士郎の朝は早い。なんたって10人近い人間の朝食である。
仕込みの時間は多いに越したことはない。

「士郎、今日は朝食の分だけなのだな」

そんな士郎を後ろから獣化した状態で見上げるのがザフィーラの日課。

「ああ、多分今日は昼も夜も外食になるからな。
ザフィーラの分は別に作っておく」
「すまないな…士郎」

士郎が台所に立つ時のみザフィーラは残飯orドッグフードから解放される…
桜は当然、もう一人も何故か桜同様だった。

「おはよ。士郎、ザフィーラ。ん?仕込みはあらかた終わってもうたか。
じゃ、私はザフィーラにご飯やろかな。ザフィーラご飯やよ~」

居間に顔を出したはやては士郎の仕事具合を確認すると
満面の笑みをザフィーラに向けた。

(…ザフィーラ…)
(よいのだ…士郎…主の心遣いは嫌いではない…)

心通じ合う悲しき念話の先に見えるもの。

「どうかしたん?二人とも暗い顔やけど?」

それはドッグフード。


衛宮家の炊事を統べるのが士郎ならば洗濯等を統べているのがシャマルである。

「シグナム、洗濯物はないかしら?」
「んん?いや…別に………すー」
「あらら、起きないなら仕方ないわね~脱がしてあ・げ・る(ハート」

「シグナム、昨夜、朝にでも手合わせしたいと言っていましたが、
いつまで待たせ…………失礼…」

障子を開けた先の光景にセイバーは思わず障子を閉めきびすを返す。

「あ、朝からなにをやっているのです!しかも女同士でなどと…」

金髪の美女が淫靡な顔つきで、目を潤ませた豊満で
無駄ない肉体美を誇る、これまた美女に跨り、服をめくりあげ…
という光景にセイバーは顔を熱くした。

「セイバーちゃんもどうかしら?」

障子の向こうより聞こえる声を即座に切りすてる

「結構、私は興味ないので失礼させて…なっ!?」
「せっかく姉妹になったんだし一緒にやるのもいいと思うのよ、ね?」

この場から立ち去ろうとしたセイバーを足止めしたのは、
何もない空間から伸びた腕。
ぐいぐいと引っ張るそれであったがこと力においてセイバーに勝るものではない。

「ふ、私を足止めするには力不足だったようですね、シャマル」

自然勝ち誇った顔になるセイバー。

「なに、やってんだ?お前ら」


「と、いうわけだシャマルが変なのは確かだけどあれは日課の洗濯。
手伝ってやってもいいんじゃねえか?
あたしは見たいテレビあるから手伝えねぇ悪いな」

ヴィータはそう真顔でいうや居間へ消えていった。
ヴィータの説明になんとも難しい顔になるセイバー。

「なーにを勘違いしたのか、お姉さんは聞かないけど、どうかしら?」
「洗濯…なら、いいでしょう」

シグナムの衣服をカゴに入れて持つシャマルにセイバーは視線を合わせ

「そ、よかった。じゃあ、はやてちゃんから借りたその服も洗いたいから、
脱いでもらえるかしら?」
「は?」

7時になろうとする頃、呼び鈴も無く新しい足音が2つ、衛宮家に増える。
1つは騒がしく、もう1つは慎ましいそれ。

「おはよ~みんな元気ー?」
「おはようございます」

居間に現れた藤村大河、間桐桜の前に衛宮家の面々はすでに揃っていた。

「来る頃だろうと待ってた。2人共座ってくれ。
まだ、朝食は食べてないよな?」

士郎の言葉に、もっちろんと答え、いつもの自分の席に座る大河とは違い、
ただ、その場に立ち尽くし一点を見つめる桜。

「先輩…そちらの方は誰ですか?」

その問いに衛宮家に緊張が走る。主に士郎だけに。

(みんな、口裏合わせは昨日の通りで頼むぞ)

はーい、とか、ああとか気のない返事が帰る。

「ええっとこの人はシャマルの妹でセイバー・ヴォルケンさん。
姉のシャマルに会いに来たんだ。しばらく家に滞在する予定らしい」
「はじめまして、セイバー・ヴォルケンです。姉がいつもお世話になってるとか」

背筋をしゃんと伸ばし挨拶するセイバーには気品が感じられた。

「驚いたわ~シャマルにこんな立派な妹さんがいたなんて。私は藤村大河。シャマルの友人かな。
ねぇセイバーちゃん歳はいくつなの?」
「はい、今年で16になります」
「じゃあシャマルとほとんど一回り違うのね。外歩いたら親子で…」
「はいっ!そこまで!年々お腹に肉が~とか言ってるあなたに
言われる筋合いは、ないわよ?」
「フンだ!あんたとか、シグナムとかがおかしいの。私の肉体年齢はまだ十代なんだから。一体何してればそんなに変わらずいられるのよ。黒魔術とか使ってんでしょ。そーよ、そーだ」

シャマルはホホホと、勝ち誇った笑みを見せるだけで答えない。
次第、大河の矛先はシグナムに向いた。

「シグナムはいいわよねー24にもなってブラブラしてるだけだし。
ストレスとかなさそうで。
私やシャマルみたいにさっさと働きなさいよー士郎が困るじゃない」

大河の言葉に珍しく影で深く頷いている士郎を尻目にシグナムは溜め息をついた。

「大河、私は未だに未熟な自分を磨いているんだ。それに定職に付こうものなら
いざという時に自由に動けん。例えばだ。地震が起き家族に危機が迫っているとして
教師のお前は生徒を第一に考え行動しなければならないだろう?だが私はどうだ?
なんのしがらみもなく家族の為に動くことができる。
この重要性、セイバーならわかるだろう?」
「ええ、いざという時、素早く果断に動けることこそが最も貴重なことです」
「だ、駄目よ!セイバーちゃん。この女に同調したらダメ女まっしぐらよ!」

大河のあまりの剣幕に呆気にとられたセイバーは士郎につい言葉をかけてしまう。

「現代では違うのですかマスター?」

マスター、その単語は大河、そして苦笑いで聞いていた桜に衝撃を与えた。

「master…所有者、支配者、飼い主…」

暗い顔でブツブツと呟く大河を士郎は不気味そうに見つめた。

「士郎…」
「な…なんだ藤ねぇ?」
「…こんな可憐な子に何させとんじゃー!!お姉ちゃんは悲しいぞー!!」

突如、士郎の襟を掴み上げブンブンと振る大河。

「う…が、く、苦し…あ」

室内には若い男の喘ぎ声が響き、朝食の場は阿鼻叫喚な図へと変わりはじめる。
そこで初めて衛宮家は士郎の弁護に回る。

「大河センセ」
「なによう、はやてちゃん。私はこの鬼畜王を退治しなきゃならないの」
「センセも英語教師なんやからわかりますよね?
masterは師匠の意味もありますよ」
「そうだけど…」
「そんなら、答えは簡単やないですか。士郎の腕前に感服しとその道に入ろうと
士郎を師と仰ぐ。これのどこがおかしいんです?」
「むむっ……………まぁそうね。はやてちゃんに躾られてる士郎が鬼畜に走るわけないかー」

手が離され、士郎は落ちた。物理的に。

「そうですよー、…桜ちゃんも安心した?」

先ほどから沈んだ顔をしていた桜に声をかけると、桜はビクッと反応した。

「も、もちろんです、…私は先輩のことを信じてますから」

と、いうもののその表情は一向に晴れない。

(あちゃー。これは桜ちゃんの中で鬼畜王士郎爆誕やね)
(ああ、残念ながら1つの信頼関係が終わってしまったようだな)
(う、うるさい!)

「あーなんだ、飯たべね?」

ヴィータの提案により静かに食事は開始された。
そんな中で、むっとかおおっとか言ってるブリテン人が1人。
また、食生活の難しさを表すが如く、な2人。

(…はやて…納豆はどうした?)
(………………)
(また、食べないつもりか?これほど体にいいものはないと言ってもいいんだぞ!)
(………………)
(シャマルにあげたのか?)
(……士郎、セイバーさんの胸のサイズ…教えてあげよか?)

士郎から目をそらしたまま、はやては念話の中でぼそりと呟く。
口から味噌汁吹くとはこのことである。
周囲には災厄が振りまかれた。

「ぅおい!何やってんだよ。あたしのキャベツに掛かったじゃねぇか!」
「わ、悪いヴィータ…」
(はやて!)
「そ、そうや、みんなちゃんと水着は用意してある?
今頃ないーゆーたらあかんよ」

士郎の怒りに染まった視線を苦笑いで避けながらはやては全員に話しかけた。

「はいっ持ってきました」

ここでは一転笑顔になる桜。

「私も持ってきたよー弟を迷わすなんて悪い姉だね。私も」

と、大河。
もちろん士郎は前者は気になったが後者は(ry

「セイバーさんは突然の話やから用意しとらんと思うけど安心してや。
これから行くとこにはちゃんとそれ用の店もついとるから」
「そ、私がしっかり選んであげるから」
「シャマルが…ですか?できれば誰か別の…」
(な、セイバーさん、なんか角がとれてきたんやない?)
(単に嫌がってるだけともとれるけど…ま、いいことじゃないか。
それよりはやて、納豆のことだけど…)
(……………)

柳洞一成の足取りは弾んでいた。友人、いや彼にとっては
親友といってもいい衛宮士郎から日曜に遊びに行かないかと誘われたのだ。
これが嬉しくないわけがない。
二つ返事で承諾し、今日までの日数を指折り数えて待っていた。
わくわくざぶーん、新都にできた全天候型屋内ウォーターレジャーランド。
それが今日の彼らの目的地である。
この時まだできてないじゃん。半年後じゃん、というツッコミは甘受します。
でもあるということで。

そんな柳洞一成が足を踏み入れた衛宮家ははたして衛宮士郎だけであろうか?

「ああ、一成来たか待ってた」
「お、柳洞君、おはようさん」

玄関近くにいた人影は士郎含め8人。
今思えば人数は聞いていなかったことに一成は気づき自らの未熟を恥じた。

「うむ、おはよう衛宮、タヌ、いや副会長。俺待ちであったのならば謝らねばなるまい」
「いいって大してかわらない。 みんないくぞ」

ワイワイと9人がバス停へと歩く。

「前から聞こ思っとったんやけど柳洞君は私のこと嫌い?
私の声聞くと偶に嫌な顔するやんか?」

はやての質問に一成はしまったという表情を浮かべた。

「そう見えてしまったならば俺の落ち度であろう。済まない。
副会長には女狐退治始め、生徒会に貢献してくれていることに感謝しているのだ。
が…声がなんというか…」

それではやては得心がいった。

「ああ、彼女思い出してまうんやな。昔の相方を忘れられずにいるなんて
純情やね」

はやてがニタァと笑うと一成は露骨に嫌な顔をする。

「そういう所は好まん」
「はは、ごめん、ごめん」

9人を乗せたバスはゆったりゆっくり新都へと向かう。
最後の余暇はこうして始まった。


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最終更新:2008年07月30日 08:49