風を切り裂き地を駆けるライダーに対して、このフェイトもまた6課最速の魔導士だ。 速度で遅れを取る事など無い。
地面に打ち込まれていく雷槍を見事な側転でギリギリ回避していくライダーだったが、脇腹や腿を雷に焼かれて白い皮膚をきつね色に焦がす。
幾度目かの空爆に晒され、弾かれ、ゴロゴロと地面を転がるライダー。

「セット!」

消費した分の猛追の矢を魔力の許す限りに追加する。
矢継ぎ早に行われる魔力行使に彼女の体内のリンカーコアが唸りを上げる。
遠距離、は駄目だ。あのスピードで動く相手には長距離砲は当たらない。
ならばこそ近接、中距離での戦術を五つ、六つ――同時に展開する脳内シミュレーションに用意される魔法は優に10を超えている。
それは「いぶし銀」の技巧を持つ彼女の義兄譲りのマルチタスク。
あのクロノハラオウン直伝の高速思考は幼少からの10年の練成を経て、生まれ持った高機動の資質に更なる輝きを与え
近、中、遠距離を問わず、戦場のどこにいても味方をフォロー出来、また誰よりも早くそのポジションを埋める事の出来るという恐るべき特性を秘めた魔導士へとフェイトを成長させる。
付いた渾名が最速のオールレンジアタッカ「ライトニング(雷光)」
先の話に出たクロノをして、あと1,2年で越されるかもな、と愚痴らせるほどの
彼女の織り成す驚速の連携は無限のバリエーションを以ってまさに鳴り止まぬ稲妻の如く敵に降り注ぐのだ。
相手は度重なる槍の雨を回避するため地面を転がり、飛び退り、既に擦り傷と感電による火傷で痛々しい姿を晒している。
もはや反撃の糸口も、その場に踏ん張る事も出来ずに吹き飛ばされてしまう。
射出魔法を弾くも衝撃が全身に伝わり、きりもみしながら吹き飛ぶサーヴァント。

「もう抵抗するな! 武器を捨てて投降しろッ!!
 無駄な怪我が増えるだけだと分からないのか!?」

再度、相手に降伏勧告を呼びかけるフェイトだが紫の髪たなびく背中には全く届かない。
空からの一方的な蹂躙。なまじ敵が強いだけに攻撃は決定打にならず、相手の生皮を一皮一皮剥いていくように痛めつけていく光景が続く。
心優しい執務官には酷な仕事となった。

(シグナムは………)

ふと相方の騎士の安否を気遣うフェイト。
その時―――数100mほど離れた木々生い茂る地点から、ゴォォウ!!と凄まじい業炎が立ち上った。
離れていても、その火山の噴火のような轟音は聞き逃しようがない。

(紫電一閃……!)

あの業火は他ならぬ、かのベルカの騎士が放つ必殺の太刀による噴炎だ。
向こうの戦況も佳境に入っているのかも知れない。あるいは今の一撃で勝負がついた?
ならばそろそろこちらも詰めに入ろうと思い立った――

(え……?)

その側面から――――――フェイトの思考の間隙を縫うように、こめかみに高速で飛来する迫るナニカがあった。

「なっ!!??」

それは旋回するかのような軌跡を描いて彼女の顔面に突き立つ。
それを銀色の光沢を放つ杭のような短剣だと魔導士が視認出来たのは
常時張っていた体表面を覆うフィールドが、その切っ先を辛うじて阻んで止めたからであろう。
頭蓋骨ごと串刺しにされなかったのは幸運。念のために防御に魔力を割いていたフェイトの聡明さ故であろうが。
その凶器は他ならぬ、今追いかけている女性の手から放たれたもの。
長く伸びた鎖に繋がれているそれを、完全にこちらに後ろを見せながらに魔導士の一瞬の隙を付いて投擲してきたのだ。

意外な反撃に息を呑む―――
それだけの間、それだけの刻―――
追跡の中断と思考の混乱を招いたというだけで―――

だがそれだけのチャンスで十分。
それを生かせないような愚鈍はサーヴァントなど名乗れない。

「私を前にして余所見とは―――」

上空の魔導士に背を向けていた騎兵が今、ここでおもむろにターンする。
前方に向いていた速度をボコン!、とアスファルトを踏み砕くような切り返しと共に強引に方向転換。
慣性の法則を脚力で強引にねじ伏せ、踵を返し、数歩助走――――
そして、そして釘剣が相手にヒットし、敵の猛追に一瞬の陰りが見えたと同時。

ホップ、ステップ、、

「行きますよ―――――魔術師ッ!」

―――――――大ジャンプ!!!!

ドォォォン、!!!という凄まじい擬音が何よりも似合う
まるでロケットが打ち上げられたかのような踏み切りと共に――――ライダーは宙空へと身を躍らせた!

紫色の砲弾。放たれた対空の迫撃砲。
乱れ散る長髪をなびかせて、高度はぐんぐんと上昇。 10m、20m、ッッ!!

「そんなっ!??」

体勢を立て直すのに一秒も要してない。
すぐに相手に向き直ったにも関わらず、敵は逃走を止め
遥か上空に居を構える空戦魔導士に向けて捨て身のダイブを敢行したのだ。
そのあまりと言えばあまりな跳躍力に悲鳴じみた声をあげるフェイト。 当然だ。埒外なんてものじゃない!
翼持たぬ者が要するであろう常識的な跳躍力は生物の構造上、その身体強度の限界を超えて飛ぶ事は出来ない。
だがそんなセオリーを無視して……否、木っ端微塵に砕いて行われたそれは、もはや跳躍ではなく「飛翔」。
飛距離は伸びる。 30、40、。 ソレは瞬く間にフェイトの眼下にまで上昇。
地面から打ち放たれた、まさに対空砲撃と化した騎兵に対し、プラズマランサーを当てるのは難しい。

「シールド!!」

ならば自ら迎撃――その砲弾を打ち落とす!
いかに凄まじい突進であろうと一直線。空戦による攻防のアドバンテージは今だ、空を自由に駆けるフェイトにある。
紫色の砲弾に対し、フェイトは右手に魔力を集中させて今、全力のシールドで受け止めたのだ。
宙空にて激突する紫と金色。
空を魔力の残滓で染め上げる二人の光はまるで月光に舞う蝶のよう。
ギギギッギギッッ、という鼓膜を削られるような魔力陣の擦れる音が宙域一帯に鳴り響く。

「く、ぅ!!」

凄まじい衝撃がフェイトの全身を駆け巡る。だが受け止めきれば自分の勝ちだ。
下手に逸らしたり避けたりして敵を逃がし、再び地に降り立たせる事は無い。
重力の楔に縛られた者が、空に住む者を前に宙に身を躍らせるという事実。
このまま相手の勢いを減退させ、弾き返すだけで期せずして敵の無力化は完了。
力なく浮き上がり、自由落下に身を任せる以外に術の無い肢体に空中での同時連携を数十発叩き込めば、それでノックアウト―――詰み、だ。

「はぁッ!!!」

シールドの残り魔力を叩きつけるようなバリアブレイクで相手の突進を弾き飛ばすフェイト。
相手の奇襲をほぼ完璧な防御にて無力化。プラン通りの展開。
今度こそ決まった――――大鎌を力のままに握り直し、締めの追撃を行う―――

「!!」

その期に及んで―――またもフェイトが目を見張る事となった。
そこでも敵の行動は彼女の斜め上を行くものだったからだ。

目の前の敵を無力化し、追撃に身を乗り出した彼女の鳩尾に衝撃が走る。
ライダーが中空において放った蹴りがBJの上から突き刺さったのだ。
予想外の反撃に息を詰まらせ、出鼻を挫かれるフェイト。

それは苦し紛れの反撃以上の意味を持たず、不安定な体勢から放たれたこんな攻撃で魔導士を壊せる筈が無い。
だがその蹴り付けた反動でライダーはこちらの手を離れ、ぐんっと地上への落下を開始。
むしろこれが目的かと気色ばむフェイト。 
例えそうだとしても、こちらの追撃の方が早い! 逃がすわけにはいかない!
そのたなびく長髪を称えた背中に追いすがろうとする彼女。
そんな一瞬だが完全に無防備になったその手首に――――

「あ、ッッ!??」

―――驚愕の声と共に何かが絡み付く。

何かはまさに今、フェイトの左手首を締め上げ、思いっきり体ごと引っぱってくる。
何が起こった!? 前後不覚に陥る魔導士。
牽引力で体勢を崩し、同時詠唱によって、テーブルに接地された数々の魔法が霧散してしまう。

「―――本命はこちらです」

耳に響くその声。 敵……あの紫の騎兵の「してやったり」という呟き。
そう、そのリストに巻きつきギリギリと彼女の手首を締め上げているのは、鎖。
言うまでも無くサーヴァントの武装である短剣の尾から伸びている金属の縄であったのだ。

フェイトを後ろ目に上空30m以上の高度から降下したライダーが、高度を全く感じさせぬかのように
翼無き者とは思えないほど見事に、地面を滑るように着陸し、悠々と地上に降り立った。
そして、間髪入れずに再び走り出す。 今度は連環によって繋がれた「エモノ」を引き摺って。

一瞬の躊躇が生んだ状況。
左手に巻き付く敵の縛鎖。これでフェイトの制空権は大幅に制限され、先ほどまで為す術の無かった騎兵の攻撃は十分に射程内となる。

(何て凡ミス……油断なんて微塵もしていなかったのに…ッ!)

自身の詰めの甘さか。それとも敵の埒外がフェイトの秤を越えた事によるものか。
そんな事は今更どうでもよかった。
魔導士絶対優勢の戦況が、今ここに互角の展開を醸し出す結果となったのだ。

再び地を駆けるライダーと、先ほどまでと打ってかわって10m前後の低い高度で彼女と並走しながら飛ぶフェイト。
騎兵が駆ける一本道であった山道は再び林道へと景色を変え、道路の周りにちらほらと生い茂る樹林が高々と聳え立っている。
その中を疾走する二人。

ギリ、ギリ、、ギリ、、、ギリ、、、、ギリ、、、、ギリ――――

左手首が捻じ切られるほどに絞まる。
その戒めの鎖を担うのは、疾走しながらまるで根っこのように両足で地を食み、得物を渾身の力で引き付けているライダーの姿。

「痛ぅッッ…………」

強烈な引き合いで魔導士の肩関節が外れそうになる。
何という膂力……! 先ほどから出力を上げて上昇を試みているにも関わらず、相手は持ち上がるどころかビクともしない。

そして―――舞踏は新たなるステージへと移行する。

目の前に迫るのは数え切れないほどの木々生い茂る森。
魔導士の顔が青ざめる。直感で判断するまでも無く、あそこに入ってしまったらまずい。
そこは間違いなく自身の特性の大半を殺されるフィールドだ。
高速戦闘と機動力を旨とする自分のアキレス腱に、楔を打つ戦場。
引きずり込まれたら戦局は急転直下。一気に相手へと傾く事になる。

「く、ううぅぅ……!!」

しかし必死の抵抗空しく、まるで牽引車に引きずられるかのように力任せに引き擦られるフェイト。
パワーでは明らかに向こうの方が上だ。
そして激走に激走を重ねる両者が、前方に直角に折れたコーナーを迎え、それに対し減速せずに突っ込んでいくライダー。
そのままコーナーを曲がらずに直進し、道路を跨ぎ、ガードレールを陸上のハードルのように飛び越え、ものの見事にコースアウト。
眼前に広がっていた深い森林へと身を飛び込ませる。当然、フェイトを引き摺ったまま。

まるでカメレオンの舌によって絡めとられ、その口へと放り込まれる虫のように―――
ぽっかりと空いた森が金の髪の魔導士を飲み込むのだった。

今、深く昏き森で縛鎖に囚われた乙女と魔幻の女神の織り成す、チェーンデスマッチが開幕を告げたのである。


――――――

Flame&Lancer2 ―――

「、イ………オイ、聞いてんのか?」

突然、耳に男の声が入ってきた事により騎士は己が意識を深層より浮上。
春雷の槍渦巻く戦場へと帰還を果たす。

「………………」

タガの外れたような槍撃の嵐を幾度となく打ち据え、その上で切り離した意識。
人としての部分が、重労働を科している肉体そっちのけで夢を見ていたらしい。

「すまんが聞いていなかった……何だ?」

「いや、だから大したもんだって誉めたんだよ。」

「そうか」

「何だぁ…?初めからの見積もりだが、明らかにお前の反射速度を超える速さで突いたんだぜ?
 それを既に36合―――涼しい顔して凌いだかと思えば今度は気絶したみたいにボケっとしやがって。」

気絶していた、とは言い得て妙かも知れない。 正確には余分な意識をカットしていたと言うべきか。
通常のままでは相手の攻撃を受けられぬと判断したシグナムは
五感――視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚。 その複雑に絡み合う神経と思考のうち、戦いに使用する以外の一切の機能を肉体から切り離した。
まさに完全な戦闘機械となる事で神経の伝達速度や反応を飛躍的にアップさせて相手の攻撃に対応したのだ。

「無我の境地、無明の位って奴か。
 ありゃなかなか難しいんだが、其処に至ったのはいつだい?」

「生まれた時から出来たぞ」

一瞬、言葉を失い目をしばたたせるランサー。
彼とて人の御業という意味でのあらゆるジャンルを研鑽し、磨き上げ、その練磨した強さによって英霊と呼ばれた男である。
そんな彼が今、目の前の女がしれっと言った事の意味。その凄さ、凄まじさを分からぬ筈がない。

「昔、主と共に赴いたげーむせんたーという所にあった遊戯施設を思い出していた。
 土中生物を何匹叩き殺したかを競うゲームだ。」

「俺の槍はモグラかよ」

「ウルトラハードよりもだいぶ速い」

「ハッ! 面白え姉ちゃんだなぁ! ひょっとしてお前、結構、凄い奴なんじゃねえの?」

後ろ手で後頭部を掻きながらに今更感のある事を言うランサー。

「ベルカの騎士……ヴォルケン……むぅ、聞いた事ねぇぞ。
 お前さんほどの手練となれば、一度くらいはこの耳に入っていてもおかしくない筈なんだが。」

「我らはここではない所から来た。
 時空管理局……この星の住人にはその存在は秘匿され詳細は知らされていない。

ついでに言えば、このヴォルケンリッターという名も本来ならば歴史の闇に埋もれた名である。
彼女も今はもう命を賭した果し合いをする相手にしか名乗ってはいなかった。

「ああ、道理で」

納得したようにうなづくランサー。

「んじゃま、素面に戻ったところでもう一丁行くかい?」

再びギチリ、と空気が凍り、凝縮した。
槍がゆらりと正面、シグナムの正中線に向けて標準を定める。
対して再び、自分に向けられた紅き切っ先に相対する烈火の将。

(久々に踏み込んだが、やはりきついか…)

騎士の体の節々に電流のような痛みが走る。 筋肉が己が意思を凌駕した動きに悲鳴を上げているのだ。
彼女こそ生まれついての戦士にして、闘い殲滅するために生み出された、とある魔導書の守護騎士プログラム。
ある意味、サーヴァントに匹敵する戦闘マシンだからこそ可能な、人体のリミッターを外した肉体運用法。
「速度」に勝る相手に対する処方。あのフェイトと交戦した際にも使っていた、反射速度と反応速度の強引な底上げだ。

だが、故に今、問題となるのは―――
それを今ここで使い、そこまでしてようやく均衡を保っているという事実だった。
自身の体中に至る所に刻まれた傷は、打ち損じたモグラ……否、敵の真紅の槍がつけたものに他ならない。
手足、脇腹、胸、首に残る刃の痕は致命傷ではないものの、逸らしきれなかった槍が己が肉体を削っていった明白な証であった。
常時、知覚全開にしてなお凌ぎ切れない猛攻。
剣と分厚い甲冑の恩恵により何とか急所を外してはいるが、このままでは……

「…………フ」

だが、その口に湛えるは更なる不敵な笑い。 まさに吹っ切れたといった感じの彼女の表情。
守り切れない? だからどうした? 元より防御を固めて縮こまっているのは性に合わない。
当然の事だが戦は――――――守るだけでは勝てないのだ。

「せぇあッッ!!!」

炎を纏う甲冑がその凄まじい気合いと共に爆ぜる。

その竹を割ったような潔さがひたすらに心地よい。
喜色を満面にしたランサーが、これまた両の足を地に踏みしめ断固不退の様相にて対峙。

「来な」

一寸も動かしていない筈なのに、ゆらゆらと揺らめくように見える男の槍の穂先。
そこから溢れ出す魔力の残滓はまるで死神の手招きのよう。
不吉な気配漂う呪いの朱槍を前にして騎士は、牽制もフェイントも一切無しに真正面から突進を敢行する。

騎士の踏み込みは豪壮なれど男にとっては決して速くは無い。
左右後ろの空間をふんだんに使っての防戦ならば比較的少ないリスクで迎撃出来るだろう。
だが今、男がそんな無粋な真似をする筈がない。

「えええええりゃッッッ!!!!!!!」

ボッ、ボッ、ボッ、と陽炎のように朱艙の切っ先が分身を開始。
一つが二つ、二つが四つ、四つが八つ――――分身などという生易しいものではない。
それはまさに分裂。 真紅の槍の煌きは幾多の刃閃を伴い、男の周囲を囲み
結界じみたその弾幕はまるで不可侵の防御にして絶え間ない攻撃の序章。
ガトリンク砲の如き連撃が今また、駆ける剣士に襲いかかる。
その姿、闘神・阿修羅の如し。
本当に自分と同じく二つの腕のみで行える所業なのかと疑わずにはいられないシグナム。

「頼むぞ騎士甲冑……今はお前の堅牢さが我が命運を左右する!」

両の目を限界まで見開き、赤き結界に自ら踏み込む将。
それは全開で回る扇風機に自らの手を突っ込む行為に似ていて、自殺行為にさえ見えるゾッとするような光景だ。
彼女が狙うは身の毛もよだつ相打ち戦法。 防御をアーマーに任せてのクロスカウンター。
同時に肉体にヒットすれば必ず打ち勝てるという自信がなければ出来ない捨て身の戦法だ。

烈風さながらの猛攻の中、決して両目を逸らさず一つ―――
剣を死に物狂いで振いながらに一つ―――
イナゴの大群相手に剣を振るうような、絶望的に埒のあかない光景を前にして、それでも一つ―――選ぶ! 
その一突きを! 辛うじて見えた赤い線。
点が、線として捉えたその閃光こそ男の持つ槍の柄に他ならない!

「せえいっっっ!!!」

10の刺突が彼女の防御を突き抜け肉体を削っていく中、その1に対し剣を振り上げるシグナム。
バォウ!という、大気を根こそぎ持っていくような騎士のフルスィングは男の槍を勢いよくかち上げ―――

「っ!? ちぃっ!!」

――――ない!

斜め下方から振り上げた姿勢が横に泳いでしまう。そのあまりの手応えの無さ。
霞を切ったかのような感触に歯噛みする女剣士。

「ようやっと亀が顔を出したか」

そこに空気を切り、大気を割って繰り出される刺突4連に、払いで締める計五つの赤い光。
ボン、ボン、というある種、小気味の良い音がシグナムの鼓膜を震わせる。
だがそれは恐ろしい事に、まさに男の槍が通り過ぎた後に追随する形で鳴動。
間抜けなほどにタイミングのズレた轟音。

「だが、ちょっと見え見え過ぎだぜ、魂胆がよ。」

「っ……おのれッ」

それが意味する所は一つしかなく、男の槍戟は一つ一つがマッハの壁を優に超えているという結論に至る。
相打ちや鍔迫り合いに持ち込むことすら至難。
触れる事すら叶わぬアンタッチャブル・レッド・サイクロン。
これ以上ははっきりとジリ貧だ。
このまま同じ展開を続ければ自分はもはや目で追うのも億劫になるような手数にたちまちのうちに飲み込まれてしまうだろう。

(こんな時でなければ見惚れているところだな……)

敵のその力。純然たる戦闘力に戦慄を覚えずにはいられない。
その戦慄と共に今、騎士の胸に湧き上がっているのは純粋な感動だった。
剣士として、その技量の壮絶さ―――そこに敗北感を禁じえない将である。

「はああッ!! はっはァッッ!!!!」

猛追する槍兵がその本性を見せ始める。
嬌声混じりの気合いと共に男はアクセルを終始ベタ踏み。
更に、更に、加速ッ、加速ッッ!! 
既に残像現象を伴うその動きは減速という概念のコワれた暴走超特急だ!
剣士が辛うじて往なした一条の閃光が、すぐさま戻ってきて彼女の横っ腹を、首筋のすぐ横を通り過ぎていく。
何とか鍔迫り合いに持込み、せめて一呼吸、酸素を体に取り込みたい剣士であるが、その隙もない。
場に踏み止まれず、得意の空からの打ち落としの機会もなく、じりじりと後退を余儀なくされる。
身のこなし、歩法、体捌き、フェイントを織り交ぜた気配の使い方に至るまで一切の無駄の無い理想の挙動。
術を突き詰めた――――まさに極めたとしか思えないレベルにある目の前の男。
ダイヤの如き強さと輝きを秘めた術技の結晶が目の前にあった。
これほどの、これほどの戦技。 間違いなく生涯を武に捧げた者のみが到達し得るといわれる――剣聖の域。

「………答えろ!! 貴様は……いや、貴方は何故、私たちを襲った…!?」

「まだそんな事言ってんのか? いい加減、白けるぜ」

「いや、言わせて貰う! こちらには貴方のような者から命を狙われる謂れは全く無い!
 これほどの槍の使い手……さぞや名のある騎士と見受ける!
 そのような者が外道に付き従っている筈が無い……何故だ!?」

剣を交えた騎士の直感でわかる。
知らず彼女の口調にも畏敬の念が篭ってしまうほどの、それは偉大な何かだ。
交えた刃、かわした数百合は決してウソをつかない。
その根底にある戦士としての輝き、魂は誓ってテロリストなどに組する者のそれではない。

「名のある、か……まあ、あるっちゃあ、あるんだが―――シィッ!!」

「ぬうっっっ!!」

シグナムの頬を紅い閃光が通過した。 更に半歩、後退を余儀なくされる騎士。
その凛々しい顔の右頬にくっきりと赤い痕がつく。

「外道とはまさに言い得てズバリだが、別に珍しい事じゃねえだろ? 
 手違いでいけ好かねえ主に召し上げられるなんてのは世知辛いご時世じゃそこらで起きている事だぜ?」

「ならばやはり本意ではないという事か?
 話してくれねば分からぬ事もある。 剣を交えるのはそれからでも遅くはあるまい?」

「おい、まさかお前―――ビビってんじゃねえだろうな?」

「見損なうな………そうではない。
 貴方のような使い手にはそうそうお目にかかれるものではない。
 故にだからこそ有象無象の無頼として、ただの犯罪者として相手をしたくないだけだ。」

「かぁ………面倒くせえなぁ。 御行儀の良い騎士様は」

彼女は惜しむ。 意見の食い違ったままにつく決着に納得のいくものなど無い。
そう教えてくれた、とある事件―――JS事件の折、剣を交えた一人の騎士の事を脳裏に蘇らせながら
彼女は槍の男を真っ直ぐ見据え、その解答を待つ。

「別に喋るなとは言わんが、お前さんも騎士ならば良い勝負の途中で中断を促すような真似するんじゃねえよ。」

槍の穂先を向けながらに叱咤するランサー。声には女騎士に対する失望の念がありありと籠っている。

「強敵と刃を交えるのは光栄な事だ。 正直、心が躍る。 
 中断する気は無いし決着は今ここで必ずつけよう。
 だが槍の戦士よ……刃を交えるにせよ、まずは立てるべき筋というものがあると思わないか?」

「は、……あくまで引かんか。 だが生憎と戦場で弱い奴と語る舌はねえ」

騎士の道理など些細な事と切り捨てるランサー。
事実、男にとって襲う理由や真情など本当にどうでも良かった。

(どうせあのクソ神父の事だ……口にするのも憚られる、ロクな命令じゃないだろうしな)

そんな事に気を揉むよりも男はとにかく戦いを欲していた。 渇望する魂は言葉などでは癒せない。
サーヴァントが唯一、その身の置き所に誇りを感じる事があるのなら、それは血潮飛び散る戦場以外に有り得ないのだから。

「力を示しな。 そうすりゃ口から何かしら零れるかも知れねえよ。」

あくまでこのまま戦闘続行を促すランサー。
釈然としない―――
そんな思いから、振るう剣にいつもの業火の如き猛りを乗せられないまま、相手の男に対し構えるシグナム。


――――――、、、、、、、、、、、その時


「………っ!!?」

将の全身に衝撃が走った。

見開かれた顔に大きく張り付いた驚愕。
あ、と声が漏れた口が、しかしそれ以上の言葉を発する事無く中途半端に開かれている。

(い、今のは…………?)

「それ」はどこから聞こえてきたのか?
遥か南東………ここから見えるのは鬱蒼と茂る森。
そこから――――

「テ…………」

それは断末魔じみた悲鳴だった―――――

一体、誰の…………?
半ば呆然とする思考が今、火をくべられた暖炉のように燃え盛っていく。

(テスタロッサっっ!!!)

そう、この場において将の耳に覚えのある声を放つ者など一人しかいないのだ!
今、まさに別の場所で戦っている戦友フェイトテスタロッサハラオウンの声以外には有り得なかった。

(まさか……有り得ん!?)

焦燥に駆られる騎士の思考。
あの6課の双翼、ライトニング隊長……閃光と称された最速の魔導士が、こんな僅かな時間で?

「向こうは終わっちまったかな…」

目の前の男がポツリとそんな事を呟いた。
それは、今の声が幻聴でない事の何よりの証。
シグナムの髪が逆立ち、元々の薄い赤毛が今や真っ赤な炎のように揺らめき出す。
もはやモタモタとやっている暇も余裕も一切ない。

「……良い顔になってるぜ――――お前」

男がその相貌を横目に見てニィ、と嗤う。

「レヴァンティンッッ!!」 

烈火の将が相棒、一振りの魔剣に一気に魔力を込める。
ベルカの結晶=カートリッジシステムがせわしなく稼動し、撃鉄音と共に薬莢の落ちる音が三つ―――
途端、騎士のポニーテールが……否、全身の襞垂れが魔力の奔流と共に翻る。
それは宙を焦がす炎となってシグナムの剣に集約され、纏われていく。

「本当に殺してしまうかもしれん……」

こうなった以上は後戻りは出来ない―――――
怒りに震える炎の剣士の口からはもはや一切の甘さも焦燥も感じられない。
怜悧にして底冷えのする声が響く。
そんな騎士の様相を前にして 男の顔にも感極まったような笑みが灯った。

「―――――遅えよ」

飄々とした口調はそのままに、槍を体の周囲で10ほど回転させたのは手慣らしのためか。
何にせよ、それは中断された場を再び動かすためのゼンマイを捲く行為に似ていた。
そしてピタッと後方に抱えたまま―――相手の騎士の正中線を見据えたままに―――

「始めっからそのつもりでぇ! 来やがれってんだッッッ!!!」

猛々しく吠えるランサーが再びこの場に赤き旋風を作り出す!!!

烈火の剣と春雷の槍。

その苛烈な戦いは―――――――まだ始まったばかりである。


――――――

Lightning&Rider2 ―――

それは一瞬の油断だった。 そしてやはり敵が埒外過ぎた。

フェイトは入ってしまう―――――
捕食動物がエモノを食らうために用意した魔の森に。

「くっ!!」

死へと続く魔の二人三脚。
矢のように通り過ぎていく周りの木々と片腕を極められ自由にならない体。大幅に制限された行動範囲。
そんな有様で手を繋がれ、ライダーに引き回されるがままに森へと侵入したフェイト。
眼前に広がる無数の障害物。こんな速度で激突したら、例えBJを纏っていてもタダでは済むまい。

「付いて来れますか? この私の速度に」

初めは自身の攻撃の通らない相手に苦戦させられたサーヴァントが今、相手を嬲り殺しにする料理法を展開し舌なめずりをする。
ライダーの疾走は「騎乗」していない時点ですら流星そのもので、並のものならついていけるはずがない。
その彼女に手を引かれ、木々生い茂る森林などに入ってしまったら、為す術も無い獲物は障害物や木に激突し
叩きつけられるのを繰り返しながら、引き摺られ、引き摺られ、彼女が足を止めた頃には見るも無残な挽肉となって地面に転がっている事だろう。

だが、ここで先ほどのライダーに負けないほどの意地を見せたのは他ならぬ執務官である。

「! ――――、ほう…」

ライダーが感嘆の声を上げる。
その姿、木々の合い間を縫って翻るは稲妻。 その枝を掻き分けてくるのは純白のマント。
その空を切り裂いて飛ぶは―――黒衣の魔道士!

付いてきている!
フェイトがその高速のマニューバを展開し、森林をすり抜けて
逆にライダーを猛追するように後を追いかけているのだ!

追撃は終わらない―――最速同士の戦い
その領域は既にオーバーレブリミットを超え、早くも問答無用のトップギアに突入していた。

―――流れる景色は弾丸
―――いや、景色に対して自分が弾丸なのか?
―――どっちでも良い、、
―――そんな事を一寸でも考えている余裕は無い

共に流れる綺羅星と化した二人の思考がクロスする。
追う者と追われる者が目まぐるしく逆転するこの戦い。
まるでハンターと獲物の知を振り絞り凌ぎを削る戦いのようだ。
どうやって自陣に追い込み、罠にかけ、敵を引き込めるか。
既にそこから彼らの戦いは始まり、そこで勝敗は決まってしまっていると言っても良い。
故に訓練された捕獲者と神話によって生み出された天然の捕食者。
彼女達のその戦場は、まずどちらの陣地に相手を引っ張りこめるかであり―――
その観点から言えば先ずはライダーが先んじたといっても過言では無かった。

キャノンボールの如き様相を呈してきた二人の戦闘。
あるのは強襲。急襲。速攻。
そんな金色と紫の肢体が苛烈に美しく踊り狂う様は視認できるのならば、激しく情熱的なシンクロナイズのように映っただろう。

迫る幾多の障害物。 手を鎖で繋がれた者同士、その間10mの魔の並走。
どこまでも、どこまでも上がっていく速度。
フェイトの視線の先――その眼に映る敵の姿は妙齢の女性。
美しい髪。美しい肌。 スラリと伸びた肢体に完璧といって良い、美の化身のような様相。
闘いなど知らぬ、琴などの優雅な楽器を弾いて小鳥と戯れているのが似合いそうな
そんな女神のような女性の細い腕から伸びるは無骨な鎖。
それが黒衣の魔導士の手首にしっかりと巻きつき、一定以上の離脱を許さない。
そんな状態でこれだけの障害のある森を、縄で繋がった二人が並走したらどうなるか?
当然、彼女と相手が並ぶ合い間には無数の木があり、今、ついにその一本を間に挟んで通過する。

「ううっ!!」

「―――、」

瞬間、ビィィィンと張り巡らされる鎖に捕らえられるフェイトとライダー。
急激なGに内蔵や背骨を圧迫されながら、マッハに近い速度で直進していた二人が強制的に方向転換。
両者は支点となった木を中心にアメリカンクラッカーのように弧を描き、振り子の如き軌道にて急接近する。

「――死になさい」

紫の球が杭のような短剣片手に迫る。

「……! はぁぁぁぁあああッッ!!!!」

金色の球が裂帛の気合と共に大鎌を振るう。

その軌道が交差する地点が敵と切り結ぶ時、玩具のクラッカーならば互いの球はつがいの仲良しだ。
遊びに耽る子供の笑顔を作るため、仲むつまじくカチン、カチン、と小気味良い旋律を奏でるのだろう。
だが―――この二つの球にはそんな気は毛頭無い。

ぶち砕く!!!

初っ端の激突で相手の球を粉々に粉砕すべく、美しく扇状の軌道を取って旋回――Gに揺られた髪が横に流れる。
それは上から見たら閉じる扇子を模した組体操に見えた事だろう。
互いのラインが歪にクロスする。
長物である大鎌を器用に右手で扱うフェイトと、敵を捕らえたまま左手に握られた短剣を構えるライダー。
二つの閃光じみたクラッカーは遠心力に振り回されるままに―――激突!
まさに扇が閉じた瞬間、先端にてバチィッッ、と火花が散ったかのように
それぞれの肉体の機能を停止させるために放った凶器をそれぞれ紙一重でかわし、両者は交錯して位置を入れ替える。
支点となった大木は二人の手に繋がれた鎖によって絞首刑に処される。
ミチミチと繊維に食い込む金属の様相が、まるでふ菓子のような柔らかい固体を握り潰すかのような光景の元に、やがてばつんと力任せに切断される。

「う、くっ!」

支点が無くなった事で運動力が正常に作用し、半ば強制的に宙に放り投げられる両者。
並の人間ならばこの時点で脳は極限までシェイクされ、三半規管はズタズタだ。
なのに何事も無かったように二人は姿勢制御をその身に施し、フェイトは宙へ、ライダーは木の枝へ着地。
一瞬たりとも止まる事が罪悪であるかのように、再びロケットじみた加速で並走を始める。

鎖一本―――たかが鎖一本でそのフィールドは慣性の法則、作用反作用、振り子の原理。
その他ありとあらゆる運動法則がマーブルのように溶けあい二人に牙を剥く、異次元の戦場と化していた。
そんな並走戦を一体どのくらい続けただろうか?
十分? 一分も立っていない? フェイトの息が荒い。
それはスタミナ切れや精神的な負荷によるものだけではない。
左手に巻き付いた鎖が、彼女の手首を、引いては左腕、肩、全てに悪影響を与えているのだ。

その戦局が――――動く。 幾度かの打ち込みの後、

「あっ!?」

フェイトが相手の挙動の変化――――
互いを振り子の玉にする支点となった木がまたもや砕け、両者があさっての方向へ投げ出されるその瞬間
刺客が起こそうとしているアクションに得も知れぬ悪寒を走らせ、目を見張る。
そう、ライダーが鎖を進行方向と真逆の方向へと引き、渾身の力で並走のベクトルを捻じ曲げたのだ。

「うあ!?? あぁぁッッッ!???」

凄まじい絶叫が森に響き渡る。
先ほどまでは予定調和の如き美しさを持った二人の二人三脚にノイズが走る。
ライダーが太股まで露になった両の足で自身の足場である古木を挟み込み
空いている腕で枝を掴み、この疾走に無理やり制動をかけたのだ。
結果、どうなるか―――高速で前進する体と、逆側に引かれた腕。
体の一部分だけが逆に引き寄せられたその結果、フェイトの左肩が歪に捻れ、引き千切られるほどに伸びていく。

「あ、かッ、ぁ……ッ」

全身が捻じれる感覚。 内蔵が雑巾のように絞られる感覚に嗚咽を漏らすフェイト。
当然、こんな制動をかけたライダーの両足や全身も無事では済まない。
挟み込んだ足場だけでは、この急制動を達成する事かなわず
彼女は己が鎖を自身の肉体に巻きつけ、大木に自ら縛り付ける事で己を固定させていた。

「―――、つっ!」

その牽引力たるや、大木すら耐え切れずに切断されるほどのものだ。
金属の縛鎖がライダーに食い込み、その白い肌を軋ませる。まるで捨て身の戦法だ。
だがそれは逆に自身の耐久力がニンゲンに劣る筈が無いという絶対の自信の表れか。

フェイトの断裂寸前まで伸ばされた肩の筋肉がミシミシと音を立てて軋み、全身に衝撃を走らせる。
だが、そこは高速戦闘に慣れた執務官。
寸での所で制動をかけ、身体を捻って関節の稼動限界に逆らわずに飛翔、受身。
左腕部破壊という最悪の展開だけは何とか免れていた。

「……ッ! ファイアッ!!」

後方の木々にその身を残すライダーに放たれるプラズマランサー。
ライダーがその光景を見据えて唸る。

(残しましたか……小癪な)

相手の生存を確認し、舌打ち一つ。
下の木に飛び降り、射撃を回避。 またも並走を開始する二人の女神。

「は………はふ……は、ッ」

乱れた呼吸はフェイトのもの。
あと一歩で左腕がオシャカになるところだったのだ。
その痛みと衝撃は決して無視できるものではない。
BJとはいえ万能ではなく、意外な事に捻挫や骨折、間接への衝撃には弱い。

デスマッチの主導権を握っているこの女怪。
仲良し二人三脚をやるために森に彼女を誘い込んだのではない。
天性の捕食者たる彼女がこの好機を逃がすわけがないのだ。
魔導士がキッと睨みつけた先、自身の真横数mに追いついてきた相手。
サーヴァントライダーに対し並走しながらに彼女は極められた左手を掲げる。

「そっちがその気なら……こちらもちょっと強引に行かせて貰う!」

「――――! チッ」

ライダーが盛大に舌打ちをし、途端にフェイトとの距離を詰めようとラインをずらして来る。

「フォトン……ランサーッ!!」

木の枝を次々と横っ飛びで渡りながらフェイトに迫るライダー。 だが―――遅い! 

フォトンランサー―――
射出系だけで七色を誇るとまで言われるフェイトの攻撃魔法の一つ。
彼女の周囲に出現した黄金のフォトンスフィアから射出される矢は、先ほどのプラズマランサーのような誘導性能はない。
だが自身、最も効率の良い射撃魔法として多用してきた凄まじい連射性能を誇る魔弾である。

「墓穴を掘ったね。私と繋がっている以上、もうこちらの射撃からは逃げられない!」

はっきりとした意思を以って敵――ライダーを見据えるフェイト。
迫り来る恐るべき騎兵を悠々と引き付け、余裕を持って今―――

「ファイアッッ!!!」

彼女が幼い時、師事した、母の使い魔から初めて教わった
万感の思いの篭った魔法のセーフティロックを解除し、トリガーを引く!
既に隣のライン。距離にして3m弱に差し迫っていたライダーが最後の跳躍を以ってフェイトに迫る。
そしてそれと同時、正面に見据えたライダーに対して魔導士が雷撃の連弾を盛大にブッ放したのだ!

ドン! ドン! ドン! ドン!という小気味良い射出音が森に木霊し、迫る騎兵を雷撃の魔弾が飲み込んでいく。
一撃一撃の威力は低いが、速効性を求められたこの状況にて計30発に及ぶマシンガンの如き連射を相手に叩き付けたフェイト。
しかも至近距離。 宙空で回避も出来ない彼女を包み込む硝煙。
手に馴染んだ感触は確かなベストヒットの手応え……これでKO出来ない筈が―――

  目次  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年08月02日 12:34