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??? ―――

「凄いわね…」

フェイトとランサー。 シグナムとライダー。
山道地帯を舞台とした四者が集う戦場、その戦いを遥かな高みから観測するナンバーズ達。

「一回戦に比べて地味、ですわねぇ…」

「いえ、確かに火力では先の戦いに劣りますが繰り出す技の冴えは微塵も劣るものではありません。
 特にこの槍の戦士が素晴らしい」

「ランサーのサーヴァント……セッテがそこまで言うなんて、よっぽどね」

「まだ六課陣も本気を出していませんが上手い事ばらけてくれたおかげでしょう。
 総当りの様相を呈し、万遍の無いデータが取れます。 あとは双方の全開出力さえ出せれば」

「はいはい……流石はセッテちゃん、マジメでちゅねー♪

戦闘タイプでないクアットロには影を追う事すら出来ないバトルだ。 むくれる四女である。

「ふふ、腐っている暇は無いわよクアットロ。 私たちだってやる事は山積みなのだから。
 ところで……トーレとチンクの姿が見えないのだけれど?」

「トーレ姉さまは調整室ですわ。 チンクちゃんはブリッジ。
 またあの神父にイジメられてるんでしょうねぇ」

両手を挙げておどけて見せるクアットロ。
モニターで繰り広げられている戦い、ひとまずは自分らが心配する必要はないだろう。
機器ををオートにしてくつろぐ四女を尻目に―――

(…………トーレ姉さま)

七番目の機人ナンバーズ・セッテ。
もっとも喜怒哀楽に乏しいと言われた彼女が、調整室――姉の消えた方向を見て表情に陰を落とすのであった。


――――――

調整室に一陣の風が巻き起こり、次いで遅れるように来た衝撃波が周囲を切り裂く。
キュギ、!という鼓膜を引き裂く音波は、音を置き去りにした事によって起こるソニックブームの残滓に他ならない。

IS・ライドインパルス―――
ナンバーズ3・トーレの身に宿る驚速の牙。
視認外から、視認出来ぬ速度にて、視認を許さぬままに対象に必殺の刃を浴びせるという単純にして強力な武装兵器だ。
その後姿、両の足から異常加熱に対する冷却装置がフル稼働し
廃熱の煙が蒸気のように彼女の全身を包み込み、機械の身体を通常シフトへと戻す。
奇襲に特化したこのISは一撃必殺を旨とし、理論上、回避も防御も不能の最強の技―――で、ある筈だった。

「くそ……!」

ダン、と彼女の壁を叩く音が部屋に響く。
十二分な絶技を繰り出したにも関わらず彼女の表情はありありと苦悩に染まっていた。
その沈んだ瞳の理由は間違いなく、周囲のモニターが映し出す機動6課とサーヴァントの戦いの様相によるものだろう。

「全然駄目だ……これでは…」

鋼の身体に似つかわしくない弱々しい呟きが漏れる。
かつてJS事件においてフェイトテスタロッサハラオウンに完全敗北を喫し、この遊戯盤においても魔法使いに惨敗。
戦闘機人の誇り。 博士の作り上げた最高傑作たるこの身の証明。
今にして思えば滑稽な話だが、以前は自分達が最強だと信じて疑っていなかった。
魔導士など所詮はただの人間、決して我らに勝てるはずがないと。
姉妹たちも自信に満ち溢れていた。 管理局の戦力を前にしても負けないと疑っていなかった。

(地に堕ちたな……)

そんな自信も誇りも、何もかも………自身の敗北の数々と共に、腐って堕ちて見る影も無くなってしまった。

(ドゥーエ……)

虚空に視線を泳がせて、彼女は遠く離れた戦地にて散った既にこの世のどこにも居ない姉の名を呼ぶ。
不甲斐無きこの身では姉の無念を、共に抱いた悲願を成就する事は出来ないのか?
彼女はこの世に生まれ出て初めて戦闘部隊の長たる責任と重圧に悩み、苦悩する。

「トーレ姉さま」

その時、何時の間に部屋に入って来たのか背中越しに7女セッテの姿を認めるトーレ。
不意にかけられた声に葛んだ視線を向ける。

「セッテ。 私の調整中は部屋に入るなと言ったはずだ」

「ウーノ姉さまの決定を伝えに来ました。
 ランサーとライダー。 あの二人を迎えに行くのは我々になりそうです」

「………そうか」

妹に情けない姿を見せるわけにはいかない。
先ほどまでの消沈した姿をひた隠し、表面上はいつもの毅然とした物腰で七女に接する姉。
だが、それは傍から見ても虚勢以外の何物でもなくて―――

「戻るぞ」

「はい」

内に悲壮な想いを抱いたままにトーレは調整室を後にした。

(どうにか……どうにかしなければ)

秘めた想いは強さへの渇望と、失った誇りを取り戻す事。

「…………」

その後ろに追従するセッテ。
姉のこんな姿を見るのは初めてだった。
こんな時に何を言えば良いのか色々考えようとして……自分にはそんな機能は付いてない事。
結局は当たり前の事しか言えない己に、歯痒さと共に気づく。

機「人」として目覚めた感情が、この戦いを経て彼女達をどこへ導くのか。

答えの分からぬままに――――刻の秒針は無情にも針を進めていくのだった。


――――――

――――――

四つの光が弾けて集い、金髪の魔導士が悲鳴という名の絶叫を上げる。

眼前に広がる光景に目を背け耳を塞ぎたい気持ちに駆られながらも、その一部始終を見逃す事は断じて許されない。
その、戦友の最期になるかも知れない光景をフェイトは砲撃のトリガーに指をかけながらに見据えていた。

故にその始終は――――凄まじいながらも、誰にとっても予想外の結果。

蒼い疾風と紫紺の怪異が紅蓮の炎を挟み込み、穿ち抜く。
三者が交錯し、歪な擬音諸共に激突したフェイトの眼下―――

「「「………」」」

三つの膨大な力がぶつかり、金属が、魔力が、凌ぎを削り、切り裂かれる甲高い音が鳴り響き
槍兵と女怪の直撃をまともに受けて双方から貫かれる形になったシグナム。
一見、それはサーヴァント二体の獲物に串刺しにされた情景に写って見える。

「ああ………」

フェイトのデバイスを持つ指が震え、唇がわななく。

<Wait...Sir>

「…………え!?」

だがデバイスの声にすぐに目を見開き、驚く魔導士。

――― ギチギチ、ギチ、 ―――


それは…………闘神の所業か?


高度に位置し、雲に覆われたフェイトの視界が粉塵を掻き分けて三者の様子を見据えると
中央の女騎士が二刀を以って双方のサーヴァントの槍を、短剣を寸でのところで仁王のように受け切っているではないか!

「ぬ、ううっ!!! はぁっ!!!!」

ヴォルケンリッター烈火の将シグナムが吼える!
左右から迫った凶刃を何するものぞと裁き、巻き込み、今、苛烈に打ち返す!
いかにサーヴァントといえど宙に浮いたままではどうしようもない。
トドメを刺しに行ったランサーとライダーの体制が崩れ、弾き返された。 

「撃てぇッ!!!」

「はいっ! トライデントッ………スマッシャァァーーーッ!!」

将の怒号を受けて力強い仕草で指にかかったトリガーを引き放つフェイト。
中距離狙撃砲が漆黒のデバイスからぶっ放された!

「ぐお、あッ!!」

「うう………!」

バルディッシュに叩き込まれたカートリッジは三発。
練りに練られた純正の魔力がフェイトの体内で凝縮され、デバイスを通して増幅される。
そして今、砲撃魔法が雷神の怒りの鉄槌となって吼え狂い、敵に襲い掛かったのだ!
左手の甲にデバイスの柄を添えて掌から放たれた極太の砲撃は、あの高町なのはのエクセリオンバスターと比べて些かの見劣りも無い。
翳した手首から方円方に広がる魔法陣の中央からぶっ放されたそれが左右に一本ずつ枝分かれし
一本はシグナムを掠めて通り過ぎ、一本がランサーを、また一本がライダーを滝のように飲み、そのまま地面に突き刺さる。
フィールド全体に落雷独特の重低音が、次いで鼓膜を裂きかねない凄まじい爆音が鳴り響く。

フェイトの全開砲撃。 
Sランク魔導士の全力―――トライデントスマッシャー。

身の毛がよだつ光景とはまさにこの事だ。
天災の中央、巨大なクレーターを作り出した落雷の中心地点にて二つのヒト型が地表に叩きつけられ
10回ほどバウンドしながらそれぞれ地面を滑り、ゴミのように投げ捨てられて場に落着していた。
雷帝の怒りに触れた者の末路である。

「…………ふ」

それを見て苦笑とも取れる溜息を静かに漏らす女剣士。
魔導士の卓越したコントロールによって自身の体スレスレを通り過ぎた砲撃だが
本来ならアレを自分も食らっていたのだ。 ゾッとしない。

「シグナム……! よく無事で……!」

稲妻の主が上空から降りて来る。
血相を変えて飛び込んでくる騎士の戦友、フェイトだ。

「凄い……あの二人の攻撃を同時に裁くなんて……流石です!」

友の惜しみない賞賛の声だったが、対して釈然としないのはシグナムだった。

(何だ……? 今の腑抜けた攻撃は…)

そう、それは受けた将が怪訝な思いを隠せないほどにお粗末な一撃だったのだ。
あのタイミングで止めとなる一打を放られてはいかに烈火の将とてただでは済まなかっただろう。
だのに無傷? 敵の不手際としか思えないが……
些かの疑問に苛まれる将だったが、二人の眼下―――地上にてのそりと起き上がる影が二つ。

何とか現世にカタチを残せたのも高い対魔力と得物を盾にした受身が間に合った故か。
しかしそのダメージは計り知れない。

ふらつく二体の怪人を前に―――フェイトとシグナムが新たな攻勢をかけるのだった。


――――――

LANCER,s view ―――

うむ……体が痺れて動かねえ。

「ったく……いいザマだぜ」

舌の根まで焼き尽くされたかのような雷の衝撃。
粗末極まりない結果に愚痴るのも億劫だ。

「まったくです。 これでは埒が明かない」

隣の奴が頼んでもいねえのに相槌などを打ってくる。

………………………

「槍術を極めたにしては幼稚な誤爆ですね。
 アイルランドの光の御子―――早くもヤキが回りましたか」

「てめえこそ邪魔しやがって……何のつもりだライダー」

「貴方が先に間合いに入って来たのでしょう?
 あそこで互いに宝具を打ち合えば上空のフェイトに狙い打たれていた」

「そんな事よりも、ライダー……一つ聞いていいか?」

ところで当たり前のように俺の側にいるこいつ。
今更だが……どうして俺はこんな奴と共闘してたりするんだ?

「さっきのアレは俺も巻き込む気だったのか?」

連携など上手くいく筈がねえ。
信頼関係など成り立つわけがねえ。
何せこいつとは元々――――

「アレとは?」

「とぼけるんじゃねえ
 一度目に森からすっ飛んで来た時の事だ」

「とぼけるとは心外な………敵を討つために宝具を展開しようとしただけですが?
 たまたま進路上に何かが転がっていようと私の与り知るところではない」

「………そうかい―――――――――そりゃそうだ」

敵が上方より迫る。 
一刻も早く迎え撃たなくちゃいけねえ。
だがこの状況――――――ちいと頂けねえなぁ……

敵と味方の線引き……こればかりは今のうちにはっきりしとかねえと―――


――――――

FATE,s view ―――

「……………シグナム」

戦いが始まってより抱いてきた微かな違和感。
従来ならば見逃してしまうような幾つもの些細な要素。
それらが脳内で散りばめられたパズルのように組みあがっていく。
まだ断言するには早いかも知れない。 かも知れないけど………もしかするとあの二人は―――

「ばらけての各個撃破よりも2on2のコンビネーションで攻めましょう。
 私の勘が正しければ、それで圧倒出来るかも知れない……」

「何?」

シグナムが怪訝な顔をする。
相手にダメージがある以上、速攻をかけて一気に鎮圧するのがセオリーのこの場面。
今にも接敵しようという、その出足を止められた不満も手伝い、不満げな表情を見せている。

「根拠はあるのか? 一対一が二対二になるだけだぞ。 数の有利が働くわけでもあるまい?」

「初めから気になっていたんです……彼らは本当に味方同士なんでしょうか?」

「? どういう事だ?」

「いえ、初めは双方の雰囲気から感じた事なんですが…」

轡を並べて現れた怪人……彼らは初めからどこかおかしかった
険悪な空気というのは黙っていても滲み出てくるもの。 
目も合わさずに、短い会話からすら滲み出てくるそれに対してずっと不思議に思っていた。

「共にこちらに攻撃を仕掛けてきたのだぞ? それが味方同士でないなら何だ?」

「利害の一致か状況によって仕方なく手を組んでいるか……
 そういう成り行きで組まされてしまう事は珍しい事ではありません」

突飛な理論と言われるのは理解しているけど……でも、どこか壁を作っているように見受けられる両者。
そして戦闘開始直後、すぐにこちらを分断して一騎打ちに持ち込んできたあの手合い。
当然、自分達の戦闘力に自信があっての行動なのだろう。 
けれど、それだけでないとしたら? 単騎の戦闘に自信があるのではなく単独で行動したい理由が他にあるのだとしたら?
二人が轡を並べて戦う事に何らかの抵抗を感じているのだとしたら?
先ほどの攻防でも彼らは、互いをフォローしようとする動きさえなかったのだ。

「長考の時間も無いな………いいだろう。 ライトニング2、隊長の指示に従う」

「シグナム……ありがとうございます」

「何、執務官として培ったお前の観察眼を信じるだけの事だ」

念輪で、時間にして僅かなやり取りを終えて私とシグナムは頭上から敵を挟み込む。
ライダーと槍の男を中心に弧を描くように旋回しつつ、私は射撃用スフィアを展開して攻勢に備える。
そして間を置かずに相手に仕掛けようと思い立ったその矢先に――――――

――――――――――――――――――それは起こった。

「なっ!?」

息を呑む私。 
対面のシグナムも驚愕の表情を浮かべている。

迎えた眼下………男の槍が――――――

ライダーに向かって翻ったのだ。


――――――

高速で左右に分かれる敵が徐々にその輪を狭めてくる。
今にも飛び掛って来ようと構える猛禽ニ匹。 もはや秒の暇もなく戦闘は再開される。
それに対して彼らは雷撃のダメージを負っていて、しかも――――当たり前だった「事実」を再確認させられた後だ。

これでは戦えない。 宝具すらまともに繰り出せない。
真名開放は発動後に隙が出来る……その横っ腹を、隣の「サーヴァント」に突かれかねないのだ。

―――――――――故に男は意を決し、動いた。

「っ、ぐ――!?」

山なりに緩急をつけて距離を測るライトニング隊に対し、迎え撃とうと鎖剣を構えるライダー。 
その彼女の腕に突然、衝撃が走った。
予想だにしないところから来た攻撃は隣の男の紅い槍の穂先。
それがライダーの二の腕に思いっきり叩きつけられていたのだ。

後ずさりする騎兵。 
効いたというより驚いて、その場につんのめる。

「―――何のつもりですランサー?」

「てめえはもういい………引っ込んでな。
 信頼の置けぬ相手に背中を預ける気はない。」

肩を並べる味方(味方ではないのだが)の突然の申し出に暫くポカンとなった後、嘲りの視線を返す女怪。

「彼女達を一人で相手にすると? 音に聞こえしその槍とて荷が勝ちすぎると思いますが」

「お前の知ったこっちゃねえよ。 邪魔だから消えろと言っている。
 あまり俺に近づくと一緒に刺し殺しちまうかも知れないぜ」

「近づくなとはご挨拶ですね。 私の背中にべったりと張り付いていた者の言葉とは思えない」

「おかげで安物のハブ酒みてえな匂いが染み付いて取れねえ。 どうしてくれる?」

「――――安心するといい。 洗っていない犬の匂いしかしませんから、貴方は」

包囲の陣形を取りつつも唖然とするフェイトとシグナムを頭上に、彼らは思い出したかのように氷の殺気をぶつけ合う。
まるであの冬木の地で遭遇した時のように。 やはり彼らはサーヴァント……敵同士に他ならない。

「いいでしょう……私は私で好きに動かせてもらう。
 死ぬのは構いませんが、せいぜいその御名に泥を塗らないように」

「名だぁ?  英雄みてえな口利いてんじゃねえよ化け物が―――さっさと行きな」

「ふん……」

槍兵と騎兵、まさかの決別。
短い会話がほどなく終わるのと戦況が動き出すのが―――同時だった!

「おおおおあぁぁあっっ!!!」

吼え狂う烈火が円を描く軌道から一転、高速で上空より飛来する。

「ハッハァ!!!」

瞬時に男が槍を翻して答える。
再び待ち望んだ瞬間に、歓喜に震える騎士と槍兵。
空を舞う猛禽と地を駆ける猛獣が再び相対し殺しあう。

そして騎兵は爆ぜるように後方へと飛び荒び――――

再び、森の中へと消えていったのだった


――――――

既に第二局は始まっていた。
滑空するシグナムが地上を駆けるランサーと再び邂逅する。
双方、決して浅くない傷を負っているのだが、手負いの獣は恐ろしいという格言通りか。
牙を剥き出しにして互いの喉笛を食い千切ろうと翻る肉体は見るものの心胆を凍えさせる。

だがそこに介入する魔導師一人。 
金色の細い短剣のような形状を取る射撃魔法が将に先行するように飛来し、ランサーの身に降り注ぐ。 
フェイトのプラズマランサーだ。 女剣士の周囲を守るように、いくつもの雷の矢が浮かんでいる。
将の周りに顕現し、並行して飛ぶ矢はまるで一糸乱れずシグナムの援護に回っている。 前衛の騎士を守る最強のオプションだ。
徐々に追い詰められる槍兵。 流石にこんな正確な狙撃を受けながら烈火の将と切り結ぶのは自殺行為。
打ち出される矢を叩き落しながら剣士の猛襲に合わせるように併走する男。

「……あの女はどうした?」

「さあな。 その辺でカエルでも丸呑みしてるんじゃねえか? まあ気にするこっちゃねえやな」

「ぬかせ! 伏兵のつもりか?」

「俺を前にして他に気を取られる余裕があるのかねっとッ!!」

その槍は淀みなく、その戦意に聊かの陰りも無い。
本当に……本当に単機でライトニングの隊長と副隊長を相手にするつもりなのか?
将の顔が侮蔑と屈辱に歪む。

「シグナム! 冷静に!」

「分かっている……奴がそうしたいなら、好きにさせておけば良い。」

シグナム個人の心情はともかく……管理局員として、ここで敵に付き合って一騎打ちを挑むなどという行為が出来る筈が無い。
個人の誇りよりも部隊の安全。 敵が一人になったならば好都合。 包囲殲滅するだけだ。
森に消えた女怪への警戒も新たに、地駆ける魔犬の掃討にかかるフェイトとシグナム。

紅と金色の閃光が今、堰を切ったように―――
蒼い男を挟み込むように切りかかった!


――――――

SIGNUM,s view ―――

「ぬううっ!!」

「らぁッッ!!」

曇天に私と奴の怒号が響き、レヴァンティンの灼熱の一撃を真っ向から打ち返すランサー。
一太刀ごとに大地を炎上させるほどの空襲をかけているのだが、対して奴は微塵の遅れも見せない。

「そこっ!」

そして私に一寸遅れ、影を重ねるように追随したテスタロッサの黄金のサイスが奴を襲う。
巨大なザンバーは連携には不向きゆえのサイスモード。
あいつの愛用の多種機能デバイスが術者の思考に応じて縦横無尽に振るわれる。

その炎と雷の刃を一身に受ける槍の男。
紅と金の魔力光にサンドイッチにされる形になっているにも関わらず
大人しくパンの具になるほど、この男は大人しくはなかった。

「くっ…!」

二人分の膂力を同時に受けながら、地に食んだ両足はまるで大木だ。 ビクともしない。
真紅の刃先で剣を、柄部分で鎌を受け止め、双方の接地部分からギャリギャリ、と歪な音が漏れている。

「むうっ!! りゃあ!!!」

すかさずランサー。 
右足を軸に一回転し、横合いに薙いで二つの刃を受け流し、コマのように私達を弾き飛ばす。

バランスを崩したテスタロッサに先んじて踏み込み、叩きつける我が剛剣。
奴の額を真っ二つにする筈の刀身を、槍兵は刃先1ミリの域で後方に下がり、かわす。
一瞬遅れて対面、アッパースイングで振り上げられる相方の高速の鎌からの金の刃も最小限の軸移動で受け流す。
威力も太刀筋も速度も、属性すらも違う同時攻撃をここまで往なし受けるなど……教導隊の怪物並だな。

「さあ、もっとだ! 続けて来やがれッ!!」

乱舞する蒼い肢体。 駒のように絶え間なく回転し、穿ち来る槍。 
時にはこちらを踏み台にして飛び退り、打ち合う衝撃すらも移動の推進力にして男は翻る。
爛々と光る魔獣の眼差しは何かを求め渇望し、駆け巡る姿は暴虐にして華麗の一言だった。

「ぐふっ!?」

いかん……一瞬の思考すら命取りだ。 奴の飛び蹴りが私の胸部に突き刺さる。
甲冑を抜くには至らないが、不意の事ゆえ踏ん張りが効かない。 6mほど後退させられる。
離れ際に合わせるべく蛇腹に変形したレヴァンティンを前方に放ち、敵を串刺しにしようと振り被るが……

「なにっ!?」

もはや穿つ相手は正面にいない。 
男は既に蹴りの反動で空に上がり、空中のテスタロッサを猛襲。
残像すら斬らせて貰えんか……! 蒼き閃光となって金髪の戦友に肉薄する真紅の魔槍。

「貰ったぜぇぇぇえぁぁッ!!!!!」

そのまま上空に向けて突きの弾幕を繰り出すランサー!

「こ、のぉ…ッッ!!!!!」

フル出力によるシールドを前面に展開し、黄金の盾が紅い五月雨を弾き返そうとする。
だが盾に突き立つ刺突は容赦なく容赦なく魔力壁を削り、掘り進み―――

「あっ!? くううう!!!」

バリアブレイク。 大きく後方に弾け飛ぶテスタロッサ。
一つ二つの突きならば受け止められただろうが、50の乱撃を同時に貰ってはいかなバリアとて崩壊せざるを得ない。

「シィィィ―――」

両側に押し返された我らを脇に見据え、静かに息吹。
美しい軌道で槍をバトンのように回し、ゆっくりと後方の腰元に回してその場に佇む男。

「つ、強い………手がつけられない! あの守りの固さは異常です!」

「異常というのは同意だ。 普通ではない相手という事は分かっている。」

分かってはいたのだが……しかし、これほどとはな……
こちらとて互いにSランクの称号を持つ機動6課ライトニングの隊長と副隊長だ。
それをたった一人でこうまで虚仮にする存在などあって良いものなのか?

動きが目に見えてよくなっていく。 まるで水を得た魚だ。 
先にテスタロッサが言ったが、特筆すべきは鉄壁の防御。
後に知る――――槍のサーヴァントの真名。
生き残る事にかけては右に出るもののいないと言われた御業の片鱗を今、我々は垣間見ているわけか。

「ううっ!?」

対面にてかち合う槍と鎌。 テスタロッサの滑空にランサーが先回りして飛び掛る。
眉間を皮切りに、正中線に次々と穿たれる槍、実に五閃。
何とか身を捻り、体に穴を開けられるのを防いだ相棒だったが、その体の横を五つのレーザー光線のようなモノが通り過ぎる。
九死に一生、ぶわっと全身の毛穴が開く感覚だろう。 あいつの強張った顔が、その心情を物語る。

「油断するな! まだだっ!!!」

「は…! うぐっ!?」

短い悲鳴をあげるテスタロッサ。 
突きから移行した薙ぎ払いが胴体に叩きつけられていたのだ。

「うおおおおりゃあああああああっ!!!」

獅子奮迅の怒号と共に長物を振り切り、テスタロッサを弾き飛ばす。
腰から不時着し、地面を滑るように転がって何とか体勢を立て直す戦友。
こほ、と嗚咽にむせび前方を見据える先で、今度は私と男が鍔迫り合い。
槍兵の横っ腹めがけて剣を叩きつける私をニィ、と歪な笑みと共に迎え撃つランサー……

こいつは私達を侮っているわけではない―――――― 
また現時点、自身の戦力がこちらに対し劣っている事も承知している。
それでいてこの戦いを、その身全体で楽しんでいるのだ………窮地さえも。
バトルマニアどころの騒ぎではない。 バトルジャンキーだな。

そんな男と心行くまで打ち合いたい……一人の騎士として一対一で。
そのような衝動に駆られつつ、私は任務を至上として剣を振るう。
ほとほと手を焼かされている事ばかりを述べているが、当然こちらが優勢である事に変わりは無い。
敵とて徐々にだが確実にこちらの刃を受けて傷ついている。

ほどなく決着はつくだろう。 
このままいけば我らの勝ちは揺るがない。

ランサーよ……どうするつもりだ?

――――――――本当にこのまま意味も無く負けて終わるつもりか?


――――――

――――――

サーヴァント・ランサーは歓喜する。

英霊の真名はクーフーリン。
クランの猛犬の異名を持つアイルランドの大英雄。
現代の世界史においてアーサー王やアレクサンダーのような世界に名を響かせるような威名はないものの
生涯を戦に生きた純一戦士である彼は軍神として、一地方においてまさに神の如き崇拝を集めていた。
祖国においてはあのアーサー王すら凌ぐ威名を誇るこの男もまた―――冬木の奇跡・聖杯戦争に召還されたサーヴァントの一人。

場所、時代を超えて一同に集い、最強の御名の下に戦う。
武と誇りを抱いて世界に名を刻んだ英霊にとって、それは祭……まさに夢のような舞台であった事だろう。
第五次聖杯戦争に招聘され、まだ見ぬ最強を相手に槍を震える喜びに胸躍っていたランサー。

――― だがしかし、彼を待っていた運命は過酷極まりないものだった ―――


「――――パゼット……ッ!」

「間抜けなサーヴァントの到着か。 遅かったな……もはやお前は私の飼い犬だ」

黒衣の神父が光の灯さぬ双眸を向け、腕に宿った令呪を彼に見せて言う。

薄気味の悪い相手なのは理解していたのに、マスターの気の許した相手だと油断したのが悪かった。
口煩いのが玉に傷だが、心通わせられるパートナーに巡りあえた事を感謝した矢先……
そのドブのような目をした男にマスター、パゼットフラガマクレミッツは倒された。
令呪を剥ぎ取られ、男は主を護れないままに自身を奪われる事となったのだ。

その後の彼の聖杯戦争は語るも惨々、見るも無残の一言。 
ろくに全力で戦うことも適わず、主の仇を討つ事も役目を果たす事も出来ずに
彼の戦いは、光り輝く生涯の名にそぐわぬ幕を引く結果に終わったのである。

「ついてねえなぁ………パゼット―――仇くらいは討ってやりたかったが…」

果てる寸前、眉をしかめて小言を飛ばす女マスターの顔が浮かぶ。

生前、死す時までついには己の信条を全うしてきた英霊にとって
何も為せずに終わった此度の戦争の無念はいかばかりのものか。
常に戦の先頭を駆け抜け、満ち足りた生涯を送ってきた男は、何も残せずに―――その戦いは終焉を迎えた


   もし次があるなら……その時は全力で戦りてえものだぜ―――


―――――既に叶う事のない、ただ一つの未練を遺して


――――――

LANCER,s view ―――

「記憶」が所々、断片的に残っている違和感がある。
その鬱陶しい違和感は何故か霞がかっていて、深く考えようとすると思考が強制的に閉じちまいそうになる。

だから今は考えるのを止めた。 何せ勿体ねえ。 
これほどの戦。これほどの敵。 楽しまなきゃ損ってもんだ。

やはり足手纏いがいないと体が軽い。 
戦況はちいとばかし不利な方がノリも良い。
いつもの俺……紛う事なく、いつもの戦だ。

それにあのクソ神父に処された楔の制約が薄く感じられる。
震える魂、力が止め処なく溢れてくる。
確か一度目に見えた敵とは全力で戦えないのではなかったか?
ええい、どうでもいい……何もかんも、どうでもいい!
今はただ戦え、闘え、と! 前回の分まで闘えと! 俺の中の獣性がその肉体を突き動かすのだ!!

「ち、ぃ!」

奴らは強え。 二対一とはいえ、もう少し何とかなるかと思ったが……
攻、防、機動力全てにおいて抜かりがねえ。 連携の精度も、付け焼刃のそれとは一線を隔す。
強引に捻じ込み、宝具で一人減らす―――まずはそれをしなけりゃ始まらないんだが、その行程の見込みすらつかねえ状態だ。

両脇に打ち込まれる雷の矢に軸移動を封じられ、剣士の渾身の一振りをまともに受ける羽目になる。
両足が膝下まで地面にめり込む。 その両の足を、これまた執拗に狙う金髪のお嬢ちゃん。
息も付かせねえとはこの事か!

「よいしょっとぉ!!」

全身のバネで埋まった両足を引っこ抜き、アスファルトを撒き散らしながら豪快に跳躍する俺。
だが、そこに打ち落とされる嬢ちゃんの斬戟も先ほどまでとは明らかに勢いが違う。

今まで俺は、俗に言う「多人数故の隙」を巧みに突いて相手に拮抗させてきた。
連携であるが故に、意思の疎通が遅れる「群」だからこそ生じる隙。
それは「個」が大兵力を相手に戦う際に有利に働くほぼ唯一の利点だ。
偏に、他者と自分の思考のズレ、タイムラグ―――意思疎通の困難さに起因する。
一瞬の目配せ。 一方が崩された時に生ずるもう一方の焦燥。 フォローしようとする時の理想のラインから外れた余分な動き。
それらのノイズが個々を100%の挙動から遠ざけ、そこを的確に突いていくのが単騎駆けの基本だ。

まあ簡単に言っちまえば、1+1を2にさせないという事なんだが……
だが、それに対して心の通じ合ったベストパートナーは1+1を5にも10にもしてくる。
黄金の連携は互いの覚悟と信頼がそれを完璧なものへと近づけ、子供騙しなど通用しない域へとその精度を誘っていく。 
良いコンビだぜ……一年二年やそこらの付き合いじゃねえな、あれは。

「おぉりゃっ!!!」

頭上を通り過ぎた金髪の背中に今一度、跳躍して襲い掛かる俺。
飛ぶ鳥を堕とさんと繰り出された渾身の一刺しが、嬢ちゃんの脊椎を貫き通そうと迫るが、瞬間―――

「ソニックムーブ!」

背中を隠す白いマントまでが、一瞬でこの視界から掻き消えやがった!
しかも野郎…………こりゃ、誘いだ!

間抜けにも二対の猛禽相手に宙に浮かび上がった俺の体は、さぞかし手頃な獲物に見えただろう。
左右から同時に迫る羽持つ者ども。 やべえ! 不安定な空中で受身を取る俺。

「ぐ、ぬうっ!!!!」

中空へと舞い踊る肢体。 エアハイクが終わるまで数秒。
しかしてそれはコンマの位を奪い合う戦場においては気の遠くなるほどに長い時間だ。
餌に釣られた魚が無様に晒した横っ腹。 飛来する猛禽の爪を、牙をただ黙って貰い続けるサービスタイムの始まり始まりってか。

「「ブレイクッッ!!」」

共に吼え来る炎と稲妻。 
中心に位置する俺に対し、刻み込むようなクロスラインを描く。
何度も何度も、獲物……即ち俺が地に落ちるまで、何度も描く。
ギィン、! ギィン、!という炸裂音が間断なく響き渡り、その度に槍の防御で殺しきれぬ衝撃で肉体が弾け
飛び、のけぞり、中空できりもみしながら地面に向かって堕ちていく体。

「はおっ……ッ!」

そのまま受身も取れずにコンクリの地面に盛大に落下したとさ。 くそ………みっともねえ………
何かが潰れるような鈍い音と共に叩きつけられた肉体は、瞬く間にボロ雑巾の如し。

「こりゃ、次からは迂闊に跳べねえな……」

負傷した側頭部からどろりと流れる赤い液体をペロリと舐め、大地に突き立つ槍を抜き放ち憤然と構える。

「降伏する気はないか」

「当たり前だろうが」

「貴女に勝機は無い! 無駄な抵抗は……」

「せっかく掴んだ好機をお喋りでフイにする気かい?
 良いところなんだ……さっさとかかって来な」

「…………っ!」

唇を噛んで憤慨する金髪の嬢ちゃん。 相変わらず、無為な流血は好まんか? 
お優しいこった……確かに言う通り、まともにやってたら俺の勝機はほぼゼロだ。


故にそろそろ――――――勝負に出る時。


もう少しだ………もう少しで全部、読める。
こっちだって、ただやられるために出て来たわけじゃねえんだ。

身を斬られるも、骨を削られるのも全て勝利のために。 
切り札は―――未だこの手の内にある。

一糸乱れぬが故に規則正しい奴らの軌道。 
それは弛まぬ修練の賜物だろう。
だが、だからこそ、乱れぬからこそ読める。

二人が重なる軌道………必ず訪れるコンマ一秒以下の必勝の機会は――――確かに存在した。


―――――――――そこに「こいつ」をブチ込んでやる。


右手に構えた槍を片手に携え、投擲の体勢に入る。

打ち込まれた刃の痛みを燃料に変え、いよいよ持って覚悟を決める。
乗るか反るかの一発勝負。 肌がチリチリしてきやがった。
こういう空気は良い……実に良い。 これぞ戦の醍醐味だぜ!

左手を前方に、指を立てて添える。 それは現代の狙撃手が相手に定める照準のようなもの。
狙いはただ一つ。 相手の空中での軌道、炎と雷が交わり重なる瞬間―――

「狙い撃ちだ………心躍るじゃねえか。 久しぶりに熱くなってきたぜぇ!」

我が意思を受けて、真紅の槍が再び吼える。
二敵を射抜く確率は針の穴を通すが如く。
だからこそ、それを為すのが無双の英霊の証明に他ならない。
猛犬の切り札を、再び轟の一文字を以って起動させる。

―――空気がざわつく。

打ち合いを避けて距離を計る俺と、高速で旋回し虎視眈々と止めを刺そうと迫る相手。
共に激しい動きにて相手を牽制し、その機会を待つ。
地を蹴る音、空を裂く音だけが場に響き、静寂とは程遠い戦場の、場の空気だけが静まり返っていく。
それはどちらが先に必殺の牙を叩き込むかに息を呑む場の空気の緊張の高まりだろう。

共に止めの図式の見えたこの勝負……あとは幕を引くだけか。
名残惜しいが、双方がその思考に達した今―――決着の刻を遅らせるクロノスの神などもはや無力の長物。

「行くぜ…………」

上空にて炎熱と春雷が同時に飛来し、目も眩むような速度で飛び交い、的を散らしながらに迫り来る。
その軌道の―――刹那とすら言い難い接点を今……


――― 突き穿つ ・・・ ―――
   ゲ  イ ・


――――――

戦場が終局を迎えようとする。
後はどちらかの躯が場に横たわるのみ。

そんな未来の光景を幻視させる、今まさに決着がつくその時――――


―――――――異変は起きた。


三者が予想だにせぬ、世界を覆う鮮血の帳―――――

「あ………ッ、ううっ!!??」

紅い呪縛に先ず犯されたのがフェイト。
流星の尾のような金色の魔力を引きながらランサーに突っ込んだ、その勢いのままに
彼女は空中で急激に姿勢を崩し、つんのめって地面に墜落した。

「な、なにっ…!?」

彼女の後方、シグナムが声を詰まらせる。
しかしてその異変はすぐに女剣士の身体をも侵食。
突如、足に重りを付けられた鳥のようにゆっくりと空より堕ちゆく。

――― 血の様な一面の赤に彩られたセカイ ―――

重くヤスリのように絡み付いてくる毒々しい空気。 それに触れているだけで、まるで肌を焼かれるような感覚に襲われる。
AMF……魔導士殺し―――アンチ・マギリンク・フィールドの発動を初めは疑った二人。
だが、だが、この禍々しい瘴気に満ちた空間は魔力を減退させるとかそんなレベルの話ではない。
まるで魔力はおろか本体すらも溶かし尽くす炉心の中に放り込まれたかのよう――――

フェイトが寒さに震えるように両肩を抱きしめて地に倒れ付す。
シグナムが焼けるような熱さに喉を焼かれて苦悶の呻きを上げる。
そんな中――――

「あの野郎……………」

「コレ」の正体にいち早く気づいたランサーが獰猛な唸り声を上げ、自身の頭上にある木々の闇を見据えて叫ぶ。

「ライダーッ!!!!」

視線の先―――

木々の間に、腰まで伸びる長髪をなびかせて立つ彼女に向かって―――

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