み込んで我慢する。
「厳密にはサブタイトルでは無いがな……この機体という存在を俺が認識する為のアリアだ。
同時に、厭世に散らばる凡百の言の葉と隔絶する為の重要なファクターでもある…… 努々(ゆめゆめ)忘れるなよ。」
……今度は何を言っているのか 半分も分からなかった。そして、何故こんなにコイツは偉そうなのだ……?
コイツと話すときはいつもそうだ、訳のわからないままペースを乱されて そのまま流されていってしまう!
「……わかった、わかったからミッションに集中してくれ……
もうすぐ囮部隊の反応が消えた地点に差し掛かる。気を抜くんじゃないぞ、いいな?」
今回のミッションはインテリオルが用意した輸送部隊でワンダフルボディ―― つまりはドン・カーネルをおびき出し、
それが輸送部隊を撃破して 一息ついたところを狙って叩く。……言ってみれば、完全な不意打ちだ。
そして、こんなまだるっこしい真似をしなければならないのは、新米リンクスであるコイツが まだインテリオルから十分な信頼を得ていない証拠でもある。
……もし、この依頼を受けたのが私だったなら 全てのミッションプランは私に任されていただろう。
まぁ、いいさ…… この依頼を足台に、コイツには力づくで信頼をもぎ取ってもらうとしよう。
・・・
「……こちら『久遠零式~時の絆~』。聞こえるか。今し方、哀れなるスケープ・ゴートが上げた断末魔の抜け殻を発見した。」
「? ……ああ、輸送用トラックの残骸の事か。こちらにもバッチリとモニターされているぞ。
しかし、妙だな? ワンダフルボディの機体構成では そう遠くへ行ったハズはないんだが……?」
ワンダフルボディに限らず、GAの機体は概ね鈍重と言われている。
グループ企業であるクーガーの発達と インテリオルのネガティブキャンペーンを差し引いて考えても…… 決して素早いとは言えないレベルであろう。
ましてや、乗っているのはニューサンシャインプロジェクトで担ぎ上げられた粗製リンクスだ。
この数分間のうちに 手早く輸送部隊を殲滅し、その上さっさと引き上げてしまったとは到底考えられなかった。
……と、なると この状況は一体どういう事なんだ?
囮の部隊は既に撃破されているのに、目標の敵ネクストなんてどこにもいないじゃないか!
……待てよ?
ふと脳裏を過ぎった予感を基に、手元のコンソールをいじって私に与えられていた情報を整理する。
囮部隊の進行ルートを考えると、確かに不自然なところは多々あった。インテリオルの勢力圏を少しか、それ以上に逸脱しているのだ。
さらにこの作戦の直前、私とコイツはインテリオルの本命の輸送部隊を護衛して その部隊の任務遂行に大きく貢献した。
……同じような2つの部隊。片方にはネクストの護衛をつけ、片方は無防備なまま。という事が考えられるだろうか?
GAの連中も馬鹿ではあるまい…… もしかすると、ヤツらは「この輸送部隊が囮だということに気付いていた」……?
私の予感が現実味を帯びて来たその時! けたたましいアラート音により、その予感は確信へと変わった!!
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