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「第一話 鳥たちの神話(前編)」(2006/03/04 (土) 06:34:08) の最新版変更点
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雫の元に、クレストから新しい依頼が舞い込んできた。
専属として、命令的な役割の『任務』とは違う、正式な企業としての『依頼』
つまり、専属ではないレイヴンでも受けることが出来るものである。が、なぜそれが専属の元に舞い込んでくるのか。
依頼の詳細を記したメールをよく読むことで、それは解決する。そこには、こう書いてあった。
『僚機を雇うことを許可する』
専属レイヴンをもう一人派遣するでもなく、僚機を雇う。受ける側が自由に僚機を選ぶことが出来るのだ。
なぜこのような形で依頼を寄越したのか。疑問点でもあるが、あまり探るのもよろしくはないだろう。
(クレストに信頼されているが故か……それとも……また別な何かか……)
裏があると予想するのも、当然のことか。しかしこれは依頼だ。受諾しないという選択もある。
たが、受諾するという選択もあるのだ。見れば、依頼内容はミラージュへの攻撃だった。
ある地点を通過する、ミラージュの輸送部隊への攻撃。それと同時にそこを防衛する防衛部隊の撃破。
確かに、一機で行うには多少面倒な内容でもある。輸送している物資の内容によっては、防衛部隊の規模もある程度予測可能だ。
僚機を雇うことを許すと言うならば、恐らくはそれなりの戦力が迎え撃つと予測すべきだろう。
一体何を輸送していると言うのか……まぁ、たかがクレストのレイヴンには関係ないが。
(しかし……僚機か……)
レイヴンになって結構経つが、自ら僚機を雇うといった経験が無い。
任務はほとんど単独で行うものばかりだった。そういったものばかり回してもらっているとも言えるが。
(そもそも……どんな僚機を雇うべきなのか……)
と、ここであることを思い出す。依頼に適した僚機を雇うことは大事だが、依頼に適するよう姿を変える者でもいいのではないか。
(……気が進まないけど、あいつが適任かもね……)
そう思い立ち、メールを作成する。適当にそれっぽい内容を書き連ね、送信した。
あの男なら、どんな内容でも食いつくだろう。なんとなく、そう思っていた。
「で、具体的に俺は何をすればいいんだ?」
さすがハンニバルと言うべきか……本当にあっさりと食いついてきたわけで。
おおよその旨をメールに記し、送信したところ、その日の内に二つ返事でOKが返ってきた。
こうもあっさりOKが返ってくるとは雫も思っておらず、正直引いた。
「私が防衛部隊の撃破……あなたが輸送機の撃墜ってとこかしら」
ここはクレスト本社ビル。ハンニバルも新規開発パーツのテストでよく訪れる。
今回は、依頼に関する資料を受け取りに来た。データではなく、紙の資料である。
ペラペラとページを捲る音が、本社の廊下に響く。
資料には、今回のターゲットとなる輸送機の外見と、防衛部隊の構成が記されている。
「っつーことは長距離射撃が出来なきゃきついか」
いつものように煙草を吹かしながら、ハンニバルはそう言った。
雫のACは近接仕様型である。そして、それに見合った働きである防衛部隊の撃破が担当だ。
先程も雫が言ったように、ハンニバルの担当は輸送機の撃墜である。上空を通過する輸送機を撃墜するためには、長距離の狙撃が必要である。
ハンニバルは、どんな構成であろうとある程度扱える自信を持っている。
が、それもある程度のレベルの話だ。純粋に長距離狙撃が得意なレイヴンと比較すれば、無論劣るのである。
「そうよ。安心しなさい……私が邪魔な連中を消すんだから」
そう言って、ハンニバルへと資料を手渡す。煙草を丁度携帯用灰皿へ放り込んだハンニバルは、大人しくそれを受け取る。
「へいへい……ありがたいことで」
神妙な面持ちで、資料を捲っていく。会話は途切れ、沈黙したままに廊下を歩いていく二人。
沈黙を破ったのはハンニバルのほうだった。
「……随分と怪しい依頼だなぁこりゃ……」
その声に反応し、雫がハンニバルを振り返る。訝しげな表情をしたハンニバルが目に入った。
「怪しいって……あんたもやっぱそう思う?」
雫も薄々は感じているのである。
「まず、輸送機のルートだな」
そう言って、ページを捲る。そこには、今回の依頼で撃墜対象となっている、輸送機に関する事が記述されていた。
輸送機のルートなどの情報は、社内の特務機関が入手したのだろう。詳しく情報が記述されている。
「とりあえず、どう見ても最短ルートを通ろうとしている。危険な箇所も多いのに、だ」
言われた通り、輸送ルートは最短を取っているようだ。その途中には、襲撃を受けやすい場所もある。
それが、今回の作戦領域である。そこを通る瞬間に、輸送機を狙うといった作戦だ。
「そこまでして早急に輸送しなければならないもの……ってことよね」
積荷が何なのかはわからない。が、恐らくクレストとしてミラージュには渡って欲しくないものなのだろう。
「まぁ、中身までは俺たちが知る必要も無いだろう……知ったら消されたりしてな」
嫌な冗談はやめて欲しい。
「何にせよ……与えられた仕事をこなすだけよ。相手が何だろうと、関係ないじゃない」
雫は、歩く速度を上げる。見ると前方にはエレンが待っていた。
小さく手を振って、迎える。二人の様子を見て、ハンニバルは心の中で溜め息を吐いた。
(こうしてれば……ただの女の子なんだがな……)
彼女はレイヴンだ。
復讐のための翼を持った、大きな鳥。
鳥たちは羽ばたく。
誰の為でもない。
己の為に。
戦いに身を投じようとも。
ただ傍観者になろうとも。
鳥たちは羽ばたく。
己の為に。
どんな鳥でもそれは同じ。
それは、鳥たちが抱く宿命。
それが、鳥たちの綴る物語。
淡く輝く月が地上を照らす。辺りは薄闇に覆われている。
クレスト本社に併設された空港。そこに、ACが搭載された輸送機が二機。
「わかってると思うけど、失敗したら許さないからね」
パイロットスーツを着た少女が、隣の大男に告げる。本来なら、その上下関係は逆であるはずなのだが。
彼女の性格と、男の性格が織り成す絶妙な関係こそ、二人には丁度良かった。
「わかってるって。俺様の腕を甘く見るなよ」
大きく口を開けて笑う。雫はつい、耳を塞いでしまう。そんなやり取りはいつものことだった。
二機の輸送機の前に立ち止まる二人。一瞬月を見て、少女が口を開く。
「……Good Luck」
一発、お互いの拳をぶつける。
それぞれの輸送機へと、乗り込んでいった。
夜は、これからだ。
そして、幻想的な月が佇む空へと二羽の鳥が飛び立った。
『間もなく、作戦領域へ到着します』
輸送機内で仮眠を済ませ、作戦へ臨む。作戦目標は、敵輸送機の撃破である。
先程より闇は深まり、視認はより困難になっている。
だが、作戦領域においては周辺の明かりでなんとか視認可能な状態にはなっていた。
雫の機体には暗視スコープが搭載されていない。そのため、暗所での行動には支障が生じるのだ。
(助かったと言うべきか……いや、そうでもないか)
完全なる暗闇のほうが奇襲をかけやすいのは当然である。
だが、ある程度明るくなっている以上、奇襲は困難になってくる。
『輸送機もこれ以上近づくことは出来ません。レイヴン、どうすればいい』
輸送機のパイロットからそう通信が入る。
ここで降ろしてもらい、自力で接近するしか方法は無いようだ。
『いいわ。ここで降ろして』
通信機へ向けてそう告げる。程なく、『了解した』と返ってきた。
『投下する』と一声発し、ACが投下される。鈍い音を立てて、大地へと脚を下ろした。
『こちらインペリアル、通信はOK?』
計器を見つつ彼方此方を操作し、そう問う。ハンニバルからはすぐにOKの返事が返ってきた。
作戦領域は、切り立った崖の向こう側にある都市の屋根。遠目から見ても、既に防衛網が張り巡らされているのがわかる。
それでいて、崖からはかなりの距離があるように見えた。
『エネルギー持つかしら……』
高出力のブースターを装備しているため、若干不安が頭をよぎる。
『ま、大丈夫だろ。攻撃されない限りな』
そう言って、先へと進む。崖のギリギリに立ち、前方を見据えた。
ハンニバルには、既にロック可能な距離である。だが、まだ攻撃するわけには行かない。
『急がないと、輸送機が来るわ』
声に焦燥の色が見える。
『わぁーってるよ。俺が先に行って囮になるから、お前はすぐ後ろで攻撃を防げ』
ハンニバルはそう提案する。ハンニバルのACのほうが重装タイプであるため、それが得策だろう。
『わかったわ』
雫もそれに納得し、相槌を打つ。それと同時に、突撃のスタンバイへと移る。
『それじゃ行くぜ……!!』
激しいチャージ音と共に、オーバードブーストを始動させる。
それと同時に雫が前に出た。
緑の閃光を噴出しつつ、猛スピードで崖を飛び越えるハンニバルのAC。
防衛部隊もそれに気を取られているようで、雫のACへの反応が遅れる。
『おらおらおらぁぁぁあああああ!!』
雄叫びを上げ、腕に装備されたバズーカとマシンガンを乱射する。
ある程度掃除したところで、雫のACが都市の屋上へ到着した。
『さすがね』
短く告げて、走り出す。視界に飛び込んでくる敵をそのブレードで切り刻み始めた。
『輸送機が見えてきたわ。ハンニバル、迎撃を』
大人びた声が響く。どうやらハンニバルのオペレーターのようだった。
その声を聞き、手筈通りの位置へと移動する。肩に担がれたキャノンを構え、闇に染まった空を見上げた。
その背中を守るように、雫が周辺のMTを切り刻んでいく。
『頼むわよ』
『OKOK!!』
ほんの少しのそのやり取り。互いを信じ、互いの為に動く二人。
その二人の前に、輸送機が見えてきた。
飛来する輸送機を順当に破壊していくハンニバル。
レーザーキャノンの閃光は、慈悲を知らず輸送機を貫いていく。
だが、このまま終わるはずも無かった。
『多勢に無勢……って奴か?』
輸送機から、2機のACが放たれたのである。
加えて、防衛部隊はまだ全滅していない。むしろ、増えている印象すら受ける。
『金かかってるわね……まぁ、人の事言えないけど』
敵ACのエンブレムには覚えがある。確か、ランク12位と10位だったはずだ。
『大層なメンツ雇ってるじゃない』
MTを含め、十数にも及ぶ防衛部隊が二人を包囲する。
これだけの数を揃えるのにいくらかかっているのだろう。まぁ関係の無いことではあるが。
『おいおい……俺のランクを忘れたのかお前は』
と、ハンニバルが小さく抗議の声を漏らす。
そういえば……この男はランク5位だったか。
『あぁ……そうだったわね。じゃあ、何も心配いらないわね?』
目の前のMTへと斬りかかる。開戦の合図だ。
それに呼応するように、ハンニバルも動き出す。
『少しは心配してくれると俺喜んじゃうなぁ~っと』
こんな時でも、こいつはいつも通りだった。軽く、ひたすらに軽く発言する。
それがこの男の性格であり、この男の信頼できる点でもある。
『無駄話はお終いだ』
『これ以上好きにはさせん』
2機のACがお決まりのセリフを吐く。
あまりにお決まり過ぎて、若干拍子抜けたぐらいだ。
『輸送機はどうする?』
と、ここで当然の疑問が浮かぶ。このままでは、残った輸送機が領域を離脱してしまう。
そうなれば、作戦は失敗になるだろう。ここでACを撃破したとしても、だ。
『最初から、失敗した場合は次のポイントで撃破するよう手配してあります。
気にせずにACを撃破してください。ちなみに、多少の減算も覚悟しておいて下さい。』
エレンがそう告げる。クレストも用意周到、と言うべきか。
(最初から私たちは失敗しても良かったわけか……)
そう考えると何となく腹が立つが、この場は仕方が無い。
相手が金をかけて輸送している分、こちらも金をかけて撃墜するしかないのである。
『それじゃ……遠慮せずにやりましょうか』
冷酷な笑みを浮かべ、まずはMTから切り刻んでいった。
まさにギリギリと言うべきか……。各所から火花を散らせ、二機のACが佇んでいる。
『ちょっと……数が多すぎたかもね……』
声に疲労の色を含ませて、少女が呟いた。
『まったくだ……こんな戦闘するもんじゃねぇ……』
男も、かなりの疲労を抱えているようだった。
満身創痍と言えるほど、二人は消耗していた。
『疲れたわ……しばらく中で眠らせて……』
目を瞑り、少しの間だけ夢の世界へと旅立つ雫。
その様子を見て、ハンニバルは冷静に対処する。
『ACの回収を頼む。インペリアルは疲れを取るらしいから、そっと頼むぞ』
パイロットは、そこまで繊細な動きが可能なのかと、ちょっとだけ思ってしまった。
帰還途中の輸送機には、もう一度資料に目を通しているハンニバルがいた。
まだ何かを疑っているのだろうか。神妙な面持ちでページを捲っていく。
(……あまりこれには手を出すべきではなかったかもな……)
不可解な点があまりにも多すぎる。確かに遂行には支障はない程度の情報だが、背景があまりにも黒く見える。
(……後で調べさせるか)
幸いにも、情報網にあまり困ることはない。高い金はたいて雇った情報屋がいるからだ。
オペレーターへと資料を返却し、一つ深い溜め息を吐く。
椅子にドッカリと腰を下ろし、タバコへと火を点ける。
その瞬間、激しい音を立てて警報が鳴り響いた。
「なっ、……おい!!何なんだ!!」
慌てて立ち上がり、オペレーターに詰め寄る。
「急に立ち上がると転ぶわよ」
あくまで冷静にそう告げて、状況の分析を開始する。
ちなみにハンニバルは予想通りに転んでくれた。
「いってて……で、何なんだ」
ぶつけた頭をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。
口元から落ちたタバコは、緊急事態につき携帯用灰皿へ消えていった。
『急速に接近する敵反応が……暗くて映像が出ません!!』
ハンニバルの疑問にはエレンが答え、その情報を受け取ってさらに分析を続けるのはハンニバルのオペレーター。
反応のある方向へと外部カメラを向けても、映るのは暗闇のみであるため、何が現れたのかわからない。
その瞬間、カメラに紫色の閃光が映った。
『キャッ!!』
短い悲鳴が、通信機越しに届く。どうやら、何か起きたようだ。
「どうしました!?今の光は一体!?」
『わかりません……ですが……何らかの攻撃が!!』
横から映像を覗き見ていたハンニバルが、冷静にその疑問に答える。
「今のは、恐らくACのパルスキャノンだ。レイヴンが襲撃しに来たと思われる」
そこまで言って、通信席から離れていくハンニバル。
その後姿に、オペレーターが声をかける。
「今戦うのはまずいわ!!これ以上の戦闘は……!!」
「俺がやらなきゃ誰がやるんだよ」
オペレーターの叫びを制止し、搭乗口へと向かうハンニバル。決意を秘めた背中を、ただ見送るしかなかった。
一方、エレンの搭乗している輸送機はパニック状態へと陥っていた。
「今の攻撃で、ハンガーが破損しました!!このままでは……ACが!!」
ACの中には、未だに雫が眠っている。いや、丁度目覚めた様子だった。
『エレン、何の騒ぎ?』
と、その瞬間機体が揺れた。第二射である。
ハンガーが完璧に崩壊し、雫のACは空中へ投げ出された。
「雫!!」
と、名を叫ぶも意味を成さない。
青いACは、無情にも大地へ降り立った。
『ちょっと待って!!何があったの!?』
慌てふためきつつも、戦闘システムを起動させる。緊急事態への対処は初めてのことではない。
『ACの襲撃だ。俺も出る……しばらく耐えろ』
短くそう告げて、次いでパイロットへと投下の指示を促す。
『制御が……装置の制御が利きません!!ACが投下できない!!』
『なっ……何を言ってやがる!!さっさと投下しろ!!』
確かに怒りを込めて叫ぶ。意味の無いことだとわかっていても、彼には叫ぶことしか出来なかった。
『あいつはこれ以上戦える状況じゃない!!俺が行かないとダメなんだ!!さっさと投下しろ!!』
ハンニバルの叫びが、虚しく響く。そして、叫ぶ彼の元に暗視スコープ越しの映像が届いた。
勢いが一気に衰え、その映像にただ絶句した。
戦闘システムの起動が完了したが、周辺は暗黒に包まれているために雫のACでは敵を視認出来ていなかった。
(暗視スコープでも搭載しておけばよかった……)
と、今更悔やんだところで遅いのである。仕方が無いので、ブースターの炎や武器の光で見分けるしかなかった。
今にも戦闘が始まろうとしているその最中、ハンニバルから通信が入る。
『いいかインペリアル……逃げるんだ。そいつを相手にしてはいけない』
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか……冷静に状況を告げるハンニバル。
『どういうこと?相手にしてはいけないって……』
依然あたりは暗闇のまま。だが、その闇に少しずつ慣れてきた。
目の前に、敵ACの姿が浮かび上がるように見える。
(あの噂が……あの御伽噺がもし本当だと言うのなら……)
一つの心当たりがあった。彼が見た物、そして彼が言う御伽噺。
それが全て本物だと言うのならば。
(あいつと戦っては……戦ってはいけない!!)
ゆっくりと浮かんで来る姿。赤い、4脚タイプのACが見えてくる。
『えっ……!!』
見覚えのあるフォルム。それもそのはず……相手のACは、雫の誰よりも近い人が使っていたものだった。
『兄……さん……?』
かつて、雫の兄『エンペラー』が操っていた4脚AC『ブレイズウォール』が、その姿を現した。
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