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#1

「それで、ディードはセンターへっスか」

「あぁ、腕の調整を含めて当分は入院になるとかで、
マリーさんは当分そっちに行くってさ」

外は大変っスねと言いながらソファーにごろりと転がるウェンディ
一人がけのシートに座ってノーヴェはいつもよりほんの少しだけ険しさの増した顔で
窓の外に目を移した

「天気―――悪いな」

曇天の空、窓から見える景色はどこまでも荒れ模様の海ばかり
陸地が見えないのは海上隔離施設なのだから仕方がないが、
それだけに空模様だけで気が滅入る

「ノーヴェ、ウェンディ」

「チンク姉」

「ディエチも、どうしたんスか?」

難しい顔で部屋に入ってきた二人に向き直り、
引っ張ってきたらしいカートもといコンテナに二人で首を傾げる

「固有武装じゃないスか、
施設に持ってきてよかったんスか?」

「マリーさんが特別に許可を取ってくれたんだ」

「ティアナが追っていた事件の犯人が最近海岸線に現れることが多いらしくてな、
我々の武装隊指揮下での出動もありえるそうだ」

出動自体は望むところだが、武装隊指揮下というのは穏やかならざる話だ
自分達N2Rの出動は基本的によほどの緊急時、それも災害出動に限られるのだが

「マジっスか?」

「八神二佐からの要請があったそうだからな、
実際、機動六課のメンバーが全員召集されている」

複数の魔法生命によるかなり大掛かりな事件のようだ、
と言いながらチンクがコンテナの梱包を解いていく
各々自分の装備を取りだそうとしてノーヴェは一人首をかしげた
自分の固有武装の代わりにクリスタルの付いたペンダントが置かれていたからである

「何だこれ?」

どこと無く見覚えがあるが―――

「あぁ、忘れていた、
ノーヴェ、ジェットエッジはもともとスバルとギンガのデバイスのコピーだっただろう?」

ベースとなる遺伝子データが同じと言うこともあり、
ノーヴェの固有武装はスバル達のデバイスを基に開発されている
もっとも開発当時、ノーヴェ達はジェイル・スカリエッティ配下のテロリストであり、
穏便に言って盗作であるのだが

「それで先日、マリーさんが待機モードを実装することにしたのだ」

現在は取り合えずストレージ程度のAIを搭載しているが、
行く行くはインテリジェントタイプのAIを搭載するつもりであるらしい
その為には外装はともかく内部は大分弄らないといけないとのことである
起動させると“start up”と言う電子音声と共に馴染みの武装が装着される
装着型ゆえの手間が省けるのは有難い

「やっぱ待機状態があると便利っスね」

いーなーと指をくわえるウェンディ
彼女とディエチの装備は閉所では使い辛い大物なので尚更である

『緊急連絡、N2R聞こえますか?』

「早速呼び出しか―――こちらN2R」

施設のスタッフからのコールにチンクが答える
心なしか焦っているような気がするのは気のせいか

『現在施設が攻撃を受けている、
襲撃者はランスター執務官が追っていた事件の犯人のようだ』

スタッフの説明と共に空間モニターが展開し、
外部映像に蠢く触手のようなものを引き連れた異形の怪人が映し出された

「うわっ、怪人ッス、モンスターっスよ!」

「ウェンディうるさい、
―――あれ、でもこいつ手負いみたいだよ?」

モニターに映る男の姿は明らかに満身創痍である
うつろな目と大仰な身振りは何処か舞台役者的な雰囲気と狂気を感じさせる

「私とノーヴェで迎撃、ウェンディとディエチは職員達の退避を」

「了解!」

取り回しの悪い大型武器をつかう上に遠距離砲撃が専門であるディエチに
施設内の防衛戦は無理だ、
本音を言えばエアライナーを持つノーヴェに退避を任せたいところだが
彼女は閉所での戦闘では主力である、外す訳には行かない

「まずはあの男を施設の外に放り出すぞ、お前は化け物にはかまうな」

なんでも無限に沸いて出て来るそうだ、と廊下を走りながらノーヴェに指示を出す
それはそれで無視できないがこの人数ではそもそも対処など出来ない
ならば元凶を叩く以外に選択肢は無いだろう
後の問題は、自分のISでどこまで施設の被害を抑えて相手できるかだ
爆破専門の自分の能力に苦笑しつつ、チンクはコートの下からスティンガーを取り出した


#2

慟哭と悲観とが彼の心を支配していた
自らの工房を土足で踏み荒らす不埒者との小競り合いの最中、「それ」は現れた

「騒がしいので覗きこんでみればこういうことか」

堕ちた聖女、黒い騎士
暴君の一撃は工房となっていた地下水路を、其処にあった一切のモノごと薙ぎ払った

何故に聖処女があの様な姿になってしまったのか?
其処に居たのは穢れ無き心で祈りを捧げる聖女などではなく、
咆哮一つで全てを薙ぎ払う漆黒の暴竜の化身であった
何者が聖処女をあのように汚してしまったのか?
まったく持って嘆かわしい
その身を汚し肉の一片、血の一滴、魂さえも汚してよいのは自分だけだと言うのに

「神か!
またしても神などと騙るモノの仕業か!」

妖魔の群れを引き連れ荒れた海へと踏み入りながら、
彼は天に向かって呪詛を吐いていた

「よろしい、これが我が行いに対する報いと言うのであれば、
私もまたそれ相応の誠意を見せねばなるまい」

吐くだけ吐いてから彼はたどり着いた陸地に押し入ると、
大仰な身振りを交えて天を仰いだ

「今また再び我らは救世の旗を掲げよう!
見捨てられた者は集うがいい、 貶められたる者も集うがいい」

無尽蔵に沸いて出る怪魔の群れが一つの方向性を持って蠢き出す
施設の中へと動き始めていたモノ達も音を立ててそれに倣う

「私が率いる! 私が統べる! 
われら虐げられたる者たちの怨嗟は、必ずや『神』にも届く!
おぉ天上の主よ! 我は糾弾をもって御身を讃えようッ!」

深い霧が周辺を覆い、荒れた海にその流れとは別の怪異を生み出す

「傲岸なる『神』を! 冷酷なる『神』を! 我らは御座より引きずり下ろす!
神の愛した子羊どもを! 神野に姿たる人間どもを!
今こそ存分に貶め、陵辱し、引き裂いてやろう!
神の子たちの嘆きと悲鳴に、我ら逆徒の哄笑を乗せて、天界の門を叩いてやろう!」

呪を唱える最中、目の端に人影を捉えた気がしたが彼は意に介さなかった
おぞましき肉の群れが溢れ、彼を飲み込み肉塊となり、
なお溢れかえって山となり、施設より溢れて島となる
深海の奥深く、螺旋の城で眠る古きものの眷族が目を覚ます
大いなるモノがその身を震わせ、今まさに動き出そうとしたその瞬間―――

『黒』が全てを多い尽くした

「……は?」

大海を両断し、瞬時に沸騰、蒸発させていく黒い光
恐怖でも憎悪でも畏怖でもない、ただ純粋で圧倒的な暴力の中―――

「……おぉ、ォ……」

彼は見た、押し寄せる極光の果てに、
かつて己もまた追いかけた輝きを、いつかはと求めた栄光の姿を

なぜ忘れていたのか
嗜虐と涜神を尽くした第二の生を終わらせたこの大いなる光を

「私は、一体……」

誰に向けるでもない呟きが口からこぼれるより先に、
黒い光は全てを事象の彼方に消滅させていった



#3

同時刻ミッドチルダ海上
嵐の空を翔る白い影があった

「この調子なら、あと五分くらいでつくかな、キャロ」

「うん」

隔離施設からの救援要請に真っ先に反応したのは
一番近い支所に来ていたエリオとキャロであった

乗り込んできた相手の素性から言えば速やかに脱出すべきなのだが、
天候が悪く脱出艇をかねた連絡船では途中で転覆しかねない

隔離施設の規模は決して小さくないが、
相手はほぼ無制限の物量を誇るロストロギアの使い手である
安全な場所は無いだろうし、施設の規模ゆえにチンクたちでは手が回りきらないだろう

「あの霧、なんだろう?」

向かう先が霧に覆われているのに気づきエリオ達は二の足を踏んだ
単純に悪天候によって発生したものでは無さそうである

「キュウゥ!」

「フリード、どうしたの?」

霧の向こうを睨みつける様にしてフリードが低く唸り声を上げる
動物ゆえの感覚で霧の向こうに何か危険を感じているのかもしれない

見えないほど濃い霧の向こうを見据えようとエリオが目を細めた後ろで
キャロがビクリと肩を震わせた

「キャロ……ひょっとして、何か大きなモノを召喚しようとしてる?」

「うん、……多分ヴォルテール級の希少種」

「そんなものまで?」

単純に真竜規模の召喚と言うだけでも相当だが、
あの魔導師が召喚するのだとしたらマトモな物である筈が無い

そもそも真竜のような希少種は並大抵の召喚魔導師には呼び出せない
通常術者と召喚獣の関係が前者を主、後者を従とするのに対し、
希少種はその存在故に関係が逆転してしまうからである

「そうだ、アルトリアさんなら何か知ってるかも」

通信を聖王教会につなぐ、
呼び出しに答え通信に出たアルトリアはエリオの説明に眉を寄せた

『真竜というものの霊格がどれほどかは分かりませんが、
あの男にその様なモノを“呼び出す資格”は無いでしょう
ですが―――』

「あの男の持つロストロギア―――『螺旋城教本』でしたっけ、
なら可能だということですか」

エリオの相槌に呼び出すと言う行為だけであればと頷くアルトリア
つまりどう言う事かといえば

「―――呼び出された召喚獣の制御が出来ない、ってことですか?」

青ざめた顔でキャロが声を上げる
召喚技術と被召喚者の制御というのはどちらも召喚術者にとって必須の技術である
召喚自体は転移系の一種であり、呼び出された側が召喚者に従うかは
魔力制御だけでなく互いの意思疎通なども必要とされる
ただ闇雲に強力な存在を呼び出した挙句、手綱を取ることを放棄するなど
召喚師の常識としてそんなことは“してはならない”

『もとよりそのような常識的な思考など持ち合わせていないのは明白です
―――呼び出されたものが私が以前見たのと同じものであるなら、
対城宝具か、それと同等の神秘でなければ倒せません』

再生速度が異常すぎてそれ以下の攻撃では追いつかないのである
加えて下手に触手の射程距離に近づけばその時点で捕食される可能性も考えられる

「そんな規模の攻撃なんて―――」

『少なくても、其処からでは施設に被害を出さずに、
と言うわけにはいかないでしょうね』

攻撃と言うものは通常、威力に比例して効果の及ぶ範囲も広くなる
霧の向こうに朧気に見える影は既に数十メートルに達しており、
当然それを一撃で倒すとなればその向こうにある隔離施設もただでは済まない

「分かりました、まず何とか施設から引き離します」

後のことはあれを片付けてからだ、通信を終了し霧の向こうへと視線を戻したところで、
デバイスのセンサーが何かに反応した

「え、エリオ君、あそこ……」

「え? ……えぇ!?」

デバイスの示す先を見て二人は目を見張った
荒れた海を“歩く”人影を見つけたからである

バリアジャケットを着ていないようだが魔導師だろうとひとまず納得したものの、
天候を抜きにこの辺りは危険である
とにかく退避を促そうと結論し二人はフリードをそちらへ向けた

「すいませーん」

こちらの声に、人影は立ち止まると首だけでゆっくりと振り返った
着崩したダークスーツにサングラスと言う黒尽くめ姿、
くすんだ金髪が無ければ闇に紛れてしまうだろう装いである

「こちらは時空管理局です、現在―――」

警告しようとするエリオ達を片手を挙げて制すると、
人影は霧深い沖合い―――隔離施設の方へと向き直った

「竜騎士か、そう言えばそんな者もいると言っていたな
―――ちょうど良い、下郎を追い回すのも飽きたところだ」

どうせアレが出てきては面倒だからな、
と言いながら翳した右手に黒い魔力が吹き上がる
そのまま全身を覆いつくした魔力の渦が黒い剣と甲冑を形作ったことで、
ようやく二人は自分達が誰に話しかけていたのか思い至った

「まっ……」

上段に構えられた剣が黒い極光と化すのを見て取って、
二人が止めに入るより早く、危険を感じたフリードが身を翻す

「『約束された』―――」

水面を踏みしめた足もとから広がった波紋が波を踏み潰す
振りかざした余波が突風となり辺りをなぎ払う

「―――『勝利の剣』!!」

黒い断層が海を絶つ
突風に当てられて海に落ちながら、エリオたちはそれを呆然と見送るより他無かった

「―――さて」

嘘のように凪いだ海に仁王立ちし、
自らの成したことを見届けると、セイバーはゆっくりと二人を振り返りかけ、
ほう、と何かに気づいて空を見上げ、直後に上空から降り注いだ物を叩き落した


「やってくれんじゃねぇか、テメェ」

続いて伸びてきた光の帯を伝って降りてきたノーヴェがセイバーを睨みつけながらほえる
さらに遅れて他のN2Rのメンバーが現れ、エリオたちは伸ばされた光の帯―――
エアライナーの上に引き上げられた

「大丈夫っスか二人とも?」

「ウェンディさん達こそ」

「ノーヴェの勘が当たってな、間一髪だった」

チンクによればひとまずの避難が完了したところで、
良く分からないがとにかく脱出しないとまずい気がする、
というノーヴェに促され荒れた海と深い霧という最悪の状況で無理矢理船出した直後、
霧の奥から現れた怪物ごと施設の約三分の一が黒い極光に飲み込まれたという

「直撃していたら施設が丸ごとなくなっているところだった、
広域魔導師の全力砲撃か、希少種の生体砲かといった処だったが―――」

抑えていながら尚目視できるほどの黒い霞のような魔力の色だけで、
犯人が誰か一目瞭然である

言いながら視線を向けたその犯人であるセイバーはと言えば、
ノーヴェの怒声に対し、威勢がいいなと口の端を吊り上げていた

「よく吠える獲物だな―――
その威勢に見合うだけのモノがあるかは知らんが」

ぞんざいに振り上げた剣が空を切る

「いざ死力を尽くして来るがいい、
我が剣に賭けて、その全てを打ち砕く!」

その宣言が開戦の合図となった