第3話『秘剣、燕返し』


母なる大地、地球。その大地の片隅にある寺の山には、願えば叶う温泉が湧いている。
忘れた頃になって、いつのまにか出現する神の御業である。
七天にも届くであろう魔力を抱えた湯を『ヴァルハラ温泉』といい、その威容は、かの聖杯になぞらえられた。
霊長を救うためにこそ生まれた杯(さかづき)は、皮肉にも人々の激しい争いを呼んだ。
この戦いこそ『聖杯戦争』。
最小にして最大の戦争である。

殺戮者が、軍隊が、悪神が戦いに引き寄せられ、それら達も無残に敗れる程の戦闘。
温泉の加護を担う星神は、ようやく惨状に気がついた。
そして御言を発した。

「花札で、おk」

これが、みんな大好き『花札戦争』、いわゆる『聖杯戦争』の起源である。
そして、育児放棄者『言峰綺礼』はこう言った。

「奇跡を欲するならば、汝。最強を証明せよ」

湧き出した温泉は、十分な数の敗者を数えた後に出現し、一番湯にのみ魔力を宿す。
願いを叶えるのは、たった一組なのだ。
かくて今回も、聖杯戦争の幕が上がった。

『間桐慎二』に敗北した『高町なのは』は、黄金の少年と出会った。
管理者の一人である彼から得られたものは、逆境と、一筋の希望。
『宝具』に目覚めたインテリジェント・デバイスを手に、少女は必勝を誓う。
しかし、魔女の一手が、もう目の前に迫っていたのだった。

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秘剣、―――――燕返し。
空を自在に舞うツバメをも切り落とすと云われる、剣豪・佐々木小次郎の魔剣技である。
架空の剣士、架空の奥義ともされる伝説だが、それを可能とする者がいた。
彼こそ、『佐々木小次郎』なるサーヴァントであり、生前は津田の小次郎と呼ばれた人間である。

いったい、燕返しとはどのような技なのか。
「燕返しを再現できる」という一点で『佐々木小次郎』となった男が言う事には、ツバメを刀で斬ることは誰にも不可能だという。
曰く、奴らは風を読む。
曰く、奴らは風に乗る。
即ち、如何に疾き剣であろうとも、斬ることはできぬ。
―――――では、どうやって斬るというのであろう。
風より疾き一閃?そんなモノは最初の初めから避けられた。
男の刃の切先は、音そのものを亀と呼ぶほどに速い。
しかし、切先が届く頃には、ツバメは音斬りの太刀が生まれる前の風に乗り、遥か先に進んでいる。
考え抜いた末に、男は燕が舞うべき空そのものを切ることにした。
一つ、二つの太刀筋でツバメを囲い、三の太刀で仕留める。
そうと決めた男は、ひたすらに剣を振り、後の太刀が先の太刀を追い越すかのような斬り返しを求めた。
やがて、三の太刀が一の太刀に追い付いた時、ツバメに刃が届くのであった。

それが小次郎という男が、人間五十年の歳月で成し遂げた唯一つの偉業であり、誰も知ることのないはずの伝説であった。
小次郎にしてみれば、一回、二回、三回と連続して刀を振っているのみであるが、傍から見れば「全く同時」に三つの太刀が現れる魔法の剣。
何故そんなことが可能かと彼に訊けば、「五十年も刀を振っていれば誰でもできる」「疾く剣を振るのだ」とでも言うだろう。
――――それは違う。
魔剣を成立させるのは、同じ型なら出来るような『技術』でも、速ければ出来るような『速度』でもないのだ。
強いていうなら、『彼が成した神秘』と言う他にあるまい。

さて、そんな幻の剣技を持った男が、聖杯戦争に呼び出されどうしているか。
その様子を観てみよう。


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「働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!」

「いいから!さっさとお聴きなさい!」

冬木市は円蔵山、その山頂に位置する柳洞寺の敷居には、修業を行う坊主達が居た。
静謐を良しとする山寺の朝、そんな風景に似つかわしくない大声を上げているのは、藍色の陣羽織に身を包んだ侍と、彼の耳を引っ張っている魔女だった。
彼らもまた、聖杯戦争に呼び出されたサーヴァント。
ただし、青年の方は、自身もサーヴァントである魔女(キャスター)によって反則召喚された『サーヴァントのサーヴァント』である。
当然、召喚した魔女はサーヴァントの身でありながら召喚者でもあり、青年、つまり『佐々木小次郎』は魔女に従属を強いられる立場にあった。

「花札など知らん!仕合いをさせよ!でなければ構うな!酒を寄越せ!」

小次郎は、一つに括った長い髪を振り回しながら、イヤンイヤンと暴れていた。
こんな騒ぎが起これば、坊主達も何かと思って女を止めに入るのではないかと、淡い希望を青年は描いたが、魔女はとっくに隠匿魔術を発している。
逃げ場はない。

「……そう。それなら、いいわ。アサシン」
「――――【潰れよ】」


「っ………」

―――ゴフリ、と。
女が小さく呟いた瞬間、青年(アサシン)は鮮血を口の端から垂らす。
古代ギリシャの伝説の魔女『メディア』の神言魔術が、アサシンの内を潰したのだ。
静かに痛みに耐える男に、マスターたる魔女は、重ねて命令する。


「次にゴタゴタと口答えをするならば、―――男としての尊厳を奪います」

「 ! ? 」

その宣告に、今度こそアサシンは言葉を失い、恐怖に慄いて大人しくなった。

「いいかしら。私には貴方ごときの我侭に付き合っている暇はないの」
「昨日の時点で発生した大規模な魔術―――まず、間違いなく探査―――、の行使者を特定したわ」
「貴方達には、今から、その相手の偵察にいってもらいます」

「また、『マスター』と共に、か?」

「ええ、彼と共にお行きなさい」

「………これまでの戦いで、私の令呪の残りはない。よいのか?」

アサシンは、柳洞寺の山門に居座る門番役として、あるいは魔女の尖兵として十を超える勝負を行ってきた。
門番時では彼自身の天性の勘に、攻めこむ際には優秀な参謀である相方に助けられて勝ち越してきたが、必然的に勝ちばかりというわけにもいかず、ギリギリ瀬戸際の立場にある。
ここで敗れれば、聖杯出現の肥やしとして二度目の生を終えるだろう。

「ええ、構わない」

「……………」

権謀術数のサーヴァントであるキャスターが、ここで自分という手札を手放しかねない行動に出るならば、何らかの理由があるはずである。
と思いたいものだが。

「(だが、私には関係ない)」
「さて」
「…………いくか」

こうして、剣豪『佐々木小次郎』は、花札をするために山を下るのであった。
門の傍で待っている、相方の参謀、キャスターにより令呪を宿された少年と共に。


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「宗一郎兄は、女性に甘くすぎるのではないか?」

「しかり」

「花札戦争に参加するというから手伝っているが、メディアさんを守るために、我々がいったいどれだけ厳しい相手ばかりに戦いをしているのかを、知っておられるのであろうか?」

「ふむ、言われねば知らぬ、であろう。あれはそういう男だ、一成」

「せめて、メディアさんの方から、我々の苦労を、少しでも伝えてくれれば報われるというものなのだが……」

「はっはっは。それは無理であろう」
「かの雌狐も宗一郎の前では骨抜きの女よ」
「我らのことなど頭の隅にも残っておるまい」
「そのような詮無いことより、参謀殿には今回の相手の話を聞かせていただこう」

「む、……喝。たしかに詮無いことであった」

冬木の街を二人組が歩いていた。
一人はアサシン・佐々木小次郎その人であり、もう一人は柳洞寺の次男坊こと柳洞一成である。
一成は、聖杯戦争に参加するという葛木宗一郎、柳洞寺に居候しているキャスターのマスターの助けとなろうと、度々アサシンと組んでは花札勝負に精を出していた。
小次郎は、聖杯の補助によりルールこそ知っているものの、花札勝負の経験などないに等しかった。
そんな彼に付き合って、花札勝負を練習したのも、一成の良い思い出である。
根が真面目で規律を重んじる一成と、他人事など気にも掛けない小次郎、こう言うと相性の悪そうな二人だが、意外なことに馬が合った。
初めは、魔女の意向で組まされたペアかもしれないが、聖杯戦争という戦いを通じて、二人は無二の相棒同士となったのだ。
現に小次郎は、一成を苦境から救うためなら、自身の得物である物干し竿を折ることだってできるだろう(もっとも、折った剣すら振るえず、野垂れ死ぬのは御免こうむるが)。
小次郎が信頼する参謀に今回の対戦相手の情報を求めたことに応じ、一成はキャスターに示された獲物の情報を述べていく。

「我々が狙うのは、『高町なのは』という名前の女人だ」
「なんでも強力な魔術師という者らしいのだが、サーヴァントを連れている様子がないらしい」
「だが、メディアさんによれば、そんなことがあり得るほど聖杯戦争は甘くはない」
「おそらく、何らかの隠し玉を持っている…………。ゆえに、早々に叩き、あわよくば隠し玉の情報を得ておくわけだ」

「なるほど。して、戦法は?」

「不明だ。だが、何としても勝つ。そこで、」
「「先手を獲る」のだな」

花札は自分の手番においてしか『あがる』ことができない。
また、『あがる』ための『役』を作る持ち札を得るのも、自らの手番である。
その為、手番が多く回りやすい先手、いわゆる『親』が非常に有利となる。
よって、この『親』になるための駆け引きが存在する。
一つ、役を成した後に上がった者が次の『親』となる。
二つ、対戦する両者が役を作って上がれない(互いの手札7枚が尽きた)ときに交代する。
これらのルールがあることで、プレイヤーは小さな役に満足してでも親を維持していく戦術が成立するのだ。

「しかしながら、小次郎殿の『気配遮断』は便利なものよ」

「うむ。千里の先を見通すという魔術も透かして見せようぞ」

しかし、先程の二人の言葉は、そういう意味ではない。
聖杯戦争に則った特別ルールを利用しての作戦。彼らの常套手段であった。

通常の花札では、一番最初の『親』を公平な方法で決定する。
札を引いたり、あるいはジャンケンでも良い。
だが、聖杯戦争は違う。
敵のマスターを先に見つけた者が、『親』を決定する――――すなわち、『親』となることができる。
例外として、両者とも気がつかないまま接近した場合、星神の意によって決まる。
当然、一成はこれに目を付けた。
初めに、キャスターにより敵の位置の絞り込みを行い、対象からやや離れた位置を確保する。
次に、気配遮断のスキルを持つ小次郎を張り付かせ、令呪の交感を利用して、任意のタイミングで相手に襲いかかる(?)のだ。
相手の隙が見えないなら、小次郎がいきなり気配遮断を解くことで、無理やりに隙を作る。
二人はこの作戦によって、ほぼ全ての勝負で先手の『親』を獲得してきた。
ゆえに、今回の相手も、彼らに先手を打たれるのは間違いないだろう。


「自分にも、坊主の卵として気配遮断のような芸があれば……今回のような話は最後まで無かったかもしれない」
「そうすれば、もっと興味深い話が貴方から聞けただろうに」

「気にするな。我々は、その最後という時まで勝ち抜けばよいのだ」

「…………喝」
「確かに。勝てばいい」

「そうだろう?」

「ああ」
「っと、そろそろ会敵しそうな位置まで来てしまったな………」

二人が目指すカフェテラス。
それは、すぐそこにあった。

「では、行ってこようぞ、一成」

小次郎に任せ、物陰で待つ一成。
傍目には、夏の暑さに涼を求めた一般人にしか見えなかった。

+ + + + + + + + + + + +

アサシンは、空調の効いたカフェの店内に入っていった。

「なかなかに快適である。クーラーの神秘なるかな」

店員に呼び止められることも、他の誰の眼差しを集めることもなく、陣羽織に構えたサムラーイが進んでいく。
ジューサーに近寄って、蜜柑汁の甘露を用意し、ゴクゴクと喉を潤しながら周りを見渡す。
アサシンの目に、若者の集団が見つかった。女2人に童が男女で一人ずつ。
年長の女と競うかのようなスピードでミートボール・スパゲッチィを掻き込んでいる赤毛の少年に音も無く近付く。
すかさず、少年の皿上の肉を、神速の手捌きで摘まみ食いする。
ついでに、いくつかの肉団子を、競争相手の青髪少女の皿に転がしておく。

「ほほ、ひひはひ(おお、美味なり)」

こんな感じに現代を楽しみながら、店内を回っていくアサシン。
最初に入店してから5分が経過しようとしていた。

+ + + + + + + + + + + +

「!!」
「(オカシイ。オカシイぞ一成殿!)」

確かに、おかしい。
アサシンは店内を一周したが、聖杯戦争に参加したマスターらしき気配を全く感じなかった。
なにか、大きな間違いを犯した。
そんな予感が、アサシンの脳裏から離れない。

「くっ―――まさか―――――」


――――瞬間、音が消えた―――。

巨大な結界が発生。
アサシンを取り込んで、衆合の喧騒から分離させたのだ。

「ぬかった……すまぬ!」

小次郎は、ガラスを割って店から飛び出ると、結界の発生源へ走り出した。


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オフィスビルの陰に立って、小次郎からの反応を待っていたマスター・柳洞一成。
その頭上から、より濃い影が差した。
そして、一成が頭上を見上げるより一拍早く、花札勝負の結界が発生した。
参加者と、彼らのサーヴァントを包こむよう、急激に膨張して世界を切り取る。
一成は思わず口を開けた。

「―――しまっ」

彼を見下ろすのは、彼女。
白い戦闘服に桃色の魔力を備えた、高町なのは。
一成とアサシンの標的の少女だった。

「見つけたよ!参加者さん!」

「―――――――――(縞!!!!)」

硬直する一成の前に魔術師が、いや、魔法少女が降り立つ。
一成は指一本も動けずにいた。
アサシンの令呪へ彼の緊張が伝わった時、その前から駈け出してきたアサシンが追い付いた時、その後の数秒、ずっと動けなかった。
策が破れた動揺などではない。
ただ―――、その光景に心を奪われていた。

「私は高町なのは」
「さあ……勝負!」
「―――どうやら、聖杯によれば、私が『親』になれるみたいだね」

「ふぅ。こうなっては仕方あるまいな、一成?」

勝負が開始するその時にも、一成は一言を出すのが精一杯であった。

「……美しい」

一成は、心奪われていた。


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+ + + + + + + + + + + +

全力全開!粉砕!玉砕!大喝采!チーム
高町なのは MP:5/20

『魔導師の杖・昂翼』(レイジングハート・エクセリオン)
消費MP:5 開始1ターン目のみ使用可能。
使用した勝負でアガると、ダメージが+1~2文強化される。
こいこいする毎に、強化の最大値が+1文上昇する。

+ + + + + + + + + + + +

ボーズ・ミーツ・サムライ チーム
アサシン:佐々木小次郎 MP:0/3

+ + + + + + + + + + + +
+ + + + + + + + + + + +


なのはにとっては幸運だった。
ギル君との会話後、カフェを出て魔力サーチを行ったところ、微弱な反応が近くに迫っている事に気が付いたのだ。
すかさず、店の裏で偽装用魔法をレイジングハートから発動した なのはは、マスターと思われる少年を特定し、ビルディングの隙間から空へと一時避難した。

もっとも、なのはは単純な魔力運用ならともかく、「便利」な魔法がそれほど得意ではない。
よって、偽装用魔法は最も簡単なものを使用した。
この魔法は必要魔力と簡易さが異様に優れるため、ミッド人なら誰もが使用できる。
しかし、唯一にして最大の欠点があるため、ミッドチルダでは子供騙し扱いされていた。
ここが地球ゆえに助かった。
これもエースの幸運というやつだろう。
街を行き交う人々の視界には、上空へ飛び上がるダンボールが存在したはずだが、気にする者はいなかったのだから。

+ + + + + + + + + + + +

「私のターン!カートリッジロード!」

―――魔導師の杖(レイジングハート)―――――昂翼(エクセリオン)―――


マガジンから送られた魔力が炸裂し、なのはの威圧が一段と強くなった。
その姿と魔力は、翼を昂ぶらせた天使の威容にも見える。

「フルドライブでいくよっ!レイジングハート!」
《マスター……》
「大丈夫!今は、エクシード、いらない、操れる!」

段階的なセーフティを設けたエクシードモードと異なり、旧来のフルドライブそのままエクセリオンモードは負荷が大きく、その濫用が、なのはが重症を負った原因の一つでもある。
それなのに、レイジングハートのマスターは、いつも以上に涼しい顔をしている。
余裕すら感じられる様子は、自己ブーストたるフルドライブの負荷が存在しないかのようだ。
レイジングハートがチェックしたバイタル・データにも、あり得ないほどに乱れがない。
おそらく、聖杯の補助とやらが働いているのだろう。


「手札から『桜のカス』を場の『桜に幕』のコウ札に合わせ、ドロー!」
《山札から1枚引きます》
「山札から『菊に盃』、場の『菊に青短』と合わせます!」
《トランプのスーツにあたる、札の『花』が合ったことで、これら2組4枚を持ち札に》

「『桜に幕』、『菊に盃』から、役『花見酒』が成立!」 役ダメージ:3文

「加えて、『こいこい』!!」

レイジングハートの先端に魔力光が収束し、球体を形成していく。
美しい桜の魔法陣が広がり、濃密な魔力が蜃気楼を発生させた。

「これは……これは」
「どうやら今度の的(てき)は燕の早さは持っているようだ。一成?」

アサシンは、一成に視線を向けた。

「…………」

侍の傍に控えるマスターは沈黙を保っていた。
ただ、両目はいっそう見開かれ、汗を垂れるままにしている。

「一成?」

「………………(うつくしい…………)」

返事はない。
仕方がないので、小次郎は自分のターンを進めた。


「………………私の番だな」

ピッ、と。小次郎が物干し竿を抜き放ち、五尺の長さを片手で振るう。
瞬間。手札と山札から1枚ずつ、場札に萩(はぎ)と柳の二つ組みが揃っていた。
両方、カスと短冊である。

「わ!すごい……」
《……背中の長刀を抜き、一動作で札を揃えたようです》
《見事な技ですが、武具として無駄な長さと使用法かと》

「ふふ、秘剣・林檎颪(りんごおろし)とでも言おうか」
「今なら、梨も剥けるぞ?」

技の冴えも見事ながら、一瞬で引いた札を判別した視力も異常である。
また、軌跡も見せぬ太刀筋は、不可視であるに関わらず、剣士でない者も魅了する美しさがあった。

「そら、次はそなたの手番よ」

なのはは、魔力を収束させたまま、レイジングハートを握り直した。
この男に手加減はいらない、宝具の全力全開をぶつけるべき敵であると判断したのだ。
実質的には何の意味もない小次郎の行動だが、花札勝負とはいえ、なのはの魔力を前にして此れほどまでに自然体な人間などいなかった。
余裕を以て“対処した”先達たちなら存在したが、ここまで目の前の魔力を気にしていないというのは有り得ない。
それが、なのはの更なる本気を引き出した。


「私のターン、さらにカートリッジロード!!」
《私の効果を、『こいこい』により強化します》

そのまま、

「場に芒(ススキ)を出して、ドロー!します!」
「『芒に月』!さっきの持ち札『菊に盃』と合わせて、『月見酒』成立!」 役ダメージ:3文
《合計した役のダメージは6文になります》

「ぬぅぅ」
「なんたる強運…………」

「………………(ぴんく……であった)」

人間大だった魔力の光球が、大きく膨張していく。
1番目の勝負で既に、12文のライフの半分。
ここまで勢いを持って行かれることは、予想外のアサシンチームであった。
しかも、成立しやすい『盃』を用いた速攻では、佐々木小次郎の心眼が働く暇もない。
如何に明鏡止水の心であってもお手上げである。

「まいったまいった。見事なり」
「しめて6文、そして次の『親』もおぬしだ」

こうなっては、次の勝負以降で挽回するしかない。
が、参謀殿の様子がおかしい。
最後の勝負なら派手にいきたいが、一成の復活にはしばらく掛かりそうだ。
小次郎は目を伏せ、ため息をつこうとした。


「まだ終わりじゃないよ」
《次は貴方がたのターンです》


「『こいこい』します!」

さらにビッグとなる魔力光。

「え?」

びっくりする小次郎。

「…………ハッ、私としたことが、いったい」

目を覚ます一成。

「次のターンで、『三光』、します」

宣告する少女。

《私達が勝つでしょう》

宣言するデバイス。

…………………
……………
……

+ + + + + + + + + + + +

その後は語るまでもないだろう。
『花見酒』『月見酒』『三光』が揃えば、3・3・5の11文となる。

「11文なら1文残る。小次郎殿!」
「嫌な予感がするのだがなぁ」

そして、

「宝具『魔導師の杖・昂翼』!により、追加ダメージをシュート!」
《こいこい2回で、4文までのランダムダメージを付加させていただきます》

こうして、

「ディバイーン―――――――――――」

「―――――――――――――バスター!!!!」

追加ダメージは4文を示す。
合計15文による一撃。
なのはは、圧勝した。


+ + + + + + + + + + + +

「あれは……………ナノハ?」

+ + + + + + + + + + + +

魔導師が放った砲撃魔法は、結界を越えて、丘を掠めて空に消えた。
その、一瞬の光を捉えた者は多くない。
だが、その中に存在した。
桃色の砲撃を知る者が。

彼は高層ビルの上に立っていた。
長い金髪と黒いマントが風に揺れ、美貌は汗ひとつ流していない。
手には黒い戦斧を持っていた。
身体全体のシルエットは優美だが、無骨な凶器が戦いに生きる者であることを匂わせる。

「…………彼女なら、『バルディッシュ・アサルト』の力を確かめられるかもしれない」

遥か下界では、結界が解かれ、『エース』と対戦したマスターの姿が現れた。
そこにはサーヴァントの影はない。

「…………しばらく、様子を見ていよう」

屋上からならば、彼は飛んで逃げることも可能である。
会話するにせよ戦うにせよ、相手が一人になってからの方が都合がいい。

赤い瞳が、じっとエースを捉えていた。



第4話『襲来、閃光の戦斧』につづく


+ + + + + + + + + + + +

ボーズ・ミーツ・サムライ チーム
アサシン:佐々木小次郎 MP:0/3

『燕返し』
消費MP:3 自ターン開始時に使用可能。
相手の役「タネ」「猪鹿蝶」を無効にする。


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最終更新:2010年08月31日 15:47