「遺名」(2008/11/29 (土) 21:25:43) の最新版変更点
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「貴様は選ばれた。この地獄から選出された唯一の存在だ」
「はい」
「貴様には、専用の機体を与えよう。
我々、アライアンスのために戦ってくれ」
「もちろんです。この命、どうぞお使いください」
そうして、私は力を得た。
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「これより、選抜をはじめる」
薄暗いドーム状のコロシアム。
敷き詰めればACを相当数おけそうなくらいの大きさだ。
これから始まる。生き残るための争いが、そして。
全てを終わらせるための、都合の良い存在をつくる戦いが。
テストパイロットは全員で30程度。
同じ釜の飯を喰らい、寝室を共にしたもの同士が集結している。
時には語り合い、時には殴り合い、痛みを共にしてきた者達。
それが、どうして殺しあわねばならないのだろうか。
「なあ、NO.28」
通信が入る。プライベート用の回線だ。企業の連中には聞こえない。
「なんですか、NO.27」
「俺さ、この試験が通った時のために、名前を考えたんだ」
照れくさそうに、N.27は言う。
「俺の大好きなコミックから、響きを貰ったんだ。」
「ほお。いいですね、どんな名前なんですか?」
興味本意で尋ねてみる。だが、NO.27のことだ。照れて答えないだろう。
「教えてやるよ、聞いてしびれるなよ。名前は・・」
珍しい。いつもならば結局しどろもどろになってしまうのに。
館内放送開始のチャイムが鳴り響く。
我々にとっては、これが死神の嘲笑にも聞こえてくる。
『これより、最終選抜試験を開始する。
各自、ACを起動。ゲートをくぐった瞬間から、戦闘は開始される。
それでは、君達全員の健闘を祈る』
回線を切る。
聞こえなかった名前が気になってしまう。
しかし、もう他への通信は許されない。
「戦闘システム、起動します」
機械女の声。はじまるのだ、地獄が。
ゲートをくぐり、お互いの姿を認知する。
それが、同じ時間を共にした者同士の、最後の挨拶だった。
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30機の乱戦。
それは壮絶なものだった。
テスト用とは言え、機体コンセプトは自分にあわせてチューニングされている。
30機全てが違う機体といってもいい。
一機落としてもまた次がいる。
それが、不意をついて襲ってくる。安堵の瞬間など、ここでは期待できない。
地面は薬莢で埋め尽くされているように見える。
そのゴミ置き場のようなところで戦う蟲達。
「あれで・・最後、ですか」
目の前に佇む機体。
「あの武装コンセプトは」
解ってしまった。長い間、お互いを支えあってきたもの同士だ。
それくらい見た瞬間で感じ取ってしまう。
無言で銃を構える。ブースタを吹かし、お互いの距離を縮める。
一瞬で決まる。お互い機体は既に限界。弾も残り少ない。
ズシャリ。
一瞬の攻防で、決着がついた。
相手の機体が燃える。数少ない友人の機体が燃えていく。
悲しい、だが、私達にはこれしか・・。
ザザ、とノイズが入る。相手からの通信。
「さ、すがじゃないかNO.28。まあ、お前に殺されるなら悪くねえ」
「NO.27!脱出しろ、もう機体がもたない!」
思わず声をあげる。今まで、こんなに声を荒げたことはなかったというに。
「馬鹿言うな、敗者は去るのみよ。
あっと、時間がねえや・・お前にやるよ。俺が考えた名前、使ってくれ」
「NO.27・・」
「『ジャウザー』だ。いいだろ、この響き」
その通信を最後に、NO.27の機体は爆散した。
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サークシティのレーザー砲を止める。
それが今回の任務だった。徐々に劣勢を強いられているアライアンス。
苦しい戦況を覆すべく、敵地へ決死の特攻作戦を行ったのだった。
(いくぞ、ジャウザー)
自分の名前を噛み締め、ビルの陰から飛び出す。
レーザーの砲撃。ブーストを駆使し、回避する。
「あれですね」
エネルギーマシンガンが火を吹く。
レーザー砲のエネルギー供給装置を破壊した。
(あと、一つ)
再度、チャージを終えたレーザーの砲撃。
これは、避けきれない。
そう思った瞬間、頭部が吹き飛ばされたと電子音声に聞かされた。
だが、頭が飛ばされようと、腕がもげようとも、止まるはずがない。
私の名前は、正義の味方を何よりも愛していた男がつけた、ヒーローの名前だ。
レーザー砲の機能停止を確認。
これで、サークシティ進行は楽になるだろう。
戦いの終幕が近くなると思うと、気が少しだけ緩んだ。
しかし、その安堵も長くは続かなかった。
ノイズを交えながら、敵機接近と声をあげるコンピューター。
新手のようだ。心を引き締める。
恐らく、バーテックスが雇ったレイヴンだろう。
機能しなくなった砲台を背に、敵を見る。
「遅かったですね」
ここまで生き残ってきたレイヴンだ、苦戦は必至だろう。
だが、私は負けるわけには行かない。
「ここで殺されるのは・・・」
この名前にかけて、負けるわけにはいかないのだ。
「あなただ」
終
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