「幻想」(2008/11/29 (土) 21:41:03) の最新版変更点
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ウェンズディ機関は、当の昔に滅びたはずだった。
人体と機械を融合させ、大幅な戦闘力の構造を図るという、
究極の強化人間を創らんとした、プロジェクト・ファンタズマ。
それも、一人のレイヴンともう一人によって打ち砕かれた。
残存した戦闘能力は無く、ウェンズディ機関も姿を消した。
はずだった。
しかし、ウェンズディ機関の研究員は、
『究極の強化人間を創りだす』ことを諦めなかった。
ファンタズマ計画は、まだ死んでいなかったのである。
火星のテラフォーミング。クラインの暴動。
それらのゴタゴタが勃発してなお、今だ動きを見せない地球政府。
打ち破ったのは全て、レイヴンの活躍があってのものだった。
インディーズなるテロ組織、首都を攻撃しようと差し向けられた大型MT、
ACに対抗すべく創られた機動兵器の強奪、そして地上を夢見たレイヴンの、
機動エレベータ襲撃事件。
どれも新聞のメインディッシュともいえるほどのネタだった。
ざっと読み上げただけでも、これだけの事件があったのだ。
誤字:構造→向上 スマネエ
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しかし。
ここ、ロストグラウンドと呼ばれる絶海の孤島には、
それらの事件について情報などは全く入ってこない。
ただ一人の研究員が、数体の作業用ロボと一緒に作業をつづけていた。
「これで、最後か」
人体改造用のカプセルに入る。ファンタズマ計画の復活を夢見て、
研究員は最後の仕上げに取り掛かった。
「ウェンズディ機関は滅び、その一員だった私の父も消えてしまった。
スティンガーなる男が計画を再現できたと言うが、どうだかな」
研究、研究。その言葉だけが父を満たす原動力だった。
正直、私はあの父親が自分の親であると思えなかった。
生まれた経緯も不明で、ただ生きる理由のためだけに、父の研究を引き継いだのだ。
とはいっても、研究員は自分しか残らなかった。
ウェンズディ機関が崩壊したと同時に、研究員は全て行方をくらましたのだ。
そうなれば、人集めを出来るはずもなく、
データを持っている自分しか出来ないのである。
「生きる理由か。いっそのこと、レイヴンにでもなればよかったな」
ははは、と自虐的な笑いが込み上げる。
女も知らず、人間もしらず、ただ計画のためだけの1ピース。
それが自分のことだと思うと、心臓をぶち抜かれた気分になる。
しかし、その虚無感を覆い尽くすほどの探究心が、自分の脳で蠢いていた。
私が生まれるとき、もしかしたらプログラムされていたのかもしれない。
全てが無くなった後も、また1から作り直せるほどの知識と技術を。
「・・そのためだけに。そうだ、全ては研究を成就させるため」
そういって、全てを作業用ロボットに委ね、カプセルに横たわった。
夢を見る。
肉体がいじられている感覚を忘れ、脳神経が浮上していく。
何もない空間へ、全ての神経系列が飛ばされていく感覚がある。
これが機械の世界なのだろうか。
無機質で、何も温かさがない、ただ目的をこなすためだけの世界。
それは、どこかで感じたことのある世界だ。
「・・そうだ、私の世界がまさにソレだったな」
作業用ロボットに囲まれ、日がな一日モニターと睨みあう。
無機質で、何の温かさもない、研究をやり遂げるためだけの世界。
ああ、今と何も変わらない。私はきっと、生ける鉄くずだったんだ。
意識が浮上する。
恐らく、強化手術が完了したのだろう。後は、それをファンタズマに繋ぐだけだ。
カプセルが音を立てて口を開ける。
むくり、と起き上がる。
目の前に広がる光景は、まさに鉄の墓標だった。
ロボット達は全ての目的を達成したために、その場で動きを止めていた。
コンソールの前に立つもの、ガレージの通路で止まるもの、
作業を終えたためにファンタズマの隣で横たわるもの。
「お疲れ。そして、私も」
ひたひたと、ファンタズマまで歩き、目の前で足を止める。
見上げる先には、鋼鉄の殺戮兵器が佇んでいる。
ハッチを開け、コクピットに乗り込むと、
そこはどこか懐かしい暖かさをもっていた。
生きているのだ。私と繋がるために、生をうけたモノなのだ。
「・・そうか。お前も全てを見届けたいのか」
そうして、コクピットに座り、スイッチを入れた。
座椅子の脇にあったサークレットを頭にはめ、神経をファンタズマに繋ぐ。
駆動音を上げて動き出す、計画の全て。
脳とシンクロしたことを理解したのか、ファンタズマが動き出す。
「ソウ、ダッタな。繋ぐ場所は、ひとつジャない」
そう、神経と繋ぐだけでは足りないのだ。
座椅子下部から静かに現れる、無数のコード。
それらが自分の身体を貪りはじめる。
「スティンガーは、コレが出来なかっタために、負けタンダ」
私は受け入れるためだけに、女として創られたのだ。
コードはスルスルと移動し、肉体の隅々を調べ上げる。
それは機械的であり、どこか官能的な刺激をもっている。
「あ、アァ。そうダ、これで全テが終わル」
私が人間だった時間が終わる。この瞬間に、終わる。
コードが秘部を緩やかに刺激し、液体の分泌を判別したのか、
スルスルと進入を開始する。
「うぅ・・はぁ、そうカ。これが、ファンタズマか」
幻想とはよく言ったものだ。全てが非現実になってしまうほどの快感。
終わる人間の価値。そして始まる、殺戮兵器の行進。
「あ、アァァ・・いこう、私の生きタ証」
全ては幻想に染まった。目的を失った命は、人のソレとは言えなかった。
機能を止め、全てを機械に委ねたのだった。
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政府から極秘裏の依頼を受け、ロストフィールドを調査することになった。
一人のレイヴンは、依頼内容に疑問を持つことなく、最深部まで進入する。
そして、そこにいたのは。
「よ・・うコソ・・ヴン。
こ・・ファン・・マ・。
ワタシガ・・生きタ、アカシ・・」
幻想に囚われ続け、幾度倒されても幻を見続ける、目的を失った殺戮兵器だった。
終
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