「第三話」(2006/03/27 (月) 13:30:15) の最新版変更点
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【レイヴン、緊急の依頼だ】
眠い
【つい先程、八王子研究所の研究者一名が重要なデータを持って最新鋭MT一機を奪取して逃走を開始】
今何時かどうかも分からない
いや、そんな事はどうでもいい
【進行方向には1時間程前からニッサンの部隊が展開しており、予め計画していた作戦だと予想される】
依頼主はホンダ、相手は最新型のアシモ一機
長引くとニッサンの特殊部隊と殺り合うことになる
【恐らく袖の下を渡されたのだろう、優秀な技術者だったのだが仕方が無い。レイヴン、始末してくれ】
目標は八王子から都心方面へ狭い一般道を利用して進行中
およそ30分程でニッサンと合流するだろう
「セシリアさん、契約しました。出撃します」
「分かりました。時間がありません、直ぐに出撃してください」
契約を成立させ、セシリアにそのことを告げると
予め着ていた対G服の2重ジッパーを締めて
ハンガー脇の壁に掛けてあったヘルメットを手に取り
梯子を駆け上ってACのコクピットに滑り込む
【システム起動】
「ヴェレスタ、巡航モードで作戦領域まで移動するぞ」
【メインシステム、巡航モード起動します】
巡航モード――AC単独で長距離移動するためにエネルギー分配を絞ったモードの一つで
ヘリや輸送機が使用出来ない状況や連続でミッションに臨む時に利用される
ルビーナイツではヘリや輸送機は信頼されたレイヴンにのみ貸し与えられるので
新人や低位レイヴンは基本的にこのモードで作戦領域に向かうのだ
「初めてのミッションになりますが、緊張せずに、落ち着いてくださいね」
セシリアがヘッドセットのマイクを通してちょっとした激励ともとれるような言葉を掛ける
「ゲートを開放します」
セシリアがガレージ2階部分の電算室から基盤を操作し
ハンガーの向かい側にあるAC用ゲートを開放
ヴェレスタがゆっくり、屋外へと歩を進める
「気を付けて…行ってらっしゃい」
「了解、行ってきます。さあて…行くぞ!」
屋外へと出た機体を作戦領域の方向へ向け、ブースターに点火
横浜にしては珍しく、雲一つ無い星空へと飛び立った
逃げ切れる、警察はビビッて追って来ないし
後ちょっとでニッサンの部隊と合流できる
合流したら後はもう楽だ
データさえ渡すことが出来れば金も生活も何もかも
ニッサンが保障してくれる
後ちょっと…後ちょっとで…
ピーーーー!!!!!
「ロックアラート!?れ…レイヴンか!?くそっ!」
突如、飛来して来たミサイルをレーダーが感知し
搭乗者――今回のターゲットにそれを知らせる
「な…何か、何か装備は無いのか?…そうだ、コイツのジャミング装置を使えば…!」
ターゲットがモニター上部のスイッチ群の中の一つのスイッチをONにすると
それまで真っ直ぐに飛んでいたミサイルが目標を見失ってあらぬ方向へ飛んで行き
歩道橋にぶつかって橋もろとも粉々になった
「敵は強力なミサイル・ジャマーを搭載している模様。
周りの建造物への被害を考慮して、ブレードで叩き斬るのが無難でしょう」
「ですね…一気に接近します」
作戦領域に到達し、目標をレーダーで確認した宗治はまず挨拶代わりにミサイルを放ったのだが
最新型アシモの強力なジャミングで命中はしなかった
そして、次に彼がとった行動は言葉通りである
「ぬぉあっ!?ち…近寄るなぁ!近寄ってくるなぁ!!」
ヴェレスタがブースターを噴かし、アシモに急速接近する
ターゲットは牽制――なんて考えてはいないだろうが
右手のレーザーピストルをこちらに向けてしきりに撃って来た
周りに無関係の民家がある以上、避ける事は出来ない
甘い考えとは分かっていたが、宗治はそれを曲げるような事はしなかった
ACのモノに比べれば遥かに弱いレーザーが装甲の表面を焼く
「ひ…ひぃぃ!?」
「悪いけど…仕事なんだよ!」
ヴェレスタの左腕部の装甲が開き
中から出て来た装置が先端からエネルギーを放出、ブレードが形成される
「うごぁ…がっ…」
射突ブレードの如くブレードをコクピットに突き刺され
ターゲットは絶命、アシモはコクピット以外無傷のまま崩れ落ちた
【目標の撃破を確認。メインシステム、通常モードに移行します】
「任務…完了です」
「お疲れ様でした。奇跡的に、公共物への被害だけで済みましたね…帰還してください」
「これで俺も…人殺しの仲間入りってか」
任務を達成して初めて、人を殺したという実感が湧いて来る
企業の戦闘部隊でもなければ経験が無くて当たり前の事なのだが――
そして時は飛んでおよそ1月と7日後のこと
「…ここでしたか。アリーナ参加の許可が下りました、
ミツビシから推薦状が届いたそうです…凄い腕ですね」
射撃場に宗治を探しに来たセシリアが台上に積まれた交換済みの的に目をやり
穴の開いた部位を見ながら感嘆の声を上げる
その間にも宗治が、銃声と共にライフル弾が紙に描かれた人形の頭部を、心臓を、交互に貫いていく
「管理の永沢さんから腕を褒められましたよ…何日も練習してましたからね。当然と言えば当然なんでしょうが」
弾を一通り撃ち終わって、シンプルなボルトアクションライフルを台上に置き
壁に付いているボタンを押して的紙をこちらに移動させて新品に交換する
新品と取り替えられたこの紙も頭と心臓を的確に打ち抜かれていた
「で…アリーナですか?」
「ええ、ミツビシ社から気に入られたみたいですね。しかし問題が一つ…」
「何ですか?」
「推薦されたアリーナが上海なんですよ…」
「上海?…何で中国?」
「恐らく、ミツビシの戦略に組み込まれてるのでしょう。気に入った、
腕の良い新人レイヴンを何名も中国戦線に送り込んでミッションをさせる。
他社の依頼で敵になっても刺客を送り込んで殺せばよく、
殺して減った分はまた各地で補充して中国に連れて来ればいい。
正直、気に入りませんが…名を上げる折角のチャンスですからね、話を受けない理由は無いでしょう」
アリーナへの参加は推薦制で企業が気に入ったレイヴンの所属団体に
推薦状を送ることによって成立する
その時に袖の下などである程度、レイヴンの行き先を操作する事が可能なのだが
今回のケースは正にそれであった
「それに、中国は世界中からレイヴンが集まって来る激戦地。
パーツも比較的安く買えますし、時には試作品すら回ってくるそうです」
「…勿論、旅費とビザはRKの方で処理してくれるんですよね?」
「…受けるんですね?」
「受けない手は無いでしょう…激戦地なら奴と出会う確立も高くなる。左腕の借りを返したいですからね…」
新しい弾を撃ち尽くすと、ライフルを置き、ゆっくりと向き直ってから左手に嵌めていた手袋を取る
そこには人の腕は無く、ゴムと金属で覆われた無機質な義肢が付いていた
「体を奪われて、初めてはっきりとした目標が出来た…俺は奴を、ネロを殺す。殺して、左腕の代価を払って貰いますよ…!」
セシリアの表情が一転して悲しそうな顔になり
宗治の左手を手に取って両手で包み込む
「…その…まだ、痛むんですか?」
「ええ…時々」
「…」
一瞬だけ強く握りこまれたが、機械の腕は何も感じなかった
やがてセシリアはゆっくりと手を放し
「…とにかく、異動ということになりますから、荷造りをしていて下さいね。
今日申請をすれば1週間後ぐらいには社の輸送機で直接、上海地区のガレージに移動する事になると思います」
「分かりました。必要な物だけ纏めておきます」
「それでは、私はこれで…」
それだけ言い残すと射撃場から出て行った
「今日はこれぐらいにするか…」
セシリアが出て行くと、宗治はライフルの中に弾が残ってないか確認し
窓口の管理人にライフルと空の弾薬ケースを渡して自分のガレージへと戻っていった
ガレージの戸を抜けると、ハンガーには最初の頃とは姿形を変貌させたヴェレスタが立っていた
最初のミッションから数週間、宗治は来るミッション全てを順調にこなし
ルビーナイツと企業からの信頼を勝ち取っていった
しかしあるミッションで不運にも彼はランカーAC「No.666」と遭遇
ミッション用装備や地形を駆使し、善戦はしたが徹底的に攻撃され
その衝撃でコクピット内に破片が飛び散り、頭部を庇った左腕に多数の破片が突き刺さり
神経・筋肉・骨髄等を傷付けてしまった
また、ACの回収が遅れたこと等が災いして上腕の下部から下を切断
レイヴンを続けるために人工筋肉製の義手を付ける事になってしまった
そしてヴェレスタも大破を理由に全面改修する事になり、その時のミッションの依頼主であったミツビシが
事前調査や警戒のミスを理由に試作品や最新型パーツを提供
機体とその主は一夜にして形を変えてしまったのだった
「左腕が疼くな…なぁヴェレスタ。復讐、出来るかもしれないぜ」
宗治は自らの愛機に向かってニヤリとすると
キッチンに向かい、冷蔵庫からビールを取り出して愛機を相手に一人で酒盛りを始めた
【レイヴン、緊急の依頼だ】
眠い
【つい先程、八王子研究所の研究者一名が重要なデータを持って最新鋭MT一機を奪取して逃走を開始】
今何時かどうかも分からない
いや、そんな事はどうでもいい
【進行方向には1時間程前からニッサンの部隊が展開しており、予め計画していた作戦だと予想される】
依頼主はホンダ、相手は最新型のアシモ一機
長引くとニッサンの特殊部隊と殺り合うことになる
【恐らく袖の下を渡されたのだろう、優秀な技術者だったのだが仕方が無い。レイヴン、始末してくれ】
目標は八王子から都心方面へ狭い一般道を利用して進行中
およそ30分程でニッサンと合流するだろう
「セシリアさん、契約しました。出撃します」
「分かりました。時間がありません、直ぐに出撃してください」
契約を成立させ、セシリアにそのことを告げると
予め着ていた対G服の2重ジッパーを締めて
ハンガー脇の壁に掛けてあったヘルメットを手に取り
梯子を駆け上ってACのコクピットに滑り込む
【システム起動】
「ヴェレスタ、巡航モードで作戦領域まで移動するぞ」
【メインシステム、巡航モード起動します】
巡航モード――AC単独で長距離移動するためにエネルギー分配を絞ったモードの一つで
ヘリや輸送機が使用出来ない状況や連続でミッションに臨む時に利用される
ルビーナイツではヘリや輸送機は信頼されたレイヴンにのみ貸し与えられるので
新人や低位レイヴンは基本的にこのモードで作戦領域に向かうのだ
「初めてのミッションになりますが、緊張せずに、落ち着いてくださいね」
セシリアがヘッドセットのマイクを通してちょっとした激励ともとれるような言葉を掛ける
「ゲートを開放します」
セシリアがガレージ2階部分の電算室から基盤を操作し
ハンガーの向かい側にあるAC用ゲートを開放
ヴェレスタがゆっくり、屋外へと歩を進める
「気を付けて…行ってらっしゃい」
「了解、行ってきます。さあて…行くぞ!」
屋外へと出た機体を作戦領域の方向へ向け、ブースターに点火
横浜にしては珍しく、雲一つ無い星空へと飛び立った
逃げ切れる、警察はビビッて追って来ないし
後ちょっとでニッサンの部隊と合流できる
合流したら後はもう楽だ
データさえ渡すことが出来れば金も生活も何もかも
ニッサンが保障してくれる
後ちょっと…後ちょっとで…
ピーーーー!!!!!
「ロックアラート!?れ…レイヴンか!?くそっ!」
突如、飛来して来たミサイルをレーダーが感知し
搭乗者――今回のターゲットにそれを知らせる
「な…何か、何か装備は無いのか?…そうだ、コイツのジャミング装置を使えば…!」
ターゲットがモニター上部のスイッチ群の中の一つのスイッチをONにすると
それまで真っ直ぐに飛んでいたミサイルが目標を見失ってあらぬ方向へ飛んで行き
歩道橋にぶつかって橋もろとも粉々になった
「敵は強力なミサイル・ジャマーを搭載している模様。
周りの建造物への被害を考慮して、ブレードで叩き斬るのが無難でしょう」
「ですね…一気に接近します」
作戦領域に到達し、目標をレーダーで確認した宗治はまず挨拶代わりにミサイルを放ったのだが
最新型アシモの強力なジャミングで命中はしなかった
そして、次に彼がとった行動は言葉通りである
「ぬぉあっ!?ち…近寄るなぁ!近寄ってくるなぁ!!」
ヴェレスタがブースターを噴かし、アシモに急速接近する
ターゲットは牽制――なんて考えてはいないだろうが
右手のレーザーピストルをこちらに向けてしきりに撃って来た
周りに無関係の民家がある以上、避ける事は出来ない
甘い考えとは分かっていたが、宗治はそれを曲げるような事はしなかった
ACのモノに比べれば遥かに弱いレーザーが装甲の表面を焼く
「ひ…ひぃぃ!?」
「悪いけど…仕事なんだよ!」
ヴェレスタの左腕部の装甲が開き
中から出て来た装置が先端からエネルギーを放出、ブレードが形成される
「うごぁ…がっ…」
射突ブレードの如くブレードをコクピットに突き刺され
ターゲットは絶命、アシモはコクピット以外無傷のまま崩れ落ちた
【目標の撃破を確認。メインシステム、通常モードに移行します】
「任務…完了です」
「お疲れ様でした。奇跡的に、公共物への被害だけで済みましたね…帰還してください」
「これで俺も…人殺しの仲間入りってか」
任務を達成して初めて、人を殺したという実感が湧いて来る
企業の戦闘部隊でもなければ経験が無くて当たり前の事なのだが――
そして時は飛んでおよそ1月と7日後のこと
「…ここでしたか。アリーナ参加の許可が下りました、
ミツビシから推薦状が届いたそうです…凄い腕ですね」
射撃場に宗治を探しに来たセシリアが台上に積まれた交換済みの的に目をやり
穴の開いた部位を見ながら感嘆の声を上げる
その間にも宗治が、銃声と共にライフル弾が紙に描かれた人形の頭部を、心臓を、交互に貫いていく
「管理の永沢さんから腕を褒められましたよ…何日も練習してましたからね。当然と言えば当然なんでしょうが」
弾を一通り撃ち終わって、シンプルなボルトアクションライフルを台上に置き
壁に付いているボタンを押して的紙をこちらに移動させて新品に交換する
新品と取り替えられたこの紙も頭と心臓を的確に打ち抜かれていた
「で…アリーナですか?」
「ええ、ミツビシ社から気に入られたみたいですね。しかし問題が一つ…」
「何ですか?」
「推薦されたアリーナが香港なんですよ…」
「香港?…何で中国?」
「恐らく、ミツビシの戦略に組み込まれてるのでしょう。気に入った、
腕の良い新人レイヴンを何名も中国戦線に送り込んでミッションをさせる。
他社の依頼で敵になっても刺客を送り込んで殺せばよく、
殺して減った分はまた各地で補充して中国に連れて来ればいい。
正直、気に入りませんが…名を上げる折角のチャンスですからね、話を受けない理由は無いでしょう」
アリーナへの参加は推薦制で企業が気に入ったレイヴンの所属団体に
推薦状を送ることによって成立する
その時に袖の下などである程度、レイヴンの行き先を操作する事が可能なのだが
今回のケースは正にそれであった
「それに、中国は世界中からレイヴンが集まって来る激戦地。
パーツも比較的安く買えますし、時には試作品すら回ってくるそうです」
「…勿論、旅費とビザはRKの方で処理してくれるんですよね?」
「…受けるんですね?」
「受けない手は無いでしょう…激戦地なら奴と出会う確立も高くなる。左腕の借りを返したいですからね…」
新しい弾を撃ち尽くすと、ライフルを置き、ゆっくりと向き直ってから左手に嵌めていた手袋を取る
そこには人の腕は無く、ゴムと金属で覆われた無機質な義肢が付いていた
「体を奪われて、初めてはっきりとした目標が出来た…俺は奴を、ネロを殺す。殺して、左腕の代価を払って貰いますよ…!」
セシリアの表情が一転して悲しそうな顔になり
宗治の左手を手に取って両手で包み込む
「…その…まだ、痛むんですか?」
「ええ…時々」
「…」
一瞬だけ強く握りこまれたが、機械の腕は何も感じなかった
やがてセシリアはゆっくりと手を放し
「…とにかく、異動ということになりますから、荷造りをしていて下さいね。
今日申請をすれば1週間後ぐらいには社の輸送機で直接、九竜半島のガレージに移動する事になると思います」
「分かりました。必要な物だけ纏めておきます」
「それでは、私はこれで…」
それだけ言い残すと射撃場から出て行った
「今日はこれぐらいにするか…」
セシリアが出て行くと、宗治はライフルの中に弾が残ってないか確認し
窓口の管理人にライフルと空の弾薬ケースを渡して自分のガレージへと戻っていった
ガレージの戸を抜けると、ハンガーには最初の頃とは姿形を変貌させたヴェレスタが立っていた
最初のミッションから数週間、宗治は来るミッション全てを順調にこなし
ルビーナイツと企業からの信頼を勝ち取っていった
しかしあるミッションで不運にも彼はランカーAC「No.666」と遭遇
ミッション用装備や地形を駆使し、善戦はしたが徹底的に攻撃され
その衝撃でコクピット内に破片が飛び散り、頭部を庇った左腕に多数の破片が突き刺さり
神経・筋肉・骨髄等を傷付けてしまった
また、ACの回収が遅れたこと等が災いして上腕の下部から下を切断
レイヴンを続けるために人工筋肉製の義手を付ける事になってしまった
そしてヴェレスタも大破を理由に全面改修する事になり、その時のミッションの依頼主であったミツビシが
事前調査や警戒のミスを理由に試作品や最新型パーツを提供
機体とその主は一夜にして形を変えてしまったのだった
「左腕が疼くな…なぁヴェレスタ。復讐、出来るかもしれないぜ」
宗治は自らの愛機に向かってニヤリとすると
キッチンに向かい、冷蔵庫からビールを取り出して愛機を相手に一人で酒盛りを始めた
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