「くっ、こいつは厳しいな」

 一般局員が持つ官給デバイスでもう十体目になるガジェットドローンを狙撃しながらヴァイスは呟いた。
部隊長の八神二佐から警戒するよう通達されていたものの、
まさか本当に公開意見陳述会の日にスカリエッティ一派が襲撃をかけると思ってもみなかった。

「ま、だからこそなんだろうけど、よっと!」

 また廊下の奥からやって来たガジェットを即座に狙撃し、沈黙させる。狙撃は久し振りだが腕は鈍っていなかった。問題は・・・

「数が多すぎるんだよな・・・」

そう、敵は今まで片付けたガジェットだけではない。六課隊舎前では今も多数のガジェット達を交代部隊達が相手しているだろう。
だがこうして屋内に避難した自分のところまで襲撃されているということは、遠からず交代部隊は全滅するだろう。
そして交代部隊が沈黙すればなんとか持ち堪えている自分達も・・・。

「くそ、また来やがった!」

 今度は一度に五体。今使っているデバイスにスコープはついてないから目視で相手に標準を合わせるしかないが、
当然ながらかなり接近を許すこととなる。ガジェット達の移動速度も考えると、この数は少し厳しい。

「それでもやるしかねえ」

 覚悟を決め、一体目に標準を合わせた。

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 その時、鼓膜を揺さぶる様な掛け声と共に、轟音と衝撃が目の前で駆け巡った。
まるで近くで落雷が起こった様な・・・正に文字通りの地を奔る稲妻にガジェット達は粉砕された。

「イスカンダルの旦那!」
「おう、ヴァイスか。良い夜だ・・・と気取った挨拶をしている場合ではないわな」

 目の前に現れたのは、一か月前に次元漂流者として保護されたイスカンダルだった。
普段はTシャツにジーンズと簡素な服装だが、
今はまるで古代の剣闘士の様な鎧の上に豪奢なマントを羽織った格好で、
牡牛に轢かせた古代の戦車に乗っているという奇妙な出で立ちだった。



「その格好・・・旦那は魔導師だったんですかい?」
「ふむ?余は魔術師などではないが・・・まあ良い、よくぞ余が来るまで持ちこたえた。
 後は余に任せてうぬ等は傷を癒すが良い」
「任せろって・・・いくらイスカンダルの旦那が強くても限度があるでしょうが」

 この男、イスカンダルの強さは恐らくSランク魔導師以上のものであることは見て分かった。
だが今回の相手は無尽蔵と思える数のガジェット達だ。それに加え、戦闘機人も二人出てきている。
流石に多勢に無勢ではないだろうか?

「フフフ、まあ見ておれ」
「いや見ておれって旦那・・・ん?なんすかソレ?」

 不適に笑いながら、イスカンダルが懐から取り出したものを見てヴァイスは怪訝そうに眉をひそめた。
何せイスカンダルが取り出したものはここミットチルダの首都クラナガンでは滅多に御目にかかれないものだ。それは・・・

「ひょっとして、角笛?」
「すうぅぅぅぅぅ・・・」

 ヴァイスの疑問に答えず、イスカンダルは大きく息を吸い、

ブオオオオオォォォォォーン!!

 一息に角笛を吹いた!

「うわわわわ!う、うるせえ!?」

 近くにいたヴァイスは堪らず耳を押える。だが、それでもなお鼓膜を振動する大音量。まるで世界中に響けと言わんばかりだ。
 ・・・そう、それは確かに世界中に響いていた。それどころか世界の壁を超え、次元の彼方まで。
かつてイスカンダルと盟約を交わした勇猛な益荒男達。彼等の耳にしっかりと、王の号令は聞こえていた!

「・・・うむ!」
「ぬっ!」
「おう!」
「むぅ!」

 そして彼等は集う・・・王の下へ!



「イスカンダルが呼んでいる!私は行かねばっ!」
「い、いきなりどうしたんですか中将!第一、行くといっても本部ビルの隔壁が・・・」
「フンッ!!」
「な、隔壁を素手で!?」

ある者は壁を破り、

「小さき騎士よ、すまんが我が王のためにそこをどいてもらう」
「ハイそうですか、とこっちが退くとでも思ってんのか?」
「ウオオオォォォッ!!」
「な、なんだ!?」
[ヴィータちゃん、気をつけて!相手の魔力値が急激に上昇中!S+、SS、SS+・・・そ、測定不可能ですぅ!?]
[旦那、一体どこにこれだけの力が・・・]
「WRYYYYYYY!!」
「う、うわあああぁぁぁっ!?」

ある者は自身の障害を蹴散らし、

「へっ、大将のお呼びとあっちゃあ仕方ねえな。カルタス、あとの指揮は任せたぜ!」
「ちょっ、こんな時にどこへ行くんですかナカジマ三佐!三佐?三佐ーーー!!」

ある者は制止の声を振り払い、

「私も行かねばなるまい、いざイスカンダル君の所へ!」
「そうは言っても父様、闇の書事件以来、父様の魔力には封印が・・・」
「ぬうううぅぅぅん!!」
「う、嘘!リミッターを気合いで破るなんて!?」

ある者は枷を千切り、世界の壁を超える。

 彼等の心はただ一つ、我等が王にして盟友イスカンダルに下へ集うこと。王の下へ・・・王の下へ!!


 所変わって機動六課司令室。ここでは部隊長補佐のグリフィスを始め、
ロングアーチスタッフ達が次々と襲ってくるガジェットドローンの対処に追われていた。
だが前衛に出していた交代部隊はほぼ壊滅、不在の隊長達に代わって出撃したシャマルとザフィーラもかなり消耗している。
誰もが頭の中に「敗北」の二文字がよぎったその時、異変が起こった。



「これは!?」
「シャーリー、どうした!?」
「六課の近くに次元転移反応・・・それに加えて市街地から多数の魔力反応を確認!」
「増援か!?こんな時に・・・!」

 臨時の指揮をとっていたグリフィスは思わず唇を噛んだ。
唯でさえ壊滅寸前で持ち堪えているというのに、増援となるともうどうにもならない。

「待ってグリフィス君、今モニターで確認・・・え?」
「どうしたシャーリー?」

 何故かモニターの前で固まってしまった同僚にグリフィスは不審に思った。まさか新手の勢力が予想を上回るほどなのか?

「こ、これはその、なんと言ったらいいか・・・」
「もったいぶらずに報告してくれ、時間がないんだ」

「・・・おじさんだわ」
「・・・なに?」

 はて、このオペレーターが言ったオジサンとは何だろうか?新型のガジェットの名前だろうか?
それとも混乱のあまりに自分の耳がおかしくなったのか?

「中年のおじさん達が六課に向かって突撃して来てる!」
「・・・・・・はあ!?」


ドドドドドドド・・・。

「この地響きは一体、って何だありゃ!?」

 ヴァイスは思わず我が目を疑った。遠く、市街地と六課を結ぶ橋から道路を埋め尽くすくらいの・・・

「今こそ盟約を果たす時ぃぃぃぃ!!」
「イスカンダル殿、加勢に来たぞぉぉぉぉ!!」
「オラオラオラァッ!!鉄屑風情が俺達のジャマをするんじゃねぇぇぇぇっ!!」
「むううううううん!!」
「ぬっふううううん!!」

おっさんの軍勢が進路上のガジェットを文字通り蹴散らし、一直線にこちらへと向かっている!

「来たか戦友達よ!今こそ我が覇道を示そうぞ!!」

 言うが否や、イスカンダルは軍勢の先陣に舞い降り、そして号令を発した。

「蹂躙せよ!」

 このとき侵入していた戦闘機人、オットーとディードはこのとき聖王の器を忘れた。勝利を、命令を忘れ、己を見失った。

『AAAALaLaLaLaLaie!!』

そして、為すすべなくムサい体臭の中へと呑まれていった・・・。


『・・・・・・・・・』

 一部始終をモニターを通して見ていた地上本部の会議室では沈黙が訪れていた。
と言うより、なんと言えばいいのか分らないと誰もが思っていた。
結果からすればスカリエッティの思惑通りにならなかったわけだが、
それを為したのがムサいおっさんの集団というのは、その、コメントに困る。
というか魔導師でない者も混ざっているし、モニターを見る限り全員素手でガジェット達を破壊しているんじゃないだろうか?

「・・・預言は実行されませんでしたね」

 六課に群がっていたガジェット達を全滅させたイスカンダルを筆頭としたおっさん集団は、
今はクラナガン市街地のガジェット達を殲滅している様子を見ながら、カリムがポツリと呟いた。

「なあ、私達って何だったん?何の為にいたんや?」
「・・・・・・」

 一人、空しそうに呟くはやての隣にいたシグナムは返す言葉がなかった。

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最終更新:2010年04月20日 22:54