型月×リリカルなのはクロスまとめwiki
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型月×リリカルなのはクロスまとめwiki
ja
2019-03-11T06:05:06+09:00
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慰安旅行―二日目A
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二日目序章 深夜 ―――
丑の刻。
古来より禍々しき者が跋扈するに最も相応しいとされる時間帯。
草むらを飛び交う虫すら寝静まる帳。 其に這いずる凶兆が今、旅館に迫りつつあった。
「サイ姉~! そろそろ到着だよ~!」
「分かっている。 さて、少しは殺りがいのある連中だといいな」
否、彼らは凶鳥―――
現世より崇められし英霊も法の守護者も纏めて犯し尽くさんと嘲笑う、世界を殺す猛毒だ。
「……………リアクト」
飛翔戦艇エスクアッドを根城とする凶悪犯罪組織フッケバイン。
少女の紡がれた言霊に従い、旗艦がその能力を解放、完全戦闘形態となる。
もはや止められない。 休暇を楽しみ寝静まる皆の頭上に彼らの凶刃が迫る。
――――――だがその時……!
私の管轄に毒を蒔こうだなんて――――
――――――天より降り注ぐ落雷の如き声が侵略者の鼓膜を震わせた!
やっぱり宇宙は広いという事かしら?
こんな愚かで笑える連中がスペースデブリの如くプカプカ漂っているんですから
「うるっせえな……このバカでかい声は何だ?」
「…………何? あれ?」
彼らは初め認識出来なかったのだ……そのあまりにも巨大なナニカを。
天を突き雲を抜けるソレを前に、てっきり山脈か何かとでも思い至ったのだろう。
だがこの地に住まう者なら真っ先に気づく違和感……そう、奈須の大地にあんな巨大な霊峰など存在しない。
「うわー! でっかい女の人だー!」
1人が無邪気な声を上げる。 その、あまりにも出鱈目な影を前に。
「あれが女? 乳が全く張ってねえじゃねえどはぁーーーっ!??」
仁王立ちの紅の巨人……否、怒り心頭のお嬢様!
繰り出された100290(省略)文ケンカキックが旗艦の横スレスレを通過する!
「上等じゃねえかクソカスが……ステラ! 全砲門オープンファイアッ!
あの断崖絶壁みたいな胸板にブチ込んでやれぇ!!!」
G-Autumn Rodge―――山間に設けられた絶対防衛ラインに今夜、5度目の戦火が上がる。
――――――
「すまないわね本当に……これで秋葉に借り一つか」
結界を越えて侵入する招かれざる客に退場を願う、難攻不落の関所。
佇む伝説の巨人を見上げて月村忍が口惜しそうな声をあげる。
管制室でノエルに肩を貸して貰い、ようやく立っている彼女。
昨日のアレがよほど堪えたのだろう。 乙女回路をズタズタに抉っていったアレが。
「それにしてもデカっ! 混血って多芸よねぇ……巨大綾○かっつうの」
「軽く人間超えてますね。 さっきなんて隕石、蹴り返してましたし」
「ふっふっふっ………仰る通り、今の秋葉さまは無敵です!
通りすがりのマッドドクターさんの協力で昨日完成した、まききゅーGeX<ゴールドエクスペリエンス>の力!
名づけてGGG秋葉さま! アリスト○レス並と言っても決して過言ではありませんっ!!!」
スリージー
ふんぞり返って答える遠野家メイドの痛い人。
確かに通常のGよりも数段、途轍もないモノになってる。 間違いなく。
「まあ、効き目が切れた時の筋肉痛は通常の100倍ですけどねー」
そして断言する。 世界の毒とはこういう割烹着の事を言うのだ。
「姉さん………それはちゃんと秋葉様に?」
「やだなぁ翡翠ちゃん! 勿論―――」
満面の笑みを浮かべる琥珀。 皆の視線を一身に受けて―――
「――――――あ、言い忘れた」
悪魔は当たり前のように、こう答えた。
――――――
幕間 湯煙の漢達 ―――
「みき・・・・・・兄さん、宜しければ混浴、ご一緒しませんか」
早朝、黒桐幹也の浴衣の裾を引っ張る鮮花。
「えーと……鮮花? キミはななな、何を言って」
「恥ずかしい事を二度も言わせないでください」
哀れなほどに困惑し、しどろもどろになる幹也くん。
彼は今、一人ではなかった。 後ろには遠野志貴、高町恭也、ユーノスクライア、衛宮士郎がいる。
彼はつい先ほど、男同士で親睦を深めようの会の会長に就任したばかりだ。
一度は恭也に譲ろうとしたのだが 「柄じゃない」 の一言で自分が就く事になった名誉会長の席。
しかしてその座を早くも揺るがす脅威が今ここに。
「・・・・・・まさか、女性に恥をかかせるつもりじゃないですよね」
「え、えぁ……」
上目使いの鮮花は一見、何でもないような澄ました表情だが―――
よく見ると頬が少し赤い。 ……直死並の破壊力だ。
そして何よりも、身長差から自然と見下ろすことになる、鮮花のそのバストサイズ驚愕の160㎝、6Zカップにも及ぶ腕で寄せられて強調される超乳に息を呑む幹也。
潰れたカエルの様な声をあげて後方の仲間に縋るような目を向ける彼。
――― 親指をビっと立てる盟友達 ―――
結局、少女に首根っこを掴まれて声にならない悲鳴を上げながら連行されていく青年。
友の万歳三唱に送り出され……黒桐幹也は桃源郷へと旅立った。
―――――男同士で親睦を深めようの会、5分で破綻。
――――――
「混浴………あったんだな」
既に1人が殉職した男同士で(略)のメンバーが浴場の暖簾をくぐる。
いわゆる朝風呂というやつだ。 3時から5時までの清掃時以外は年中無休なのがこの温泉の魅力である。
「しかし、こんな立派な男湯と女湯があるのに混浴にわざわざ行く客がいるのか?」
「だから――――――わざわざ一緒に入るためですよ……恭也さん」
いまいち合点がいかない恭也を尻目に、賢者のような面持ちで頷く3人である。
「衛宮君はこの後、すぐに演習の準備だったか?」
「ええ、そうです。 しかし昨日は遠坂がピリピリしちまって、ロクに眠れませんでしたよ。
枕元にいつ発火するか分からないダイナマイトを置いてる気分ってのは、ああいうのを言うんだなって……」
「はは………それは大変だったね。 なのはもあと二日、苦労しそうだなぁ」
なのはの事も宜しく、と頭を下げるユーノに対して苦笑いを禁じえない士郎である。
あの大怪獣2体を相手に自分が出来る事などたかが知れている。
まあ、やれる事をやるしかないだろう。 命懸けで……
「俺も昨日、参加したんだけどメニューの半分もこなせなかったよ。
情けない………このひ弱な体が恨めしいな」
「でもフェイトから一本取ったって聞いたよ?」
「ついでにやり過ぎて出禁になったともな」
「その話はやめてくれ……頼むから」
談笑しながら脱衣場を抜ける一行。 今日も一日忙しくなりそうだ。
せめてこの一時は誰にも邪魔されず、湯舟に身を遊ばせたいと願う彼らであった―――
「………待て」
だが、先頭を切って浴室に踏み込んだ高町恭也が皆に制止の声をかける。
声色に尋常ならざる緊張が孕んでいる事を察知した志貴、士郎、ユーノ。
彼らとて平常の裏側に身を置いて久しい者たちだ。 状況を素早く察知出来ない者はいない。
「―――――怪物……?」
小声で呟いたのは衛宮士郎。
湯煙の向こう側―――明らかに異形の影が見え隠れしているのを認めたからだ。
湯気に怪しく光る幾多の目。 間違いなく人の外へと至ったシルエット。
常世の聖、神、魔の気配が一同に集結しているこの地だ。 怪が誘われて紛れ込んでいても不思議ではない。
御神の剣士が静かなる闘気を纏い、戦闘態勢へと移行する。
その鋭利な殺気……やはり本職の持つ空気は違うなと改めて実感する後方の3人。
だが感心してばかりもいられない。 最悪、ここで殺陣を演じなければならないのだから。
直死を操る殺し屋、防御結界のエキスパート、投影魔術の使い手も恭也に習い一様に身構える。
普段は女性陣のパワーに隠れがちなヒーロー達だが、こうして揃うと壮観の一言だ。 全裸だが……
すり足で間合いを詰めていく一行。 目に映る影はどんどん増え続けている!
蜘蛛のようなナニカ―――
像のようなナニカ―――
虎のようなナニカ―――
ヒョウのような―――
鹿のような―――
(…………………鹿?)
志貴の心に何かが引っかかる。
無言で皆を制し、注意深く距離を詰めていく魔眼の少年。
そして―――彼は見た………
浴室いっぱいに群がる黒一色の動物奇想天外を!
山奥の秘境よろしく、ケダモノに占領された硫黄香の漂う秘湯を!
黒々とした何かが油のようにプカプカ浮いている毒の沼地さながらの浴槽を!
その中央………デコイのように浮かんでいる生首がこちらをギョロリと向いて―――
「――――――――どうした? 入らんのか?」
「入れるかぁぁぁぁあああーーー!!!」
志貴のナイフが首カオスの額にブッ刺さった。
本日のヴァルハラ送り―――
ネロカオス
浴場の汚染、営業妨害
――――――
CHAPTER 2-1 両手に無敵花 ―――
(こ、困ったなぁ……)
ユーノスクライアは今、人生初の苦境に立たされていた。
原因は見ての通り、彼の両脇に侍る人影にある。
「「―――――、」」
自分と並んで粛々と歩くのは双方ともに女の子。
両手に花というのは男なら一度は夢に見るシチュエーションである。 純朴な彼には聊か重い幸運だ。
しかしながら…………相手が相手となれば素直に喜べるわけも無い。
「あの……二人とも僕と一緒にいて大丈夫なの?」
「良いんだ。 妹に欲情する変態なんか知らない」
「バスで言った事忘れちゃった? 浮気するって言ったでしょ♪」
左右同時に答えが返ってくる。 そう、言うまでもない。
今、彼は古今東西最強無敵のヒロイン2人に挟まれている。
両義式にアルクェイドブリュンスタッド……その気になればマジで世界を席巻できるパーティーだ。
これを幸運と受け止め羽目を外せるようならば、彼は司書長でなくカイゼル髭を蓄えたどっかの支配者にでもなるべきだろう。
「えっと、でも2人とも立派な相方がいるでしょう? 幹也さんに志貴と一緒に楽しんで来た方がいいんじゃ?」
「・・・・・・あんなただ乳がでかいだけの女にほいほい引っ掛かるような奴なんか、知った事か」
……どうやら彼はエデンの門をくぐる事は叶ったらしい。
余談だが、その後温泉から戻ってきた二人だが鮮花は妙に肌がつやつやし、逆に幹也はゲッソリと、だが幸せそうな表情だったらしい。
閑話休題。
「昨日の事で本気で拗ねちゃったのよねぇ……だから、ちょっと冷却期間」
こちらはこちらで昨日の「あの事故」の影響か。
朝に見た志貴の痩せ細った表情からも、昨日は女性陣にどれだけ搾られたか想像に難くない。
「まあどの道、休んで貰うつもりだったけどね……一瞬でもモノの死を視ちゃったわけだから。
今日は志貴に無理はさせられないわ」
そう、遠野志貴の演習会欠席を始め、2日目は何かと人員が足りなくなってきている。
月村忍は昨日から調子を崩し、反省室送りにされる者も続出。
挙句の果てに今朝方、遠野秋葉がぶっ倒れてリタイアしたらしい。
よってユーノも率先して昼間の見回りに従事しているわけだ。
「アルクェイドは秋葉さんの容態について何か聞いてない?」
「んー、琥珀に毒殺されかかって生死の境を彷徨ってるだけじゃない?」
「ど、毒殺っ!?」
「ああ、安心して。 いつもの事だから」
「リタイヤ続出か………旅行に来て体を壊すなんて、こんなバカバカしい事は無いぞ」
やはり近年稀に見る、大掛かりにして大所帯による催しである。
方々で色々と大変な負荷がかかっているのだろう。
絶えぬ気苦労に息を付きながら中天を見上げると、日は既に正午を指す位置にあった。
「そろそろお昼だけど、良かったら一緒に食べようか。 2人はリクエストとかある?」
「ハーゲンダッツ」
「ハンバーガー」
綺麗に割れた。 しかも旅行に来てまで頼むものじゃない。
何て垢抜けない女の子たちなのだろう。
「式………他人のお財布でご飯を食べる時は爪の垢ほどでも遠慮するものよ?
少しはコストパフォーマンス考えたら? ラクトアイスにしなさいよ」
「お前、血が嫌いなんじゃなかったっけか――――あれも立派な牛の血肉だぞ?
俺はてっきりアスパラでもバリバリ丸かじりしてるもんだとばかり」
「ま、まあまあ! 郊外に出ればファーストフード店もコンビニもあるから!」
自分を挟んでむ~っと睨み合う両者。 こんな火花に当てられたらこちらが焦げてしまう。
もはや天秤の支柱として機能する事を余儀なくされるユーノ司書長。
なのはにだけはこんな姿を見せたくない……何となく。
温泉街の入り組んだ道すがら、屋台や出店の準備が進んでいる。
今日は祭だ。 夕方から夜半にかけてここも賑やかになるだろう。
夜の締めには大掛かりなイベントがある。 これまた血の気の多い者が集まりそうな極めつけのやつだ。
「射撃大会はもう始まってるみたいだね……ちょっと覗いていく?」
威勢の良い司会の声が3人の耳を叩く。 そしてそれに入り混じる射出音―――
火薬やらビーム砲やらソニックブームやら、鼓膜に優しくない轟音が響き渡っている会場はすぐそこだった。
昼食前の余興とばかりに、そんな開けた広場に一行は進む。
――――――
「決まったーー!! ティアナランスター惜しくも敗れたりーーッ!!
ハードボイルドの象徴、二丁拳銃での奮戦空しく、錬鉄の英霊の前に散る一輪の華!
残念ツインテール! しかし胸を張れ! お前は決して凡人なんかじゃないっ!」
「命中精度では負けていなかった……威力が足りなかったのか?」
「うーん……ラストのバーサーカーをブチ抜くには相応の威力がいるからねぇ」
フィールドに次々と現れる、アインツベルンのホムンクルス技術で生成された的。
リーズは速い。 セラは反撃してくる。 そしてバーサーカーはとにかく硬かった。
「それにしてもアーチャー強い! 下馬評通り、数々のインチキ武装を自在に操れる仕様は伊達じゃない!
精魂尽き果てたかのように膝から崩れ落ちるエリート執務官の卵~!」
「タイガー。 質問があるのだが」
「ししょーと呼べい。 らぶりい眼帯」
「了解だ、ししょー。 1回戦から見ていたのだが、何故アーチャーは勝利すると相手に背中を向けるんだ?」
「そりゃアンタ、口で説明しちゃうと色々台無しになるデリケートな事象が働いてるのだよ。
お主も来世は男に生まれてくれば自ずと理解出来ようというもの!」
「心得た。 今度造られる時は男性体である事を願おう」
「お、おーーーっと、これはっ!?? 狐が切れたっ!!!
主人に対する明らかな挑発行為に狐が切れましたッ! 神器・八咫の鏡が翻る!
ガラ空きの背中に炎天直撃ぃぃ!! アーチャー火ダルマで転げまわるーーっ!」
――――――
「…………盛り上がってるわねー」
「ヴァイス陸曹が凄いな……この面子で準決勝まで勝ち上がってる」
「いや――――やられるぞ」
――――――
「ぐふっ……!? か、体がっ!?」
「あーっと、これは………毒だぁぁ!! こちらもアーチャー宝具展開!
ヴァイス選手、服毒っ!!! 実に汚い! 前評判通りの何でもありっぷり!
法律? 何それ? 現職の公務員にシャーウッド流ヘルズアーツを叩き込んだーーー!」
「やめんかアーチャー! この戦い、騎士の誇りを汚すような真似は許さん!!」
「誇りだぁ? 何を甘い事を言ってやがる! これは負けられない戦いじゃねえのかよ!?」
「ワシにとってはな―――だが、お前にとっては違う。 もはやお前が手を汚す必要は無いのだ」
「マスター……」
「おーーっと! 美しい主従愛ッ!
次々に飛び出す的を無視して感涙に咽び抱き合う緑茶とジジイ!
取り合えずラッセルクロウには似ていないーーーーっ!」
「い、いいから早く解毒剤をよこせ馬鹿野郎ーーーーッッ!!」
――――――
「………………」
「やっぱり遠距離戦は専門外だ。 まるで分からん」
凄まじい盛り上がりを見せる射撃大会。
異様なテンションでヒートアップしている司会。 その端には機人の少女の姿も見える。
ここも怪我人続出のようだが、シャマルが順次対応しているので大事は無いだろう。
「昼食を摂った後、僕は第2演習場に行かなきゃならないんだ。 良かったら一緒に行く?
アルクェイドは昨日、フェイトの教導を受けてくれたんだよね?」
「まあ、ね…………うーん」
考え込む姫君である。 行ったところで今日は遠野志貴はいない。
昨日は彼の付き合いで顔を出しただけで、特に教導とやらに興味は無い。
正直、気が進まない。 何せ足を運んだところでメインは―――――
「どうせシエルだし」
――――――
第2演習場―――
昨日とうって変わって平地に設けられた多数のビル群。
そのギミックが空戦魔導士に対応するための「足場」である事は言うまでもない。
「呆れた技術力ですね……幻でもなく、こんな舞台を即席で作り上げてしまうんですから」
ここ2班では今まさに、シエルとフェイトが激しい戦いを繰り広げていた。
代行者の象徴的武装である黒鍵と、フェイトの攻防の要、射撃魔法フォトンランサー。
雷光の矢と火葬式典が両者の間で、秒間20発以上の猛威を以って鬩ぎ合う!
互いの投擲が花火のように宙空で炸裂し、大気を焦がし、周囲にキナ臭い匂いを充満させる!
昨日と違い、術式全開で大空を滑空する金色の魔導士。
その黒衣と並走して駆ける、これまた黒い法衣の代行者。
双方ともに一般局員の視界に止まらぬ凄まじい身のこなし。 影すら追わせないとはこの事だ。
ことにビルとビル間を跳躍してフェイトに追い縋って来るシエルはまるで野生動物さながらだ。
その人間離れした所業に驚嘆を禁じ得ないフェイト。 あれを素の身体能力でやっているのだから驚きである。
もし昨日のように術式を使用しないで彼女と相対したら、捻り潰されるのは間違いなく自分だろう。
「相手の足場が途切れると同時に仕掛ける……行くよ、バルディッシュ!」
<Yes sir>
プラズマと火の粉が舞い踊る演習場。
爆発に視界を遮られる中、足場を失い宙に躍り出るシエルの身体。
その着地を狙って――――フェイトが凄まじい速度で踏み込んだ!
「くっ!? セブンっっ!!」
「はああああっ!!」
―――――――瞬きも許さぬ執務官の一閃だった。
いや、それを許さぬからこその雷光の異名か。
未だ硝煙冷めやらぬ広場にて、コンマの隙に切り込んだ疾風迅雷。
フェイトのザンバーフォームの刀身がシエルの首筋に突きつけられていたのだ。
「……………」
共に激しく息を乱し、全身の汗を拭おうともせずに相手を睨み据える闘士2人。
右手の黒鍵3本で一応の防御姿勢を取ったシエルだが、フェイトが本気で巨剣を振り抜いていたなら結果は明白。
か細い投剣の防御など容易く弾き飛ばし、シエルの首を刈っていただろう。
模擬戦はこれにて決着。 構えを解いて肩を竦める代行者の仕草が、自身の敗北を認める合図であった。
「完敗です。 考えてみれば貴方相手にこんなモノ振り回しても意味がありません」
言って切り札を床に打ち捨てる。 「はぎゃっ!?」という悲鳴が聞こえた気がしたが……
「ううん……紙一重だった。 あの投擲、見たところ普通の投剣のようだけど
どうやってあれだけの火力を付加しているの?」
「それは秘密です♪ 秘伝のレシピを簡単に教えるわけにはいきませんから」
「そっか……それもそうだね」
互いに健闘を称え合い、一礼をして下がる両者。 四方に控える局員から惜しみない拍手が飛ぶ。
「お疲れ様。 惜しかったね」
「いえ、見ての通りの有様ですよ」
リーズバイフェの労いに本心からの言葉を返すシエル。
あれほどの巨大な剣を、棒切れを振り回すように容易く振るってくるとは……
中距離で何とか五分。 接近戦に持ち込まれればかなり苦しい。
シエルとて人間離れした戦闘力の持ち主だが、その武装の大半は人ならざるものを狩るためのものだ。
対人、もしくは人造兵器と真っ向から戦うために編み出された技術とは用途も性能もまるで違う。
向こうはまだ使用していない上位モードを残しているというし、そもそも高々度からの遠距離砲撃を封印させてのこの結果だ。
完敗と言うしか無いだろう。
「見たところポテンシャル比は4:6……決して覆せない数字じゃない。
けど、やはりフィールド支配率に差がありすぎるね」
「私の投擲に貴女の豪腕が合わさってどうにか、というレベルです。
攻・防・速が高レベルで纏まっており、地形・重力・距離を問わない固有戦力……
実際、大したものですよ。 魔導士というのは」
「彼らの数値の高さはそのまま保有技術の差だ。 デカくて硬くて速くて強い。
子供でも分かる理屈だね。 ナルバレック郷への報告はどうするんだい?」
どうもこうも、そのまま報告するしか無いだろう。 本気でやってボロ負けしましたと。
模擬戦とはいえ埋葬機関上位に位置する「弓」が敗北したと言う事実は軽くない。
上がてんやわんやの大騒ぎになりそうで、今から頭が痛いシエルとリーズであった。
「………しかし昨日に比べて随分と寂しいものだね」
閑散とした応援席を見て、盾の騎士が気の毒そうに呟く。
昨日は遠野志貴応援団で埋め尽くされていた見物席にはほとんど人影が無い。
ダウンした秋葉の代行で琥珀。 それから志貴目当てで見物に来たであろうツインテール―――
大方、こちらの目を気にして出て来れないであろう死徒見習いの少女の影がチラホラと。
そんな木枯らしが吹き荒ぶ客間を見て、シエルの目尻にホロリと涙がこぼれる。
「いいんです……どうせ私だし」
「えー? シエル、もう負けちゃったの?」
「!!」
新たな来訪者の声に一瞬、喜びの表情を見せる代行者であったが、すぐに慌てて取り繕う。
微妙なタイミングで一番会いたくない顔に出会ってしまったからだ。
「コホン……い、今頃ノコノコと重役出勤ですか?」
「長引くと思ったから道中見物してから来たのよ。
貴女はもうちょっとやれる子だと思ってたのに……私の見込み違いだったかなー?」
「うるっさい……このアーパー吸血鬼」
「しっかりしてよー。 相手が異端じゃないとテンション上がらないって一種の職業病よ?
私やネロ辺りに負けてたら貴女達、そんな悠長にヘラヘラしてないでしょう?」
「ええ確かに! 貴女の顔面を陥没させろと言われた方が余程テンション上がりますよ!」
言うなれば殺し屋や傭兵がプロの格闘家相手にリング上で戦うような違和感か。
同じ「戦い」というカテゴリーの中においても畑違いという言葉は確実に存在するのだ。
「ま、今日は貴女の顔を立ててそういう事にしといてあげる。
でも実際―――あのクラスの死徒が出た場合、どうするわけ?」
「知れた事です。 教会は早急に取り組むでしょうよ。
雷速で飛来する物体を叩き落とせる超重礼装の開発に」
「NASAにでも頼んだ方が早いねソレ」
もっともSランク魔導士レベルの戦力を持った死徒が偶発的に生まれる可能性などほぼ無い。
あり得るケースとしては魔導士自身が噛まれたケースだが―――
「物騒な会話だな……………まあ無理も無いか。
普通なら決して談話の成立しない吸血鬼と異端狩りの会合だものな」
「――――――、」
脇でこちらの話を聞いていた人影の声に皆が振り向く。
その両眼に知らず緊張の面持ちを浮かべてしまうのも、かの異端がもはや特異な域にあるが故か。
「両義式―――またとんでもないモノを同伴して来たものですね」
「ご挨拶だな。 昨日はもう一つのコレが大活躍だったそうじゃないか?」
自分の眼を指して言う少女。 言うまでもなく志貴の事だろう。
魔眼の少年と少女が現実で出会う事は恐らく無い。
極め付けに強力な磁石のマイナス同士―――ここに遠野志貴が欠席していたのは恐らく必然だったのだろう。
「どう? せっかくだから式も一戦やってみない?」
「俺にシスターほどの立ち回りは出来ないよ。 察しの通り人殺し以外、能が無いんだ」
「いいじゃない、試しにやってみれば? 負けるのが恐いって柄でもないでしょう」
「お前、単に俺がやられるところが見たいだけだろ?」
「アルクェイド……来てくれたんだ」
―――声は意外なところからかけられた。
「見ての通り、まだ演習終了には時間があるんだけれど……良かったら少し手合わせしてくれないかな?」
「っ! フェイト!?」
何とフェイトだ。 魔導士が2人のやり取りに割り込むように声をかけたのだ。
脇にいたユーノの表情が凍りつく。
名指しでの模擬戦の申し込み。 しかも相手は―――――
「―――――――――え? 私?」
「良かったな。 ご指名だぜ」
――――――
幕間 湯煙の女たち ―――
時間を少し巻き戻し。
「おい、此処で無駄にでかい脂肪をぶら下げた変態女を見なかったか」
汗と疲労に塗れた体は予想以上に重いものだ。
そんな溜まりに溜まった疲れを癒そうと一行は温泉の前まで来ていた。
教導官組である高町なのは、フェイト、ヴィータ。
そんな彼女達の前に、何処か鬼気迫る貌で立つ両儀式の発した言葉がこれである。
「………………変態女じゃ分からないよ」
「だから、無意味に乳のでかい女だよ」
会話に主語と述語と接続語が生じていない。
困ったように首を傾げるなのはを見て舌打つ式。
「・・・・・・もういい。 たく、鮮花の奴……ちょっと目を離した隙にコクトーを・・・・・・」
望んだ答えが得られないと見るや少女は不機嫌そうに肩を怒らせて行ってしまった。
背中に静かな怒気を漂わせながら。
「……今日は朝から騒がしいよな」
ヴィータの漏らした呟きが本日の慌しさを端的に物語っていた。
ついさっきまで月村メイド隊が総出で男湯の清掃に入っていたところだ。
念入りに、丹念に―――そう、あれは掃除というより滅菌に近い。
陣頭指揮を取る忍に話しかけようとしたなのは達だったが――
「よそう……忍さん、あれは機嫌最悪の時の顔だ」
兄と懇意にしている月村家の当主は、なのはにとっても近しい人だ。
故に分かる。 口元に浮かべた微笑はそのままに、薄く開いた両の眼がまるで笑っていない……
くわばらくわばらである。 今、彼女に話しかけるのは自殺行為に等しい。
「張り紙がしてあるぞ……ペット厳禁! 理性は無くとも性別はある!!……何だコリャ?」
気になったが、押し寄せる疲れを温泉で洗い流す誘惑には勝てない。
先を争うように暖簾をくぐる3人であった。
「お疲れ様、みんな」
「お疲れ様ー! 調子はどう、って聞くまでも無いか」
既に先客がいた。 アリサバニングスと月村すずかだ。
上気した頬は彼女達が湯に漬かってだいぶ立っている事を想像させる。
本日2人は1~4班の演習場の全てに顔を出してくれたのだ。
差し入れのドリンク、レモンのハチミツ漬けなど持参しての訪問。 皆、大いに喜んだものである。
「正直、旅行先での演習会なんて前代未聞の試みだから閑古鳥が鳴く事も覚悟してたんだ。
思いの他、好評で安心したよ」
「私は旅行まで来て痛い思いするなんて真っ平ごめんだけどねー。 物好きな人って多いわ」
「参加しないまでも噂を聞きつけて見学してくれる人も多かったよ。
やっぱりダミー生徒の存在が大きいね……ウチは遠坂さんが良い仕事をしてくれて助かってる」
サクラというわけではないが、これだけ技術や技法の違う者が一同に会するのだ。
教導を引き立てる演出として生徒を演じてくれる人間は必須だった。
その点、あの遠坂凛は凄まじく適任だった。
「初日は裏をかかれてキツイの貰ったけど、今日は完璧に絡め取ってやったよ。
ふふ……してやったり!」
嬉しそうな高町なのはのVサイン。 あの凛をやり込めたのが相当、嬉しいらしい。
「やっぱアンタ本質的にサドだわ……初対面の時に食らったビンタの傷が今頃、疼いてたまらない」
「でもよ、今日くらいは向こうに華を持たせても良かったんじゃねえのか?」
「そういう事すると滅茶苦茶怒るんだよ……
勘も尋常じゃなく鋭いし、手心なんて加えたら一発でばれちゃう」
「遠坂さん、強烈だもんね……なのはちゃんと何時ケンカになるかとヒヤヒヤしながら見てたもの。
もし同じ学校に通ってたらアリサちゃんと良いライバルになってたと思うな」
一同、うんうんと頷く。
「戦闘以外でも理論でズバズバと痛い所を突いて来るから手応えあるよ。
久しぶりに教え甲斐のある生徒にぶつかった感じかな」
「でも大丈夫? 残り一日、あんな調子でやられて最後まで持つ?」
「たはは……頑張ります(ブクブクブク)」
なのはが沈む。
辟易とした表情を見せてはいたが、しかしながら実は大助かりな面もあった。
ああやって反抗したり問題を起こして教導にメリハリを付けてくれる方が教える方はやり易いし
第三者への見栄えも良くなる。 全く彼女のエンターテイナー性は生まれながらの素質であろう。
それでいて油断すると本気の一発を捻じ込んでくるのが彼女、遠坂凛という魔術師だ。
初日はそれでやられた。 2日目は何とかいなした。 ……正直、明日はどうなるか分からない。
「アタシの方は引き続き、軋間のオッサンとガチだ」
次いで、広い浴場でバタ足をしながらのヴィータの報告である。
「あのオッサンははっきり言って空戦の才能がねえ。
ていうか陸戦空戦、関係ねーんだよ……1度、アイツの全開出力を見せて貰ったんだけどさ」
紅蓮の鬼が体内に抑えて、なお有り余る炎熱を解放し―――
演習場は一瞬で焦土と化した。 局の用意した計器が残らず吹き飛んだ。
「極端に限定した仕様での話だが………ありゃ下手すりゃSSランク超えるかもしれねー」
「…………!!」
絶句する魔導士たち。 静まり返る浴槽がその内容の凄まじさを物語る。
大げさに言っているわけではない事はヴィータの表情を見れば分かる故、尚更に。
「で、だ……そんな要塞に羽をつけてだぞ? 戦闘機とドッグファイトさせて欲しいと頼まれたアタシの気持ちが分かるか?
付き合いとはいえ時間と手間の浪費だよ……無駄な努力って言葉をひしひしと感じてる最中だぜ(ブクブクブク)」
ヴィータが沈む。
生真面目な少女は何とか生徒の希望を叶えてやろうと四苦八苦―――
されど適性の無い者に理論を叩き込んだところで物にはならない。 それはやる前から分かっている事だ。
「うんうん、ヴィータちゃんは頑張ってる」
「撫でるな~!!」
「そう言えばシグナムさんは?」
「ああ、あいつならさっきすれ違った。
時間がずれたんで先に風呂浴びて、休憩室でまったりしてんじゃねえかな?」
昨日のシグナムは散々な有様だったらしい。
エリオが気の毒に思ったのか何やら画策していたようで、今日は凄い教導になったとか。
「エリオは最近、色々な人と懇意にしてるからね。 そのつてを頼ったのかも知れない。
本当に頼もしくなったよ。 もっとも………」
ツカツカと壁の方に歩いていくフェイト。
何故か不自然にポッカリ空いた壁の穴に―――勢いよく一本指の抜き手をブチ込む!
ぐはああああああっ!?
ラ、ランサーさんっ!?
言わんこっちゃねえ! 俺は先に上がるぞ!
――――――という声が男湯から……………
「………いらない事も教わってるみたいだけど」
呆れ交じりの溜息をつくフェイト。 指先から発する電撃の熱で壁を溶かして穴を塞ぐ。
事情を察し、悲鳴をあげて湯船に沈むすずか。
「コラーーー!!」と怒り心頭で男湯に桶を投げ込むアリサ。
隣の浴室から一目散に退散していく気配。 後で十二分に追求してやらねばなるまい……
「ところでフェイトちゃんはどうだったの?」
「昨日、見事に一本取られたんだってな。 たるんでんぞー!」
「うう……面目ない(ブクブクブク)」
フェイトが沈む。
そう、第2演習場。 真祖アルクェイドブリュンスタッドに試合を申し込んだフェイト。
その行方の果てには意外な顛末が待っていたのだった―――
――――――
CHAPTER 2-2 狐の心 ―――
「何て事すんのよキャスター! 追い出されちゃったじゃないのっ!」
「だってぇ……あいつムカつきません? だいたい敵に後ろを見せる方が悪いです!
日々是戦いを旨とするサーヴァントとしてどーかと思います!」
「アンタはー……」
「まあまあ、ティア! 演習見学に丁度良い時間まで暇を潰せたんだし、結果オーライという事で!」
今日も奔放な狐と能天気な相棒を両隣に抱え、振り回される羽目になっているティアナランスター。
昨日、キャスターが見に行きたいとせがった教導見学。 色々考えた結果、やはり一斑には顔を出し辛い。
高町なのはに釘を刺された事もあるからだ。 なら残るは―――
「客席から覗くだけだからね? これから見に行くのは私の現・直属の上司。
フェイトテスタロッサハラオウン執務官の第二教導演習場よ」
「昨日の白い人とは違うんですか?」
「なのはさんは一斑でこの人は二班担当。 フェイトさんもなのはさんと同じ空戦Sランクのエース。
私の尊敬する先輩で凄い人よ。 決して見劣りする事は無いわ」
「―――――――――また、ですか」
「え?」
「いいえ何でも♪ とと、丁度良いところに来たみたいですよ!」
――――――
流れるようなツインテールを腰まで垂らした黒衣の魔導士。
そして質素な白のタートルネックに身を包んだ月の姫君。
フェイトテスタロッサハラオウンとアルクェイドブリュンスタッド。
相立つ砂金のような髪をなびかせて、2人が試合場に向かい合う。
「あの~、私なんかと練習試合をしたってしょうがないと思うんだけど?」
「そんな事は無いよ。 私も今後のために勉強したいんだ。
胸を借りるつもりで臨みたいんだけど………どうしても都合が悪いのでなければ、是非!」
「ふうん……」
周囲をチラっと見渡す吸血鬼。 そこかしこに設置されているのは記録用の機材だろう。
脇に待機している局の人間は、こちらと視線が合うと恐れる様に眼をそらしてしまう。
「そうは言っても相手の安全を慮っての戦いなんて経験無いのよね……
正直、どの程度までやって良いのか分からない」
「致命傷や、後遺症の残る怪我は勘弁して欲しいけれど
優秀な医療スタッフが控えてるから戦闘不能になるくらいの負傷は全然オッケー。
そこは遠慮なく来て欲しいんだ。 機があれば容赦なく叩きのめしてくれていい」
「あはは! ホント顔に似合わず物騒な人ねー! ………やるからには私も負けてやる気無いし。
カミナリさまとケンカするなんて初めてだから、手加減出来るかどうか分からないわよ?」
「喧嘩じゃないよ……模擬戦」
「ああん、もう面倒臭い~! これはシエルもやりにくかっただろうなぁ……」
地団太を踏む仕草がとてもコミカルだ。 享楽的で天真爛漫という言葉が何よりも似合う月の姫。
だが、そんな彼女の内に秘めた特大の刃を見逃すフェイトではない。
ついに引っ張り出した。
第97管理外世界……否、地球最強の個体。
真祖アルクェイドブリュンスタッド。
「じゃあ、やりましょうか――――仇取ってあげる、シエル」
「余計なお世話です。 ちゃんとレギュレーションを守って戦って下さいね?
熱くなるようなら、すぐ黒鍵ブチ込んで止めますから」
教会の腕利き2人が脇に付いての模擬戦だ。
彼女たちの表情……明らかに真祖が戦う事を恐れている。
そんな相手が今、自分の前に立っているのだからフェイトにも恐れが無いわけがない。
だがこれは貴重なデータになる。
神秘の解明は管理局の急務であり、その結晶たる彼女が目の前にいるのだ。
多分、自分は勝てないだろう。 そもそも彼女相手に勝つという図式すら成り立たない。
やられる事は覚悟の上だが、それでも形にしなければ意味が無い。
――― 自分に出来るか? 彼女と「闘い」を成立させる事が ――――
ふっ、ふっ、……と、短い深呼吸と共にステップを踏み始めるフェイト。
高鳴る鼓動を少しでも制御し、最強を相手に自らの最善をぶつけるために。
――――――
「……ウソでしょ?」
ティアナは呆然とその光景を見ていた。
表情は蒼白。 焦燥に駆られ、震える手で予定の記された冊子をめくる。
今日のフェイトの相手はシエルという教会所属の人物のはずだ。
それが何故、こんな出鱈目な事態になっている…………?
噂だけはイヤいうほど耳にした惑星最強の個体――――アルティミットワン。
星の触覚。 星そのものと言っても過言ではない、吸血鬼の頂点に立つ真祖の姫。
彼女のデータは局にもほとんど無い。 交戦記録も同様に。
だがSSSランク――――オーバーSSSという人外領域。
人には決して踏み込む事の叶わない規格外<EX>指定とされる数少ない事例。
そのカテゴリーにあの吸血鬼の名前が上がるところをティアナは何度か耳にしている。
現在、管理局に彼女を打破する術は無い。 あれと対峙できる個体などせいぜい全開状態のリィンフォースくらいのものだ。
そんなモノに単騎で相対するなど………正気の沙汰ではない。
互いに準備運動をしているのか、小刻みにステップを踏んでフットワークを確かめているフェイト。
気合は十分といった表情だが、その顔が緊張に強張っているのが分かる。
「やあっ!! たあっ!!」
近くで真祖もまた肩慣らしのように腕を振るったり肩を回したりしている。
それを誰よりも間近で見ているからであろう。
「な、何なのよ……あの風切り音は?」
彼女が腕を軽く振るうだけで、空気が裂けて真空のかまいたちが発生してたりする。
地面が歪にめくれ上がり、風圧が嵐のようにこちらにまで届き、ティアナとスバルの髪を舞い上げる。
まるで兵器が自身の性能を確認するかのよう―――
一つ一つの部品を組み直し、自身を最適化しているかのよう―――
些細なパフォーマンスですら、その埒外が滲み出てくるのだから恐ろしい。
「まずいよティア……助けにいかなきゃ!」
「バカ! 互いに了承済みの模擬戦で何をどう助けろってのよ!」
窘めてはみたが、スバルが漏らした気持ちも分かる。
明らかにレギュレーションを超えた対戦だ。 いくら局のデータ収集といっても限度がある。
それとも……もしかしたらフェイトはワザと自分が負けるようなカードを組んだのだろうか?
両世界の関係は今の所は良好だが、それでも危うい均衡を保っている事に変わりは無い。
ことに秘匿を旨とする彼らとここまでの関係を築くのに、どれほどの艱難辛苦があったか分からない。
故にあまり向こうの顔を潰すような結果を残すのは局としても本位ではないのだ。
第一斑の高町なのはは勝ち越す流れで来ている。 ならば自分は負け越しで終わろうと考えていても不思議ではない。
フェイトはそういう気遣いの利く人間だ。
そんな思慮に駆られるティアナランスターだったが―――――
「……ティア? タマモさんは?」
考え事に耽っている合間……共に見学に来ていたサーヴァントが―――
いつの間にか消えていた事にティアナは今更ながらに気づかされたのだった。
――――――
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2019-03-11T06:05:06+09:00
1552251906
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慰安旅行―二日目祭A
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/461.html
リゾートリリブラとはここら一帯のリゾート施設全般の総称である。
そしてこの三日間、旅館を初めとした温泉街のほぼ全てを、月村・遠野両家が大っぴらに貸し切っていた。
まさにマネー・イズ・パワー。
しかし当然、一般人が皆無というわけではない。
物流などで莫大な物資と資材が動く以上、全てを内々の者で賄う事など出来ないし
大口の顧客ともなれば地元の行商の稼ぎ時でもある。 自慢の産物や土産品を持参して商売に勤しむ者も多い。
今日も今日とて行商人達は客の集まる箇所に群がるように商売に精を出す。
夕刻―――
かなり大掛かりな祭が開催されると聞いた彼らが会場である神社に赴いた。
「きゃあああああああああっ!? むぎゅっ!!」
――― ズドン、ドシャ、ズシャアァァァァ!!!!!! ―――
そんな彼らを待ち受けていた光景がコレである。
「な、何じゃあっ!? 何が起こっただっ!?」
「そ、空から……水着のおなごが降ってきただよっ!」
どこぞより砲弾のように飛来した人間が目の前に墜落したのだ!
鈍い音を立てて地面に亀裂を作り、もんどりうって倒れ込んだのは……女、か?
平和な日本に暮らしていて目にする光景ではない。 否、紛争地帯でもまず見られないだろう。
地元民の狼狽を他所に、肩と脚線を惜しげもなく晒した女が弱々しく呻く。
「む、うう………不覚……教会騎士団のしめしが」
常識的にどう考えても致命傷の筈だが………
足取りがおぼつかないながらも身を起こし、彼女は境内へ戻ろうとする。
彼らとて馬鹿ではない。 この先で途轍もない事が行われている事くらい、肌で感じ取れる。
君子危うきに近寄らず。 無事に帰れる保証の無い所に嬉々として足を踏み入れるのは死の商人とトルネコだけで十分だ。
こちらに気づいたのか、ペコリと一礼をして再び危険地帯に赴く女。
その後姿を詮索するでもなく、ただ見守る地元民であったのだが―――
「………………ええ尻じゃあ」
「っ!」
思わず漏れたその声に、凛々しかった彼女の表情が羞恥に歪む。
顔をゆで蛸のようにボン、と赤らめ、露出部分を隠しながら―――
女―――シャッハヌエラは足早に境内に消えていった。
――――――
CHAPTER 2-5 千秋楽 ―――
「とぁらった! とぁらったぁ! これは名勝負よー! 立会いから全く動きを止めない両力士!
しかし瀕死山(四股名です)、相手の動きに着いていけてない!
ストライカーを翻弄するその勇姿! さながら土俵の魔術師と謳われた舞の海が乗り移ったかのようだー!」
「た、たらったたらった……速い。 スピードと小柄な体を十分に生かした取り組みだ」
ハイテンションな行事と物入りは、お馴染み大河とチンクのアナザータイガーコンビ。
お送りしているのは円形闘技場。 所狭しと駆け抜ける2つの影。
何をしているのか見紛う者はもはやいないだろう。
「ふえええええっ! 来ないでぇ!!」
筋骨隆々の力士に相対するのは小柄な少女。
彼女は人間離れした膂力と身体能力を持つ土俵の新星。
本編でヒロインになり損ねた分、角界に全てをかける。 その心構えは十分だ。
「違うもん! 遠野君に会いに来ただけだもんっ!
それにリメイクではちゃんと正式に私のルートが―――」
黄色のスクールセーターを羽織り、下は艶かしい御足を限界まで晒す少女。
その悲しい遠吠えはともかく、健康的な太股に見惚れようものなら瞬殺お陀仏間違い無しだ。
繰り出す百烈張り手は目にも止まらず、相手が土俵際まで吹っ飛ばされる。
「だ、旦那ぁぁっ! くそ……何であんなのが強えんだよ!?」
アギトの悲鳴が闘技場に轟く。 土俵と呼ばれる神聖なサークル。
己が肉体を武器に2人の神が技を競った日本古来の戦場だ。
「ピンチの時は助けてねって言ったのに………どうして来てくれないの……
嘘つき――――嘘つき――――お腹、空いた……」
「おーーっと堕ちていく! どんどん深みに堕ちていくぞ、ピンチ塚っ(四股名です)!
ダウナー系ここに極まれり! 深みにハマったらブレーキ知らずの大転落っ!
出るか!? 業界一、後ろ向きなあの必殺技がっ!!!!」
「ピンチ塚(四股名です)が何か仕掛ける気だ、ゼスト……!」
「ていうかその名前はイジメだと思うんですけどーーー!」
少女の抗議は保留される。
亜麻色の髪を振り乱す女力士、弓塚さつきの漏らした不満と――――その隙。
「取った! ぬあああああああっ!」
「ひっ!? きひゃーーーー!??」
それを突けない男ではない。 彼はかつて局内屈指のストライカー。
最強の名を担った、今なお技巧においては健在のベルカの騎士だ。
猫のように駆け回っていた少女の腰の注連縄を豪腕が捕縛。 そのまま上手に投げぬいた!
悲鳴と共に少女の体がサークル外に放り出され、頭から落着。
ゾリゾリゾリ!と地面を滑る小柄な体が今………力なく、ペタンと地面にへたり込む。
「上手投げー! 勝者、瀕死山ーーーーー(四股名です)!!!
一片の容赦無し! 少女力士が地面にめり込んだぁ!
そのアークドライブは角界に旋風を巻き起こす事叶わず! またもヒロインになり損ねましたー!」
「切り札を出す前に潰された……この戦い、タメの長い技は出せないと見て良いな」
「むふう……固有ルートを望む心は個人的にヒジョーに分かるだけに
残念な結果に終わったといえるわねー! まあ、100年くらい待てばあるいは、ね」
「そんなに待てないもんっ!!」
悲哀のヒロイン(候補)を尻目に勝ち名乗りを受ける騎士ゼスト。
上気した鋼の肉体を誇るでもなく、粛々と土俵を降りる。
その際、審判である眼帯の機人と目が合った。
「おめでとう。 良い勝負だったぞ」
「……………そうか」
かつて自分を仕留めた相手に健闘を称えられる。
そんな奇妙な縁に苦笑するでもなく、ゼストは応援席で心配そうな顔をしている仲間の元へと戻るのだった。
「ゼスト……平気?」
「ああ、何とかな」
「それにしてもあの行司! 縁起でもねえ名前つけやがって!」
アギトがタイガー行司を敵意剥き出しで睨み付ける。
「若いが良い闘士だった。 命を削ったフルドライブで何とか勝ったが……」
「ちょっ! こんなもんで命削らないでくれよ!」
「そう言うな……この体では、あのレベルには到底、届くまいが」
心配そうな表情を向けるルーテシアにアギト。
騎士は柔らかな微笑を向け、異様な熱気に包まれつつある東方へと目を向ける。
あそこではもはや人語に表せぬ激戦が繰り広げられているのだろう。
かつての自分ならば、と惜しむ気持ちはあるが詮無き事だ。
今はこの背中を押してくれる同志の期待にのみ答える者でいよう。
「ベルカの騎士ゼスト……せめて、もう一花咲かせよう。 続けて行くぞ!」
「さあ、瀕死山(四股名です)の2人抜きなるか!?
病魔に蝕まれた体は蝋燭の最後の輝きの如く狂い咲き!
この漢に続けて挑む者は名乗り出よッッ!!」
「さつき、泣かないで……私が仇を取るから」
「リーズさん………うう」
対するは路地裏同盟一の男前。 仲間として果たすべき仁義がある。
相手は元Sランクのストライカー。
本来なら太刀打ち出来る相手ではないが―――
「名乗り出た! 名乗り出たのはピンチ塚(四股名です)の盟友!
え、と……男女っ(四股名です)! 物乞い同士の熱き友情!
次戦、死にぞこないVS死にぞこないの血みどろの戦いが繰り広げられるーー! 胸熱っ!」
「酷いな……この行司」
「気にするな。 祭の喧騒など、どこも似たようなものだ。
今はただ目前の好敵手にのみ意を注げば良い」
「真面目な人だね。 でも融通の利かない気質は嫌いじゃない。
しかし生まれて初めてだよ―――こんな女の子らしい服装に身を包むのは……機能的で良い感じだ」
「故に浮き彫りになる、苦行により極限まで絞り込まれ、鍛え上げられた肉体。
相手にとって不足無し……推して参れ!!」
「ああ――――行くよ」
行司の手が振り下ろされ―――
互いの蹴り足が大地を抉り、双方の張り手がクロスし、相手の頬をブチ抜いた!
――――――
「ス、モウ……」
カタログを読みながら呟いたのはティアナランスター。
各土俵に 「奈須千秋楽―――大相撲」 と銘打たれた垂れ幕が見える。
その下で鍛え抜かれた肉体と肉体が激突し、凌ぎを削る。
日本の伝統文化にいまいち理解の及ばないミッド生まれのミッド育ちである彼女。
ただでさえ教導で疲労の溜まった面々も多いというのに、この上、肉体労働を重ねるのは如何なものか。
「ていうか親交を深めようと開かれた交流会の割には
旅行先でも争ってばかりなのよね……私達」
「何の! 闘いはセッ○○以上のコミュニケーションだって強い人が言ってたっっっ!!!」
「へあっ!?」
ゆうに100mは離れていようかという行司からの、まさかのレス返し。
「ししょー。 ○ック○とは何だ?」
「夕餉の席でお父さんに聞いてみると良いっ!」
「了解だ」
「何なのよ、もう……」
まあ百歩譲って催し自体はいいとしても、だ。 形容しがたいほどに問題なのはそのユニフォーム。
男性は上半身裸で、マワシと呼ばれる薄生地で局所を覆っただけの格好。
そして女子は極限まで食い込んだ白のレオタードに、腰に注連縄を締めた、これまた極限軽装の出で立ち。
(そういえばナンバーズも夜店で似たような格好をさせられてたけど……)
季節外れの白スク水がどう考えても不自然な普及を見せている。
誰かが水面下で広めているのか? 邪な陰謀をひしひしと感じる。
ともあれ今、結果として半裸の男女が組んずほぐれつ近接戦闘をするという
信じ難い祭が目前で展開している。 冗談ではない……セクハラだ。
「………誰よ? こんな卑猥な祭を考案したエロ河童は?」
「私です」
「ひええっ!? カカ、カリムさん!?」
愚痴るティアナの横に、いつの間にか正座していたカリムグラシア。
何を隠そう、彼女が祭の発案者にして実行委員長である。
「お叱りはごもっとも……敷居の高い催しになってしまった事は否めません」
「いや、あの、違うんです! 斬新過ぎて凡人の私にはちょっと理解が及ばないなぁってだけで!」
全身から冷や汗が噴き出す。 しどろもどろに答える執務官補佐である。
彼女は部隊長、八神はやての更に上に位置するお偉方だ。
怒らせたら自分の首など一瞬で吹き飛ぶ。
「いいのですよ。 些か強行軍になってしまったのは事実ですから」
カリムは気を悪くした様子もなく柔和な笑顔で答える。 助かった……
「相撲とは、この地に根差した神道に基づいた儀式。 奉納祭の起源でもあると聞き及んでいます。
また優れた武芸でもあり武術でもある。 此度は数多の世界から集った武人も多いので……
二日目の締めに最も相応しいものと判断し、敬意を表して企画した次第なのですが」
――――――
「――――で? これはどういう事だ、2人とも?」
境内に最も高く居を下ろすのは神棚だ。
設けられた席に座り、青年は不快極まりない様子で尋ねる。
彼の両脇には女性が2人。 その片方が実行委員長のカリムと目配せをして何事か合図をする。
「どういう事も何も無いでしょう? これは奉納祭ですから。
納め奉る神様がいなくては話になりません」
「いや、だから……俺、いつから神様になったの?」
「神様というか、それっぽいナニというか……よく先方が納得してくれましたね?」
「納得? 詳しく話さなかっただけですよ。
向こうさん、未だにコレが本気で神様と信じているようです。
面白いから放っておこうかなと」
この女は………、と護衛役のバゼットが頭を抱える。
立会いの度にそこら中から聞こえる、杭打ち機が炸裂するような音。
ああ絶景かな超人相撲。 己が肉体を拉がせて神への感謝を表す彼ら。
しかしながら捧げている相手はアレなソレであり―――
聖なるモノに労を捧げる儀式と信じ頑張ってるあの人たちが
真相を知ったら果たしてどうなる事やら。
「血生臭いのは勘弁してくれよ……せめて女の子の参加者の安全をもう少し考慮してだな」
バレたら洒落で済ます気か? あんなに人が飛んでるのに?
全身に不可解な文様を刻まれ、赤い装束を纏ったカミサマがぶつぶつ文句を言っている。
「局側は体表面を覆うフィールドの使用が許可されています。
レガースやブーツ、頭部やショルダーパーツなどの防具も可。 十分かと思いますが?」
「あの連中を相手に真っ当な防具がどこまで役に立つのやら……
とにかく危なくなったら即、中止にするからな?」
「あれだけ頑張って労を貢いでいる人達に失礼な物言いですね。
貢物の価値を決めるのは偏に受け取った者の心根よ?
貴方はカミサマらしく、血ヘド吐いて戦う大衆に舌鼓でも打って喜ぶ義務を果たしなさい」
奉納祭というかサバトじゃないか……
そんな青年の呟きは意図的に無視される。
「その皮肉、やっつけ具合―――ほどよくクソッタレだぜアンタら。
なら、せいぜい俺を満腹にさせるようなゴキゲンな血ヘド祭ってやつを見せてみなよ」
もうヤケだ……戯れた笑みを浮かべる彼。
神どころかその実、全く逆のモノとして祭り上げられたとあるサーヴァント。
士郎演じる退廃の面持ちは―――紛れも無い 「この世全ての悪」 だった。
――――――
そんな祭にスバルは只今、絶賛ノリノリ参加中。
「おら気合入れろスバル! そんな膂力じゃ到底、救助隊の任務なんて任せられんぞーー!」
「「「 SOSっっ!!!!! SOSっっ!!!! 」」」
「押忍ッッ! ぬおりゃああああああーーーーー!!!!!」
………楽しそうだ。
最前列で激を飛ばしているのはヴォルツ司令だろうか?
新しい部署に配属されたスバルが随分とお世話になっているとよく話していた―――
そんな親友を見ると、レオタードの上には防災救助部隊の制服を模した黒のジャケット。
まわしを取り合う競技上、ウェスト周りを隠していない事を除けば普段のBJとそう変わらない出で立ちだ。
なるほど、コーディネイト次第ではちょっとイケてるかも知れない。
「あの格好でさえなければ私も出場してみようかなーって思ったんですけど」
「おや? フェイト執務官の直属ともあろう方が、露出に臆するとは意外ですね?」
…………さらっと失礼な事言った、この人?
というかフェイトさんってやっぱり他からそういう目で見られているのか……
「初めは男性力士との公平性を重んじて女子もまわし着用。
上はサラシという発案だったのですが、シャッハ他多数の女性参加者の猛反発に合いまして」
「当たり前です!」
「あくまで神聖なる儀式なのですけどね……」
シュン、と落ち込むカリム。 どこまで本気なのか分からない。
そして今、そんな2人の頭上の遥か上――――
何かが凄い勢いで飛んでいく!
「せ、聖王騎士団に栄光あれーーーーーーーっ!」
ノーバウンドで滑空し、柵越えを果たす物体。
断末魔をあげるそれが人型の何かであり、紛う事なき人間だと理解出来るまで数秒。
「シャッハさーーーんっ!!!!??」
「シスターシャッハ……貴女でも及びませんか。
どうやら、こちらが圧倒的に旗色が悪いようです」
そこら中で交通事故が起こっている。
人が飛んでいる。 ハネられている。 舞っている。
辺りを見回すと流石に教導に携わっていた者は出ていないようだが……
何にせよ、阿鼻叫喚の大相撲千秋楽。
神事と言っていたが、本当に誰かが天に召されないか心配だ。
大丈夫なのか? これで労災が降りなかったらストライキものだろう。
「………! スバルッ!?」
そしてそこに視線を戻したティアナが息を呑み、目を向けると同時――――
――― ごしゃ!! ―――
鈍い音が響き渡るっ!
――――――
「ふわーーーーーーっ!!?」
恐ろしい風圧がティアナの髪を掻き上げた!
自身の横スレスレを地面と並行に、親友が通り過ぎていったのだ!
「………っ!?」
今さっきまで土俵上で奮闘していたスバルが観客席の奥まで吹っ飛び、弾丸のようにフェンスに激突した。
そしてコンクリのフェンスまでもぶち抜いて瓦礫に埋まる。
何というか―――歪な飛び方だった。
四方八方から力を加えられたピンポン球のような……
「ちょっとアンタ!? 平気っ!? 生きてるっ!?」
血相を変えて駆け寄るティアナ。
「…………………い、痛い」
レガースもジャケットも粉々のボロボロだ。 首があらぬ方向に向いているのが、とにかく目に優しくない。
口元を初め、露出の多い衣装が更に破けて、下に覗く素肌の至る所が痛々しく腫れている。
「■■■■■ーーーーーーーーッッッ!!!!!」
口惜しそうにスバルが見据える先―――
土俵の上で今しがた彼女を叩きのめしたモノが吼え猛る!
「軍神五兵<ゴッドフォース>幕内Ver.――――
相手はなす術なく粉砕されるのみです……ご自愛を」
言ってスバルにバンドエイドを投げてよこすマスター、ラニⅧ。
「呂布が出たぞーーーーーーーー! 愛陳宮(四股名です)完全勝利っ!
音に聞こえし方天画戟の破壊力を体で再現した撃滅奥義! キン肉マンだよ、この人!
ゆで理論を体現した奴に初めて出合ったその感動! 行司は涙が止まらないーー!」
「ぶちかまし、喉輪、突き押し、足払い、だし投げの五つを同時に叩き込む複合技……
5方向から来る5つの加撃が見事に繋がった……スバルは大丈夫だろうか?」
「だ、大丈夫なわけない…………関節が完全にガタガタだよ……」
「苛苛苛―――ッ! ぬしには少々、荷が重い相手であったな」
バーサーカー―――真名は大陸最強の名を欲しいままにする無双の武人。
魔拳士をして場合が場合ならば一戦交えたいと言わしめる英霊だ。
三国時代における無双の体現。 相対しようと容易に考えるだけでもおこがましい。
「中華の武技は奥が深い。 速力、膂力は十二分に足りているぬしだが、如何せん正直過ぎる。
常に真正面から当たるだけでなく、搦め手も覚えねば百戦百勝とは相成らんぞ?」
「挙句、いみじく姿を消しての一撃狙いですか? コソ泥と同じですね。
武道家としてどうなのよ?って話です」
スバルと重なるように言葉を紡ぐキャスター。
声色を似せると本当にどちらが話しているのか分からない。
「中華の武だか何だか知りませんが、あんなのにあっさり負けちゃうなんて
ミッドチルダの拳士とやらも大した事ないですねぇ」
「ほう―――ほざく。 貴様にあの三国無双を転がせる秘策があるとでも?」
「当然。 朝飯前の油揚げです、あんなの」
「ええー? ウソだー!」
「出来ますー! あんなの私にかかれば1秒ですー!」
「無理無理無理だって! 半端な強さじゃないんだから、あのバーサーカー!!」
珍しくキャスターに食ってかかるスバル。
只でさえ徒手の攻防はパワーで劣る女性が男性に勝てる要素は少ないのだ。
隊長陣を含めた6課勢の中でも、このルールでサーヴァントに当たり負けしないのはスバルくらいのもの。
だからこそ彼女は体力で劣るキャスターの言葉に到底、頷けない。
「ふん……仕方ありませんね。 実演しますから犬系、ちょっとそこに立ってくれません?」
「……? ええ、と……こう?」
そんな彼女をギミックとして立たせるキャスター。
あの英霊を瞬殺するとまで豪語する狐の秘策。
ファイティングポーズを取りながら、スバルはとても興味津々だ。
「まず立会いがこうじゃないですか? 相手がこう来ますよね」
「うんうん!」
「こうして、右四つに密着しますよね? 相手も負けじと押し返します」
「うん、と……でもそれじゃ力負けして寄り切られちゃうんじゃ?」
「はい黙って。 そしてこう相手のマワシを下から掴むフリしてですね…………
死角からこう、ぐしっ、と―――――」
しかして――――――
「えっっ!? ひゃあっっっっっ!!!!!???」
キャスターと組み合った状態にてギミック・スバルが甲高い悲鳴をあげる。
彼女の腰が不自然に跳ね上がり、そのままカクンと落ちかかるその下半身。
何とか踏ん張って、タマモにしがみ付くように残して見せる彼女であったが―――
「ほら、ラクショー♪」
「…………!!!!!???」
期待満面だったスバルの表情が次第に青くなっていくのは多分、恐怖から。
目の前にある狐の顔。 その笑みをスバルは一生忘れない。
口元が歪に裂けた――――般若さながらのその笑みを。
「だ、駄目ーーーーーーーーーっっ!!!!!
タマモさん、お姫様なんだからそういう事しちゃダメーーーーーっっ!」
「勝ちゃいいんですよ、勝ちゃ。 ちなみに本当なら、ここで手から密天が。
あ、吸精もいいですねぇ………ぐふふふふふ♪」
「はひぃ…………っっ!!!」
何だ、この修羅の生き物は? 宮廷皇女の面影が微塵も無い。
技の詳細は深く記すまい……最低最悪の「裏技」とだけ言っておこう。
確かにこれなら1秒であいてはしぬ。 相手が男なら尚更に。
「何かと思えば………クハハハ! 浅慮なり狐!
中国の武には既に急所を体内に隠す術など確立済みよ!
貴様らのいる地点など我らは1000年前に通過しておるわ!」
「に、にゃにおうーーっ!!!」
「あ、あの……タマモさんっ! そろそろは、離して……ッ」
「だあああああっ、うるさーーいっ!! 注目されてんでしょうが!!
恥ずかしい事を大声で喚き合うじゃないっ!!!!」
「まあ冗談はさておき―――攻略法はありますよ。 マジで」
――――――
「楽しそうねぇ……ティアナ達」
お騒がせ4人組がいる土俵の方角―――
ラニ・バーサーカーの鎮座する東部屋最南端のサークルを見つめるシャマルである。
幕内力士の跋扈する殺劇空間の只中で、次々と撃破されていく局側の力士達の救護に大忙しだ。
「ておああああああーーーッ!!!」
そして東部屋西側では―――
凍てついた空気を切り裂く雄叫びが上がる!
諸共に褐色の力士の放った飛び蹴りが敵に叩き込まれたのだ!
「これは凄まじい! 闘犬竜(四股名です)のジャンピングケンカキックーーーーーーー!!
骨をも砕けよとばかりに放たれたカカトが相手の顔面に炸裂ぅーー!」
「………我は狼だ」
「モロに蹴ったな……あれはルール上、OKなのか?」
「んー、いいんじゃない? どうせマトモな相撲で収まるような連中じゃないし」
身も蓋も無い。 プロレスか。
あと、この行司は瞬間移動でも出来るのだろうか?
さっきまでスバルとラニ・バーサーカーの試合を仕切っていた筈だが……
「………ぬうっ!」
渾身の蹴たぐりを叩き込んだザフィーラが息を呑む。
敵は―――まるで揺るがなかったのだ!
盾の守護獣の一撃を、まるで蝿でも止まったかのように払いのける。
(この程度の攻撃では勝機は無い……分かっていた事だが)
敵が「コレ」である以上、まともにやって勝つ術は無い。
とうに理解していたのだ。 ならば今こそ、温めていた秘策を出す時っ!
「行くぞ! 鋼の猫だまっ……ぐはああっっ!?」
ゴチャリ、と肉の潰れる音がした……
「ぬおおおおおあああああっ!!!?」
相手力士の突っ張りがカウンターでヒット。 やたらと渋い悲鳴をあげて飛んでいくザフィーラさん。
その体が吹き飛び、壁のシミになる寸前で―――シャマルの風の防壁が展開し、見事に受け止められる。
「ぐう………す、すまん」
「気にしないで……やっぱり貴方でもどうにもならなかった?」
「己が無力を恥じるのみだ」
守護騎士が見上げる視線の先―――
「■■■■■ーーーーーーッッ!!!!」
ザフィーラを一撃で葬り去った巨人の雄叫びが大地を揺らす。
「ふうん……殺しちゃ駄目っていうルールが正直、一番の枷だと思っていたけれど
これくらいの力なら十分、耐えてくれるんだ。 だんだんコツが掴めてきたわ」
雪の少女の酷薄な笑みが敗者に注がれる。
そして佇む、言わずと知れた最強のサーヴァント。
イリヤスフィールフォンアインツベルンのバーサーカー!
キャロとの話ではないが、このイベントにかける少女の意気込みは本物だ。
狙い打ったかのように投入してきた切り札は文字通り無敵の横綱!
「おーい弟子1号~!」
行司がイリヤにぶんぶんと手を振っている。
あからさまにうんざりした表情を向けるイリヤ。
「景気はどうかね、キルビル?
紹介するわ! こちら、アナザータイガー道場の弟子2号!
どこぞの不肖の弟子とは似ても似つかぬ、素直でデキた門弟よ!」
「お初にお目にかかる、姉弟子。 これが噂のバーサーカーか……壮観だな」
「つうか違和感無さ過ぎ。
完全に土俵に溶け込んでるよ、このギリシャ人……マゲ結いてぇー」
「鬱陶しいわね……いいから、あっち行ってなさいよ」
「しかし残念だったわー、闘犬竜(四股名です)!
犬の猫だましとか小洒落たフェイバリットホールドを披露してくれましたが
理性の無い狂戦士にはギャグも届かなかったか! 着眼点とユーモアは買うんだけどねー」
「………我は狼だ」
既に死屍累々を築き上げているイリヤ・バーサーカー。
アレと素手で取っ組み合いをするなど無理ゲー過ぎる。
坂田金時でも連れて来なければ話にならないだろう。
「では行司は他を仕切らねばならぬ故、またなっ!
相手を殺すんじゃないわよ弟子1号!」
「姉弟子……また」
ペコリと頭を下げる機人と藤村アバターな行司。
ふんっと鼻を鳴らす少女であったが、それにしても―――
「目障りね……あっちと……あっち。
私のバーサーカーだけで十分なのに……」
幕内の最南端と、中央の方角を見てイリヤが舌打ちする。
特に陣の中心に位置する、あのうっとおしい奴を
少女は忌々しげに、殺意すら込めて睨み付ける。
その瞳は―――まるで聖杯戦争を戦うアインツベルンのマスターが戻ってきたかのようだった。
――――――
「ねえ、なのはママは出場しないの?」
「ママは砲撃戦しか出来ないからね。 こんなのに出たら潰されちゃうよ」
クリクリとよく動くオッドアイが尊敬する母親を見上げている。
苦笑交じりで少女の頭を撫でる母。
高町なのはと高町ヴィヴィオ、親子で祭を観戦中だ。
「そ、そんな事ないよ~! ママは世界一強いもん」
しかしなのはの今の言葉には頬を膨らませて反論する娘である。
ヴィヴィオにとって、なのはは誰にも負けない一番のママなのだ。
口では謙遜しているが、戦えばどんな相手にだって負けない筈だ。
時間が合わなくて二日間、母親の教導をロクに見る事が出来なかった。
だから今夜は、強いママの勇姿が見れると期待していた少女であったのだが……
「ヴィヴィオがもう少し大きければなぁ……」
呟く少女。 幼い彼女の目にも局側が劣勢なのが分かる。
なのはやフェイト要する機動6課はこの娘にとって謂わば我が家だ。
出来れば……否、絶対に負けるところなんて見たくはない。
「ママ……ヴィヴィオも早くママ達と肩を並べて戦えるようになりたい」
「…………」
この言葉は最近の少女の口癖となっていた。
彼女は何時しか、母親の大きな背中を殊更、意識するようになり
自分もいつかママに負けないくらい強くなりたい、ママに戦い方を教えてもらって肩を並べて戦いたいと夢に見て
それを仄めかせる言葉を口に出すようになっていた。
「早くママの教導を受けられるようになりたいな」
「ママの教導は主にセンターやバック主体のものなんだよ、ヴィヴィオ。
近接戦に特化したものではないから……専門的な事は騎士の皆に教えて貰おうか」
「えー! ママがいいなぁ……ママに教えて貰いたい!」
「ふふ……そうだね。 でも、効率を考えたら
スバルやノーヴェに教えて貰った方が断然強くなれるから、ね」
それは傍から聞いていればもっともな理屈であっただろう。
だけど何時しか、なのははこうしてヴィヴィオの言葉をはぐらかすような物言いをするようになっていた。
普通の子供なら流してしまうほどの、母親の小さな戸惑い。
この娘は聡明だった。 親の心情を解さないほど向こう見ずではない。
「…………」
なのはのその腕から逃れ、トテトテと丘の方に駆けていくヴィヴィオ。
「ヴィヴィオ? どこへ行くの?」
「おトイレ」
「そう……気を付けてね」
少女は肩を落として振り返りもせずにいってしまった。
落胆させてしまったのだろう……チクリと、その胸が痛む。
「何だ? 喧嘩でもしたのか?」
そして―――娘と入れ替わるように新たな人影が現れる。
「式……ううん、何でもないよ」
両義式と―――その横に黒髪の利発そうな、異常なまでに胸の大きな女の子の姿がある。
着物の少女の右手をガッチリ組んで離そうとしない女の子。
されど仲が良いようには見えない。 黒々としたオーラが2人の間に渦巻いているようだ。
「紹介するよ……鮮花だ。 さっき、お前んトコの店で捕まった」
「黒桐鮮花です。 変態女が破廉恥な事をしないかと、お目付け役として同行しています」
ペコリと鮮花が頭を下げると、その超乳クラスの乳房も連動してぶるんと勢いよく上下に震える―――――黒桐?
黒桐幹也と何かしらの関係があるのだろうか?
「そういうお前も兄貴に欲情する変態じゃないか」
「え……お、お兄ちゃんと……?」
聞いたなのはが目を白黒させる。
「否定はしませんが何か? 但し欲情とは心外だわ。
勝負がとっくについてるにも関わらず、未だに諦め悪く殿方を混浴に連れ込もうとする女が他人を変態呼ばわりとか、ヘソで茶が沸くわよ実際」
「既に人目もはばからずか………お前スゴイな。
なあ、なのは。 お前も確か兄貴がいるようけれど、ねんごろになりたいとか思った事ある?」
「あ、あはは……」
歴戦のエースの目が泳ぐ泳ぐ……
確かに兄、恭也は文句無しにカッコ良い。
幼少の頃は世界一ハンサムなお兄ちゃんのお嫁さんになりたいとか思った事が無いといえば―――
「人それぞれじゃないかな」
下手な事を言うと自爆しそうだ。
この件はこれ以上、首を突っ込まない方が良いだろう。
「シケた解答だ。 教官ならビッとした答えを示さないと生徒に舐められるんじゃないか?」
「ごめんね……教導隊では恋愛相談は受け付けてないんだ」
「そうか。 ところで、さっきの娘は親戚か何かか? 妹って感じじゃ無かったが」
「ううん、私の子供」
………………………
………………………
歯切れの悪いなのはに別の話を振っただけの事。
それくらい何の気なしの質問だった。
………………………
………………………
対して返ってきた答え。
2人は歯切れが悪くなるどころではない。
完全に絶句である。
「――――そうか……………子供か」
絞り出すように紡いだ式の声。
後ろでパクパクと口を開く鮮花。
「え? だ、だって……なのは教導官って確か20歳前後の筈ですよね?
あの娘、どう見ても5、6歳は超えてて……」
「おい、どうするんだ? 凄絶極まりないレベルの違いを露呈しただけじゃないか。
すくすくと子育てまでやってる相手に近親相姦どうですか?って、馬鹿か俺たちは」
「だから相姦とか言うな! 私は貴方と違ってプラトニックに攻める予定なの!」
盛大な誤解をしているのだろう。 いつもの事だ。
養子という事は掘り下げればすぐに分かる事。
反応が面白いので暫く放っておこう。
「おかしいと思ったんだ。 お前、年齢よりも遥かにババ臭いもんな」
「あはは……女の子っぽく無いという点では式も相当だよ」
「ふうん…………子供、か」
真面目な顔で何かを思案する両儀式。
眉間に皺が寄るほどの考慮はこの少女をして珍しい。
「式ッッ! アナタ今―――ダレとの子供を連想してるんですか!?」
「痛いぞ、爪を立てるな。 まだ何も言ってないじゃないか?」
「でも…………結構、重いよ?」
なのはの口を突いて出た言葉に、じゃれ合っていた2人の動きがピタリと止まる。
「っ………」
その失言にハッと口を押さえるが、もう遅い。
真摯な表情でこちらを見据える式と鮮花の視線。
居心地悪そうに、1児の母は溜息をつく。
「重荷―――煩わしいという事ですか?」
「まさか」
それには1も2も無く否定するなのは。
「あの子の存在は私に新しい幸せの……夢の形を教えてくれた。
誓って煩わしいなんて思った事は無いよ」
「それじゃ、何が?」
「…………」
そう――――初めは我武者羅だった。
娘の期待に答えたくて、事実、力の限り答えてきた。
あの娘の前では何時だって強い自分でありたかった。
ヴィヴィオに良い所を見せる。 ヴィヴィオが自分を見て笑ってくれる。 それが生き甲斐になった。
恋愛をはじめ、人並の女の子の幸せを放棄してきた空バカの自分が初めて手にした「当たり前」の幸せ。
浮き足立っていたのだろう。 舞い上がっていたと言っても良い。
―――だけど、いつしか抱くようになった……迷い。
少女の中でスーパーマンになってしまった「自分」に対する疑問。
子が親に向ける崇拝と尊敬は、民が英霊に向ける信仰に匹敵する。
自分を唯一絶対の存在とし、自分を指標に世界を見て、自分の背中だけを追い求める娘。
本当にそれで良いのか? 欠点も至らぬ所も山ほどある、こんな自分を盲信させたままで。
自分をただ追い求め、目指すような人生を娘に歩ませて―――
「あの子の進むべき道を考えると、それだけで不安になる……平静でいられなくなるの」
責任に押し潰されそうになる。 何よりもかけがえの無い娘………だからこそ迷う。
自分の事ならば迷い無く進めるなのはが、娘の事になると途端に弱気になってしまうのだ。
ことに高町なのはが歩んできた道は普通とは懸け離れた道である。
果たして少女にそれと同じ道を歩ませる事が幸せに繋がる事なのだろうか?
なのはは思う。 自分が魔法使いの道を歩むと言った時―――
お父さんとお母さんは同じような葛藤に苛まれたのだろうか? これほどに苦しくて不安だったのだろうか?
ならば改めて尊敬してしまう。 その不安を押し殺して、自分に好きな事をしろと言ってくれた事を。
自分なんて本当のどうしようもない……情けない。
今ここに娘がいないというだけで、これほど心配で居たたまれない気持ちになってしまうというのに。
「お前―――――本当に母親なんだな」
「……………」
式が口にしたのは単刀直入な感想だった。
「それは親が子に抱く感情として、まったく正しいものだと思うぞ。
いやホント大したものだ……俺みたいな人でなしがお前に言える事なんて何一つ無い」
おおよそ珍しく、少女は今、本気で他人を尊敬している。
バスで話をしたのは、強大な魔力で敵を薙ぎ払う魔導士高町なのは。
だが自分と近しい世界に身を置く筈の人間が今見せたのは、全く自分と異なる一面だ。
それに式は目を細めずにはいられない。
「お前を見てると俺なんか、デキても到底、育てられそうもないよ。
育児、教育共に全任かな――――――――――アイツに」
「くおらぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーッッ!!!!」
「乳母はお前か。 ヘンな事教えるなよ……て、痛い! 痛いってば!」
「ほんっっっとうにいい加減にしなさいよアンタは!幹也はとっくに私にメロメロなのよ!いい加減あきらめなさいよ!」
「おま、いたっ!調子に乗るなよ、この牛乳女!」
「誰が牛乳女よ!このまな板女!」
ゴロゴロと原っぱで取っ組み合いを始める式と鮮花を残し―――
「ごめん……ちょっとヴィヴィオを探してくる」
なのはは娘の駆けていった方へと向かうのだった。
――――――
[[前>慰安旅行―二日目C]] [[目次>リリカルブラッドの作者氏]] [[次>慰安旅行―二日目祭B]]
2018-11-19T23:32:47+09:00
1542637967
-
なのは&セイバーVSギルガメッシュ中編
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/96.html
??? ―――
「神秘………?」
話を聞いていた7女が首を傾げながら姉に問う。
「分かりません。 論理的に定義できませんか?」
「その定義が出来ない力の事だそうだ。」
脱走に成功した次元犯罪者ジェイルスカリエッティとその娘達。
彼らの向かう先を父から聞かされたナンバーズらは今、各々の思いを話し合っている最中である。
管理外世界におけるちっぽけな一惑星。
異なる次元におけるその惑星で、彼女らの父である科学者はそれを見つけた。
「要は御伽話の類でしょう? そんなもの、どの星にだって……
ミッドチルダにだってありますわ。」
「しかも次元の壁の向こうとはいえ、管理外世界だろう?」
管理局の目の届かない―――否、問題にすらしていない辺境の僻地。
更にその星の中でも一般人にはまるで認知されず、秘匿に秘匿を重ね、深く濃く練り上げられてきたといわれる力。
「博士と我らの理想の世界……
それを今一度、達成するために必要な力。」
強大な力によって広く大きくその支配を、影響を広げていくミッド世界。
それとはまるで真逆の在り方に彼らは救いを求める。
まさに藁にもすがる様な想いで。
そして―――――――
――――――
「神霊」「魔法」「抑止力」「真祖」「根源」 ―――「英霊」
今宵、神々の遊戯盤にて踊る人形―――それらが今
自分らを追ってきた時空管理局の魔導士を迎え撃つ光景をまざまざと見せ付けられている。
初戦においてエースとナイトはこちらの思惑通り仕掛けた全ての事象に踊らされ、完全な制御の元に刃を交えてくれた。
驚きと共に手応えを感じる彼女達。成果は上々。
遊戯盤の機能は問題無く働いている。
これが――毎回上手く行けば問題はない。
だがこれだけの大規模な仕掛けだ。
次元間を跨いだ境目に両世界を混ぜ合わせて箱庭を作るという前代未聞の試み。
どれだけプログラムが万全に働いていても、もしかしたらその枠からはみ出る者―――
――― バグやウィルスの類が出てくるかも知れない ―――
しかして彼女らのそんな心配は今………
最悪のカタチで、黄金の悪夢として眼前に具現化する事となったのだ。
――――――
「何、コレ…?」
そう口にしたのは姉妹の中の誰であったか――――
その英霊を目の当たりにするまでは、実際のところ彼女らは
サーヴァントを凄いとは思っていても本物の畏怖を抱くまでには至らなかった。
神秘、英霊がどれだけ強いモノかは知らない。
だが自分らが劣っているなどとは彼女達は考えない。例えるならば、それは現代人から見た原始人のようなもの。
確かにその身一つで巨大な象やケモノを狩ってきた原人の身体能力は現代人に比べて突出しているが
だがそれでも現代人の中で、原人などを鼻にかけてまともに競おうという者はいないだろう。
ましてや自分達が劣っているなどとは露ほども思わない筈だ。
何故ならヒトは、彼らの住まう時代から何千年を経て培ってきた卓越した技術・科学。
その過程でもたらされた―――兵器を所持しているが故。
相対的戦力に決定的な差がある事は明白。
どれだけの強さを持つ存在だろうがこちらが本気で乗り出せば手綱をかけられない筈が無い。
故に―――――そうタカを括っていた彼女達はその金色を眼下に置いて……一言も発せない。
ロストロギアというミッドにおける埒外を示す力。
その手綱を早々に食い千切り、打ち破って具現したこの黄金の王に対して思考が追いつかない。
先程までのエースオブエースと英霊の心躍る闘いに熱くなり、湧き上がっていた一室は今や完全に沈黙。
姉妹は呆然とその光景を眺めているしかなかった。
鋼の肉体に精一杯に称えた、その凍りついた表情と共に…………
――――――
今、眼前で起こっているもの。
――― それは虐殺 ―――
先の魔導士と騎士の戦いは謂わば果し合いであった。
術技の限りを尽くし、互いに引かぬ意地を張り合い、ぶつかる度に火花が飛び散る両者の魂の激突。
そこには例え血を血で争う熾烈な闘いであろうと人の心を打つ何かがあった。心に響く輝きがあった。
だが今、場に顕現した「戦争」は違う。
技も無い。魂も通わない。
圧倒的な暴力によって一方的に薙ぎ払い蹂躙される力ない者たち。
そこにはただ―――――死と恐怖があるのみ。
先程まで想像を絶する戦いを繰り広げていた両者。
最強のエースとナイトがたった一人の男の手によって弾け飛び、蹂躙され、壊されていくその様を
白衣の科学者がポリポリともみ上げを掻い上げながらに見据えていた。
初戦の大成功を鑑みるまでもなく、この魔導士と騎士は今後の祭を大いに盛り上げてくれる優秀な駒だ。
それをここで無為に失うのは勿体無さ過ぎる。
その場で回転椅子に座りながら「んー」とか「んんっ?」とか、突拍子の無い声を上げていた男。
「綺礼」
スカリエッティが目の前の黒衣の神父に――――
「どうしようか?」
「知るか」
―――――にわかに助け船なんかを求めていたりする。
当然、博士に神言を与える役目を担う神の使いはにべもなく突っ放すのみ。
主の代行者とて、どうにもならない事に対して示せる福音なんぞあるわけがない。
殺戮の雨が降り注ぐ第一フィールド。
それを天上から見据えるゲームマスターを嘲笑うかのように、ソレはゲーム盤を荒らし、壊し、蹂躙する。
「雨が降ろうと槍が降ろうと」という言葉があるがまさにそれだ。
もっとも眼前の光景を見た後で上の言葉を気軽に使える者はいないだろう。
実際に槍が豪雨の如く降り注ぐ地獄のような光景を見た後では
1000を超える凶器の射出による、この世の音全てを掻き消す爆雷のような音を聞いた後では
どのような地獄も、その光景に見合うほどのものではないと断言できてしまうが故に。
戦闘は初め、互角の様相を呈していた。
突如現れた黄金の鎧に身を纏った闖入者。
圧倒的な力を前に倒れ伏す魔導士と騎士。
その両者が互いを生かすために手を組み―――強大な敵に刃を返す。
予想外の相性の良さに驚く魔導士と騎士。
あらゆる不安要素を無かったかのように吹き飛ばし、完璧に機能する翼と剣の織り成す連携は
確かに一度、最強の英霊たる男を窮地に陥れたのだ。
断言する。
ツーマンセルのタッグ戦。包囲された状態での集団戦。 あらゆる状況問わず―――
「戦闘」においてこの二人を相手に勝てる者はそういないであろう。
ましてや一人で彼女達の相手が出来る者などいるわけがない。
故にだからこそ―――男は己を、その力の全てを解放した。
かの者は戦闘者にあらず。
雑兵と共に剣を振るう者にあらず。
その身は玉座に在り―――――その意のみで眼前の全ての愚か者を殲滅せし者。
――― 其は王なり ―――
この世に在りて最も尊き身を象徴したかの如き豪壮なる宝具。
王の財宝「ゲートオブバビロン」。
その扉の全てを開け放つ事それ即ち、蹂躙の行進の始まりである。
つまり男は二人に対し「戦闘」ではなく―――「戦争」を仕掛けてきたのだ。
――――――
王の財宝が開かれ、フィールド上にこの世ならざる地獄が生み出されてから早一刻―――
赤く鈍色の光沢を放つ空間。
水面のようなそこから次々と波紋が現れ、中からまるで生き物のように顔を出す宝具の刃。
その数―――数え切れず!!
なのはの分析で叩き出された「一度に10発前後」という予測を上回るどころではない。
一発でも当たれば致命傷の凶器の魔矢が100、200、300―――
センターがどうとかフォワードが機能したとか、そんなものをまるで無視した
陣形。戦略。ポジション。その他一切をここに無に帰す暴威の群れがここにある。
それはまさしく二人のベストポジションを、その絶妙のコンビネーションを根底から切り裂き
叩き潰す圧倒的威容の嵐であった。
もはや上空に見えるのは暗雲でも夜空でも高層ビルの外壁でもなく―――
見渡す限りの刃。 刃! 刃!! 刃!!!
それが男の号令を合図に、頭が割れるような轟音と共にフィールド一帯に降り注いだのだから堪らない。
「――――ッッ!!!」
魔導士が叫ぶ。 轟音に掻き消された。
「――――ッッ!!?」
騎士が吼える。 爆音に遮られた。
その白き法衣姿が、銀の甲冑の雄姿が、全てを滅ぼす魔弾の豪雨に飲み込まれる。
豪雨はその水滴一粒一粒が一撃必殺の宝具。
凡庸な武装とは一線を画す魔力、破壊力を秘めたそれらが対象に着弾した瞬間、大爆発という形でその力を解放する。
故にその光景はもはや空襲。 数百を超える航空部隊の爆撃と何ら変わらぬ光景を場に作り出す。
それはまさに地獄そのものだ。
もはやその様相を見ている者の中に――――二人の安否を気遣う声は無い。
――― 生きているはずが無い ―――
視界を埋め尽くすような爆光と破壊は、もはや「二人は無事か?」などと聞くも愚か。
ヒトの形を留めているか?というレベルなのであった。
無理からぬ事だが、傍観者達は半ば諦めの心境でモニターを見ていた。
………………全てが終わったと。
……………………………
だが、そんな中―――
虫一匹の生存すら許さぬような惨状の只中にて―――
白と銀の閃光が走った………………
――――――
姉妹の一人が目を凝らす―――――
今もなお降り注ぐ空爆の嵐はもはや大地の地形をも大きく変えているであろう。
その爆心地の只中にあって……無事である筈が無い。生きている筈が無い。
誰もが当然のように抱いた感想――
「……………見ろ…」
だが……………その全てを裏切って――!
最強を冠する剣の英霊の銀の甲冑姿と、無敵を誇る空のエースの白き法衣が
破片と爆風渦巻く死の嵐を掻き分けながら
その幾重にも重なる爆風の中から―――姿を現したのだ!
「おおっ!」
「うっそ~ん」
爆雷の合間を縫う様に美しい軌跡を描く白と銀の流星。
既に豪雨と爆発の台風と化した大通りを、互いに2,3mの間隔を保ちながら並行して駆け抜ける!
だが前述した通り、合間を縫うといってもその隙間など皆無の筈なのだ。
王の財宝はまさに蟻の子一匹通さぬ頻度で、間断なく容赦なくその戦場に降り注いでいる。
故に不可解………
回避を許さぬ魔矢の斉射を回避しているという事実。
それは即ち、回避出来る隙間を二人が作り出しているという事に他ならない。
果たしてそんな事が可能なのか?
当然――――可能である………このエースと騎士王のコンビならば!
全速力で英雄王の射程から離脱しようとする両者は依然健在。
並行に駆ける両者の軌道に今、変化が起こる。
二人は瞬時、互いの位置を入れ替えるように軌跡をクロスさせる。
その白と銀の光がぶつかるように交わった瞬間―――
彼女達に降り注ぎ、その身体を串刺しにする筈の剣が、槍が、矛が、次々と弾き飛ばされていくのだ!
常人の目には何が起こっているのか、何をしているのかまるで理解出来ないだろう。
視認すら許さぬ神速の連携。
二つの光が交わる度に高速で飛来する宝具が次々と四散していく。
白と銀の光が戦場に刻む軌跡はまさに幾重にも並べられた∞―――女神が織り成す美しき輪舞の如し!
「フ、フフ………フハハハハハハハッ!!」
英雄王が感嘆と愉悦の声を上げる。
「これは然り――器用だなセイバー!!
剣と戦の世を生きたお前に舞踏の才があるとは思わなんだ!!」
殲滅の宝具、その一切の手を緩めずに言い放つ王。
「決めたぞ。お前を手中に収めた暁には―――
一国に匹する財を凝らしたドレスを賜ろうではないか!」
その場を一歩も動かぬ英雄王となのは、セイバーの距離がみるみる離れていく。
二人三脚のように一糸乱れぬ疾走を維持しながら
彼女達は大通りを駆け抜け、交差点に至り、飛び込むような鋭角な機動で右折する。
ギルガメッシュの視界から逃れた両者は間髪入れずに、なのはがセイバーの体を抱えて飛翔し
一番初めに目に飛び込んだ雑居ビルの2階の窓をブチ破り――建物の中にその身を隠す!
その、時間にして数十秒―――
戦略的撤退と呼ぶにはあまりにも余裕がなく形振り構わぬものなれど
ともあれ高町なのはとセイバーの両者は、誰もが即死必至と見た戦況を見事裏切り―――
ゲートオブバビロン………英雄王の制圧蹂躙、その第一陣を凌いでいたのである!
――――――
時間は王の財宝が今まさに降り注がんとする瞬間に遡る―――
「ラウンドバリア出力最大!!
フィールドは張らなくていいから全てオートで対応!!」
空間を埋めつくした居並ぶ凶刃を前にした魔導士が火急にして叫ぶ。
目の前に置かれた最悪の状況に対し、瞬時に判断を下す高町なのは。
「BJはショック耐性を最大に設定ッ!! 硬度は無視で構わない!
どうせ破られたら受けきれないッ!!それから……!」
矢継ぎ早にデバイスに指示を飛ばす。
生き残るために思考をフル稼働させる。
目の前の脅威を払うために最善を模索する!
「させぬぞッ! 押し留めよ聖剣ッ!!!!」
その前方にて咆哮一閃!
セイバーが魔導士の前に立ちはだかる。
「騎士王の名にかけてその凶刃………
彼女には決して届かせないッッッ!!!!」
それはセイバーの覚悟の表れだ。
いつの時代もかの剣は民を、国を、人を護るための力である。
その気勢の元に全身から吹き出す青白い魔力は―――古の時代、あらゆる戦場を席巻した勇姿そのものだ。
だが………そんな二人をして破滅の予感の拭えない程の脅威が―――眼前には広がっていた。
ゲートオブバビロン―――王の財宝の全門一斉掃射。
想像を絶する火力のフルバーストは、二人の掲げた意思、覚悟、戦術。
その他一切合財を難なく吹き飛ばすであろう。
兎にも角にも、その初撃を凌がなければどうにもならない。
セイバーは当然、その凄まじさを知っていたし、なのはとて目の前の光景を前にして予想がつかない筈がない。
このままでは微塵も抗えずに即死という結果が下される。
空にいる高町なのはを自らの後方に呼び出した騎士。
その行動に確たる策があったわけではない。 それは彼女の「直感」によるもの―――
戦場にてあらゆる凶刃から身を守ってきたセイバーの第6感が
「今の陣形では死ぬ……この形こそ最善」と判断を下していたのだ。
故に刹那、二人は互いに目線を交わす。
(セイバーさんッ)
(ナノハっ!?)
瞬時のアイコンタクトにて二人はその意思を交し合い、終局を免れるための一手を決めていた。
その一手………怒涛のように迫り来る宝具の雨を前に―――
「レイジングハートッ!! 踏ん張ってッ!!!」
何と後衛であるはずのなのはがその身を躍らせる!
(………!!!)
セイバーが息を呑む。 それは本来、前衛である自分の役目だ。
だが「それ」しか二人が生き残る道が無いと理解しているが故に彼女を矢面に立たせるしかない。
果たして騎士の前方に踏み込んだ高町なのはのバリアとバビロンの第一陣が―――
無尽蔵の魔力の奔流と共に今、かち合ったのだ!!
――――――
NANOHA,s view ―――
「う、くうううッ……!!!!!!!!!!」
耐え難い衝撃がこの身体を襲う。
でも耐えなきゃ………意識を飛ばしたら全てが終わる!
ここであの人の魔弾を迎え撃たなくてはならない―――
その私が瞬時に選んだ障壁魔法とBJの設定は、見ようによってはデチューンとも取れる仕様。
手動によるシールド。 体表面を覆う保護フィールド。
全ての機能をカットし―――回せる出力を全て「それ」に回した。
張ったバリアは一種類。 「それ」とは、オーバルプロテクションと呼ばれる全方位防壁陣。
術者の体を中心に円形に張り巡らされる防護壁は、360度全ての方角から迫り来る脅威を払う広範囲防御魔法。
迫りくる数百の魔矢対して私の選んだ術式がこれ。
一見すると悪手に見られても仕方がない。
さっきあの人の掃射を受けた際、私は手動によるシールドを張ってこれに対抗した。
今、発動している360度広範囲を護るバリアよりも局所的に力を集約して張れる後者の方が、部分的な防御力において高くなるのは当然の理屈。
その先の結果で、今の私のシールドは彼の魔弾を防ぎ切れないという結論に達した。
3本、4本であの結果なのだからそれは至極当然。
今現在、こちらに降り注ぐ凶刃は軽く見積もっても……その数100を超えている。
あんなのを場に留まって、シールドで防ごうとしたって無理だ。数に潰されるだけ。
それを、瞬間防御力では遥かに劣るラウンドタイプのバリアで受け止めるというのだから
さっきも言ったように悪手と言われても仕方のない選択だ。
そして更に私は、バリアの発生を全てデバイスによるオート――――
つまりはレイジングハートに発動の全てを委譲する選択を取った。
即ちオートプロテクション。
この機能は術者の知覚外の攻撃に対しても自動で働いてくれるというメリットを持つ。
反面、強度の調整や部分的圧力の供給など、術者による微細な調整が出来ないという欠点が浮き彫りになる。
つまりはカートリッジによる強化が出来ず―――張られたら最後、成り行きに任せるしか無いという事。
言うなれば素の防御力任せ。相手の攻撃力が勝っていたら……為す術もなく破られるしかないという状況だ。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク―――っ!
そうこうするうちに全力で張った円形のバリアに次々と―――敵の放つ殺戮の刃が突き刺さる!
「あッッッ、くぅ!」
やっぱり……キツいっ!!
全身を抉られるような衝撃に歯を食い縛って耐える。
私がデバイスに下した指示はもう一つ。
それは、BJの機能の全てを「ショック吸収」に当てるというもの。
衝撃緩和―――ショックアブソーバーのリミット限界までの強化だった。
あの人の攻撃をシールドで受け止めた際、私はその衝突のショックで情けなくも意識を刈り取られた。
今の私の体力じゃ、あの衝撃にすら耐えられない。 それに対するささやかながらの処置。
そのショック――一発だけなら、単発なら我慢できたかも知れない。
でもあの人は連打してくる。こちらが力尽きるまで。
その途切れない射撃を前に、例え攻撃自体を全て防壁で弾き返せたとしても
内部に響く衝撃で私の体内が潰されてしまう。 言うなればボディブローを延々と打ち込まれるようなものだ。
うわ……想像もしたくないよ…
そんなのに、とてもじゃないけど耐えられる自信が無い。
だからこれは少しでもその衝撃を殺し、意識を持っていかれないための苦肉の策
当然そうすると、ジャケットの他の機能は著しく低下する。
内部は守れても外部からの攻撃に対しては脆くなってしまう。
つまりはバリアが破られた際、その刃は一切の抵抗なく私の体に突き刺さると言う事になる。
まあ、でもこれはどっちみち……だね。 あの攻撃をBJの強度で弾き返すのは難しいし
それならいっそこういう極端な仕様もありかなって思ったんだ。
つまり要約すると今の私は……………
一秒持つかどうかも分からないオート作動のバリアと
耐久力ゼロの真綿で出来たクッションを着込んで、あの凶器の嵐の前に立っているという事。
一見すると無謀。無茶。自殺行為。
でもね、悪手は状況次第では妙手―――転じて最善へ成り得るの。
全ては後ろに控える騎士………セイバーさんを信じての選択だった。
――――――
それは確かに有り得ないほどのデチューンであっただろう。
己を守る事も弾き返す事も適わず、鎧すら脱ぎ捨てて、彼女は刃の豪雨に身を晒したのだから。
それでも今はそうするしかなかった。
全てを捨てて高町なのはは一つの機能として作用する事を選ぶ。
即ち一秒でも、一瞬でも良い。
自分たちに降り注ぐ全ての凶刃を「一時その場に留める」という、つまりは―――盾としての機能。
先になのはが宝具掃射を受けた際、なのはのシールドに無数の剣が突き立った様をハリネズミと証したが
今はもうそれどころの騒ぎではない。
まるでイガグリのように円形のバリアに突き立った剣山は見る者の総身を震え上がらせる程の惨状だ。
パリーーーーーーーーーーン―――――ッ!
無数の剣に晒されたバリアは結果、一秒を持たずして砕け散る。
当然の帰結だった。 そのバリアで男の攻撃を止められたのは一瞬。
あとは何の術も持たない術者に凶刃の雨が降り注ぐのは必定――――
だがその瞬間…………なのははバックステップ!
バリアの展開を全てデバイスに委譲した魔導士は
目の前の防壁が破られるタイミングに合わせて後方に飛び退る、その一点のみに神経を集中させる事が出来た。
当然、そんなささやかな回避行動で英雄王の魔矢から逃れられるわけがない。
攻撃範囲外まで跳び退る前に全身を串刺しにされるのが関の山。
だが、今まさに宝具が降り注ぐその位置に―――なのはと入れ替わるように疾風の剣閃が翻った。
「ッッッッッッ!!!!!」
ぎぃぃぃぃぃぃん―――ッ!
なのはの後方2、3mにて、彼女が押し留めた凶器を全て弾き飛さんと待機していた者。
「剣」としての役割を担った者がいた。
謂わずと知れた剣の英霊――セイバーである!
――――――
まさに視認を許さぬ刹那の連携であった。
両者の息が少しでも合わなければ、ラインがズレれば、スピードが合わなければ
決して成り立たなかった脅威のコンビネーション。
並走する両者が交わる度に「それ」は起こった。
1投必殺のはずの宝具の射出を完璧に防ぎ、打ち落とす。
一度に数十本単位で弾かれる英雄王の剣、槍。
その光景こそ異様――――蹂躙の牙を打破する神域の御技!
きっかけを作ったセイバーの判断こそ秀逸だった。
数多の戦場を無敗で駆け抜けた采配は微塵も衰えず
もし二人が先の優位にすがり、元のポジションでバビロンの一斉射を受けていたならば―――勝負は一瞬で決していただろう。
先の攻防にて最良のフォワードとバックとして機能した二人は今、ここで新たなる布陣を敷いていた。
つまりは―――最強の「剣」と無敵の「盾」である!
――――――
「お見事…」
「そちらこそ。 見事な手並みでした」
額から滴り落ちる汗もそのままに、肩で大きく息をしながら
互いのファインプレーに賞賛を送る両者である。
先の戦いでは倒すべき敵として同じように室内に雪崩れ込んだ彼女達が
今度は味方同士で明り一つない屋内にその身を移す。
そのまま相手の死角となるフロアの柱に身を潜ませる二人。
まるで綱渡りのような生還劇であった。
互いの類稀なるセンスと力量。そして運。
ありとあらゆる力が作用して今、曲がりなりにもあの英雄王を相手に戦線を維持しているのだ。
「とはいえ………」
そう、状況が依然不利なのは言うまでもない。
何とかバビロンの初撃を凌いだのは良いが、しかしそれで戦いに勝てるわけはない。
言うまでもなく戦いは攻めなければ勝てないのだ。
両者の顔にはやはり疲労の色が濃くなっている。
互いにベストコンディションに程遠い身での連戦。
当然、長期戦は不利―――
「セイバーさん…」
外の様子を伺いながら柱を背に並んで座る騎士になのはが話しかける。
「色々作戦を考えてみたんだけど……意見を聞かせて貰える?」
今、二人がしなければならないのは反撃。求めるのはその機会。
狭い柱に身を寄せ合うかのように身を隠し、肩や鼻先がぶつかるような距離での作戦会議である。
しかしながら生前……そしてサーヴァントになってからも
このように戦場において「対等の目線」で戦術を交わし合う事は実は初めての彼女。
不思議な感覚に戸惑うセイバーだった。
「あの………いいかな? 言っても」
「あ、え? は、はい……大丈夫です、ナノハ。」
「まずは………セオリー通りに攻める手なんだけど」
この状況―――
決して芳しくない戦況を前にまるで怯えない魔導士の表情。
そこに確固たる心強さを感じつつ、騎士はなのはの言葉に小さく頷く。
「セイバーさんはあの人と交戦経験があるの?」
「ええ。 過去において数度。」
「じゃあ、あのフルバーストのリロード時間とか弾数の大まかな数値とか分かるかな?」
「…………それを知ってどうするというのです?」
訝しげな顔を向けるセイバー。
対して少し俯いた後、はっきりと言葉を紡ぐなのは。
「うん。あれと打ち合う際の参考にさせて貰おうと思って」
「なっ……ゲートオブバビロンと打ち合う!? 正気ですかナノハ!?」
「無理すれば、ね。 拮抗させる事は可能だと思う。」
サラリととんでもない事を言われてあんぐりと口を空けるセイバー。
確かにこの魔術師の火力は凄まじいの一言だが―――
まさかアレと正面切って殴り合いをするなどという選択を下す人間がいるとは…
「だけど後が続かない。 当然、永久に撃ち続けられるわけもない。
だから本当に全力全開の打ち合いになった場合、重要なのは………」
「どちらの弾が先に尽きるか、ですか?」
「もしくは途中で息切れするかだね。やっぱり射手の弱点は皆、同じだと思うの。
ことに彼だってあれだけのフルバーストをずっと続けられるはずは無いし……
相手の射撃の性能が少しでも分かれば、割り込んで何とか良い勝負をしてみせる。」
何と大胆な………
改めてこの魔導士の手腕と勇猛果敢な魂に驚かされるセイバー。
だが、しかし――――
「仮に相手のフルバーストを私のそれで相殺出来た場合……
向こうは攻め手を失うけれど、こちらにはセイバーさんがいる。
なら相当プレッシャーをかけられるんじゃないかな? どう?」
「ナノハ」
ここで騎士が彼女の言葉を遮った。
確かにセオリー通りの良い手段だ。
ガンナーの全門斉射は当然、目の前の敵に大打撃を与えるために使用され
求められる成果は完全撃破か、少なくとも6~7割以上の殲滅だ。
故にそれと拮抗される戦力が相手側にあるだけで―――その力は容易く相殺されてしまう。
今の敵の攻撃をほぼ無傷で凌げた事も彼女は考慮している筈。
あれほどの100発以上の一斉射撃。相当の弾数を消費しただろう、と。
あそこまでの規模の一斉射を何度も繰り出せるはずはないし
案外、今の攻撃で敵の魔弾の残りが怪しくなっているかも知れない。
セオリー通りならばカウンターのチャンスは案外近くに―――と、そういう意図で立てた作戦なのだろう。
「弾切れは――無い」
故に…………彼女の考えを一言で否定するセイバー。
…………………………
二人の間に沈黙。
言葉に詰まる高町なのは。
射手として生き、その道に精通する自分にとって
今、あっさりととんでもない事を言われた気がした。
微かに目を見張り、騎士の顔を見やり、確認の意を込めておずおずと口を開く。
「…………無い、の?」
「ありません。残念ながら」
「……………」
セイバーを眺める魔導士の顔に呆然としたものが混じる。
そんなバカな、という感情が瞳に宿ってしまうのも無理からぬ事。
どんなに燃費の良い兵装でも射撃である以上、打ち続ければ終わりが来る。
それが遠距離主体のセオリー……否、常識だ。
その弾切れが――――――無いなどと。
ならばあの頻度の射出攻撃を彼は永久に打ち続けられるという事になってしまうではないか?
「そっ、か………じゃあ、しょうがないよね」
再び思慮の姿勢に入る魔導士である。
そこで無駄に疑問をがなり立てて時間を浪費したりはしない。
騎士がこの局面で偽りの情報を出す筈が無いのだから、そこに疑問や論議を持ち出す必要性は皆無。
不可能となった案はきっぱりと切り捨て、頭を切り替えて望む彼女である。
(頭の良い人だ……)
戦士、将、そして参謀としても優秀に過ぎるその姿を見て
つくづく感嘆させられるセイバー。
「厳密には弾切れはあるのかも知れないが―――」
「え?」
そう、かのサーヴァントは有史以来の神話にその名を記されている宝具。
武具や防具。アーティファクトの類。その悉くを所持しているという。
その総数は1000、2000に届くかどうか、騎士に知りようもないが
それらを―――全てを使わせる事が出来れば、あるいは弾薬不足を誘えるかも知れない。
だが、冗談ではない………
どの道、あんなモノを1000発も撃ち続けられては
疲弊している二人が耐えられるわけがないのだから無為な情報以外の何者でもないだろう。
「――試してみますか?」
「……却下かな」
「賢明な判断です」
「だがナノハ。先ほどの策―――後半は賛成です。
私が唯一、あの男に迫れるのが剣技……接近戦ならば活路を見出せる。
故に何とかあの男に近づき間合いを犯す、その隙を作れれば――彼とて打破出来る筈だ。」
いかなセイバーでもあの弾幕を正面から掻い潜るのは不可能。
だが近づいてしまえば――この剣の英霊の聖なる斬光を阻めるものなどこの世には存在しない。
ならば故に、ここで高町なのはの支援放火―――センターとしての才覚が求められる。
「結局はセオリー通りか………
隙……弾切れが望めないなら正面から打ち合っても無駄。
でもどの道、あの射出を止めない事にはお話にならない。
なら、どこかでセオリーの裏をかいて行くしか無いんだけど…」
魔導士がふと――――窓の外を見る。
(今は………止んでる…)
辺り一面に空襲のように降り注いでいた爆撃――――
先程まで正視に絶えない地獄と化していた外は、今は取りあえずの落ち着きを見せている。
(トリガーを引いたからと言って永続的に降り続くわけじゃないんだ……
発動=任意である以上、彼の思考の上を行く奇襲を決められれば、あるいは…)
「―――――いつまでコソコソと隠れているつもりか」
「「!!!!」」
思考に思考を重ねる魔導士とそれを見守る騎士の耳に
離れた距離をまるで感じさせない男の声が響く!
その外――――彼女たちの逃げ込んだ10数回立ての雑居ビル。
その見上げる建物を前に、黄金のサーヴァントが悠然と立っていた。
「ナノハッ!!!」
「っ……分かってる!」
空間がぐにゃりと歪む!
期せずして篭城戦の構図を描く魔導士!
(でも……どのくらい持つか…)
柱を盾にしつつ二階の窓からレイジングハートの砲身を男に向ける高町なのは。
その視界に再び広がる王の宝物蔵。 男の左右上空、あらゆる空間が歪み
そして浮かび上がる波紋の中から――――刃、刃、刃、刃、刃、刃刃刃刃刃!!!!
なのはが戦慄に震える身体を律するかのように短い吐息を漏らす。
その威容。その強大さはやはり何度目にしようと決して容易く受け止めきれるものではない。
あんなモノが永続的に続くと聞かされた後では尚更だ。
具現化した王の力は男の在り様そのもの―――
天上天下に我一人。 無限の宝具こそ彼の軍勢。
開放されたゲートオブバビロン第二陣。
闇夜に怪しく輝く真紅の目。
定めた標的は………既に決まっていた。
男の視線となのはのそれが合った瞬間―――彼女の総身にゾクリと! 特大の寒気が走る!!
………………
「ミスった……! 馬鹿だ私は!」
「メイガスッ!! 」
既に「それ」を感じたセイバーが魔導士に向かって叫ぶ!
「セイバーさん! 時間がないから要点だけ!
まずセイバーさんが、、、それから、、!!!!!」
なのはが矢継ぎ早にセイバーに作戦を説明する。
彼女にしては珍しく焦燥感を隠そうともしない。
火急の事態での拙速な指示だったが、何とかその趣旨を理解する騎士。
状況は一刻を争う!
柱を盾にするかのような体勢で篭城の構えを見せていた二人は
直後、飛ぶように立ち上がり―――
出口の窓へと………全速力で走っていた!!
――――――
前の戦いの舞台となったメインストリート。
高層ビルが連なるように立ち並ぶ一区画は今や、見るも無残な瓦礫の山と化している。
その惨状は他ならぬ彼女達、高町なのはとセイバーが全力で戦った事による結果であった。
Sランク魔道士と英霊のぶつかり合いがどれほどの破壊をもたらすのか。
その力の前では巨大な高層ビルなど容易く灰燼と化す事を―――自らの手で実演して見せたこの二人。
そう――――建造物など、塵芥同然
ならば今、二人の前に姿を現した敵はそんな彼女らを遥かに上回る最強の英霊だ。
そのような反則を相手に古びた雑居ビルに逃げ込んで防衛戦を仕掛ける―――
あの総火力――
あの破壊力は――
こんな建物に篭もっての篭城など――
――― 何の意味も為さない ―――
篭城戦など成り立つわけが無い!
血が滲むほどに唇を噛む高町なのは。
この期に及んで敵の力を過小評価してしまった、最悪の判断ミス。
「闊破せよ―――ゲートオブバビロン」
歌うように王が号令を下した瞬間―――
鎌首をもたげる凶刃の群が標的としたのは彼女らの立て篭もる2階部分ではなく
10階弱、高さ40mほどの建造物………そのビル全体だったのだ!
――――――
かつて世界をも屈服させた英雄王のその力。
たかがビルの1フロアを吹き飛ばすに留まるはずがない。
闇夜に響き渡る轟音の中、その魔矢がコンクリートの外壁を
骨子たる鉄筋を、居並ぶガラス窓を次々と砕き散らしていく。
窓を突き破って屋内に撃ち込まれた宝具がフロアに着弾した瞬間
その蓄えられた魔力により爆発を起こし、階層を奮わせる。
各フロアはさながら手榴弾をダース単位で投げ込まれたかのような惨状に陥り
その骨子、支柱を内部から吹き飛ばした。
ゴゴゴゴ、という重低音は謂わばその建造物の断末魔の呻き。
この時、王の財宝の総射出の時間は僅か数秒。
その数秒を以って―――眼前の建物は、建物であるという条件を余さず砕かれ……倒壊。
雑居ビルはもはや原型も何も無い瓦礫の山と化していた。
――――――
「……我ら二人を燻り出すのに大仰な事だな」
黄金の殲滅者によってもたらされた破壊劇。
その惨劇から逃れ、二階の窓から身を躍らせた白銀の肢体。
セイバーが丁度、ギルガメッシュを正面に見据える位置に着地する。
騎士が元いた筈の建造物をチラリと見やる。
全壊だ。跡形も無い。
この大仰な破壊は全て男の自己顕示欲を満たすがため。
己の力を誇示するためだけの行いに他ならない。
彼女の言葉にも、知らずそれを揶揄する響きが篭ってしまう。
「不足であったか? 流石は豪胆なるかな騎士王よ。
お前を迎えるに相応しい力を示してやったつもりだがな? セイバー」
「間違えるな英雄王……相手をしているのは二人。
私と、ナノハ――異国のメイガスだ。」
「ああ―――そういえばいたな。そんなモノも
姿が見えぬようだが恐れをなして逃げ惑ったか?」
傲岸な物言いに騎士の目が細くなる。
パートナーを愚弄されて黙っている彼女ではない。
「残念だなセイバー。
あのような取るに足らぬ小虫でも盾代わりには重宝したのであろうが?」
「彼女を甘く見ない事だ英雄王……ナノハは強い。
私や、場合によっては貴方をも打破する力をその身に秘めている。」
「ク、クク、クククク――――」
この自分を、大いなる英雄王をあのような矮小な存在が倒し得る?
目の前の女のまるで冗談のような妄言に「勘弁しろ」とばかりの嘲笑を口に宿すギルガメッシュ。
しかしてそれに対し、フッ――――と、セイバーも嘲りの笑いを返していた。
「どうやら忠告は無駄だったようだ。
何度、足を掬われようとその慢心をたたむ気はないと見える。
もはやソレは呪いの域―――幾度と無くその身を犯し、業腹を煮やした頃には手遅れ。
哀れなものだなアーチャー。」
英霊同士の舌戦が続く。
まるで相容れぬ二人の王の意地の張り合いは―――
「セイバー」
しかし男の一言で中断される事になった。
突如、愉悦の笑みの消えた顔で眼前の騎士を見る男。
逆鱗に触れたかと身構える騎士を前に―――
「お前は今―――何故、戦っている?」
唐突に……そんな疑問を投げかけていた。
――――――
「知れた事………この戦いを勝ち抜き、聖杯を手に入れ
我が悲願を叶えるため――そのために私はここに召還に応じたのだ。」
すぐさまに問答を返す騎士王。
燐とした様相。 微塵の迷いの無いその言葉。
救国の騎士の思い描く願いは、今も昔も変わらない。
「セイバー…………何故、気づかぬ?」
だがそれを受けた英雄王の口調に異質の物が混ざる。
「己の言葉の矛盾に―――」
眉をひそめる騎士。
何か言い返そうにも言葉を差し挟めない。
常に傲岸不遜、余裕の面持ちを崩さない男がこのような態度を取る事事態が極めて異様。
「もはや思考の余地すら奪われているというのか?
余興とはいえ、木偶人形と化したお前のあまりの醜悪さ―――正直、見るに耐えぬ。」
「また誑言か……? 口が回るのは結構だが―――」
「セイバー。 一つ問おう」
明らかに苛立ちを含んだギルガメッシュの言葉に戸惑うセイバー。
騎士の言葉を遮った男が、ゆっくりと一言一言を噛み締めるように―――
「我が足を掬われたというのは―――何時の話だ?」
――――――――――――今、核心を突いていた。
――――――
「……………………」
「我とお前が相対したのはこれで何度目か?」
「……………………え?」
最強の敵を前にしてその戦意を極限まで高めていたセイバー。
そんな彼女が――――呆けた声を上げてしまう。
「お前は何故、我が宝具………その全容を戦う前から識っていた?」
次々と浴びせられるギルガメッシュの言葉。
いつもの寧言と蹴り付ける事が出来なかった。
まるで呪言のようにセイバーの耳に入り込む。
それらが脳に入り、思考の楔に突き刺さり―――「ナイトの駒」を縛る枷を犯していく。
「――――お前は此度……何時の聖杯戦争に招聘されたのだ?」
戦場に揺ぎ無き姿で悠然と立つ騎士王―――剣の英霊、最強を冠するサーヴァントセイバー。
だが男のトドメの言葉を受けた最強のサーヴァントは今、完全に………その思考ごとフリーズしていた。
「わ……私は―――」
焦燥の極みに堕ちたセイバーと、フンと鼻で嘲うような仕草を見せるギルガメッシュ。
その膠着した戦況を―――
「シューーーーーーーートッッ!!!」
50近い桃色のスフィアの爆雷音が切り裂いた!
「むっ―――」
「………!!!」
英雄王の傍観とセイバーの焦燥。
二人の間を支配する静寂をブチ壊す壮絶な爆撃!
それは闇夜の空から撃ち落とされる速射砲!
バビロンもかくやという規模で展開された高町なのはのアクセルシューターが英雄王に向かって降り注いでいたのだ!
「雑種の分際で王の会談の邪魔をするか!」
対話を中断された英雄王が怒りを露に頭上を見やる。
上空、白き法衣をはためかせ、縦横無尽に舞い踊る空戦魔道士の姿が―――
―――無い?
否、見えない?
夜空は暗闇にして曇天。
その上空のどこを探しても、今の射撃を行った筈の魔導士の姿が無い。
「――――チッ」
小賢しい、と舌打ちする男。 その光景から状況を読み取るギルガメッシュである。
夜空に溶けるようにたゆたう雲の所々が散らされたように穴が開いている。
要は魔導士の姿は―――上空の遥かな上空。
浮かぶ雲の遥か上に舞い上がり、その上からの爆撃を敢行してきたという事だ。
そしてその攻撃に意識を引き戻された騎士の少女。
そう、この攻撃こそ英雄王を打破するために打ち立てた二人の連携、その合図っ!
「だあああああああああああっ!!!」
「ぬっ!――セイバー!」
なのはのシューターがその頭上に見えた瞬間
少女は止まっていた思考を戦場に戻し、騎士王の顔を取り戻す。
「―――凡庸な」
上と下同時に仕掛ける波状攻撃。
しかしその程度の急襲など男を脅かすに足らず。
英雄王の周囲の空間が歪むこと三度―――またしても空けられる王の宝物蔵。
ゲートオブバビロン第三陣!!!
空と陸から王を侵さんとする愚か者に対し、その蹂躙の刃が牙を研いでいた!
――――――
まずセイバーさんが……出来るだけ正面からあの人の注意を引き付けて欲しいんだ…
プレッシャーをかけるでも舌戦を仕掛けるでもいい。
手段は任せるよ。 危険だけど、無茶をしない程度で。
そして私が空からシューターを降らせるのが合図……
それに合わせて正面から突撃!
――――――
ビルの崩落が始まる寸前に飛ばしたなのはからの指示。
それを彼女――白銀の騎士は忠実に守る!
魔弾発射からのタイムラグをほぼ感じさせない絶妙のタイミングで
火花が飛び散るかのような踏み込みを見せるセイバー。
だが、その両者に襲い掛かる王の財宝―――
無限の狂刃がセイバーの剣を、なのはの砲撃を悉く遮る!
今まで爆撃として降り注いでいた宝具の雨は地上のセイバーにはそのままに
遥か上空にいるなのはには凶悪極まる対空砲として、二人に微塵の反撃の隙も与える事は無かった。
あの宝具を前には空陸多方面攻撃など何の意味も無い。
攻撃……否、殲滅の有効範囲はまさに戦場全体に至るのだ。
多方面に展開しようと、その狂気の渦から逃げられないのは道理。
そのような事、既に理解していたからこそ二人は初期の前・後衛配置から剣&盾のシフトに変えたのではなかったのか?
地上のセイバーが突進を阻まれ、右に左に逃げ回る。
空に向けて撃った100連ロケットランチャーの如き宝具の速射砲が
王に迫り来るスフィアを残らず蹴散らし、上空の雲を突き破った。
その向こうで飛び回る魔導士への命中の程を知る術は無いが―――
男にとっては取るに足らない女が直撃を食らって堕ちようが、必死に逃げ惑おうが大して興味は無い。
王の意のままに破壊の限りを尽くすゲートオブバビロン。
その第三陣が陸と空を存分に犯し尽くした頃――蹂躙はようやく終わる。
宝具解放の余韻に浸る英雄王。
眼前は数多の剣が突き立ち、抉り尽くされた地上。
そこに目を向けた、その時―――――
男と対峙しているはずの騎士。
セイバーの姿が…………忽然と消えていた。
――――――
正面から突撃!
…………すると見せかけて
適当な所でその場から離脱。
もう一度姿を隠して欲しいの。
つまりはフェイント。
仕掛けるフリ。
恐らく初めの急襲ではあの人の弾幕を破れない。
あの人の予想を遥かに上回る決定的な何かをしない限り
彼からクリティカルを奪う事は出来ない。
だから………
――― 私が隙を作る ―――
必ずセイバーさんに繋げる。
だからセイバーさんはそれまで本格的に仕掛けず
「その時」が来たら全力で隙を突いて欲しいの。
大丈夫、任せて……
やって見せるよ……絶対に!
――――――
NANOHA,s view ―――
「セイバー! いつまで遊戯を続けるつもりだ?
姑息な策を労し、この我を前に姿を眩ませるなど――
本来のお前の剣ではあるまい?」
苛立ちを露にして声を荒げる彼。
意識の大半はやはりセイバーさんに向いている。
敵として認識されたとはいえ――相も変わらず、あの人にとって私は戦力外。
「…………」
……………好都合。
無視してくれるんなら願ったり敵ったり。
奇襲っていうのは即ち、眼中の外からの一撃。
その状況を自分から作ってくれるなんて、これ以上望むべくも無い状況だ。
その緩みとも取れる行動は当然、彼を支える絶大な力あっての事……
私が何をしてきても正面から弾き返すという絶対の自信の裏付けなんだと思う。
(…………通用するのかな? 私の戦技…)
レイジングハートは何も言わない。
今、音声を出せば気づかれる。
そして私も微塵の身動きもせずに―――その瞬間を待つ。
静かに、ただ静かに息を整える。
やる事はいつだって一つ………
――― 全力でぶつかるだけ ―――
あの敵が、その視線が、離脱したセイバーさんの姿を求めて彷徨う。
そして「そこ」から完全に意識を外した今―――
私のいる位置こそ彼にとっては完全に死角!
(今だ…!!)
手の平が汗で少し湿っている。
その滑るグリップを握り直し、レイジングハートを起動―――
「……………ふぅ、」
呼吸と意識がシンクロしていく。
あの黄金の背中が、今……
―― 十数歩で届く距離にある ――
その「目の前」の強敵に対し――――
「……………たァっっっっっ!!!!」
その身を起こし、瓦礫を巻き上げ――
私は相棒の杖を両手に構えて敵に飛びかかっていた。
――――――
――――――
頑ななまでに高町なのはを「敵」と見なさない英雄王。
あのセイバーと互角の勝負を演じた彼女の実力が足りていない筈が無い。
それでも、だ。 男は魔導士を認めない。
それはこの世に不並の存在として生まれた彼のみが持ちえる、謂わば覇王としての傲慢な矜持。
天下に唯我独尊を体現する自身と比肩し得る存在とは即ち、我と同じ強大な王であるか。
もとい我の思考に付いてこれるだけの精神の持ち主か。
いずれにせよ、その域にいないものが自分と同じ席に立ち同列に語る事など―――男は絶対に許さないのだ。
故に男の視界にあるのは未だに騎士王のみ。
ギルガメッシュが隠れたセイバーを探し求めて「それ」に背を向ける。
「それ」とは、二陣目の宝具開放で男が手ずから潰した―――
――― 雑居ビルの成れの果て ―――
もはや建造物の様相を留めぬ瓦礫の山以外の何物でもない
戦術的にも景観としても機能を果たさない、この場にあって全く意味のないモノ―――
―――であるはずだった。
だからその瓦礫の山の一区画が突如、爆発したように舞い上がり
そこから人影が宙に身を躍らせる光景を予想出来た者はいない。
「――――――」
ギルガメッシュも、待機していたセイバーも予想できない。
先ほどの魔導士の宙空からの爆撃―――
誰もが彼女は天高く舞い上がり、その身を雲の上に置いていると信じていた。
そんな空にいる筈の人影が、そんな所から奇襲を仕掛けてくるなど有り得ない!
(ナノハ……何時の間に…!)
どこかによりその光景を見据えていたセイバーも息を呑む。
彼女が未だ倒壊したビルの下におり、瓦礫と残骸にその身を埋めながら
遠隔操作で50近いスフィアのみを天空に飛ばして爆撃を行った事に彼らが思い至る頃には――
魔導士は己が行程の8割を、既に達成していた!
「ッッッッッッッッ!!!」
「―――――!」
あの一瞬で瞬発的に叩き出した高町なのはの戦術。
それがこの場にいた全ての存在の裏をかく。
気合を飲み込み、迫る魔導士!
向き直る英雄王の心胆にも微かながら驚愕が混ざる!
「ハエの次はモグラの真似事とは! ……つくづく卑賤な雑種よな!」
「ハエでもモグラでも好きに呼べばいいよ。
それで勝てるなら安い物だから……!」
当然、Sランク魔導士の防護フィールドとて限界はある。
40mを超える建造物の倒壊。その瓦礫をモロに被っては高町なのはとて無事に済んだ保障は無い。
故にセイバーを窓から脱出させた際、なのはが向かったのは連絡通路。
A館~B館、本館~別館といった二つの建物を繋いでいる筒状の橋のようになっている通り道。
そこならばビル本館の残骸をそのまま被る事は無い。 降り積もる瓦礫とて知れたものだ。
その地点に目をつけた高町なのはは―――自分も脱出したと見せかけてそこに身を移し、雑居ビルの倒壊に自身を任せた。
体表面のフィールドを全開にして自ら生き埋めとなったのだ!
場所的に1フロア分程度の残骸しか落ちてこないとはいえ、その胆力はもはや20歳の女性相当のものでは断じて有り得ない!
そしてその戦技、華麗にして豪壮と謳われた彼女が、文字通り泥を被ってまで叩き出した戦果――決して軽いものではない!
「たああああああァァァッッッ!!!!」
高町なのは会心の奇襲。 もはや気合を内に秘める必要もなし。
裂帛の咆哮を上げて最強の英霊に迫るエースオブエース。
纏う術式はフラッシュインパクト!
ACSドライバーと並ぶ彼女最速の近接攻撃魔法だ!
「卑しいその身をこれ以上、我が眼前に晒す事は許さぬ!」
騎士もかくやという踏み込みに間合いを犯され、バビロンの内側に魔導士の侵入を許したギルガメッシュ。
まさかセイバーではなく遠距離主体の魔導士に踏み込まれるなどと男は思慮の片隅にも入れていなかった。
故にその怒りはいかばかりのものか。
尽きせぬ憤怒と共に彼が侵入者を討ち果たそうと蔵から取り出したのは―――
男の心象を象徴するかのような赤銅色の輝きを放つ長剣。
黄金の手甲に握られたその剣を鼻先にまで迫った魔導士に対して無造作に振るう。
途端、ゴォウ!!という空気を震わす烈風が巻き起こる。
それと同時に男の右手に握られた剣――その刀身が、膨大な轟炎に包まれたのだ!
「っ!!!」
炎の魔剣フレイム=タング――――
炎の魔神が地から湧き上がるマグマを以って鍛え上げたといわれる、火の属性をその身に秘めた宝具。
焦熱の波動が、男に突進する高町なのはの風になびく白い法衣、その全身を包み込む!
「フン―――そのまま炭になるがよい! 雑種ッ!」
悠然と吐き捨てる英雄王。
僅か一薙ぎ―――男の懐を脅かす事に成功したかと思われた矢先の残酷なまでに呆気無い瞬殺劇。
その城壁は高く、途方もなく高く。 王の懐は深く、あまりにも深かった。
男の無尽蔵の宝物蔵。
中から取り出されたまさに灼熱の炎が空間を焦がし、王の領域を脅かした不埒な輩を火刑に処したのだ。
その一振りに確かな手応えを感じつつ、自身の手を煩わせた者に対する憤りを一先ずは晴らすギルガメッシュ。
―――燃え盛る炎
―――あらゆる生き物を燃やし尽くす地獄の爆炎
その只中―――
「―――何、?」
白き翼を羽ばたかせ、直進する者の姿を認めるまでは!
烈火の波動に包まれた空間の中央にボッ!という音と共に穴が開いた!
大気を纏って姿を現すは空のエース!
(炎の剣……でも、これならシグナムさんの攻撃の方が激しかったよ…!)
燃え盛る炎は彼女の翼を灰にする事かなわず。
ブスブスと法衣の裾が焦げてはいるものの、BJの耐熱、対環境適応機能が爆炎を遮る。
魔剣の火炎など物ともせずに突き進み、男の迎撃を退けてまた一歩―――王の間合いを犯す高町なのは!
「まずは、一撃!!!」
さあ、近接戦だ。
滑空により男の頭上へと舞い上がり、レイジングハートを振り上げ叩き落す魔導士。
期せずして射手―――アーチャー同士の至近距離の殴り合いと相成ったこの戦況。
「こ、の―――無礼者がぁッ!!!」
それは英雄王にとっては許されざる屈辱だ。
手に持つ炎の魔剣を目の前の女に叩き付けるギルガメッシュ。
その瞳に初めて、彼女に対しての明確な殺意が灯る。
なのはの杖とギルガメッシュの剣がその宙空で激突し――金属と魔力の衝突音が辺りを振るわせた。
「えええいっ!!」
「雑ァァッ種ゥゥ!!!」
打ち合いの強烈な反動。
そして鍔迫り合いによる相手の膂力が伝わってくる。
手首から肩、そして全身にまで至る負荷に歯を食い縛って耐えるなのは。
魔導士の攻撃は魔力に拠る場合が多いとはいえ、やはり肉弾戦で男の戦士をねじ伏せるには彼女の腕は細すぎる。
(でも、セイバーさんほどじゃ……ない!)
だが、そう。 先の剣の英霊の斬撃に晒された彼女にすれば男の剣とて安いもの。
打ち倒す事は至難でも、最悪この鍔迫り合いを拮抗させるだけでも良かったのだ。
男の打ち込みは膂力こそなのはを上回るものの、とても術技立てられた剣技とは程遠い。
1000を超える戦歴を戦い抜いてきた高町なのはならば十分に裁ける攻撃だ。
相手の赤く光る剣を目の前に拝んだまま―――
そしてそれよりも真紅に光る相手の瞳をキッと眼前に見据えたままに彼女は高速で術式を編み上げる。
自分の役目を完遂するために。パートナーに繋げるために!
「ハ、――――」
だが―――――――その時、
なのはの杖と鬩ぎ合っていた男の右手剣。
それを持たない左手が――
突如、虚空に現れた波紋の中にズブズブと入っていくのだった。
――――――
「!!!」
なのはの目が見開かれる。
曲がりなりにも拮抗していた力比べの最中に取った相手の行動。
示す意味はただ一つ!
(新しい武器!?)
総身に戦慄を走らせる高町なのは。
そんな危惧の通りに男は自身の所持する無尽蔵の財宝から新たな宝具を取り出す。
しかして、なのはの眼前に現れたそれは―――紅く怪しく輝く長槍だった。
期せずして魔剣と謎の長槍の二刀流となった男。
生粋の騎士ならば今の隙に相手の剣を跳ね上げ、一撃を入れることも可能だっただろう。
だがそこはやはりアウトレンジ主体の魔導士の悲しさだ。 技量があと一歩追いつかない。
(どう、しよう……!?)
相手が二刀になった。
当然、左の長槍が間を置かずしてこちらの身を貫きに襲ってくる。
だが相手をここから移動させるわけにはいかない。 この拮抗を崩すわけには行かない!
思考が許された時間は一瞬―――そして時を置かずして襲い来る長槍の一撃!
(バリア……ここは耐え切る!)
槍は本来こんな近接戦で、しかも二刀流の一刀で使う武器ではない。
相手の利き腕がどちらかは分からないが
どちらにせよ間合いを違えた片手持ちの槍などで大した打突力は望めない。
ならば槍はフィールドとBJの強度で凌いで、この力比べをフルブーストで一気に押し切る!
そして相手の攻撃が――――
「っ!!?」
――――その穂先が眼前に迫った………刹那
なのはの心胆に絶対零度の如き寒気が走った。
ヘビが獲物を飲み込む際に見せる双眸―――不気味な光沢を放つ瞳
それは相手の目を間近で見たからだった。
魔導士を苛む特大の悪寒。それは紛れも無い死の予感。
敵の意識がどこにあるか? 敵の力点がどこに集中しているか?
その真実に、彼女は「貫かれる」瞬間に気づく!
(本命は―――左ッ!? しまった!!)
男が紅き長槍をこれまた無造作に突き出す。
体重も乗っていない。腰も入っていない。 手打ちもいいところの打突だ。
こんなもので相手を、それも高い防御を誇るなのはのBJを抜けるわけがない。
にも関わらず、全てを理解した高町なのはが炎の魔剣との力比べを放棄し
単にその場で突き出しただけの槍を、身を捻って避ける。
しかしてその槍の先端が、半身になったなのはの胴体を掠った瞬間―――
「くっっっっ!!??」
魔導士、高町なのはを襲った驚愕こそ埒外!
彼女をして焦燥に落とし込む有り得ない事。 信じ難い異常事態。
男の繰り出したその槍の穂先が掠っただけで
取るに足らない筈の攻撃の一体、何がどう作用したのか?
とにかくその攻撃がなのはの身体を保護する重装甲の鎧。
彼女……否、ミッド式魔導士の生命線とも言うべきBJを粉々に破砕――
いや、強制的に解除させていたのだ!
飛散する白いBJ。
その飛沫が宙に飛び散り、桃色の魔力の残滓となって空気に溶ける。
空中に身を浮かせながら唖然とするなのは。
その惨めに狼狽する顔を見やり、フンと鼻で嘲うギルガメッシュ。
その男の左手に光る赤き魔槍こそ―――
破魔の紅薔薇・ゲイジャルグ―――
突いた対象のありとあらゆる魔術的要因を強制的にキャンセルさせる宝具の槍だ。
かつて第四次聖杯戦争にて槍兵のクラスを務めた英霊―――
ケルトの英雄、フィオナ騎士団。 二槍の豪傑ディルムッドオディナ。
彼の持つ宝具――その原典であった。
――――――
鍔迫り合いに負けたなのはの鎖骨付近に、男の右手に携わった灼熱の魔剣が押し込まれる。
「ッッッ!!? きゃあッ!!!!!」
その熱気に苦悶の声を上げる高町なのは。
デバイス一本を隔てた先に迫る業火の刀身。
まともに身体に押し付けられれば大火傷では済まない。
凄まじい熱気にチリチリと、前髪の先端が焦げる。
「く、く……ふっ!!」
鎧を破壊され、拮抗を崩された。
甘く見たなどという事は決して無いが、相手の剣技が自分でも何とかなると見越した
その安直さが招いた結果に彼女は歯噛みせずにはいられない。
中空に位置したまま、なのはは二刀を打ち込まれた衝撃に逆らう事無く反転。
体を入れ替える形で男の二刀から逃れるも―――英雄王の目の前にその身を完全に晒していた。
ギルガメッシュのクロスレンジの力量がセイバーに及ばない事は事実。
ならばそれを前提に男に近接を仕掛けた高町なのはの判断は―――半分正しくて、半分間違っていた。
確かに「技量」の面で語るならば彼女と英雄王が切り結べない理由は無い。
だがセイバーと英雄王がクロスレンジで相対した場合、時にその騎士王さえも近接で捻じ伏せられる場合がある事を……魔導士は知らなかったのだ。
力量や技が及ばない……? 否、王にそのようなものは必要ない。
次々と繰り出してくる己が所持する武装の数々。
それこそが小手先の技術や技量を凌駕する男の最大の武器。
王の蹂躙―――英雄王ギルガメッシュであるが故の戦闘スタイル。
その威力。バリエーション。特殊効果。
無尽蔵に繰り出される凶刃は、忘れてはならない。 その全てが伝説の宝具なのだ。
打ち負かされ、完全に宙に「浮かされた」形になった魔導士に男のトドメの一撃が迫る。
持っていた二本は既に手から消え、黄金の手甲に収まるは新たなる三本目。
原罪=メロダック―――
メソポタミアの最も偉大な創造主という地位を、まさに強奪する形で奪った罪深き神。
その名を冠するこの剣は、選定の剣=カリバーン。
そして支配を与える樹に刺された魔剣グラムの原型となった宝具である。
殺傷能力などという秤で語る事自体、おこがましい程の威力を持つこの剣が
鎧を剥がされた目の前の魔導士―――そのか細い肢体を斬り伏せるのに不足などあろうはずもない!
「……っ!」
投げ出される形で宙に浮かされたなのはが剣を構える男を見る。
バリアブレイク? それともキャンセルか? いずれにしても――
(驚いた……何でもアリだ、この人。
もう少し何とかなると思ったけど……仕方が無いっ!)
相手が歪な光沢を放つ剣を片手上段に構える。
空に身をおけばセイバーの攻撃すら捌く高町なのはだが、彼女とてこんな状態で敵の攻撃を食らえばひとたまりも無い。
剥き出しの胴体に剣を叩き落とされ、上半身と下半身が永遠の別れを告げる。
その結末を阻める手段が―――
(強引極まりない方法だったけど……今はこれしか思いつかないっ!)
―――たった今、編みあがる!
「バインドッ!!!!」
目をカッと見開いたなのは!
今まさに彼女の体に刃を叩き落そうとしていた英雄王に高出力のリング型バインドを叩き込んだのだ!
その四肢を拘束する手錠の如き拘束魔法は、なのはの使える捕縛型術式の中でも強度においては屈指のものだ。
しかも一度目と違い、近距離で十分な魔力を以って編み上げた渾身の手錠。
それがトドメの一撃を振り下ろそうとしていたギルガメッシュの手足を拘束し、男の動きを止めていた。
近接において英雄王に無尽蔵の宝具のバリエーションがあるのなら、高町なのはにはその拘束術式がある。
彼女を相手に足を止めて打ち合えば、その一撃を見舞う前にたちまちのうちに必殺のバインドで絡め取られてしまうのだ。
「我に枷など無駄だと言うのが分からぬか――」
だが男は全く動じない。
まるで小虫がまとわり付いてくるかの如き抵抗―――
我が滅びろと命じたというのに未だ卑しく足掻き続ける雑種。
その姿を前に英雄王の憤りは頂点に達していた。
ビキ、とその表情が怒りに染まり、両手足に巻きついたリングに一秒と持たずにヒビが入る。
「せめて痛みを感じさせずに逝かせてやろうという我の温情を仇で返す不逞の輩よ。
そこを動くな―――もはや貴様には苦痛の伴わぬ処断が下される事は無いぞ!」
殺気だけで人を殺せる人間がいるとするならば目の前の男はまさにそういうモノであろう。
心胆の弱い人間がその気に当てられれば、本当にそれだけで心臓が止まってしまうかもしれない。
そして、そのバインドが破られれば今度こそ高町なのはの運命は決する。
立て直すには少し遅い。 砲撃も間に合わない。
無防備な肢体に一撃――それで彼女の人生は幕を閉じる。
「…………」
だが―――そうはならない事を彼女は知っている。
もはや男の恨み辛み事など何の意味も無い。
勝敗は…………決した。
不恰好で、がむしゃらで、手段を選ばなくて、一人を相手に二人掛かり。
卑怯と蔑まれても仕方が無い。
それでもこれは生き残るための最善の措置。
「今ッ!! お願いッ!!!!!!!!!!!!!」
不意に襲ってきた暴漢に遠慮をする事は無い。
なのはの絶叫が闇夜に響き渡る!
自らの役目を果たした魔導士があらん限りの声を振り絞って叫んだそれこそ――
彼女のパートナーにバトンを渡した合図であったのだ!
――――――
陽動。援護。霍乱。奇襲。そして―――撃破。
二人が交互に波状攻撃を行い、相手の城壁、弾幕を一枚一枚剥ぎ取っていく。
基本をひたすらに踏襲した謂わばド直球の正攻法。
策と言われるほどに複雑なものでも神掛かり的な戦術でもない。
だが、ここに並ぶは互いに無敵と称された騎士と魔導士だ。
戦技、術技を極め尽くした者の正道は時に、他のあらゆる策を凌駕する。
まさに身体全体を叩きつけるように敵に挑みかかり見事、敵の動きを封じる事に成功した高町なのは。
職業柄、相手を捕縛するのはお手の物の彼女だが、今回の相手は骨が折れるどころの騒ぎではなかった。
受身すら犠牲にしての身体ごと叩き付けた全力の物取りは、BJを壊された事でクッションによるリカバーも望めない。
その身が今、落下に任せて地面に強打する。
「うッッ、………!!」
背中を強烈に打ち付け不自然な姿勢でアスファルトに落着した魔導士。
その全身に痺れが走り、衝撃に咳き込む。
無敵のエースがここまで形振り構わずに敵を束縛する事に全てを注ぎ
それでも稼げた時間は僅か一秒足らずであろう。
憤怒に染まった黄金の王が戒めを振り千切り、いとも容易く束縛から逃れようとしている。
連戦で痛んだ身体に残り少ない魔力。 今の彼女にはこれが精一杯。
そして――――これで十分!
己を出し切り、その身を地に横たえる痛々しい姿の高町なのは。
視線は今まさに自身に迫る眼前の英雄王の姿を―――ではなく………その後ろ!
彼女の喉から振り絞るような合図を受け、まるで四足歩行の獣の如く
極限まで力を溜めて場に待機していた剣の騎士に向けられている。
白銀の肢体が今、爆散したかのように弾け―――
セイバーが宿敵、英雄王ギルガメッシュへと踏み込んだのだ!
何度も飛び出しそうになった。
途中で二人の間に割って入ろうかと身を起こしたのは2度や3度ではない。
あの白い法衣姿が炎に包まれた時。 破魔の紅薔薇に脅かされた時。
必ずセイバーさんに繋げる
だが出会って間もない相棒は力を灯した瞳で、鋼の意思を込めた言葉で自分にそう約束した。
やってみせる……絶対に!
ならば誇り高き騎士として、戦場に立つ戦士として
その言葉を受けた以上、彼女を信じられなくて何がパートナーか?
故に奥歯が砕かれる程に歯を食い縛り、血が滲む程に剣の柄を握り締め
己を抑え、そして訪れた機会。 魔導士が命を賭して稼いでくれた絶対の勝機!
―――速く! より速く!!!
抑圧に抑圧を重ねた肉体と精神がセイバーの身に光に比するかの如き突進を敢行させる。
「―――! セイバァァ!!」
今宵、最大となる自身の窮地を察した王!
魔導士を仕留めようと進めた歩を止め、後方に向き直る!
右手に携えたメロダックはそのままに、今まさに眼前に迫り来る剣の英霊に向けて王の財宝の扉を開け放たんとする!
「爆ぜよ―――」
そしてそれよりもなお速く、セイバーが聖剣に纏う風を爆発的に開放。
風王鉄槌=ストライク・エアを自身の後方に打ち出したのだ!
吹き荒ぶ暴風は神速じみたセイバーの踏み込みを超神速の域にまで高め
英雄王がその宝具のトリガーを引く……否、その反応すら許さずに―――
一気にその決定的な間合いにセイバーの進入を許す。
ギルガメッシュが飛び込んできた騎士の体を薙ごうと原罪の剣を振り回す
しかしてそんなものは今更問題にはならない。
少女は風の加護を受けた踏み込みの勢いを全く殺さずに、英雄王のチェスト部分に肩口ごとブチ当たっていたのだ!
「ぬ……ぐ、―――!? おのれぇ!!!」
黄金と白銀の鎧同士が激突する凄まじい金属音が辺りに木霊する。
その衝撃で右手の剣を弾き飛ばされ、後方に数歩たたらを踏む王。
怒りと共に何とか踏み止まった体。 その足―――黄金の具足を………
セイバーの銀の具足が渾身の力で踏みつけたのだっ!
「なっ!? 一度ならず二度までもこの我を足蹴にッ!!」
「足蹴で済ます気は無い! 貴様はここで果てろアーチャーッッッ!!」
まるで掘削機のように両者の足がアスファルトにメリ込む。
猛るセイバー。 近づきすぎてその距離は本来の騎士の間合いではなかったが、十分だ。
あの黄金の鎧を一撃で断ち切るのは中間距離からの薙ぎ払いが望ましいが、元より男を一撃で倒せるなどとは思ってはいない。
その金の鎧を確実に砕き、男の身に刃が届くまで50連斬、100連斬――
力の続く限り神速の剣を叩き込むつもりだった。
乱打戦になれば自分も相手の宝具を食らうだろうが、構わない。
ハルペーの鎌でも竜殺しの原点でも好きなものを抜けば良い!
心臓と頭以外、どこなりとも抉れば良い!
その代わり剣の英霊の名にかけて――――戦友の作ってくれた必勝の機会を潰させはしない!
その確固たる意思が具現化するかのように少女の全身から立ち昇る。
まさに肉を斬らせて骨を断つ。
それは絶対に逃がさないという騎士の少女の意思表示。
ギリ、と噛み締めた歯の擦れた音が、その無限の剣舞の―――開始の合図!
完璧に英雄王の懐に入ったセイバーがその黄金の鎧に今………一撃目を振り下ろすところであった!
――――――
「………セ、セイバーさん…」
魔剣の炎に苛まれ、地面に投げ出された魔導士。
見事な御業で必勝の道筋を示した彼女であったが、無傷というわけにはいかない。
その身体の痛みに小さく喘ぐ。
(勝った………)
だが、これで終わりだ。
酷い有様ではあったがとにかく生き抜いた。
地面に尻餅を付いて倒れ付す体を何とか起こし――決着の瞬間を見やる彼女。
射手にとっては絶死の間合いとなる距離を完璧に犯したセイバー。
少女の腕前はなのはとてよく知っている。
あの距離で彼女の剣戟を凌げるはずが無い。
その刃が男の肩口に叩き込まれ、打ち伏せられる光景が彼女の視界にゆっくりと入ってくる。
……………………
そこで――――――
時間が…………止まった。
――――――
騎士の斬撃が男の身体に届くその一歩手前の光景だった。
(…………)
その光景を初めは正しく認識出来なかった魔導士。
もしかして自分は気絶したのか?と、彼女に呆けた誤認を与えたそれは――
止まるはずの無い騎士の動きが止まり
阻まれるはずの無い剣が男に叩き込まれずに空を彷徨い
そして―――
(…………………え、?)
地面に埋まった騎士王と英雄王の片足がアスファルトからズブズブと抜かれていく――そんな光景だった。
動きを封じていたはずのセイバーの足がみるみると持ち上がり
下になっていた金の具足が少女の足を無造作に蹴り剥がす。
(………!?)
時間の止まった光景で、静止した視界の中で、動けないはずの両者―――
その片方だけが自由に動いている?
(あ……あれ…?)
そんな違和感に途轍もなく不吉なモノを感じ、魔導士の肉体に無理やり力が灯る。
「ぐっ、……!」
だが一歩のところで体が軋む。
あのサーヴァントとの斬り結び合いは決して軽いものではなかったのだ。
覚醒した意識は身体機能を、その痛感神経をも覚醒させ
己の負った大小様々な負傷による激痛を呼び覚まし、なのはは苦痛に顔を歪ませる。
「な、何で……!?」
だがそんな事はもはや蚊帳の外だ。
懐疑の声を上げるなのは。 その視界に移るは――――
勝利に繋ぐ連撃を繰り出す直前で何かに阻まれ、止まっている騎士の剣。
そしてその目の前、何事も無かったかのような様相で自身の所持する王の蔵に手を入れる英雄王。
魔導士からは死角になってよく見えない少女のその全身に――――手足に。首に。胴体に。
無数の鎖が…………巻き付いていたのだった。
――――――
今や状況を完全に把握した魔導士の顔が見る見る蒼白になる。
痛む体に火を入れて無理やりに立ち上がるなのは。
「セイバーさん……!!」
焦燥を孕んだ声でパートナーに呼びかけ、その場に駆け寄ろうとする。
そんな彼女よりも三間は離れた地点で対峙する騎士王と英雄王。
決めの一撃を阻まれたセイバーが驚愕の声を上げていた。
「こ、これは………!?」
「ああ―――そういえばお前にコレを見せるのは初めてであったか」
自身に巻きつき自由を拘束する夥しい数の鎖。
全身を締め付けるように四肢を捕らえたそれが彼女の首や間接を圧迫し、セイバーは苦悶に顔を歪ませる。
「なに。神性を持たぬお前にとってはソレは大した脅威にはなり得まい。
その気になれば容易く引き千切れようが―――」
相も変らぬ余裕の笑みを称えて言い放つギルガメッシュ。
騎士王の突進を阻んだものこそ―――天の鎖エルキドゥ。
かつて天の牡牛を拘束したとされる黄金の鎖。
神をすら殺す暴君として君臨した英雄王ギルガメッシュの持つ、世界でも数少ない対神宝具の一つ。
言葉の通り、相手の神性が高いほどにその拘束力も高まるが
神性を持たぬ者、薄い者にとっては少々頑丈な鎖でしかない。
「はッ! あああァァァ!!!!!!!」
故にギチ、ギチギチ――!と、その体に鎖が食い込むのを一切構わず
渾身の力を込めて束縛から逃れようとするセイバー。
するとミチミチと黄金の縄が軋み千切れてゆく。
「そうだ――――足掻け。我を愉しませよ!」
だが―――――遅い。
嘲り笑う英雄王。
全ては眼前の男の手の上だった。
それは己を窮地に陥れた小賢しい策に対する、謂わば意趣返し。
目には目を―――相手の全身全霊の攻撃を全て、その力で受けきり、自分のされた事を余さず返す。
まさに強大な王として君臨した男。 人類最古の英雄王の戦の姿そのものだ。
「ぐっ……アーチャー!!」
怒りと屈辱に染まった白銀の騎士王が戒めを振り千切ろうと目の前でもがく。
必死の、そして無駄な抵抗。
それを愉悦と共に眺めるギルガメッシュが王の蔵から一振りの剣を取り出した。
まるで罠に嵌った獣のように必死に鎖を振り解こうとする少女。
しかしてその目が…………
その剣を見た瞬間――――
彼女の全身が――――硬直した。
――――――
暴竜のように暴れる体は完全に停止し
強張った肢体は有り得ない程に弛緩し
まるで呆けているような視線を男の持つ剣の刀身に向けていた。
「…………………、」
呆然と、剣が振り上げられるのをただ見ている騎士。
その様相を満足げに眺める男が舐めるように言い放つ。
「手癖、足癖の悪さは相変わらずよな―――ふむ、思い出したぞセイバー。
行儀のなっていないお前に相応の躾を施してやると賜ったのは我であった。」
鎖に動きを封じられ、何故か抵抗をも止めてしまった騎士。
無防備な身体に今まさに英雄王の凶刃が降りかかろうとしている。
「駄目ッ! セイバーさ……避けてッッ!!!」
あらん限りの声帯を振り絞り、パートナーに向かって叫ぶ高町なのは。
残った力を総動員して飛び掛ろうとするが、遅い。
少女を助けに向かおうとする体はしかし事態を打開するには離れすぎていた。
そしてこの戦いの全てを終わらせる男の一振りが……
あまりにも無情に―――振り下ろされる。
―――――――ざむ、…………
間の抜けたような、あまりにも呆気無い音が―――
「セ、セイバーさんッッッッッ!!!!!!」
肉を切り裂いたその陰惨な音が魔導士の絶叫に掻き消された。
高町なのはの目の前で、抵抗の出来なかった小さな身体が鎖ごと断ち切られ―――宙を舞う。
その力無く舞い上がる様はまるで糸の切れたマリオネット。
地に伏す事など想像も許さない――そんな見事で、豪壮で、華麗な銀の甲冑を着込んだ
穢れを払うかのような強く美しい騎士の少女。
最強の剣の英霊・サーヴァントセイバーが男の凶刃にかかり、今ここに………果てた。
――――――
その絶望の光景を、極限まで見開いた眼で視界に焼き付けた魔導士高町なのは。
届かない手。 間に合わなかったその身。
まるで最前列に位置する席で舞台を鑑賞していたかのような希薄感。
あまりにも自分の力の及ばぬ所で全てが決まってしまった―――
一部始終を見終わったその顔が下を向く………
(フォロー……出来なかった…)
最後まで希望を捨てる事のない彼女をして絶望を感じずにはいられない光景。
あれは致命傷などという生易しいものではない。
完全に―――――即死。
(助けられなかった………………)
ワナワナと震える腕。 拳を掌に爪が食い込むほどに握り締めている。
目の前でパートナーを死なせてしまった――――
自身と誰かを守るために己を鍛え続けた、そんな彼女にとって最も受け入れ難い結果。
爪が剥がれる程に地面に爪を立て、血が滴り落ちる程に唇を噛み、その虚脱感、悲しみに耐えるなのは。
やがて尽きせぬ悲しみと共に、剣の英霊の仇である男の姿をキッと睨みつけようと頭を上げる――――その前に
ズシャリ――――、と………耳に、鎧の擦れる音が響いたのだ。
「…………え…?」
戦意新たに視線を上に上げ、彼女はそのまま呆然とした表情のままに固まった。
その光景を前に二の句が繋げない。
先程の鎧の擦れる音。
初めは男がトドメをさそうとこちらに歩みを進めたものかと思った。
だがそれは敵の発したものではなかった。
黄金の王はその場を一歩も動いておらず、今の音を発した主を前に悠然と佇んでいる。
その主―――銀の甲冑に身を包んだ少女セイバーが、まるで何事もなかったかのように立ち上がっていたのだ。
(無事……? 本当に…?)
暗転した思考に尽きせぬ光明が差し、そして諸共に疑念を沸き立たせる魔導士の思考。
宙に投げ出され、地面に倒れ付して、僅か数秒でハネ起きた? あの即死級の一撃を食らって?
まるでちぐはぐな光景を前に必死に接合性を求めようと思考を巡らせる高町なのはの脳が―――
―――――――今、完全に凍りつく……!
――――――
それは騎士と目があった瞬間―――騎士の表情を見た瞬間だった。
(セ、セイバー、さん………?)
異空間に飛ばされ、戦闘に巻き込まれ、不測の事態に散々振り回されても揺らぐ事の無かったその心胆が
今宵この時、最大の困惑に苛まれる。
何か得体の知れないモノを見てしまったかのような、なのはをしてその思考をフリーズさせたもの。
それは今の騎士の少女の表情だった。
爽やかな春の日差しと涼やかな秋の風を内包したような面持ち。
その身に陰を落とす事など許さぬほどの輝きを発しながら、決して己が光で周りを焼く事はない。
激しさと柔らかさを同時に持ち合わせたかのような騎士の姿に、魔導士は極めて深い親近感を抱いていた。
それは彼女にとってそうありたいと願う理想の姿であり
なのは本人はまるで気づいていないだろうが自分に限りなく近しい存在でもあった。
だからこそ―――騎士の今の様相を見た彼女の動揺は計り知れない。
美しく爽やかだった少女の、まるで能面のような貌がそこにあった。
幽鬼のように佇む姿には、感情がなかった。
薄緑の瞳は瞳孔が開き、何ら生命を感じさせる光がなかった。
その健康的な頬からは一切の血の気が引き、戦場を覆うようなその戦意。気勢。存在感。
全てが消え失せたかのような、そんな貌をしていた。
こんな表情を高町なのはは数えるほどしか見たことがない。
常人に比べ遥かに激動の人生を送ってきた彼女をしてそう思わせるソレは、紛れもなく―――
「その剣を………私に向けるか――英雄王」
やおら突然に騎士が口を開く。
まるで人工知能のように無機質な音―――
鈴のようだったその声がまるで錆びた鉄のような声色を紡ぎ出す。
「ク―――言ったであろうがセイバー。 これは躾だと。
ことにお前を打ち据える鞭としてこれほど適したモノもあるまい?」
口元を引きつらせるように嘲う男。
だが、その言葉が最後まで紡がれる事はなかった。
男の愉悦に満ちた言葉が終わるその瞬間、騎士の姿が―――――
「っ!!??」
―――掻き消えた!?
横で見ていたなのはが騎士の姿を完全にロストし
細く鋭い銀の光の線―――そうとしか思えない何かがフィールド上を駆け抜ける!
神速、魔速と言葉で飾る事はいくらでも出来よう。
だがその驚愕の踏み込みを言葉で表すには、どのような言語も不足に過ぎる!
まるで瞬間移動じみた動きでギルガメッシュの眼前に現れたセイバー。
その落雷の如き一撃が、決して届かなかったその剣が―――
(なっ……速っ…!!)
あまりにも容易く! 男の黄金の鎧に深々と叩き込まれていたのだ!
「ぬ、うッ―――!」
ガォォォン―――、!という、もはや金属音ですらない衝突音が響き渡り、万夫不当の英雄王が後方に弾かれる。
「―――ハ、ハハ!」
不適に笑う男。
だがその一撃は彼を包む鎧のショルダー部分を完全に吹き飛ばし
男の左肩が初めて空気に触れたように露になっていた。
「そうだセイバー。 ――――それがお前だ」
傍から見ても明らかなクリティカルヒット。
剥き身ならば肩の骨が砕け……否、抉れて無くなっていたかも知れないほどの。
「その力の! 輝きの! あまりの強さ故にっ!
誰からも理解されず誰の心も汲み取れず、孤高の剣であり続けた―――
一人で戦い続けた! 背負い切れぬ業を背負い続けた!!」
揺るがぬままにその口を紡ぐ男。
それは上から悠然と見下ろすような、今までの言葉とは何かが違っていて―――
「お前を受け止められるのは我だけだ」
まるで親愛の情すら含んだ言葉であったのだ。
しかしてそれに半比例するかのように―――目の前の騎士の少女にも変化が訪れていた。
表情の無かった騎士王の双眸に灯るのは………狂おしいまでの憎悪。 純然たる殺意。
あらゆる負の感情が清楚にて可憐な少女のその顔を染め上げていく。
「お前を手中に収められるのは我だけだ」
耐え難い、あまりにも耐え難い。
聞きたくない。 この男の声をこれ以上―――
――― その耳に入れたくない ―――
ぐるぐるとかき回され煮えたぎる少女の感情は、次第にその楔を
生なる者の安全弁ともいうべきリミッターを外していく。
「見せるがよいセイバーよ!
その枷を解き放ち、有象無象どもに示すがよい!
お前を――英霊を――その如何ともし難い存在の違いを!」
それは果たして「誰」に対して言い放った言葉であったのだろう?
セイバーか。 なのはか。 それとも……
だが少なくとも目の前の少女にはもはや、そんな言葉の端々すらも聞こえていないに違いない。
緑の瞳がぐらぐらと不安定に揺れる。
なのはが爽やかで涼やかと評した彼女の相貌が今や完全に―――
―――――魔人の形相に染まる!
「アァァァァァァァチャァァァァァァァーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!」
戦場に、今や人のものとは思えぬ咆哮が木霊した。
――――――
(………!?)
魔導士の総身を覆い尽くす鳥肌。
ビリビリ、と大気を振るわせる怒声。
誇りと気品を纏い、燦然と輝いていた騎士の姿はもはや無い。
英雄王ギルガメッシュに向かい、今宵最大戦速になるであろう信じられない踏み込みを以て―――
斬りかかっていたのだ。 再び。 その剥き出しの憤怒を叩きつけるように!
恐らくその事態を仕掛けたのは金色の王であっただろう。
男の意図がいかなる物か与り知る者はいない。
紡ぎ出す結果が如何様なものになるかも誰も知らない。
ともあれ、ここ戦闘は―――新たな局面を迎えていた。
――――――
「ハアアアアアアァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
ブリテンの英雄アーサー王。 全ての騎士の頂点に立つ勇名。
光り輝くその身は失望の末にサーヴァントとなった今でさえ、何ら色褪せる事はなかった。
ましてやその彼女が「狂戦士」の資質などを持ち合わせよう筈も無い。
だが、そんな事実をまるで蔑ろにするかのように
彼女はバーサーカーの如き咆哮を上げて英雄王に踊りかかる。
「ク、クク……品位には甚だ欠けるが―――良い!
所詮は女だ。 その程度の悋気は赦そうではないか!」
猛り狂った狂戦士と化したセイバー。
それを前に微塵の恐れもなく佇むギルガメッシュ。
「それに下卑た蛮勇であろうと、だ―――
先ほどまでの貧相なお前を解き放つ足駆けとなるのなら、それも一興。
さあ、存分に吼えるが良い!!!」
躊躇い無くゲートオブバビロンの扉を開け放つ蹂躙の王。
再び豪壮な刃の群れが周囲を埋め尽くし、無尽蔵の宝具が所狭しと戦場を乱れ飛ぶ。
その弾幕の只中を、そのド真ん中を―――何と真正面からぶち抜きにかかるセイバー!
まるでこの戦いの開始直後を巻き戻したかのような光景は次の瞬間、まるで未知の映像を映し出す。
突進しながらのセイバーの剣戟。
その全てが速さ、強さ共に――さっきまでとはケタ違い!
剣風がまるで竜巻のように翻り、不抜の弾幕だった男の魔矢を数十単位で叩き落していく。
ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン!! ガォン!!!
まるで大気が削り取られるような炸裂音はセイバーの聖剣に込められた暴発寸前の魔力が叩き出すものだ。
その一呼吸に繰り出される剣閃は軽く見積もっても20連斬を遥かに超えていた。
何かが振り切れたかのような強さに任せて、再び難攻不落を誇るギルガメッシュの懐に飛び込むセイバー。
「ハアアアアアァァァアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!」
「ク、――」
凶獣の吠え声と共に翻る聖剣の斬撃。 その全てが視認不可の稲妻!
絶死の一撃を前にあらゆる宝具を展開し、彼女を押し留めるギルガメッシュもまた不落の城塞!
鎖が。盾が。剣が。槍が。矛が。弾丸と化した彼女を遮って通さない。
そして減速したセイバーに、右手に持つ「先程の剣」を再び振り下ろし、弾き飛ばされた騎士が元の位置に押し戻される。
その着地した瞬間、またも少女の姿は掻き消え、男の眼前に踏み込んでいる。
その動き―――全てコンマ単位の攻防だ。
音と剣風と斉射の爆風と、刃同士がぶつかり合う衝撃だけが周囲に響き渡る。
王の放つ無敵の宝具、ゲートオブバビロンはここに来てもやはり最強だった。
今のセイバーをして完全に凌ぎ切れるものではない。
正面突破の剣風の、その及ばぬ箇所に凶刃は容赦なく降り注ぎ、少女の肉体を抉っていく。
至る所に刻まれた大小様々な傷から夥しい流血を伴っているにも関わらず、彼女の動きは微塵も衰えない。
全身から撒き散らしている血風が赤い霧のようになって辺りを紅に染める。
優位に見える王とて余裕は無い。
騎士に掻い潜られ、地面に着弾した刃が起こす爆風が巨大な火柱となって天を貫く。
その威力――――繰り出す宝具は全てがAランク相当のもの。 全くの出し惜しみ無し!
「あッッ!?」
その全開のバビロンの余波が高町なのはを巻き込み、吹き飛ばさんとする。
爆風に弾け飛ぶ寸前で彼女は右手にある建物の吹き抜けにその身を飛び込ませる。
未だダメージの残るその体。 ヨロヨロと頼りない足はまるでアルコールが入っているかのようだった。
ガシガシ、と太腿に拳を打ち付けて何とかその身を立たせる彼女。
まだ行動を起こせるほどに回復してない体ではあるが、それでもいつまでも休んでなどいられない。
ビルの吹き抜けから「その光景」を見た魔導士が、全身に冷たいものを感じつつ臍を噛む。
目の前で行われている戦闘の、そのあまりの凄まじさ。
まるで住む世界が違い過ぎると思わせる幻想に満ちた光景。
これが――聖杯戦争……
神話や伝承にその名を記された者同士の――英霊の戦い。
最古の英雄にしてウルクの神となった男と、聖剣の加護を受けし竜の因子を秘めた少女の総力を上げた殲滅戦。
眼前に繰り広げられるそれはまさに………現世に蘇った本物の神話の光景であったのだ!
――――――
―――何を求める?
―――彼女にこれ以上、何を求められる?
既に人が介入するには程遠い、そんな光景を前に彼女――
高町なのはにこれ以上、何をしろと言うのか?
ぶつぶつと一人、うわ言のように彼女は何かを呟いている
未だ明けぬ深夜の闇夜にて行われる戦闘。
否、化け物同士の滅ぼし合いの余波で幾多のビルが魔弾の巻き添えを食らい半壊。
アスファルトがめくられ、雑木林を切り飛ばされ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
その英霊同士の戦いに彼女をまた介入させるのか?
いかに若くしてエースオブエースの称号を得た魔導士とはいえ
彼女は所詮、20年足らずの余生しか送っていない人間の女性に過ぎない。
そのか細い肩で、頼りない腕で、アレを前に何が出来る?
瞬きもせず、周囲に巻き起こる爆光がその頬を叩くのも構わずに
(何が出来る―――?)
再三の問いかけは果たして誰のものであったのか?
彼女の内なる声か、はたまた地獄に木霊する空耳の類か。
………どちらでもよかった
どの道、彼女の答えは決まっていたのだから。
(決まってる―――)
リズムを……ただ、彼女は全神経を集中させてリズムを刻む。
………何に? ………何に対して?
敵が果てしなく強いとか、周囲のレベルが違うとか
そのような事は彼女にとっては些細な問題。
決まっている。
その崩滅の渦中から―――仲間を助け出さんがために!!
(自分のやれる事をやるだけ……!!)
高町なのはは尚も折れず。 再び立つはいつも通りの彼女。
空の人間が誇りと尊敬を以って仰ぎ見た不屈のエースは健在だった!
(逆上したセイバーさん……つまりは攻め手が単調だからこそ
どんなに闘い全体の推移が速くても、そのリズムは一定…)
目の前の戦場はまるで剣と弾幕で出来た結界だった。
レイジングハートのサポートを受けた彼女をして視認不能の領域へと至る攻防。
一歩も動かぬ相手の男を中心に、銀の閃光が暴れ狂い
周囲を様々な剣閃、爆発、暴風、力場が渦巻いている、そんな状況。
あの戦いに真正面から飛び込み、二人の間に入るなど言語道断だ。
無数の刃と銃弾が飛び交う洗濯機の中に放り込まれるようなもの。
自殺行為――――人はそれを正しくこう呼ぶだろう。
「………ん…っ」
だが――――教導隊のエースはそんな絶死の空間の中にさえ、瞬時に活路を見出してしまうのだ。
近づくどころか動きを目線で追う事すら出来ない空間からでさえ、その一定のリズムを読み取り
今、必死でその流れにシンクロしようとしていたのだ。
(急がなきゃ……)
何かに駆られている英雄王。
憤怒に染まっている騎士王。
そんな中―――この魔導士が場において最も冷静さを保っていた。
二人の英霊による死力を尽くした決戦。
援護を差し挟む余地の無い、そして今や自分の援護など必要ないように見える騎士の少女。
(セイバーさんが……もたない!)
だからこそ気づく。
この魔導士だからこそ気づける。
全てが………あの敵の手の平で動いている事に!
疲労による吐息を飲み込み、足でタンタン、と拍子を刻みながら
彼女は周囲にアクセルシューターを展開。
限界一杯まで練り上げた50に届く魔弾を二人の英霊が戦っている頭上に配置する。
全てはタイミングだ。
流石のなのはもあの速度で動き回るセイバーに全く当てずに弾幕を撃ち込む自信は無い。
だからこそ動いていない方の影。 英雄王の動向にその全神経を集中させる。
そして男の持つ剣が振り下ろされた瞬間、つまりはセイバーが弾き返された瞬間を狙って―――
「シューーーーーーーーートッッッッ!!!」
魔導士は二人の間。 男と少女を分かつように全ての魔弾を叩き込む!
地面を抉るように、そして10個足らずを牽制の意味でギルガメッシュに!
そして全力の激突で余念のなかった両者が、不意の横槍に意識を途切れさせた
その一瞬のうちにフルブーストで二人の間に乱入する!
戦闘が中断されたこの刹那の時こそ彼女が手を差し挟める唯一の機会!
その戦局が再び動き出すのに秒を必要としないであろう。
遅れれば、なのはは再び戦闘を開始した二人の暴風に巻き込まれ、切り裂かれるだけだ。
動きを止めたセイバーに瞬時に肉薄し、その身体を抱きとめる。
そのまま騎士の全身を、両手を、バインドで拘束して上空に舞い上がる。
なのはの下した判断。
それは、この両者の戦闘―――否、セイバーの無茶な突撃を何としても中断させる事にあったのだ。
「フゥ――フゥ――フゥ、」
抱き止めた少女。間近で唸りは本当にヒトのものとは思えない……
剣の英霊が魔導士の拘束魔法を物ともせずに引き千切ろうとする。
「セイバーさんッッ! 正気に戻ってッ!」
瞳に狂気じみた怒りを称え絶叫するセイバー。
その表情を見たなのはの背をゾクリと伝う寒気。
狂える暴竜をその身に抱き止めているようなものだ……いつまでも抑えきれるわけがない。
「アーチャァァァッッ!!!」
セイバーがバインドを容赦なく振り解き
胴に回した魔導士の腕を掴み、捻り上げる!
「く、うぅ……!!!」
メキャッという木の枝が軋むような音が耳に響く。
腕をねじ折られる痛みに顔をしかめるなのは。
魔導士が目指すのは一番手近にあったビルの屋上。
高速で一気に飛び上がり、男の魔矢から一時でも逃れようという試みは
しかし、そこに至るまで騎士を拘束する事はとても叶いそうにない。
今にもなのはの手を振り解き、黄金の敵に向かって飛翔を開始しようとする騎士。
唇を噛む魔導士が、やおらその少女の胸倉を掴み―――
「落ち着きなさいッッ!!!」
パァァァァァァァン――!!!、という盛大な音と共に
少女の頬に平手を叩き込んでいたのだ。
「完全に相手の思うツボだよ! それが分からない貴方じゃないでしょうッ!??」
物静かで声を荒げる事の少ない魔導士が絶叫にも似た声を上げる。
精一杯の叱咤をセイバーの鼓膜に叩きつけるなのは。
こんなもので止まるかどうか……兎に角、なのははいつになく必死だった。
「―――――、」
しかして悪戦苦闘する彼女の想いが届いたのか―――
騎士の少女の狂騒がここにあっさりと止まったのだ。
なのはの腕にギリギリと食い込んでいた騎士の手も離され
まるで打って変わって静かになってしまうセイバー。
「………落ち着いた?」
呆気無さに拍子抜けするも取りあえずは何とかなった。
心中で胸を撫で下ろす高町なのはだったが―――
「…………………セイバーさん?」
先ほどに比べて不自然なまでに静かすぎる様相。
不吉なものを感じたなのはが再び騎士に声をかけ―――唇を噛む。
「………やっぱり」
なのはの手に抱かれたセイバーの身体がぐったりと力無く、自分にしな垂れ掛かってくる。
完全に脱力した肉体。 物言わぬ表情。 生気の抜けた肢体。
限界を超えた肉体の酷使、損傷を受けて―――
少女は完全に気を失っていたのだった。
――――――
今の戦い―――
あの男と互角に打ち合って見せた騎士の姿はまさに武神の如し。
普通ならばそこで少女に加勢し、一気に敵を殲滅するところであろう。
だが、そんな局面において―――なのはだけがセイバーの状態を正しく把握していた。
簡単なことだ。
先の騎士との作戦会議で自分はセイバーに対してこう言った。
無理をすれば、あの敵と拮抗する事は可能
、と。
ならばそういう事なのだ……
少女もまた「無理」をして本来突破できぬ筈の敵の攻撃を踏み越えた。
限界を越えて自壊の道を歩みながらに、セイバーはあのゲートオブバビロンに相対したのだ。
高町なのはもまた自らの肉体を内側から破壊しかねない程の強大な魔力を行使する術を持っている。
だから、いち早くセイバーの状態に気づけた。
限界を超えた出力。それを行使する事の恐ろしさ。
要は先のセイバーの振り切れた強さは、あのブラスターモード発動と同類のものに他ならなかったのである。
もっとも魔導士のそれは術式によって安全弁を外しているのに対し
先の騎士の場合は精神的なリミッターの解除―――つまりは心のタガが外れた状態。
怒りや憎しみによって脳がそのリミッターを振り切り、限界を超えて自身の肉体すら耐え切れない力を捻り出してしまった状態。
(いや……引き出されたんだ………無理やり)
何故そのような事になったのかなど言うまでもない。
天を焦がすほどの怒りは全て眼前の相手に向けられていた。
あの男に何かをされたのだ―――確実に。
これほどの高いレベルで心身ともに鍛え抜かれているであろう、今はなのはの手中に抱かれて倒れ付す騎士。
そう簡単に精神を揺さ振られるはずが無い。
一度対峙した魔導士だから分かる、まるで金剛石を思わせる力強さと意思の強靭さ。
その騎士を相手に一体、何をすれば……ここまで心身ともにボロボロに打ちのめす事が出来るのか?
あまりにも痛々しい少女の姿を見つめて魔導士は―――
悲痛な表情を浮かべる以外に術を持たなかったのである。
――――――
英雄王ギルガメッシュ―――
この世に現存するあらゆる宝具の原典を持つ人類最古・最強の英霊。
その無尽蔵の宝具はサーヴァント達の伝承に記された滅びの弱点―――その全てを内包する。
謂わば英霊殺しともいうべきものが今宵、ここにセイバー殺しを完遂させたのだ。
セイバーの誇りと理性と自我すらを砕き、強制的なバーサク状態に堕とし込み
あの小賢しい魔術師との連携や一撃離脱の戦略を封じた。
そして向かってくるセイバーを宝具の群れで滅多打ち。
最強の英霊の力の証明を存分に示したのである。
無論、男とて無傷ではない。
降りかかる剣はまさに竜の爪。
黄金の鎧の加護が無ければ地に付していたのは自分だったかも知れない。
聖剣によってつけられた肩の傷を初々しく見やる英雄王。
本来ならば自らの身体に傷をつけた者など決して赦しはしない彼であったが、今の気分は決して悪くない。
幾多の戦いでこの自分を前にして決して折れなかった騎士王が―――屈服寸前まで行ったのだから。
「興が削がれたか――――」
だがそれ故に………
裏を返せば、彼女を傅かせる寸前でまんまと逃がしてしまった事に憤りを感じている自分もいた。
英雄王が上空にはためく白い法衣姿を見上げて吐き捨てる。
あの邪魔な魔術師さえいなければ、セイバーは今頃、確実にそのヒザを屈して自分の前にひざまづいていた事だろう。
右手に握った剣を、もはや詮無しとばかりに無造作に蔵に放り込む男。
そう―――「この剣」だ。
セイバーを陥落させたギルガメッシュの起点となった宝具。
セイバーの正体。その真名こそ、あの騎士王アーサーペントラゴン。
ありとあらゆる属性に耐性を持つ最強を冠する剣の英霊だ。
弱点は限りなく少ない筈だった。
思いつく限りで竜殺しの名を冠する剣が数本―――
ならば此度、男の右手に握られた剣こそ、かの有名なドラゴンスレイヤーであったのか?
――――――否…………
違う―――――
そんなものより何倍も……何十倍も効果的で………
かの騎士王の身も心も打ち据える、少女にとって最悪の剣が存在した。
それは伝承には記されていない
謂わば聖杯戦争秘話とも言うべきもの
故に識る者も片指で数えるほどであろう。
かつて少女の生きた時代―――
彼女には最も信頼した部下がいた。
彼女には最も尊敬した友がいた。
彼女には最も師事した騎士がいた。
円卓において最強―――騎士の模範とまで言われた
かの者と共に国を支えられる事に誇りを抱いていたあの頃。
だが愚鈍な自分のいらぬ配慮が、人の心を理解しえぬ不明な王が
誰よりも「騎士」に相応しかった男の名を汚す。
ブリテン崩壊へと繋がったあの反乱は全て―――この出来事がきっかけであった。
そして悠久の時を経て―――
全ての事象を巻き戻さんと剣を振るう少女の前に「彼」は現れた。
バーサーカー……狂戦士となって。 自分の名前を呪いの糧として。
耐えられなかった。
どんな時でも決して涙を流さなかった王が慟哭に沈み
泣きじゃくり、我が身の不明を呪って
騎士は幽鬼のような様相で地獄の連鎖に堕ちていったのだ。
聖杯戦争における出来事の一つに過ぎないそれは、未だに少女の深層意識に深い痕として刻まれている。
その、躾と断じてセイバーを散々に打ちのめしたモノこそ
彼女の友にして「湖の騎士」の称号を冠した、円卓最強の騎士が所持していた剣。
極光剣アロンダイト―――
エクスカリバーと対を為す救国の剣。
セイバーが、いつまでも彼女自身の後ろを、隣を
そして同じ道を切り開いてくれると信じて疑わなかった剣―――その原典であったのだ。
――――――
宙に身を躍らせて―――二人はとあるビルの屋上にその身を避難させていた。
追撃は……無かった。
見逃されたのか単に遊んでいるだけなのか。
いっそこのまま逃げられないか試してみたが、一定以上の高度を過ぎると途端に幾百を超える凶刃が自分達に狙いをつけてくる。
「嬲り殺すつもり……?」
その宝具の射出口をキッと見据える高町なのは。
制空権は完全に抑えられていた。
そして騎士の少女を抱いている手に伝わるヌルリとした感触に
そのあまりの軽さに今更ながらに気づく。
「…………まずい…っ」
屋上にて少女を寝かせ、その容態に思わず口元を押さえてしまう。
最初に斬られた傷はやはり致命傷以外の何物でもなく
叩き落された刃は銀の甲冑を叩き割り、肩口から脇腹にかけてザックリと肉を裂いている。
その他大小様々な裂傷、擦過傷は数え切れず―――
「これじゃもう、動く事すら……」
ここでは満足な手当てすら出来ない。
それどころか動かすだけで命に関わるであろう。
それは即ち――――セイバーの戦線離脱を意味するものに他ならない。
圧倒的な敵。 満身創痍の二人。 切れるカードもあと僅か。
絶望的な戦況の中で、敗北が音を立てて忍び寄ってくる。
どうやっても作戦の立てようが無い……
八方塞がりの思考を前に、口に手を当てた魔導士がその人差し指を噛む。
「ナノハ――――」
と、その時――――
気を失っていた少女。
セイバーが力無く、倒れ付しながら言葉を発する。
「私に―――考えがあります……」
弱々しいながらも真っ直ぐとこちらを見据えてくる薄緑の瞳。
それは紛れもなく元のセイバーであった。
傷で満足に動く事すらままならない騎士。
もはや為すべき事はただ一つ。
次で最後になるであろう―――
――― その楔となる一撃を、投じる覚悟 ―――
それを彼女は既に心に決めていた。
――――――
虚空に視線を躍らせる黄金の王。
「―――」
今宵の宴ももうじき終わる。
その空気がひしひしと伝わってくる。
彼にとっては終わらせようと思えばいつでも出来る事象。
それは何時たりとも変わらない。
だが、その終わりが――自分の望む物であるとは必ずしも限らない。
彼は自分で気づいているのだろうか?
あのセイバーを完全に無力化し、なのはに付け入る隙を与えない。
確かに結果だけを見れば完璧な戦果だ。
――― しかしだからといって何なのか? ―――
そもそも蹂躙し、踏み拉くだけなら王の財宝だけで十分。
そして完璧な勝利を求むるなら「アレ」を振るえば一瞬である。
セイバーに斬られた肩……負う必要の無い傷だった。
自らこのような傷を負ってまで彼は一体何を求めているのか
セイバーがそうであったように、この男もまた孤独。
その胸中を語って聞かせられるものはいない。
その瞳に映し出す光景を共有出来る者もいない。
友を失ったその日から、孤高である事を旨とした王の
その風に任せてなびく金の髪が―――
感情の読めぬ男の頬をただ、撫でていた。
2016-05-15T18:03:42+09:00
1463303022
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シグナムVSランサー1
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Flame&Lancer ―――
ひん曲がったガードレールと
アスファルトに刻まれた黒く伸びるベルト状の跡
辺りに充満する焦げ臭い匂いに撒き散らされたオイル
凄惨な大事故の余韻冷め遣らぬやらぬ
この人気のない林道にて――
今、無双を誇る弐機の剣と槍が激突する
対話の時は冷淡と磊落
まるで水と油のようでありながら、、
それは互いにシンクロしているかのようなタイミングで
両者は同時に、まるで示し合わせたかのように前方に踏み込む
声もなく音もなく地面を滑るように
短い呼吸と共に迫り来るランサー
「ハァッッッッッ!」
に対し、数分の遅れも躊躇もなく
全身から炎を撒き散らし
地面を削る蹴り足と共に気合一閃の騎士もまた
最大出力にて真正面から槍の男に向かっていったのだ
互いに裂帛の戦意を以って敵と相対する槍兵と剣の騎士
馬力に換算して余りあるほどの出力を誇る彼らの激突は
MAXスピードまで加速したモーターカー同士の衝突と何ら変わらない
狭い道路上にてあっという間に互いの間合いの詰まる様は
まるで一つの線路に二両の電車を向かい合わせて走らせたかのようなゾッとする光景を思い起こさせる
そしてそんな踏み込みの元に繰り出される剣戟と槍撃
空気を切り裂き、轟音を伴って放たれるそれが――ギィィィン、!!!という
鋼と鋼が激突する甲高い音と共に交錯し、、ぶつかった!
辺りに木霊した爆音じみた残響は100里先の空気をも震わせ
凝縮し、こそげ取られた空気が周囲に弾かれ
その交差された凶器と凶器を中心にぽっかりと真空を作る
これが烈火の将シグナムとサーヴァントランサーの初撃にてのファーストコンタクト
竹を割ったかのように潔い
これぞ騎士同士の正面衝突といわんばかりの光景は
しかしそこに至るまで、互いにどのような思惑が交錯したのか―――
それを知る術はもはやある筈も無く
今はただ両者の血肉を削るであろう壮絶な激闘の幕開けに
歓喜と恐怖を抱いて震えるのみである
――――――
向かい合う私と槍の男
互いにその戦意は既に臨界を迎え
もはや交戦は避けられない現状となった
重心を低く落とし、下段の構えから真紅の槍をこちらへ向ける男――ランサー
その淀みの無い切っ先を前に
半身を切り、片手剣の姿勢で相対する私
「寄らば斬る」の一念を魔力と戦意に込め
我が剣から迸る炎にて眼前の男を牽制する
互いにやや慎重を期した立ち上がりである事は否めない
槍兵である男は当然、こちらよりリーチに勝り
先制を仕掛けるには持って来いの位置にいる
そしてこの私とて「受け」の剣士ではない
敵にむざむざと先手を与えるような悠長な事はしない
「…………」
「、、、へっ」
それも本来ならば、の話だが……
構えを一寸も崩さぬままに男が笑いを零す
それを受け、相手を射殺さんとする眼光を向ける自分
じり、と半歩―――
その総身を蒼い装束で覆った戦士に向かってにじり寄らせ、、
思い直したように半歩下がる
そう、この立ち上がりに焦燥を感じているのは他ならぬ私自身
手に持つ愛剣の柄をぎりっと握り締めながら
私はその、地面スレスレにまで重心を落とした男の
山のように揺ぎ無い構えを前に歯噛みする
――― ………打ち込めない ―――
情けないが、微塵の隙も見出せない
元来のセオリーで行くならば
このような上段丸出しの低い構えなど強引に上から叩き潰せば良いだけの話だ
ならばいつも通りに攻めれば良い――
いつも通りに圧倒的に――
従来のように制圧すれば良い――
そう何度も何度も自らの背中を押す心とは裏腹に
悠久の時を経て、研鑽に研鑽を重ねてきた守護騎士プログラムが、
――― 行くな、と言っている… ―――
敵がどれほどのものか
その「格」はいかほどのものか
それは先ほどの舌戦
邂逅からこちら、刃を交えるその遥かに前から……
実は感じていた事だった
あの一見ふざけた態度の奥に隠された
否、隠そうとしても到底隠し切れないほどの巨大な牙
こちらの身を容易く引き裂き臓物を抉り取らんと欲する魔獣の如き
男の身体から漏れ出る無尽蔵の殺気と不吉な気配
それを前にして、取りあえず仕掛けて様子を見るなどといった
生半可な仕掛けを起こすほど間抜けではない
迂闊に動けば、為す術も無く一撃で
その身体を打ち抜かれてしまうというある種の予感…
高町なのはとの模擬戦や故・ゼストグランガイツとの一騎打ち
Sランクの騎士や魔道士と相対した時の重圧は凄まじいものだが、
今、それ以上のものを……目の前の男から感じている
彼ら以上の使い手などそうそういる筈が無い
状況が状況だけに慎重になりすぎているのかとも思った
それとも本当に、、オーバーSランクを凌駕しかねない敵なのか……?
ともあれ久しぶりの感覚――こんなのは、、
初手を交わす前からここまでの戦慄を感じさせてくれる相手は本当に――
「…………久しぶりだ」
既に乾いている喉からひり出される言葉は男の耳に届いたか、、
こめかみをつ、と冷たい汗が滴り落ちる
ある種の予感はどんどん大きくなる
この一騎打ちは自分が体験してきた数多の戦いの中でも最も苦しいレベルの戦いになると
飲まれているわけではない
私とて武人の端くれ
肌にビリビリとくる殺気に対し戦慄を覚えている反面、
血が滾り、どうしようもない高揚を覚えている心がある
法の担い手としてはあるまじき思考だが、そんな自分が確かにいる事は否定出来ない
戦慄と歓喜
理性と本能
行くなというプログラムの命令と
今すぐにでもこいつと剣を交えたいという
相反する心の鬩ぎ合いの果てに私は、
まるでロックオンをされているかのような刃先を嫌い
摺り足でサイドに回ろうとする足を――止めた
ここは狭い峠の一本道
回り込めるだけのスペースは残念ながら無い
あったとしても、もはやそんな心積もりも無い
空に身を躍らせるという選択肢も今は捨てる
初めから距離を取って戦う砲撃魔道士ならともかく、自分は騎士だ
初手の鬩ぎ合いにて背を向けるなど言語道断
安い意地やプライドの問題ではない
先陣を担う騎士が初戦で前線を踏み止まらずに放棄する
そんな事をすれば陣形も戦術も立ち行かず、部隊全体が勢いを失い
そのまま相手に飲み込まれてしまう
故にまずは己が力と相手の力の真っ向からのぶつかい合いこそが
前線に立つ戦士の本分にして我々の有り様――
騎士同士の戦いの開戦の狼煙であるのだ
目の前の男は―――無言
時が来るその瞬間まで内に力を溜め
まるで彫像のように動かず、こちらを凝視
その表情……
口元がニィ、と歪な笑みを作った気がした
互いに混ざり合う思考は今
自分と相手が同一の選択肢を選んだ事を如実に表しており
夏の夜空、本能のままに蛍光灯に群がる蛾のように私とランサーをその行動へと誘っていく
―――即ち、小細工無しの真っ向勝負
クリアになっていく思考は
本能が理性を
血の滾りが戦慄を押さえ込んだ証
元より、柔より剛を旨とするベルカの騎士に後退は無く
その力を示すには言うまでもなく、、
振るうだけだ、、その手に担う相棒を――
マーブルのように溶け合う意識は
まるで念話のように互いの意思を赤裸々にし
故にこれ以上の思考の時間など無意味
弾ける戦意は同時
その身体に滾る力が灯ったのも同時
私と男――ランサーは
その勢いのままに
相手を一刀の元に叩き潰さんという意識の元に、
目の前の敵に対し
手に持つ武力を叩きつけていた
――――――
恐らくは時間にして数秒
体感にして数瞬
それは刹那の間の思考であっただろう
その意識世界の中において何かを思い
そして何に至ったのか……そんな事は今は関係ない
彼女も男も騎士だ
この局面で初めからやれる事は決まっている
―――近づいて斬る
それだけの事だった
そしてついに噛み合う剣と槍
凄まじい初撃の邂逅
互いにフルスイングで叩き込まれる刺突と打ち下ろしの閃光
サーヴァントランサーと、ヴォルケンリッター烈火の将シグナムのファーストコンタクトは――
「でぇあッッ!!!!!!」
裂帛の気合と共に、地面に叩き込まれ
そこに亀裂を作るほどに振り抜かれた剣
女剣士の武の顕現とも言うべき炎の魔剣レヴァンティンの圧倒的なパワーに打ち負け、
後方に弾かれた蒼き槍兵―――という光景を以ってその結果とする
槍を中央で構えながらに
受けた衝撃を殺し切れず
地を食んだ足が後方に押し出され
その勢いのままに5歩の間合いを身体ごと後ろに持っていかれる槍兵
「ほぉ…」
その彼が素直に賞賛の声を上げた
(よし――)
問題は無い――
いける…と、いつもの感触に総身を震えさせる将
初手で完全に押し切った騎士が次なる一撃に備え、腰を捻って力を溜める
相手の一発の手応えは並の者とは比べるべくもない鋭い切っ先ではあれ
自分を圧倒するものには程遠い
錯覚だったのだろうか?
先ほどの、、どこに打ち込んでも返り討ちに合うという不吉な予感は…
「覇気は良し―――打ち込みはまあまあか」
そんな男が先の見事な一撃に対し率直な感想を述べる
まあまあ、、と…
今しがた、豪快に力負けした剣戟を指して言うにはおおよそ不遜な評価
「負け惜しみか? がっかりさせるなよ、とは一体どちらの台詞だった?」
その勢いは止まらない
間髪入れずに二太刀目を加えようと地を蹴るシグナム
「そう言うなって、、まだまだ始まったばかりだぜ」
ビリビリとその手に伝わる衝撃を愉しみながら
男は眼前に迫る猛将を前に迎撃の姿勢を取る
聊かも恐怖を感じてはいない
むしろ男の表情を彩るのは、溢れんほどの愉悦
実際、言動にも負け惜しみの要素などは微塵も無い
軽量にして俊敏を旨とする槍使いに、剣士である相手が押し負けているのでは話にならない
故に先の結果は男の期待を満たす物であれ、槍兵の不利を描いたものでは有り得ない
そして男の内心など知った事かと豪壮に踏み込んだのは初手にて打ち勝った剣士シグナム
剣を右中段に振り被って半身を切るがままに
地を這うような低い姿勢で弾丸のように迫る将
その薄い赤色の魔力の残光が尾を引き、後ろで縛った髪が勢い良く翻る
「せぇぇぇいッ!!!」
全身を叩きつけるといった表現がまま当て嵌まるような一撃にて
シグナムは男に、身を極限まで捻りこんでの逆胴を叩き込む
ゴォウ!という、鈍い音が打ち鳴らされ
槍兵の身体を根こそぎ持っていくかのような斬撃が炸裂
両手で構えた槍の中央で受けるランサーであったが
その足がまたも地面から浮き上がり、その場に留まる事適わずに後方に飛ばされる
「は、――」
思い切りの良いシグナムの攻めに対し
そうでなくては、と……
来たるであろう更なる連撃に心躍らせるランサー
だったのだが、、
相手の女剣士は、中段を放った反動を利用するや何とバックステップ
まるで一息を置くように後方に退いたのだ
(ここで追撃せずに離脱だと……? おいおい、、どうしたよ?)
それはランサーの予想を大きく裏切る悪手
初手で打ち勝ったのだ
ここは機先を制し、一気呵成に攻め落とすが常道
相手に建て直し、休ませる時間を与えるなど愚の骨頂以外の何物でもない
しかし、、、そう
そんな自分の戦術を相手に適応する事の愚かさにすぐさま気づいたのは
この槍の男もまた卓越した戦術家であるが故
後方に下がったシグナムが次に起こした行動は
期せずして男に更なる猛攻の予感を感じさせる
そして体勢を立て直したランサーの眼前に移る女剣士の姿こそ
貴様のセオリーなど何するものぞ!とばかりの――「空の騎士」のあるべき姿
初撃の剣戟にて自分の形に持っていけた事により
ようやく本来の戦い方、そのリズムを取り戻していくシグナム
「いちいち無駄口が多い……」
そう、元より二人は騎士なれど
その本質は決定的に違うモノである
それは離脱などではなく更なる攻撃の序章だった
敵を下がらせた事によって生ずる報酬はその隙と間
崩れた相手に対し、ローリスクで大ダメージを与える大降りの強打――ハードヒットの権利を得る事にある
ならば次に繰り出す剣士の一撃こそ眼前の男を沈黙させるに足る渾身の一振りに他ならない
―――だが
そこで後方に飛び退いた騎士が求めるものはそんな凡庸な強打ではない
狙うは強打を超えた超・強打――
ベルカの騎士が近接最強と恐れられる由縁となる一撃だ
体を崩され反撃の整わぬ態勢のランサーの眼前
何とシグナムは全身から魔力を放出させ、宙に身を躍らせる
狙うは跳躍しての一撃?
落下の勢いを威力に換算しての斬撃であったのか?
……違う!
その「飛ぶ」は「跳躍」という意味でのものでは断じてない
それは文字通りの「飛翔」――飛行と呼べるもの
跳躍した身体は一瞬で更なる魔力の奔流に打ち上げられるかのように上昇し
何とランサーの遥か天高く――上空10mにまで浮かび上がる
そしてその身を宙に躍らせたシグナムの肉体が
まるでジェットコースターが山なりの頂上を通過したかのように急上昇から急降下へと移行
そのまま猛禽類が獲物を仕留めるが如く、鋭角の軌道を以ってランサーに突っ込んでいったのだ
これには些か驚いた男
何せその生涯を戦に費やした彼をして
斜め上空から鷲や鷹のごとく叩きつけるような剣を振るう相手は見た事がない
宙空に身を躍らせるという行為は一見勇猛に見えるが決して賢い行動ではない
大地から離れた四肢は思うように身動きが取れず
万全の体制にて地で構えるものにとっては格好の餌食にしかならないからだ
そのセオリーは卓越した能力を持つサーヴァントでも例外はなく
宙に浮かんだ身体で、満足にその性能を発揮できる者は少ない
だがそれは―――翼持たぬ者の見解だ
一度、宙空を自由に駆け、大気を切り裂く 「羽」 を得たならば
地を這うに過ぎなかった猛獣は一転、空の王者・荒鷲の如き空戦能力を持つに至る
連撃で攻め落とすなど生ぬるい―――
「受けろランサー……! 我が業火の太刀をッッ!!」
立ち塞がる者は何であろうと一撃でブチ抜く!
これこそがベルカの騎士の真髄
その最強と謳われた烈火の将の剛剣であったのだ
「先の剣の威力に更に落下の衝撃を加え、無双の一撃と為す
なるほど……一発に賭ける型ってか」
その初めて出会うタイプの騎士を相手にする男
「悪くはねえ……悪くはねえんだが、、」
その顔は未だ笑みを崩さず
急降下による乱気流と共に空気を裂く轟音を伴い
まるで百舌鳥のように地上目掛けて突進してくる騎士
「ッッッ!!!」
着地の事など考えていないのか?
まるでそのまま地面に突き刺さるのかと錯覚させるような女剣士の軌道
角度も速度も申し分無し
猛き咆哮と共に炎が翻り、その上から叩きつける剣は、、
「―――やっぱ俺にとっちゃ、そいつは悪手だ」
しかし、、どれほどに速かろうと威力があろうと――
テレフォンパンチに過ぎない
秒にして1を過ぎるか否かというこの鬩ぎ合いは
サーヴァントの崩れた体制を建て直し、迎撃の姿勢を取らせるには余りある間であり
その一撃にどれほどスピードを乗せようと、、
彼らは至近距離から音速で迫る銃弾をも切り払い、回避する埒外の力を持った存在である
そんな遠距離から助走を付けて振ってくる剣など……
――隙がありすぎる
――絶望的なまでに
炎熱の魔力を迸らせたシグナム
当たれば間違いなく肉も骨も根こそぎ断ち切るであろう一撃を、今
「ハァァッッッ!!!!!!!!!!」
地上の男に叩きつける
豪ッッ!!という大気を根こそぎ持っていくかのような凄まじい斬撃
煮え滾るマグマの如き熱を放つ魔剣の剣風が空気を、地を、思うが侭に蹂躙し焦がす
その当たれば骨ごと断ち切るであろう一撃は――
直撃寸前、、
そのぎりぎりまで引き付け、、
すんでの所で半身を切ったランサーの横を空しく通り過ぎ
空を薙ぎ払い、地面のみを叩き潰す結果となった…
――――――
「―――、、!!」
人の目には、一寸レベルでの凄まじい見切りなれど
サーヴァント、しかも三騎士に数えられるランサーにとっては
この程度の芸は朝飯前以前の些事である
無双の一撃とは単に威力があれば良いというわけではない
当然の事ながら、相手に当たらなければ意味が無い
故に白兵戦を旨とする戦士は己が技から生ずる無駄を必死の鍛錬において削り
予備動作をなくしていくのが必須事項…
それをあんな遠くから助走をつけて攻撃するなど……いくら何でも稚技に過ぎる
(終わっちまうかな……呆気ねえ、、)
大地を焦がし、文字通り小規模な焦土と化した地面
軽い地割れを作った女剣士の絶死の一撃は
男にとってはまさに止まっているも同然――
その大降りを、 無駄のない最小の動きでかわしたランサーが
今度は絶好の反撃の機会を得る
間抜けな横っ腹を晒した騎士
その側面にて十全の体制にて槍を構える槍兵
誇張でもなく、本当に――
男にとっては、相手を百回は殺せる局面だ
もはや様子見の必要も無い
ここまで無様な隙を見せる相手の、これ以上何を見てやろうというのか…
流れるような無駄の無い動きでそれは行われた
その真紅の槍は何の抵抗も無く
相手の剣士の頚動脈に数分の狂いも無く突き入れられ―――そのまま首筋を横に断ち切っていた
常人の目には一瞬の出来事
紅い炎と蒼い影が凄まじいスピードで交錯し
互いに互いの脇を擦り抜けたようにしか見えなかっただろう
だが、、、その一瞬の邂逅で勝負は決した
結果は今記した通り……
すれ違い様に頚動脈を抉り切られたシグナムが
首から大量の鮮血を撒き散らし――地面に倒れ伏す
もはや男にとっては、改めて後ろを振り返り
確認するまでもない光景であった
―――男の表情には落胆の色があった
―――少しは楽しめそうかと思ったが、、
結果として、この最速の槍の相手にするにはまるで足り、、―――
…………ズシャリ、、、、
「―――むっ!?」
次の瞬間、男が驚きに目を見張る
後方で……音がした
既に物言わぬ躯となっている筈の相手がいる方で、だ
勝負を決めた確信を以って向けた背中に感じる、その大気の振動
違和感を感じ、背中越しに見やる男の視界に映るは―――
鮮血に塗れ血に伏している筈の女剣士が再び宙に舞い上がり
纏った炎を剣に集約しながら今まさに二度目の降下を開始したところだったのだ
青の体躯の脇を通り抜けた赤の閃光
空を駆ける炎の騎士によって起こる気流の乱れで
ランサーの後ろで留めた髪がたなびく中、、
剣士の薄い赤毛のポニーテールがかかった首筋には………一寸の傷もない
剣と槍の壮絶な乱舞は終わらない
新たな局面へと誘うは烈火の将の更なる苛烈な一撃
「ちぃッ!」
事もあろうに相手の絶命を確かめもせずに矛を収めるという
有り得ない失態に自ら舌打ちをする男
(バカか俺は、、新兵みてえなミスを…)
舞踏に乗り遅れた槍が後方に向き直り迎撃の姿勢を取るも――時既に遅し
炎を纏いし猛禽の爪はすぐそこに迫っていた
期待が失望に変わった事も手伝ったのか
呆気ない幕切れに消沈し、思考を止めてしまったコンマ一秒が
相手に再び必殺の一撃を放つ機会を与えてしまう
確かにこれは、この男らしからぬ凡ミスだ
そもそも武の頂に至った槍兵の両手が確かに認めた、相手の急所をはすり…抉り取った感触、、
その手応えからして違える男では無い筈だ
ならば――何かが起こったのか?
通した筈の男の槍を通さなかった何かの存在?
だがとにかく今はそれに思考を巡らす時ではない
剣士の攻めは当たればデカイ一撃必殺
対して槍兵が自分から攻め込めない宙空からの攻撃
今の時点ではランサーに不利な要素が多すぎた
「ピョンピョン飛び回りやがって……
両の足で大地を駆け、敵を蹂躙するのが騎士ってもんだろうが?」
「ならば覚えておけ――ベルカの騎士とはこういうものだ」
「は、、カトンボみてえに敵の手の届かぬ空をフラフラしてんのがベル、、
その何たらってのの真髄かい?」
「ベルカの騎士だ……行くぞ」
男の目と鼻の先に迫る猛禽の爪
地を這う獣の遠吠えなど大空の王者、鷹や鷲の耳に届く筈も無く
その翼持たぬ哀れな獲物に己が凶器を突き立てるのみである
「笑わせるんじゃねえ!」
だが、それでも地行くものは獰猛に唸る
決して一方的に切り裂かれる恐怖に弱々しく喘いだりはしない
たとえどんな状況であれ、この男をただ狩られるだけの存在と断ずるなど
愚かを通り越して罪過ですらあるだろう
確かに相手の二度目の強襲に対し
迎撃姿勢は遅れ、先ほどのようなスレスレの回避は難しい
だが、、それだけだ
相手の剣士の軌道は先とほぼ同じ
速度もまた同様であり、あろう事か女剣士はサーヴァントに対し
既に見切られ返されたはずの攻撃を再び行うつもりである
そんなもの、例え体勢が不十分だったとしても物の数ではない
今度こそ打ち落としてくれると気色ばむランサー
であったが、、
「紫電―――」
それは逆にこのシグナムという騎士を甘く見すぎた見解だった
「!!」
劣勢にありながら、まだどこか余裕を称えた男の表情が今度こそ固く引き締まる
その剣士の増大する戦意と
相手に与えるある種の気配は
あるいはサーヴァントにおける宝具の発動に通ずるものがあった
その声は、高速飛行中に彼女の口から漏れたもの
叩きつける暴風に遮られて決して音にならぬ音でありながら
その威厳を以って放たれた言葉は空を、、男の鼓膜を確かに揺らす
そして紡ぐ言葉は言霊となり
言霊は確かな力となって手に持つ魔剣に注ぎ込まれ、大気を震わせる
デバイスが起動し、使い手である彼女の魔力を加速度的に吸い上げ始める魔剣レヴァンティン
それは常人ならばその行使だけで体中のエナジーを吸い尽くされてしまうほどの貪欲なる魔力暴食
でありながら騎士は更に―――ガシャン、ガシャン、!という外部供給
カートリッジによって供給量を二倍三倍に上乗せする
馬鹿げた魔力放出を伴い、 恐ろしいほどに吹き出す炎
それはもはや剣などと呼べる代物ではなく
煮え滾る溶岩の塊の如き熱量を持った何かとしか記せない
直下してくる赤き裂光は白熱に至り
問答無用の力と化して今、、、
槍持つ男に降り注ぐ!
「一閃ッッッッ!!」
鬼すらも震わす怒号!
炎の騎士がその渾身を以って繰り出される
これぞシグナムの誇る奥義、、
紫電一閃――
その姿は直下する雷鳴の如し
二の太刀要らずと断ずる閃光の剣閃
噴火し、降り注ぐ火の玉をを思わせる烈火の将の無双の一撃は
槍を構え、先ほどと同じタイミングで回避しようとしていた男の頭上に
男の予想を遥かに超える速度と伸びを持って叩きつけられたのだ
――――――
中華鍋に油を落とした時のような爆炎、、と比喩するより他に無い炎の柱が
数Km先からでも分かるほどの巨大な規模で立ち昇る
それはさながら小型のナパーム弾を投下したかのような威力であり
まさに天を焦がす、と言うに相応しい光景だ
その炎熱の只中、
(決まったか…)
柄に残る確かな感触
いつも通りのソレに唇を舐める騎士
この手応え、、間違いなくクリティカルヒット
彼女の奥義を真っ向から受けては、受身の取れた取れないに関わらず
無事に立っていられたものなど今まで一人としていなかった
故に、今の騎士の胸に去来する思考は 「殺してしまったかもしれない…」 という相手に対する心配と危惧のみだった
そう、、その手応え―――
「……………」
その、「未だ残る」手応え、、、
「………、、、なっ!??」
熱気と硝煙と粉塵で1m先すら見えないこの状況の中
それでも確信を持っていた
目の前に既に倒れ、地に伏す蒼い男の姿を
もはや抵抗の力を宿さぬ敵の姿を、、、
ならば―――今、手元に残る……この手応えは何だ?
シグナムの全身に電流が走る
既に何の障害もなく地面に振り抜かれていなければならない魔剣
それが未だ宙空、、、
ちょうど――成人男性の面の部分で止まって、、否、阻まれているという事実
それが己が秘剣を叩き付けた相手が沈黙か健在かを
いち早く剣士に報せる結果となった
熱気渦巻く粉塵が晴れ、一四方先の光景が目に映る
その最初にシグナムが見たものは――
自身、数え切れぬほどの敵を薙ぎ倒してきた剛剣を
上段受けに構えた槍の中央で真っ向から受けた、、、男の姿!
その槍の柄の中央でギチギチと金属の擦れる音と共に阻まれた
一閃の太刀の姿だった
(馬鹿な………)
ギリ、と奥歯を鳴らす女剣士
二の太刀要らずの奥義を正面から、力で受け止められた
しかもこんな受け方で―――槍が折れていない、、?
魔道士のシールドの上からデバイスとBJを両断する一撃必殺の剣が
こんなか細い槍一本折れなかったというのか?
未だ硝煙は晴れず
男の表情は土煙に隠されたまま
だがその額の部分からつ、、と紅い液体が落ちるのが見えた
流石にこの一撃を受けて無傷では済まなかったランサー
剣を止めてなお降り注ぐ剣風による衝撃は槍の下で守られた男の額を割り
圧壊の剛剣の衝撃によって男の両足が深々と地面にメリこんでいる
「――――こいつはいい、、」
「!?」
だがそんな傷よりも、赤く染まった額よりもなお紅い
土煙に阻まれた向こう側から煌々と光る猛獣の瞳、、
「先に傷を負ったのは本当に久しぶりだ……
やるじぇねえか、、<セイバー>の姉ちゃんよ」
セイバー……剣使い
それは相手を一流と認めた事による呼称なのか
それともとある儀式におけるクラスの一つとして相手を認めた事による詐称なのか
「ちっ!」
ともあれ戦慄を覚え飛び退ろうとするシグナムだったが
この距離、この間合い――
真正面に捉えた女剣士に対して向けられた切っ先
外さない……外しようが無い
この男が、完全に己が間合いに入った獲物を突き損ねるほどに凡庸な筈が無い
―――二撃
―――もはや同時としか言い様のない速度で
―――剣士の鳩尾と眉間、
両の足を地面から抜き去るなり
男の手から放たれた紅い光が線となり点となり
彼女の急所に容赦なく打ち込まれていたのだった
――――――
(さあて……どうなる?)
視認不能の刺突
流麗に打ち込まれた二擲は先ほどのすれ違い様のそれと同じ
数分違わず急所を穿つ絶死の凶刃
これで終わり――本来ならば
かわせぬ間合いで受けられぬタイミングで
この二撃を捌ける術は無い
まさに読んで字の如し
針の穴を通すほどに正確なランサーの切っ先は剣士の命を軽々と摘み取り
その槍に新たなる血の記憶を擦り付ける事だろう
故に、――
今こそランサーは目を見開き、ソレを凝視する
決められた場面で決まらなかった要因
摘み取った筈の切っ先が届かなかった原因
先ほど己が攻撃を妨げた、、何かの正体を――
「なるほど――そういう仕様か」
両目をナイフのように鋭利に細め、納得の声を漏らすランサー
結論、その二擲は先と同様
相手の女剣士の肉体を穿つ事は無かった
放たれた切っ先が女の体に届く寸前
本当にその肌に届く一歩手前で、、
槍は剣士の全面に展開された見えない力場によって阻まれていた
その膜のような何かが、特殊なフィールドとなって盾となり
先と同じように自分の槍を防いでいたのだ
力場によって槍を弾き、その反発で後ろに飛び上がる女剣士
彼女は後方宙返りをして男の頭四つ分上空にその身を置いた
見上げる男の視線、見下ろす彼女の視線――共に鷹のような鋭さを秘めている
好敵手――
ここまで記した戦い、邂逅は本当に一瞬の出来事で
時間にしてまだ数分と立っていない
にも関わらず剣士と槍兵はその刃を交え、多くの思惑と戦意と、技巧を交錯させた
濃密で凝縮されたかのような時間の中、双方の胸に去来するのは歓喜か恐怖か戦慄か
ともあれ高町なのはとセイバーの戦いがそうであったように
究極の神秘の具現であるサーヴァントがその卓越した能力で相手を驚愕させるならば
ミッド世界の魔道士、騎士達はその最先端の技術と技能を融合させた戦技によって相手に洗礼を与える
両世界の邂逅はとどのつまり、常にこの図式に集約されている
ほくそ笑むは槍の男、ランサー
一発の重さと堅牢な装甲に任せた一撃離脱の戦法
例え相打ちになったとしても、あちらの鎧がこちらの攻撃を弾き、同時に手を出しても自分だけが直撃を食らう
そういう相手は大概、機動力に難のある……つまりは鈍重な重装歩兵の場合が多いのだが
この相手は速度も技能もかなりのレベルにあり―――しかも飛べると来た
初手から厄介極まりない――申し分の無い強敵だ、、
「貴様がどれほどのものかは知らんが……
あまり私を舐めるな、槍の戦士よ」
それに対し、静かながらに憤りをぶつけるシグナム
その男の、一つ一つこちらを吟味するかのような切っ先、視線
本気なのか戯れているのかすら分からない相手との一騎打ちは
曰く、戦闘マニアの彼女にとってはただただ不快だ
「別に舐めてるわけじゃねえぞ? つまらん戦いはしたくないってだけだ俺は」
それに対し、槍片手に心外だというポーズを取るランサー
「まあ正直、こちらもお勤め中だ
相手が愚にも付かぬボンクラだったら一思いに殺してやろうと思っていたが…
どうやらお前さんは俺と十分ヤれるレベルにある
その事が今は嬉しくてな、、つい口元が緩んじまうんだ」
「それは舐めてるとは言わんのか?」
「お前だって人の事言えねえだろ、、姉ちゃんよ?」
(…………)
両者の間に流れる沈黙の空気
ややもして、フッ……と
口に不敵な笑みを浮かべるシグナム
自分もまた、その力の大半を隠しているのを相手に見抜かれている事に対する苦笑だった
その会話の端々にまで駆け引きを要求される相手など
この将にとっても本当に久々で、、
男と同様の感想を相手に抱かずにはいられない
既に並の戦士であれば双方共に1,2回は命を落としているそんな激闘は
しかし二人にとっては互いに手札を隠した、、グローブを嵌めた状態での殴りあいに過ぎなかったのだ
これは相手を侮っているからではなく、むしろ一息にねじ伏せられる様な容易い相手ではないと互いに認めたからに他ならない
「とはいえ、、」
男が流麗にして華麗な仕草で槍を中段刺突に構える
「探り合いばかりじゃ芸がねえ…
お次は俺が手の内を晒す番かねぇ――」
ピリ、と空気が変わる
ゆらりと揺れる紅き切っ先が
男の言葉を受けて新たなステージへと二人を誘う
一見、脱力したかのような緊張感の無い男の姿は
その実、しなやかさと柔らかさを併せ持つ武における理想の構え
それを難なくやってのける相手に対し、シグナムもまた迎撃の体勢を取る
こちらは相も変わらず対照的な、業火纏う戦意の塊のような佇まい
その体が二倍、三倍にも膨れ上がったかのような闘気を醸し出し
いつでも来い!とばかりに男と対峙するシグナム
カミソリのように洗練された槍兵の気配と
全てを焦がす業火の如き剣士の闘志が交錯する中、、
男がニィ、と歪に哂う
「――――そらよ」
破顔した男が無造作にフ、、と動いたその時――
セカイを取り巻く、、音が死んだ
――――――
それは音断ち、と呼ばれる現象
音速を超えた鋭利な物体が大気を、空間を裂いた事により生ずる
一切の音が空気を渡れずに耳に届かない無音空間
物体がマッハの壁を越えるという奇跡の元に起こる
様々な現象のうちの一つ
人の身では到底適わぬ
人力では到底届かぬその境地
、、、
紅くて細いその何かが通り過ぎた瞬間、確かに――音は死んだ
――――――
そして時が止まっていたかのような場が再び動き出す
「――――、、」
まず動いたのは赤毛の女性の顔
しばらくは呆然という感情を貼り付けた顔が、、
その後、目を見開き
驚愕の表情を作っていく
そして震えるように動いた唇から紡ぎ出された――
「な、、に……!?」
唖然という感情を意に示した言葉
それはランサーが無造作に動き、この光景に至るまでのその過程、、
その一切の動作が――まるでコマ落としのようにすっぽりと抜け落ちたようにしか見えなかったという
有り得ない現状に対してのものだった
そして微かに顔を歪ませる彼女、、その頬に伝わる痛み――
顔の横を通り過ぎて、今まさに横目に映っている槍にはすられた右の頬
そこから伝う血がシグナムの首を、肩を濡らす
この現象――というより状況を手っ取り早く説明するならば剣術の居合い抜きであるが
その練度はそんな凡庸なものとは一線を隔して余りあるものだった
ランサーの中段構えから放たれた一撃は
何の予備動作も予兆も生じないままにシグナムの間合いを犯し
まるで視認を許さぬままに彼女の眼前の横を通リ過ぎていったのだ
まさに居合いのそれを凌駕する刃
ソレに対し、シグナムの右下段から抜いた剣は間に合わず
条件反射で顔を庇った左手は手工ごと手首を大きく切り裂き
将の抜く手を速度で遥かに上回った電光石火の突きが彼女の顔面を穿ったのだ
一瞬、フィールドによって止められたが故に辛うじて反応できた剣士
条件反射で顔を逸らしたが故に、槍はその横を通り過ぎ
頬の肉をそぎ落とすのみに留まったが、、、
「う、、く……」
そうでなければ、今の一瞬で……勝負は決まっていた
顔面を串刺しにされた彼女が、、無残な躯を晒していただろう
ニ~三歩、後方にたたらを踏む騎士
驚愕に見開かれた双眸
からからに乾いた喉からようやっと搾り出す、焦燥の吐息
剣の試合でいうならば今のは完全に一本だった
反応が遅れた、、などという生易しいものではない
――見えなかった
――その軌跡すらも、、
「宣言通りだ、姉ちゃん
んじゃ、ま……ぼちぼち見せてやろうか、、」
流麗で物静かささえ醸し出していた男
それはあるいは、社交的で好感の持てる好青年であったのかも知れない
だがその言葉にはどこか緊張感が欠落していて、、
まるで今までのは 「始まってすらいない」 という傲岸な響きさえあった
「本当の――――俺の槍をなぁぁぁああッッ!!!」
そう、、、、、今までは………である
ランサーの表情が鬼貌に歪む、この瞬間までは
途端、その気配――
今まで男の心中で押さえつけていた何かが一気に噴き出した
そう、その異名は初め
決して勇名として馳せたものではなかったのだろう
あまりにも凶暴にして蛮勇に過ぎる戦い方
敵味方共に恐怖の対象、、
千の敵をその蛮勇にて貫き続けた男―――
――― 「クランの猛犬」
自らを律する首輪を、鎖を、
今、己が牙で引き千切った人喰いの魔犬が、、
文字通り咆哮を上げながらに烈火の将シグナムに、、
飛び掛っていたのだった
――――――
2016-05-15T18:03:03+09:00
1463302983
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9-17
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/136.html
短編かいてみた
―――手に入れることが出来ないからこそ…
―――それが美しい…
死せる狂王目覚めし時、大いなる厄災と翼を持って秩序の塔、法の船打ち砕かれん、されど召還されし異世界から呼び出されし金色の王、それを従えし少女相応なる力得れば母なる器においてラグナロクが勃発せん
―――プロフェーティン・シュリフテンに記された一文
―――それは不思議な光景であった。
ふと手にした金色の破片、村を追い出された道中で拾った宝物…そして私は盗賊に襲われた、アルザスの民それも無防備な少女と知ればそれこそ『鴨が葱を背負ってやって来た』と思われるのも仕方ない…
盗賊に捕まったら、その末路は…考えたくもない、必死に足を動かす、それに伴い心臓の鼓動が早まる、だがそれも気にして至れる状況ではない、ただ走る走る走る走る走る走る走る…
之から起きる惨事を少しでも延ばさんが為、ひたすら走る走る走る走る走る…
だが少女がどんなに走ろうが、大人に取ってはノロマな亀同然である、あっと言う間に少女を取り囲む8人の男
「ようやく追い詰めたぞ」「散々てこずらせやがって…」「ヒヒヒヒヒヒ、覚悟しな」
下衆な笑みを浮かべその盗賊達は今にも少女を捕らえんとした。
(ここで終わるの?嫌だ、私はまだ死にたくない!生きたい!ヤダ!誰か…助けて助けて助けて助けて助けてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ…)
一滴の涙が知らずにペンダントとして身につけていた金色のナニカにかかる、そして少女の念はとんでもない存在を呼び寄せる。
少女を中心に広がる正体不明の術式、それは時空を守護するもの達ですら見た事のない文様、そして閃光、その眩しさに一瞬視界を遮る少女そして恐る恐る目を見開いた先にある物それは…
「なんだここは?」
今いる場所には全く似合わない金色の鎧を纏った男が立っていた。
「何だてめぇは!」
盗賊の一人が叫ぶ。
「餓鬼の連れか!」
同調するように別の盗賊が叫ぶ。
「痛い目合いたくなければそこをどきな!」
「いや、その前に大層な身包みを置いてもらおうか?」
一斉に品のない笑い声を上げる盗賊、だが少女の目の前に立っている男は言った。
「目障りだ…早々に消えろ」
丸で何か汚いものを見たように、丸で主婦がゴキブリを潰すように…男が盗賊に向けて…
――― 一瞬の出来事だった。
一瞬にして盗賊は剣の一振りで全滅したのだ、呆気ない光景だった、そして男はそれにまだ反応しきれていない少女の方に振り向く。
「貴様が我を呼んだのか?…馬鹿なこの我がこのような雑種の小娘に…」
驚愕の表情を浮かべる男、そして同時に猛烈な殺気がその少女に襲い掛かる。
「認めぬぞ…断じて認めん…我がこのような…」
そして男は盗賊達を両断した剣を少女に向けて振り落とさんとした。
「滅べ」
そして少女は思った。折角助かったと思えば助けた男は私に向けて剣を振り下ろさんとする
…嗚呼、何てこの世は無常なのだろう…
だがその剣は振り下ろされる事はなかった。
「何だこいつは?」
男は自分の顔に覆い被さっているナニカに見やる。
「竜だと…」
小さき白き竜、例え敵わんとしてもその身を呈して主を守らんとした。そして男は笑う。
「ハハハハハハハ、貴様、その歳で竜を操るとはな…」
男には少女の背後から自分を睨む黒き竜の姿を見ているのかしれない。
「面白い!実に面白い!どうやらこの世界は、我がいた世界とは違う世界…なら我の宝物庫に加えるべきコ物の一つや二つはあるだろう…よかろう」
男は竜を振りほどくと少女に歩み寄る。
「小娘、貴様の名前を教えろ」
傲岸な物言いだが少女は返す。
「キャロ・ル・ルシエです」
「よかろう、些か不本意であるが貴様をマスターとして認めてやろう」
「あ、あの、お名前は…」
「我の名を知らぬとはな…まぁよかろう、我の名はギルガメッシュ、しかと貴様の心に刻み付けておくがいい」
「あ、はい、よろしくお願いします」
英雄王と竜使いの少女は出会った…
そして暫くの間、町に金髪の少年とピンク髪の少女が街を出歩く姿が確認される。そして
その二名は古の術を使い一人でも多くの人を助けようと夢見る少女が率いる部隊に入る事
になる…そしてその部隊機動6課は最大最悪の『爆弾』を抱える事になる。
「すでに艦隊の戦闘能力は30パーセント以下に減少!」
「『ムスペルヘイム』『ヴィルベルヴィント』大破!『グロースシュトラール』戦闘続行不能!『フィンブルヴィンテル』通信途絶!
『デュアルクレイター』鎮火出来るもFCS機能全停止!『ルフトシュピーゲルング』『ハリマ』艦内炎上阻止できず…たった今総員退艦が発令されました」
「本艦『クラウディア』も主砲、アルカンシェル共に使用不能…戦闘可能なのはもはや『アラハバキ』『ヴォルケンクラッツァー』の2隻…両艦とも中破です…艦長…」
OPが泣きそうな声で言う、無理もない…管理局が誇る最新最精鋭艦隊がたった1隻の…古
代に大いなる力を振りまき続けたとはいえ、ボロ船如きに返り討ちにあったのだ。歯軋り
をするクロノ…
「ゆりかご内部は…なのはは…皆は…」
「内部に突入しましたが八神はやて、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、ヴァイス・グランセニック、
シグナム、ヴィータ…全員戦闘続行不能です」
「馬鹿な…」
クロノはうめく、管理局でトップランクを走る彼女達が全く歯が立たない事に…
「あれが…あれが…真聖王なのか…」
かつて6課に保護されたヴィヴィオと名乗る少女…聖王の器は贋作(フェイク)であった、
真の聖王は長き眠りについていた、そして狂気の科学者がゆりかごを復活するのと同時に
聖王は目覚めた。まず研究所内部にいたジェイル・スカリエッティは聖王によって無残に
殺され、そしてジェイル・スカリエッティ確保に赴いていたフェイト・テスタロッサ、シ
ャッハ・ヌエラ、ヴェロッサ・アコースの3名も真聖王の前に呆気なく蹴散らされたのだ。
そしてゆりかごに乗り込んだ聖王はヴィヴィオを救えた事にホッとしていた高町なのは、
その場に居合わせた八神はやて、ヴィータを瞬時に叩き潰すと、増援に現れた新人達と援
護の為駆けつけたヴァイスを一蹴、そして艦隊を一方的に叩きのめしたのだ。
「ゆりかごに潜入し戦闘続行可能な奴は…」
「キャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアル…ギルガメッシュのみです…最早彼に希望を託すしか…」
「(畜生!)」
クロノは再び歯を噛み締めた、クロノはギルガメッシュを嫌っていた。
傲岸不遜、自分以外は全てゴミ、世界は全て我の物と平然と言い張る…そして時空管理局
と言う視点から見て彼はあまりに危険すぎた。
模擬戦(と言う名の蹂躙戦)で決死の覚悟でストラーダと引き換えにして己の意思でギル
ガメッシュの鎧に傷をつけたエリオ…だがギルガメッシュは偉く気に入り、自分の宝物庫から一振りのロストロギア級の魔槍を
「褒美」として授け…
足掻き続けてきたスバル、ティアナ両名に対しても、「よくやるわ」と認めていた…
確かに新人達に対しては何故か友好的でも合った、しかし…その他の古参組とは…
あまりの暴虐ぷりに切れたヴィータをそしてそれを止めようとしたシグナム、を半殺しに
して「騎士ならば王に背いた罪がどうなるか分かっておろう」と殺す寸前までいった。
なのはが逆に頭冷やされ(殺され)かけた
ヴィヴィオを護送中のヘリを襲撃した戦闘機人二人を虫けらのように殺し、それを問い詰
めても「だからどうした、屑を消しただけだ」と平然として突っ返した…
彼は余りにも危険すぎた、彼のランクは実質SSSランクと言っても過言ではない…そして
彼の保有する武具はすべてロストロギアに匹敵するものでもあった。
だがどう足掻こうが、最早彼にしか聖王を止める手段はないのだ…クロノはただ苦い顔を
していた。
ゆりかごの大広間、二人の王+2人は対峙していた。玉座に座るのは聖王、そして対峙す
るのは英雄王とそのマスターとそれと共に歩もうとする少年
「貴様が真の聖王とやらか…貴様ごとき雑種が王を名乗るには片腹痛いわ」
嘲笑するギルガメッシュ
「ふん、田舎の僻地を支配したぐらいでいい気になっている猿山の大将がほざくか」
真聖王も嘲笑する。
「王の名を持つ者はこの我一人で充分よ」
「いってくれるではないか…」
「「ギルガメッシュさん」」
「何だ、キャロ、エリオ」
「私にも戦わせてください!ヴォルテールもフリードも…私だって貴方のサポートは…」
キャロは叫ぶ、そして、魔槍を従えるまでに成長したエリオも叫ぶ。
「僕もです!僕だって貴方の手伝いぐらいは…」
だが王は拒絶する。
「いらぬ!」
「どうしてですか!」
「この戦場に貴様は不要…そして目にする事を生涯の誇りとするがよい!」
そしてギルガメッシュの周囲から波紋が浮かび上がり数多の宝具が出現する…
「ゲートオブバビロン」
「王の戦いを!」
そしてそれを迎撃せんと聖王も動き出す…
管理局、しいては次元世界の存亡をかけたラグラロクは今聖王のゆりかごで行われようとした―――
ノリで書いてみた・・・
2016-05-15T17:57:37+09:00
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なのぎる (中編)
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/193.html
ギルさん、という人はその日から翠屋の常連になった――
となのはは思っていたのだが、それは彼の印象というか存在感があまりにも強かったせいで、実際のところは二週間か一週間に一度くらいでしかきていなかったらしい。小学低学年の記憶などというものはいい加減である。
当時はめったに家に帰らなかった父や母であったが、そこのあたりはしっかりと記憶していた。あと、
「ギルさんが来ると、なのはの顔が全然違うから」
とは剣の修行に忙しかった兄の言である。
もっとも、なのはだけではなくて、ギルさんが町にくると近隣の子どもたちみんなの顔が変わっていた。
ギルさんという人は、不思議なほどに子どもたちに好かれていたのだ。
なのぎる (中編)
(つまり、なのはちゃんの初恋の人やった、と)
(ナノハノハツコイノヒト……ナノハノハツコイ……)
(いや、ギルさんは好きだったけど、初恋というんじゃなかったよ)
多分。
というか、あの頃の家族のなかなか揃わなかった高町家の中で一人いい子をしていたなのはにとって、実の兄とはまた違った感じで慕っている――もう一人の兄のような、そんな人だったと彼女は今になって思っていたりする。
まあ、女の子にしてみたら同世代の男は常にガキに見えるものであり、年上に憧れるということはよくあることであるが。
正直をいうと、まったくそういう感情がなかったのかというとそうでもない。
ないのだけれど、あれを初恋か、と言われると恋より仕事ですなワーカーホリックっぽいハイミス路線を突っ走っている最中の現在のなのはが思い返しても、やはり首を捻るところである。
憧れてはいたけど。
好きだったけど。
そんな対象とはちょっと違っていた。
多分。
今でも思い返すと鮮やかに脳裏に蘇る。
海鳴の町の海岸線で釣竿を置いて糸をたらし、そしてジャ○プを読んでいるギルさんの姿を。
自分や近所の子どもたちは、彼を見かけるとはしゃぎながら傍に駆け寄るのだ。
――おおっ、すげー。いっぱい釣れてるー!
――ねえ、ギルギル、ジャン○見せて
――ギルギルー、うちのお姉ちゃんがギルギルにクッキー渡してってくれたよ
――ギルさん、ガリガリさん買ってきたよー
「うむ。トンキチよ、我の腕前と道具にかかればこの程度は軽い。
チンペイ、ジ○ンプは我が読み終えるまで待て。
よかろう。カンタよ。貢物、受け取ってやろう。
ナノハ、ご苦労であった。さ、みなで食べるぞ」
こんな感じで、ギルさんが来ると本当に楽しかった。
本当に尊大で傲岸な人であったけれど、気前が良くて、そして頭の回転が速い……聡明と言ってもいい人でもあったから、子どもたちは何をしてもらうでもなく、ただ話をしてもらうだけで楽しくて仕方がなかったのだ。
それと、なのははみんなが自分一人だけの時に、内緒でギルさんに相談事をしていたことを知っていた。ギルさんを自分たちの身の回りのどんな大人よりも信頼できていたのだろうと、今なら思う。
実際、そうだった。
ギルさんには、本当に色んなことを教えてもらった……となのはは懐かしく思い出す。
あれは出会ってすぐのことだ――
「何でラスボスって、小出しに敵をぶつけてくるのかな」
そう言ったのは、トンキチであったかチンペイであったか。
「最初からよわっちい時に倒してしまえばいいのに」
「そんなの話のつごーだろ」
「話のつごーってなんだよ」
「兄さんが言ってた。『そうしないとすぐ終わるだろう。漫画にするのならそういう不自然なことはある』って」
ジ○ンプを読みながらそんな話になった。
たまに、そういう作品の根幹に関わるようなことに疑問を持つ時期がくる。こないままにキン○マンを毎週楽しみに二十歳を超えてまで矛盾やら超理論など気にせずに読んでいられたような人間もいるが。
(あかんなー、娯楽作品は設定の整合性よりノリと勢いを大切にしないといかんのに。そんなこと気にしだしたら、素直に楽しめなくなるんやで。戦術的に間違ってるとか、そういうの気にしたらあかん!)
(うん。そうだね、そうだよね。戦力の分散とかしちゃっても、全員でぼこぼこに一人を攻撃すると卑怯くさいし、個々で撃退とかした方が盛り上がるものね!)
(……二人とも、そんなに激しく同意してくれなくても……)
ギルさんは男の子たちが話しているのを聞いていたが、やがて。
「違うな」
と言った。
「話の都合などではない。ラスボスとは軍団の長だ。多くが王を名乗っている。そうでないものもいるが、長たる者は王たらんとする者である。そして真実に王たらんとするのなら、必ず慢心する」
「あ―――」
なのはは「ああ」となんか合点がいったというように頷いた。
慢心であるがゆえに敵を侮り、小出しに敵を差し向ける。
だから最後に敗れる。
解りやすく、当たり前のことである。だが、なんだか凄く腑に落ちた。
少なくとも話の都合というのより、子供心に納得はいったものである。
「もっとも、ラスボスにも器量の格差というものはある……ここ数年だと、かの大魔王バ○ンが我の知る中では格別であったが」
その力、目的共になかなかであると褒めた。
「しかし悲しいかな、最後までその王道を貫けなんだ。敵が勇者であるとは言え、全ての傲慢をかなぐり捨てて挑むというのは、な……最後の最後で王を捨てた」
「ゆだんとかまん心は身をほろぼすって、お兄ちゃんがいってた」
高町家には小太刀二刀流の技が伝わっている。
剣士としての訓戒を家族はなのはに押し付けたりはしなかったが、それでも時にその心得を呟いて言い聞かせることもある。基本的に一般論の延長のようなものだが。
それをなのはが言うと、ギルは何処か満足そうに微笑んだ。
「道理である」
どれほどの力を持っていようと、傲慢であれば油断を生み、油断は必死の刃を時に受け損ねる。
「しかしな、慢心せずして何が王か」
「それって、王は必ず負けるってこと?」
チンペイだと思うが、そう聞いた直後、ギルさんの顔を見て、まるで魂が抜けたかのような表情になった。
「たわけ。真実王足りえるのは過去現在未来において我一人だ。そして我は最強だ」
……正直、この時にギルさんが言っていたことについては、なのははかなり後までただの例えだと思っていた。
「最強の我だからこそ、慢心が許されるのだ。その器量のない者が王たろうとしても必ず身を滅ぼす――ゆえに、兵法の類では油断を戒めるのだ。あんなものは弱者の学ぶものよ。最強ならばただ進み押し潰せばよい」
全員、意味は解らないままにギルさんの言葉を聞くだけとなった。
「時に引き、隠れ、押す――ふん。弱者の工夫などは我に不要だ。ただ勝つのだけが目的であるのならばな。娯楽と興じているのならそれもするが、勝つだけならばまとめて潰せばよい」
つまりそれは、最強足りえない者のためにあるのが兵法・武道であり――
「王でない者が学ぶが故に慢心を戒める。まったくもって道理ではないか」
……なのははその時のギルさんの言葉を、こう受け止めている。
この世で最強でないのなら慢心はするな、と。
最強足りえないから戦技を磨かなくてはならないのだと。
今のなのはの戦技教導官としての謙虚な姿勢と熱心な態度の根底には、その時のギルさんの言葉はやはり全部が全部ではないが影響は残っているのだと、今は少し思っている。似たようなことは家族にも言われていたが、何せインパクトが違うのだ。
(あー、それやと私も、夜天の王やし慢心せんといかんのかなー)
(そういう意味じゃないと思うけど……というか、本当にその人、そういう意味で言ったのかな……?)
(なはは。まっさかー。本気で自分こそが最強無敵だなんて思ってるだなんて――うん。まあ、そう人だったけど)
そんな感じでギルさんには、本当に色んなことを学んだ。
そういえば、一番大切なことも彼が教えてくれたのだった。
あれはもう少し後のこと――
「どうした? 何を悩んでいる?」
いつもの通りにガリガリさんを買った帰り道である。
ギルさんはその時はなのはと二人で歩いていた。
どういう経緯でそうしていたのかということはなのはの記憶には無い。どうせギルさんは「今日は散策することに決めた」とか言ったのだろう。そういう気まぐれな人だった。
なのはは「いえ、なんでもないです」と首を振るが、ギルさんは真面目な顔で
「王の目は謀れぬ」
と言う。
ガリッとガリガリさんを齧りながら。
(この人からは隠せない)
素直になのはは思った。思ってからガリガリさんを齧る。口の中の氷菓がなくなった頃に。
「実は……」
なのはのその時の悩みは、同級生のことだった。
友達、ではないのだが、二人の女の子の話である。
その子たちは学校でも目立つ二人だった。聞けばお金持ちの子女だったりするのだという。そして容姿も幼いながらもかなり可愛らしい。
そんな二人なのだけど。
「アリサちゃん、ちょっとすずかちゃんに意地悪とかしたりするの」
「ふむ」
「意地悪って言っても、そんなひどいことしているというのでもなくて、アリサちゃんはそんなにひどいことしているって気持ちはないのかもしれないんだけど、だけど、すずかちゃんは」
何だか、見てて可哀想になったのだと、なのはは言う。
ギルさんはガリガリさんを齧っていたが。
やがて。
「なのはは、どうしたいのだ?」
「わたしは――」
アリサちゃんを止めたい、と思っている。
だけど、それは余計なお世話ではないのかと考えてしまうのだ。
なのはは幼くして家庭の中で寂しい想いを募らせていた。それでグレるとかではなくて、むしろ家族の事情を鑑み、自分の我侭などは言わないように、言わないようにと心を律する癖がついてしまっていた。
いわゆる、彼女は「いい子」なのである。
そんななのはだから、人とぶつかり合うというのは家族以外の誰とであっても嫌だった。
それは恐れていたと言ってもいい。
まだまだ人に生の感情をぶつけるということにも、ぶつけられることにも慣れていないのである。
それでも。
黙っていられない。
彼女の奥底にあるものが、このまま自分が納得できないことを許容していいのか、ほっておいていいのかと囁くのだ――。
「わたし、アリサちゃんはいけないことをしていると、思うのに、だけど……わたし、嫌われたくなくて……」
「――察するに」
ギルさんは、泣き出しそうな目のなのはの言葉を遮る。
「なのはは、その娘たちと友になりたいのであろうな」
「――――!」
思わず、見上げる。
隣を歩いていたギルさんは、いつもと変わらず傲岸で傲慢で、だがしかし、何かを思い出しているように目を細めているのが解った。もしかしたら、笑っていたのかもしれない。
ギルさんは足をとめずに言葉を継ぐ。
「友とはな、なのは。己の全てをぶつけ合える相手のことだ」
「全てを」
「ああ」
「ぶつける……?」
「そうだ」
笑っている。
ギルさんは笑っている。
しかし、その言葉が真剣で本気で、全く冗談ではないことはなのはにも解った。彼は、何か大切なことを言おうとしているのだ。
「全てをぶつけて戦ってこそ、お互いを分かり合い、認め合うことができるのだ」
「……ジ○ンプの漫画みたいに?」
聞き返してからなのは「しまった」と思う。なんかこの言い方では、揶揄しているかのようではないか。
しかし案に相違して、ギルさんはむしろ嬉しそうに。
「そうだ」
と言う。
「あの雑誌には、時に真理が書かれている。ふん。雑種が創ったとはいえ、なかなかのものよ。いや、大元の原型たる我の物語がよほどに優れていたということなのであろうな。優れていたがゆえに何度となく複製が積み重ねられる」
「…………?」
「原典から複製されたものなど、悉く劣化していくものと思っていたが、こと漫画に関する限りは見事な工夫だ。雑種であろうとも才を磨き、積み重ねたが故にあそこまで到達できたのであろうが……」
「あの、ギルさん」
何だか意味が解らなくなってきたので、つい独白を遮ってしまう。
ギルさんはそれで機嫌を損ねるでもなく、「ふむ」と頷き。
「なのはよ、我にはかつて友がいた」
と、予想もしていなかったことを言った。
「――え?」
思わず、そんな風に呻くように声を出してしまう。
(ギルさんに、友達)
なんでだろう。
なんかすごくショックだ。
なんだかよく解らないけどショックだ。
それは今から考えれば、このギルさんが友という――自分と同格の存在があることを認めていたということが信じられなかったのだろう。
(なんや、さりげにひどいこというてへん?)
(……なのはにそこまで言わせるって、どういう人だったんだろ……)
(いや、だって、本当にあの人、この世で自分が一番偉いと思っていそうな人だったの)
『僕の話を聞いてくれ』
と、そのギルさんのお友達の人は言った、らしい。
「ふん。あやつの話など聞くつもりはなかったがな。しかし、やつは全力で挑みかかってきた。それも、我に全力を出させるに足るだけの力だ。凡百の器量では到底なし得ぬ力であった――」
「………」
「なのはよ、我は雑種を羨んだりはせぬ。この世界には我に全力を出させるほどの相手などは、最早出ぬからな。ゆえに、我の友たり得る者も現れることはない。それに、我にとっての朋友などは一人で充分だ」
「ギルさん……」
こういう時は他の小説では寂しそうな声だった、と書くのが普通なのだが、ギルさんはこの時にむしろ誇らしげだった。
自分の友が最高であるということを自慢しているようにも見えた。
というか、果たしてこの人は自分を励まそうとしているのか、友達の自慢をしたいのか、なのはにも解らなくなった。
あるいはその両方かもしれない。
「しかしな、なのはよ。お前たちは違う。全力で挑んでも、相手が死ぬということはない」
「あ――――」
「我は雑種を羨まぬ。我の朋友以上の最高の友などは望むべくはないからな。それは、我は王だからだ――なのは、お前は王たり得ない。何時か何者かになるとしても、王にはお前はなれぬ。王は我のみだからだ。なればこそ、お前には友が作れる」
「――――」
「いくらでもだ。王でないということは、いくらでも仲間を作れるということだ。いくらでもやり直せるということだ。下らぬ雑種同士が肩を寄せ合っているのを、我は羨ましいとも思わんが」
「ギルさん……」
難しい言葉がいっぱいだったのでよく解らない部分もあったが――なのはは、ギルさんの言葉をこの時に確かに受け取った。
最高のお友達とは、全てをぶつけ合えること。
さすがにそれでなのはの嫌われたくないという性分が変わった訳ではないが。
心の何処か、あるいは魂の片隅に、それは刻み込まれたのだった。
(そうして、私はお友達がいっぱいできたんだよ)
(………)
(………)
つづく。
えぬじー。つか、書いててやめたバージョン
「ギルさん……」
だけど、それは。
(わたしたちは、ギルさんのお友達じゃないの?)
ということだった。
ギルさんに並べる存在でないと、ギルさんのお友達にはなれない。だから今のギルさんは孤独だ。かつていた友達はこの世にはいないのだと、なのははなんとなく感じている。
その孤独を辛いとは、まったくちっとも、微塵にも感じていないようだけど――
寂しいな、となのは思った。
それは自分の感傷にすぎない、と解っていてもなのはは思わずに入られなかった。
この時から、なのはには一つの目標ができた。
自分はけっして王様にはなれない。
ギルさんがそう言ったし、自分でもそう思う。
だから、自分はギルさんが褒めていた存在になろうと思う。
ギルさんが認めていた存在に近くなり、そしてギルさんのお友達似はなれなくても、近い存在になりたいと。
そうして彼女はこの時より目指すのだ。
「そう、私はギルさんが褒めてた存在に――大魔王バーンを目指すことにしたの!」
「天地魔闘自重―――――!」
つづかない。
2016-05-15T17:48:48+09:00
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関連スレ
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また、外部SSの話題や、避難所としてもどうぞ
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2015-08-22T20:44:23+09:00
1440243863
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Sword&Sword
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/474.html
[[Act.1>http://www9.atwiki.jp/tmnanoha/pages/475.html]]
2013-02-12T01:41:23+09:00
1360600883
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Act.1
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/475.html
「ブリテンの危機なのです、士郎」
「は――――?」
Sword&Sword
アーサー王。
かつてのブリテンにあったというログレス王国。
その国の王であったという伝説的な人物だ。
鉄床に刺さった聖剣を抜いて王位に選ばれ、円卓の騎士と言われた配下と共に戰い、大ブリテンを統一したという。
伝説は幾つもあって、どれが正確な真実を伝えているものと判ずるべきかは難しいが、その悲劇ともいうべき最期は共通している。
不義の子であるモードレットの胸を自らの手で名槍ロンにて貫き、しかしその時に負った深手によって彼もまた命を失う。
彼の持っていた聖剣エクスカリバーは、忠実なる騎士ベディヴィエールの手によって湖の貴婦人たちに返された。
そしてまた、彼の遺体も湖の貴婦人たちの手によって遥かなるアヴァロンに運ばれていったとも伝えられる。
伝説は最後にこう締めくくられている。
「過去の王にして未来の王 アーサー
彼はいつかブリテンに危機が訪れし時
遥かなるアヴァロンでの眠りより醒め、
我らの前に帰還するであろう」
☆ ☆ ☆
「……士郎は心配性すぎます」
セイバーは、言った。
拗ねたような、というか拗ねた口ぶりだ。彼女は普段はもっと抑制のきいた口調で話しているのだが、今回はよほど腹に据えかねたらしい。
「まあまあ、結局許してくれたんですから」
彼女の隣りに立ち、ギルガメッシュはそう宥める。その表情は苦笑している風である。
「あなたとアーチャーと一緒にという条件付きですけどね」
「はは……」
普段の大人の姿ならまた違うのだろうが、今の少年バージョンの彼としては「触らぬ神に祟りなし」という他はない状態だ。
軽く息を吐きつつ、教会の前に用意したパジェロミニへと眼をやる。
今回の遠征に際して用意した車だ。本来はもっといいものが用意できたのだが、外車だの高級車は華美に過ぎるというアーチャーとセイバーの意見もあって、なんとなく会社で余っていたこの車にしたとのことである。
セイバーは「こじんまりとしてなかなかよいですね」と言ったが、その実、車のことなどどうでもいいようだった。
肝心なのは彼女が望む場所にいけるかどうかであって、そのために騎乗する車の種類を問うつもりはなかった。
これが例えば彼女が生前にいた時代であるというのなら、戦場へと駆けつけるのに豪奢に騎馬を飾ることをしただろう。王たる者はそれなりの格を以て挑むのが戦さの習いであるからだ。
しかし今、ここではそのようなことにこだわる必要はない。
それは、このたびの戦いが彼女にとってさほど重要ではない――ということを意味していない。
むしろある意味で彼女、アルトリア・ペンドラゴンにとって、それは生前の戦場以上に熱く血を滾らせる状態なのだった。
ことは三日前に遡る。
「イングランド代表とフランス代表の試合か……」
彼女のマスターで冬木市在住の魔術師である衛宮士郎は、自らのサーヴァントから事情を聞きだし、眉をひそめた。
「そうです。これまでの戦いでイングランドは満身創痍。そして対するフランスは未だ十全たる陣容を保っています」
「うーん………」
「GKも前回のレッドカードによって、今は第四キーパーに」
「あれは、仕方なかったよなあ」
「ええ。しかし彼の果敢なプレイによってチームはあの時に失点を免れた」
「勝ち点はとれなかったけどな」
「ですから、このたびの試合は重要になるのです」
……だいたい、ここまでのやりとりを聞けば解るだろが、この二人の言っている試合というのはサッカーのことである。
サッカー、あるいはフットボール――それは世界的な人気を誇る競技である。
聖杯戦争のために古代より現代の日本に顕現したセイバーであるが、ご多分に漏れずというべきなのか、世界中の多くの人間のようにこのスポーツに夢中になった。はまったというべきか。
女子でありながらもその身体能力とカリスマにまかせて少年サッカーの草試合に出場し、遊び、ついには彼らを率いるチームまで作ってしまったほどだ。
当然のように、やる方だけではなくて観戦する方にも熱心なものである。近隣でサッカーの試合があると聞けばできるだけ脚を伸ばし、テレビ放映されるとなると画面の前に張り付き、試合の動画をみるためにwebのやり方まで覚えた。
特に、国際試合……彼女の祖国であるイングランドの試合については、傍で見ていても怖くなるほどに集中していた。
士郎はこれらのセイバーの行動に関して、師匠である凛に相談したことがある。いくらなんでも、これは異常なのではあるまいか。
「確かに、少し常軌を逸した風に見えなくもないけど」
凛は弟子の相談に少し考えながらもそう答え。
「多分、聖杯戦争の影響が残っているのね」
「なんだそれ」
「聖杯戦争中はサーヴァントたちはそれぞれ敵愾心を抱くようになっているのよ。システム的に。だけどこんな形で聖杯戦争が終わって……敵がいるのに、戦ってはいけない状態は、彼女たちにとってかなり不自然なのね」
「ああ、わきあがってくる闘争心みたいなのを発散させているわけか。あれは」
「多分ね。そういう風に考えといた方が幸せだわ」
「……ただ単純にサッカーが大好きなだけって可能性もあるのか」
その方がありそうだなあ、と士郎は思った。他の英霊たちの行動も思い返してみるが。
読書三昧のライダー、宗一郎ラブで耳をぴこぴこ動かすキャスター、バイトをめまぐるしくやっているランサー、風流なアサシン。アングラーでキャッホーなアーチャー……。
「いや、やはりみんなそれでおかしくなっているんだ。きっと。多分。絶対」
「私がいっといてあれだけど、そんな確信に至るようなはっきりとした話じゃないのよ」
「いや、間違いない。遠坂の言うとおりのはずだ。そうでなければ」
「そうでなければ?」
「…………いや、とにかく、そんな感じでみんな気を紛らわせるために何かいろいろとやっていて、セイバーの場合はそれがサッカーだったというわけだな」
「まあ、そういうことなんじゃない?」
なんだかなげやりに、凛はそう言った。
いずれ慣れるだろうとも付け加えたが。
そんなやりとりをしたのが一ヶ月ほど前で、今に至ってもセイバーの熱意は冷める予兆をまるで感じさせなかった。むしろ最大限にまで高まりつつある。
「祖国の危機なのです。士郎」
セイバーは静かに、しかし力強く断言した。
より正しくは祖国を同じくするチームの危機であるのだが、そこらをつっこむ気力は士郎にはなかった。
「……セイバーが、この試合に並々ならぬ入れ込みようなのはわかった」
「はい。さすがはマスター」
笑顔が眩しかった。
そもそもからして、応援に駆けつけたところでどうにもなる訳でもないだろうに……という言葉を士郎は飲み込んだ。
彼女だって、自分が試合にでられるわけでもなく、試合会場に駆けつけたところで何かの役に立つなどということはない――くらいのことは解っているだろう。
「しかしな、その試合を直接観戦するために遠征するとなると……」
ぶっちゃけると、予算がない。
いや、衛宮家が貧乏というわけではなかった。むしろ養父である切嗣の残した遺産やら、彼自身がバイトでため込んできた金が結構な額で通帳には入っている。
とはいえ、それらに気軽に手を着けるつもりは彼にはなかったし、そうすべきものでもないとも思っていた。
近頃急激に増えた家族のために諸経費がかさんでいるところでもある。セイバーが熱中しているのならばなるべく手助けしてあげたいとは思っているのだが……。
「国際試合が日本国内ってのはありがたいけど、それでも遠すぎる。どう考えても日帰りで戻るには相当な強行軍にならざるを得ないしなあ……」
となると、宿泊するしかないように思えた。
「士郎。私はサーヴァントです。少々無茶な日程だろうと、そう簡単にばてたりはしません」
「そうなんだろうけど……セイバーを一人で、市内ならまだしも、これだけ離れた場所に行かせるというのはなあ」
もとより、最優のサーヴァントであるセイバーをどうにかできる存在がそこらにごろごろと転がっているとも思っていない。
ただ、ほっておいたらどんなことが起きるのか。
セイバーは基本的に常識人であるし、他の英霊たちに比べてもそんな問題を起こしそうにないように思える。しかし、英雄だ。英雄とは治にいて乱を求める。いや、もっといえば乱に呼ばれる存在だ。
当人にその気がなかろうと、ほっといたらどんなやっかいごとに巻き込まれているか、しれたものではない。
できうるのならば、自分も側にいて彼女を助けてあげたい……と、どちらがマスターなのかも解らないようなことを士郎は考えていたのだが、検討すればするごとに状況は芳しくないということが判明していくのだった。
予算もそうだが。
「だめだ……やっぱり、この日程だと柳洞寺でのバイトとかちあってしまう」
「やはり――」
セイバーもあらかじめ聞いてはいた。
柳洞寺で週末に泊まり込みにとあるスポーツチームがくるというので、その宿泊の食事の手伝いを士郎が一部請け負うということがかなり以前から決まっていたのだ。
セイバーが一人でいける、と主張していたことにはそのことも事情として大きい。勿論、試合のために遠征、帰還などは一人でもできるのだという自負もあるのだが。
「あらかじめ決まっていたことを反故にするわけにもいかないでしょう。私一人ならば試合に観戦したその脚で当日に帰ることもできます。ですから士郎もそう心配せず、」
「こうなったら、仕方ない……」
セイバーが小さく胸を張りつつ主張しているのを横目に流し、士郎はなにやら覚悟を決めたようだった。
「――士郎?」
「ここはやはり、保護者を頼もう」
それが、三日前のことである。
「私も、あなたたちが信用できないというわけではないのです」
セイバーは助手席でお菓子の袋に手を入れながら、いう。
「むしろ、今の冬木において、あなたたち以上に頼りになる存在というのも皆無でしょう。士郎は私にとって最高のマスターですし、凛はすばらしい魔術師だ。それでもやはり、能力においてあなたたちは彼らに優る」
「そういっていただけるのは、うれしいですね」
後部座席で、ギルが答えた。
「凛はともかく、あの未熟者に優るのは当然のことだがね」
運転席でアーチャーがいう。
待ち合わせ時間ぎりぎりにやってきた彼は、わびにと自ら運転手を勝手でたのだが、そのハンドル操作は手慣れたものであった。騎乗スキルはないはずだったが、さすがにこの時代出身の英霊だけはある。
「しかし、それと信頼とは別の話だ」
「まあ、セイバーさんのいわんとすることも解りますよ」
あ、お茶もどうぞとセイバーに紙コップを渡すギル。ありがとうございます、と受け取るセイバー。
「僕達なんかじゃなくて、マスターのお兄さんと一緒にきたかったってことですよね」
「…………やはり、貴方は苦手だ。英雄王」
にぱっと笑いつつ、少年英雄王はセイバーの視線を受け止めた。といってもさほど鋭いものでもない。お見通しですよね、と言わんばかりの何処か諦観と親愛を滲ませたものだった。決して大きくなった彼に向けるようなことはない。
「そして、そのお兄さんに信用されてないというのが嫌なんですね」
「有り体に言えば、そうです」
「この件に関しては、私もあの衛宮士郎のとった手段は最良と認めるべきだと思うがね」
運転席のアーチャーが口を挟む。
「アーチャー、貴方は……」
セイバーは何かいいかけたが、やがて口を一度閉ざしてから。
「どういう風な生き方をすれば、あの士郎が貴方のようになってしまうというのか……」
嘆くように、言った。
やれやれと運転しながらも器用に肩をすくめて見せたアーチャー。
そして。
「本当、わかりませんよねー」
と、にこにこ笑いながら答える少年英雄王。
(貴方がいうと……)
(お前がいうな……)
剣士と弓兵のサーヴァントは、期せずして同様のことを思った。
……そんなやりとりをしているうちに、いつの間にか車内の空気は和んでいた。
彼らとて聖杯戦争では敵対することを義務づけられているとはいえ、元々仲が悪いわけではない。
弓の英霊二人は属性的に真贋と相反するといえばするのだが、いちいち車内で対立するような大人げないことはしない。赤い方は苦労人であり、金髪の方は子供の時には他人を大切にするよい子ちゃんなのだ。
剣の英霊ともそうである。
なんだかんだと彼らはお菓子を食べつつ、お茶を飲みつつ、景色を眺めつつ、楽しんでいた。
「……ですから、元々サッカーという競技は遡れば遠く古代中国で兵士を育成するための競技であったともいい、それがローマを通じて私の時代にはブリテンに伝えられていたのです」
「………そんな話は聞いたことがないぞ」
「しかし事実です。事実ですから仕方がありません。私の頃の伝説では、ブリテンに伝えたのはかのネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスの命によるのだとか」
「…………………ほう」
「私とよく似た容姿だったようですよ。肖像画が残っていましたが、確かによく似ていた。おかげで私は彼の生まれ変わりという伝承ができたほどです」
「…………………どこまでその話は大きくなるのだ!?」
「原型は僕の時代にはありましたよ」
「ほう」
「というか僕が作りました」
「――――なんですって!?」
「元々、フンババの首を切り落とし、暇つぶしにエルキドゥと蹴りながらレバノンからウルクまで歩いたのが最初なんですよ」
「森の神の首になんてことするんだ!?」
……とまあ、そんな感じに世界のスポーツ、知られざる伝播史と発祥をはなしたりしつつ、車は会場へと向かうのだった。
ほとんど休憩なし、ぶっ続けての強行軍だが、なんら問題はない。
何せ彼らはサーヴァントである。
子供に見えて英雄王も、だ。
途中でトイレの休憩によったのが四カ所くらい、という程度で彼らは向かう。
そして、あと半時間というでアーチャーが聞いた。
「ところでセイバー、君は向こうで待ち合わせしているといってたな」
「はい。それがどうしましたか?」
「詳細は聞いてなかったが、その相手はもちろん魔術師のような裏の世界の人間ではあるまいな」
「ええ。過去のことはわかりかねますが、今のあの方たちからは、そのような匂いを感じません」
彼女らしからぬ、何処か含んだ言い方だった。
アーチャーは「ふむ」と微かに眉をひそめたが、特にそのことについてはなにもいわず。
「まあ、楽しむがいい。君のマスターもあれだけ女たちを侍らせているのだからな。サーヴァントの浮気にも寛容だろう」
「な――!? あなたはなんてことをいうのですアーチャー!それは士郎のみならずあの方たちにとっても侮辱だ!」
即刻訂正なさい、という前に、少年英雄王が「嫉妬は見苦しいですよ」と口を挟んだ。
「なにをいうか英雄王!?」
「アーチャーさんは、自分の知らない相手にセイバーさんが親愛を向けられているのがいやなんですよ」
「戯れ言を………」
その後に何か言い継ごうとした彼は、しかしバックミラーごしにニヨニヨとしてしる騎士王と英雄王の顔を見て、唇の端をひきつらせた。
「ふっ。士郎はああ見えてもなにげに独占欲が強い人でしたね」
「普段の正義の味方行動で誤魔化されますけど、なにげに独占欲強いですよね」
「君たち……だから、私はあの未熟者と違ってだなあ……」
「そう心配せずとも。今日会う方々は、私がコーチをしているサッカーチームが遠征した時にお世話になった人たちです。やはりチームを率いておられましたが、なかなかの采配で私のチームを苦しめました」
その試合の後に色々と話をし、意気投合したのだという。
「それから週末の一時間は、よく彼らとのSkypeを楽しませていただいてます」
「……………そうか」
アーチャーはそう答えたが、内心でどういうことを考えたのかは誰にもわからない。
ちなみに、彼らにとって大切な友人であり、マスターである遠坂凛は、ネットの類はほとんど使えない。ツイッターを日記か何かと想ってたくらいの情弱だ。彼女がセイバーがSkypeを楽しんでいるという話を聞いたら、果たしてどういうことを言い出すものか……。
そして、そんなことを言っている内に競技場についたのだった。
☆ ☆ ☆
「さて、私は車をおいてこよう」
アーチャーはセイバーと英雄王を競技場の入り口近くに降ろすと、何処かもよりの駐車場を求めて離れていく。
「僕はお菓子とか買ってきますよ」
「あ、それなら私も」
「セイバーさんは、待ち合わせの人がいるんでしょう?」
「そうですが」
「入れ違いになっては大変ですからね。僕たち同士ならすぐに居場所は解りますし。解らなかったら、宝具を使ってでも探せばいいでしょう」
「……では、そうさせていただきます。あなたに感謝を」
そういうと、英雄王はニパッと笑って返し、すたすたと立ち去ってしまった。
その後ろ姿をしばらく追っていたセイバーであったが、やがて思い出したように踵を返すと、周囲を見渡す。
サッカーの国際試合であるだけに、多くの人たちがいる。
いわゆるフーリガンといわれるような外国人の応援団たちから、日本のサッカーファンも当然のことながらかなりの数がいた。
(心地良い空気ですね)
何処かぴりぴりとしていつつも、何かが始まろうとすることに対する期待……このまま負けてしまうのではないかという心配、焦燥……かつて彼女がフットボールを楽しんでいた時とあまり変わらない。懐かしい空気でもあった。
「ところで、彼らと待ち合わせている場所は――」
呟き、しかし足を止めた。
「!………ッ」
そして無言で駆け出し、人の波の中、ぽつんと五メートルほどの空白地のような円にたどり着くと、迷いなく鎧を呼び出して武装し、空から落ちてきた白い塊を受け止めた。
「――大丈夫ですか?」
「!? え? あれ……あなた、は……?」
白いコートを羽織った、黒いインナースーツ、金髪で赤い瞳の少女は、セイバーの腕の中で朦朧とした意識のままに目を瞬かせ、呻くように呟いた。
「一体――」
セイバーは言葉を途中で切った。
気づいた時には、周囲から人の姿が全くなくなっている。
空間の色調も変わっていた。
まるで色の違う夜に紛れ込んだかのような――
「……結界?」
腕の中の少女がそう漏らすと、セイバーは目を細め、しかし次の瞬間には顔をある一点に向けていた。
こつり、と足音がした。
ついさっきまで、誰もいなかった場所に、その少女はいた。
まるで、ふうわりと空から降り立ったかのような。
黒い――
「強力なイレギュラーの介入ですね」
落ち着いた――というよりも、冷たいというべきような、声。
どうしたものでしょう、との言葉が微かに空気を震わせて伝わってくる。
だが、セイバーは少女の言っていることを吟味しているような心の余裕はなかった。
十二、三歳ほどのその少女は――
「なの、は……?」
彼女の知己である高町士郎の娘、なのはによく似た顔をしていたのだ。
つづく。
2013-02-12T01:39:53+09:00
1360600793
-
KO-j氏
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エピソード『カレイドスコープ』◆
-[[第一話『戦場』]]
-[[第二話『現状』]]
-[[第三話『妖魔』]]
-[[第四話『雷光』]]
-[[第五話『天の杯・1』]]
-[[第六話『混迷』]]
-[[第七話『真竜』]]
-[[第八話『幽騎』]]
-[[第九話『湖光』]]
-[[第十話『魔女』]]
-[[第十一話『薔薇』]]
-[[第十二話『皇女』]]
-[[第十三話『天の杯・2』]]
-[[第十四話『幕間』]]
-[[第十五話『猛犬』]]
-[[第十六話『神殿』]]
-[[第十七話『怪物』]]
-[[第十八話『魔槍』]]
-[[第一九話『群体』]]
-[[第二十話『並行』]]
-[[第二一話『差異』]]
-[[第二二話『月下』]]
-[[第二三話『極光・黒』]]
-[[第二四話『隼燕月火』]]
-[[第二五話『騎士』]]
-[[二十六話『落雷』]]
『カレイドスコープ』外伝
-[[EX『There is it must be. 』01]]
-[[EX『There is it must be. 』02]]
-[[EX『There is it must be. 』03]]
-[[EX『There is it must be. 』04]]
-[[EX『There is it must be. 』05]]
2012-10-07T06:59:23+09:00
1349560763