741 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/20(金) 06:51:21 ID:rfb+krFj
はやてルート続きいきます。


742 :Fateはやてルート67:2008/06/20(金) 06:52:44 ID:rfb+krFj
円蔵山の長い石段を登り中腹まで至れば、彼の住まいである柳洞寺が見えてくる。
十数年歩きなれたこの道は何も考えずとも自分の寝起きする我が家へと足を進めさせた。
並び立つ西側の建物の一番奥、離れへふと、目を向けると、
兄と慕う男が最近ふらりと連れてきた女性が玄関先に立っており
目を合わせることとなった。

「お帰りなさい。どうだったのかしら、お友達とのわきゃわきゃアハハな時間は?」
「わきゃ?丸1日遊び尽くして、今はすっきり、学園の改革を進める英気を養ったというところです」
「そう?じゃあ私に対する小姑っぷりは鳴りを潜めてくれるのね!」

一成の答えに女性は胸元で両手を合わせるとパァと顔を明るくし、一人喜びに悶える。

「…そこで何をしていたのです?キャスターさん…」
「うるさいわね!今日も料理が上手くいかなかったのよ」
「つまり、夜風に当たり反省していると。キャスターさんも衛宮や副会長、間桐妹のように料理が上手ければ
宗兄も苦労せずに済むのであろうがこればかりは仕方あるまい」

ふぅ、と肩をすくめ溜め息をつく。

「こ、小姑…」
「その呼び方は辞めてもらいたいのだが…む、どうであろう、
俺の友人に料理が上手い奴がおるのだが習ってみては?」

一成の提案にキャスターは表情を堅くする。

「衛宮という一成さんの友人のことかしら?
それは、ダメね」
「あ、いや申し訳ない。俺の友人に師事せよというのは失礼でした」
「そういう意味ではなかったのだけど、気遣いだけ受け取っておくわね」

キャスターはフ、と笑うと離れの中へ戻っていった。すると、中から歓談する声が聞こえる。
キャスターの表情の真意が少し気になったが二人を邪魔しては悪いと、一成は自宅へと足を向けた。


743 :Fateはやてルート68:2008/06/20(金) 06:54:50 ID:rfb+krFj
衛宮邸は当初完全な和風建築であったが、衛宮一家が住居に定めた際、
はやてのことを考慮して多くの部分にフローリングが導入された。
思春期を迎えコアあるいは回路が安定したこともあり
はやての容態が改善すると、畳の部屋にしようという提案がなされ、
士郎の部屋にしか敷かれていなかった畳は今でははやての部屋にも敷かれている。

「気分はどうだ?」

そう、布団に横たわるはやてに声をかける。車椅子を離れ、畳と布団を堪能することは
彼女にとって快復を実感できる大きな意味を持っていた。
その室内を自力で歩けないことは多分にショックを与えている様子だった。

「あんま、ようないかなぁ。また、車椅子使わんとあかんかも」
「俺達がなんとかする。だから、そんな泣きそうな顔、するな」
「嘘や、私、泣きそうな顔、なんかして…へんよ」

苦笑いを浮かべるその目尻には確かに蛍光灯に反射する光があった。

「明日は学校休むんだぞ。遠坂との話は俺だけでする」
「士郎、士郎は聖杯に何を望むんか教えてくれん?」

目尻の水玉を手で拭いながらはやては尋ねた。

「セイバーを勝たせたいこともあるけど、やっぱり俺達ははやてを助けたい。
だから聖杯に願うつもりだ、はやての全快をさ」
「…ありがとうな。せやけどほんま無理だけは…」
「ヴォルケンリッターとセイバーがいれば負けやしない。それにあの神父が言ってることが真実なら、
住民を傷つけようとするマスターを俺は止めなきゃいけない」

普段通りの顔でさらりと士郎は語る。

「あと、黒野の事を神父に聞いてたけどあいつ接触してきたのか?」

士郎の問いに目をパチクリさせるはやて。

「えーと、何ゆうとん?私が聞いたのは切嗣の前に世話になってた人が
最期にその名を呼んだ。そう、名前やと思う。
だから、昔の私を知っとる神父さんならわかるんやないか思たんよ」
「…今日俺がプールで念話をしていただろ?その相手は黒野って名前だ」
「あの時!?で、なんて?」

はやては上半身を起こすと食らいつく。

「…はやてを引き渡せ、衛宮はやては危険人物だから、って」
「あ、はは…それはまた、えらい言われようやな…
私はただ、あの人の最期伝えたかっただけなんやけど…」

士郎の言葉に脱力し、はやては再び布団へと沈んだ。


744 :Fateはやてルート69:2008/06/20(金) 06:57:19 ID:rfb+krFj
「神父は黒野智和という男は知ってるって言ってたな」
「そやね」
「そいつがはやての探してた人で念話の男か確認した方がいいかもしれない。
だけど――俺ははやてを引き渡したりなんかしないからな」
「う、うん」

真っ直ぐにはやての目を見据える。しばしの間視線をあわせていだが、
ふいにはやては、かぶり布団を鼻の位置まで持ち上げ、視線を逸らした。
その顔はほんのり赤い。

「みんな、同じ気持ちだ」
「そ、そうか…あ、やっぱな私、明日学校行く」
「え、いや、ダメだろ。そんな体じゃ」
「ん~、士郎、遠坂さんとまともに話したことないんやない?
ちゃんと会話にもってけるかさえ心配や。なんたって士郎やからな」

一転、にやにやと士郎を見上げる。

「バ、バカにすんな。俺だって話しかけるくらい―」
「相手は学園のアイドル、遠坂凛やよ?どう、話しかけるんやろな?衛宮士郎君」
「そ、そりゃ、話があるからちょっと屋上に来てくれ、とか…」
「ごめんなさい。衛宮君。私、あまり親しくない男子生徒に屋上に呼ばれるって
あまりいい思い出がありませんの。
あなたがどんな気持ちで誘ってくれたかは知りませんがお断りさせていただきます。
とか言われ―わ!?」
「~~っ!!…こ…声…色、真似んな!」

今度は士郎が顔を赤くし、はやての口封じにかかる。

「ったく」
「あはは、でも、そう言われる可能性無きにしもあらずやろ?」
「む、それはそうだけど…」
「そんなら、私が一緒に行った方がええやない」

目は自信に溢れ、にんまりと笑う。

「はやてだって親しいわけじゃないだろ?」
「彼女の猫かぶりを剥がして地団駄を踏ませるくらいには親しいかな」
「…だめだろ、それ」
「ま、士郎が門前払いされるよりは話になりそうや」

その表情は一見穏やかだが、固い決意が瞳の奥に見て取れた。
その気持ちを無碍にする事も可能であったが士郎は…受けた。

「…わかった。だけど歩いたり出歩くときは俺が付いてくからな」
「そ、それは恥ずかしいんやないかな?」
「なんでだ?これ以上は妥協しないからな」
「トイレは…こんよね?」

おずおずと上目遣いではやては問う。

「あったり前だろ!…て、いやそれは…はやての…体調次第なのか?」
「ほ…ほんま…?どないしよ…」
「…………」

沈黙が室内を支配する。


745 :Fateはやてルート70:2008/06/20(金) 06:59:58 ID:rfb+krFj
広い衛宮邸の縁側の一角で酒を呷る女が三人。
冷えた空気と澄んだ夜空を肴に杯を重ねる。

「いくつもの星を渡り歩いたがこの星は不思議だな。
力あるものを取り込もうというのか。力を与える代わりに従属せよとばかりに。
…神秘、か。今私達を包むこのほのかに輝く力は」
「あなた達には資格があったのでしょう。何を代償にしたかは知りませんが」
「私達は次元を飛び越える魔法が使えたわ。けれど今は唱えても魔力が霧散するだけ。
おそらく、いいえ、きっとこれが星の求めた代償だったのね」
「シャマルの言う通りだろう。我らは次元を越える力の代わりにささやかな力を得たが…
最悪の結果を手にしてしまったな…」

シグナムの呟きはシャマルの嗚咽を誘うものだった。

「私達のせいではやてちゃんは…」
「…私達が消えれば主は恐らく快復されるはずだ…膨大な魔力を吸われずに済む。
だが、だがな我らにも願望がある。例え、従者の愚かな夢と蔑まれようと希望ある限りこの世界に在りたい。
主達とともに…。
守るべき主を苦しめ、自分らの妄執だけを貫こうとしている我らのこと、笑ってもよいのだぞ、セイバー」

酒のせいか顔を朱色に染め、自嘲気味に笑うシグナム。

「私はあなた達を笑わない。あなた達の望みを妄執と言うのなら私の望みとて妄執だ。
はやてはまだ終わっていない。救えるかもしれない命と願い。
ならば、王として騎士として、そして友として私はあなた達を全力で支えよう」
「ふふ、ありがとうセイバーちゃん。私達もあなたの尊い願い理解したわ。
とても、大きな、強い責任感…よね。あなたのは」
「王の願いか…いずれにせよ重いものだな。こう、腹を割って話せてよかった。
恐らくはお互いのこと、良く理解できたと思う。改めて言うがセイバー、共に聖杯を求めよう」
「ええ、こちらこそ」

互いに頷き合い、互いに杯を空け、相手に微笑む。
三人の間には確かに信頼が生まれようとしていた。


746 :Fateはやてルート71:2008/06/20(金) 07:02:23 ID:rfb+krFj
冬木のとある病院の一室、ベッドに横たわっていた男はゆっくりと意識を覚醒させていた。瞼が僅かに開く。

「あ、よかった意識が戻ったみたいだよ鐘ちゃん」

今にもぴょんぴょんと飛び跳ねそうなほど喜びを全身で示す少女は男の顔を覗き込んだ。
と、そのほんわかした表情は数瞬後には驚愕に変わることなる…

「え?あわわわわわ」

男が突然、少女の背に腕を回し、引き寄せた。軽いその身は軽々と引き寄せられる。
上半身は男に重なり、顔は間近となり、あまりのことに固まってしまった少女の唇は男に奪われる…
ことはなかった。

「何をしているか、貴様」

男に割と容赦ない一撃をその額に叩き込み、氷室鐘は男の行為を停止させる。

「……誰だ君?」
「さ、三枝由紀香です…」
「答えんでいい、由紀香。それより黒野さん、由紀香を放してもらえないだろうか?
いらん誤解を生んでも困るし、病院から今度は警察と色々体験してもらっても構わないのだが」

ひんやりとした視線を身に受け、クロノの意識は完全に覚醒し現状をまざまざと理解する。
目の前というか、自分の腕の中には顔を茹で蛸のように染めた少女が一人。
また、したたかにクロノの額に手刀を打ちつける少女が一人。
辺りを見るに白のレイアウトの部屋、恐らくは病室。
そこに横たわりつつ、少女を抱擁していた。

「由紀っち、鐘、ジュース買ってきた――って何事、これは?」

タイミング悪く部屋に飛び込んで来た色黒の少女には驚きとロマン、が眼前に広がっているように見えた。


「わくわくざぶーん従業員、黒野さん、あなたは心労により体調を崩し、倒れ、
私達が呼んだ救急車でこの病院に運ばれた。
そして、点滴の処置を受けた。勤め先に連絡が往ったようですが今日付けで解雇されたとか。
心中お察しますが、由紀香にしたことはどういうことでしょう?」

事と次第によっては本当に警察にぶち込めるかも考えていた
氷室鐘が語る情報をクロノはおおよそ把握し、返答を返す。


747 :Fateはやてルート72:2008/06/20(金) 07:04:42 ID:rfb+krFj
「救急車呼んでもらって済まない。僕としてはここまで体にきてるとは思わなくてな」

そこまで話すと横目に俯き気な由紀香という少女を見、ため息をつく。

「三枝、さんにはは悪いことをした。そのなんだ、妻と髪の色が似てたんで寝ぼけて…だな」

照れ隠しに鐘から視線を逸らすと色黒の子と目が合う。
その目は新たな玩具を得た子供のように嬉そうだった。

「それって脳内嫁って奴ですか?」
「…妻と子供二人だ、脳内であるものか」
「鐘、これってマジもん?」

蒔と呼ばれた少女が鐘に耳打ちする。その様子は当然、クロノに丸見え丸聞こえ、
目元からしてニヤついている蒔寺はただ、クロノをからかいたいだけように見えた。

「黒野さん。あなたは戸籍上子供どころか結婚もしていないようだが」

冷静に告げる言葉。

「な!?調べたのか!君のような子が!?」

驚き、身を乗り出すクロノに鐘のとあるスイッチは入ったようだった。

「ほう、今の発言は妻子の件、ただの妄想という意味と改ざんして抹消しているという
どちらかの可能性が浮かび上がるわけですが後者なら警察に行ってもらうという話
冗談ではなくなりますね」
「え?改ざんってなくね?」
「蒔は静かに」

クロノをじっと見下ろす鐘を逆にじっと見据え思案するクロノ。
この星の特性上、裏では極めて上位の支配階級に属すかその上に君臨していたとしても
表において気取られるような素振り見せてしまうことは少ない。
目の前の少女には一見そのような規格外の雰囲気は感じないが油断はならなかった。

「そうだな。妻子の件はただの妄想だ。三枝さんにしたことを誤魔化そうとしたかった。
解雇されてどうかしていたんだ。本当に悪いことをした」

無愛想と言われる性格でも彼なりの誠意のある謝罪をする。
が、鐘の表情は変わらない。

「奥さん達の存在を隠してまでも改ざんという話題を避けたいんですか?」
「…なんだって?」

クロノの心に警鐘が鳴る。鐘は懐から物をだす。
それは、クロノが普段肌身離さず持っていたもの、
日溜まりの中、妻と二人の子供と穏やかな笑顔で佇むクロノが映っている写真だった。


748 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/20(金) 07:05:41 ID:rfb+krFj
相変わらず戦いもない話ですが今日は以上です。


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最終更新:2008年06月21日 01:53