「雷獣小隊、前へ!」(2009/05/09 (土) 16:06:03) の最新版変更点
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対AC戦とは面白い冗談である。
私を含めた雷獣小隊全員が腹を抱えて笑った。ミーティングルームの壁が破れてしまうんじゃない勝手ぐらいの大爆笑だ。ここで笑わずどこで笑う。やけっぱちであった。だって、総勢6人の小隊でACの相手をしろだなんて任務は、どう考えたって冗談に決まっているのだ。そんなのは、徒歩で戦闘機に追いつけ、素手でビルを崩せ、レーザーを撃たれてからかわせ、ってぐらい無茶な注文なのだから。スーパーマンでも出来そうにないのに、私らみたいなヘッポコがそんな大それたことが出来るわけがない。だからこれは冗談。事実その任務を私らに伝えた隊長のガリィだって大笑いしていたんだ。
「おいおいガリィくん、エイプリルフールはもう六ヶ月前に過ぎたところだぞ?」
笑えない目つきのフラッフィがひぃひぃ言いながら突っ込んだ。
「当たり前だよウッディ、こいつはちょっとしたジョークだよ」
そう答えるガリィの蒼ざめた笑顔に脂汗が滑る。
唐突に爆笑が止んだ。
場に張り詰めた緊迫の糸が皆の首を吊るしてしまったらしい。
私? 私は平気だ。このクールなジョークに律儀に反応してげらげら笑い続けている。
「ヤハティ、気持ちはわかるけどな」
ファジィがむさい口髭を揺らしながら言いやがる。
私は素直に、笑うのをやめて、壁を思い切り打ん殴った。
「ああ私だってわかっているさ、これがマジだってことぐらいはな!」
それよりも拳が痛い。
~雷獣小隊、前へ!~
ちょっとでも期待して読むと後悔するよ!
私、ヤハティの所属する雷獣小隊は、そのいかにも強力そうな名前とは裏腹な、見れば見るほどに非力なちんけな傭兵部隊である。
非力なくせに傭兵部隊やるって馬鹿じゃねえの? そんなこと言うヤツは無粋というか知識が足りないというか、でなければたぶんモグラの一種かなんかだ。地面に潜っていろ。アスファルトで地面を舗装してやる。
企業間抗争が激烈を通過して苛烈を通り越して熾烈を打っ壊したこのご時勢、ちょっと気が抜けば空から爆弾を抱えた無人兵器が降ってきやがる。色んなものがスマッシュポテトみたくぐしゃぐしゃになったこの世界でまともに食べていくには強盗団とか傭兵になるくらいしかなかったのだ。
我が雷獣小隊も、そんな連中の集まりだ。抗争が激しくなるまでは、平々凡々の民間人だったのだ。だからショボい。出会った兵隊が驚愕して顎を外して地面に落とすぐらい凄くショボい。武器の質どころか兵隊としての質までどうしようもないから困ったものだ。
隊長のガリィはそれこそ百戦錬磨のカマ掘り男のような勇猛な面構えだが、実際はただ体がデカいだけのヘボ黒人である。この間、野良犬相手にボロ負けしてたからその弱さは折り紙つきだ。それと突撃要員その①のウッディはどう見たって薬のやり過ぎでおかしくなってるし、突撃要員その②の、ガリィの娘でもあるキャシィは銃を撃つときに眼を瞑ってしまう可愛い可愛い十六歳。
工兵のフラッフィは口髭がシブいと自称している中年親父だ。爆弾の設置とか、トラップの設置とか、その辺はなんかそれなりみたいだが、腰痛もちで動きが緩慢。老人ファジィは作戦参謀だけど微妙にボケが入っている。この間なんか貴重な昼飯を二度も摂りやがった。
ついでに私、ヤハティは狙撃兵だが、激しい運動は苦手だ。元々病院畑の住人であるため、運動経験がほっとんどない。正直逆上がりさえ出来ない。
どうだろうか。私らの存在そのものがギャグである。民間人の立ち上げた傭兵部隊! どいつもこいつも、フツーの人間なのだ。ガリィは元警官で、フラッフィーは元電器屋、ウッディは……なんだろうね。豚箱について妙に詳しい。こいつはまぁいい。キャシィは花の高校生で、私ときたら病院がお家の軟弱者である。ファジィに至っては年金暮らしの爺さんだ。いかにも寄せ集め、適当極まるもいいところだ。だいたい、狙撃兵とか工兵とか、そういう割り振りからして適当なのだ。小隊にそんなに詰め込むもんなのか? それ以前に小隊って六人で成り立つもんなんだろうか。
こんないい加減なのに、そのくせして、割合戦果を上げているんだか不思議なものだ。……まぁマグレだけど。運よく敵部隊の背後の廃墟が崩落して不戦勝したり、運よく敵MT部隊が味方誤射して大根RUNのところを強襲したり、運よく敵司令官が昼下がりの情事に耽っているところに遭遇して生け捕りしたり――本気で運しかない。別名ラッキー小隊といわれる由縁である。
そんな幸運の積み重ねが知る人ぞ知るキサラギ社から『新設兵器研究所警備』なんてえらく高級な依頼を引き寄せ、で、そのラッキーが呼んだハードラックとダンスっちまっている、のである。
曰く、【侵入してきた敵ACを撃破せよ!】なのだそうだ。なんでも研究所に接近する不審な機影が一つあるそうなだ。どう見ても敵なので緊急で出撃してね。しばらく持ちこたえれば援軍が来るよ、なのだそうだ。撃破の特別報酬は30000コーム。頑張れ。やっほー。なのだそうだ。ちなみに拒否権なし。というか、拒否したら死ぬ。
何故ってここはその研究所だもの! 敵を撃破しなきゃ死ぬものね!?
だけど出来るわけがない!
更衣室で防弾ベストやら防弾ブーツやらを装着しながら震えが止まらない。ちょっと漏らしているような気さえする。やばい。これはやばい。上・中・下で表すと上の中の中の上の下ぐらいやばい。
だって相手は無敵のAC、悪魔と名高い最悪の戦闘兵器である。これで怖くないって言うのは馬鹿と土と煙と食い物ぐらいに違いない。
そう。短期とはいえキサラギとの契約なんて結んだのがまずもって間違いだったのだ! 何せ言わずと知れたヘンテコ企業・キサラギである。良く知らないが、あのデカい杭みたいなので相手をあちょあちょする珍妙な武器を開発したキサラギである。ろくな仕事があるわけがないのだ! そんなのは最初っから判っていたはずなのだ! なのに、どうして! どうして!
「待て、落ち着きなよヤハティ、あの報酬の額を思い出せ……庭付き一戸建て10軒立ててもまだ余裕があるぞ?」と歯の根を慣らしながらガリィ。顔蒼いよ。黒い顔が蒼いよ!
「生きていればな! 生きていればそうかもな!」もう半泣きである。しょうがないのである。今回のヤマはヤバいとかヤバくないとか、もうそういう問題ではないのである。キャシィを見ろ、恐怖を克服するためにアンディから怪しい薬をもらってるではないか。そんくらい怖いのだ、非常に恐ろしいのだ。
と、私が見ていることに気付いたのか、アンディはぐるりとフクロウみたいな気色悪い動きで振り返った。全力で視線をそらすよりも速くアンディが叫ぶ。
「まままままっまああああああだ焦る時間じゃなああああい!!」
「わけわからん! 五月蝿い! 死ねええええ!」余りの気色悪さに、手にしていたシャツを反射的に全力で投げつける。しかしアンディは犬のごとき見事な動きでシャツをキャッチした。――口で。
「うわっ、ヤハティさんはしたなっ! はしたなっ!」
ちょっと瞳孔開き気味のキャシィが歓喜の声を上げた。アンディ印のいけない薬はとんでもない威力を持つ。脳内で外宇宙の大いなる神々と交流している様子のキャシィは金髪のおさげを揺らしてアンディに飛びつく。
「アンディさんアンディさん、それ頂戴?! それ頂戴?!」
「うあああキャシィが変になってる?!」
今さら気付いてガリィが絶叫した。
「だが断るううううううううううう!」とアンディは華麗に跳躍し、追いすがるキャシィを引き離す。そして着地地点にいたファジィのヘルメットに素早く私のシャツを巻き付ける。行動の意図がよく判らないので、私とガリィは顔を見合わせた。
そしてお互いの顔の蒼白さで、現在の状況を思い出す。
対AC戦!
「そうだ、そんなことよりも戦略だよ! 作戦とか考えようよ皆!」とガリィ。
「い、いや、待て、作戦?! 作戦だと?! 戦車砲さえ効かないって噂のACに有効な戦略とか戦術とかあるか?!」
「あー、あーあーあー! そうだ、爆弾! 至近距離にまで近付いてドカン! ドカンだ! 頼んだよフラッフィ!」
「わわわわわわわ私かね?! 無理だよ無理! どうやって近付けって言うんだね?!」口ひげダンディなクソ中年親父は音速で顔を振った。
「それはやね……」
そこに突然訛りまくった言葉で割り込んだのはファジィだった。よぼよぼのご老体でも作戦参謀、意見は鋭い。
「つまりこれよ」
そう言って指差すのは、頭のヘルメットに巻きついた私のシャツだった。
「……………」
「……………」
「……………」
「いやっほおおおおおおおおおおおパンティゲットおおおおおおおおお!!」
「返して返してそれ私の私のもらったやつ私のー!」
素面の人間は全員、その真意を測りかねて沈黙する。
「ファジィさん、それは、その、どういうことですかね」と、堪えかねたかフラッフィ。
「それは、えーと、アレじゃよアレ、あー、アレやん、な?」
「アレ……とは、」
「古語で言うところのthatですか?!」ガリィ。寒いから黙れ。
「違うて。アレやて、アレ。わからんかなぁ……アレ」
「………………」
「………………」
「………………」
「いやっほおおおおおおおお消臭剤バリヤああああああああ」
「わーフローラルー!」
素面の面々は再び黙り込んでしまう。
「あー、そやらかアレやって……アレ」
「……だからアレとは何だファジィ」
「あー……」
沈黙。
「なんやったかなぁ?」
ふぅ、と思わず溜息が出た。思わず微笑みながらヘルメットを抱え、
「もうイヤだあああああああああああああああ!」
私の絶叫が響き渡った。
新設の研究所前に設置された、試作兵器のテスト用と思しき模造都市群(兼全自動迎撃砲台、とかいうやつ)も、周囲が荒野ではどうしたって目立ってしまう。
「秘密基地をイメージしました☆」と基地関係者は喜々として語っていたが、キサラギがネタ企業とか馬鹿企業とか言われるのはこういう駄目すぎるところが多分にあるからだろう。おまけにまだ研究所の発電設備が本稼動していないため電力不足で砲台の半数以上は使い物にならない。まるで「壊してくれ!」といっているようなものだ。ここまで徹底してくると逆に萌えそうである。
しかしここに来て嬉しい誤算がふたつあった。冷静に考えれば、私らだけ、というのは、まずありえないことなのだった。
ひとつめは、研究所に常駐のキサラギ側の専属歩兵部隊もちゃんと投入されたこと。専属だのといっても所詮はネタ企業キサラギの私設部隊、屈強な軍人どもというわけでもなかったが、私ら雷獣小隊よりは遥かに優秀そうな戦闘員たちである。
そしてふたつめは、先日搬入された試作AC三機が防衛に使用されるということだ。
ACの進入ロと予想される工場の物資搬送用門、その前に設けられた広大なスペースに堂々と直立する鉄の勇士。キサラギ独特の人型からはやや外れた形状。丸みを帯びた形状の部品で構成されたそれは、やはり試作部品の寄せ集めだ。頭部は楕円状のレーダー・ドーム、コアはパイロットの生存率だけを最大限にまで引き上げた、ともすればやぼったいまでの重装甲、脚は――脚は、あれは、たぶん売れそうになかった。異様にごてごてとした逆関節だ。速度を捨てて安定性だけを重視しましたと言っているような脚で、確かにアレなら上半身が木っ端微塵に吹っ飛んでも倒れそうにない。
武装は極少なく、右腕と一体化した長大な砲塔――プラズマカノンとかいったか、あれが一門装備されているだけだ。用途不明のケーブルやら部品やらがデコレーションみたく貼り付けられた、試作品丸出しの『必殺兵器(関係者曰く)』だ。
キサラギ社発の、かの名銃カラサワを凌駕する新兵器というキャッチコピーで売り出すつもりの商品、だとか何とか言う噂だが、如何せん長すぎてバランスが悪い。あんなのを装備して問題なく走行できるのは四脚かタンクぐらいなものだ。試作ACたちもあのごつい脚がなければおそらく直立することさえ出来まい。
「……まぁ戦力には変わりないが」溜息一つ。
「やあやあやあほら見なよヤハティ、僕らだけで戦うはずがないんだよ、はっはっはっ」無反動砲を背負い突撃銃を肩に提げる恐ろしく厳つい格好で、ガリィは快活に笑った。
「なに言うか。さっきまでズボンの中身がホカホカしてたのは誰だ?」
「ちっ、違う! あれは武者震いだ! 漏らしてたわけじゃない!」
「わっわっわっパパ漏らしちゃったの? えんがちょ! えんがちょ!」
「ああ可哀相なキャシィ・・・…パパがふがいないばっかりに……ごめんね、ごめんね」
「ふぉおお! クウウウウウルビズウウウウウウウウウウウウ!」
「おいアンディくん、蒸れるからってジッパーを開けるのは止めたまえよ?! 穿いてないだろ?!」
「いいいいええええええす! おいらはハ・イ・テ・ナ・いいいいいいいいいい! おれは自由だああああ!」
「自由だ! 自由だ!」
「キャシィ! 駄目! 駄目だ! お嫁にいけなくなるぞ?!」
彼らが穿いていないのは銃創などで出来た抉れた傷口に布が巻き込まれたりしないようにするためであって、けして露出狂の変態だからではない――念のために。
昔読んだ戦争小説からの受け売りだから、真偽のほどは不明だけれど。もちろん私も穿いてない。最初の頃は妙な感じだったが、まぁ、恥じらいで負傷が酷くなっては話にならない。
「しっかし、アレやねぇ、こんだけ戦力たっぷりやったら、まず勝てるんとちゃうか?」
「ですな。ま、撃破の特別報酬はもらえそうにありませんがね」
「あぁた(たぶん『あなた』といってるのだろう)が全身に仕込んだ爆薬も、役に立ちそうにないやんけねぇ」
「ですな。はっはっはっ!」
あれだけガクガクブルブルしていた連中が、よくもまぁこんなに明るくものである。私もだが。
と、ガリィのヘルメットに内蔵された無線機に着信があったようだ。ガリィは耳元に手を置いて、二言三言返答すると、顔を引き締めてみなに注目を促した。
「あと三分ほどで敵ACがやってくるそうだ。予想進入ロは、やっぱり北側の搬入口みたいだね。ステルスMTの奇襲の可能性もあるから、使える電力は四方の砲台に四等分されてる。あんまり砲台はあてにするなってさ。で、兵力そのものは北の搬入口付近に集中するらしい。敵ACは今後『猟犬』と呼称。『猟犬』だぞ。各員、持ち場に散開!」
業火煮えたぎる地獄より、最悪の災厄のご到着だ。私は両手に提げた、少々重すぎるジェラルミンケースをしっかりと握り締め、その場から駆け出した。
搬入口から研究所とを一直線に結ぶ物資輸送用の大通り。ゲートから1000mほど離れた場所に聳えるビルの屋上で、私はトランクに納められていた部品を組み上げる。運動できないくせに全力疾走したものだから肺が破れそうだが、そんなのは気にしていられない。
三十秒ほどで馬鹿でかい一丁として完成したのは、対物電磁投影狙撃銃、早い話がアンチマテリアルライフルのレールガン版だ。
キサラギからの支給品だが、ぴかぴかの最高級品。お値段は聞いてびっくりの100コームときた。ちょっと気取った車が買える値段だ。最大射程は1200m。瞬きするより速くその最大射程を駆け抜ける、なんだか良くわからないが凄い弾丸を射出する。既存の対物狙撃銃より射程が短いのは仕方がない。弾丸に施された対空気摩擦用のコーティングが1200を超えた時点で完全に摩滅して、弾丸が消滅してしまうからだ。だが、それと引き換えに桁違いに高い威力が与えられている。一昔前の戦車ぐらいなら正面から打ち抜いて容易く貫通、後ろに戦車が並んでいればついでに3機ほどなら串刺しに出来るとんでもない威力。
最新技術の上に最新技術を重ねてまだ最新技術でコーティングする現代のAC相手に効果があるかどうかは微妙だが、それでも比較的薄い背部の装甲や、保護の甘い関節部とカメラぐらいなら易く破砕できるはずだ。腕の見せ所である。
7発入りのマガジンを叩き込み、同じく支給品の光学迷彩用の布で自身と狙撃銃の半分ほどを覆う。熱までも隠蔽してしまうというハイテクな一品だ、これで余程注意深く観察しなければ私の存在を確認できまい。
さて、奴さんが来るまでスコープの倍率でも調節しておこうかと、狙撃銃のスコープに有線されて連動するヘッドセット・ディスプレイをヘルメットから下げたそのとき――
視界一杯が白一色に塗りつぶされた。
「ッ?!」
一拍遅れて爆裂音。背後で吹き荒ぶ凄まじい熱風の感触。
『きたあああああああああ!』耳元でガリィの絶叫が響き渡る。
続けざまに響く爆音、爆音、爆音。雷鳴の如き大音声が耳を聾する。応じるように、バケツ入りの水をぶちまけるようなプラズマカノンの発射音が連続した。風に流れてイオン臭が周囲に満ち満ちる。空気の焼ける臭い。来た。悪魔が来た。緊張感の呼んだ吐き気が込み上げる。
ディスプレイ内の映像は数秒をかけて再生し、その暗澹たる恐慌の風景をありありと映し出した。
まず私が眼を疑ったのは、試作ACのうち一機が、既に完膚なきまでに破壊されているという事実だった。右腕部の砲塔が基部から破壊されてアスファルトに突き刺さり、幾重にも積層装甲を纏ったコアに五メートル台の大穴が開けられている。熱で赤く染まり陽炎を吐くその様はACが血を吐き出しているようにも見える。あの損傷ではパイロットとて無事ではいまい。取り残されたように無傷な下半身が酷く滑稽に見えた。
同様の攻撃を受けたのだろう、搬入口付近のそこかしこのアスファルトに赤熱した断面を晒す穴が空き、その周囲には炭化した人の屍体や銃火器が散らばって――まさかあの中に雷獣小隊の面々が含まれているのではないかと一瞬ぞっとしたが、ディスプレイの片隅の音声リンク回線はしっかりと五人の健在を示していた。
そして私は、それが高空で揺れ動くのを見た。
始めは真っ黒な雲かと思った。だが違う。そいつは巨人の影だ。滑らかな曲線を巧みに取り込んだ、手足のやたらと長いその奇抜なフォルム――。
確かこいつは、俗に『ヴィクセン』とか呼ばれているACそのものだ。ただ漆黒の巨体が手にして入る武装は、随分と前に病院で眺めた雑誌に掲載されていたのそれとは違う。
同じなのは左腕に取り付けられた盾と一体化したレーザーブレードだけで、右手に握られているのは、鉄柱をみっつ組み合わせたような見たこともない短小な銃、エクステンションのマウントには箱状の装置――補助ジェネレーターであろうか――が取り付けられ、右肩にクレスト製中型ロケットと思しき円筒の集合体、そして左肩で展開し、地上に向けて紫色の光条を打ち下ろす巨大な鉄柱はプラズマカノンだ。それも特別高出力な、キサラギ試作ACのそれを幾らか上回る威力を発揮するとんでもない代物だ。
驚嘆するべきはその桁外れの出力と冷却能力だろう。空中をブースターでぶっ飛びながらプラズマカノンをぶっ放す。そんなことをすれば、普通のACなら数秒と経たずに熱暴走・EN不足に陥り、墜落してしまう、はずだ。第一あんな重武装では滞空するだけで莫大なENが必要になる。だというのにあの黒いACは、全く何の問題もなくそれらをやってのけている。
改めて血の気が引くのを感じた。圧倒的過ぎる。余りにも凶悪。
やつの肩に輝く捩れた円錐状の頭をした真っ赤な犬が、成す術もなく逃げ回る地上の兵士たちを追い立てて笑っている――。
こいつが、『猟犬』! 私たちの敵!
ばしゃばしゃと試作ACたちが撃ちまくっているが、如何せん相手は速すぎる。殆ど掠ることもなくプラズマ弾は蒼穹の彼方へと飲み込まれていく。地上の兵士たちもミサイルを撃ってしょぼしょぼと応戦しているようだが、命中率が低いだけでなく威力まで足りない。『猟犬』の積層装甲を打ち抜くには至らず、有効打にはなっていない。なんだあれ。反則だ。地上に降りてこないのなら、こんな一方的な戦闘はやつのシューティング・ゲームになってしまう。
『へいへいへいヤハティヤハティヤハティ! 撃って撃って撃ってええええ!』
ヘルメット内のヘッドフォンから溢れたガリィの絶叫で我に帰る。そうだ、ならばやつを叩き落してやれば良い。出来ないことはないはずだ、あいつが空中で背後を見せたところで、あの生意気なブースターをひとつ撃ち抜いてやればいいのだ。深呼吸して銃床を抱きしめる。ぎゅっと。全身全霊を込めた感触。やれる。
全神経を指先に集中して猟犬の動向を探る。遥か遠く、1000m先の高空で猟犬は踊り猛る。さぁ見せろ。デカいのをその背中に一発突っ込んでやる。
一秒。
二秒。
三秒。
背中を向けた。今!
引き金を引く。砲身内で閃光が弾け、不可視の電磁レールが形成される。射出補助の火薬が炸裂。骨を砕かんばかりの反動に骨肉が軋んだ。
狙いは完璧、タイミングも十全! 発射と着弾は同時、プラズマ化した秒速3200/sの超音速の雷獣の顎がその背中を叩く。――ブースターよりやや下部の装甲に、拳大の穴が空いた。猟犬の鋼の体が申し訳程度に揺れる。
舌打ちする。惜しい。ほんの少し相手が身じろぎしたのだ。自動で次弾が装填される。電力のチャージまで十二秒。少なくとも十二秒ではこちらの位置を割り出せまい。狙う時間は、たっぷり――
猟犬が身を翻す。
ディスプレイの中心で、猟犬の青い目が、私を見ていた。
全身から怖気が奔った。見ている。やつが私を見ている。そんな馬鹿な。どうして正確な位置がわかるんだ。銃声もあれば弾丸もある、高速で軌道算出でもしたのか? それだって飛んできた大まかな方向なら特定できるかもしれないけど、それでも正確な位置なんてすぐに把握できるわけがない。だって私の姿なんて見えるはずがないんだ、ましてや機械の目なんかでは決して! そう、あるはずがない。これは錯覚、これは錯覚、これは錯覚、これは錯覚、これは錯覚、でも猟犬は私を見ている、猟犬は私を見ている。猟犬は私を見ている、猟犬は私を見ている、猟犬は私を見ている!
猟犬の右手、あの短小な鉄柱の集合体が変形した。三本の鉄柱が正面に高速でスライドし――それらは一個の長銃の形をとった。銃口は私に向いている。猟犬は私を見ている。その三つの鉄柱からなる三角形の中心で、眩いばかりの紫電が巻き起こる。猟犬は私を見ている。その中心で小石程度の大きさの弾丸が輝いている。猟犬は私を私を私を見ている、私を見ている!
慌てて身を起こす。このままでは殺られる。間違いない、猟犬は私の存在を完璧に補足している! どういうメカニズムが働いたのか見当も付かないが、ヤツは恐ろしく優秀な観測装置を装備しているようだ。逃げなければ。でもどこに?!
そう、間に合うはずがないのだ――消滅は目前、迸る電光の塊が上げる咆哮が私の耳にも届くよう。回避するって、いったいどこに? 猟犬の持つ銃身が私の動きに合わせて緻密に揺れ動いている。ロックされているんだ! 化物だ。どう逃げたって、ヤツは絶対に直撃させることだろう。
そんなのはクソッタレだ。折角手に入れた健康な体を、むざむざ吹き飛ばされてたまるか。渾身の力を込めて狙撃銃を持ち上げる。
チャージ終了まで後6秒。知るか。私は引き金を引く。反応はない。引き金を引く。引き金を引く。引き金を引く。撃てよ。撃てよ! 撃ってよ!
長すぎる一瞬が加速し、紫電の解放を意識の片隅で予感した刹那――猟犬の背後、そのブースターの辺りから突如爆炎が吹き上がった。猟犬が空中で大きく姿勢を崩す。何があったのか、遅れて理解する――狙撃兵だ。別の狙撃兵が猟犬のブースターを撃ち抜いたのだ。雷獣小隊の狙撃兵は私しかいない。しかしキサラギ私設部隊にだって、狙撃兵はいる。
通信が入った。知らない回線からだ。開いてみれば男の声。
『はっはー! 雷獣小隊の狙撃兵さん、危ないところだったな、どうだ、今晩酒でも――』
気障な声がそう言って、あとはノイズに塗れて聞こえなくなった。
堕ちていく猟犬は大きく身を捩り、自身を叩き落した狙撃兵に向けて災厄の電光を解き放った。
おそらく、あの閃光の先に狙撃兵がいたのだと思う。発射から着弾までは一瞬――大気を光の重槍が彼方を刺し貫いていた。溶けるように薄れ行く焦熱の鋭槍、全く知覚できぬ瞬間の惨劇、あの鉄柱からなる小銃はレールガンだ。私のレールガンより何十倍も大型の、レールガンなのだ。
弾丸は一秒の間にどれほど飛んだのだろう――貫かれた空気がイオン化し、陽炎の弾道を描いて、どこまでもどこまでも続いている。いくつものビルの屋上が抉られて、その部分は跡形もない。最初からそんな部分は存在しなかったとでも言いたげな、完全な破壊だった。
『ヤハティ、無事かい?!』ガリィの声。
「大丈夫。私じゃない狙撃兵が死んだ」私は無事を伝えた。
地に落ちていく猟犬はさながら体操選手のような複雑な動きで巧みに姿勢を変更し、ついにはその両足で見事に着地した。アスファルトが超重量を受け止めきれずに四散し、小さな地響きが木霊する。猟犬が脚部のスラスターを発動しなければ、辺り一帯が陥没していたことだろう。よくよく考えれば、ACはメインのブースターが駄目になっても、各所に取り付けられた補助ブースターで姿勢制御なりなんなりが可能なのだ。つくづくふざけた兵器である。
しかし翼をもぎ取られたことで、少なくとも猟犬は、我々と同じフィールドに立ったのだとガリィは語った。
それにしても猟犬の動きは常軌を逸している。まるで機械でなく巨大な生物が踊っているようだ。
「なぁガリィ……アレか? 私が無知だっただけで、ACっていうのは皆が皆、あんな無茶な動きをするのか?」
猟犬の補足から逃れるためにこっそりと対面のビルの屋上に移動した私は、狙撃銃を抱えて光学迷彩布を被った状態でガリィに訊ねた。
『うちのACの動きを見てみなよ』
見れば、一機の試作ACが、まさに猟犬の噛み殺されそうになっている。猟犬に接近され、反応する間もなくあっさりと右腕を切り飛ばされる試作AC。直後に三対のレーザーブレードがコックピットを刺し貫いた。傍から見ればのろまな試作ACだが、ガリィ曰く、テストパイロット程度の腕しかないAC乗りではあの程度のレベルなのだそうだ。
「猟犬がバケモノなんだな、やっぱり」
『そういうこと。……で、無事なら援護頼める?』
「任せろ。どこにいる?」
『搬入道路の左側、前から三番目のビルの影』
指示された地点に向けて倍率を上げる。ビルとビルの隙間から厳つい黒人のおっさんが白い歯をにっかりと剥き出しにした笑顔でこっちに手を振っていた。どうでもいいが凄く怖い絵面だ。おそらく奥には小隊の面々が待機しているのだろう。
そこから五十mほど離れた地点では、歩兵たちと猟犬との見るも無残な闘争が繰り広げられていた。踏まれ切り裂かれ、あっさりと散っていく兵士たち。戦力差は圧倒的だ。頼みの綱のACも、既に三機のうち二機は沈黙している。残る一機は、どういうわけか起動すらしていなかった。
対する猟犬にも、ところどころの装甲に多少の損傷は認められた。至近距離でミサイルやらロケットやらばんばん浴びせられて無傷でいられるほど堅牢ではないらしい。
「それで、なにか作戦が?」
『いや……それがね、ないんだよ』
「お前には失望した」
『まぁまぁそういわずに。見てのとおり、今の猟犬は飛行も高速での移動も出来ない。やっと同じ土俵に立ったわけだよ。どうやら装甲も堅すぎてお手上げって程でもないみたいだし……ねえ?』
「つまり、特攻か」
『イエス、アイ、ドゥー!』と、へったくそな発音でガリィが古語を発する。だいたい、この場合はYes,it isではないか? ……ろくに学校も通ったこともない私には何ともいえないところではあるが。『なんでかしらないけど、さっきから切り裂いたり蹴飛ばしたりしてるだけで、射撃はしてないんだよ、猟犬は。そりゃレールガンやらプラズマカノンやらばしばし使われちゃ敵わないさ。でも今ならちょっとは対等に近い状態でやれる。おまけにキサラギの連中も鋭意奮戦中ときたら、やるなら今だと思うでしょ』
「まぁ、そうだが……」
と、ふと疑問に思った。砲台はどうしたんだろう?
『ああ……戦闘開始ちょっと後に、なんか爆発あったでしょ? あれ、猟犬が奥の集中管理施設を狙撃でぶっ飛ばしたときのヤツなんだってさ』
一番の障害は真っ先に壊したというわけだ。猟犬は予想以上に狡猾であるらしかった。しかし――どうして猟犬が管理施設の位置を知りえたのか。
「――まぁいいか。よし、適当に援護する。何人行くんだ?」
『僕とアンディ、それとキャシィ。フラッフィとファジィはお留守番』
「把握した。相手のカメラぐらいならぶっ飛ばしてやる」
『心強いねえ。うっし、じゃあ行くよおおおおおお!!! 突撃だああああ!!』
彼方より死地へと飛び出す同志たち。
深く息を吸い、狙撃銃の銃庄を抱きしめた。
『うおおおおおお!!』
ガリィはみっともなく震えた雄叫びとともに疾走する。手には無反動砲、一発限り使い捨ての強力な武装。その後に続くのはアンディとキャシィだ。アンディは冗談かというほど巨大なガトリング砲を抱え、キャシィは全身にクリスマスツリーの飾りみたいにガトリング砲の弾薬ベルトを巻きつけている。連携強化のために開かれた通信回線からは『げぱるとおおおおおお!』『やきそば! やきそば!』『くいほうだいいいいいいい!』『かにづくし! かにづくしいいいい!』と、もはや異次元人の呪いの言葉としか思えない怒号が上がっている。当然だが、怒号の主は薬で頭がパライソにトんでる二人だ。
キサラギ部隊がバカスカ撃ちこんでいる修羅場に先陣を切ってガリィが転がり込む。前につんのめるようにして座って射撃姿勢、『せいやっ!』自身を鼓舞するような掛け声とともにトリガーを引く。小麦袋を地面に叩きつけたような間抜けな音とともに打ち出されたロケット弾は、信じられない上手い具合に猟犬の右股関節付近に命中した。直撃部位から勢い良くオイルが噴出し、千切れた配線と接触、
『う、うっしゃああ!!』ガリィのパチンコでうっかり買ったおっさんみたいな声が轟く。
『やりやがるぜあいつ!』
『運で戦ってるわけじゃなかったんだな!』
周囲で上がる歓声が聞こえる。なんだか申し訳ない気持ちで一杯になった。
と、猟犬の様子が変わった。振り回していたレーザーブレードを収めると、右手のレールガンを展開させたのだ。照準はどうやらガリィに向いているらしい。
すかさず『男はこんじょおおおおおおおおおおおお!!』と螺子が足りないシャウトを上げながらアンディが飛び込んでくる。あんな重いものを持って走れるのは、薬で脳の大事な機能が色々と壊れているためだろう。『女は度胸! 度胸だよねヤハティさんんん!』と可哀相なシャウトを上げながらキャシィも飛び込んでくる。
アンディが無駄にスライディングしながら停止、キャシィはその隣にスタンバって巻きつけたベルトを外して両手で捧げ持つ。
『回避するACは腰抜けの鉄屑だ! 回避しないACは肝のすわった鉄屑だああああ!』
ガトリング砲の銃身が回転を始め、直後に凄まじい勢いで鉄鋼弾を吐き出し始めた。秒間30発の速度で猟犬の装甲に弾丸がめり込んでいく。猟犬はレールガンの発射を中断し、同時に左腕のシールドでメインカメラを保護、邪魔者を蹴り飛ばそうというのか駆け足で接近を始める。
援護が必要かと急いて狙いをつけようとしたその時、周囲のキサラギ部隊が一斉に射撃を開始した。アンディたちが猟犬の注意を惹いている間に手筈をあわせたのだろう、四方八方から雨霰と弾丸やロケット弾が叩き込まれる。がくん、と猟犬がいきなりに脚を止めた。シールでの先端にブレードを精製、闇雲に振り回し始めるも、射程内には誰もいない。
混乱しているのだろうか? どうも誰を攻撃したものか決めかねている様子だった。動きが次第に出来損ないの玩具じみたぎこちないものに変わっていく。私も一発打ち込んでやろうかと思ったが、照準は上手く合わないのでやめた。
アンディは取り敢えず突撃銃の弾倉が三つ空になるまで撃つと、さきほどの路地に撤退した。アンディ・キャシィも赤熱し使い物にならなくなったガトリング砲の銃身を廃棄し、やはり撤退する。通信の概要を纏めると、どうやら補給するようだ。
そうこうしているうちに近場のビルの屋上から、数人のキサラギの戦闘員が無反動砲をぶっ放した。私の目にも判る。装甲を何十枚と吹き飛ばし、その本体の機構の幾つかまでもずたずたにして引きずり出したその攻撃は、どう見ても致命傷だった。
『え? あ――沈黙した? 猟犬は沈黙した! 繰り返す、猟犬は沈黙した!』
新しい無反動砲を抱えて搬入道路を走っていたガリィが立ち止まり、素っ頓狂な声を上げる。
猟犬は活動を停止していた。膝を屈した機体のあちこちから、血液の如くオイルが流れ落ちている。カメラから光は消え去り、ぴくりとも動くことはない。良く見れば、わき腹からコックピットに突き抜ける大穴と銃創が無数にある。呆気ない幕切れだった。あのざまではパイロットも生きてはいまい――猟犬は死んだのだろう。
とどめをさすためだろう、キサラギ兵士の一人がおそるおそる近寄り、コックピットに銃口を向けて――何か驚いたような顔をした。
直後、前触れもなしに猟犬が左腕を振るう。
兵士の顔面をシールドの先端が直撃した。
骨肉と脳漿の混合物がぶちまけられ、兵士たちから戦慄の悲鳴が上がった。
「再起動した?!」
猟犬は煙を噴出し、がくがくと震えながらもその巨体を再び立て直す。巨大な機械の眼球に青い光が灯り、消失。次いで赤い光で埋め尽くされる。血にも似た濃厚な赤。
慌てた兵士たちが射撃姿勢をとったときにはもう遅い。猟犬はレールガンを展開する。チャージはなかった。あったとしても、極短い時間だったのだろう。瞬時に吐き出された超高速の弾丸が、斜線上にあった兵士たちを蒸発させ、薄っぺらいコンクリートを無抵抗に貫通、広範囲の地面を割って吹き上がる爆炎が兵士たちの肢体を千切り飛ばす!
『て、撤回ッ! 撤回ッ! 猟犬は未だ健在、未だ健在!』
先ほどと同様にビルの屋上からロケット砲が撃ちこまれる。先に武器を破壊しようという魂胆だろう、ロケット弾の全てがレールガンに向けて飛翔していく。猟犬は身を躍らせて回避するようなそぶりは、目論見どおりレールガンは破壊される。
猟犬が、飛来するロケット弾に向けてレールガンを投げつけたからだ。
ロケット弾はレールガンに見事命中し、一応の破壊を達成する。だがレールガンは止まらない。屋上の兵士たちは余りの事態の突飛さに凍り付いているようだった。逃げ出すまもなくビルの一部分とともに吹き飛ばされる。レールガンは砕けてあちこちに飛び散った。
呆然としているのは残った兵士たちも同様だった。猟犬が背部のプラズマカノンをパージするに至って、やっと正気を取り戻す。しかして弾丸は掠ることもしない。猟犬は全身に取り付けられた補助ブースターを最大限に利用し、後方に大きく飛翔した。
兵士たちは全力で射撃する。当たらない。的が速すぎる。殆ど安全圏に到達した猟犬のコアの一部が開き、そこから小振りの機関砲が射出された。格納武器だ。マニュピレーターが即座にそれを取得、保持し、地上の兵士たちへと弾丸を浴びせた。兵士たちは降り注ぐ巨大な弾丸に挽肉にされ、次々に息絶えていく。血肉が飛び散る。今飛んでいったのは脚だ。頭の半分を削り取られてそれでも反撃していた兵士は次に下半身を失った。這いずって逃げる兵士は自分の胸と腰が腸の一部でしか繋がっていないことに気付かない。涙を浮かべた女性兵は破れた胸から泡立つ血を吐いている。
正体不明の回線から通信が入る。アカウントネームは『ティンダロス』。
開いた回線の先で狂犬の鳴き声が溢れかえり、やがてアカウントごと消失した。
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