リゾートリリブラとはここら一帯のリゾート施設全般の総称である。
そしてこの三日間、旅館を初めとした温泉街のほぼ全てを、月村・遠野両家が大っぴらに貸し切っていた。
まさにマネー・イズ・パワー。 

しかし当然、一般人が皆無というわけではない。
物流などで莫大な物資と資材が動く以上、全てを内々の者で賄う事など出来ないし
大口の顧客ともなれば地元の行商の稼ぎ時でもある。 自慢の産物や土産品を持参して商売に勤しむ者も多い。
今日も今日とて行商人達は客の集まる箇所に群がるように商売に精を出す。

夕刻―――
かなり大掛かりな祭が開催されると聞いた彼らが会場である神社に赴いた。


「きゃあああああああああっ!? むぎゅっ!!」

――― ズドン、ドシャ、ズシャアァァァァ!!!!!! ―――


そんな彼らを待ち受けていた光景がコレである。


「な、何じゃあっ!? 何が起こっただっ!?」

「そ、空から……水着のおなごが降ってきただよっ!」

どこぞより砲弾のように飛来した人間が目の前に墜落したのだ!
鈍い音を立てて地面に亀裂を作り、もんどりうって倒れ込んだのは……女、か? 
平和な日本に暮らしていて目にする光景ではない。 否、紛争地帯でもまず見られないだろう。
地元民の狼狽を他所に、肩と脚線を惜しげもなく晒した女が弱々しく呻く。

「む、うう………不覚……教会騎士団のしめしが」

常識的にどう考えても致命傷の筈だが………
足取りがおぼつかないながらも身を起こし、彼女は境内へ戻ろうとする。
彼らとて馬鹿ではない。 この先で途轍もない事が行われている事くらい、肌で感じ取れる。
君子危うきに近寄らず。 無事に帰れる保証の無い所に嬉々として足を踏み入れるのは死の商人とトルネコだけで十分だ。

こちらに気づいたのか、ペコリと一礼をして再び危険地帯に赴く女。
その後姿を詮索するでもなく、ただ見守る地元民であったのだが―――

「………………ええ尻じゃあ」

「っ!」

思わず漏れたその声に、凛々しかった彼女の表情が羞恥に歪む。
顔をゆで蛸のようにボン、と赤らめ、露出部分を隠しながら―――

女―――シャッハヌエラは足早に境内に消えていった。


――――――

CHAPTER 2-5 千秋楽 ―――

「とぁらった! とぁらったぁ! これは名勝負よー! 立会いから全く動きを止めない両力士!
 しかし瀕死山(四股名です)、相手の動きに着いていけてない! 
 ストライカーを翻弄するその勇姿! さながら土俵の魔術師と謳われた舞の海が乗り移ったかのようだー!」

「た、たらったたらった……速い。 スピードと小柄な体を十分に生かした取り組みだ」

ハイテンションな行事と物入りは、お馴染み大河とチンクのアナザータイガーコンビ。
お送りしているのは円形闘技場。 所狭しと駆け抜ける2つの影。 
何をしているのか見紛う者はもはやいないだろう。

「ふえええええっ! 来ないでぇ!!」

筋骨隆々の力士に相対するのは小柄な少女。
彼女は人間離れした膂力と身体能力を持つ土俵の新星。
本編でヒロインになり損ねた分、角界に全てをかける。 その心構えは十分だ。

「違うもん! 遠野君に会いに来ただけだもんっ!
 それにリメイクではちゃんと正式に私のルートが―――」

黄色のスクールセーターを羽織り、下は艶かしい御足を限界まで晒す少女。
その悲しい遠吠えはともかく、健康的な太股に見惚れようものなら瞬殺お陀仏間違い無しだ。
繰り出す百烈張り手は目にも止まらず、相手が土俵際まで吹っ飛ばされる。

「だ、旦那ぁぁっ! くそ……何であんなのが強えんだよ!?」

アギトの悲鳴が闘技場に轟く。 土俵と呼ばれる神聖なサークル。
己が肉体を武器に2人の神が技を競った日本古来の戦場だ。

「ピンチの時は助けてねって言ったのに………どうして来てくれないの……
 嘘つき――――嘘つき――――お腹、空いた……」

「おーーっと堕ちていく! どんどん深みに堕ちていくぞ、ピンチ塚っ(四股名です)!
 ダウナー系ここに極まれり! 深みにハマったらブレーキ知らずの大転落っ!
 出るか!? 業界一、後ろ向きなあの必殺技がっ!!!!」

「ピンチ塚(四股名です)が何か仕掛ける気だ、ゼスト……!」

「ていうかその名前はイジメだと思うんですけどーーー!」

少女の抗議は保留される。
亜麻色の髪を振り乱す女力士、弓塚さつきの漏らした不満と――――その隙。 

「取った! ぬあああああああっ!」

「ひっ!? きひゃーーーー!??」

それを突けない男ではない。 彼はかつて局内屈指のストライカー。
最強の名を担った、今なお技巧においては健在のベルカの騎士だ。

猫のように駆け回っていた少女の腰の注連縄を豪腕が捕縛。 そのまま上手に投げぬいた!
悲鳴と共に少女の体がサークル外に放り出され、頭から落着。
ゾリゾリゾリ!と地面を滑る小柄な体が今………力なく、ペタンと地面にへたり込む。

「上手投げー! 勝者、瀕死山ーーーーー(四股名です)!!! 
 一片の容赦無し! 少女力士が地面にめり込んだぁ! 
 そのアークドライブは角界に旋風を巻き起こす事叶わず! またもヒロインになり損ねましたー!」

「切り札を出す前に潰された……この戦い、タメの長い技は出せないと見て良いな」

「むふう……固有ルートを望む心は個人的にヒジョーに分かるだけに
 残念な結果に終わったといえるわねー! まあ、100年くらい待てばあるいは、ね」

「そんなに待てないもんっ!!」

悲哀のヒロイン(候補)を尻目に勝ち名乗りを受ける騎士ゼスト。
上気した鋼の肉体を誇るでもなく、粛々と土俵を降りる。
その際、審判である眼帯の機人と目が合った。

「おめでとう。 良い勝負だったぞ」

「……………そうか」

かつて自分を仕留めた相手に健闘を称えられる。
そんな奇妙な縁に苦笑するでもなく、ゼストは応援席で心配そうな顔をしている仲間の元へと戻るのだった。

「ゼスト……平気?」

「ああ、何とかな」

「それにしてもあの行司! 縁起でもねえ名前つけやがって!」

アギトがタイガー行司を敵意剥き出しで睨み付ける。

「若いが良い闘士だった。 命を削ったフルドライブで何とか勝ったが……」

「ちょっ! こんなもんで命削らないでくれよ!」

「そう言うな……この体では、あのレベルには到底、届くまいが」

心配そうな表情を向けるルーテシアにアギト。
騎士は柔らかな微笑を向け、異様な熱気に包まれつつある東方へと目を向ける。
あそこではもはや人語に表せぬ激戦が繰り広げられているのだろう。
かつての自分ならば、と惜しむ気持ちはあるが詮無き事だ。
今はこの背中を押してくれる同志の期待にのみ答える者でいよう。

「ベルカの騎士ゼスト……せめて、もう一花咲かせよう。 続けて行くぞ!」

「さあ、瀕死山(四股名です)の2人抜きなるか!? 
 病魔に蝕まれた体は蝋燭の最後の輝きの如く狂い咲き!
 この漢に続けて挑む者は名乗り出よッッ!!」

「さつき、泣かないで……私が仇を取るから」

「リーズさん………うう」 

対するは路地裏同盟一の男前。 仲間として果たすべき仁義がある。
相手は元Sランクのストライカー。
本来なら太刀打ち出来る相手ではないが―――

「名乗り出た! 名乗り出たのはピンチ塚(四股名です)の盟友! 
 え、と……男女っ(四股名です)! 物乞い同士の熱き友情! 
 次戦、死にぞこないVS死にぞこないの血みどろの戦いが繰り広げられるーー! 胸熱っ!」

「酷いな……この行司」

「気にするな。 祭の喧騒など、どこも似たようなものだ。
 今はただ目前の好敵手にのみ意を注げば良い」

「真面目な人だね。 でも融通の利かない気質は嫌いじゃない。
 しかし生まれて初めてだよ―――こんな女の子らしい服装に身を包むのは……機能的で良い感じだ」

「故に浮き彫りになる、苦行により極限まで絞り込まれ、鍛え上げられた肉体。
 相手にとって不足無し……推して参れ!!」

「ああ――――行くよ」


行司の手が振り下ろされ―――

互いの蹴り足が大地を抉り、双方の張り手がクロスし、相手の頬をブチ抜いた!


――――――

「ス、モウ……」

カタログを読みながら呟いたのはティアナランスター。
各土俵に 「奈須千秋楽―――大相撲」 と銘打たれた垂れ幕が見える。

その下で鍛え抜かれた肉体と肉体が激突し、凌ぎを削る。
日本の伝統文化にいまいち理解の及ばないミッド生まれのミッド育ちである彼女。
ただでさえ教導で疲労の溜まった面々も多いというのに、この上、肉体労働を重ねるのは如何なものか。

「ていうか親交を深めようと開かれた交流会の割には
 旅行先でも争ってばかりなのよね……私達」

「何の! 闘いはセッ○○以上のコミュニケーションだって強い人が言ってたっっっ!!!」

「へあっ!?」

ゆうに100mは離れていようかという行司からの、まさかのレス返し。

「ししょー。 ○ック○とは何だ?」

「夕餉の席でお父さんに聞いてみると良いっ!」

「了解だ」

「何なのよ、もう……」

まあ百歩譲って催し自体はいいとしても、だ。 形容しがたいほどに問題なのはそのユニフォーム。
男性は上半身裸で、マワシと呼ばれる薄生地で局所を覆っただけの格好。
そして女子は極限まで食い込んだ白のレオタードに、腰に注連縄を締めた、これまた極限軽装の出で立ち。

(そういえばナンバーズも夜店で似たような格好をさせられてたけど……)

季節外れの白スク水がどう考えても不自然な普及を見せている。
誰かが水面下で広めているのか? 邪な陰謀をひしひしと感じる。

ともあれ今、結果として半裸の男女が組んずほぐれつ近接戦闘をするという
信じ難い祭が目前で展開している。 冗談ではない……セクハラだ。

「………誰よ? こんな卑猥な祭を考案したエロ河童は?」

「私です」

「ひええっ!? カカ、カリムさん!?」

愚痴るティアナの横に、いつの間にか正座していたカリムグラシア。
何を隠そう、彼女が祭の発案者にして実行委員長である。

「お叱りはごもっとも……敷居の高い催しになってしまった事は否めません」

「いや、あの、違うんです! 斬新過ぎて凡人の私にはちょっと理解が及ばないなぁってだけで!」

全身から冷や汗が噴き出す。 しどろもどろに答える執務官補佐である。
彼女は部隊長、八神はやての更に上に位置するお偉方だ。
怒らせたら自分の首など一瞬で吹き飛ぶ。

「いいのですよ。 些か強行軍になってしまったのは事実ですから」

カリムは気を悪くした様子もなく柔和な笑顔で答える。 助かった……

「相撲とは、この地に根差した神道に基づいた儀式。 奉納祭の起源でもあると聞き及んでいます。
 また優れた武芸でもあり武術でもある。 此度は数多の世界から集った武人も多いので……
 二日目の締めに最も相応しいものと判断し、敬意を表して企画した次第なのですが」


――――――

「――――で? これはどういう事だ、2人とも?」

境内に最も高く居を下ろすのは神棚だ。
設けられた席に座り、青年は不快極まりない様子で尋ねる。
彼の両脇には女性が2人。 その片方が実行委員長のカリムと目配せをして何事か合図をする。

「どういう事も何も無いでしょう? これは奉納祭ですから。
 納め奉る神様がいなくては話になりません」

「いや、だから……俺、いつから神様になったの?」

「神様というか、それっぽいナニというか……よく先方が納得してくれましたね?」

「納得? 詳しく話さなかっただけですよ。
 向こうさん、未だにコレが本気で神様と信じているようです。
 面白いから放っておこうかなと」

この女は………、と護衛役のバゼットが頭を抱える。

立会いの度にそこら中から聞こえる、杭打ち機が炸裂するような音。
ああ絶景かな超人相撲。 己が肉体を拉がせて神への感謝を表す彼ら。

しかしながら捧げている相手はアレなソレであり―――
聖なるモノに労を捧げる儀式と信じ頑張ってるあの人たちが
真相を知ったら果たしてどうなる事やら。

「血生臭いのは勘弁してくれよ……せめて女の子の参加者の安全をもう少し考慮してだな」

バレたら洒落で済ます気か? あんなに人が飛んでるのに?
全身に不可解な文様を刻まれ、赤い装束を纏ったカミサマがぶつぶつ文句を言っている。

「局側は体表面を覆うフィールドの使用が許可されています。
 レガースやブーツ、頭部やショルダーパーツなどの防具も可。 十分かと思いますが?」

「あの連中を相手に真っ当な防具がどこまで役に立つのやら……
 とにかく危なくなったら即、中止にするからな?」

「あれだけ頑張って労を貢いでいる人達に失礼な物言いですね。
 貢物の価値を決めるのは偏に受け取った者の心根よ?
 貴方はカミサマらしく、血ヘド吐いて戦う大衆に舌鼓でも打って喜ぶ義務を果たしなさい」

奉納祭というかサバトじゃないか……
そんな青年の呟きは意図的に無視される。

「その皮肉、やっつけ具合―――ほどよくクソッタレだぜアンタら。
 なら、せいぜい俺を満腹にさせるようなゴキゲンな血ヘド祭ってやつを見せてみなよ」

もうヤケだ……戯れた笑みを浮かべる彼。 
神どころかその実、全く逆のモノとして祭り上げられたとあるサーヴァント。

士郎演じる退廃の面持ちは―――紛れも無い 「この世全ての悪」 だった。


――――――

そんな祭にスバルは只今、絶賛ノリノリ参加中。

「おら気合入れろスバル! そんな膂力じゃ到底、救助隊の任務なんて任せられんぞーー!」

「「「 SOSっっ!!!!!  SOSっっ!!!! 」」」

「押忍ッッ! ぬおりゃああああああーーーーー!!!!!」


………楽しそうだ。

最前列で激を飛ばしているのはヴォルツ司令だろうか?
新しい部署に配属されたスバルが随分とお世話になっているとよく話していた―――

そんな親友を見ると、レオタードの上には防災救助部隊の制服を模した黒のジャケット。
まわしを取り合う競技上、ウェスト周りを隠していない事を除けば普段のBJとそう変わらない出で立ちだ。
なるほど、コーディネイト次第ではちょっとイケてるかも知れない。

「あの格好でさえなければ私も出場してみようかなーって思ったんですけど」

「おや? フェイト執務官の直属ともあろう方が、露出に臆するとは意外ですね?」

…………さらっと失礼な事言った、この人?
というかフェイトさんってやっぱり他からそういう目で見られているのか……

「初めは男性力士との公平性を重んじて女子もまわし着用。
 上はサラシという発案だったのですが、シャッハ他多数の女性参加者の猛反発に合いまして」

「当たり前です!」

「あくまで神聖なる儀式なのですけどね……」

シュン、と落ち込むカリム。 どこまで本気なのか分からない。

そして今、そんな2人の頭上の遥か上――――
何かが凄い勢いで飛んでいく!

「せ、聖王騎士団に栄光あれーーーーーーーっ!」

ノーバウンドで滑空し、柵越えを果たす物体。
断末魔をあげるそれが人型の何かであり、紛う事なき人間だと理解出来るまで数秒。

「シャッハさーーーんっ!!!!??」

「シスターシャッハ……貴女でも及びませんか。 
 どうやら、こちらが圧倒的に旗色が悪いようです」

そこら中で交通事故が起こっている。
人が飛んでいる。 ハネられている。 舞っている。
辺りを見回すと流石に教導に携わっていた者は出ていないようだが……

何にせよ、阿鼻叫喚の大相撲千秋楽。
神事と言っていたが、本当に誰かが天に召されないか心配だ。
大丈夫なのか? これで労災が降りなかったらストライキものだろう。

「………! スバルッ!?」

そしてそこに視線を戻したティアナが息を呑み、目を向けると同時――――


――― ごしゃ!! ―――

鈍い音が響き渡るっ!


――――――

「ふわーーーーーーっ!!?」

恐ろしい風圧がティアナの髪を掻き上げた!
自身の横スレスレを地面と並行に、親友が通り過ぎていったのだ!

「………っ!?」

今さっきまで土俵上で奮闘していたスバルが観客席の奥まで吹っ飛び、弾丸のようにフェンスに激突した。
そしてコンクリのフェンスまでもぶち抜いて瓦礫に埋まる。
何というか―――歪な飛び方だった。
四方八方から力を加えられたピンポン球のような……

「ちょっとアンタ!? 平気っ!? 生きてるっ!?」

血相を変えて駆け寄るティアナ。

「…………………い、痛い」

レガースもジャケットも粉々のボロボロだ。 首があらぬ方向に向いているのが、とにかく目に優しくない。
口元を初め、露出の多い衣装が更に破けて、下に覗く素肌の至る所が痛々しく腫れている。


「■■■■■ーーーーーーーーッッッ!!!!!」

口惜しそうにスバルが見据える先―――
土俵の上で今しがた彼女を叩きのめしたモノが吼え猛る!

「軍神五兵<ゴッドフォース>幕内Ver.――――
 相手はなす術なく粉砕されるのみです……ご自愛を」

言ってスバルにバンドエイドを投げてよこすマスター、ラニⅧ。 

「呂布が出たぞーーーーーーーー! 愛陳宮(四股名です)完全勝利っ!
 音に聞こえし方天画戟の破壊力を体で再現した撃滅奥義! キン肉マンだよ、この人! 
 ゆで理論を体現した奴に初めて出合ったその感動! 行司は涙が止まらないーー!」

「ぶちかまし、喉輪、突き押し、足払い、だし投げの五つを同時に叩き込む複合技……
 5方向から来る5つの加撃が見事に繋がった……スバルは大丈夫だろうか?」

「だ、大丈夫なわけない…………関節が完全にガタガタだよ……」

「苛苛苛―――ッ! ぬしには少々、荷が重い相手であったな」

バーサーカー―――真名は大陸最強の名を欲しいままにする無双の武人。
魔拳士をして場合が場合ならば一戦交えたいと言わしめる英霊だ。
三国時代における無双の体現。 相対しようと容易に考えるだけでもおこがましい。

「中華の武技は奥が深い。 速力、膂力は十二分に足りているぬしだが、如何せん正直過ぎる。 
 常に真正面から当たるだけでなく、搦め手も覚えねば百戦百勝とは相成らんぞ?」

「挙句、いみじく姿を消しての一撃狙いですか? コソ泥と同じですね。 
 武道家としてどうなのよ?って話です」

スバルと重なるように言葉を紡ぐキャスター。 
声色を似せると本当にどちらが話しているのか分からない。

「中華の武だか何だか知りませんが、あんなのにあっさり負けちゃうなんて
 ミッドチルダの拳士とやらも大した事ないですねぇ」

「ほう―――ほざく。 貴様にあの三国無双を転がせる秘策があるとでも?」

「当然。 朝飯前の油揚げです、あんなの」

「ええー? ウソだー!」 

「出来ますー! あんなの私にかかれば1秒ですー!」

「無理無理無理だって! 半端な強さじゃないんだから、あのバーサーカー!!」

珍しくキャスターに食ってかかるスバル。
只でさえ徒手の攻防はパワーで劣る女性が男性に勝てる要素は少ないのだ。 
隊長陣を含めた6課勢の中でも、このルールでサーヴァントに当たり負けしないのはスバルくらいのもの。
だからこそ彼女は体力で劣るキャスターの言葉に到底、頷けない。

「ふん……仕方ありませんね。 実演しますから犬系、ちょっとそこに立ってくれません?」

「……? ええ、と……こう?」

そんな彼女をギミックとして立たせるキャスター。
あの英霊を瞬殺するとまで豪語する狐の秘策。
ファイティングポーズを取りながら、スバルはとても興味津々だ。

「まず立会いがこうじゃないですか? 相手がこう来ますよね」

「うんうん!」

「こうして、右四つに密着しますよね? 相手も負けじと押し返します」 

「うん、と……でもそれじゃ力負けして寄り切られちゃうんじゃ?」

「はい黙って。 そしてこう相手のマワシを下から掴むフリしてですね…………
 死角からこう、ぐしっ、と―――――」


しかして――――――

「えっっ!? ひゃあっっっっっ!!!!!???」

キャスターと組み合った状態にてギミック・スバルが甲高い悲鳴をあげる。
彼女の腰が不自然に跳ね上がり、そのままカクンと落ちかかるその下半身。
何とか踏ん張って、タマモにしがみ付くように残して見せる彼女であったが―――

「ほら、ラクショー♪」

「…………!!!!!???」

期待満面だったスバルの表情が次第に青くなっていくのは多分、恐怖から。
目の前にある狐の顔。 その笑みをスバルは一生忘れない。 
口元が歪に裂けた――――般若さながらのその笑みを。

「だ、駄目ーーーーーーーーーっっ!!!!!
 タマモさん、お姫様なんだからそういう事しちゃダメーーーーーっっ!」

「勝ちゃいいんですよ、勝ちゃ。 ちなみに本当なら、ここで手から密天が。
 あ、吸精もいいですねぇ………ぐふふふふふ♪」

「はひぃ…………っっ!!!」

何だ、この修羅の生き物は? 宮廷皇女の面影が微塵も無い。
技の詳細は深く記すまい……最低最悪の「裏技」とだけ言っておこう。
確かにこれなら1秒であいてはしぬ。 相手が男なら尚更に。

「何かと思えば………クハハハ! 浅慮なり狐! 
 中国の武には既に急所を体内に隠す術など確立済みよ!
 貴様らのいる地点など我らは1000年前に通過しておるわ!」

「に、にゃにおうーーっ!!!」

「あ、あの……タマモさんっ! そろそろは、離して……ッ」

「だあああああっ、うるさーーいっ!! 注目されてんでしょうが!!
 恥ずかしい事を大声で喚き合うじゃないっ!!!!」




「まあ冗談はさておき―――攻略法はありますよ。 マジで」


――――――

「楽しそうねぇ……ティアナ達」

お騒がせ4人組がいる土俵の方角―――
ラニ・バーサーカーの鎮座する東部屋最南端のサークルを見つめるシャマルである。
幕内力士の跋扈する殺劇空間の只中で、次々と撃破されていく局側の力士達の救護に大忙しだ。

「ておああああああーーーッ!!!」

そして東部屋西側では―――
凍てついた空気を切り裂く雄叫びが上がる!
諸共に褐色の力士の放った飛び蹴りが敵に叩き込まれたのだ!

「これは凄まじい! 闘犬竜(四股名です)のジャンピングケンカキックーーーーーーー!!
 骨をも砕けよとばかりに放たれたカカトが相手の顔面に炸裂ぅーー!」

「………我は狼だ」

「モロに蹴ったな……あれはルール上、OKなのか?」

「んー、いいんじゃない? どうせマトモな相撲で収まるような連中じゃないし」

身も蓋も無い。 プロレスか。
あと、この行司は瞬間移動でも出来るのだろうか? 
さっきまでスバルとラニ・バーサーカーの試合を仕切っていた筈だが……

「………ぬうっ!」

渾身の蹴たぐりを叩き込んだザフィーラが息を呑む。
敵は―――まるで揺るがなかったのだ!
盾の守護獣の一撃を、まるで蝿でも止まったかのように払いのける。

(この程度の攻撃では勝機は無い……分かっていた事だが) 

敵が「コレ」である以上、まともにやって勝つ術は無い。
とうに理解していたのだ。 ならば今こそ、温めていた秘策を出す時っ!


「行くぞ! 鋼の猫だまっ……ぐはああっっ!?」

ゴチャリ、と肉の潰れる音がした……


「ぬおおおおおあああああっ!!!?」

相手力士の突っ張りがカウンターでヒット。 やたらと渋い悲鳴をあげて飛んでいくザフィーラさん。
その体が吹き飛び、壁のシミになる寸前で―――シャマルの風の防壁が展開し、見事に受け止められる。

「ぐう………す、すまん」

「気にしないで……やっぱり貴方でもどうにもならなかった?」

「己が無力を恥じるのみだ」

守護騎士が見上げる視線の先―――


「■■■■■ーーーーーーッッ!!!!」

ザフィーラを一撃で葬り去った巨人の雄叫びが大地を揺らす。

「ふうん……殺しちゃ駄目っていうルールが正直、一番の枷だと思っていたけれど
 これくらいの力なら十分、耐えてくれるんだ。 だんだんコツが掴めてきたわ」

雪の少女の酷薄な笑みが敗者に注がれる。 
そして佇む、言わずと知れた最強のサーヴァント。
イリヤスフィールフォンアインツベルンのバーサーカー!

キャロとの話ではないが、このイベントにかける少女の意気込みは本物だ。
狙い打ったかのように投入してきた切り札は文字通り無敵の横綱!

「おーい弟子1号~!」

行司がイリヤにぶんぶんと手を振っている。
あからさまにうんざりした表情を向けるイリヤ。

「景気はどうかね、キルビル? 
 紹介するわ! こちら、アナザータイガー道場の弟子2号! 
 どこぞの不肖の弟子とは似ても似つかぬ、素直でデキた門弟よ!」

「お初にお目にかかる、姉弟子。 これが噂のバーサーカーか……壮観だな」

「つうか違和感無さ過ぎ。 
 完全に土俵に溶け込んでるよ、このギリシャ人……マゲ結いてぇー」

「鬱陶しいわね……いいから、あっち行ってなさいよ」

「しかし残念だったわー、闘犬竜(四股名です)!
 犬の猫だましとか小洒落たフェイバリットホールドを披露してくれましたが
 理性の無い狂戦士にはギャグも届かなかったか! 着眼点とユーモアは買うんだけどねー」

「………我は狼だ」

既に死屍累々を築き上げているイリヤ・バーサーカー。
アレと素手で取っ組み合いをするなど無理ゲー過ぎる。
坂田金時でも連れて来なければ話にならないだろう。

「では行司は他を仕切らねばならぬ故、またなっ! 
 相手を殺すんじゃないわよ弟子1号!」

「姉弟子……また」

ペコリと頭を下げる機人と藤村アバターな行司。
ふんっと鼻を鳴らす少女であったが、それにしても―――

「目障りね……あっちと……あっち。
 私のバーサーカーだけで十分なのに……」

幕内の最南端と、中央の方角を見てイリヤが舌打ちする。
特に陣の中心に位置する、あのうっとおしい奴を
少女は忌々しげに、殺意すら込めて睨み付ける。

その瞳は―――まるで聖杯戦争を戦うアインツベルンのマスターが戻ってきたかのようだった。


――――――

「ねえ、なのはママは出場しないの?」

「ママは砲撃戦しか出来ないからね。 こんなのに出たら潰されちゃうよ」

クリクリとよく動くオッドアイが尊敬する母親を見上げている。
苦笑交じりで少女の頭を撫でる母。
高町なのはと高町ヴィヴィオ、親子で祭を観戦中だ。

「そ、そんな事ないよ~! ママは世界一強いもん」

しかしなのはの今の言葉には頬を膨らませて反論する娘である。
ヴィヴィオにとって、なのはは誰にも負けない一番のママなのだ。
口では謙遜しているが、戦えばどんな相手にだって負けない筈だ。
時間が合わなくて二日間、母親の教導をロクに見る事が出来なかった。
だから今夜は、強いママの勇姿が見れると期待していた少女であったのだが……

「ヴィヴィオがもう少し大きければなぁ……」

呟く少女。 幼い彼女の目にも局側が劣勢なのが分かる。
なのはやフェイト要する機動6課はこの娘にとって謂わば我が家だ。 
出来れば……否、絶対に負けるところなんて見たくはない。

「ママ……ヴィヴィオも早くママ達と肩を並べて戦えるようになりたい」

「…………」

この言葉は最近の少女の口癖となっていた。
彼女は何時しか、母親の大きな背中を殊更、意識するようになり
自分もいつかママに負けないくらい強くなりたい、ママに戦い方を教えてもらって肩を並べて戦いたいと夢に見て
それを仄めかせる言葉を口に出すようになっていた。

「早くママの教導を受けられるようになりたいな」

「ママの教導は主にセンターやバック主体のものなんだよ、ヴィヴィオ。
 近接戦に特化したものではないから……専門的な事は騎士の皆に教えて貰おうか」

「えー! ママがいいなぁ……ママに教えて貰いたい!」

「ふふ……そうだね。 でも、効率を考えたら
 スバルやノーヴェに教えて貰った方が断然強くなれるから、ね」

それは傍から聞いていればもっともな理屈であっただろう。
だけど何時しか、なのははこうしてヴィヴィオの言葉をはぐらかすような物言いをするようになっていた。
普通の子供なら流してしまうほどの、母親の小さな戸惑い。
この娘は聡明だった。 親の心情を解さないほど向こう見ずではない。

「…………」

なのはのその腕から逃れ、トテトテと丘の方に駆けていくヴィヴィオ。

「ヴィヴィオ? どこへ行くの?」

「おトイレ」

「そう……気を付けてね」

少女は肩を落として振り返りもせずにいってしまった。
落胆させてしまったのだろう……チクリと、その胸が痛む。

「何だ? 喧嘩でもしたのか?」

そして―――娘と入れ替わるように新たな人影が現れる。

「式……ううん、何でもないよ」

両義式と―――その横に黒髪の利発そうな女の子の姿がある。
着物の少女の右手をガッチリ組んで離そうとしない女の子。
されど仲が良いようには見えない。 黒々としたオーラが2人の間に渦巻いているようだ。

「紹介するよ……鮮花だ。 さっき、お前んトコの店で捕まった」

「黒桐鮮花です。 変態女が破廉恥な事をしないかと、お目付け役として同行しています」

ペコリと頭を下げる鮮花―――――黒桐? 
黒桐幹也と何かしらの関係があるのだろうか?

「そういうお前も兄貴に欲情する変態じゃないか」

「え……お、お兄ちゃんと……?」

聞いたなのはが目を白黒させる。

「否定はしませんが何か? 但し欲情とは心外だわ。 
 勝負がとっくについてるにも関わらず、未だに諦め悪く殿方を混浴に連れ込もうとする女が他人を変態呼ばわりとか、ヘソで茶が沸くわよ実際」

「既に人目もはばからずか………お前スゴイな。
 なあ、なのは。 お前も確か兄貴がいるようけれど、ねんごろになりたいとか思った事ある?」

「あ、あはは……」

歴戦のエースの目が泳ぐ泳ぐ……
確かに兄、恭也は文句無しにカッコ良い。
幼少の頃は世界一ハンサムなお兄ちゃんのお嫁さんになりたいとか思った事が無いといえば―――

「人それぞれじゃないかな」

下手な事を言うと自爆しそうだ。
この件はこれ以上、首を突っ込まない方が良いだろう。

「シケた解答だ。 教官ならビッとした答えを示さないと生徒に舐められるんじゃないか?」

「ごめんね……教導隊では恋愛相談は受け付けてないんだ」

「そうか。 ところで、さっきの娘は親戚か何かか? 妹って感じじゃ無かったが」

「ううん、私の子供」


………………………
………………………


歯切れの悪いなのはに別の話を振っただけの事。
それくらい何の気なしの質問だった。


………………………
………………………

対して返ってきた答え。
2人は歯切れが悪くなるどころではない。
完全に絶句である。

「――――そうか……………子供か」

絞り出すように紡いだ式の声。
後ろでパクパクと口を開く鮮花。 

「え? だ、だって……なのは教導官って確か20歳前後の筈ですよね? 
 あの娘、どう見ても5、6歳は超えてて……」

「おい、どうするんだ? 凄絶極まりないレベルの違いを露呈しただけじゃないか。
 すくすくと子育てまでやってる相手に近親相姦どうですか?って、馬鹿か俺たちは」

「だから相姦とか言うな! 私は貴方と違ってプラトニックに攻める予定なの!」

盛大な誤解をしているのだろう。 いつもの事だ。 
養子という事は掘り下げればすぐに分かる事。
反応が面白いので暫く放っておこう。

「おかしいと思ったんだ。 お前、年齢よりも遥かにババ臭いもんな」 

「あはは……女の子っぽく無いという点では式も相当だよ」

「ふうん…………子供、か」

真面目な顔で何かを思案する両儀式。 
眉間に皺が寄るほどの考慮はこの少女をして珍しい。

「式ッッ! アナタ今―――ダレとの子供を連想してるんですか!?」

「痛いぞ、爪を立てるな。 まだ何も言ってないじゃないか?」

「でも…………結構、重いよ?」

なのはの口を突いて出た言葉に、じゃれ合っていた2人の動きがピタリと止まる。

「っ………」

その失言にハッと口を押さえるが、もう遅い。
真摯な表情でこちらを見据える式と鮮花の視線。
居心地悪そうに、1児の母は溜息をつく。

「重荷―――煩わしいという事ですか?」

「まさか」 

それには1も2も無く否定するなのは。

「あの子の存在は私に新しい幸せの……夢の形を教えてくれた。
 誓って煩わしいなんて思った事は無いよ」

「それじゃ、何が?」

「…………」

そう――――初めは我武者羅だった。

娘の期待に答えたくて、事実、力の限り答えてきた。 
あの娘の前では何時だって強い自分でありたかった。
ヴィヴィオに良い所を見せる。 ヴィヴィオが自分を見て笑ってくれる。 それが生き甲斐になった。

恋愛をはじめ、人並の女の子の幸せを放棄してきた空バカの自分が初めて手にした「当たり前」の幸せ。
浮き足立っていたのだろう。 舞い上がっていたと言っても良い。

―――だけど、いつしか抱くようになった……迷い。

少女の中でスーパーマンになってしまった「自分」に対する疑問。
子が親に向ける崇拝と尊敬は、民が英霊に向ける信仰に匹敵する。
自分を唯一絶対の存在とし、自分を指標に世界を見て、自分の背中だけを追い求める娘。
本当にそれで良いのか? 欠点も至らぬ所も山ほどある、こんな自分を盲信させたままで。
自分をただ追い求め、目指すような人生を娘に歩ませて―――

「あの子の進むべき道を考えると、それだけで不安になる……平静でいられなくなるの」

責任に押し潰されそうになる。 何よりもかけがえの無い娘………だからこそ迷う。
自分の事ならば迷い無く進めるなのはが、娘の事になると途端に弱気になってしまうのだ。
ことに高町なのはが歩んできた道は普通とは懸け離れた道である。
果たして少女にそれと同じ道を歩ませる事が幸せに繋がる事なのだろうか?

なのはは思う。 自分が魔法使いの道を歩むと言った時―――
お父さんとお母さんは同じような葛藤に苛まれたのだろうか? これほどに苦しくて不安だったのだろうか?
ならば改めて尊敬してしまう。 その不安を押し殺して、自分に好きな事をしろと言ってくれた事を。
自分なんて本当のどうしようもない……情けない。
今ここに娘がいないというだけで、これほど心配で居たたまれない気持ちになってしまうというのに。

「お前―――――本当に母親なんだな」

「……………」

式が口にしたのは単刀直入な感想だった。

「それは親が子に抱く感情として、まったく正しいものだと思うぞ。
 いやホント大したものだ……俺みたいな人でなしがお前に言える事なんて何一つ無い」

おおよそ珍しく、少女は今、本気で他人を尊敬している。
バスで話をしたのは、強大な魔力で敵を薙ぎ払う魔導士高町なのは。
だが自分と近しい世界に身を置く筈の人間が今見せたのは、全く自分と異なる一面だ。
それに式は目を細めずにはいられない。

「お前を見てると俺なんか、デキても到底、育てられそうもないよ。
 育児、教育共に全任かな――――――――――アイツに」

「くおらぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーッッ!!!!」

「乳母はお前か。 ヘンな事教えるなよ……て、痛い! 痛いってば!」

「ほんっっっとうにいい加減にしなさいよアンタは!幹也はとっくに私にメロメロなのよ!いい加減あきらめなさいよ!」

「おま、いたっ!調子に乗るなよ、この牛乳女!」

「誰が牛乳女よ!このまな板女!」


ゴロゴロと原っぱで取っ組み合いを始める式と鮮花を残し―――


「ごめん……ちょっとヴィヴィオを探してくる」

なのはは娘の駆けていった方へと向かうのだった。


――――――

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