??? ―――

次元の狭間にたゆたい、禍々しい全容を横たえる聖王の揺り篭レプリカ。
かつて古代ベルカにおいて最強を誇った偉大なる王をまるで敬畏せぬ偽りの玉座。
今、その内部の広間の薄暗い一室にて―――


――― パンパン、パン、!!!―――


―――と、クラッカーの弾ける音が鳴り響いていた。


――――――

「「……………」」

クラッカーの洗礼を受けたのは二体のサーヴァントであった。
色彩彩の紙屑が彼らの頭にファサリと落ちる。 まるでワカメを被っているようだ。
小学校の学芸会を思わせる趣。 生体ポット部分にかけられたさもしい垂れ幕には「おいでやす」という手書きの文字が。
紙ふぶきが宙を舞い、蒼躯の男と紫紺の女の頭上に降り注いだ後……再び部屋を静寂が支配する。

「「「「……………」」」」

熱烈な歓迎を受けた者達は只々、無表情。
歓迎の意を表した者達もまた同様に次のアクションを起こさない。
場は再び膠着状態へと移行する。

(おい、大丈夫なんだろうなチンク? これは俗に言う、ドン引きというやつではないのか?)

(問題ない……私を信じろ。 短い期間だったが局の人間と接触を持った身。
 人を歓迎し、迎え入れるとはこういう事だと学んでいる)

英霊の眼前には、理想的なフォームで対象にクラッカーを撃ち込んだトーレ。
さながら敵陣にアサルトライフルをぶっ放す突撃兵のような身のこなしは見事の一言。
そして剣の英霊の時のような失敗は二度としないと意気込むチンクは意味不明などや顔。
隅では苦笑する長女ウーノと――――「くっだらない…」と一言、タンバリンを放り捨てるクアットロの姿があった。

「―――――――――何だ、こりゃ?」

「私が知るわけないでしょう」

長髪を湛えた頭を犬猫のようにぶんぶんと振るライダー。 被った紙葛が床に落ちる。

「だろうな……おい!」

機人に手を引かれるままに付いてきたサーヴァント2体―――ランサーとライダーは呆気に取られたままだ。
だが決してこのような茶番の舞台に上げられるために来たわけではない。 槍兵が口を開く。

「まずは説明してもらおうか……」

「はい。 では私から」

「いや、他の奴は取りあえず引っ込んでてくれねえか……なあ!」

長女ウーノが一歩前に出てランサーの問いに答えようとするも、男はそれを切って捨てる。
常時は享楽的な槍の英霊だが、今は瞳に冷徹な光を宿している。
周囲に気を許さずに前方を睨み据える双眸は、まさに臨戦態勢のそれに相違ない。

「暫く見ねえうちに女に囲まれて大層な身分じゃねえか――――なあ、言峰よ」

そして長椅子に悠々と腰掛けているカソックの男に吐き捨てるような言葉を投げかける。
その姿を認めるなり、男は湧き上がった敵意を微塵も隠さなかった。
得体の知れない者達の歓迎など頭から吹き飛んでいたのだ。

「暫く、か………その様子では時間の概念を語るほどに己を掴めているかも怪しいな。
 痴呆と語るゆとりは私には無いぞ、ランサー」

「………クソが」

意味深々な言葉をちらつかせて相手を弄ぶ男の様は相変わらずだ。 ランサーの苛付きは増すばかり。
記憶の混在、自身すらあやふやな現状の把握を、と付いてきた槍兵と騎兵。
てっきり冬木の教会辺りにでも搬送されるのかと思っていた二人だったが、いざ連れて来られた場所は彼らの予想の範疇を遥かに超えていた。

この冗談みたいな空間は何だ? 
明らかに「世界」そのものが違うと、英霊二人は即座に理解した。
雑多に並べられた計器の数々。 モニターに映るのは―――今まで自分らが歩を構えていた地球であった。

「もはや誰でも構いません。 どういう事か説明して貰えないでしょうか?
 私に理解、納得出来るようにハッキリと」

「宜しい! ならば私から説明しよう!」

大仰に一歩、前に出たのは言峰綺礼の隣に座していた男。
神父とは対照的な白衣に身を包み、明らかに正気と一線を隔す眼光を彼らに向ける。
今やこの世界の創造主にして神である―――ゲームマスター・ジェイルスカリエッティが初めてサーヴァントと邂逅した瞬間だった。

男が立ち上がった瞬間、周囲の壁面だと思われていた部分に映像が投写される。
360度モニターが彼らを囲み、様々な3D映像を場に映し出す中で―――

「ようこそ英霊諸君! ここが世界の心臓だ!」

無限の欲望と呼ばれた男が歪な笑みを浮かべるのだった。


――――――

神々の遊戯盤―――

次元を犯し、融合させて世界を創り、双方の名だたる闘士を招聘して闘わせる、ただそれだけのロストロギア。
誰が何のために造ったのか分からない。 
それは、あるいは本当に神に等しい存在が遊戯に耽るためだけに生み出した戯れの品なのかも知れない。

歪なまでに巨大なゲームデッキとも言えるそれ。
このゲームを行うにあたって今回、遊戯盤によって招聘された<駒>の役目を果たすのがサーヴァントだった。
彼らは第五次聖杯戦争という一つの事象における様々な可能性、様々な結果を元にして
ロストロギアがデータ化して作り上げた勇猛なる兵士たちである。

このゲームを勝ち抜くためにまず必要な事が、彼らを使役し使いこなす事だ。
その方法は幾つかあるが、そのうちの一つとして――――


――――――

目まぐるしく写っては消える左右上下の映像をまじまじと見せ付けられるサーヴァント達。

「ありゃ……俺じゃねえか」

ややもして口を開いたランサーの第一声がこれだった。 ライダーの隠された双眸も驚愕に染まっている。
そこには彼ら……否、彼らだけではない第五次聖杯戦争のサーヴァント達が死力を尽くして相争っている様が映し出されていた。

槍兵は見据える―――セイバーとの初戦、アーチャーのアイアスと激突するゲイボルク、一昼夜にも及ぶ黄金の王との戦い
騎兵は見上げる―――エクスカリバーに焼かれる自分、アサシンとの邂逅、相見える黒き騎士王との闘い

だが……だが、おかしい? もはやその違和感は確固たる矛盾となって英霊達の頭を苛む。

「ちょい待て! ちょい………少し整理させろ!」

豪胆な英霊をして浮き足立つのも無理は無い。 ただでさえ、場違いな空間にて居心地の悪い思いをしているのだ。
俗に言う、映画やアニメなどで見る近未来SFを模した舞台装置。
そんなモノが実際に起動しているだけでもおかしいし、古き神話の英霊達を囲う鳥篭としてこれほど似合わぬものも無い。

「体中がムズムズしやがる……紅茶に納豆ブチ込まれるくらい、肌に合わねえ」

「田舎者は辺境の島国で槍でも振っている方がお似合いだという事でしょう。」

「お前、変なとこでスレてるよね……」

どれだけ都会慣れしているかの指標は即ち、ハイテクに対する垢抜け方で決まる。
その点、彼女は衛宮家においてただ一人、ウォシュレットの直撃に眉一つ動かさなかった女傑である。

「何にせよ話を続けましょう。 私達サーヴァントを顕現させたのは聖杯ではなく、そのロストロギアとかいう代物―――
 この身を召喚したのはマスターではない……貴方の言う事を総括するとこうなりますが?」

「そう、取りあえずはコレがキミ達の知っている聖杯戦争ではない事を頭に入れて欲しい。 細かいルールはおいおい説明するが……
 正規の召喚に基づいた物でない証の一つとして、キミ達の令呪……機能していないだろう?」

言われて確かめるまでも無い……今やはっきりと知覚出来る。
自分達が冬木の奇跡によって招聘されたサーヴァントではないという事実が。

「とんでもねえ事をサラリと言いやがったな……通例として、こういうのは少し勿体付けるもんだと思ってたが」

「これ以上待たせてキミの槍が我慢出来るとも思えなかったのでねぇ。 我ながら賢明な判断だと思うよ……フフ」

サーヴァントは令呪という首輪を付けられる事によってマスターに使役される。 
これが聖杯戦争の不文律となるルールだったが、スカリエッティはその大前提をあっさりひっくり返した。
だが、そうならばシグナムとフェイトに対してランサーが全力で戦えたのも説明できる。
彼は本来、主である言峰によって「初見の相手と全力で戦うな」という縛りを設けられていたのだから。
質問を続けるサーヴァント達。

「様々な次元だとか言ったが……そりゃまさか…」

それはつまり「並行世界」という事なのだろうか?
その概念を曲がりなりにも犯しているなどと、聞き流せるものではない。

「恐らくはパラレルワールドと言っても良いだろう。 キミらの記憶の混雑はそのためだよ。
 一つの器に、多岐に渡る異なる自己を容れたとあっては当然、混乱を招くだろう。
 まあ、これは展開・状況によって天と地ほどもパラメーターの異なるサーヴァントに対する救済措置とでも思ってくれて構わない」

状況、状態によってはまるで力を発揮出来ないサーヴァントもいるだろう。
ライダーが鮮血神殿、キュベレイの魔眼、騎英の手綱と紛う事ない全開を出せたのもこのためだ。
間桐慎二がマスターではきっとこの半分の力も出せていなかったに違いない。
全てはバトルを公平に規すための措置だと博士は言うが―――

「それって―――場合によってはとんでもない事にならねえか?」

「現世において並行世界の運営は魔法の域だと聞いています……それをこうも容易く」

「ふむ……良いんじゃないかな。 人ならざる神の手による逸物だからねぇ、コレは。
 運命の行き着く先もまた神のみぞ知る! 実に面白い!」

「適当な話だなオイ」

それはみだりに踏み込んで良い域ではない……ましてやこのような戯言で。
魔術協会が聞いたらダース単位で殺し屋を差し向けてくるような発言だったが、博士の口調に緊張感は全く無かった。
得もすれば根源に抵触する事態であろうとも、この男にはさして興味が無いのだと一目で分かる。

「冗談じゃねえぞ……意識したら余計に頭がイカれて来やがった」

「要するに私達はお遊びのために作成されたゲームキャラクターに過ぎないと?
 急場凌ぎで作られた器に記憶と力を詰め込まれただけの」

「有り体に言えばそうなる。 理解が早くて助かるよ」

いけしゃあしゃあとのたまう博士だった。 
英霊に対する敬いも畏れも微塵もありはしない。 神聖なる彼らの身を冒し尽くしているという罪悪感も同様に。
ランサーもライダーも別に自らが尊敬されたいと願う気性の持ち主ではない故に気にも留めないが―――
この男と英雄王辺りをかち合わせたら、それはもう最悪だっただろう。 

気だるげに頭を振るランサーに、腕を組み何かと考えているライダー。
取りあえずこの世界についてこれ以上聞いても今は整理がつかないだろう。 他に気になる事もある。

「ところで俺らと戦ったあの嬢ちゃん達だが……」

「彼女達は何者ですか? アレもどこかから集めてきたデータだと?」

「あれはキミ達の対戦相手にして、私達の対局相手。 駒にして指し手。
 この次元犯罪者ジェイルスカリエッティを追ってきた時空管理局の魔導士。
 それも個々の力が一軍に匹敵すると言われるSランク魔導士たちさ」

「ジクウカンリキョク? ああ、そういやそんな名前出してたな奴ら」

「サーヴァントでも魔術師でも無い、全く別の勢力だったというわけですか……道理で会話が成立しなかったわけです」

「その力はキミ達の味わった通り。 英霊諸君と相争うに不足の無い駒だと思うのだがどうかね?」

「どうも何も―――」

冷笑を返す騎兵。 そんなモノと何の意味も解さぬまま、息も絶え絶えに戦わされていたのだ。
間抜けな話であり、本来なら文句の一つも言ってやりたいところだが―――実りある出会いもあった事だし、ここは大目に見よう。

「しかし………妙ですね。 駒である我々と対戦すると共に、貴方がたとの対局も兼ねると仰いましたが?」

ライダーの疑問は真っ当なものだ。 サーヴァントが駒であり、盤上で敵の駒を倒す兵隊だというのは分かった。
しかし、故に彼らには指し手としてゲームを動かす権限は与えられていない。
というのに魔導士たちは、駒と指し手の両面から戦わなくてはいけないとでも言うのか?
それが有利なのか不利なのかすらランサーとライダーには分からないが、取りあえず妙な話ではある。

「元々、管理局とまともな勝負をしようだなんて思っていませんの、私達は。
 奴らをこの虚偽空間に引き入れ、一方的にゲームに巻き込んで
 敵が状況を把握する前に叩き潰してしまおうというのが当方の魂胆ですわ♪」

その疑問に、タンバリンを足で弄びつつ答えたのは4女クアットロ。
そう、これは互角の勝負では断じてないのだ。 
互いに顔を突き合わせての対局ではなく、いわば詰め将棋。
盤面に配置した敵を、味方の駒でどう詰めるかという戦いなのだと機人の少女は言う。

「なるほどな…………要はお前ら卑怯者か」

「そう言われても仕方の無い所だがな……残りのガジェットも含めた我々と時空管理局の相対戦力比は、もはや語るまでも無い。
 これに勝ったとて次、次に勝ってもそのまた次、恐らく敵は途切れる事なくやってくるだろう」

「だけど揺り篭という切り札を失った私達には、もはやこんなゲリラ戦法でしか局と戦う術は残っていません」

「展望は正直言って厳しいけれど、それでも希望はゼロじゃない。
 このゲームで回を重ねる毎に、掬い取った駒を戦力に引き入れ、徐々に管理局に相対する無敵の兵団を作り上げる。
 貴方たちをリアル空間に顕現させる術も八割方、完成している今………
 当初は雲を掴むようだった話が、決して夢物語では無いところまで来ているの」

「要は実益を兼ねたゲーム……いや、レジャーという名の博打ですわね。
 その栄えある一回目の相手が、あの憎き機動6課の面々というのは何の因果か……
 こちらも説明書片手にプレイしているようなものですし、初めはもうちょっと弱っちい相手とやりたかったというのがホンネなのだけれど♪」

博士に続いて次々と言葉を重ねていくナンバーズの姉妹たち。
並行世界? 神秘の具現たる聖杯戦争を模して作られた遊戯盤?
ほとんど冗談のような話だ……一体どこまで信じれば良いのか。
顔を見合わせる両サーヴァント達だったが、続けて男が思い出したように口を開く。

「さし当たって聞きたいことは山ほどあるんだけどよ……
 取りあえず―――――――何でソイツがそこで踏ん反り返ってんだ?」

顎で指して黒衣の神父を見据えるランサーである。

「仮にもマスターに対して、その口の利きよう。 不快に過ぎるな。
 不忠のサーヴァントここに極まれりと言ったところか、ランサーよ」

「こいつらの話が本当なら既にマスターじゃねえだろうが、てめえは」

「彼は我々の説明書、とでも言えば良いのか……案内役であり私の話相手だよ。
 場が聖杯戦争という事で最も相応しい人物を盤に求めた結果が彼だった。
 しかしまあ、呼んでみるとなかなかに面白い男でね。 未だ数ヶ月弱の付き合いだが良い友人になれそうだよ……フフフ」

「物好きなこった…………………ところで言峰よ―――改めてお前に聞きたい事があるんだが」

「何だ? 私に答えられる事などそうはないぞ」

「俺のこの身が聖杯戦争の様々な可能性の集合体と言ったな? ならば当然、俺が勝利した未来もある筈だな?」

「無きにしも非ず。 よほど上手く立ち回ったのならば有り得たかも知れん」

周囲のスクリーンを一望して、槍兵は大仰に問う。
取りあえずこの世界の諸所諸々の情報は得たが―――言峰綺礼を前にした槍兵にとって、そんな事は二の次だった。
ランサーが神父に叩き付けたい言葉は今、一つしかない。

「さっきから必死に記憶を探ってるんだがよ………お前に騙し打ちにあった俺の元マスターだ。
 あいつと共に戦い、勝利した記憶が欠片も引っかかって来ねえのはどういうわけかな、こりゃ………?」

そうだ……この男はランサーにとって主の仇に他ならない。
英霊の言葉の裏に潜んだ物騒な殺気に機人達が息を呑む。
客人がこのサーヴァントの主であると聞いて安心していたのだが………実際引き合わせて見るととんでもない。 

「ク………クックックックック……」

これは―――この二人は、間違っても主従の契りに結ばれた間柄などには見えない。
くぐもった笑いを返す言峰綺礼。 ランサーはまるで噴火寸前の火山のようだ。

「それは簡単な事だランサー………あの女はな、ありとあらゆる事象で私に令呪を剥ぎ取られ
 早々に野垂れる運命にあったのだろうよ。 ただの一度の例外なく、私を疑わなかった愚かな女というだけの事だ」

「――――――――――て、めえ………ッッ!!!!!」

猛犬が歯を噛み鳴らす音が場に響いた。
もはや令呪による縛りもない。 彼の槍が神父を貫くのに何の障害もありはしない。
一触即発の空気……言峰綺礼の前に壁となって立つナンバーズの3と5と7。
彼は博士の客人だ。 殺させるわけにはいかない。

「…………女の尻に隠れやがって………」

後ろ手に構えた槍を下ろすランサーである。
あれは百回殺しても飽き足らないモノだったが、今はまだ暴れる場面では無いと踏んだのだろう。
胸を撫で下ろす機人達であった。

「よりによってソイツを自陣に引き入れるとは馬鹿な奴らだぜ。
 お前ら全員、内蔵から腐れて死ぬぞ………断言する」

「何にせよ私には関係の無い話ですね。 お遊戯でも何でも好きにすると良い」

「待てっ!」

踵を返そうとするライダーに対し、3女トーレが立ち塞がった。
首を傾げる騎兵を戦闘機人の鋭い眼が射抜く。

「言った筈だ。 もはやお前達に選択権は無い……帰る場所もな」

「怒りはもっともだが、もはや私達はお前らの力に縋るしかないんだ……力を貸してはくれないか?」

それぞれ異なる態度で接して来る少女たち。
当のスカリエッティとかいう首魁よりも彼女達の方が積極的に見えるのは気のせいか?
どうしたものかと肩を竦めるライダーだったが―――

「…………サクラは」

ともあれ、初めて彼女らに自発的に口を開く騎兵。
倦怠に塗れた様相が、その名を口にした時だけ様子が変わる。

「我がマスターはこの件に関わっているのですか?」

「いや………基本的にマスターと呼ばれる人間は呼ばない。
 呼ぶメリットがないし、お前たちサーヴァントを我々が使役する邪魔にしかならない」

「―――――そうですか」

取り合えず彼女が考える第一はそれだった。
間桐桜までもが、この怪しげな空間に囚われたとあってはのんびりと構えている余裕は無くなる。

「で? 俺たちに何をしろってんだ?」

「取りあえずランサーには姉妹達が動く際の手助けを。 ライダーには同じく輸送・運搬をお願いしたいのだが」

「俺がパシリで―――」

「―――私がアシですか」

「不満かね? これは綺礼の助言を元に適材適所を見越して当てた役割なのだが……」

「不満を垂れる道理などなかろう。 どの道、それ以外の役には立たぬ奴らだ」

「「殺す」」

ハモるサーヴァント2体。
再び、なだめるナンバーズ達の苦労と心労が涙を誘う。
巨頭と巨狂の板ばさみ……円形脱毛症になる姉妹が出ても不思議ではないと思われる。

「で、その申し出―――俺らが断ったらどうするよ?」

「どうもしないさ」

「ああん?」

「それもまた一つの選択……私の構築したゲームをNPCとして存分に楽しんでくれ給え」

「泳がせようってのか? ここまで大仰な仕掛けを打っておきながら……信じられねえな」

「私は私の手足に制約をつける事を好まないというだけの話だよ。
 助力が欲しい時はキミ達に依頼するが、それを受けるも断るも自由。
 フフフ、自身の駒があるいは自分に刃を向けてくる埒外もまた……命の揺らぎが齎す必然というわけさ」

魔犬の双眸がスカリエッティを射抜くが、白衣の男はどこまで行っても掴み所が無かった。
言って愉悦と狂気を孕んだ笑みを向けるジェイルスカリエッティ。
奇妙に歪むランサーの相貌に写す感情は―――

――― ワケの分かんねえのが二人に増えやがった… ――― 

で、ある。


――――――

一通りの問答を経た後、二人は艦内の割り振られた部屋に連れていかれる。

「意外でした。 貴方があの監視役を殺さなかったのは」

「奴など何時でも殺れる……正直、そんなどころじゃねえってのが感想だ。 それに―――」

ランサーにはセッテが、ライダーにはトーレがそれぞれ傍に付いていた。
目付け役、見張りと言ったところだろう。

「あの用心深い根暗野郎が何の策も無しに俺の前に立っている、というのがどうにも解せなくてな。
 取りあえずは様子を見る事にした」

「…………」

「で? 正直、ありとあらゆる状況にまだピンと来ないわけだが……どうするんだ、お前は?」

「愚問です。 サーヴァントは己がマスターにのみ仕える。 あのような輩に飼われてやる義理はありません」

「そのマスターがいないんだとよ………俺はいるけど」

「おや? この者達の世迷言を鵜呑みにするのですか?」

「「………」」

見張りの前だというのに今後の方針を平気で語り合う英霊たち。 
こちらに聞かれても一向に構わないという事だろうが、豪気な話である。 
顔には出さないにせよ後ろに付く機人たちの心胆も決して休まることはない。

「まあ、それはそれで―――私はしばらくここに身を置こうかと思います」

「言ってる事が違うじゃねえか」

「暫くは状況の推移を見るために潜伏します。 傷も治りきっていませんし、ここにいれば何かと不自由しなさそうですからね。
 彼らが私を制御するためにサクラに気概を加える可能性もまだ捨てきれない」

「なら俺は白衣野郎の言葉通り、好きにさせて貰うかね。 おい、外には出れるのかい?」

「……………可能です。 但し監視と制限は付けさせて貰いますが」

「そうか――――ま、ヨロシクな」

「ヨロシク」

ニィ、と不敵な笑みを向ける英霊2体。

「「……………」」

友好的とは程遠い笑みだったが、無言で答えるトーレとセッテ。
得体の知れない状況に置かれているというのに何という堂々たる態度だろう。
というより…………ず太いのか……色々と。


様々な思惑の元、こうして2体のサーヴァントが機動6課の宿敵ジェイルスカリエッティの食客として招かれた。

顔を突き合わせる4者4様。 
表面上は平静を取り繕っている機人であったが、このじゃじゃ馬を乗りこなせるか否かによって自身らの命運が決まるのだ。
今、彼らには令呪の縛りが無い。 だが――――その先をスカリエッティは敢えて口には出さなかった。

――― 未知なるルールにはサーヴァントの「令呪」をも復活させる方法がある ―――

これこそサーヴァントを使役するための攻略法に他ならない。
モノにしなければ………英霊を従属させる事など夢のまた夢であろう。

果たして彼らは心強い駒となるのか、それとも自身らを滅ぼす災厄の札となるのか―――
決して易くは無い手綱を握るであろう両の手を今、しかと握り締めるトーレとセッテなのであった。


偽りの玉座が虚空に浮かぶ。
刻は開戦より1月と13日。


盤上では新たなる戦の火蓋が切って落とされる――――――


――――――

――――――


渡り鳥は幼い頃に生まれ育った町並みを決して忘れない――――


彼女が雛鳥だった頃、それはとてもとても大きな巣として常に彼女の眼前にそびえ立っていた。
そこでの暮らしは決して良い事ばかりではなかったけれど、それでも雛鳥にとってはかけがえの無い思い出の場所。


だから―――――――頭の中が真っ白になった…………


病み上がりの体が火がついたように熱い。
ビルの谷間を一心不乱にひた走る黒衣の背中を美しい金髪が叩く。


まさか――――――まさか―――――


形だけを似せた同型のものなどいくらでもある。
だけど、他ならぬ自身が生まれ育った庭園……幼い脳裏に焼きついた郷愁。
景観、色彩、破損している箇所までもが彼女の脳裏に焼きついたものと同一であるならば?
それは間違いなく自身の知るあの庭園であると、彼女を確信させるに余りあった事だろう。


眼前に広がる災厄の嵐。
本能が――――あれが他人事ではないと告げる。


かつて雛鳥だった彼女は走る。 ひたすらに走る。

この先に待ち受けている、身を引き裂かれかん程の過酷な運命を知らずに――――


――――――

遮二無二、疾走するフェイト。 
目指す先にて広がる崩壊の亀裂。


時は、その一刻ほど前に遡り―――


ガィィィィンッッ!!!!!!!、と――――幾度目かになる爆光が周囲を奮わせた。


sword dancing ―――

そこは適度に茂った草木以外、地平の果てまで視界を遮るもののない寂れた郊外だった。

見晴らしの良い平野部にて、分にして10を数えぬうちに起こった力と力の激突。
邂逅は既に百を超え、辺りには「彼ら」の牙である剣が地に突き立つ。

対峙するは黄金の鎧に身を纏ったあの暴君である。
金色の王気を纏いて立つその姿は変わらず万夫不倒。
高町なのはとセイバーを同時に相手取り、退けるというバケモノじみた所業を示した魔人―――ギルガメッシュ。
全ての事象が我のためにあると言って憚らない偉大なる英雄王がそこにいた。 


「――――――贋作者(フェイカー)」


そして―――忌々しげに呟かれた彼の視線の先で佇むのは………

赤い外袴を身に纏う一人の騎士だった―――――――


――――――

GILGAMESH,s view ―――

この茶番を偶然によるものと考えるほど我は暢気では無い。 

我が身はかの箱庭における猛毒に他ならぬ。 
自浄作用としての抗体が働き出すのもそろそろだと思っていたが―――
まったく我が御前に立つ者として「コレ」を選ぶとは、なるほど愚物も少々の知恵を働かせてきたという事か。

「相変わらずだな英雄王。 万物を見透かしたような素振りだが―――ひとまず、私にも状況を説明してくれないか?」

「貴様に賜ってやる言葉など無い。 失せろ」

虫を払うかのように右手を払う。 
10を超える宝具が奴に向かう。
それを小賢しくも相殺してのける奴。 

忌々しい………相変わらず姑息に立ち回る下郎よな。

「ふむ、まあ私とお前がこうして出会ったならば談笑に花を咲かせる意味も必要性も皆無――重々、理解している。
 こちらとて敵をむざむざ逃がす気は無い。 すぐに決着をつけるのも吝かでは無いが
 趣を尊ぶ英雄の王らしからぬ振舞いには少々、違和感を感じている。 さて……」

「薄汚い贋作を相手どっての趣などに興味は無い。 だが、そうだな……一つだけ教えてやろう。
 それはな――――貴様の道化ぶりがついに神域に達したという事だ」

肩慣らし程度に並べた宝具を悉く打ち返す贋作。
不愉快に過ぎる光景ではあるが―――ク………

「その嘲笑のままに、また道化に屠られるか英雄王?
 茶飲み話も出来ぬとあらば、面を突き合せるのも不愉快であるのはお互い様。
 挨拶はこの程度にして―――貴様を早々に屠ってしまっても構わないかね?」

雑兵がほざく。 既に自己を喪失した人形である事を自覚出来ない駒の分際で。
見るも無残、聞くも無価値な残骸風情が、この我の手を煩わせるというのか?
セイバーの時と違い、このような手合いに今更感じる因縁など無いが……

「ふん……まあ、この王を阻むべく用意した駒であるならば致し方無い」


英雄王に踏破される覇道の第一歩を――――

この不埒物の血で染め上げるとしようか。


――――――

――――――

錬鉄の騎士アーチャーと英雄王ギルガメッシュの戦いは突然にして始まった。

既に双方、相手に語って聞かせる事もなく、出会えば互いに滅ぼし合うしか無い間柄。
邪魔者も制止するマスターもいない以上、出会いと同時に己が刃をぶつけ合う以外の選択肢が彼らにあっただろうか?

「ゲートオブバビロン」

それが例え――――片方にとって最悪の相性となる戦いであったとしても。

「I am bone of――」

アーチャーが己が内に埋没する。 その度に投影されていく無数の剣。
それらが数分の狂いもなく英雄王の宝具を迎撃する。
徐々に徐々に激しさを増していく投射においても、その光景は揺ぎ無い。

互いに手の内を知り尽くした者同士、拮抗は易く―――其が破綻するのもまた一瞬だろう。

空間に浮かぶ赤き射出口から吐き出される魔弾を、既にそこにある剣で迎撃し続けるアーチャー。
己が内にある世界、丘に突き立つ剣を引き抜き、投げ放ち……
放つままに双方―――

――― 王は無造作に、弓兵は豪壮にゆっくりと敵の方に向かい歩き出す ―――

手にはそれぞれ新たに抜き放たれた一刀。 
ぶつかり合う宝具により、連鎖爆発を起こす周囲。

その爆炎の只中で、まるで無人の野を往くかのように二人は距離を詰め―――

「ハッ、!!!!!!」

「応ッッッ!!!!!」

――――手に持つ牙を力任せに叩き付けたのだ!


――――――

一際大きな力場の衝突が大地を震わせた!

英霊同士の戦いの壮絶さを今更言葉で揶揄するまでもない。
そして神代の兵器とも言える宝具を使い捨てにする彼らの激突の苛烈さも同様に。

不遜の行進を不退の背中が迎え撃つ。
衝撃で双方が後ろに弾かれる。
だが何事も無かったように二人はまた歩き、そして刃を交わす!

技も術も無い、それは原始を思わせる荒々しい闘争のカタチ。
互いに負ける事など頭の片隅にもない、敵に劣っている事など有り得ないと断ずる
そんな確固たる意思が彼らの歩から後退の意を外す。

「ふんッッ!!!」

「ぬあッ!!!!」

二合、三合、四合、五合――――!!

天帝を守護した大蛇矛が、雷帝の力を封じ込めたヴァジュラが、氷山の深奥にて眠る槍が、魔竜の腹を破って生まれし魔剣が次々と場に具現し、消える。
大地が煎餅菓子のように容易く裂けていく様は圧巻の一言。

周囲にて踊り狂う射撃はそのままに、爆炎の中心地にてぶつかり合う二人のアーチャー。
これは当然、紅き弓兵にとって望むべき形。 
黄金の弓兵の宝具に対し、自分が勝ちを収めるにはこうした乱戦に持ち込むしかなく、また最善でもあるのだ。

(………………ぬうっ!?)

だが…………だが、おかしい? 

王とてそれは承知の筈。 
ゲートオブバビロンと無限の剣製―――アンリミテッドブレイドワークスでは、その性質上、後者の方が一歩速い。
英雄王にのみ有利に働くカードを持つが故に、唯一ギルガメッシュと互角以上の戦いが出来るのがこの錬鉄の英霊。

「どうしたアーチャー? 何やら当てが外れたという顔だが?」

である筈なのに―――王の口の端が歪む。
そう……今、この剣戟において英雄王の挙動が弓兵に遅れる事はなかった。
ジャンケンにおけるグーとパー。 こんな事は有り得ないというのに何故?

(英雄王………………よもやッ!)

その異変にいち早く気づくアーチャーが舌打ちする。

蔵の中より引き出す王の財宝よりも、既にある物を振るう自身の方が先に届く。
これがアーチャーが有利な理由。 単純だがそれ故に絶対の理。

……ならばその理を潰すには?

(――――簡単な事だ。 技の優位で遅れるならば単純な肉体の優位で補えば良い……)

こちらが先に取り出せるなら、向こうは腕の振りを2倍にすれば事足りる。
破顔するギルガメッシュの表情が雄弁に物語る。 
この男にはその手のフォローをする手段などいくらでもある。
奴は―――その蔵の中にてパラメーター上昇の宝具を無数に機動させているのだ!

「パンが無ければ菓子……キミはマリーアンワネットか?」

「たわけ! ただ栄華を与えられ、与えられるがままの生に沈んだ唾棄者と我を同列に語るか!
 有り余る財も、権も、自身の手で掌握してこそよ――――そら、挫けよフェイカーッ!」


一閃! 翻るは北欧の巨人の手によって振るわれた巨大な槌!

偉大なる王の渾身の一撃に、今―――
拮抗を崩されたアーチャーが、轟音と共に吹き飛ばされた!


――――――

真紅の礼装を纏った体が宙を舞う。

宝具の衝撃を打ち返せずにその身に受けた。
幾ばくかの相殺が成った故、致命の一打にはならなかったものの―――決して遅れの取らぬ筈の初太刀にて、まさかの不覚。
自身の一振りを手から弾かれ、5m後方に吹き飛ばされるアーチャー。
膝を付きこそしなかったものの、こめかみからの流血が頬を濡らす。

「ち……」

「ク、……どうしたアーチャー? 我に対する絶対の自信の程を見せるのではなかったか?
 まさかこれで終わりではあるまいな? 猿真似が化けの皮を剥がされたにせよ
 仮にも英霊の末席を暖める身。 少しは意地を見せてみよ!」

「空元気が過ぎるぞ英雄王。 我が剣製の極致……こんなものではない。
 それは他ならぬお前が一番良く知っている筈だが?」

優位の一つを敢え無く砕かれたというのに相変わらずの自信を崩さぬアーチャーも流石であった。
舌打ちするギルガメッシュだったが、弓兵の言葉はまだ続く。

「しかしながら――――ギルガメッシュよ。 このままでは程なく雌雄は決せられる。 
 故に一つ聞いておきたいのだが……キミは本当に本物の英雄王ギルガメッシュなのだろうな?」

よりにもよって王の眼前、のたまった言葉である。
これにはさしもの黄金のサーヴァントの緋の目も怒りに燃える。

「戯言を聞いてやろう――――貴様の命と引き換えにな」

声色は悠然なれど心胆は憤怒に震えている。
しかしてそんな王の眼前、臆する事無く弓兵は佇む。

「何、お前があまりにも必死だったものでな……私の感じる違和感に更に拍車が掛かったまでの事だ。
 私の剣製に対し、対策を講じたとしか思えない先の在り様。
 本来の英雄王ならば相手に対応する事、それ即ち弱者の証と吐き捨てる筈だが?」

自分のような「雑種」は素の力のみで蹂躙してこそ王。
そんな輩に対策を講じるなど屈辱の極み、と言い放つ。 
それが英雄王ギルガメッシュではなかったか?

モノの本質を見抜く目………属性は全く違えど、彼もまた王に負けない選球眼、というよりも解析眼を持っている。
だからこそアーチャーはこの世界において、ギルガメッシュと同様の異を抱いた……否、抱けたのだろう。

「今のお前には<王気>がない。 王としてのあり方を損なっているが故に強壮であっても偉大ではない。 
 上辺の強さと引き換えに何をどこに置いてきたのかは知らんが、王で無い貴様になどもはや何の脅威も感じぬ。
 眠っているのなら今すぐ起きておけよギルガメッシュ―――またもうっかり命を落とす羽目になっては流石に気の毒だ」

「吼えたな…………雑種!!!!」

ギリっと王の口の端が釣り上がる。 顔に映すは果てない憤怒。
やはりこの弓兵は彼にとって特別カンに障る存在だった。
それはどんなに世界を違えても決して変わらぬ事実らしい。

「その言い様―――我の事のみならず、自身の在り様にも思い至るところがあるのであろうな!?」

「……………」

しかし王より返されたその言葉には、真紅の弓兵の口からも余裕の笑みが消える。

「何にせよ履き違えるなよ贋作……仮に我が策を講じたとして、だ。
 この我が貴様如きに渾身を期すとでも思っているのか?
 我が相対するは無礼にして不遜なるこの世界そのもの―――貴様の背後に座す存在に他ならぬ」

対して弓兵のその後ろを指すように手を翳し、雄大に語る王。

「戯言ついでに語って聞かせよアーチャー。 何時の世も走狗としてしか己の価値を示せぬ下郎よ。
 此度は誰の尻拭いをするためにここに足を運んだか?」

「……………」

沈黙を余儀なくされるアーチャー。 その相貌は果てしなく険しい。


――― 遠坂凛……… ―――


第五次聖杯戦争において彼を使役する事になる魔術師の少女である。
この弓兵とは並々ならぬ絆を示した紅き主従。
今もなお、彼の胸中には少女の面影が消えてなくなる事は無い

(凛…………)

しかし、そのマスターの存在をこの地に感じる事は無かった。
自身に通っているパスも、令呪の存在も全て不明瞭。

霞掛かった思考には、ただ一つの命令―――


――― 目の前のバグを消去せよ ―――


という――――強迫観念めいた思考のみ。

自分を、この弓兵のサーヴァントをここに配置したのは断じて遠坂凛ではなかった。
恐らくは英雄王ギルガメッシュに対し、唯一拮抗出来る存在としてこの身を選んだに過ぎない。

「ハ! つくづく走狗とはお前のためにあるような言葉よな!
 自己を喪失して首輪をつけられ、のた打ち回る様に疑念を抱けたまでは褒めてやる。
 だが、その腑抜けぶりでは何も為す事は叶うまい!」


―――敵を打破、若しくは足止めせよと自分に命じたのは………


王の言葉に沈黙を通すアーチャー。

自己に埋没し、深く深く、その内に―――やがて辿り着いたのは……

「それにしても揃いも揃って情けない事よ。 
 英霊と呼ばれし者共が、たかが器に2、3、余分に容れられただけでこうも自己を喪失するとは。
 所詮、貴様らと我とでは平時より背負いしモノが違うのだ」


その影は………漆黒を纏った、亡霊のような――――女?


「アーチャー。 貴様にはセイバーのような猶予は与えぬ。
 穢れた贋作はこの場で打ち捨てるに限る。 朽ち果てよ………永久に!」

埋没するアーチャーに対し手を翳し、再び王の蔵を起動させるギルガメッシュ。
弓兵の眼前に広がる真紅の射出口。 
見据える一面を覆い尽くす宝具という名の凶器の群れ。

「……………」

だが――――吹き飛ばされて一歩引いたその地点から見据える弓兵の双眸。
鷹の目が映し出したのは目の前のゲートオブバビロンの脅威ではなかった。

それに気づけたのは深い深い思慮がアーチャーに齎した懐疑故。
英雄王が立つ場よりも更に、更に後方――――ギルガメッシュの死角。
全くの逆方向に突然にして発生する時空の歪み!

その歪みが巨大な孔となり――――同時、アーチャーの経験が特大の危険を彼に報せたのだ!!

「ちぃっ!!!!!」

その場を飛び退る弓兵。

「口ほどにも無いとはお前の事だぞアーチャー! 今更臆したところで―――」

――――王は気づかない。

普段であればその視野は全てを見透かす神の眼であろう。
だが、いかに王とて宿敵の弓兵相手では全霊にならざるを得なかったのだ。

ギルガメッシュが敵の後退を嘲笑い、赤き背中に宝具を降らせようと翻った、その時―――!

「――――――、!??」


気づいて振り向いた時には…………………もはや手遅れだった。


―――、、、、―――


英霊二人による殲滅戦は神域だった。

手に持つ戦力=「戦争」とまで比喩されたギルガメッシュと同等の手数を持つアーチャー。
王の財宝と無限の剣製の激突はもはや余人の手出しを許す域には無かった筈。


だが………だが、そんな英霊の戦いを嘲笑うかのように、天空よりも遥か彼方―――

虚空の狭間より降り注ぐ、巨大な、あまりにも巨大な…………


―――  落 雷 !  ―――


闇を纏ったような黒ずんだ紫色の稲妻――――


次元跳躍砲――――――THUNDER RAGE


赤と金色のサーヴァント二体を敢え無くあっさりと飲み込んだ暴威の雷が
審判の塔のような威容を以って…………フィールドに突き刺さったのである――――

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最終更新:2010年09月07日 08:11