「第六話」(2006/03/31 (金) 23:11:44) の最新版変更点
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「レイヴン、足手纏いになるなよ」
「隊長、そんなこと言ってもどーせ足手纏いになるんだから言ったって無駄だよぉー」
「ま、こんな奴らだけど。レイヴン、よろしく頼むよ」
三機の先行者のパイロット達が次々とヴェレスタに通信を入れてくる
ノートゥングは現在、ゴビ砂漠でのミッションに就いているのだ
「ノートゥング。バラシマショーカ?」
「…寮機は攻撃するなって命令だろ…」
しかも複数の腕利きレイヴンを用意すると言うから、ネロの可能性に賭けて依頼を受けてみれば
ACが3機も不足して代わりの先行者が3機
そしてその腕利きレイヴンが先日勝負し、勝利を収めたDr.ダドリーだというのが哀しさに拍車を掛ける
――およそ1時間とちょっとぐらい前
RK九竜地区ACガレージ群
ノートゥング割り当てガレージ内
2階ノートゥング自室
「…」
ピピピピッ!ピピピピッ!
「…依頼?」
ベッドに横になってボーっとしていると
依頼文の受信を伝える電子音が簡易ベッドの向かい側にあるデスクの上から鳴り響く
体を起こし、デスクに向かってノートPCの画面に目をやる
【レイヴン、今回の依頼は複数の機体を使用した強襲殲滅作戦の遂行だ。】
トラックポイントを操作し、受信ファイルを開くと
依頼文が男性の声で読み上げられる
【先日、ゴビ砂漠モンゴル側中蒙国境紛争地帯でトヨタの部隊が
モンゴル軍と蔓んで大規模な前線基地を建造していることが判明した】
「中蒙国境紛争か…もう何十年前からだ?懲りない奴ら…」
中蒙国境紛争――中国共産党が長らく続いた独裁政権を失い、中国が民主主義国家として生まれ変わった際
内モンゴル自治区のモンゴルへの帰属に関して中国が旧自治区の領土の半分に対して
自国の物を主張し、それが原因で勃発した国境紛争
現在まで小中含めて12回以上に区分されており、現在の物は第12次とされる――
【そこで、君にはAC5機と強行偵察を行って欲しい。これは我が社の利益に繋がる可能性が高いのだ】
「AC5機も…南京重工なら先行者持ってんだろうに…」
【レイヴンの頭数が足りなかった場合。我が社から先行者を足りない数だけ派遣する】
時計に目をやると時刻は3時、輸送機の手配は依頼の承諾と共に行われて20分程度でACを拾いに来る
そしてここから輸送機で作戦領域まで1時間前後、現地合流時間が5時
【いい返事を期待しているぞ、レイヴン】
「AC5機か…奴が見方に現れる可能性もあるし、敵もACを雇っているだろうからな…契約するか」
指紋センサーを人差し指でなぞって契約、対G服を着てセシリアに輸送機の手配を頼むと
ヴェレスタに乗り込み、機体のチェックを開始した――
「ネロに期待して来て見れば…口の悪い代理品コマネチ3人に…挙句の果てに解体マニア…残る希望は敵レイヴンだと…」
「ワタシ、カイタイマニアじゃアーリマセーン。オタクデース」
「それじゃ余計に性質が悪いんだよっ!…ったく…コマネチ3人!フロントは任せたぞ。
その機体にぶら下がってる股間砲を後ろから喰らったらタダじゃ済まないからな」
「ふん…それに関しては心配御無用。我々は貴様らレイヴンに頼らずとも
十分な戦果を挙げる事が可能、言われなくてもフロントに回らせて頂く」
「はっ、大口叩いておいて後で泣き付くなよ?」
「自分の尻は自分で拭うのが常識だ…レイヴン如きに泣き付きはせん…!」
「フタリトモー、サッサとニンムオワラシチャイマショーヨー。ブチコロシマスヨ」
「…ッ、さっさと行け支那公!」
「言われなくとも行くわ東洋鬼子!行くぞお前ら!」
「「了解」」
どうやら先行者部隊の隊長とは仲良く出来そうにない
口喧嘩をDr.ダドリーの暴言に止められ
先行者部隊が先立って進行を開始、ヴェレスタとFTスカルペルがそれに続く
途中、モンゴル軍と幾度か交戦になったが
先行者の活躍によって難なくクリア
合流から1時間半後には目的地点に突入した
「先行者3機!AC5機!南京重工の部隊です!」
「MTを出せ!ここまで造って来て壊されたら元も子も無い、迎撃しろ!」
現地の指揮官が迎撃を指示する
後は防衛用機構を取り付けるだけまでに完成した基地である
実益からも、指揮官としてのプライドからも壊されたくは無いだろう
「ええい…トヨタに応援要請は!?」
「今、通信している所だそうですが…あ、帰って来ましたね」
「ACを派遣するとのことです!」
「…ケチりやがって…!」
「ヒャーッハア!!!」
「…Dr.ダドリー」
「ウヒャアーッヒャッヒャッヒャ…ワット?」
目に付くもの全てを切り刻んでいるDr.ダドリーに一対一の通信回線を開くと
ノートゥングとしての考えを伝達する
「敵は大暴れしてる先行者に夢中…こっちは近くの物や攻撃して来た奴を攻撃する程度に止めて
エネルギーを温存しましょう。これだけの基地です、ACが送られて来る可能性が非常に高い」
「ンー…OK!スコシオシイデスガ、テをウチマショウ」
Dr.ダドリーがノートゥングに同意
張り切る先行者を尻目に、消極的なミッションが新たにスタートした
「あいつら何やってんだ…?歩きながら壊してら」
「気にするな…所詮下賎なレイヴン。弾薬費を掛けずにミッションを終わらせるつもり
なのだろう…この任務が終わり次第始末してくれるわ…」
「まったく…ん?10時方向に微弱ながら熱源を探知、2つですね…熱源が2つ増えた!?
増加した熱源が高速でこちらに接近中…対AC用大型ミサイルだ!」
「対AC用大型ミサイルってデクノボーだろ!?俺が叩き落してやるよ!!」
順調に施設やMTを破壊していた先行者小隊の内一機が、新たに探知された熱源
――レイヴン達の間では核と呼ばれる大型ミサイルを迎撃しに向かう
若気の至りなのだろうか。先程から一番調子に乗ってる男の機体だ
「目標を視認!タオのチャージを開始…発射ぁぁぁ!!!」
先行者がノロノロ飛んでくる大型ミサイルを視認するとコマネチを開始
強力なレーザー砲で跡形も無く吹き飛ばした――が、次の瞬間だった
「ミサイルの撃破を確認…先程の微弱熱源から強力な熱線の発射を確認!王、直に逃げろ!!」
「そ…そんなこと言ったって、こっちは反動の硬直で動けないよぉ!!」
「畜生っ…隊長!?」
強力な熱線――プラズマ砲の砲火が王と呼ばれた男の機体に迫り、一機が消滅しかけた瞬間
もう一機の先行者――隊長機が王機を突き飛ばし、射線に割り込んだ
「た…隊長…どうして?」
「お前はまだ若い…生きて、もっと世の中を見ろ…!」
劇的な最後の台詞の後、プラズマを受け切った先行者は動力部のオーバーヒートが災いして爆散
動けるようになった先行者を連れて残ったもう一機の先行者が作戦領域を撤退した
「レイヴン、後は頼んだぞ!ありゃあ多分ACだ!」
「了解した…Dr.ダドリー、残存建造物を破壊しちゃいましょう。ACが来る前に」
「OK」
先行者部隊の撤退を確認すると、管制塔以外の残った建造物の破壊を開始
温存していた背部のリニアキャノンを使い切った
ピーーーーー!!!!
突如、熱線を再びレーダーが探知
咄嗟に機体を横に走らせて回避すると、発射して来た敵ACが広域回線で呼び掛けて来た
「あの大きな前線基地がこんなにぶっ壊れちゃって…ま、私はあんたらを倒して報酬を貰うだけなんだけどさ…」
「…ッ(他の)レイヴンか…!」
「そーよ。私のRNはTJJ、ジェーンって気軽に呼んでね?」
【敵ACを確認、エイブラムスです。敵は強力なプラズマキャノンを装備、
遠距離戦は危険です。撹乱しながら接近戦を仕掛けるのが有効でしょう】
「タンクか…もう一機は来ないのか!?」
「なんか飽きて帰っちゃったわよ。その代わり、私はアナタとお楽しみ出来るって訳
…そこのキチガイ野郎は御呼びじゃないわね…えいっ」
「!?」
「ドクター!避けろ!」
TJJの掛け声と共に連続してプラズマが放たれ、FTスカルペルに襲い掛かる
突然の事態にDr.ダドリーは対応し切れず、一気にシステムダウンに追い込まれてしまった
「oh my god…アトはマカセマシター…」
ノートゥングは短く舌打ちをすると背中のリニアガンをパージ
エイブラムスにレーザーライフルを放ちながら接近を開始した
「回り込めばこっちのモノだ…!」
「そう簡単に回り込めると思ってるの?こっちは曲り形にも戦車、旋回能力は伊達じゃないよ!」
ブースターを駆使しながらも、相手は巧みに機体のキャタピラを操ってこちらをサイト内に捉えて来る
「ッ…どうにか旋回を殺す方法は…そうか!」
プラズマとバズーカの猛攻を掻い潜りながら、勝機を探る
相手は戦車、キャタピラを利用した高い旋回能力を誇る――だったらキャタピラをぶっ壊してやればいい
「逃げてばっかじゃ勝てないわよ!?」
「確かにその機体は戦車だ!旋回能力も高いし、装甲も分厚い!だがなぁ…」
「…何が言いたいのかしら?」
「戦車にも弱点があるって事を…教えてやる!」
「…しまった!?」
ブースターを駆使しながら敵の猛攻を避けていた機体を急に反対方向に切り返し
敵の予測照準を狂わせ、エイブラムスのサイドに躍り出る
「動けなくなった戦車ほど哀れな物は無いんだよ…!」
エイブラムスが急旋回しようとするが
ヴェレスタがブレードを形成し、側面に急速接近
キャタピラと転輪を切断する方が速かった
「キャタピラが切り裂かれた!?」
「TJJだったか?アンタの負けだよ」
「ッ…あーあ、まだ弾も残ってるのになあ…分かった。私の負けだよ、好きにして」
「よし。まずは両手を上げて外に出て来い、そしたらヘッドセットをACに繋いで依頼主と
所属団体にミッションの失敗を告げ、輸送機を要請しろ」
「あら…そこらの野郎レイヴンと違って体を要求したりはしないんだ…」
「俺は特定のレイヴン以外に興味は無い。さっさとこちらに従って行動しろ」
「つれない男…ほら、出たよ。ミッション失敗の報告はオペレーターに頼んだ、輸送機も直に来る」
「そうか。なら輸送機に回収されるまで、そこで大人しくしてろ。それが俺の最後の命令だ」
ACから出て来たTJJに指示を終え、セシリアに通信を入れて輸送機の要請をする
既にFTスカルペルの方はヘリに回収され、近隣の街で修理してから香港に戻って来ることになったらしい
「お疲れ様です」
ミッション中、オペレーターはACとの情報リンクによって送られて来るデータや
オペレータ側で集めたデータの解析等でレイヴンと話す事は殆ど無い
しかし、その一言にはまるで共に闘っているかの様な温かみすら覚える
オペレーターとレイヴンというのは絶対的な信頼によって成り立つユニットであり
だからこそなのだろうが――
セシリアのミッション中最初で最後の一言はミッションの疲れを一瞬にして抜いてくれた
ノートゥングはそう感じた
―翌日、九竜アリーナ―
「あの東ゲートの機体が次の相手となるAC、アルベインMk-Ⅲです。
西は上位ACスウィートペイン、通常なら有り得ない組み合わせなんですがエキシビジョンマッチですしね」
「ふーん…」
セシリアと一緒に、下克上して来たレイヴンの下見に来て見たはいいものの
何故か左腕が疼く
「…ちょっと、飲み物買って来ますね」
「え、あ…はい」
何故こんなにも左腕が疼くのか自分には分からない
「…」
ヴェレスタはガレージ。愛機が原因の疼きではない
「ジンジャーエールのMを一つ」
だとすれば何だと言うのか
答えは出る筈なのに――出ない
何故出ないのか
「…!?ッ!!」
人通りの少ない道で同年代ぐらいの青年とすれ違うと
疼きは針を刺す様な痛みへと――変化した
答えがやっと出た。しかし、既に遅かった
「ネロォォォ!!!!!…ハァッ…ハァッ…」
答えを――怨敵の名を
振り向いて、力の限り叫ぶ
しかし、そこには歪な笑顔を浮かべた青年の姿は無く
残ったのは空しい静寂だけだった
――九竜アリーナVIPルーム
「何処に行ってたんだネロ…エイルマー氏がまだ来ていないからいいものの…!」
「そんなに怒るなよリック。楽しそうな男を見つけたんだ…彼は強くなる…僕と同じぐらい強くなる…目で分かるよ」
「…?…まさか、ノートゥングと接触したのか…!?」
「接触も何も、すれ違っただけだよ…殺されやしないさ」
「貴様…!」
「輝きの無い、濁り切った瞳。濁りは僕への憎悪だ…憎悪は人を強く、次の段階へと進化させる…」
部屋に入って来たネロが、ソファーに腰掛け、マネージャー兼情報屋のリックを相手に少年のような顔で語り掛ける
内容から分かる通り、ネロの心は酷く歪んでいた
ネロが宗治の印象について語っていると、ドアがノックされ
黒スーツのSPに囲まれた恰幅の良い男性が部屋に入って来た
「これはこれはエイルマーさん。こんな所においでになりまして…」
「見掛けだけの出迎えなど要らんよ。座るまでも無い要件でもある。」
「と、言うと?」
「我々エイルマー財団は来るべき日に備え、レイヴンを隊長に迎え入れた特殊部隊の創設を決定した」
「…へぇ。何時かは来ると思ってたけどねぇ…」
「それに差し当たって、ネロを初代隊長に迎え入れたい」
「…とうとう、計画もそこまで来ましたか…」
「うむ…世界各地のレイヤードも、建造とネットワークの構築がほぼ完了した。後は地上に蔓延った
私の様な人間を排除し、人類がレイヤードに移り住み、地上を動植物に明け渡すだけ…」
「その動植物に無償で明け渡すっていうクリーンな頭の構造が気に食わないんだけど…これから「世界」で戦争が起こるんだろ?」
「ああ…そのためのレイヴン部隊だ。やってくれるな?」
「勿論さ。戦いは人を賢くする…部隊の人間は僕が選んでいいの?」
「任せよう。それでは、私の用はこれだけだ…」
「精々長生きしなよじーさん…さて、リック。調べて欲しい事がある」
「なんだ?」
「今から言うレイヴンの連絡先さ」
「ふむ…分かった。言って見ろ」
「トール、グリゴリ、ビクトルG、カブリエル、メタトロン、影刃…etc」
「それで全部か?」
「後…そうだねえ…ノートゥングなんてどうだい?」
「!…正気か…ネロ?」
「僕は至って正常さ。彼はこのままにしておいても強くなる。だけど…僕と居ればもっと強くなる」
「…お前の正気は俺にとっての異常としか言い様がない…分かった。調べておこう」
「うん。それでこそ情報屋リック=ハロルドだ」
暴君の狂気は全てを包み込んでいく
少しづつ、少しづつ、少しづつ
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