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「逢魔ヶ刻のレイヤード」(2011/03/25 (金) 03:54:42) の最新版変更点
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これで数えて何回目だろう。
これは夢なのだが。これは夢で無くなっていて。あれ……でも。……これは夢なのかなあ現実なのかなあ。
わたしは現実か。是か否か。そうではない。しかしこれは虚構だ。ウツロの呟いた小さな嘘――それがわたしだ。
朝だった。冷たい空気が開け放たれた窓からわたしの肌を貫いた。
夜は暑かったが、流石にまだ朝は寒いのだ。
わたしは窓を閉め、寝間着を脱ぎ、しわくちゃのシャツとジーパンを穿いた。
つけっぱなしにしていたラジオからは雑音が聞こえていた。
またやられたようだ。誰に。……所属不明の……破壊ACにだ。
その名のとおり、現れると手当たり次第に破壊。していくACだ。
目的はわからない。ただその力を振るい、町などを壊し、去っていく。
彼等について言えるのは、わたしたちを脅かす存在、ということだけ。
そしてわたしは彼等と戦っている。それが義務なのだから、しょうがない。
もう一度、ダイヤルをぐりぐり回すが、やはりノイズしか聞こえない。
電波塔が壊されたのだろうか。いや放送局かもしれない。でも、どうでもいい。
そんな事は知らない。訳の分からない事には首を突っ込まない方がいい。
わたしは足から浸かり初めて首まで分からない事だらけなのだ。頭から入ったら死んでしまうではないか。
そんなわたしの身体はわからない事で出来ている。わからない事は嫌いだ。
早々と朝食を済ませ、車に乗る。そして目的地を打ち込む。
すると車は走り出し、私を、ACの待つ格納庫へ送り届けるのだった。
任務だ。私はレイヴンなのだ。
道。トンネル。トンネル。道。道。トンネル。幾つものトンネル。わきを駆け抜ける車と、たまにすれ違う対向車。
車内は蒸し暑かった。たまに、ごとりと、車がゆれるので、しっかりとシートベルトをした。
朱《あけ》灯りに照らされたアスファルトの大体は、こぶし大の穴だらけだった。
かまぼこ壁に張り巡らされるダイナマイトが爆発したかのような亀裂には、いくら応急と着飾った所で、
どうしようも粗末過ぎる修復が施されていた。しかし咎める者はいない。
いまだに、コゲアトと区別もつかない乾いた血だまりも、そこいら中にある。
多分、窓を開けたら、相当臭かろうと思う。だから熱くても、窓は開けなかった。
目的地までの最後のトンネルを抜けると、白色光の照明に照らされるとても小さく白い結晶によって、道路は埋め尽くされていた。
それは美しかった。たとえ、ひび割れた天球スクリーンから降り注ぐの映像素子の欠片だったとしてもだ。
車外をのぞくともくもくと煙が上がっているのが見える。折れた電波塔が燃えていた。
やがて電波塔が、わたしの真横を通り過ぎると、車はスピードを速めた。
黒煙は限りある空の向こうへ消えていった。地面を埋め尽くしていた有毒の雪も、姿を消した。
背後から、爆音が響く。さきほどのトンネルが爆破された。
あいつ等が、もうやってこられないようにだ。
軍の敷地に入るとさすがに、車ががたがた揺れることは無かった。
駐車場で車は停止し、わたしは車外にでて、また別の車に乗った。
格納庫では整備員が数人で大きな作業用の機械を動かしていた。
人間はあまり居なかった。代わりに作業用のテクポッドが大急ぎで駆け回る。
「おお……レイヴン」
わたしを見るといなや走り寄って来るオペ子。
わたしの手を握り、泣く。あっというまに膝が崩れて、頭から固い床に激しくぶち当たる。
もはや彼女に正気は無かった。少人数の整備員たちはその光景を無視し、
無機質なテクポッドと共に、作業を続ける。
「レイヴン……レイヴン、おう、アアあ――嗚アアア――」
オペ子はくるってしまった。
彼女はあの光景を見たのだ。きっと……この前の作戦中に。
狂気とは一種の、ウィルスだ。
狂った光景を見て、精神が焼き切れた者に感染するのだ。
床に我が身を委ねたオペ子。目はすでに、死んだ魚だ。空《くう》を貫くウツロを見ている。
もうわたしが、彼女に語りかけてもなにをしても、わたしが誰なのかもわからなくなった。
次第に泣くことにも疲れ、いひひぃい、と奇妙な笑いのみを漏らすようになった。
その後、咽喉がかれても潰れても、彼女は鳴き声を絶やさなかったそうだ。
わたしは狂った彼女をテクポッドに預け、自分のACの元へ急ぐ。
その途中、誰かに目が合う。整備中のMTの足元。見覚えのある、透き通った肌。薄い唇。
あの夢。今もはっきりと思い出せる。夢の中の少女が、私に向かって、笑った。
折れた百合のように儚い微笑みは、その後本当に折れた。何度も畳まれ、とても小さくなった。四角くなった。
わたしが驚いて瞬きをした次には、彼女は消えていた。いったい誰なのだろう。
どうも何時も、その笑みはわたしの歩調を狂わせるのだ。
雨が降る。その雨はわたしを吊るした輸送機に打ち付けられる。
でも鋼鉄で出来た輸送ヘリはその様なもので、落ちるものではない。
だから、そのまま突き進むヘリ。進む、進む。そして、静止。
僚機のAC――Sir.ガンザリックの固定金具が音を立て外れる。続けて、わたし。
その真横を後ろで控えていた三機の戦闘機が通り過ぎる。そして、たちまち爆散。
爆発音は、聴こえなかった。
その残骸は濡れてぬかるんだ地上に降るのだろう。でも落ちた音も聞こえないのだ。
なぜならその音はガンザリックが大地を踏み抜く音と点火されたブースタの轟音でかき消されたからだ。
わたしは小刻みにブースタを噴かし、姿勢を立て直した後、ジグザグにガンザリックを追従した。
『レイヴン。敵の進攻は予想以上に早い。充分ちゅう……うああああああああああ!!』
退避途中にあった輸送機が敵の鉄甲弾によって貫かれた。
爆音に貫かれた豪雨はその爆発を中心として球状に広がり、また元に戻った。
そしてまるで、ソコには何も無かったかのように、一心にまた、降り続けた。
長銃を両手で構えた場違いな、純白の破壊ACは、全部で五体。
そのACたちを囲んで、壁のような役割を果している破壊MT。
しかしわたしはひるまない。中央マルチスクリーンをタッチし、戦闘モードを起動した。
《 エネルギー供給源をバッテリーから、メインジェネレータへ……切り替え完了。 》
《 火器管制回路のリミッターを完全解除……全兵装への電力供給がスタートします。 》
《 システムチェック……システム、オールグリーン。 》
《 メインシステム、戦闘モード起動します。 》
それからも、何度も、何度も、激しい戦闘が、繰り返された。しかしわたしが何度帰還しても、
またオペレータが変わっても、軍が潰れて国がなくなり、知っている人がいなくなって、わたしの知らない人もいなくなり、
いまだ見ぬわたしが何千機も敵を倒して生き残っても、何も変わらなくて、世界は滅びた。
わたしは、消え逝くコクピットの明かりの中で、彼女を見た。少女は相変わらず、全てに向かって、微笑んでいた。
夢と現実が入り混じったこの空間には、わたしと、少女――しかし彼女は一体誰なのだろう――の、二人で成り立っていた。
ボット、見ていると、何か語りかけてくるような気がするが一向に意味が分からなかった。
しかしのその――とてもうすく乾いた、その笑顔だけは、わたしは理解している。
その能面は、嘲笑だ。あざ笑っているのだ。私を。自分以外の他人を、あらゆる物を。
風地火水の四大元素でさえ届かない、全てを超越したところから、あざ笑っているのだ。
あざ笑われてどうということは無いが、彼女がそれだけをしているだけの存在だという事がまことに許せなかった。
そんな事を考えているとやはり、まぶしい朝日が見えるのだ。つまりこれは夢なのであったのだ。終わりのない夢がわたしの現実なのだ。
だからわたしは目覚めるまで戦う事をやめないつもりだ。
終わることなく終わりを迎えるこの閉ざされた世界で闘って戦い抜くことこそが、わたしの宿命なのだ。
つ<つまるところはしゃぶれってことさ
これで数えて何回目だろう。
これは夢なのだが。これは夢で無くなっていて。あれ……でも。……これは夢なのかなあ現実なのかなあ。
わたしは現実か。是か否か。そうではない。しかしこれは虚構だ。ウツロの呟いた小さな嘘――それがわたしだ。
朝だった。冷たい空気が開け放たれた窓からわたしの肌を貫いた。
夜は暑かったが、流石にまだ朝は寒いのだ。
わたしは窓を閉め、寝間着を脱ぎ、しわくちゃのシャツとジーパンを穿いた。
つけっぱなしにしていたラジオからは雑音が聞こえていた。
またやられたようだ。誰に。……所属不明の……破壊ACにだ。
その名のとおり、現れると手当たり次第に破壊。していくACだ。
目的はわからない。ただその力を振るい、町などを壊し、去っていく。
彼等について言えるのは、わたしたちを脅かす存在、ということだけ。
そしてわたしは彼等と戦っている。それが義務なのだから、しょうがない。
もう一度、ダイヤルをぐりぐり回すが、やはりノイズしか聞こえない。
電波塔が壊されたのだろうか。いや放送局かもしれない。でも、どうでもいい。
そんな事は知らない。訳の分からない事には首を突っ込まない方がいい。
わたしは足から浸かり初めて首まで分からない事だらけなのだ。頭から入ったら死んでしまうではないか。
そんなわたしの身体はわからない事で出来ている。わからない事は嫌いだ。
早々と朝食を済ませ、車に乗る。そして目的地を打ち込む。
すると車は走り出し、私を、ACの待つ格納庫へ送り届けるのだった。
任務だ。私はレイヴンなのだ。
道。トンネル。トンネル。道。道。トンネル。幾つものトンネル。わきを駆け抜ける車と、たまにすれ違う対向車。
車内は蒸し暑かった。たまに、ごとりと、車がゆれるので、しっかりとシートベルトをした。
朱《あけ》灯りに照らされたアスファルトの大体は、こぶし大の穴だらけだった。
かまぼこ壁に張り巡らされるダイナマイトが爆発したかのような亀裂には、いくら応急と着飾った所で、
どうしようも粗末過ぎる修復が施されていた。しかし咎める者はいない。
いまだに、コゲアトと区別もつかない乾いた血だまりも、そこいら中にある。
多分、窓を開けたら、相当臭かろうと思う。だから熱くても、窓は開けなかった。
目的地までの最後のトンネルを抜けると、白色光の照明に照らされるとても小さく白い結晶によって、道路は埋め尽くされていた。
それは美しかった。たとえ、ひび割れた天球スクリーンから降り注ぐの映像素子の欠片だったとしてもだ。
車外をのぞくともくもくと煙が上がっているのが見える。折れた電波塔が燃えていた。
やがて電波塔が、わたしの真横を通り過ぎると、車はスピードを速めた。
黒煙は限りある空の向こうへ消えていった。地面を埋め尽くしていた有毒の雪も、姿を消した。
背後から、爆音が響く。さきほどのトンネルが爆破された。
あいつ等が、もうやってこられないようにだ。
軍の敷地に入るとさすがに、車ががたがた揺れることは無かった。
駐車場で車は停止し、わたしは車外にでて、また別の車に乗った。
格納庫では整備員が数人で大きな作業用の機械を動かしていた。
人間はあまり居なかった。代わりに作業用のテクポッドが大急ぎで駆け回る。
「おお……レイヴン」
わたしを見るといなや走り寄って来るオペ子。
わたしの手を握り、泣く。あっというまに膝が崩れて、頭から固い床に激しくぶち当たる。
もはや彼女に正気は無かった。少人数の整備員たちは、無機質なテックボットと共に、作業を続ける。
「レイヴン……レイヴン、おう、アアあ――嗚アアア――」
オペ子はくるってしまった。
彼女はあの光景を見たのだ。きっと……この前の作戦中に。
狂気とは一種の、ウィルスだ。
狂った光景を見て、精神が焼き切れた者に感染するのだ。
床に我が身を委ねたオペ子。目はすでに、死んだ魚だ。空《くう》を貫くウツロを見ている。
もうわたしが、彼女に語りかけてもなにをしても、わたしが誰なのかもわからなくなった。
次第に泣くことにも疲れ、いひひぃい、と奇妙な笑いのみを漏らすようになった。
その後、咽喉がかれても潰れても、彼女は鳴き声を絶やさなかったそうだ。
わたしは狂った彼女をテックボットに預け、自分のACの元へ急ぐ。
その途中、誰かに目が合う。整備中のMTの足元。見覚えのある、透き通った肌。薄い唇。
あの夢。今もはっきりと思い出せる。夢の中の少女が、私に向かって、笑った。
折れた百合のように儚い微笑みは、その後本当に折れた。何度も畳まれ、とても小さくなった。四角くなった。
わたしが驚いて瞬きをした次には、彼女は消えていた。いったい誰なのだろう。
どうも何時も、その笑みはわたしの歩調を狂わせるのだ。
雨が降る。その雨はわたしを吊るした輸送機に打ち付けられる。
でも鋼鉄で出来た輸送ヘリはその様なもので、落ちるものではない。
だから、そのまま突き進むヘリ。進む、進む。そして、静止。
僚機のAC――Sir.ガンザリックの固定金具が音を立て外れる。続けて、わたし。
その真横を後ろで控えていた三機の戦闘機が通り過ぎる。そして、たちまち爆散。
爆発音は、聴こえなかった。
その残骸は濡れてぬかるんだ地上に降るのだろう。でも落ちた音も聞こえないのだ。
なぜならその音はガンザリックが大地を踏み抜く音と点火されたブースタの轟音でかき消されたからだ。
わたしは小刻みにブースタを噴かし、姿勢を立て直した後、ジグザグにガンザリックを追従した。
『レイヴン。敵の進攻は予想以上に早い。充分ちゅう……うああああああああああ!!』
退避途中にあった輸送機が敵の鉄甲弾によって貫かれた。
爆音に貫かれた豪雨はその爆発を中心として球状に広がり、また元に戻った。
そしてまるで、ソコには何も無かったかのように、一心にまた、降り続けた。
長銃を両手で構えた場違いな、純白の破壊ACは、全部で五体。
そのACたちを囲んで、壁のような役割を果している破壊MT。
しかしわたしはひるまない。中央マルチスクリーンをタッチし、戦闘モードを起動した。
《 エネルギー供給源をバッテリーから、メインジェネレータへ……切り替え完了。 》
《 火器管制回路のリミッターを完全解除……全兵装への電力供給がスタートします。 》
《 システムチェック……システム、オールグリーン。 》
《 メインシステム、戦闘モード起動します。 》
それからも、何度も、何度も、激しい戦闘が、繰り返された。しかしわたしが何度帰還しても、
またオペレータが変わっても、軍が潰れて国がなくなり、知っている人がいなくなって、わたしの知らない人もいなくなり、
いまだ見ぬわたしが何千機も敵を倒して生き残っても、何も変わらなくて、世界は滅びた。
わたしは、消え逝くコクピットの明かりの中で、彼女を見た。少女は相変わらず、全てに向かって、微笑んでいた。
夢と現実が入り混じったこの空間には、わたしと、少女――しかし彼女は一体誰なのだろう――の、二人で成り立っていた。
ボット、見ていると、何か語りかけてくるような気がするが一向に意味が分からなかった。
しかしのその――とてもうすく乾いた、その笑顔だけは、わたしは理解している。
その能面は、嘲笑だ。あざ笑っているのだ。私を。自分以外の他人を、あらゆる物を。
風地火水の四大元素でさえ届かない、全てを超越したところから、あざ笑っているのだ。
あざ笑われてどうということは無いが、彼女がそれだけをしているだけの存在だという事がまことに許せなかった。
そんな事を考えているとやはり、まぶしい朝日が見えるのだ。つまりこれは夢なのであったのだ。終わりのない夢がわたしの現実なのだ。
だからわたしは目覚めるまで戦う事をやめないつもりだ。
終わることなく終わりを迎えるこの閉ざされた世界で闘って戦い抜くことこそが、わたしの宿命なのだ。
つ<つまるところはしゃぶれってことさ
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