「キネティックSS」(2006/03/19 (日) 16:41:42) の最新版変更点
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バレーナ社最大にして最後の切り札、空中戦艦STAI。
二機のACが、中枢を目指して内部通路を疾走していた。
その内の一機、深緑色の重量級二脚AC:レイセオンが、通路に群れる無数の無人MT達に容赦ない砲撃を浴びせる。
追い討ちと言わんばかりに、同行する白銀の軽量機体が、武器腕ブレードを使い、踊る様な斬撃でMT達を駆逐していく。
「急ぐぞ、内藤」
「わかってるお!」
内藤、と呼ばれた白銀の機体を駆るレイヴンが、深緑の機体へ返信。
「…そっちじゃない!こっちだ!」
道を間違えそうになったのか、レイセオンに白銀の機体がどつかれる。
「殴るのは酷いってwww塗装ちょっと剥げたおww」
数分後、尚も敵を駆逐しながら二機は進んでいく。
二機がやや大きめのゲートの前に立った所で、白銀の機体か足を止めた。
「キネティック、本当にこの道で合ってるお?なんか全然進んでる気がしないお」
内藤に、キネティックがゲートロックを解除しつつ言う。
「設計図を見てきたのは俺だ、もう少しで……」
重二に乗る、キネティックと呼ばれたレイヴンが、急に言葉を止めた。
開いたゲートの先、やや広めのホールの様な室内。
その中央に、三機のACが佇んでいた。
背部に大口径リニアキャノンを抱えた黄色のタンク型AC。
V字型のリニアライフルを装備した青い中量二脚AC。
その二機に挟まれる様な形でこちらを向く、戦艦の様な外形をしたフロート型ACが一機。
その背後に、恐らく艦内の奥へ続くと思われる大きなゲート。
キネティックは、三機のAC全てに見覚えが有った。
「(月影にクロウプレデター、か)」
タンク型AC:月影、二脚型AC:クロウプレデター。
この二機は、自分が専属で務める企業・キサラギがバレーナ社と提携を結んで開発したAI機体。
大手中の大手であるミラージュやクレスト…エムロードと違い、物量に頼れない中堅企業が手を組み、質を重んじた兵力として開発した物。
≪敵ランカーACを確認 アーレイバーグです≫
戦艦を模したと思われる眼前のAC:アーレイバーグを見て、キネティックが問い詰める様に言う。
「アーレイバーグ……キャプテン・ザップ、フライトナーズの犬に成り下がったか!」
「犬?ははっ、私は圧倒的に有利な側についただけだ。キサラギの走狗!…おっと、キサラギはもう無いんだったな」
嘲笑しつつ言うキャプテン・ザップに対し、キネティックの機体:レイセオンが無言で銃を向ける。
「内藤、先に行け」
「何言ってるんだお。一対三じゃ勝ち目なんか…」
「いいから行け。あれはキサラギが産んだ負の遺産だ、キサラギの恥は専属の俺が濯ぐ」
「でも駄目だお!そんな事したら絶対死ぬお!」
「お前は早くエヴァンジェを止めてやれ。友達、なんだろ?」
「………わかったお!」
内藤の言葉と同時にレイセオンが三機に突撃。
三機の注意が逸れた隙に、内藤が奥のゲートに向かいダッシュ。
「行かせるかっ!」
いち早く狙いを察したキャプテン・ザップが、自機を旋回させ、肩に備えられたチェインガンを内藤の機体へ連射。
数発を背部へ喰らいつつも、内藤は構わずに自機を直進させる。
≪ふひひひ!あなた達の行動は想定範囲内です!≫
耳障りな笑い声。
シナゴーグのアナウンスが艦内に響く。
≪ふひ、ふひひひひ、そこはロックしてますよ≫
「なら、力ずくで破ればいいだけだお!」
内藤の機体が、『修羅』と呼ばれる両腕ブレードを発動。
ゲートに斬りかかった瞬間――――。
ゲートが、開いた。
≪ふひひひって、開いたぁ!?≫
「馬鹿な…シナゴーグ、何をやってる!」
≪ろ、ろろ…ロックが……内部から解除されてます。想定の範囲外です≫
「内藤!好機だ、行けっ!!!」
先とは逆に、今度はレイセオンが三機を遮る様に立ちはだかる。
「キネティック、死ぬなお」
「当たり前だ」
ガコン、と腹に響く重厚な音を立ててゲートが閉まる。
背中でゲートの向こうから響く爆音と銃声を聞きながら、内藤が機体を前進させる。
視界の先には、今までのそれより更に狭い通路が一直線に伸びていた。
やや丸みがかった壁面に、AC一機がようやく通れる様な幅。通路というよりはトンネル、洞口に近い。
≪なぜ、開いたのかしら?≫
内藤の専属オペレーター、シーラからの通信。
「……わからないお。ミス、とかじゃないかお?」
通路内を疾走しつつ、内藤が答える。
≪ミス?仮にも技術者としてフライトナーズに迎えられたアーキテクトが、そんなミスするのかしら……≫
「僕には…わからないお」
前進を続ける内藤のモニターに、小さなゲートが映った。
≪…待って、熱源反応!ACだわ!≫
レーダーに視線を移す。
シーラの通信通り、眼前のゲートのすぐ向こうに、赤い光点が一つ。
いつでも斬りかかれる様、内藤が慎重に自機をゲートへ接近させる。
……反応は無い。物音一つせず、レーダーの光点は動かない。
「(さっきのロックの件といい、一体何なんだお)」
「……………」
意を決した内藤が、ゲートを開く。
そこに居たのは――一機の、ACだった。
それを確認するや否や、内藤の機体がブレードを発動、反射的とも言える動作で斬り掛かる。
恐ろしく狭い通路内であるにも関わらず、恐ろしく器用にそのACは斬撃を一刀、二刀と回避。
再び内藤が斬り掛かろうとする。
そこへ。
「ちょっ!待って待って待ってよ!」
やけに可愛らしい声で、内藤に通信が届く。
通信を送って来たのは、言うまでもなく内藤の目前に立つAC。紫を基調とした色合いの軽量二脚機。
「久しぶりに会ったってゆーのに、やけにカリカリしちゃってどしたの?」
「どうしたもこうしたも無いお!」
内藤の殺気を感じ取ったのか、標的のACが高速で後退。
「何にもしないってば、今日の【名無しさん@謎】は道案内役。【以下、名無しさんが道案内をお送りします】ってノリ?」
「…ふざけた事言ってっとマジで千切りにするお(#^ω^)」
「ふざけてないってばぁ」
「何もかもがふざけてるお……前から思ってたけど、その妙な二つ名は何だお」
「変かなー?私は結構気に入ってるんだけど。【名無し@謎】の方が良いかな?あっ、【謎の名無しさん】もいいかも」
目の前のレイヴンの調子に、内藤は少しばかりの頭痛を覚えた。
以前に相対した時と同じ調子だ。
≪ネームレス、あなたどういうつもり?クラインを裏切ってこちらにつくの?≫
「んぅ?裏切るつもりなんて無いよ。クラインの許可は取ってるしー」
≪ネームレス…早く本題に入ってくれないかしら≫
「中枢まで安全なルートで案内してあげるから、私と一緒に来なさい。つーか来い、いいから来い、さぁ来い」
≪内藤、どうするの?≫
「選択肢なんか無いよね?早くエヴァンジェに会いたいんでしょ?」
「お前を斬って適当に進むってのもあるお」
凄む内藤に対し、ネームレスがくすりと笑いを漏らす。
「ふふ、無理だよ。だって内藤君じゃあ―――」
「私に勝てるわけ無いし。知ってるよね?本気の私がゼロとかメビウスリングより強いって事」
「………」
≪内藤、明らかに罠よ≫
「ダベッてる間にも時間は進んでるんだよこれが。もうジャックもエヴァンジェも中枢に近づいてるよ?」
「…………」
「ほらほら、は・や・く!は・や・く!パ・ジェ・ロ!パ・ジェ・ロ!」
「…………」
≪(パジェロ?パジェロって何?)≫
もうなんか明らかにテンションがおかしいネームレスに困惑を隠せないシーラ。
「……その話、乗るお」
≪罠よ!明らかにおかしいわ!≫
「シーラ、僕も怪しいと思うお。でも、僕はエヴァンジェを止めてやらなくちゃならないお」
≪…………≫
内藤の機体へ、共に艦内へ突入したレイヴン達の通信が届く。
共通の周波数を使用している為だ。
≪こちらデマイズ、C-14クリア≫
≪こちらラストバーニング、パルヴァライ……ぐわっ!!≫
≪こちらシルエット、A-4を制圧完了。次は?≫
≪こちらエルドラド!G-2でヘルストーカーとヒュプノスの二機と交戦中!誰か大至急応援頼む!≫
≪テステス、こちらオールドワンズ。今からそっちに行く。鳥大老もおまけに連れてくよ≫
≪小娘が…人をおまけ呼ばわりとは。やりおるわ≫
≪ムーム、後は任せた…すまん≫
≪ガルムッ!!≫
≪こちらコンヴィクション、ダークパンツァーを確認。断罪する≫
≪じょ…冗談じゃ≫
≪ズベン・L・ゲヌビ、ケルベロス=ガルムの死亡を確認≫
≪ClownCrownだ、アストロフィジックを発見、追撃を開始する≫
≪こちらグラッジ…ゼロ及びBBの捜索を開始する≫
≪プロセルピナ、F-2でNOVA-RGと交戦中だけど、別にヤバいとかじゃないからね!≫
≪了解、こちらストラックサンダー。今から向かう、持ちこたえてくれ≫
≪こちらザッハーク!C-2の雑魚を掃除完了、次はどこ!?≫
≪C-6のエスペランザです!テンペスト及びエメラルドレパードと三巴の状態です、至急応援を!≫
≪マスターピースだ、E-13にてクォークロックとMTを排除≫
≪G・ファウストだ…どうやらお迎えらしい……≫
≪ベイビーズブレス二機と交戦中!だ、誰か…うわぁぁっ!!≫
≪デュアルフェイス、もう少しでジャック達と中枢へ到達する≫
≪こちらヘルレイザー、スカーレットスパイダーとアサルトドックの二機を駆逐!…まだ出てきただと!?≫
ネームレスの機体:ミステリーが、複雑に入り組んだ通路を、すいすいと迷う事無く進んでいく。
その100程離れた後方を、内藤の白銀に染められた機体が追従。
「大丈夫?ちゃんとついて来てるよね?」
「言わなくてもわかると思うお」
「……いちいちツンツンされると傷付く」
「お前に対しては一生ツンしか無いお」
「ひどっ!鬼や、あんたの冷酷さは三国一やでほんま!」
「お前のテンションには付き合えないお。それ以前に三国って何処だお。国なんて無いお」
と、唐突にミステリーが停止。
「っ!?」
衝突寸前で、内藤が進行方向と逆にブーストを噴射、ギリギリの所で停止。
「い…いきなり止まるなお」
「着いたから止まったんだけど、何か問題でも?」
「問題有りすぎだお…」
言って、内藤は前方を見やる。
ネームレスの背後、今までとは明らかに意匠が異なる黒いゲート。
「はいどうぞ。お通り下さいな」
ミステリーが、内藤に機体側面を向ける形で壁面に背を着ける。
通行の為にスペースを空けた、と言う事なのだろう。
「……何してるの?早く開けて入りなよ」
促され、内藤の機体が一歩ずつ踏み出していく。
ガシャリ、ガシャリ、ガシャリ、ガシャリと如何にも重量感を含んだ機械的な音を響かせながら。
扉の前に、立った。
≪気を付けて≫
シーラが不安げに言う。
『気を付けて』。この言葉を、僕がレイヴンになってから何度聞いただろう。
一回か、十回か、いや百回は聞いたかも知れない。
でも、きっとこの言葉を聞くのが最後になる、そんな時が近い気がする。
コクピットのパネルに手を伸ばす。
この扉の先に、【革命家】が、【若きカリスマ】が、親友が、そして彼らに付き従う者達が居る。
ただの直感に過ぎないけれど、そんな気が、いや、確信が有る。
扉が………開いた。
≪ザップ、熱源反応が二つそっちに向かってます≫
シナゴーグからの通信。
成る程、これで合点が入った。
援軍を待っていたわけか。それがこいつの望みだったと言う事か。
ならばその最後の望み、完全に断ち切ってやろう。
「シナゴーグ、聞こえるか」
≪はい≫
「プレゼントをくれてやれ。とびきり良く出来た人形でいい」
≪ふひっ、言うと思ってましたよ。もう向かわせてます≫
これで良い。これでこそ良い。
【本日晴天ナレド波高シ】……が、もはやその波を恐れる必要は無い。
不安要素は欠片も無い。
唐突に、先ほどキネティックと内藤が入って来た側のゲートが開いた。
姿を現したのは、黒い一機のAC。
無人ACの中でも最強を誇る、堕天使・ルキフェルの名を冠せられた機体。
「随分早かったな……流石はルキフェルと言うべきか。終わりだ、キネティック」
勝者の余裕を滲ませつつ、キネティックに呼び掛ける。
「終わり…?は…ははははっ!」
笑った。この状況で、キネティックが笑った。
「狂った振りをしても止めは刺すぞ。それとも本当におかしくなったか」
「はは…はははっ。いや、すまない。俺も同じ事を考えてたんでな。心を読まれたかと思ったよ」
「同じ事?まぁいい…やれ」
ルキフェルのAI:ダイ=アモンに、コクピットから指示を出す。
主に命じられるままに、最強の人形が哀れな獲物へ銃口を向けた
「言葉が足りなかったな、終わるのはお前達だ」
キネティックの言葉と同時に、ルキフェルが爆発した。
「遅くなった、キサラギの」
ルキフェルの残骸を踏みしめながら、三機のACが入って来た。
茶色の軽量機、クリーム色の機体、赤と黒の中量機。
「随分掛かったようだが、耄碌したんじゃないか、鳥大老?」
「全く最近の若いのは口が……、助っ人を連れて来たんだ、感謝しろ」
鳥大老の言葉に、キネティックが件の二機を見る。
「(ナハツェーラにスペクトルか。大したメンバーだな)」
恐らくかなりの消耗を強いられたのだろう、三機共煙を吹いている。
「選手交代だ、若造はそこで休んでいろ」
「了解、せいぜい頑張ってくれ」
モニターの中で、新たに現れた三機とキャプテン・ザップ率いるAI機体が戦い始めた。
パイロットスーツのポケットに手を入れる。
軽いタールの煙草とライターを取り出し、くわえて点火。
「(死ぬなよ…内藤)」
カメラの故障か、暗くなりだしたモニターを眺めつつ、紫煙を吐き出した。
正方形の、異様に広い部屋だった。
あのレビヤタンが二桁は格納出来るのでは無いかと思われる様な広さ。
奥の壁には、まるで太陽の様に紅く光る巨大な照明。
白い内壁の両側には、動力源と思われる灰色の半円柱が数個埋まっている。
この部屋に彩りを添えるのは、室内に集まった数十機のAC達。
内藤から見て手前、分厚い壁の様に集まっているAC達、良く見れば彼等は、AC数機分ほどの距離を置いて二つのグループに分かれていた。
更に内藤から見て奥にも、AC達がもう一つの群れを構成している。
「はーい、ゲストのご到着でーす」
ネームレスの言葉に、内藤へ向けて全機が振り向いた。
「遅かったじゃないか…」
内藤の手前左、草臥れた声でジャックが言う。
「やられたのかと冷や冷やさせられたな」
ジャックの隣に立つジノーヴィー。
「隊長、撃ちますか」
内藤から見て右側のグループ、エヴァンジェの背後に控えるトロット。
「待て、奴には私から話がある」
トロットを制し、エヴァンジェのオラクルが、内藤の機体へリニアライフルの銃口を向ける。
「…来たら殺す、そう言った筈だが」
内藤の機体をロックサイトに入れたまま、エヴァンジェが問う。
「エヴァンジェは乗せられてるだけだお!」
「私が…乗せられている?馬鹿な事を、乗せられたのでは無い、乗ったのだ」
「何の為にだお」
「無論、お前達に私の力を知らしめ、私がドミナント…唯一無二の選ばれし存在で在る事を証明する為だ」
「そんな事の為に…エヴァンジェは戦うのかお」
「黙れ、たかが凡百のレイヴンが私に説教など百年早い」
「説教なんかじゃないお!」
≪エヴァンジェ、あの白烏の言う事など聞く必要は無い≫
「わかっている、ラナ」
「エヴァンジェはただ利用されて「そこまでだ」
威圧的な声が、内藤の言葉を遮った。
発信源は、部屋の奥に多数のACを従えて立つ赤いAC。
「エヴァンジェ、君達の選択は正しい。君達を歓迎しよう。ようこそ、我がフライトナーズへ」
声の主は―――レオス・クライン。
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