#1

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

剛と柔、二つの剣が交錯する
打ち合わせること数合、シグナムは柳に風と自分の剣を受け流す相手の技量に驚嘆した

フェイトの扱うバルディッシュ・ザンバーフォーム程ではないにしても、
相手の剣は分類するなら野太刀などと呼ばれる長尺刀の類である
にもかかわらず相手は自分と同等か、それ以上の速度をもって
自分の剣を受け流し、そらしてみせるのである

それでもシュランゲフォルムを使えば楽に勝てるだろうが―――と思いつつ、
シグナムはあえてシュベルトフォルムでの勝負に拘る事にした

決して、出し惜しみではない

―――そのような余技にかまけては死ぬ

首元を掠める剣風に、冷や汗を流しながらそう思う

手足狙いの一つもあれば身を盾にして踏み込むものを、
一撃必殺、変幻自在な太刀筋はその全てが断頭の鎌であった

「このまま切り結んでは千日手であろうな―――
手の内の一つも見せてはどうだ?」

ひとしきり切り結んだ後、涼やかな顔に笑みを浮かべそうのたまう男
その目はシグナムの一挙一動を見逃さず、彼女が手札を選んでいたことを見抜いていた

「出し惜しみをしたつもりは無いのだがな、
そちらの剣舞に押されて出す暇が無かった」

偽り無く本音を述べる
互いに無傷なのは刃を合わせるばかりで切りつけあうまでに至らなかったからである

「その言葉、素直に賛辞と受け取っておこう
では仕切りなおしの手始めに―――まずはこちらから一芸披露するとしよう」

だらりと下げられていた刃が肩の高さまであげられる、
それはこの男が始めてみせる構えらしい“構え”であった

男の名―――上げた名乗りが正しいならば繰り出されるのは一つだろう

佐々木小次郎の名前ぐらい剣豪小説のひとつでも紐解けばすぐに出てくる
問題は、その技が名こそ知られてはいても詳細は知られていないと言うことだ

「秘剣―――燕返し」

頭上から股下までを断つ縦軸の一の太刀
一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡の二の太刀
左右への離脱を阻む払いの三の太刀

「く―――っ!?」

三連撃などというレベルではない
同時に振りぬかれていた三つの刃がシグナムの首を薙いでいた

「ぬっ!?」

驚愕は同時、ついでからんと乾いた音が石畳に響いた


「面妖な―――躯まで鋼であったか」

「まさか」

首筋に手を当てながらシグナムはその言葉を否定した

―――まさか騎士甲冑の防御フィールドを抜けないとはな

どうやら何の細工も施されていない日本刀だったらしい
これならば恐れる必要は無かったか―――そう思うシグナムの前で、
男は懐から何かを取り出した

「本来ならば勝負ありというところであろうが―――
これで幕切れでは興ざめも甚だしい、性に合わぬが得物を換えるとしよう」

キンっと音を立てて手にした飾りが長刀へと変化する、
見覚えの有るその変化は紛れも無く―――

「アームドデバイス……」

衣装が変わらないのはバリアジャケット等の機能を持ち合わせていないか、
魔力資質が無いといったところだろう
どちらにせよ、持ち替えた以上先の刀のようなことはあるまい

今度喰らえば、間違いなくこちらの首が落ちる

「それでは、改めて仕切りなおしといこうか」

手ごたえを確かめるように剣を構えなおして言う男に、
我知らず首筋を確かめながらシグナムはそれでも口元に笑みを浮かべていた




#2

同時刻遠坂邸前

「スバル、そっちはどう?」

『観測開始から結構経つけど何にも無いよ』

そうか、と頷いて通信を切る、遠坂邸の玄関はきれいに施錠されており、
門扉には魔力を用いた―――魔術的な鍵が掛けられていた

こちらも異常無し、である
今のところはという前置きつきかもしれないが

一先ず街を一回りしておくか、と坂道を下っていたティアナは、
道なりに並ぶ洋館の一つに見覚えのある大男を発見した

「何してんのよアンタ?」

「なに、知人の屋敷の近くまで来たものでな、
挨拶をと思ったがなにぶん夜分が過ぎたようだ」

ひっそりとした明かりの消えた家である
それを見て、あぁそう言えばと彼女はあることを思い出した

「ロードエルメロイの旧知の人だったのよね、
奥さんが亡くなられて、今は息子夫婦の所にいるそうよ」

暫くすれば戻ってくるみたいだけど、というティアナの言葉に
そうか、と男は真顔で静かに黙祷した

「そういえば公園はどうだったの?」

「随分と怨念が蟠っておったが、残留思念の類だなありゃ
余が召喚された時の聖杯戦争の跡だろうが、此度のことには関係なかろう」

“見える”人だったのかと思うが、
そもそもサーヴァントというのはそちら側なのだそうだ

「程度の差こそあれ世に未練を残していると言う意味では違いは無いからな」

故に聖杯の召喚に応じたのだ
不意に真顔でまじめなことを言うライダーに考えさせられる

「未練……か……」

未練を残さず死ねるものは幸いだ
彼らは自らに満足している、故に後悔も無い

未練か後悔か―――三ヶ月前ミッドで起こった事件に対し、
事が大きくなるまで自分が連れていた副官の闇に気づけなかったことは、
いまだ真新しい苦い記憶だ

『ティア~』

思わず物思いにふけっていた彼女を現実に引き戻したのはスバルからの通信だった
なんでもシグナムと通信が繋がらないのだと言う

「柳洞寺の人たちに遭遇した、って可能性もあるけど
―――わかった、取り合えず行って様子を確認してくるわ」

『了解、こっちは―――』

モニターの中でスバルが横に視線を移す、
何か気配を感じたのだろうか?

『子供―――こんな時間に?』

驚きに声を上げたスバルが気を取り直すより早く、
画面の中でその瞳がさらに見開かれた

『消えた―――?』

目を瞬かせて状況を確認するスバル
マッハキャリバーはスバルの言う少女をセンサーでは確認していないという

「もしかして、幽霊?」

「否定はせんな、
そこも霊地には違いない」

ライダーが口を挟む、
だが、スバルは普通の人間よりも夜目が利く
それゆえに引っかかる

「スバル、やっぱり柳洞寺で一度合流」

『うん』

シグナムも交えて一度状況を確認すべきだろう
通信を閉じて踵を返そうとしたところで新たな通信が入ってきた

発信者はレヴァンテイン―――シグナムからの救援要請だった



#3

剣舞は続く

見たところ相手の得物はデバイスというよりも、
対魔導師用近接兵装として最近研究されているものの一種のようだ
JS事件以降AMF等の反魔法技術の研究が改めて注目されるようになってきており、
管理局側も戦技教導隊を中心にその対策に追われている
無論、数年がかりの計画ではあるのだが
相手の得物もそうした実験で作られた試作品の一つなのだろう

「ふむ……」

一息つきながら相手が握りを確かめる
同じ得物でも整備後の調整には違和感が入るものだ
まして得物自体を持ち替えたのならそう簡単に握りが合うわけが無い

―――付け入る隙があるとすればそこか……

浅く首を薙いだ一撃に肝を冷やしながら距離をとり、
八双に構えるとシグナムは己が愛剣に呼びかけた

「レヴァンテイン!」

呼びかけに答えレヴァンテインから勢い良くカートリッジが排出される
そのままこちらが膝を撓めるのを見て取って、相手も剣を静かに振り上げた

この一合が勝負
互いに構えで持って示し合わせ、
一切の迷いなくそれを形になした

「秘剣―――燕返し」

「紫電……一閃」


紅蓮と月光が交錯し、ややあって、小さな音が鳴った

「見事、よもや刀ごと叩き斬るとは……
剛の一刀 見せてもらった」

「握りの合わぬ剣は太刀筋を曇らせる……
最初の剣に私の甲冑を斬るだけの力があれば結果は違っていた」

真に匠の業となれば髪の毛の先ほども無い僅かなずれですら大きな違いとなる
振りなれぬ太刀でもって振るわれた業がその筋をほんの僅か狂わせた
それが勝敗を分けたのだった

「なに、詮無きことよ
―――燕を追って生まれた剣では隼は斬れなかった、
ただそれだけであろう?」

涼やかな笑みには些かのかげりも無い
刃を振りぬいた姿勢のまま、男は音も無く塵となって虚空に消えていった

「……」

残心の姿勢のまま、振り返りもせずに男を見送ったその身が崩れ落ちる
彼女の首に走る二つの筋からは、絶え間なく血が流れ落ちていた



#4

時空管理局本局・無限書庫、有重力区画

「状況はあまり芳しくないみたいだな」

報告書を見ながらのクロノの発言に、ユーノは資料を探す手を止めて彼を振り返った

「遠まわしに僕をせっついてるように聞こえるのは気のせいかな?」

「まさか、
それで効率が上がるほどのんびりしてはいないだろう?」

実際その通りだ、誰がどう言おうと無限書庫の効率はこれ以上上がらない
それはクロノだって弁えている

「状況次第だが、僕が地上に降りることも考えた方がいいかもしれない」

「クロノが?」

腕は鈍ってないつもりだというが、
本局提督ともあろうものがそうそう最前線に出ていいのだろうか?

「彼女達と気心が知れていて、
曲がりなりにも連携がとれる魔導師が他にいるなら任せるさ」

確かに六課の魔導師と気心が知れていて連携がとれるとなるとそう多くは無い
実力も考えればあとは教導隊に何人かいればいいほうだろう

「僕もといいたいところだけど、無理そうだ
とてもじゃないけど付いていけそうに無い」

防御魔法だけなら何とかなるだろうが、
動けない盾では役に立つまい


その折、ばさりと書類の落ちる音が鳴った
振り返ると、長い金髪を三つ編みにした司書が書類を取り落としたまま、
青い顔で通信を受け取っていた

「アリシア、どうした」

彼女は魔力資質こそ無いが優秀だ、
こんな醜態をさらすなどよほどの事だろう

「クロノ……」

声をかけると血の気の失せた顔ですがり付いてきた
空間モニターに映る情報はどうやら六課から自分達に当てられたもののようだ
よほどのことが有ったらしいな、と思いつつ通信をつなぎなおす

『遅い、何しとったんやクロノ君!』

モニターに浮かんだシャーリーが口を開く前に、
割り込んできたはやてが血相を変えて怒鳴りつけてきた

「すまない、無限書庫の中でもこの辺りは最近通信が繋がりにくくてな
それではやて、―――何かあったのか?」

反省はともかく言い訳をするつもりは無い
それよりも彼女達の上司として把握すべきことは現状である
アリシアの反応を見るにどう考えても吉報はありえまい
本局の設備の調整は必要だとは思うが補助ラインは引いてほしいと思う


「とりあえず良い情報からな
―――キャスターの消滅が確認された、場所はミッドチルダ海上隔離施設付近、
コレに伴う被害で施設の三分の一が吹き飛んだらしいけどな」

人的被害は無いけど、というはやての言葉に一先ず安堵する
個々の攻撃力を別にすれば最も危険な存在であるキャスターが倒れたのは大きい

「それで、悪い話は?」

『キャスターの工房を調査しとった108部隊が工房に戻ってきたキャスターと接触、
交戦中に横槍を受けて工房ごと薙ぎ払われた
犯人は逃亡するキャスターを海上隔離施設付近の海上にて殲滅、
駆けつけたN2Rとライトニング隊を撃破した後、何処とも無く姿を消したそうや』

負傷の度合は様々だが特にフェイトとエリオが酷いという報告に、
アリシアが青ざめた顔でクロノの服の裾を掴む

彼らのもとにシグナムの撃墜が報告されたのはそれから暫く後のことだった