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「蟻地獄、前編~ハッスルワン?何それうまいの?~」(2006/03/03 (金) 16:45:11) の最新版変更点
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セントラルオブアース オフィス街のとあるカフェ。
地球政府直々の依頼を受ける為、
専属マネージャー、ヒールと共にクライアントを待つ。
「政府直々の依頼だからって、
何でわざわざ直接会わなきゃいけないんだ?」
ヒールにだけ聞こえるように小声で呟く。
「…おまえ、レイヴンなんだろ?一応。
なら、与えられた役割を果たせばいい。余計な事は考えるな」
顔を合わさずにヒールが話す。
「余程大事な依頼なんだろう。
それも、ネット上でやり取りする訳にもいかないような」
やや緊張した顔で話すヒール。
盗聴の類が無い様に周辺を厳しく警戒している。
依頼主から割り当てられた個室で待つ事15分。黒服の男性が一人現れた。
「お待たせしました」
店員のような営業スマイルを浮かべつつ、
懐からディスクを取り出すと、設置されている端末へと挿入する。
「今回の依頼は、極秘の物となります」
作戦領域 バロウズヒル ギエンクレーター周辺
作戦目標 「母体」の排除
開始時刻 翌日 03:00
端末を操作しつつ、黒服の使者は淡々と話を進める。
「…と、いう事です。何か質問はありますか?」
「ああ、色々あるが、話してくれるのか?」
「話せる範囲内でしたら」
一呼吸おいて、プロジェクターが口を開く。
「まずは、敵戦力を具体的に説明してくれ。情報が少な過ぎる」
黒服の使者が一瞬表情を緩ませる。
「…流石ですね。その一言を私は聞きたかった。
もし、その質問が無ければ偽の依頼にすりかえておく所でしたよ」
面接試験のつもりだったのだろうか?
敵戦力の情報など、誰でも欲しがる筈だが。
黒服の使者は今までとは少し違う表情で語り始める。
「プロジェクターさん。私、いや我々が貴方にこの依頼を持って来たのは、理由が有りましてね」
「――理由…?」
予想していなかった返答に思わず鸚鵡返しになる。
「貴方は、レイヴンズアーク所属、アリーナランキングC-8。
単にアリーナランクだけで見れば、中の下、と言った所ですが…
ミッションに関しては、貴方はそれ程低い評価ではないのですよ。
実績は目立ちませんが、経験に関しては素晴らしい。
正にベテラン…の域、と言った所でしょうか」
ベテラン…確かに経験だけは豊富だ。傭兵暦も短くは無い。
自分がレイヴンとして注目されている…悪くない気分だ。
「何より、低ランクのおかげで報酬が安く済みますしね」
…ぬか喜びに終わった。恐らく本音はこちらだろう。
アークでのレイヴンの評価は依頼とアリーナ、それぞれの評価を平均して算出される。
評価が高いレイヴン程危険と報酬、共に高い依頼が回される事になる。
「MTやガードメカ、そして今回の攻撃目標である生体兵器に関する知識…
貴方にこの依頼がまわって来た一番の理由は『知識』です」
『知識』…確かに元ジャンク屋な為、
『商売道具』でもあるMTやガードメカに関しては詳しい。
扱った事は無いが、生体兵器についても、一通りの知識はある。
「生体兵器…それが攻撃目標です。過去の遺産の類ですが」
端末に攻撃目標のデータが表示される。
大きな蟻のような、黒く、巨大な『母体』
「こいつは…『フリー』タイプの…」
『デストロイヤ・フリー』
数十年前、地球に姿を現した生体兵器「スカウタ・フリー」の生産ユニット。
創り出したのは、ジオ・マトリクスの一社だという噂はあるものの、真相は不明。
「何でこいつが今頃…?」
「お答えできません」
即答。
「では、他に戦力として予測される物は?」
生体兵器については黙秘だろうと判断し、質問を変える。
「MTやガードメカの類は確実に現れません」
何故、そう言い切れるのだろう。
「AC、つまり、レイヴンならあるいは…」
――レイヴン。政府からの依頼とは言え、やはり裏には企業の影。
そもそも、地球政府自体が企業で構成されているような物だ。別に珍しい事では無い。
黙って席を立ち、部屋を出る。
部屋に残されたヒールと依頼主が、正式な契約手続きを行う。
時刻…01:30 オールド・アヴァロン合流地点
作戦領域のバロウズヒルから北の、オールド・アヴァロン。
依頼主に用意されたACガレージが、合流地点となっている。
今回の作戦は、レイヴン四名による共同戦線らしい。
自分以外の三名のレイヴンが到着するのを少々期待しつつ、待機。
――バラバラバラ、とヘリのローターが空気を切り裂く音と共に、三機のACが降り立つ。
三機のACがガレージへと入り、そして自分の視界にも入ってくる。
見覚えの有るACが、三機。それぞれが特化装備の二脚、四脚、フロート…
間違いない、『レイヴン三銃士』だ。
ACから降りた三名のレイヴンの一人が、先に待機していたプロウセイルを発見する。
「おい、こいつは…あの時のおっさんか?」
「その通り。またよろしくな。三銃士の諸君」
先に挨拶を済ませ、三人が集まった所で会話を続ける。
「三人、他にレイヴンが雇われてるとは聞いていたが、
まさかお前達とはな。腐れ縁の予感がしやがる」
「おっさんと腐れ縁かよ。出来る事なら美女との縁が欲しいんだが…」
「へへ、こないだは獲物ぜ~んぶ奪っちまったからな。今回はアテにしてるぜ?」
「汎用性に優れた機体が一機はないとな。お手並み拝見、ってとこですか」
三人それぞれから、軽口と挨拶が飛んで来る。
顔見知りである事と、彼等の軽いノリが、作戦前の緊張感を奪って行く。
リラックスし過ぎて、油断してしまいそうな位に。
時刻…02:45 作戦開始まで、あと15分。
敵生体兵器は対空性能が強化されており、
輸送ヘリの類は射程内に入った瞬間に攻撃される。
その為、移動はACで行う。
四機のACが、作戦領域のバロウズヒルへと進む。
「…今回の作戦、相手は生体兵器らしい。
お前さん達、生体反応センサーは装備しているか?」
今回の攻撃目標は生体兵器である。
ACの機能次第ではレーダーや、火気管制が正確に機能しない。
その為、バイオセンサーが必須装備となる。
「モチのロンってね。おっさ…プロジェクター」
「おっさん、でいいって言ったろ?」
堅苦しいのは好きではない。
それに、彼等の様な若者からは、そう呼ばれる方が気が楽だ。
「おっさんは知らねぇだろうけどさ、
今回の依頼は、元々俺達だけの仕事だったんだよ」
先頭を進む四脚AC…ガンナー2からも通信が入る。
「けど、依頼主が戦力的に不安だ、って言うもんでね。
一人追加する事になったのさ。それがおっさんだとは知らなかったけどな」
彼等の実力はこの目で一度見ている。相当な物だった。
その彼等だけでは戦力的に不安だと言うのだ。余程の戦力が待っている…
そう判断し、シートに座り直し、安全用のベルトをしっかりと締め直す。
ヤマが大きいと判断した時の、一種の儀式だ。
時刻…02:00 「D-F作戦」前線基地
青と黄色で塗装されたACの足元で、数人が騒いでいる。
…実際は一人のパイロットらしい男が、白衣を着た数人相手に喚いているだけではあるが。
「俺が主役じゃないなんて聞いてないぞ!
作戦は二機のACだけでアレを護衛しろだって?
冗談じゃない!俺一人で十分だって言った筈だ!」
バタバタと全身で怒りを表す男に、困惑した表情でなだめる白衣。
数人がかりで説得され、叱られた子供が部屋に閉じこもる様にACへと乗り込むパイロット。
「…感情制御がまるで出来てないじゃないか。
作戦の為にプラスを用意すると言っていたが、使い物になるのか?」
その様子をモニターで見ていた男が呟く。
隣で端末を操作している男が、操作を止めずに口を挟む。
「二人って話だ。一人は3、もう一人は5、らしい。あいつは3の方なんだろ」
「おい!聞こえたぞ!誰が3だって?
俺はあの『F・R』の後継者なんだぞ!俺の方が上に決まってるだろ!」
ACの外部スピーカーから、施設全域に響き渡る程大音量の反論が飛んでくる。
施設の一室から、ACのコクピットに普通なら聞こえる筈は無い。
しかし、彼は普通の人間では…無い。聴覚は常人の物とはかけ離れている。
「…確かにプラスではあるらしいな」
時刻…02:20 「D-F作戦」前線基地
「来ました。二人目です」
輸送ヘリから黒いACが投下される。
誘導に従い、簡易ガレージへとACを向かわせる
ACから降りた男が、作戦司令室へと向かう。
「ご苦労。今回の作戦は、実質AC二機のみで行うと言っていい」
『D-F作戦』の司令官がレイヴンを迎える。
護衛対象の都合と、予算の関係からMTの類は出撃させない事になっている
「…足手まといは必要無い」
黒いACのレイヴンが冷たく言い放つ。
「何故、俺一人ではないのだ?あの『スペア』が何故ここに居る?」
――スペア…そう呼ばれたのは、あの青と黄色のACイーヒィーゲ。
「プラスは、同じ事を揃って言うのだな…
ビーアウトも同じ事を言っていたよ。自分だけで十分だと。
彼は、『スペア』にすぎん。好きに使えばいい」
司令官はそう言うと、これ以上話すことは無い、と言わんばかりに背を向けた。
「…了解した」
20分後、黒いAC「アントリオン」が基地より発進。先行する。
そのさらに10分後、青と黄色のAC「イーヒィーゲ」も出撃した。
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