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「MISSION:5-2」(2011/08/01 (月) 03:14:25) の最新版変更点
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◇庵野塾拠点 デルタ要塞 防壁外周
近距離型の軽量二脚、1機。
武器腕中距離型の中量二脚、1機。
砲撃支援型の重量二脚、1機。
撹乱戦術型の逆脚、1機。
高機動型のフロート脚、1機。
白一色のカラーリングで統一された5機のACは
ガイルの<デスペラード>が撃破された直後に
ドゥガ渓谷とは真逆の方角からデルタ要塞を強襲した。
正体不明の白い5機は信頼性の低い安価なパーツやバランスの悪そうなパーツを
随所に用いており、どのACも基本性能はさほど高くない。
5機に乗っているレイヴンたちの操縦技術も凡庸。
しかし、迎撃に出た庵野 雲とエリーア・大葉の2人は苦戦を強いられていた。
デルタ要塞の防衛機構は既に25%が無効化されており
じわりじわりと防衛ラインを下げざるを得ない状況にある。
『雲さま、こいつら弱いのに強いですっ!』
エリーアの乗るAC<ソードダンサー>からの通信は
言葉足らずではあるが、的を射ていた。
白いACはいずれも単機での戦闘力は高くない。
では、エリーアは敵の何が「強い」と言っているのか?
特筆すべきは各機の連携力。部隊として総合戦闘力が高いのだ。
5機は一進一退攻防の全てを補い合いながら行っており、まるで隙が無い。
標的を絞って各個撃破を狙おうとすると、即座に残りの全機が標的のカバーに回り
逆に雲たちに高い代償を支払わせようとする。
(まるで1人のレイヴンが全てのACを操っているかのようだ)
長年、戦場で戦い抜いてきた雲でさえ、ここまで連携して
力を発揮するレイヴンたちに出会うのは初めての事であった。
そもそもACが5機同時に戦場に現れること自体が稀である。
囮となって撃破されたタンク型を合わせれば6機。
ガイルの<デスペラード>を撃破したのも別のACであるならば、計7機となる。
これは明らかに常識外れの異常事態だ。
「面白い」
雲はコックピットの中で笑っていた。
<エスポワール>を操りながら笑っていた。
脳裏に蘇った数十年前の記憶。
管理者との大規模な戦いの記憶。
実働部隊との戦いの記憶。巨大機動兵器との戦いの記憶。
「あの時とは――違う」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 独房
警報。
少し時間を空けた後、急に鉄格子の外が騒がしくなった。
そして地下ブロックまで断続的に伝わってくる衝撃、震動。
間違いなくデルタ要塞に何かが起こっている。
クレアは床に耳を押し当てて意識を集中し、自身をパッシブ・ソナーとした。
(…………要塞が攻撃を受けてる……相手は……
やっぱりACだ……えっ? 1機じゃない!?)
こんな事はあり得ない。玲司には多額の懸賞金がかけられている筈だ。
迂闊に他のレイヴンを雇うことはできない。そもそも雇うお金がない。
加えて玲司には同業者――レイヴンの友人がいない。
一匹狼を気取っている訳ではなく、単にそういった機会に恵まれなかったのだ。
斡旋組織に所属していないので、同期と呼べるようなレイヴンはいないし
場末の独立傭兵に大規模なミッションの僚機としてお声が掛かることもなかった。
アリーナでは毎回、相手が嫌がるアンチアセンを執拗にぶつけてきたので
レイヴン同士の熱い友情が芽生えるなどという事も皆無だった。
損得抜きで玲司の味方になってくれるレイヴンなど存在しない。
「まさか!?」
ある。このあり得ない状況を可能にする方法が、ひとつだけ残されている。
それを確かめようと、クレアはもう一度床に耳を押し当てた。
今度は目を閉じて更に意識を集中――地上の様子を探った。
(……………………………………間違いないわ)
要塞を攻撃しているACは全て<ホワイトリンク>だ。
機体に身を任せる玲司独特の動き、息遣い、戦闘のリズムを感じる。
地上には間違いなく“複数の玲司”が同時に存在していた。
あり得ない。こんなデタラメなことは普通では考えられない。
このデタラメさ加減はシェリー・ゴールドスミス以外にはあり得ない。
(姉さん、完全脳機能複写でレージをコピーしたな)
ガレージのパーツで一体何機の<ホワイトリンク>を組むことができるだろう。
武装は変てこなのが腐るほどある。問題はフレームと内装。
6機、無理をすれば7機のACを組めるかもしれない。
寄せ集めのACでも玲司ならある程度は乗りこなせるのだから。
まさに阿部 玲司とシェリー・ゴールドスミスの2人にしかできない芸当だ。
(7機……。7機で手段を選ばなければ……)
本隊5機、別働隊2機に振り分ける。
別働隊の1機を囮として使うのが得策だろう。
単機で庵野塾レイヴンと渡り合うのは難しい。
玲司の実力だと2対1でも少し厳しいかもしれない。
だから囮機で敵を誘い出して、もう1機で遠距離からの狙撃を行う。
相手の目論見通りに単機で現れたと思わせておいて、不意をつくのだ。
これが成功すれば最低でも別働隊2機中1機は丸々無傷で残せる。
1対1で庵野塾レイヴンを倒したのと変わらない結果を得ることができる。
そして間髪入れずに本隊の5機でデルタ要塞を強襲。
可能な限り防衛施設にダメージを与えつつ
別働隊が合流したら、一気に要塞内部への侵入を図る。
(――って、おい、あたし! 何をのんびりと考察している!
このままレージが助けに来てくれるをここで待つつもり?)
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地上ブロック 防壁内部
『さ、3番砲台大破ッ!!』
『レーダー施設損傷、索敵機能低下しています』
『対空機関砲、8から11番まで使用不能になりました』
『中央ゲートの耐久力が大幅に落ちています、注意してくださいっ!』
オペレーターから雲の元に次々と上げられてくる損害報告。
その頻度は要塞敷地内に白い5機の侵入を許してしまった事により、加速した。
戦場は要塞の防壁外周から防壁内部へと押し込まれたのである。
5機の狙いは要塞中心にある中央ゲートからの地下ブロック突入。
雲とエリーアはゲートを護りながら戦わねばならず、著しく行動を制限されていた。
阿部 玲司を単機で来ざるを得ない状況に追い込み、誘い出して、こちらの土俵で
安全に利益を得ようとしたガイルの企ては、庵野塾側に枷をはめる結果となった。
予測不能だった白いAC部隊の登場によって、土台から崩されてしまったのだ。
『2時方向より新手のACです! 発見遅れました』
雲が新手の姿を認めたのはオペレーターからの通信とほぼ同時だった。
ドゥガ渓谷の方角の空からOBを使い高速で要塞に迫る四脚AC。
またも白一色のカラーリングを施されたACであった。
「ガイルを仕留めた機体か――」
そこまで口にしところで雲は己の迂闊さに気がついた。
連携の為にエリーアと常にオンラインにしてある通信――
『あいつがガイルにぃを殺った、あいつがァァァァッッッッ!!!!』
絶叫と同時にエリーアの<ソードダンサー>はOBを起動し
新手の四脚に向かって突進した。
卓越したACの操縦技術とは裏腹に、エリーアの精神面はあまりにも未熟。
まだ成長途中の子供である。沸き立つ衝動を抑える術を持たない。
我を忘れて持ち場を離れる前に、釘を刺しておく必要があったのだ。
(まずい……)
新手の四脚は<ソードダンサー>が突進してくるを確認すると
即座に反転して、要塞から距離を離そうとした。
他の5機は四脚のカバーに向かわない。
これは<エスポワール>と<ソードダンサー>の2機で持ち堪えていた防衛線を
突破する絶好の機会。さすがの雲も単独で5機のACを同時に止める事は難しい。
5機のACは勝負に出る――
フロートと逆脚が<エスポワール>の前に厚い弾幕を張った。
その援護を受けて、5機の中で一番速い軽二がゲート正面にたどり着く。
軽二は左腕の大型レーザーブレードでゲートの隔壁を切り裂き
フルブーストの体当たりで裂けた隔壁を吹き飛ばしながら地下ブロックに突入。
続こうとする中二の背中に<エスポワール>はライフルを放つが
装甲の厚い重二が盾となってその銃弾を防いだ。
『し、しまったぁ!!』
自らの失態に気づき、悲鳴を上げたエリーア。
四脚を追いかけるのを止めて機体を反転させるが、時既に遅し。
軽二と中二、2機の地下ブロック侵入を許してしまっていた。
「エリーアッ!」
『――うわああああああああっっ、ご、ごめんなさいぃぃぃ』
「構わん、お前があの2機を追え! 残りの4機は私が引き受ける」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 大型通路 中央ゲート付近
『ヴァイス6よりヴァイス1、ヴァイス2へ、赤い方がお前たちを追って
中に入っちまった。すまない、抑え切れなかった。後ろに気をつけてくれ』
「ヴァイス1、了解」
『ヴァイス2、了解』
《赤ということはデュアルブレード持ちの軽量二脚<ソードダンサー>の方ですね。
レイヴンのエリーア・大葉は常勝無敗のブレード使いですよ、どうするんです?》
「…………」
シェリーからの問いかけにヴァイス1――オリジナルの玲司は
すぐ答えることができなかった。
恐らくデルタ要塞に他のレイヴンはもう残されていない。
地下ブロックに侵入される前に出してこないのがその証拠。
他に大した戦力も残っていないのではないだろうか。
ここまで被害が出ているのに戦力を温存しているというのは考えにくい。
問題は追ってくる<ソードダンサー>に2機だけで
対抗できるかどうか――まず無理だ。2機では足りない。
地上で庵野 雲の<エスポワール>と交戦している4機も精一杯だろう。
これ以上こちらに戦力を割くことはできない。
更に――
(この通路幅でACが並んで戦うのは難しそうだ……)
1対1の構図にされやすい。敵の背後に回れない。数の有利を活かせない。
(どうする……?)
『俺が時間を稼ごう。その隙にクレアを見つけ出して脱出しろ』
後ろを走る中量二脚を駆る2人目の玲司――ヴァイス2が提案した。
「単機でやれるのか?」
自分の完全なコピーであるヴァイス2に対してそれは愚問でしかなかった。
彼は“阿部 玲司そのもの”なのだから。
『やってみるさ』
ヴァイス2に迷いはない。
玲司はヴァイス2の意志を汲み取り、改めて肯定した。
「頼む……」
『頼まれた。その代わりに――』
中量二脚はブーストをカット。180度旋回してその場に止まった。
『――クレアのことは任せたぞ』
「ああ、任された」
《ヴァイス2、あなたに幸運を》
バケツ頭の軽量二脚は後ろを振り返ることなく更に奥へと進んでいった。
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 独房
また要塞中に警報が鳴り響いた。
今度は前よりもアップテンポで切迫した印象を受ける警報だ。
事実、庵野塾側にとっての状況は切迫しているのだろう。
独房の監視を任されている2人の少年――ジャックとンジャムジの様子が変わった。
ジャック少年はじっと堪えているが、ンジャムジ少年は独房の前の通路を
無駄に行ったり来たりしている。不安を隠せない様子だ。
見かねたジャック少年が口を開いた。
「少し落ち着けよ」
ンジャムジ少年の動きがピタリと止まった。
「ジャック・・・でも・・・」
「如何なる状況においても冷静に行動すること。先生の教えを忘れたのか?」
「・・・わかった」
(ジャック君は優秀な指揮官の卵か……)
クレアは感心しながらも思った。
(それは困るのよね……)
遺伝子操作によって身体能力が強化されているクレアといえど
鉄格子を素手で曲げるような事はできない。
この独房から出るには誰かに手伝ってもらう他ないのだ。
ンジャムジ少年は理想的な交渉相手と成り得そうだが
判断を誤る確率の低そうなジャック少年の存在は邪魔であった。
2人をどう丸め込もうかと思案していると、別の少年が現れた。
新しく現れた少年はガタイがよく、2人よりも少し年長に見える。
彼は両肩に歩兵用のロケットランチャーらしき物を1つずつ担いでいた。
「ジャック、こいつを扱えるか?」
「やれます」
「よぉし、この女の見張りはンジャムジだけで十分だ。
お前は俺と一緒に来い、敵を食い止めるぞ!」
「わかりました」
ジャック少年はあっさりと応えてランチャーを1つ受け取った。
「きを・・・つけろ・・・ジャック・・・」
「僕はヘマをしないよ」
「そう・・・だな・・・」
「ちょっと待って!!」
一部始終を聞いていたクレアは思わず叫んでしまった。
ジャック少年がこの場をンジャムジ少年に任せて離れてくれるのはクレアにとって
歓迎すべき事であるが、呼び止めてしまった。呼び止めずにはいられなかった。
「君たち、そんな物でACと戦うつもりなの?」
「…………」
既にこちらに背を向けて走り出そうとしていたジャック少年は振り返りはしたが
何も言わず、ガタイのいい少年と一緒に行ってしまった。
(ACにランチャー1つで立ち向かおうなんて……)
鋼の巨人と生身の歩兵では勝負にならない。
生身の人間はACが近くでブーストを噴かしただけで簡単に死んでしまう。
<ホワイトリンク>が彼らを吹き飛ばしている光景を想像してクレアはぞっとした。
微妙なところだ。玲司が彼らを障害と割り切って排除するかどうか。
相手を気にかける余裕など無いかもしれない。そもそも気づかないかもしれない。
レイヴンとして人の生き死にを左右することに差はなくとも――
(それでも……)
越えて欲しくない一線がある。自分を助ける為の決断なら尚更に。
時間がない。
クレアは腹部を大仰に押さえて床にうずくまった。
「どう・・・した・・・?」
「お姉さんはお腹が痛くて死にそうです。ンジャムジ君、あたしを医務室に
連れて行ってください……。大事な商品が死んじゃったら困るでしょ?」
「だまされ・・・ないぞ・・・」
「やっぱりダメか……」
あからさまな作戦は失敗に終わった。
他に手が無いので、クレアはもっとあからさまに行こうと作戦を変更。
監禁される前から着っぱなしの仕事用ジャケットを脱ぎ
その下に着込んでいる桃色ワイシャツのボタンに手をかけた。
「いろ・・・じかけ・・・か・・・?」
「ち、違うわよ!!」
クレアは顔を真っ赤にして否定した。
「ちがう・・・のか・・・」
ンジャムジ少年は少し残念そうだった。
「どういう・・・つもりだ・・・?」
「このシャツで首を吊って死ぬわ」
「!?」
「このままどこかに売られて、モルモットとして生かされ続けるよりはマシでしょ?」
「はったり・・・だ・・・」
「それはどうかしら……」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 大型通路 中央ゲート付近
「みつけた」
通路の先でエリーアと<ソードダンサー>を待ち構えていた白いAC。
地下ブロックに侵入した2機の片割れ。中量二脚の方だった。
中量二脚の武装は地上で戦った時に確認済み。
左右非対称の珍しい形をした武器腕のみだ。
右腕がマシンガン、左腕がグレネードになっている。
相手の武装だけ分かっていれば、エリーアにとっては十分。
寧ろ情報が多すぎたり作戦目的がややこしいと、彼女の能力は半減してしまう。
要塞施設を護りながら、僚機や防衛機構と連携して、複数のACを
同時に相手にしなければならなかった地上での戦いが正にそうだった。
だが、今は違う。シンプルに――まっすぐいって敵をぶったぎればいい。
この一本道の通路ならば、牽制も誘導も必要ない。
そのことを直感的に感じ取ったエリーアは<ソードダンサー>の
背中に積んであるミサイルを迷わずパージ。続いてOBを起動。
「いっくぞぉ」
機体背面に溜めたエネルギーを一気に解放した瞬間、エリーアの脳裏に
雲の言葉が甦った。彼女のレイヴンとしての方向性を決定した大切な言葉。
「銃は“点”でしか攻撃できないが、剣は“線”での攻撃できる。その事を忘れるな。
スピードを武器とし、デュアルブレードを活かせ。お前には天賦の才がある」
◇
《ノータイムかよッ!?》
赤い軽量二脚<ソードダンサー>は<ホワイトリンク>を視認した途端に
ミサイルをパージして機体の軽量化を図り、OBを使って突っ込んできた。
<ソードダンサー>は軽量二脚の中でも特に軽い部類の構成をしている。
限界まで装甲を犠牲にした高速戦闘仕様だ。
それがデュアルブレード以外の武装を捨てた事によって、更にスピードを上げた。
《速すぎだろッ》
とんでもない速さで迫ってくる<ソードダンサー>に
ヴァイス2――2人目の玲司は驚愕した。
これを相手に閉所で逃げ回る、足止め、時間稼ぎ――不可能だ。
ヴァイス2は直感した。「やらなければ、やれる、やるしかない」
<ホワイトリンク>は<ソードダンサー>を正面に捉えたまま
バックブーストで全速後退。引き撃ちの体勢に入った。
追いつかれるまでの僅かな時間が勝負。
この通路はACにとっては狭く、しばらくは一本道が続いている。
後方以外の逃げ場がない。この条件は敵も同じだ。
上下左右を壁に囲まれ、回避行動は制限される。
<ソードダンサー>の装甲は薄い。
少しでも被弾させる事ができれば――
<ホワイトリンク>は全力で後退しながら、右腕の大口径マシンガンを撃ち続けた。
しかし、これは一体どういうだろう。<ソードダンサー>はまるで
被弾しないことが当然であるかのように銃弾を掻い潜りながら直進。
OBのスピードで<ホワイトリンク>との距離をぐんぐん詰めてくる。
真っ直ぐ突っ込んできているのに、何故、アタラナインダ?
変態的な回避行動の連続にヴァイス2は圧倒されたが、まだ諦めはしない。
まだ<ホワイトリンク>には切り札が残されている。
それは左腕の大型グレネード。閉所でのグレネードは凶悪だ。
着弾時に大爆発を起こせる特徴から、直撃させずとも爆発に巻き込めればいい。
<ソードダンサー>の動きを一瞬でも止める事ができれば、勝てる。
ヴァイス2はすぐにでもグレネードを撃ってしまいたい衝動を抑え、一発必中を狙う。
慎重に、敵が自分の意思で回避しているのだと錯覚するように
マシンガンで少しずつ<ソードダンサー>を左の壁際に誘導していった。
更に縮まる2機の距離。
壁際に追い込まれた<ソードダンサー>。
大型グレネードの広い爆発範囲。
オーバードブースト中の<ソードダンサー>は急激な軌道変更が不可能。
――条件は整った。敵に逃げ場はない。勝てる。
《いけぇぇぇぇぇぇ!!!》
叫びながらヴァイス2は切り札のグレネードを放つ。
回避不能の一撃に対して<ソードダンサー>は――壁を蹴った。
壁を蹴ることによって軌道を無理やり変え、更に脚部のパワーを上乗せして再加速。
結果、グレネード砲弾は<ソードダンサー>とすれ違い、<ソードダンサー>の
遥か後方に着弾。ヴァイス2必殺の一撃は不発に終わってしまった。
《マジかよッ!!!》
ヴァイス2が驚愕の声を上げた次の瞬間に<ホワイトリンク>の
左腕が斬り落とされた。続いて斬り落とされる右腕。
最後にコアブロックにブレードを深々と突き入れられ――決着がついた。
間合いを詰め終わった<ソードダンサー>はその名の通り
まるでダンスのステップでも踏んでいるかのような軽快さで
瞬く間に<ホワイトリンク>を葬った。その間、僅か0.8秒。
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 防壁外周
近距離型の軽量二脚、1機。
武器腕中距離型の中量二脚、1機。
砲撃支援型の重量二脚、1機。
撹乱戦術型の逆脚、1機。
高機動型のフロート脚、1機。
白一色のカラーリングで統一された5機のACは
ガイルの<デスペラード>が撃破された直後に
ドゥガ渓谷とは真逆の方角からデルタ要塞を強襲した。
正体不明の白い5機は信頼性の低い安価なパーツやバランスの悪そうなパーツを
随所に用いており、どのACも基本性能はさほど高くない。
5機に乗っているレイヴンたちの操縦技術も凡庸。
しかし、迎撃に出た庵野 雲とエリーア・大葉の2人は苦戦を強いられていた。
デルタ要塞の防衛機構は既に25%が無効化されており
じわりじわりと防衛ラインを下げざるを得ない状況にある。
『雲さま、こいつら弱いのに強いですっ!』
エリーアの乗るAC<ソードダンサー>からの通信は
言葉足らずではあるが、的を射ていた。
白いACはいずれも単機での戦闘力は高くない。
では、エリーアは敵の何が「強い」と言っているのか?
特筆すべきは各機の連携力。部隊として総合戦闘力が高いのだ。
5機は一進一退攻防の全てを補い合いながら行っており、まるで隙が無い。
標的を絞って各個撃破を狙おうとすると、即座に残りの全機が標的のカバーに回り
逆に雲たちに高い代償を支払わせようとする。
(まるで1人のレイヴンが全てのACを操っているかのようだ)
長年、戦場で戦い抜いてきた雲でさえ、ここまで連携して
力を発揮するレイヴンたちに出会うのは初めての事であった。
そもそもACが5機同時に戦場に現れること自体が稀である。
囮となって撃破されたタンク型を合わせれば6機。
ガイルの<デスペラード>を撃破したのも別のACであるならば、計7機となる。
これは明らかに常識外れの異常事態だ。
「面白い」
雲はコックピットの中で笑っていた。
<エスポワール>を操りながら笑っていた。
脳裏に蘇った数十年前の記憶。
管理者との大規模な戦いの記憶。
実働部隊との戦いの記憶。巨大機動兵器との戦いの記憶。
「あの時とは――違う」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 独房
警報。
少し時間を空けた後、急に鉄格子の外が騒がしくなった。
そして地下ブロックまで断続的に伝わってくる衝撃、震動。
間違いなくデルタ要塞に何かが起こっている。
クレアは床に耳を押し当てて意識を集中し、自身をパッシブ・ソナーとした。
(…………要塞が攻撃を受けてる……相手は……
やっぱりACだ……えっ? 1機じゃない!?)
こんな事はあり得ない。玲司には多額の懸賞金がかけられている筈だ。
迂闊に他のレイヴンを雇うことはできない。そもそも雇うお金がない。
加えて玲司には同業者――レイヴンの友人がいない。
一匹狼を気取っている訳ではなく、単にそういった機会に恵まれなかったのだ。
斡旋組織に所属していないので、同期と呼べるようなレイヴンはいないし
場末の独立傭兵に大規模なミッションの僚機としてお声が掛かることもなかった。
アリーナでは毎回、相手が嫌がるアンチアセンを執拗にぶつけてきたので
レイヴン同士の熱い友情が芽生えるなどという事も皆無だった。
損得抜きで玲司の味方になってくれるレイヴンなど存在しない。
「まさか!?」
ある。このあり得ない状況を可能にする方法が、ひとつだけ残されている。
それを確かめようと、クレアはもう一度床に耳を押し当てた。
今度は目を閉じて更に意識を集中――地上の様子を探った。
(……………………………………間違いないわ)
要塞を攻撃しているACは全て<ホワイトリンク>だ。
機体に身を任せる玲司独特の動き、息遣い、戦闘のリズムを感じる。
地上には間違いなく“複数の玲司”が同時に存在していた。
あり得ない。こんなデタラメなことは普通では考えられない。
このデタラメさ加減はシェリー・ゴールドスミス以外にはあり得ない。
(姉さん、完全脳機能複写でレージをコピーしたな)
ガレージのパーツで一体何機の<ホワイトリンク>を組むことができるだろう。
武装は変てこなのが腐るほどある。問題はフレームと内装。
6機、無理をすれば7機のACを組めるかもしれない。
寄せ集めのACでも玲司ならある程度は乗りこなせるのだから。
まさに阿部 玲司とシェリー・ゴールドスミスの2人にしかできない芸当だ。
(7機……。7機で手段を選ばなければ……)
本隊5機、別働隊2機に振り分ける。
別働隊の1機を囮として使うのが得策だろう。
単機で庵野塾レイヴンと渡り合うのは難しい。
玲司の実力だと2対1でも少し厳しいかもしれない。
だから囮機で敵を誘い出して、もう1機で遠距離からの狙撃を行う。
相手の目論見通りに単機で現れたと思わせておいて、不意をつくのだ。
これが成功すれば最低でも別働隊2機中1機は丸々無傷で残せる。
1対1で庵野塾レイヴンを倒したのと変わらない結果を得ることができる。
そして間髪入れずに本隊の5機でデルタ要塞を強襲。
可能な限り防衛施設にダメージを与えつつ
別働隊が合流したら、一気に要塞内部への侵入を図る。
(――って、おい、あたし! 何をのんびりと考察している!
このままレージが助けに来てくれるをここで待つつもり?)
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地上ブロック 防壁内部
『さ、3番砲台大破ッ!!』
『レーダー施設損傷、索敵機能低下しています』
『対空機関砲、8から11番まで使用不能になりました』
『中央ゲートの耐久力が大幅に落ちています、注意してくださいっ!』
オペレーターから雲の元に次々と上げられてくる損害報告。
その頻度は要塞敷地内に白い5機の侵入を許してしまった事により、加速した。
戦場は要塞の防壁外周から防壁内部へと押し込まれたのである。
5機の狙いは要塞中心にある中央ゲートからの地下ブロック突入。
雲とエリーアはゲートを護りながら戦わねばならず、著しく行動を制限されていた。
阿部 玲司を単機で来ざるを得ない状況に追い込み、誘い出して、こちらの土俵で
安全に利益を得ようとしたガイルの企ては、庵野塾側に枷をはめる結果となった。
予測不能だった白いAC部隊の登場によって、土台から崩されてしまったのだ。
『2時方向より新手のACです! 発見遅れました』
雲が新手の姿を認めたのはオペレーターからの通信とほぼ同時だった。
ドゥガ渓谷の方角の空からOBを使い高速で要塞に迫る四脚AC。
またも白一色のカラーリングを施されたACであった。
「ガイルを仕留めた機体か――」
そこまで口にしところで雲は己の迂闊さに気がついた。
連携の為にエリーアと常にオンラインにしてある通信――
『あいつがガイルにぃを殺った、あいつがァァァァッッッッ!!!!』
絶叫と同時にエリーアの<ソードダンサー>はOBを起動し
新手の四脚に向かって突進した。
卓越したACの操縦技術とは裏腹に、エリーアの精神面はあまりにも未熟。
まだ成長途中の子供である。沸き立つ衝動を抑える術を持たない。
我を忘れて持ち場を離れる前に、釘を刺しておく必要があったのだ。
(まずい……)
新手の四脚は<ソードダンサー>が突進してくるを確認すると
即座に反転して、要塞から距離を離そうとした。
他の5機は四脚のカバーに向かわない。
これは<エスポワール>と<ソードダンサー>の2機で持ち堪えていた防衛線を
突破する絶好の機会。さすがの雲も単独で5機のACを同時に止める事は難しい。
5機のACは勝負に出る――
フロートと逆脚が<エスポワール>の前に厚い弾幕を張った。
その援護を受けて、5機の中で一番速い軽二がゲート正面にたどり着く。
軽二は左腕の大型レーザーブレードでゲートの隔壁を切り裂き
フルブーストの体当たりで裂けた隔壁を吹き飛ばしながら地下ブロックに突入。
続こうとする中二の背中に<エスポワール>はライフルを放つが
装甲の厚い重二が盾となってその銃弾を防いだ。
『し、しまったぁ!!』
自らの失態に気づき、悲鳴を上げたエリーア。
四脚を追いかけるのを止めて機体を反転させるが、時既に遅し。
軽二と中二、2機の地下ブロック侵入を許してしまっていた。
「エリーアッ!」
『――うわああああああああっっ、ご、ごめんなさいぃぃぃ』
「構わん、お前があの2機を追え! 残りの4機は私が引き受ける」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 大型通路 中央ゲート付近
『ヴァイス6よりヴァイス1、ヴァイス2へ、赤い方がお前たちを追って
中に入っちまった。すまない、抑え切れなかった。後ろに気をつけてくれ』
「ヴァイス1、了解」
『ヴァイス2、了解』
《赤ということはデュアルブレード持ちの軽量二脚<ソードダンサー>の方ですね。
レイヴンのエリーア・大葉は常勝無敗のブレード使いですよ、どうするんです?》
「…………」
シェリーからの問いかけにヴァイス1――オリジナルの玲司は
すぐ答えることができなかった。
恐らくデルタ要塞に他のレイヴンはもう残されていない。
地下ブロックに侵入される前に出してこないのがその証拠。
他に大した戦力も残っていないのではないだろうか。
ここまで被害が出ているのに戦力を温存しているというのは考えにくい。
問題は追ってくる<ソードダンサー>に2機だけで
対抗できるかどうか――まず無理だ。2機では足りない。
地上で庵野 雲の<エスポワール>と交戦している4機も精一杯だろう。
これ以上こちらに戦力を割くことはできない。
更に――
(この通路幅でACが並んで戦うのは難しそうだ……)
1対1の構図にされやすい。敵の背後に回れない。数の有利を活かせない。
(どうする……?)
『俺が時間を稼ごう。その隙にクレアを見つけ出して脱出しろ』
後ろを走る中量二脚を駆る2人目の玲司――ヴァイス2が提案した。
「単機でやれるのか?」
自分の完全なコピーであるヴァイス2に対してそれは愚問でしかなかった。
彼は“阿部 玲司そのもの”なのだから。
『やってみるさ』
ヴァイス2に迷いはない。
玲司はヴァイス2の意志を汲み取り、改めて肯定した。
「頼む……」
『頼まれた。その代わりに――』
中量二脚はブーストをカット。180度旋回してその場に止まった。
『――クレアのことは任せたぞ』
「ああ、任された」
《ヴァイス2、あなたに幸運を》
バケツ頭の軽量二脚は後ろを振り返ることなく更に奥へと進んでいった。
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 独房
また要塞中に警報が鳴り響いた。
今度は前よりもアップテンポで切迫した印象を受ける警報だ。
事実、庵野塾側にとっての状況は切迫しているのだろう。
独房の監視を任されている2人の少年――ジャックとンジャムジの様子が変わった。
ジャック少年はじっと堪えているが、ンジャムジ少年は独房の前の通路を
無駄に行ったり来たりしている。不安を隠せない様子だ。
見かねたジャック少年が口を開いた。
「少し落ち着けよ」
ンジャムジ少年の動きがピタリと止まった。
「ジャック・・・でも・・・」
「如何なる状況においても冷静に行動すること。先生の教えを忘れたのか?」
「・・・わかった」
(ジャック君は優秀な指揮官の卵か……)
クレアは感心しながらも思った。
(それは困るのよね……)
遺伝子操作によって身体能力が強化されているクレアといえど
鉄格子を素手で曲げるような事はできない。
この独房から出るには誰かに手伝ってもらう他ないのだ。
ンジャムジ少年は理想的な交渉相手と成り得そうだが
判断を誤る確率の低そうなジャック少年の存在は邪魔であった。
2人をどう丸め込もうかと思案していると、別の少年が現れた。
新しく現れた少年はガタイがよく、2人よりも少し年長に見える。
彼は両肩に歩兵用のロケットランチャーらしき物を1つずつ担いでいた。
「ジャック、こいつを扱えるか?」
「やれます」
「よぉし、この女の見張りはンジャムジだけで十分だ。
お前は俺と一緒に来い、敵を食い止めるぞ!」
「わかりました」
ジャック少年はあっさりと応えてランチャーを1つ受け取った。
「きを・・・つけろ・・・ジャック・・・」
「僕はヘマをしないよ」
「そう・・・だな・・・」
「ちょっと待って!!」
一部始終を聞いていたクレアは思わず叫んでしまった。
ジャック少年がこの場をンジャムジ少年に任せて離れてくれるのはクレアにとって
歓迎すべき事であるが、呼び止めてしまった。呼び止めずにはいられなかった。
「君たち、そんな物でACと戦うつもりなの?」
「…………」
既にこちらに背を向けて走り出そうとしていたジャック少年は振り返りはしたが
何も言わず、ガタイのいい少年と一緒に行ってしまった。
(ACにランチャー1つで立ち向かおうなんて……)
鋼の巨人と生身の歩兵では勝負にならない。
生身の人間はACが近くでブーストを噴かしただけで簡単に死んでしまう。
<ホワイトリンク>が彼らを吹き飛ばしている光景を想像してクレアはぞっとした。
微妙なところだ。玲司が彼らを障害と割り切って排除するかどうか。
相手を気にかける余裕など無いかもしれない。そもそも気づかないかもしれない。
レイヴンとして人の生き死にを左右することに差はなくとも――
(それでも……)
越えて欲しくない一線がある。自分を助ける為の決断なら尚更に。
時間がない。
クレアは腹部を大仰に押さえて床にうずくまった。
「どう・・・した・・・?」
「お姉さんはお腹が痛くて死にそうです。ンジャムジ君、あたしを医務室に
連れて行ってください……。大事な商品が死んじゃったら困るでしょ?」
「だまされ・・・ないぞ・・・」
「やっぱりダメか……」
あからさまな作戦は失敗に終わった。
他に手が無いので、クレアはもっとあからさまに行こうと作戦を変更。
監禁される前から着っぱなしの仕事用ジャケットを脱ぎ
その下に着込んでいる桃色ワイシャツのボタンに手をかけた。
「いろ・・・じかけ・・・か・・・?」
「ち、違うわよ!!」
クレアは顔を真っ赤にして否定した。
「ちがう・・・のか・・・」
ンジャムジ少年は少し残念そうだった。
「どういう・・・つもりだ・・・?」
「このシャツで首を吊って死ぬわ」
「!?」
「このままどこかに売られて、モルモットとして生かされ続けるよりはマシでしょ?」
「はったり・・・だ・・・」
「それはどうかしら……」
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 大型通路 中央ゲート付近
「みつけた」
通路の先でエリーアと<ソードダンサー>を待ち構えていた白いAC。
地下ブロックに侵入した2機の片割れ。中量二脚の方だった。
中量二脚の武装は地上で戦った時に確認済み。
左右非対称の珍しい形をした武器腕のみだ。
右腕がマシンガン、左腕がグレネードになっている。
相手の武装だけ分かっていれば、エリーアにとっては十分。
寧ろ情報が多すぎたり作戦目的がややこしいと、彼女の能力は半減してしまう。
要塞施設を護りながら、僚機や防衛機構と連携して、複数のACを
同時に相手にしなければならなかった地上での戦いが正にそうだった。
だが、今は違う。シンプルに――まっすぐいって敵をぶったぎればいい。
この一本道の通路ならば、牽制も誘導も必要ない。
そのことを直感的に感じ取ったエリーアは<ソードダンサー>の
背中に積んであるミサイルを迷わずパージ。続いてOBを起動。
「いっくぞぉ」
機体背面に溜めたエネルギーを一気に解放した瞬間、エリーアの脳裏に
雲の言葉が甦った。彼女のレイヴンとしての方向性を決定した大切な言葉。
「銃は“点”でしか攻撃できないが、剣は“線”での攻撃できる。その事を忘れるな。
スピードを武器とし、デュアルブレードを活かせ。お前には天賦の才がある」
◇
《ノータイムかよッ!?》
赤い軽量二脚<ソードダンサー>は<ホワイトリンク>を視認した途端に
ミサイルをパージして機体の軽量化を図り、OBを使って突っ込んできた。
<ソードダンサー>は軽量二脚の中でも特に軽い部類の構成をしている。
限界まで装甲を犠牲にした高速戦闘仕様だ。
それがデュアルブレード以外の武装を捨てた事によって、更にスピードを上げた。
《速すぎだろッ》
とんでもない速さで迫ってくる<ソードダンサー>に
ヴァイス2――2人目の玲司は驚愕した。
これを相手に閉所で逃げ回る、足止め、時間稼ぎ――不可能だ。
ヴァイス2は直感した。「やらなければ、やれる、やるしかない」
<ホワイトリンク>は<ソードダンサー>を正面に捉えたまま
バックブーストで全速後退。引き撃ちの体勢に入った。
追いつかれるまでの僅かな時間が勝負。
この通路はACにとっては狭く、しばらくは一本道が続いている。
後方以外の逃げ場がない。この条件は敵も同じだ。
上下左右を壁に囲まれ、回避行動は制限される。
<ソードダンサー>の装甲は薄い。
少しでも被弾させる事ができれば――
<ホワイトリンク>は全力で後退しながら、右腕の大口径マシンガンを撃ち続けた。
しかし、これは一体どういうだろう。<ソードダンサー>はまるで
被弾しないことが当然であるかのように銃弾を掻い潜りながら直進。
OBのスピードで<ホワイトリンク>との距離をぐんぐん詰めてくる。
真っ直ぐ突っ込んできているのに、何故、アタラナインダ?
変態的な回避行動の連続にヴァイス2は圧倒されたが、まだ諦めはしない。
まだ<ホワイトリンク>には切り札が残されている。
それは左腕の大型グレネード。閉所でのグレネードは凶悪だ。
着弾時に大爆発を起こせる特徴から、直撃させずとも爆発に巻き込めればいい。
<ソードダンサー>の動きを一瞬でも止める事ができれば、勝てる。
ヴァイス2はすぐにでもグレネードを撃ってしまいたい衝動を抑え、一発必中を狙う。
慎重に、敵が自分の意思で回避しているのだと錯覚するように
マシンガンで少しずつ<ソードダンサー>を左の壁際に誘導していった。
更に縮まる2機の距離。
壁際に追い込まれた<ソードダンサー>。
大型グレネードの広い爆発範囲。
オーバードブースト中の<ソードダンサー>は急激な軌道変更が不可能。
――条件は整った。敵に逃げ場はない。勝てる。
《いけぇぇぇぇぇぇ!!!》
叫びながらヴァイス2は切り札のグレネードを放つ。
回避不能の一撃に対して<ソードダンサー>は――壁を蹴った。
壁を蹴ることによって軌道を無理やり変え、更に脚部のパワーを上乗せして再加速。
結果、グレネード砲弾は<ソードダンサー>とすれ違い、<ソードダンサー>の
遥か後方に着弾。ヴァイス2必殺の一撃は不発に終わってしまった。
《マジかよッ!!!》
ヴァイス2が驚愕の声を上げた次の瞬間に<ホワイトリンク>の
左腕が斬り落とされた。続いて斬り落とされる右腕。
最後にコアブロックにブレードを深々と突き入れられ――決着がついた。
間合いを詰め終わった<ソードダンサー>はその名の通り
まるでダンスのステップでも踏んでいるかのような軽快さで
瞬く間に<ホワイトリンク>を葬った。
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