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『Fate/EXTRA  白い魔導師 第三話:First contact』

 ――夢を見た。

 周りは全ては焼け野原。
 空も、家も、人も。
 全てが等しく燃えていた。

 これは原初の景色。あたしはここで―――。



「起きて。マスター、そろそろ起きて」
「んん……」

 ゆさゆさと体を揺すられて目をぼんやり開けると、
白いスカートとジャケット、ツインテールにした栗色の髪をした女の人。名前は確か……。

「ええと、アーチャー、さんだっけ?」
「それ、昨日と同じ流れだよね?」

 傍らに正座していたアーチャーのツッコミをスルーして体を起こした。
壁にかかった時計を見ると、時刻は七時半ちょうど。

「まだ七時半じゃん。起きるには早いって……」
「もう七時半だよ。これでも、昨日は遅かったから寝坊させた方だよ」
「寝る」

 そう言い残して再び横になるあたし。せめてあと一時間は寝ていたい……。

「だから起きなって、ほら、今日は対戦相手が発表される日だよ」

 カーテンを開けられて日光が顔にかかり、渋々と寝床にしていた体育マットから起き上がる。
大きく伸びをして体をほぐし、窓ガラスを鏡代わりに簡単に身支度を整える。
ふと窓の外を見ると、数列の並んだ空は相変わらずだったけど、ちゃんと朝日が差していた。
電脳世界のはずなのにリアルだな~、と感心しながらマイルームを出た。


 ――――今朝見た夢の事は、忘れていた。



 食堂で朝食を摂っていると、携帯端末にメールが届いた。
内容は、一回戦の組み合わせを二階の掲示板に表示するとのことだった。

「いよいよだね」

 霊体化して姿は見えないけど、後ろに控えていたアーチャーが神妙な声で呟いた。

「心の準備は出来た? マスター」
「準備って言われても……」

 我ながら情けないと思っても、曖昧にしか答えれない。
なにせ遠坂さんに指摘された通り、未だに聖杯戦争に参加しているという実感が湧かない。
それこそ本当は授業中に夢を見ていて、今にも藤村先生の怒りの咆哮が聞こえてくるんじゃないか。

「時間は待ってはくれないよ。対戦相手が決まったなら、今日からアリーナに入ってもらうよ」

 アリーナ、というのはマスターとサーヴァントの為に用意された鍛練の場らしい。
この聖杯戦争にはいくつかルールがあって、その一つに6日後までに対戦相手と戦う為には、
トリガーと呼ばれる鍵を手に入れるというものがある。
そのトリガーが落ちているのもアリーナの中の為、6日間の間に鍛練しつつ手に入れないといけないそうだ。

「トリガーを手に入れないと、相手マスター達と戦うことなく敗北になるからね」
「敗北か……」

 この聖杯戦争の敗北者に待つ運命は死あるのみ、らしい。
そう言われても、やはり実感は湧かない。気が付いたら、これから君達に殺し合ってもらいますとか何処の漫画だか。
あの神父はそういうイベントが好きそうだけど。とりあえず、食べ終わったら見に行きますか。



 掲示板の前に行くと、案の定と言うべきか人だかりが出来ていた。
見たところ、表示されている名前はあたしの対戦相手だけだけど、他の人には別の名前が見えてるみたい。
公平を規す為に、他の組み合わせは見せないってことか。
で、あたしの対戦相手はというと……。

マスター:間桐 慎二
 決戦場:一の月想海

「へえ。君が一回戦の相手とはね。本戦に出てるだけでも驚きなんだけどねぇ」

 軽薄そうな声に振り向くと、いつもの様に人を小馬鹿にした顔をした慎二がいた。

「まあ、役割だったとはいえ親友だったわけだし? 一応、おめでとうと言っておくよ」
「あ、ありがとう……」

 全く祝福していない笑顔だけど、反射的に礼を言ってしまった。
そんなあたしの弱気な態度を感じてか、慎二はニヤニヤと笑みを強くした。

「そういえば、君、予選をギリギリで通過したんだって? 凡俗は色々ハンデをつけってもらっていいねぇ。
でも本戦からは実力勝負だから勘違いしたままは良くないぜ?
しかしこのゲームの主催者もなかなか見所があるねえ。
まさか一回戦の相手はかつての親友。嗚呼、主人公の宿命とはいえなんて悲劇だ!」

 そう言いながら自慢のワカメ……もといウェーブヘアーをかき上げる慎二。
うん、いつもながらいっそ感心したくなる様なウザさだ。

「ま、君も予選に勝ち残れんたんだし? 案外いい勝負になるかもしれないな。
 じゃあな、鳴海。ボク達の友情に恥じない勝負をしようじゃないか!」

 最後に、片目でウィンクして言い放つとサッサと階段を降りて行ってしまった。
恐らくアリーナへ向かったのだろう。まあ、なんというか……。

「清々しいまでにいつも通りの慎二だね」
「いつもあんな感じだったの? と言うか、よくあそこまで言われて我慢できたね」

 隣からアーチャーのどこか呆れた声が聞こえたけど、予選の学校生活の時から慎二はああいう自尊心に満ちた態度だった。
よく自分の自慢話をしていたけど、ほとんど聞き流していたから別段気にはしてなかった。
今思えば、一方的に話しかける慎二と話を適当に聞き流しているあたしという組み合わせは、さぞかし奇妙な友人関係だったかもしれない。

 しかし、そんな慎二とあたしはこれから殺し合わなければいけない。
言峰神父は敗者には退場してもらうと言った。それは恐らくただ失格になるだけでは済まないだろう。
何せ予選で人形に胸を貫かれた痛みは本物だ。もしアーチャーを呼べなければ、あたしはあのまま……。

――周囲は火の海。崩れ落ちる建物。
  そして瓦礫の下敷きになり、
  ■■■の意識は徐々に薄れて――

「マスター? どうしたの?」
「……え?」

 ふと、白昼夢を見た気がした。記憶にない、しかし現実感のある夢だった。

「どうしても気分が優れないなら、今日はやめておく? まだ一日目だし……」
「ううん、大丈夫。ちょっと呆けてただけ。ホラ、あたしたちもアリーナに行こ」

 気づけば掲示板の前の人だかりは無くなっていた。みんな各々の場所に散って行ったのだろう。
唯でさえ、記憶がないというハンデをあたしを負っているんだ。時間を無駄には出来ない。



 アリーナの入り口は、予選でレオを追って入った一階の壁にあった。
予選では唯の壁だったその場所は、今は観音開きの扉が付けられていた。

「――行くよ」

 隣のアーチャーと自分に言い聞かせて、今、ゆっくりと扉を開き――
瞬間、景色が一変した。

「わあ……」

 目の前に広がった光景に思わず声が出た。
 周りの景色は完全に海の中。あちこちに沈没船が漂い、それらを透明な通路で繋いでいた。
 まるで、サルガッソを水族館にしたみたい――。

「マスター、どうやら対戦相手は近くにいるようだよ」

 アーチャーの声で呆けていた意識を戻した。ゆっくり見て回りたい気もするけど、
今は探索の方を優先させないと。

「どうする? 一回仕掛けてみる?」
「仕掛けるって……猶予期間中だけどいいの?」
「うん、アリーナ内でなら猶予期間中でも3分間の接触が許されるの。
 でも注意して。負ければそこで退場と見なされるからね」

 慎二はああ見えても、予選を勝ち抜いた魔術師だ。魔術師としての実力は記憶のないあたしより上だろう。
しかしトコトン不利な状況にあるあたしには、今は少しでも対戦相手の情報が欲しい。

「アーチャー、慎二がいま何処にいるか分かる?」
「任せて。レイジングハート」
『All light』

 アーチャーが何かを命じると、レイジングハートが光り、何かの立体を空中に映し出した。
これは……もしかしてアリーナの地図?

「彼等がいる場所は……ここだね」

 その予想は当たっていた様で、慎二を示すマーカーが立体地図の一点を指していた。

「ここからすぐ近くの広場にいる。それも動いてないということは、向こうは待ち伏せしてるね」
「向こうは準備万端ってことか。行こう、慎二のサーヴァントがどんな相手か、ってことぐらいは見てみないと」
「了解。ついて来て」

 先行するアーチャーの後を追い、あたし達は慎二が待つアリーナの一角へと向かって行った。



 目的の場所は二分と経たない内に着いた。慎二達が待ち伏せしていた広場は、丁度アリーナの奥へと続く一本道の前にあり、
奥へと進もうとするなら必ずこの広場を通らないとならない場所にあった。
広場に来たあたし達を慎二は何をするというわけでもなくニヤニヤと嗤い、隣にいた女性は品定めをする様な目であたし達を見ていた。
女性は真っ赤なフロックコートを身に纏い、赤毛の長髪が風に靡いていた。
一見すると軍人の様な格好だけど、大きく開いた胸元と額から頬に架かった大きな刀傷のお陰で軍人という硬質なイメージは無い。
むしろ、暗黒街の侠客がしっくりくるかもしれない。こう、姐さんと呼びたくなるような。

「へえ、あれほど忠告して上げたのに律儀にやられに来たんだ。
それともボクの邪魔をしてトリガーを入手できない様にすれば勝てると思ったかい?
でも残念、鈍くさい鳴海と違ってもう取得しちゃったんだよねぇ」

 開口一番、慎二がそう自慢する手には光るカードが握られていた。恐らくあれが決闘場のキーとなるトリガーだろう。
しかし慎二達がアリーナに入ってからそう時間も経っていない筈なのに、もうトリガーを取っていたのは驚いた。

「そんな真似しないよ。慎二のサーヴァントがどんなものか見に来ただけだよ」
「ハッ、なんだボクの引き当てた最高のサーヴァントを見に来たってわけか。
 そうだよねえ、どうせ負けるにしてもどれ程の差があるか見ておきたいだろうからね。
 ライダー、挨拶してやりな」

 正直に答えると、如何にも芝居がかった仕草でひとしきり笑い、慎二は自分のサーヴァントを指差した。
呼ばれた女性――ライダーは一歩前に進み出ると、優雅に一礼した。

「初めまして、嬢ちゃん。アンタがシンジの親友かい? アタシは……まあ、ライダーと名乗っておこうか」

 豪放そうな雰囲気から予想できない、それでいて様になっていた一礼を見せられ、あたしも慌てて頭を下げた。

「は、初めまして、鳴海 月です。こっちはあたしのパートナーのアーチャーです」
「……ええと、マスター? 何も律儀にクラス名を名乗る必要は無かったからね?」

 隣でアーチャーが驚き半分呆れ半分にツッコまれて、ハッと顔を上げる。ひょっとして今凄いポカをしたんじゃないでしょうか!?
ああ、ホラ慎二も目が点になってるし、ライダーはなんか爆笑してるし!

「アッハッハッハッハッ、まさか馬鹿正直に挨拶してくるとはね! こいつはご丁寧にどーも!
 いやはや、ウチのマスターの親友と聞いたもんだから、どんな奴か楽しみにしてたけど予想以上に面白い奴さね!」

 尚もケラケラと笑うライダー。なんかもう、穴があったら入りたい……。

「あのさ、鳴海。君って、ひょっとして凄い馬鹿?」
「うがっ!? し、慎二に言われるなんて……」
「はあ!? どういう意味だよソレ! ボクが鳴海より馬鹿なわけないだろ!」
「え~? でもこの前、クラスの子に教えてた問題、思いっきり間違えてたじゃん。挙句の果てに逆ギレして」
「バ、あれはちょっとしたケアレスミスで……馬鹿って言う方が馬鹿なんだからな!!」
「さっきからバカバカ言ってるのは慎二の方でしょ!」

 ピーチクパーチクギャーギャーと言い合っていると、隣から大きな咳払いが聞こえた。

「二人供、そろそろ本題に入ろうか?」

 アーチャーは呆れ果て、ライダーさんはニヤニヤした顔であたし達を見ていた。
うぐぅ、さっきからずっと見られていたと思うと恥ずかしくなってきた……。
それは慎二も同じ様で、舌打ちを一つすると仕切り直す様に喋り出した。

「ふん、何にせよお前はここでお終いさ。どうせトリガーを手に入れられないなら、
 ここでゲームオーバーになっても同じ事だろ。ライダー、遠慮なく蜂の巣にしてやれよ!」
「はいはい、話し合いで平和的に解決もありだと思ったけどねえ。こっちの方がアタシらしいか」

 そう言って、ライダーが両手に武器を構えた。あれは……フリントロック式の拳銃?

「来るよ。マスター、後ろに下がって」
「は、そちらさんも準備はOKかい。なら……派手に景気良く撃ち合おうじゃないか!!」

 瞬間、周りの景色が赤く染まると同時にサイレンの様な音が鳴り響き、辺りに文字が浮き上がった。
その文字はこう書かれていた。

『Warning!! セラフより警告!
 アリーナでの私闘は禁止されています!』

「くそ、もう気付きやがったか!」

 慎二が毒づいている所を見ると、これはアリーナからの警告なのだろう。
でもすぐに戦闘を中断されるわけでは無いらしい。
確か3分。3分だけなら戦闘できる――!

「行って、アーチャー!」

 あたしの叫びと共に、アーチャーがライダーへ疾走する。
いや、これは疾走じゃない。よく見ると、地面スレスレを浮かんで飛んでいる。

『Accel shooter』

 レイジングハートの機械的な声と共に、光弾が五つ、ライダーへと奔る。
まともに受ければ、あの人形の様にただでは済まないはずだ。

「そらよ、と!」

 しかし、光弾がライダーの身体を貫くことは無かった。
ライダーが続けざまに素早く撃った弾丸が光弾を打ち消したからだ。
アーチャーは気にした様子もなく、ライダーに向かった速度のまま、レイジングハートで殴りかかった。

甲高い音がレイジングハートから鳴り響いた。
いや、正確にはレイジングハートとライダーの拳銃がぶつかり合った音だ。
ライダーはアーチャーが打ち合ってくるのを見るやいなや、両手の拳銃を交差させて受け止めていた。

「っ、弓兵を名乗る割には重い一撃じゃないかい」
「それはどうも。近接戦闘も必須科目だったからね」

 杖と銃の鍔迫り合いの中、ライダーは肉食獣を彷彿させる笑みを浮かべ、アーチャーは冷徹に言葉を交わした。

「はん、妙なナリのくせに元軍人かい? どうりでお堅い雰囲気がするワケ、だ!」

 気勢と共に、ライダーの蹴りがアーチャーの鳩尾に叩き込まれ、アーチャーは後退する。
しかしアーチャーは悶絶する様子もなく、後ろに飛びながら弾幕をライダーに浴びせた。
撃ち出された光弾の数は十発。散弾銃さながらの勢いで迫る光弾は、ライダーを足止めするには十分なはずだった。
―――そう、はずだったのだ。
ライダーが全ての弾丸をすり抜けて突っ込んで来なければ。

「なっ!?」

 予想外の行動にアーチャーが驚愕した。その隙をライダーは見逃さず、一気に距離を詰めて行った。

「そら、倍返しさ!」

 乾いた発砲音が二発、同時に響く。至近距離で放たれた弾丸がアーチャーの胸で破裂した。

「アーチャーッ!!」
「くぅ、っ」

 思わず声を上げてしまう。苦悶の声を上げながら、アーチャーはレイジングハートを横薙ぎに振る。
それをライダーはバックステップで避け、また両者の距離が開く。

「アーチャー、大丈夫!?」

 心配そうなあたしに対して、アーチャーは振り向きざまに笑ってみせた。

「心配無いよ。この程度ならバリアジャケットで防げるから」

 見ると、先ほど撃たれた箇所は血が流れてない処か、傷も見当たらない。
アーチャーの服は、ああ見えて防弾チョッキになっているのだろうか?

「やれやれ、雰囲気以上に相当防御が固いときた。今の一発が効かないのはショックだねえ」
「そうでもないよ。流石に至近距離で撃たれたら、弾は防げても衝撃そのものは響くからね」
「はん、ちゃっかり反撃してきて何言ってんだか。ま、シンジが言うよりは楽しめそうだけどね」

 お互いを認め合う様に、アーチャー達は笑い合った。まるでスポーツを楽しんでいるかの様な雰囲気に、
これが命のやり取りだという事を忘れそうになる。事実、さっきまでの動きだって辛うじて目で追えたくらいだ。
あたしがあの二人の間に立ったら成すすべ無く死ぬだろう。巻き込まれただけで人が死ぬ様なものを、
断じてスポーツ(運動)と呼んではいけない。

(これが、英霊の戦い……)

 アーチャーもライダーも、名前は分からないけど有名な英雄だったのだろう。
二人は、きっと戦場を駆けて、常人では出来ない数々の栄光や名声を手にしてきたに違いない。
そんな光景が目に浮かんでくるぐらい、二人の動きは現実離れしていて―――何よりもそれが自然体であるかの様に見せている。
そんな二人が、きっと生前会うことすら無かった二人が今、あたしの目の前で戦っている。
その事実に―――実際に行われているのは命のやり取りだと分かっていてのに―――説明できない昂揚感を感じてまう。

「おい、ライダー! 鳴海のサーヴァント相手になにモタモタやってるんだよ!!」

 でも慎二には、目の前の出来事に対してそんな感情は無いらしい。
むしろ思い通りにいかなくてイライラしているかの様に声を張り上げた。

「お前はこの僕のサーヴァントなんだぞ! そんな奴、さっさと片付けろよ!!」
「やれやれ……男だったら、もうちょっとどっしりと構えて欲しいものだねえ」

 まるで遊びで不愉快な事があった子供の様な慎二に対して、ライダーは苦笑してかぶりを振った。

「でもまあ……派手にぶちかましたいのは同感だ」

 ライダーがそう言った瞬間―――雰囲気が一変した。
ライダーの表情は相変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。
それなのに、その笑みはまるで肉食獣が牙を剥いてる様に見えた。
傍から見てるあたしでも分かる。今までライダーは本気じゃなかったんだと。

と、ライダーはおもむろに右手を挙げた。すると―――

「……え?」

 ライダーの背後の空間が水面の様に揺らぎ、何かが出てきた。
唐突に起きた不思議な現象に声を上げてしまったが、あれは―――

「大砲……?」

 そんなあたしの呟きが聞こえたのか、ライダーは一層笑みを深めて、

「砲撃用意……」

 アーチャーに向けて、手を振り下し―――

「藻屑と消えなっ!!」

 轟音と共に、砲弾が発射された。
いや、発射されたのだろう。
というのも、あたしの目には砲口が光ったと同時に、
アーチャーがいた場所が発破をかけられたかの様に地面が吹き飛ばされた様にしか見えなかったからだ。
どう見たって直撃だ。普通の人間なら跡形もなく吹き飛んでいるだろう。

「……ホントに固いもんだ。食い甲斐のあるロブスターって処かね」

 ライダーが呆れた様に呟いた。
爆煙が晴れると、アーチャーは桜色のシールドを出していた。
人形の一撃すら防いだシールドは、今回もアーチャーを砲撃から守ったのだろう。

「……ッ」

 でもアーチャーは全くの無傷では済まなかったみたいだ。
その証拠にシールドに罅が入り、ガードした筈のアーチャーの顔が苦痛に歪んでいた。

「何やってんだ、真剣にやれよお前!!」
「慌てんな慎二、押して駄目なら……」

 そう言ってライダーはさっきの様に背後の空間を歪ませ――

「もっと押してみろ、ってな!!」

 直後、無数の砲身が出てきた!

「っ、レイジングハート!」
『Accel Fin』

 アーチャーの両足に桜色の羽が出て、視界から消えたと思ったと同時に、
さっきまでアーチャーがいた場所が轟音と共に爆煙に包まれた。
見れば、アーチャーは足に生えた羽を使って宙に浮かんでいた。
大砲を確認したと同時に、空中へと回避したのだろう。

「ハン、本気で面白い奴だね! ホラホラ、どんどんいくよっ!!」

 ライダーの宣言に呼応する様に、砲弾の数が増していく。
その度に落雷の様な衝撃と轟音がこちらにも伝わってくる。
アーチャーはさっきの高速移動を使って砲撃をかわしているものの、
数が多すぎてライダーに近寄れないでいた。

 甘かった――あたしは今更ながら思い知らされた。
さっきまで様なスポーツ然とした戦いで、お互いの勝敗を決めるものだと、そう思っていた。
だがあんなもの、サーヴァントからすればじゃれ合い程度のものだろう。
絶え間ない砲撃は火力が、速度が、なによりも相手を殲滅するという気迫が違うと雄弁に物語っていた。
聖杯戦争――それは、英霊達が一騎打ちするという意味では無い。英霊達が全力をもって戦争することなのだと、
嫌でも理解させられた。

 マスターの特性なのか、アーチャーの様子は手に取る様に分かる。
今のアーチャーは回避する事で精一杯だ。それも体力と魔力を削りながら、どうにか回避している。
このままでは、砲撃が命中するのも時間の問題だ。一発でさえ、防ぐのに手一杯だった砲撃が今度は無数に襲いかかる。
そうなれば――今度こそ、アーチャーは跡形なく吹き飛ばされるだろう。

そして、その恐れた事態が起きた。

「くあ、っ……!」
「アーチャーッ!?」

 それは正に一瞬の出来事だった。さっきまで戦闘機のドッグファイトさながらの動きで回避していたアーチャーが、
電流に触れたかの様に体を痙攣させた。それで動きが止まったのは一瞬、だがその一瞬はこの状況で致命的だった。
そして―――!

「これで、終いだっ!!」

 無数の砲撃が、アーチャーを容赦なく撃ち抜いた―――。



「アーチャー……そんな………」

 目の前の出来事に、あたしは馬鹿みたいに呟くことしか出来なかった。

「驚いたかい? このゲーム、僕たちマスターもバトルの参加者なのさ」

 気障たらしい慎二の声に目を向けると、慎二の手元にコンピューターのキーボードみたいなホログラムが浮かんでいた。
恐らく、さっきアーチャーが止まったのは慎二が何かしたからだろう。

「ま、気を落とす事は無いさ。僕が相手じゃ鳴海が勝てないのは無理ないって」

 慎二が何か言っているが、あたしの耳には入ってこなかった。あたしは茫然とアーチャーがいた場所を見ていた。
アーチャーがいた場所は依然として、硝煙で見えない。それがこの砲撃の凄まじさを物語っていた。
あんな物が直撃したんだ。アーチャーは、もう………。

「地上に帰ったら自慢してもいいぜ。アジアのゲームチャンプの僕と戦ったと言えば少しはステータスに――」
「いや、シンジ。まだ勝ち名乗りを上げるには早い様だよ」

 慎二の弁舌を遮ったライダーは、硝煙に覆われた場所を指差した。そこには――

「アーチャーッ!」

 アーチャーがいた。バリアジャケットは至る所から血が滲み、レイジングハートも大破しそうな程、
亀裂だらけだったが、どうにか両足で立っていた。

「咄嗟にシールドでガードしたか。そのお陰で即死とはならなかった、というわけだ」
「くそ、馬鹿みたいに耐久が高いサーヴァントだな」

 ライダーの解説に苛立った声を上げる慎二。
良かった……生きていたんだ。思わず安堵の溜息が出る。しかし――

「っ、あ………」

 よろよろと、体を揺らしながらアーチャーはレイジングハートを構える。
まるでそうしなければ、次はあたしが殺されると言うかの様に。
どうする? どうにか立ったけど、戦える状態じゃないのは明らかだ。
ここを切りぬけるには一体、一体どうすればいい!?

――その時だった。

『Warning!! セラフより警告。
 アリーナでの私闘は禁止されています。
 直ちに両マスターは戦闘を中断して下さい。
 指示に従わない場合は、セラフよりペナルティが与えられます。
 繰り返します。直ちに両マスターは戦闘を中断して下さい――』

 アナウンスと共に、目の前に警告表示を示したメッセージウィンドウが浮かんだ。

「チッ、あとちょっとだったのにもうタイムオーバーかよ」

 慎二が忌々しく呟いたのを聞いて思い出した。
そうか――もう3分経過したのか。

「まあいいさ、鳴海程度ならいつでも倒せるからね。
 じゃあな、精々決闘日までにレベルを上げておきな。
 そうすれば、いい勝負ぐらいにがなるかもな」

 そう言って、慎二は高笑いしながら、ライダーとアリーナの奥へ去って行った。
あたしはその背中を黙って見送るしか出来なかった。
悔しいけど、いま慎二を追い掛けても返り討ちにあうだけだ。それに今は先にやる事がある。

「アーチャー、大丈夫!?」
「にゃははは……ここまで……ボロボロにされたのは………結構久し振りかも」

 あたしが駆け寄ると、アーチャーは力なく笑った。
間近で見ると改めて受けた傷の深さが分かる。常人なら絶命しても可笑しくないのに、
しっかりと両足で立って―――あたしを安心させる様に笑顔を見せた。

「………っ!」

 思わず唇を咬む。あたしは何を甘えていたんだろう。
戦う実感が湧かない。それはそうだ、何せ記憶が無いのだから。
でも時間は待ってくれない。あたし以外のマスターはこっちの事情なんて知った事では無いだろう。
それでもアーチャーはあたしの為に戦う。今みたいに殺されかけても。

「、と……」

 フラリと傾きかけたアーチャーの身体を慌てて支える。
思っていたよりずっと軽い身体に驚きながらも、肩を貸す様な体勢になる。

「今日はもう引き上げよう。帰って治療しないと」
「賛成だね……ごめんね、幸先悪い初日になって」
「そんなのいいよ、生きているのが奇跡みたいなものだし」

 肩を貸しながら、二人三脚みたいに来た道を引き返していく。
幸い、アリーナの入り口はそう遠くない場所にある。
そこまで行くぐらいなら、どうにかなるだろう。

「アーチャー」

 肩を貸しながら、あたしは声をかける。
この戦争を勝ち抜く理由なんて、まだハッキリとしてないし、
負けたら死ぬというのも、理解はしたけど納得が出来ない。
それでも―――

「次は勝つよ。絶対に」

 それでもこのサーヴァントの期待に応えられるくらいのマスターになろう。
その為には、まず慎二に勝たないといけない。そうでなければ、
あたしはアーチャーが救ってくれた命をまた無残に落とすことになるだろう。

「……ふふ、何を学んでくれたか知らないけど……朝より良い顔になったね」

 微笑むアーチャーと一緒に、あたし達はアリーナの入り口へと歩いて行った。