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「Evil & Innocent」(2008/09/12 (金) 22:52:23) の最新版変更点
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「残念だけど、君たちはみんなとお別れしなくちゃいけなくなったの」
この“家”で“先生”と呼ばれていた女性が、身をかがめて目の前の二人にそう告げる。
「お別れー?」
「なんでー?」
首を同じ方向に傾げて無垢な眼で女性を見つめるのは、二人の子供だった。
顔が瓜二つであることから、おそらく双子なのだろう。顔は女の子のようだが、もしかしたら男の子かもしれない。
「君たちはね、これから大きな会社に行って、手術をしてもらうの」
二人の眼を交互に見つめながら、微笑みを絶やさずに女性が言う。
「しゅずちゅー?」
「なにそれー?」
「しゅ、じゅ、つ。君たちをね、お医者さんたちに、もっともっと強くしてもらうの」
「もっと?」
「つよく?」
反対の方向に顔を傾げてから双子は顔を見合わせる。そして同時に、全く同じ言葉を女性に投げかけた。
「「じゃあ、もっといっぱい殺せるようになる?」」
「ええ、もちろん」
幾つもの死体が転がる血の海と化した部屋で、女性はとても優しそうな笑顔でそう答えた。
「どうかな?傷がまだ痛むかい?」
「んー、だいじょうぶー」
「だいじょうぶー」
双子は大きな部屋の大きなベッドに寝かされていた。
二人は“家”にいる女性や他の友達と別れた後、巨大なビルに連れてこられ、到着するなり手術を受けさせられた。
「そうか、それは良かった。ここが今日から君たちの部屋だ。欲しいものがあったら、何でもいってくれ」
二人の前にいる白衣の男がそう言って両手を広げ、大袈裟に二人に部屋を見せる。
眠る前にいたのが狭くて薬の匂いがする部屋だったのに、起きてみれば広い部屋の真ん中にいたので、二人は驚いた。
「広いねー」
「ねー」
顔を見合せて、にっこりと双子が笑う。その様子に男もふっと微笑むが、目は笑っていなかった。
「何か、欲しいものはあるかい?」
「んーとね、んーとねー」
「んーと、じゃあねえ――」
二人が要求してきたのは、ナイフや拳銃の類と、無抵抗な人間だった。
「今日からコれに乗るのー?」
「乗るのー?」
「ああ、そうだ」
双子がこのビルに来てから数週間後。
双子の前にあるのは、ACのコクピット内部を模した装置だった。
二種類のコアを模した装置が一つずつ、太さがバラバラのケーブルを乱雑にまき散らしながら、床に固定されている。
「君たちには今日からこれでACに乗る練習をしてもらう。ACのことは習ったね?」
「習った!」
「習っタ!」
自信満々に双子が言い、そうか、と男が笑顔で返す。
「じゃあ、二人とも早速シートに座って。今から教えるから」
「人の撃チ方?」
「殺シ方ー?」
爛々とした顔で訊いてくる二人に男が苦笑する。
「まだだよ。まずは起動の仕方からだ。君たちだって、寝てる間は人は殺せないだろ?」
はーい、と元気よく返事をしながらシートに座る二人。
(狂ってやがるぜ……)
無垢な笑顔で人を殺すことばかり考えている二人を見て、男はいつものように二人に対する嫌悪感を抱いた。
「よし、そうだ!そう!よーし、よくやった。411号、412号、よくやった。今日はもういいぞ」
巨大なモニターを見つめる老人が、マイクに向かって訓練終了を告げる。
モニターには巨大な試験場の様子が写され、そこには大破して鉄屑となったMTやACの群れと、
大した損傷もないまま佇んでいる二機のACがいた。
「終わリダってー」
「ツまんナーい」
これだけの数を相手にしながらまだ物足りなげに、二機のコクピットに搭乗している双子は不満を漏らす。
ガショガショと歩きながらガレージに向かう二人は、通信機越しにこのあとの予定を話す。
無論、同年代の普通の子供たちが話すような内容ではないが。
「今日はこノアと手術だっケ」
「そーソー。まタ強くなれルンだって」
「さいキょー!」
「サイきょー!」
モニタールームに、双子のきゃははははという笑い声が響く。
「可愛いですね」
壮年の男の隣に、二人の教育係である女がやってくる。
「ああ、全くだ。このあとさらに可愛くなるぞ」
「今回は何を?」
「機体の駆動系と奴らの神経系をシンクロさせるための手術だ。これで通常のACには到底不可能な動きが可能になる」
「ああ、この前言っていたあれですか。ですがあれはまだ実験段階なのでは?下手すると潰れますよ」
「構わんさ、代わりはいくらでもいる。そのための“幼稚園”だ」
確かに、女性が笑って答える。
「そろそろ、“本家”も超えましたか」
本家という言葉に老人が顔をしかめる。
「ふん、OP-INTENSIFYは失敗だった……あれで我が社が三大企業のトップに立つはずが、流行るどころかその存在を知る者さえ少ないとは」
「コーテックスから利用規制がかかるのは予想外でしたからね」
「まったくだ、忌々しい……」
悪態をつく老人をしり目に、女はモニター越しに二機のACを見つめる。
ちょうどシャッターが開き、ガレージに戻るところだった。
「インテンシファイドAC、でしたか。アリーナにも何機かいるようですが、そう呼ばれることはおろか、あのパーツを装備しているということ自体知られていませんからね」
老人は女の方に向き直り、笑みを浮かべる。
「構わん、インテンシファイドACなどという言葉は、闇に葬るなりなんなりとすればいい。だが、“強化人間”はそうはいかん」
女も口の端を吊り上げ、とても穏やかとは言えない笑みを浮かべた。
「すでに、何件か注文も来ていますしね。」
「ほう、耳のいい奴がいたものだ。どのレイヴンだ?」
「いいえ、クレストと、ミラージュです」
老人が一瞬目を丸くし、そしてすぐに大声で笑い出した。
「はっはっはっはっは!クレストと!ミラージュが!頭を下げて!このキサラギに手術を頼んできたと!はっはっはっはっは!こりゃいい、傑作だ!」
「どうします?報酬はこちらの言い値で構わないとのことですが」
「ほう、財布の自慢のつもりか。構わん、好きなだけ巻き上げてやれ。強化人間の研究にはそれでも足りんほどの金を費やしているのだからな」
「では、そのように」
女が去った後、老人はまた大声で笑い出した。
「きょウノゴ飯はすテーキだ!」
「ナんのオニクー?」
「キノウの人ノだってー」
「あー、じャあおイシいかもー」
「アー、やっぱおいシイー」
「あしたハジメてのおシゴとだネ」
「タのしみダネ」
「ウまくやレルトいいね」
「ほメテくれルとイいね」
「たのしミダなー」
「タノシみだなー」
数ヶ月後、ミラージュはキサラギから送られてきた何体ものレイヴンを解剖、解析した結果、強化人間技術の解明に成功、
さらにその後、クレストまでもが強化人間技術の解明に成功する。
二社からの手術委託が途絶えたキサラギは、今まで通り三大企業のナンバー3に甘んじることとなる。
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