第2話『宝具、レイジングハート』



太陽系第三惑星『地球』、その極東地域に、あらゆる願いを成就する温泉があるという。
7日~3000年の周期的な月日を経て出現する、妙(たえ)なるアーティファクト。
極大の魔力を噴き上げる此の温泉の名を『ヴァルハラ温泉』、霊地冬木に隠されし伝説の湯である。
神代から、星の道先を定めてきた霊泉をめぐる争いは、苛烈を窮めた。
其の呼び名を『聖杯戦争』。
最小にして最大の戦争である。

魂の干戈をもって行われる激しすぎる戦い。
自ら裁可したくせに、温泉管理神はドン引きしていた。
そして言った。

「花札で決めたら?」

これが第97管理外世界の名物『花札戦争』、通称『聖杯戦争』の起源である。
そして、星神の巫女『言峰綺礼』はこう言った。

「奇跡を欲するならば、汝。最強を証明せよ」

願いを叶える者は、その道に立ち塞がる敵対者を排除し、一番湯に浴さなければならない。
こうして、今回も聖杯戦争の幕が上がった。

飛び入り参加者『高町なのは』は、前回の勝者『間桐慎二』の魔の手により敗北した。
魔砲の通じない勝負、そして彼の『宝具』に翻弄された『なのは』。
これより一度の敗走も許されなくなった少女に、勝機はあるのか。
少なくとも彼女、そして彼女の相棒は、勝利を信じていたのである。

+ + + + + + + + + + + +


舞台は逆戻りし、少女達は丘の上に戻ることになった。

《マスター、何か水分を摂ったほうがよろしいかと》

坂道を登る少女の手首に巻きついた、赤く輝くペンダントが声を発した。
実に自然におさまっていて、腕飾りといった方が正しいようにも見えるだろう。
といっても、それは単なる装飾品ではない。
地球の最先端科学を遥かに凌駕する精密機械にして『魔法の杖』である『レイジングハート』の待機形態であり、主の体調のチェックを欠かさない、頼れるヤツなのだ。
今は季節柄、薄着でカジュアルな格好をしている少女(なのはさんじゅうきゅうさい@冬木)に合わせて、このような位置にある。
明るく赤い結晶は、天然の宝石とも、イミテーションとも見えない不思議な輝きを放ち、少女の魅力を引き出すのに一役買っていた。

「暑いね。やっぱり関西圏だから夏が早いのかな?」

《マスター、少し休憩を入れましょう》

「ダメだよ。昼食を食べたばかりでしょ」
「今日の昼は、いつもより、ゆっくりしていたくらい」

そう。いつもなら、あんな豪華パフェをゆっくり食べられない。
ウェイターのお兄さんが「アンタみたいな美人には、サクランボがよく似合う」なんて気を利かせて、チェリーを一つサービスしてくれた。
そう。お昼はよかった。《マスター》
そう。私は十分に休んだし、今からでもしっかり戦える。
そう。これから冬木教会に戻って情報を集めないと。《マスター》

《マスター!!》

レイジングハートが人目もはばからずに―――と言っても周りは無人なのだが―――、大声を上げた。

《マスター。木陰に入って休みながら、情報を整理しましょう》
《監督役に行う質問の内容についても、です》

「そ、だね。確かに」

確かに。情報は整理しなくてはならない。
なのはは、少し先の位置にあった木陰のベンチに腰を降ろした。

+ + + + + + + + + + + +



「まずは宝具。アレがなければ私の勝ちだった」
「次にサーヴァント。よく考えたら、ただの花札勝負に使い魔が必要なワケなんて、ない」
「そして、シンジさんの文数。なんで3文なん…………別にいいかな?」

《……………………》

ブツブツとつぶやきながら情報をまとめる主を、彼女のデバイスはジッと黙って見守っていた。
もちろん、情報戦は大事だ。
今のような状況では一刻を争うといっていいかもしれない。
しかし、そんなことよりもレイジングハートは、なのはの体調が心配だった。
先の対戦相手であるマトウシンジの魔力。
あれの効果は強烈だった。
レイジングハートが覚えている、―――記録している限りにおいて、なのはは、空戦で叩き落とされても、あれほど取り乱しはしていない。
まだ主が未熟で、彼女を使いこなしきれていなかった時でも、あんな醜態は見せなかった。
現状、なのはの身体機能、およびリンカーコアについては正常値にあることは確認した。
だが、数字では測れない心、魂の疲労についてはどうしようもないのだ。
もっとも、レイジングハートは独自の方程式により、なのはの心の疲労を感知する術(すべ)を心得ていた。
計算、計算、計算、ちょっとの飛躍。
レイジングハートが見る限り、そろそろ主は回復したようだ。
なんかヌメっとしてヤな感じに下がっていた目尻が、いつもの凛々しく美しいソレに戻っている。
…………あのワカメはいつか潰す。

「よし。行こう!」

なのはとレイジングハートの戦いが、いま、再スタートを切った。


+ + + + + + + + + + + +



「ふう。やっと着いた」

教会参拝者の忍耐を試すかのように無駄に曲がりくねった坂道を登ると、今朝と変わらない冬木教会の姿があった。
冬木の街には不釣合いなほど立派な建物で、地上部分を跡形もなく吹き飛ばすならディバイン バスター1発では足りないかもしれない。
少女のなんの気なしの感想に、前庭の花々が震え上がった。
ぱっと見は、おとなしげな なのはさんだが、たまに台風より怖いことある。

「あれ?扉が開いてくる……」

なのはが建物に辿り着く前に、扉が勝手に押し広げられた。
中から出てくるのは、金髪の眩しい赤眼の少年だ。

「(ヴィヴィオに……似てる?似てない?)」

少年の風体は、上にTシャツと白いパーカー、下は活動的なクオーターという“普通”の恰好だ。
燦々と照りつける太陽の下でパーカーを羽織っているのは不思議だが、本人は汗一つかいておらず、涼しげな様子である。
ごく自然すぎて、不自然さが感じられない。
少年は近づいてくると、なのはを真っ直ぐに見つめて、挨拶した。

「おかえりなさい。『高町なのは』さんですね?」
「初戦の結果は残念でしたね」

「…………。言峰神父のお子さんですか?」


なのはの事を知っている、ということは、どうやら少年は聖杯戦争の関係者らしい。
歳や外見からは聖杯戦争と関係があるようには見えない。
かといって、言峰神父の血縁にも見えないのだが、遺伝子の不思議というものを彼女はよく知っていた。
もちろん、関係者として一番先に連想するものは『参加者』だが、まさかこんなに小さい子供の参加者が存在するとも思えない。
敵意も感じられないことから、とりあえず会話をしてみることにする。

「はああ……。違います」
「一滴たりとも、あの男の血はボクには流れていませんよ。……むしろ、逆かも」

「え、と。教会関係の人か、な?」

どうやら、いきなり話の掴みに失敗してしまったようだ。
ニコニコとしていた顔が、渋面となってしまった。
基本的に、子供に好かれやすいなのはとしては、ちょっとションボリしてしまうが、ここは話を進めることで挽回を計る。
どうやら、この少年は地球人らしからぬ(ミッドでも、たまにしか見られぬ程の)おませさんだと直感した。


「その通りです。流石に話の通りが早い」
「ボクは聖杯戦争の運営を補佐している『ギル』といいます」

「そう。偉いね」
《…………………》

ある意味では予想通りに、少年は何らかの役割をもって活動していた。
―――その少年が積極的に参加者に話しかけてきたのなら、何らかの思惑があると考えたほうがいいだろう。

「そうでもありません」
「現に、ナノハ。貴方は飛び入りという立場を超えて、不利な状況に陥った」
「それはボクのせいでもあります」

「……むぅ。どういうこと?」

「コトミネは嘘をつかない男です。これは間違いない。しかし、必要ないと思ったことを話す男でもありません」
「貴方が『サーヴァント』や『宝具』といった重要な情報、それどころか、聖杯戦争の根幹を成すルールについても無知であることを感じながら、それらについての情報を十分に与えなかった」
「こういうことは、ボクがカバーすることが通例なんです」
「今朝、ナノハが説明を受けているときに、ボクも裏にいたんですけど、ホンのさっきまで、ちょっと身動きがとれない事態が発生しまして。それで、フォローできなかったんですよ」

「………………」
《………………》


どうやら、なのはの聖杯戦争のケチの付き始めは、慎二に出会う前からあったようだ。
もし、彼の言う通りならば、監督役を担うはずの聖職者が、参加者に対する職務を十全に果たしていないことになる。
とすれば、彼女は相棒たるデバイスに感謝しなければならない。
レイジングハートのアドバイスを聞かずに教会へ直行した場合、ギル君に会わずに言峰神父に情報を求めていた可能性が高い。
なのはは、改めて感謝と信頼の気持ちを込めて、腕飾りに扮したデバイスの表面を撫でた。
さて、神父が信用できないというならば、是非とも、この少年に、なのはを陥れた理由を訊いておきたい。
あの大男が陰険という感覚(フィーリング)はあるが、それだけで納得してはいけない。

「その、言峰神父が私に意地悪したって言うけれど、そんなことして監督役に利益があるのかな」
「誰か、願い事を叶えさせてあげたい人がいるとか?」

その質問にギル少年は、またも眉をしかめて答えた。

「貴方が気に入らなかったからです」

「え?」

「コトミネにとって、ナノハが気に入らない人間だったからでしょう」
「大抵の参加者は、契約時にコトミネとの長い長い問答に辟易して冬木教会を出る」
「しかし、ナノハは違った。サーヴァントを連れないという例外(イレギュラー)でありながら、あんなにアッサリした問答でコトミネが放した」
「その理由は、“貴方のことが嫌い”というより、反りが合わないと感じたんでしょうね」
「こうして直接逢えば、わかる。高町なのはと言峰綺礼は違うニンゲンだ」


「………………つまり、ほんとに意地悪?」

「はい。意地悪です」

「…………………………」
《…………………………》

まいった。
これでは天下のエースといえど、お手上げだ。
まるで自分の為にあつらえたかのような逆境。
空を飛ぶにも空気がない、空間がない、仲間がいない。そんな感じ。
もうスターライトブレイカーを撃って、ミッドに帰ろうかなーと思ってしまう。思って、しまいたい。


「そんなに気落ちしないでください。そのためにボクがいます」
「日差しが眩しいですし、どこか涼しい場所に行って話をしましょう」

なのはは、ギル少年が天使に見えた。
フェイトちゃんが天から降りてきたかのように思えた。

そんなこんなで、なんだか精神ゲージが上向いてきたので、なのはは、さっそく教会に入って話を聞こうとする。
が、それはギルに止められた。

「――っと、教会はよくない。今はコトミネが留守ですが、よくない女(マスター)が居ます」
「携帯でタクシーを呼びました。少し、ここを離れて街にいきます」

「タクシー代は払うよ」
《………………》

「いえいえ。今回はコチラの手落ちなので、経費から出しておきますよ」


+ + + + + + + + + + + +

+ + + + + + + + + + + +


「つまり、『サーヴァント』が『宝具』を使ってイカサマするのが、本来の聖杯戦争の戦い方?」
《…………》

「はい。身も蓋もない言い方ですが、それが正解です」

あれから、オシャレなカフェテラスに連れられて、なのはは『サーヴァント』と『宝具』についての詳しい説明を受けていた。
なんでも、聖杯戦争の準備期間に冬木にいる魔導師なら、その実力を問わずに『英霊』を1体召喚することができるらしい。
召喚された英霊はサーヴァントと呼称され、主(マスター)となった参加者と共に願いを叶えるべく、一緒に戦うんだそうだ。
そして、サーヴァントが使う『宝具』と呼ばれる『概念武装』は、星神が用意した花札のルールに介入できるマジックアイテム(ロストロギア)らしい。
ギルが説明を続けた。

「サーヴァントは、ほぼ例外なく『宝具』を所持しています」
「所持数は個体によって異なるけれど、どれも固有の効果があり、勝負の趨勢を左右するものばかりだ」
「宝具本来の効果が、花札の勝負でどのように変化するか。それは星神に依存しているため、サーヴァントと宝具の正体を見破ったとしても、なんの意味もないと言っていい」
「また、サーヴァントには『幸運』という、運命を捩じ曲げるための能力値が存在します」
「なのはさんは、花札の経験者のようですが、高ランクの幸運を持つサーヴァント相手では、宝具を使用されずとも勝利することは厳しい」
「単純に“頭のいい”サーヴァントも存在しますが、彼らについては……感情面から攻めるのがベターでしょう」

聞けば聞くほどに不利としか言いようのない情報に、なのはは頭を抱えたくなった。
イカサマだの、運命だのを使うような相手に、真正面から挑んでも勝てる気がしない。


「あっ!今からサーヴァントを召喚するのは、どう?」

「―――無理ですね。コトミネは、それを睨んで正午に準備期間を打ち切りました」
「戦争が正式に開幕した以上、サーヴァントを呼ぶような真似は星神が許しません」

「うう~、レイジングハ~ト~」
《……問題ありません、戦いましょう…………》

起死回生の案を潰され、なのはのテンションもペシャンコになった。
思わず、レイジングハートにすがってしまう。
すると、ギルが目線を、なのはの腕首に合わせて、尋ねてきた。

「……ナノハ、その腕飾りはなんですか?」

「レイジングハート、えっと私が使う魔法の杖があるんだけど、その待機形態(スタンバイモード)。」
《…………どうも》

「これは……。ちょっと待ってください」

少年は突然、虚空に目線を移し、なにか一言をささやいた。
その瞬間、魔力が薄く拡散して、周囲を覆った。

「さっきから、周りの人間の注意をそらす道具を使っていましたが、それの効力を強化しました」
「その杖を起動させてみてくれますか」

周りの様子を伺うと、ギルの言う通りの効果が発揮されているようだ。
とりあえず、ギルの言うことに従ってみることにする。


《………………》

「ほう。杖というより槍に見えますね。突くことは?」

「できるよ。本気のときは魔力刃を発生させて、―――こう!」
《………………》

軽く動作を交えて使用方法を解説する。
ギルは目を光らせて、レイジングハートを観察していた。
人外の感覚を保持するデバイスでもなければ聴こえないほどの小声で、自らの考えを確認するかのように呟いている。

「持ち主の精神そのものが力となる杖の系譜……」
「名前は『不屈の心』……それが、『魔導師の杖』?」
「しかも……」

《………………そろそろいいのでは?》

「――――間違いない……!」

《…………………………》

「ん?ああ、もういいですよ。ナノハ」

ギルの注文が済んだので、なのははレイジングハートを宝石状態に戻した。
目の前では、ギルが落ち着きを取り戻して、ミルクを口に含ませている。
しばらくして、彼は言った。

「ナノハ、レイジングハートは『デバイス』ですね?」

「うん。知ってたの?」



「実は、数十年も前のことになるけれど、ギル・グレアムという男が、聖杯戦争の勝者になったことがある」
「彼は、この島国の軍人や、ヨーロッパの魔術集団を蹴散らして、ヴァルハラ温泉の一番湯に浸かった」
「彼は、二匹の猫を飼っていたんだ。そして、温泉の力でそれらを“ヒトガタに変えて”故郷に帰っていった」
「そこで魔導師の存在とデバイスの技術が、先代の戦争監督者『言峰璃正』に渡った」
「当然のように魔導師の存在は秘匿された。デバイスは、『ルビースタッフ』という変身専用の魔術品として魔術師の間に出回っています」
「今現在のグレアムは、リセイと“ゴモリーちゃん”“セガールちゃん”と呼び合う仲なんだとか」

「(……………………………………ゴモリーちゃんって……)」
《………………………………》

なんだか、とんでもない黒歴史を聞いた気がするが、続きがあるようなので、耳を傾けることにする。

「レイジングハートは、そんな贋作の玩具とは全く違う」
「デバイスでありながら固有の神秘を持ち、それは『概念武装』としての資格を十二分に持つほどだ」
「加えて、ボクの眼には、レイジングハートの魂の存在がはっきりと感じられた」
「つまり、レイジングハートは、しかるべき者が使い、語るべき者が語り継げば、英霊となることもできる」



「え―と」

なんだか凄いことになっている気がする。
でも、オカルト色が強くて、理系人間の高町さんにはさっぱりだ。

「これで、『宝具』の問題は解決しました」

「なるほど」

「あれ、……嬉しくないんですか、ナノハ?」

「―――――わーい、うれしいな?」

どういう理屈かまったくもって分かりません。
つまり、どういうことなのだろうか。

「……分り易く言い直します」
「『レイジングハート』を『宝具』として、認可します」

「おー!なるほど!」
《マスター、こういう時は黙っている方が賢明かと》
「…………………………」

「聖杯戦争では、サーヴァントの宝具の他にも、強力なスキルや概念武装が『宝具』扱いとなって、花札に影響を与えます」
「宝具そのものではないので、効果を発揮するには、実力か来歴を温泉(聖杯)に認められる必要があるのですが―――」
「―――――――そこは、ボクが裏技でクリアします」


――――フ、と手の感覚に狂いが生まれる。
手首にあったレイジングハートが一瞬だけ消えて、―――次の瞬間には戻ってきた。

「これで、レイジングハートが宝具として機能します」
「よかったですね」

「……ありがとう、ギル君」
《礼を言います》

なんだか、レイジングハートをつけた手首がポカポカしてくるような気分を感じて、なのはは思わず笑みを浮かべた。
そのまま、両手で少年の手をとり、感謝の言葉を送った。

「いえ、なんてことはありません」
「こちらこそ珍しいものを見せてもらいましたから」
「『宝具』の効果については、集中すれば自然とわかりますよ。試してみてください」

言われて、レイジングハートの効果を調べる少女。
なのはは、目をつむって、自らのデバイスを思い浮かべた。


+ + + + + + + + + + + +

全力全開!粉砕!玉砕!大喝采!チーム
高町なのは MP:5/20

『魔導師の杖・昂翼』(レイジングハート・エクセリオン)
消費MP:5 開始1ターン目のみ使用可能。
使用した勝負でアガると、ダメージが+1~2文強化される。
こいこいする毎に、強化の最大値が+1文上昇する。

+ + + + + + + + + + + +



「おおお」
《Oh》

なのはの脳裏に、自陣営の情報が映し出された。
少し、ムラッ気があることは気になるが、12文を削り合う勝負では相当に強そうな印象がある。
――――これなら、いける。

「見えたようですね」
「他にも、敵が使用した宝具の効果を知ることもできますよ」

「……」
《……》


+ + + + + + + + + + + +

僕のワカメ~死んでもいい2010~チーム
間桐慎二 WP:0/555

若葉色の遊楽園(ワカメ・パラダイス)
消費WP:5 自ターン開始時に使用可能 条件・残り文数が5文以下
真剣に海を愛し、心の底から海と向き合えるものだけが辿り着くことができる幻海世界。
  • 術者が未熟なために抑えきれない力が見境無く降りかかる諸刃の術。
  • 維持できずに結界が解けていますと、なぜか結界発動前の状態に戻る。
  • 他に2つの宝具があるが封印されており現在使用不可。

+ + + + + + + + + + + +



「これは………………」
《………………》

慎二の宝具のデタラメすぎる効果に、少女と相棒は冷や汗を流さざるを得なかった。
本当にデタラメすぎる。
というか――――

「なんで、間桐慎二さんは宝具を使えるんですか?」

「………え?シンジが宝具を?」

「あ、うん。そう」

ギルが深刻そうに悩みだし、ちょっと重い雰囲気になってしまった。

「…………まぁ、前回優勝したということで、星神に認められたのかもしれませんね。案外、温泉で叶えた能力かもしれない」
「少なくとも、前回の戦争では、宝具を使ってはいませんでしたよ」

「え、じゃあ、どうやって、3文しかないのに勝ったんですか?」

「3文?なんのことですかソレ」

オウム返しをされた なのはは、慎二のことについて説明した。
3文しか持っていないことを含めた、勝負の詳細を伝えると、ギルはどこか冷たい目をして切り出した。

「ナノハ、君は騙されているよ」

「―――――」
《本当ですか!?》

―――――あんなに親切だったワカメさんが、私を騙していたなんて。
動揺する少女に、ギルは加えて言った。

「互いの手札を見せ合うなんてローカルルールは、存在しない」
「それに、3文なのもおかしい。なにか、聖杯戦争の秩序を乱す反則行為を行っている可能性が高い」
「ボク達が“視た”のは、貴方が負けるところだったから、気がつかなかった」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
《(やはり、あんなモノにマスターを近寄らせるべきでは、なかった!)》

負けながらも感謝していた相手が、とんでもない詐欺師であったという可能性を聞き、二人の心は憤怒の雷で満たされた。
それを数値換算するならば、ジュエルシード4個分というところであろう。
そんな二人の前にいるギルは、目を細めて何か呟き、席を立った。

「周りに使った“アレ”を解除しました」
「ボクは、これから彼を確保するために動きます」
「勘定はここに置いておきますから、では――――」

そう言って、教会に向かって歩き出すギルに、なのはは声をかけようとしたが、

「そんな、悪い――」



「ナノハ!これから頑張って!」

あまりにも早い少年の去り際に、なのは は一言返すのが精一杯だった。

「―――――ありがとう!頑張る!」


テーブルの上には、金貨が1枚、残されていたのだった。




+ + + + + + + + + + + +

+ + + + + + + + + + + +


「やれやれ、どうしたものか」

「―――喝。どうしたもこうしたもない」
「我々の目標がカフェに入ったそうだ。出たところを叩くぞ」

「やれ、やれだ。仕える者は ままならぬ」

二人組がオフィス街を歩く。
静かに、目立たぬように。
侍と坊主見習いが、エースを狙って動き出していた。



第3話『秘剣、燕返し』につづく>


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最終更新:2010年07月18日 16:50