「第二話 体質」(2009/05/09 (土) 16:31:14) の最新版変更点
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朝、薄暗いバジルの寝室に仄かな光が差す。
あまり掃除が行き届いていないため、差し込む光にほこりがキラキラと揺らめく。
バジルはベッドで惰眠をむさぼっていた。
そんな静かな部屋にこだまする声。
「起きるにゃ、バジル。起きるにゃ」
「んぁ?誰だ、こんな朝っぱらから」
バジルはねむけまなこをこすりながら上半身をベッドから起こす。
周りを見渡すが誰もいない。
「こっちにゃ、こっちを見るにゃ」
再び声だけが部屋の中をこだまする。
バジルの近くには、ねこが一匹いるだけである。
昨日、アリーナ帰りに拾ったねこ、シェルーである。
「俺、寝ぼけてんのかな」
そういいながらバジルはシェルーを抱きかかえる。
つやつやの黒色の長毛が、手のひらを心地よくくすぐる。
「わたしだにゃ」
シェルーがいきなり言葉を発したことから、バジルは抱いていた腕の力を強めてしまった。
「おいおい。やっぱり俺はまだ寝てるみたいだな」
「いたいにゃ。何するにゃ」
その言葉を聴き、バジルの頭の中は混乱する一方だった。
訳が分からなかった。
なぜこのねこの言葉が分かるのだろう。
いや、そもそもねこは言葉を発しない。
バジルの混乱振りは傍目からでも分かるほどだった。
そんなバジルをよそに、シェルーは再び口を開く。
「おちつくにゃ、バジル。私のことをよく聞くにゃ」
シェルーはそういうとバジルの瞳を見つめた。
そういわれても、落ち着けるはずもない。
バジルはシェルーを抱えたままどうしたらいいのか分からなくなっていた。
「まずは深呼吸するにゃん。」
それを聞いてバジルは、大きく息を吸い込んだ。
そしてゆっくりと吐き出した。
「おちついたかにゃ?」
シェルーはそういうと首をかしげた。
これに対してバジルは無言でうなずく。
「じゃあ、わたしを放すにゃ。苦しくて息もできにゃい」
「あぁ、すまなかった」
そういうと、バジルは腕の力を抜いた。
そうすると、シェルーは器用に腕から抜け出しベッドの横のいすにちょこんと座った。
いすの上で、シェルーは毛づくろいを始めた。
「ホントにお前が話しているのか。シェルー?」
バジルはバカらしいと思いながらも、シェルーに尋ねる。
シェルーは毛づくろいから顔をあげて、
「ようやく信じるようになったかにゃ?
さっきは痛かったにゃん」
「ははは、俺やっぱりおかしくなっちゃったかな」
バジルはそういうとシェルーのほうに向き直った。
「バジル、おまえはおかしくにゃいにゃ。
ちょっと普通と違うだけにゃん。私の話をよく聞くにゃ」
シェルーはバジルの顔を見つめながら続ける。
「バジル、おまえは小さなときからゲームが弱くにゃかったかにゃ?
チェスやポーカーで負けた記憶しかにゃいだろう。」
確かにバジルはチェスやポーカーはもとよりテーブルゲーム全般においてとてつもなく弱かった。
それを思い出して、バジルはこくりとうなずいた。
「そして、いまアリーナで全く勝てていないにゃ。
自分でもなんで負けるのか理由が分からないはずにゃ。
でも、これらには全部原因があるにゃ」
「原因?」
「そうにゃん。これもあれも全部おまえの体質のせいだにゃん。」
そういうとシェルーは背筋を伸ばした。
「俺の・・・・・・体質・・・?」
バジルはもはやシェルーが喋っていることを疑問には思わないようになっていた。
「そう、おまえは精神感応体質にゃん」
「・・・・・・?」
「わからないかにゃぁ?簡単にいうとテレパシーが使える体質にゃん」
「ちょっと待て。今までそんなの感じたことないぞ」
「そこがバジルの珍しいところだにゃん。バジルのテレパシーは発散型なんだにゃん。
自分の考えていることは他人に伝わってしまうけど、
他人の事はは感じられないにゃん」
「そんなの誰も教えてくれなかったぞ」
「もちろん普通の人にはなんとなくとしか伝わらないにゃん。
でもそのなんとなくがゲームにゃんかには大切にゃぁ。
バジルの考えてることはテレパシーでみんながにゃんとなく知ってるにゃぁ。
だからバジルはゲームが弱いにゃー。そして、アリーナの対戦もにゃ」
「そうだったのか。俺はいつも考えを読まれていたのか」
そういうとバジルはがっくりと肩を落としてしまった。
「そんなに落ち込まにゃいなぁ。でもそのおかげでわたしと出会えたんだからにゃ。
テレパシーが使えなかったら出逢えてないにゃん」
「そういえば、シェルーはどうやって話してるんだ?」
バジルはずっと疑問に思っていたことを口にした。
「もちろんテレパシーにゃ」
「でも、俺は発散型とか何とか・・・。それになんでテレパシーが使えるんだよ?」
「それはわたしが強化猫だからにゃ。精神感応度が大幅に強化されてるにゃん。
だからバジルのことも分かるし、わたしのこともバジルに伝えられるにゃん」
「そうか、そうだったのか。
これって夢じゃないよな」
そういいながら、バジルは頬をつねってみた。
「夢じゃなさそうだ。それにしても俺にこんな能力があるなんて」
「ずっとバジルのような人を探していたにゃ」
「ん?どういうことだ」
「そうだにゃん。忘れてたにゃ。
バジルぅ、これから一緒に来て欲しいにゃん。
そこでもっと詳しく説明するにゃん」
シェルーはそういうといすから飛び降りた。
そしてそのままスルスルと玄関の方へと向かっていった。
「ちょっと、おい」
バジルは、置いてきぼりを食らってしまい、
急いで服を着替えるとシェルーの後を追った。
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