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「桃白々3号 午後のひととき」(2009/05/09 (土) 16:29:20) の最新版変更点
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ある日の午後。
桃白々3号はガレージを見下ろせるフリースペースで
煙草をくゆらせながら珈琲をすすっていた。
なんとも優雅な午後のひと時である、後ろで響くACの整備音さえなければ。
そこへ誰かを探しているようなⅣ号が通りかかった。
「あら、3号さん。こんなところで珍しいわね」
「やぁ。僕だって珈琲ぐらい飲む時はあるさ」
「そうかしら、いつもガレージに引きこもってるきがするけど」
「まいったな。今日はいつもより暇でね。
昨日のミッションで、損傷したのはFIVE号君の機体だけだしね。
それもほぼ全壊だから整備というよりは全部取り替えちゃうから
整備班の人に任せる事にしたんだよ。」
「そうなの。それにしても大変ね。ACのパイロットだけじゃなくって
整備のチーフも掛け持ちだなんて」
「仕事のうちさ。それにずっとやってきた事だからね。
ところで、誰か探してるンじゃないのかい?」
「そうそう、他のみんなはどこにいるの?
ずっと探してるんだけど」
「彼らならそろって買いものに出かけたよ。
2号君が夕食の買いだしに行くっていうからそれについって行ったらしい」
「ホントに?もう、せっかく作戦会議をしようとおもってたのにー」
「はは、そんなに怒っちゃいけないよ。
彼らも昨日ので疲れているんだろう。たまには骨休めも必要さ」
「もうっ、3号さんまでそんな事言って。今は大事なときなんですからねっ」
「わかってるさ。でもそうやって怒っていないで一緒にお茶でもどうだい?」
「全然分かってないでしょーっ。でもいいわ。
暇になったから付き合ってあげる」
「それはどうもありがとう。カップをもう一つもって来るよ」
そういうと3号は立ち上がり、カップを取りにいってしまった。
一人残されたⅣ号はいすに腰掛け、はぁとため息をいついた。
チームの人はみんないい人ばかりだ。それはⅣ号にもよく分かっている。
しかしみな、どこか抜けてるような感じがする、危機感が足りないようだった。
いや、みな一応はレイブンである。戦闘に関する危機感は備わっているだろう。
ただ現実感がないと言うかなんというか。
一号は熱血バカだし、2号は料理うまいけど何考えてるかわかんないし、
3号さんはいいお父さんって感じだけどそこそこだし、
FIVE号はだめだめだし。
そんな事をⅣ号がつらつらと考えていると3号が戻ってきた。
3号は無駄のない動きで珈琲をそそぐとⅣ号の前に差し出した。
「どうぞ、お嬢さん」
「ありがとう。珈琲入れるのうまいのね」
「それは飲んで、味を確かめてから言ってほしいな」
そういうと3号は自分のカップにも珈琲をそそぎなおした。
カップからは珈琲の独特の匂いがする。
Ⅳ号はカップを大事そうにもち、ゆっくりと一口すすった。
普段は砂糖とミルクをたっぷりといれないと飲めないⅣ号。
そんな彼女が、ブラックでもいけるほどその珈琲はおいしかった。
「おいしい」
Ⅳ号は素直にそういった。
「だろう。こう見えて珈琲にはうるさいんだ」
そう言いながら3号は煙草に火をつけた。
紫煙と珈琲の香りが混じりあい鼻をくすぐる。
Ⅳ号はさっきまでイライラしていた事がバカらしくなってきた。
珈琲一杯でこんなにも癒されるとは思いもしなかった。
「落ち着くわね」
「そうだろ、珈琲と煙草のある午後。なんて優雅だ」
「言いすぎよ。後ろの音さえ無ければ、あながち嘘じゃないかも」
「あの整備の音は、レイブンにとっては子守唄代わりだよ」
「うまいこというのね。それにしても3号さんはどうしてレイブンになったの?」
「僕かい?」
「ええ、どう見ても自分からレイブンになろうなんて思う人には見えないから」
「よく言われるよ。そうだねぇ
ながくなるけどいいかい?」と一号は苦笑しながらいう。
「いいわよ、どうせまだまだ一号達は帰って来ないだろうし」
「なら少しはなそうか」
僕の家系は、AC乗りの家系でね。
親父も祖父も、さらにそのずっと前からAC乗りだったんだ。
でもランカーなんて夢の又夢でね。しがないレイヴンをずっと続けてきたのさ。
僕もそれにならって、しがないレイヴンになる予定だったんだが
小さなときは体が弱くてね。
とてもAC乗りになんてなれないだろうと言われてたんだ。
だから、親父のあとは元気な弟が継ぐことになって、
僕は自由に好きな事ができるようになった。
裕福じゃなかったけど、それなりにいい大学にも行かせてもらってたんだ。
でもね、あれは23のときだったかな。
親父がミッションに失敗して亡くなったんだよ。
そのときまだ弟は小さくて、家族を養っていくには僕が働くしかなかったんだ。
だから、親父が生きていた頃世話になってた、ある企業に勤める事になったんだ。
その会社はそれほど大きくなくて、これから大きくなろうとする野心あふれてるところだったよ。
その会社で僕は新しいプロジェクトを立ちあげる事になった。
新しいACAIの開発だね。偶然か必然か分からないけど僕は大学でAIの研究をしてた。
会社としてはそれが狙いだったのかもしれないね。
まぁ僕は入社してすぐ一人で戦闘プログラムを組むようになったんだ。
最初はひどかったよ。なんせ僕一人だけだからね。
プログラムのテストはシミュレーションだけじゃどうしてもうまくいかない。
実機に載せてテストしないといけないんだ。でもAIの相手をするパイロットがいないんだ。
小さな会社だったからね。雇うお金が無かったんだろう。
だから自分でテストしたよ。まさかACにのるなんて思っても見なかったけどね。
最初はうまくいかなかったよ。なんせテストパイロットも初心者なんだから。
でも、だんだんと慣れてくるんだね。基礎が無くても。
まぁ、そんな感じでAIと僕の操縦技術は二人三脚でちょっとづつ強くなってきた。
1年くらいしてかな、試行錯誤して作ったACAIが発売される事になった。
メルクリオと名づけられたそのAIは特定のACにしかバンドル出来ないけれど、
並のMTなら束になってもかなわないくらい強かった。
だからね、それはそれは売れたよ。
会社も僕の事を認めてくれて、プロジェクトにも他の人が参加するようになってきた。
そこで、アリスに出会ったんだ。
彼女と出会ってからは素晴らしかったね。
仕事でもプライベートでもずっと一緒にいたからね。
研究もはかどったよ。
その頃していたのはメルクリオをどんなACにもバンドルできるようにする事だった。
この頃には僕の技術の方がAIより上になってね。
いっぱしのAC乗りになってたよ。
そして新しいAIが完成した頃、僕とアリスは結婚したんだ。
新しいAIにはヴェネレ、僕達の子供にはミシェルと名付けたよ。
ヴェネレの評判はすごくよかった。
もうレイヴンなんていらないんじゃないかと言われるくらいだった。
実際、普通のレイヴンなら互角に渡り合えるようなAIだったからね。
そしてメルクリオ、ヴェネレで大成功した会社はまた新しいプロジェクトを立ちあげた。
それはランカーACに勝つようなAIを作り出す事だった。
このプロジェクトは極秘裏に行われたよ。
なんせ、今までランカーに勝つようなAIなんて何処の誰も開発しようなんて考えて無かったからね。
というか、そんな事できるはずがないと思っていた。
このAIの開発にはてこずったよ。
人間がプログラムしてる限り、ある壁にぶつかるんだ。
その壁を越えるため僕はある進化プログラムをAIに組み込む事にした。
それはAIをより人間らしく、そして人間を超えるようなプログラムだった。
このプログラムを有効にするためにはテストだけではなく実践をこなす必要があった。
だから僕とオルベ・・・開発中のAIは何度もミッションをこなしたよ。
そして、14回目の出撃のときだった。
僕達はある廃工場に立て篭もるMTの掃討に出撃した。
僕はオルベを見守り役割だったから、ほとんどMTをオルベが撃破していったよ。
さすがにMTはオルベの相手にならなかった。
あらかたのMTをオルベが掃討したとき増援としてACが現れた。
僕が待ってたのはこの瞬間だった。
テストではない実戦の対ACのデータをえる事が目的だった。
ACに対するオルベの戦い方は素晴らしかった。
迫り来る多弾頭ミサイルをかわし、いっきにOBで近づきブレードを一閃。
そして距離をとりながらのロケット。
オルベは僕が手を出さなくてもモノの5分ほどで、そのACを破壊してしまった。
正直これほどまでに華麗に戦闘ができるとは思ってもいなかったよ。
先代のヴェネレはとても泥臭い戦闘しかできなかったからね。
でも増援はそれだけじゃなかったんだ。
増援に来たのはランカーAC ヘヴンスジャベリン。
新進気鋭のランカーACで天才の名を欲しいままにしているジニアスだった。
さすがにまずいと思ったね。
まだまだオルベはランカーACにかなわないと思っていたからね。
しかし、オルベの進化プログラムは僕の予想を大きく超えていたんだ。
精密度な射撃で知れ渡っている彼の攻撃をオルベはいとも容易くかわしていった。
かわすだけではなく、さらにロケット、パルスキャノン、ブレードと次々と
ヘヴンスジャベリンに攻撃を加えていく。
そして、ついにオルベはヘヴンスジャベリンを撃破してしまったんだ。
その時は感動したね。自分の子供の事のようにうれしかったよ。
でも、次の日には大騒ぎになっていた。
ランカーACが所属不明のACに撃破されたんだからね。
まさか、自分からAIでしたなんていう事はできなかった。
なんせらんかーACを倒せるAIなんてこの世に存在しないはずだったから。
そこからはとても慌しかったよ。
オルベの開発は無期限凍結。
プロジェクトは解散。
そしてオルベの主任アーキテクトである僕の家族は
身の安全を守るため僕とは離れて、会社に保護されながら生活してる。
そして僕は他の企業から引き抜かれないように会社がスポンサーをしている、
ここ・・・チーム「桃白々」に身分を隠して、レイヴン兼整備主任として働いてるんだ。
さぁこれでお仕舞。
また珈琲を入れなおしてくるよ」
そういうと3号は立ちあがった。
「本当なの?」
Ⅳ号がたずねる。
「さぁ、どうかな。レイヴンはあまり過去を話さない生き物だからね。
信じるも信じないもお嬢さんしだいかな」
そういうと、3号はウインクをした。
ある日の午後。
緩やかに流れるひと時の時間。
大人ってむずかしい。
そう思ったⅣ号だった。
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