「失われた音」(2010/05/06 (木) 12:55:42) の最新版変更点
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42 :失われた音[] :2006/01/07(土) 02:27:03.27 ID:QKgAuP+w0
――音が聞こえる。様々な音が、分厚い金属の壁を通してコクピットに響く。
人々は音色を奏でる。戦場という舞台で。「兵器」という楽器を、一心不乱にかき鳴らす。
人々は自らを奏でる。命の限り演奏する。そして傷つき、壊れ…やがて音色を失う――
小さな頃から音が好きだった。大切な人達と過ごす「当たり前の生活」。
そこで聞こえた音は安らぎに満ちて、ひどく心地よかった。
でも、やがてそれは止んだ。「彼ら」の手によって。「彼ら」は私の「音」を、
自らの自由の為に消してしまった。
後日知った。「彼ら」の名はレイヴンだということ。
この町に潜伏していたテロリストを排除する為だったということ。
町は守られたのだということ。
でも、みんなはもう音を出さなくなってしまった。何も聞こえなくなってしまった。
――そして彼は生きる為に、音を作り出す存在になる。破壊と、創造の音を――
43 :歪みだした歯車[] :2006/01/07(土) 02:30:15.38 ID:QKgAuP+w0
さびれたガレージで一人の男が端末に向かっている。
片手にコーヒーカップを、片手でキーボードを叩く。
手慣れた手つきで、朝方の静かな空間に乾いた音を響かせる。
ほどなくして、ガレージの奥から一人の女性が、まだ覚醒しきっていない顔のまま歩いてきた。
ハニーブロンドの長髪をなびかせながら。年は20代半ばといったところだろうか。
「あなた、もうこんな時間からお仕事?熱心なことねぇ…夕べあれだけ動いてたのに」
朝方の空気に負けない、澄んだ声。男は手を休め、だるそうにする彼女に方に椅子を向ける。
「セラシア、機体の修理と弾薬の補給はどうなっている?」
男の肩には、「レイヴン」を表すエンブレムが静かに日の光で輝いている。
彼女は表情を変えずに答える。
「問題ないわ。昼前には業者から届くはずよ……あなたこそ昨日の「仕事」のレポート、依頼主に送ったの?」
男はまた端末に椅子の向きを変える。
「ああ…さっき送信したところだ…しかし最近やけにテロの動きが目立つ。今月に入って7件目だ。
まだ15日だというのに。」
彼の声からはどこか憤りを感じる。
「…そうね。例の「特攻兵器」で「企業」の力が随分と弱ってきてるからじゃないかしら?
テロなんてうまくいくはずないのに、おバカさん達ね…」
実際、テロの芽はレイヴン達によって摘まれてゆく。
44 :歪みだした歯車[] :2006/01/07(土) 02:30:41.78 ID:QKgAuP+w0
そう遠くない過去に、新興企業「ナービス」の所有する採掘施設からおびただしい数の特攻兵器が出現した。
生物ともいえるような「それ」は、各地で無差別に破壊活動を行っている。
そして、程なくナービスは倒れた。そして各企業にも、かつての力は無い。
「どうにも解せんな…やはりキサラギが一枚噛んでいそうだ」
端末に向かって男は表情を曇らせる。モニターにはキサラギの発表した記事。
「あーあ…なんか心配ねぇ…」
彼女は欠伸をしながら、着替えに戻っていく。
「確かにコイツ等は何をするかわからんな」
生物兵器なんてものを実験しているという。探求心とは恐ろしいものだ。
しかし彼女は立ち止まり、真剣な顔でこうつぶやく。
「いいえ……世界がよ」
45 :スタープラチナの声がいい [] :2006/01/07(土) 02:31:13.92 ID:QKgAuP+w0
冷たい空気をかき混ぜながら、輸送ヘリ――クランウェルが一機のACを吊り下げ、青空を翔ける。
ACという鉄の揺りかごの中で、男はコクピットに響く多種多様な音を聞いていた。
風に揺られて軋む機体の音 ヘリのローターが空を断ち切る音 エンジンの力強い音…
これが彼なりの集中力の高め方だという。
そしてコクピットに専属オペレーター・セラシアの聞き慣れた声が流れる。
「今回の依頼の確認をするわね。依頼主はミラージュ。
占拠した同社の資材保管施設を拠点にするテロリストを強襲、これを殲滅。
主力はMT十数機、リーダー格はACのようだけど、テロの頭止まりよ。問題ないわ。
合流地点は変更なし、まもなく領域よ。さっさと終わらせてあなたのピアノ、聞かせてちょうだい」
そう、彼は――似合わないと言えば失礼だが――よくピアノを弾く。
美しく、どこか悲しげな、しかし力強い旋律を奏でる。まるで自身の生き様を反映したかのような、そんな旋律を。
「了解した。…システム移行、FCS起動。出力安定…全戦闘システムの正常起動を確認。投下してくれ」
「いってらっしゃい、「指揮者」さん」
戦場に彼の、指揮者の白いACが静かに舞い降りる。曲を奏でるために。
この領域を舞台に、この戦場を譜面に、今、指揮者の手は上がる――
。
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