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「第4話 -闘志、燃やす-」(2006/03/17 (金) 21:10:29) の最新版変更点
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――話し終えたブラウさんは、紫煙をフッと吐き出すと、静かに語りだした。
「…とまあ、そういうわけだ。あの時、ネオニアの機体がハマッちまったような俺様の“運”みたいなのも、やっぱりそういう負けねぇっていう“心”が呼び寄せるんものな
んじゃないかな、と思うわけさ。」
(しかし・・・ブラウさんの試合で、あんなアクシデントが…“強い心に折れない心”、か。)
僕は叔父さんとブラウさんと別れ、自分のセッティング・ガレージへ戻ってきた。
時刻は既に夜中に1時。しかし、僕は不思議と眠気を感じなかった。
憧れのXリーグに参戦しているブラウさんとの出会い、それが僕を興奮させていた。
僕は帰ってすぐに、u-ACのセッティングを始めた。
整備員は僕が不在なのをいいことに、みんな早めに帰宅してしまっていたようだが、特にそれは問題ではなかった。
むしろ、今は自分ひとりでじっくりと静かに取り組みたい。
アーキテクトとしての、自分の中でも知らぬ間に忘れかけていた何かを、僕は感じ取っていた。
――もう、Bリーグでは負けない。『絶対に勝つ』。
「ACの機動性とステージの相性を考えたら…やはり…あーでもそうすると機体のバランスが…えーい、やっぱりこーして…」
僕は端末のモニターとにらめっこし、前回の戦いのデータを始め、それまでの相手チームのACの動きを観察して、データ上のテストで試行錯誤をする。
思い出すのは、やはり前回の屈辱的な瞬殺劇。今度はそうはいかない。
あの屈辱をかみ締め、僕は前へと進む。
「おはようございま…あれ、イルスさん?」
「あ、おはよう。ってもうそんな時間?」
僕は時計を見る。時計はすでに朝の8時を挿していた。どうやらACのチューンに熱が入りすぎて、一晩すぎてしまったらしい。
「えぇ、おはようの時間ですよ。…もしかして、昨日からずっとひとりでここで?」
「そうです、もう後が無いですからね。しっかりやっておきたいことはやりとげていきたいですから。」
「はははっ、後がない・・・か。それは我々もです。話には聞いてましたが、このままではこのチーム自体が無くなるとかで。」
「すいません、僕が不甲斐無いアーキテクトなばかりに・・・」
どっちかっていうとスポンサーが不甲斐無いのだが、アーキテクトは自分で、実際にチームの代表としてフォーミュラFという戦場に出ているのは自分だ。
そんな僕に付いて来てもらってるのに…彼らにはすまないことをしている、と思っていたが、
「イルスさん、気にしないでください。スポンサーの援助不足で、厳しい戦いを強いられているのは、ここにいる皆が知っていることですよ。
イルスさん本人は、アーキテクトとして立派にやっていることは、俺が保障しますよ!よし、では俺も後悔しないように、自分のやるべきことをやってきますかね!」
…彼らのためにも、僕は負けられないな。
彼らとて、このチームにはスポンサーからの辞令で配属されている。
チームが解散しても一応戻るところがあるとは言え、やはり彼らには迷惑がかかってしまうだろう。それでも僕に最後まで付いて来てくれるという。
アーキテクトと、チームとしてこれほど心強いものはない。
僕は闘志を燃やす。
そして、Bリーグ試合当日……
AREA:FRONTIER
STEGE:YERI BLOCK
ECM NOISE LEVEL 10
市街地戦を想定した訓練施設。
ステージ全域に低層の建造物が並ぶ。
余談だが、このステージはかなり昔から存在しており、かの「サイレントライン」の騒乱が起こっていた頃、AI搭載ACの試験場としても使われていた事もある。
僕にとって運命の日、それがついにやってきた。
フロンティアにある、「イエリブロック」。市街地から少し離れた野外にそれはある。
フロンティアエリアは、フォーミュラFを取り仕切っている“FFA(Formula Front Administration)”が管理している土地であり、フロンティアエリアを限らず、フォーミュラFの協議が行われる場所は、全てFFAが対戦に適した地形を調査し、ステージとして選別している。
その市外戦を想定した外部にある、野外ガレージのテントの中。
僕はそこでACの最終チェックを行っていた。
データ上の情報でAIの調整を行うより、実際のステージの状況、地形を自分の目で確かめたほうが確実と思い、僕は試合5時間前にはすでに開場に到着している。
u-ACのAIチューニングは、最終チェックを入れて試合開始1時間前にはFFAへ提出しなければならないというルールがある。
FFAはそのデータを元に、u-ACの研究を行う。その研究データは他のとあるリーグで使われるのだが、それはまた別の話。
遠く離れたところに、相手チームらしき人達がチラホラと見え始めた。
たぶん対戦相手チーム、ヌガルムポートだろう。辺りが不意に騒がしくなってきた。
ふと僕は時計を見た。時刻は午前11時。
試合開始まであと2時間、といった所だ。
僕はFFAへAIのデータを提出させるべく、情報端末でFFA宛てにデータの送信をする。
データの送信が終わったちょうどその頃、整備士がACのアセンブリ、各種セッティングが終了したと報告してくれた。
「このACで…限られた資源でだけど、これならきっと…いや絶対勝てる。」
組みあがったACが簡易ガレージに運ばれてきた。
フレームパーツはほとんど変わっていない。初期型パーツに逆間接、それに高性能ブースター。
担保の件でキサラギから借金をし、入手したパーツ。
それは両肩に装着された垂直落下ミサイルと、同じく垂直発射、落下するEXTミサイル。
さらに左手にはスナイパーライフル。遠距離戦を想定しているからだ。
右手にはあえて何も装備させていない。そうすることによって、AIに余計な負担を与えなくて済むからだ。
AIチューンは、以下の3つによって成り立っている。
基本的な動きを制御させる『ベースキャラクター』。
ヘッドパーツのキャパシティを割り振り、AIフォーマンスの強化を行う『パフォーマンス』。
そしてチップによって行動を変化させる『オペレーションズ』。
ヘッドキャパシティは、ヘッドパーツによって限界指数が違う。
すなわち、表面的な重量、AP、冷却効率などのステータスが高くても、ヘッドキャパシティが少ない、などのパーツも存在する。そして、ヘッドキャパシティの数だけしかパフォーマンスは強化できない。
僕のACの場合、今回は簡単に説明すると、まず「武器の変更をさせる手間を無くし」た。
つまり、左手のみに銃器を装備し、右には武器を持たせないで、ミサイルのみを使えるようにした。
これによって「武器の選択」をする必要が無くなる。武器の選択をする必要はないので、パフォーマンスの中の「武器制御」にはあまり振り分ける必要が無い。
なにしろ武器を正しく選択する必要がないからだ。その分を「攻撃戦術」や「防御戦術」に振り分けた。
そしてベースで、僕のACは敵のACから遠距離へと移動するように基本行動を設定してある。
今回のステージは天井が無い。だから遠距離から市街地を盾にし、垂直落下ミサイルで一気に攻勢を仕掛ける。
僕は、今日の主役であるこのACを見て、心臓が高鳴るのを感じた。
やるべきことは全てやったつもりだ。あとは結果のみ。
僕はもう負けない。このBリーグのトップに上がるまで絶対に負けられない。そして、自分の目指す場所へ手を伸ばし、その場所へと上がるのだ。
・・・エキスパートリーグへ。
PM13:00、両ACがそれぞれのスタート位置へと配置される。試合開始時間。
『これより、B12リーグの8位争奪戦を開始します!』
テレビの画面の中で、簡単なチーム名と登録されたACがエンブレムと共に解説がされる。
「ブラウ君、早く早く!」
「ほう、これがイルス君のセッティングしたu-ACか…ん?」
「どうしたんだ、ブラウ君や?」
考え込む顔をしてあごひげをジョリジョリ。これは彼の何かを考えるときの癖らしい。
「いや、妙に武装面を始め、全体的に機体のアセンブリが一回り薄いような気がしてな。」
ああ…と初老マスターが答える。
「あれ、言わなかったかな?イルスのチームは、スポンサーからの援助がほとんど受けられないんじゃよ。」
「フォーミュラFの戦いの場に居ながら、支援が受けられない…?」
「そうじゃ、だから彼はいつもギリギリのパーツ制限で、残りの戦力差をAIで埋めてるわけなのだよ。」
「なるほど…ほぅ……それは興味深いな。」
洒落たバーには負釣り合いなほどの大きなテレビモニター。初老マスターはグラスを拭く手を止め、画面を楽しみに見つめている。
一方、ブラウは険しく真剣な顔をして、テレビの中継を見つめた。
程なく解説が終わり、カメラワークが二機のACへと移動する。
そして・・・
『READY…GO!!』
二人が見守る中、ついにイルスの崖っぷち人生を賭けた戦いが始まった。
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