#1

新暦96年某所―――

足元の感触を確かめるように踵を鳴らす、
久しぶりの転送でつい不安になってしまったが、無事到着したようだ

「あのな、ヴィヴィオたちが心配なのは分かるけど、
毎度毎度お前が何処か行くたびに呼び出されるあたしの身にもなれっての」

暇じゃねぇんだよ、とお決まりの文句を続ける相方をなだめながら洞窟の奥へ進んでいく、
もう十では足りぬ年月を経たと言うのに変わらぬこのやり取りに笑みを浮かべながら、
顔なじみの調査班と挨拶を交わしつつ、漸く開けた場所に出た

「なのはさん!」

こちらに気づいて開けた場所の真ん中で“それ”を見上げていた一人が振り返る
その声で気づいたのか、一人、また一人と周囲に居た者たちが集まってきた

「なんだよ皆雁首揃えやがって、
同窓会かってーの」

「まぁまぁ、ヴィータちゃん、いいじゃない」

ヴィータのいうとおり、元六課フォワード部隊全員が揃っていた、
なのは同様第一線を退いたものも中にはいるが、全員決して暇を持て余す立場でもない

「通信の目処が立ちそうだって聞いたけど、どう?」

「うん、いまユーノとシェリーが頑張ってるところ」

フェイトに促されて“それ”のところまで行く、
稼動状態ではないのか魔力反応らしきものは無い


「あれ?」

「どうしたんですか、スバルさん?」

“それ” ―――ロストロギア『カレイドスコープ』の本体を間近に見て、
首を傾げるスバルにエリオが声をかけた

「うん、あの子達と一緒に十二個の端末が落ちたんだよね?」

「そのはずですけど―――あれ?」

首を傾げながらスバルの見ている祭壇―――端末の収められていた場所を見ると

「そう、二十一個全部あるんだよね」

「ユーノ君、どういうこと?」

祭壇の手前に立つ、四十になろうかと言うのに未だに貫禄の付かない優男に問う
以前、一度髭を生やしてみたものの身内全員に爆笑されてやめた過去があるのだが、
そのあたりは余談だろう

「推論の域を出ないけど、
このロストロギアは平行世界同士で自分自身を補完しているんじゃないかな」

もちろん伝え聞くとおりの性能があればだが
並行世界Aで起きたトラブルに対し、起きていない並行世界Bの情報を上書きすることで
無かったことにする、と言うわけである

「それだと理論上壊せない訳ですよね?」

「うん、移設も難しいだろうから、
コレを封印するにしてもどうしたものだろうね」

ロストロギア指定されるものは使い方次第によっては極めて危険な代物ばかりであるが、
このような辺境の無人世界に観測員以外の人員を配置し続けるのもあまりメリットが無い
果たしてどうしたものか


「まぁその辺はお偉方の判断次第だろ、
それで、本題はどうなんだよ?」

難しい話に面倒になったのかヴィータが話を戻す、
これで最前線では部隊指揮官だったりするので不思議である

「大体できたよ、後は試してみるだけだね、
『カレイドスコープ』を中継して普通の次元通信の要領でデバイスに送れるはずだから」

だれかやってみる?
と手元にコンソールを呼び出しながら問う

「どうしようか?」

「なのはさんどうですか、ヴィヴィオ達心配でしょ?」

それを言うならスバルもだけどねと言いながら、
特に反対意見も無い様なので頷いてユーノに指示を出す

「さて、それじゃ始めるよ」

キーを叩くユーノにあわせカレイドスコープに薄い明かりがともる、
さて、繋がるかなと思いながらなのはは空間モニターを開き呼びかけた


#2

新暦78年―――
聖王医療院

「あ―――」

目を開けて最初に飛び込んできたのは、
泣きそうな顔で自分の手を握るフェイトの姿だった

「フェイトさん……」

「よかった……
ずっとうなされてたから心配したんだよ?」

酷く寝疲れをしているが、魘される様な夢を見ただろうか?
内容が思い出せないが、夢の内容を常にはっきり覚えている人間は居ない、
大方、軟禁されていた頃の夢でも見たのだろう

「皆に伝えてくるね、
あ、何か食べるもの持ってきた方がいいかな?」

勇んで席を立つフェイトに苦笑する、
空腹なのは事実だが、やはりフェイトから見ればまだまだ子供の域を出ないのだろうか

「いい女じゃねぇか」

病室の窓から聞こえた声にそちらを向くと、
窓枠に人がぶら下がっていた

「何でそんなところに居るんですか?」

「なに、やれ検査だなんだと面倒なんでばっくれたところでな、
で、通りがかったら逢瀬の最中だったんで」

空気を読んで窓の外で見てた、と窓枠に腰掛けて言う男
一般論として、人それをデバガメという……


「そりゃ日ごろからあんな女の世話になってりゃ肉付き薄い女に興味もわかねぇか
それで、坊主―――もうやったのか?」

「んな……なななな」

「何を」と男の言葉に返しかけ、その内容を直感的に察して、
エリオは耳まで真っ赤になって言葉に詰まった

「なんだよ勿体ねぇな―――それともあれか、
他に囲う女が……」

「プラズマザンバー!!」

轟音立てて振りぬかれた雷光の剣から身をかわす、
病室がずいぶん風通しがよくなった気がするが気にしてはいけない

「子供に! 何を!! 吹き込んで!!! いるんですか!!!! 
貴方は!!!!!」

いつの間に戻ってきたのか、肩を震わせて叫ぶフェイト

「ネンネじゃあるまいしそんな目くじら立てるもんじゃねぇだろ、
それとも―――その歳で“まだ”なのか?」

もしくはそっちの趣味かなどといぶかしむ男、
実際にそういう噂が立っているのは間違いではないのだが

「ここにいたのかランサー」

その時、
この状況に対し、どこから突っ込めばいいのかと言った表情でアルトリアが顔を出した

「フェイト、食事はこの荷車で良かったのでしょうか?
一人分にしては些か多すぎる気がするのですが」

「あ、うん」

運んで来たカートの積荷(食べ物)に頷く、
状況を無視したかのようなアルトリアの態度だが、
どうやらフェイトに冷や水を浴びせる効果はあったらしい


この男―――ランサーとフェイトの相性はあまり良くない
粗野と几帳面と言う性格面の齟齬は言うに及ばず、
こうした下世話なやり取りとなるとフェイトは些か潔癖過ぎる

「では荷車はこの辺に置きます、
―――待てランサー、どこへ行く」

「もともと声をかけたのはついでの寄り道なんでな、
うるさいのが来る前にふけさせて貰うぜ」

言うなり窓枠に手をかけて出て行くランサー、
サーヴァント最速の名は伊達ではないのかあっという間に見えなくなる

「逃げられましたか」

間一髪で出遅れた形でシスターシャッハが病室に現れた
こちらの方は既に石化の影響は無いらしく、
取り立てて怪我も無い為いつも通りの法衣姿である

「追います、シスターは下を
あの英雄は生き延びることに関しては最優と言って良い、
森の中でサバイバルとなれば恐らく並みの騎士では歯が立たないでしょう」

医療院の敷地の外はそれなりに木々なども生い茂り、自然豊かな山並みもある
そんなところに逃げ込まれれば並みの魔導師では見つけることすら困難である
それ故に、逆に下に飛び降りたのではなく建物の上に登っている可能性もある

「手伝った方が良いのかな?」

「いえ、それには及びません、
ランサーにしてもここに現れたのは彼なりにエリオを認めた故でしょう、
あるいは此処に戻ってくる可能性も否定できません」

その時は任せます、と言うと、
こちらも窓枠に足をかけ、一蹴りで飛び上がる、
数度とかからず屋上へ消えていくその速さは一陣の風のようであった

「あぁいう男の人にはなっちゃ駄目だからね、エリオ」

みなが立ち去り、食事の用意をしながらのフェイトの言葉に
エリオは苦笑いしながら、はいと頷いた
どちらかと言うとヴァイスに近い性格なので
自分には到底真似できないだろうというのもあるが、

―――槍技に関しては教えを請いたいほどなのだが、きっと反対するんだろうなぁ

などと思いながら、少年は箸を手に取った


#3

ミッドチルダ地上本部八神はやて二等陸佐執務室

「はい、どうぞ」

ノックの音にはやては作業の手も止めずにそう言った

「失礼します、
シグナム二等空尉、スバル・ナカジマ防災士長両名、
本日より現場に復帰いたします」

ならんで入るなりびしりと隙無く敬礼する二人に頷く、
二人とも重症では済まない傷であったはずだが、突貫工事で治してきてくれた様だ

正直に言って本来なら当面休ませてやりたいところなのだが、
現実問題として人手が足りないのでそういうわけにも行かない

「早速で悪いけど、こっちが今現在分かってる分の資料になってる、
それと、近日中に地球に出張してもらうかも知れへんから二人もそのつもりでな」

「はい」

「了解です」

二人が資料を受け取った所で誰かが入ってきた、

「シグナムさん、スバルさん、
おかえりなさーい!」

「ただいま、ヴィヴィオ久しぶり……って、
増えてる?!」

見覚えの在る金髪とオッドアイの―――二人組に面食らい、
目を丸くして、スバルはとりあえず大きい方のヴィヴィオの頬を引っ張った

「ひひゃい、ひひゃい~!」

「変身魔法とかじゃないみたいだけど、どうなってんの?」

機人モードのセンサーまで使ってひとしきり確認し、
とりあえず変装の類でないと理解して、スバルは改めて問いかけた



「なんだ、お前は聞いてなかったのか?」

「目を覚ましてすぐ調整やって、荷物整理したらこっちに直行でしたから、
詳しいことは何も」

移動中は寝てましたし、と言うスバルにシグナムはそうだったなと頭を掻いた

「まぁなんと言うか、
―――ちょっと違う未来から来たヴィヴィオなんよその子、
あと一緒にヴァイス君とスバルの子供いうんも来てる」

「私の子供、ですか?」

それは、会ってみたいような怖いような、とスバルが興味深げに呟く、
実際問題としてそもそも真っ当な生殖、出産が可能なのか不安なのが怖い理由である

「みんな向こうで待ってるんだよ」

「そうだな、面倒なところは私と主はやてで片付けておく、
お前は先にみなに顔を見せて来い」

シグナムにそう言われ、ヴィヴィオ(×2)に連れられて休憩室に向かう、
途中、大雑把に二人に説明を受けたがいま一つ駆け足過ぎて理解できなかった


で―――

「あの子が、そう?」

休憩室のベンチに座りボーっとしている少女を指しての問いに皆が頷く、
ヴァイスの子供だという青年の話によれば普段はもう少し明るい子であるらしい

「機人モードの制御とか、
いろいろこっち来る前から思いつめてるとこがあったからなぁ」

心配なんだけど、どうしよう? と言うヴィヴィオ(大)に対し、
大丈夫任せてと、胸を張って答えるスバル
まったく持って根拠の無い自信であるのだが

「ほんとに大丈夫、あんた?」

「大丈夫だよティア、平気ヘイキ」

一度なのはに目配せしてから、心配そうなティアナに向けて笑いかけ、
無警戒にひょいとスバルは少女の隣に腰を下ろした

「……お母さん―――」

「は~い、お母さんですよ」

隣の気配に気づいてようやく首を巡らせた少女に対し、暢気にそう答える

「怪我は―――いいの?」

「大丈夫だよ
そっちこそ手、大丈夫?」

振動破砕の過負荷は並ではない、
骨格系が一撃で全損などということもありうるのである
それをよく知るだけにスバルの心配は少女の体のほうだった


「平気だよ、そんなの……」

いま一つ会話のリズムが悪い、かと言って拒絶している訳でもない
なんと言うか―――

「何か、不安?」

「ふぇ?」

成長に実感が無かったり、能力が制御できなかったりする状況で、
不安でないはずが無いだろうと思いながらも聞いてみる、
返答は無いがなんとなく当たりかなとスバルは思った

「いいんじゃないかな別に、
ヴィヴィオも、アルバート君も、別にそれで怒ったりしないでしょ?」

「そうだけど……」

「苦しかったり、悲しかったり、悩んでたりする時に傍に居て支えてくれて、
嬉しかったり、楽しかったりするときに一緒に喜んでくれる
ずっと、そうしてくれる人達なら、迷惑掛けても言いと思うよ
いつかその人が苦しかったり、悲しかったり、悩んでたりする時に傍に居て支えてあげて、
嬉しかったり、楽しかったりするときに一緒に喜んであげられれば」

それが友達で、家族で仲間ってことだよと締めくくる
別に捻ったところの無い唯ありきたりの常套句だがそれゆえに真実だとも言える

「なんか、綺麗に纏めたような、単に他力本願な様な……」

「別にどうでもいいだろ、お前の頭で考えて答えが出るわけでもあるまいし」

「ひどいカズ君、なんか私馬鹿みたいじゃない」

「馬鹿みたいって、
―――そもそも頭よくないだろお前」

む~と唸ってそっぽを向く、
その様に誰かが笑い出し、気が付くとその場に居た全員が笑っていた

「ふむ、なにやら知らんが纏まった様で何よりだな」

「そうですね」

なのはも彼らの様子に笑みを浮かべながらライダーの言葉に頷く、
何だか士気が上がってきた気がするのは気のせいではなかろう、それは良いことだ


「なんでアルバート・グランセニックなのに“カズ君”?」

スバルの問いにアルバートが目をそらす、
その問いは彼が此処に来てから幾度と無く繰り返され、
ヴィヴィオ(小)も躍起になっている謎であるのだが
本人が黙秘を続けるため分からないままである

追求しようとスバルが身を乗り出しかけたその時だった

「アル、デバイスに通信が入ってるよ?」

ヴィヴィオの言う通り、
テーブルに置かれた待機状態のアルバートのデバイスに小型の空間モニターが開き、
着信を告げている

「発信者は―――あれ?
レイジングハートになってる」

当の本人、レイジングハートとそのマスターは目の前に居るのだから
そんな通信をする必要性はまるで無い、つまり―――

“The communication from the other party ties.”

「まてRヴァリスタ―――なんかやな予感がする」

マスターの指示を豪快に無視してデバイスが通信を接続する
当人(機?)いわく“It is a most immediate priority”.との事で、
マスターよりも上位の命令によるものであるらしい

「18年後の私か、
どんな人になってるんだろ?」

接続に時間がかかるらしいRヴァリスタの映すモニターのノイズに目を向けながら、
期待と不安を乗せた言葉をなのはが口に出す
一応一つの可能性に過ぎないためそう“成る”とは限らないが、
皆思いは同じらしく、固唾を呑んで見守っている
そして、

“The communication ties.”

Rヴァリスタが報告し、モニターに一人の人物が浮かび上がった

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最終更新:2010年10月01日 15:36