「―――問答無用って訳ね」

「―――――――――」


だが、拳は届かず、通過点に交差された双銃に阻まれていた。
白昼堂々に犯行に及んだ時点である程度に危険なことは分かっていた。
いつ向かって来ても良いようにクロスミラージュを構えていたのだが、ここまで躊躇なしとは思わなかった。
どうやら想像以上に、このケモノは獰猛らしい。
こうなるともう選択の余地はない。早急にこの猛獣を鎮める必要がある。これ以上他の人間に噛みつかないように。

「それならこっちも力づくで黙らせてもらうわ!」

両手の銃口が、唸りを上げて光を灯す。だがそこから弾が出ることはない。
インファイトに於いて銃は手を塞ぐ枷となりがちだ。
引き金に指をかけ、絞る。それだけの動作で人を殺める銃という兵器だが、
拳が届く程の距離ではその数瞬が致命的な隙となる。
ましてや今は顔が触れるほどのゼロレンジ、おまけに銃身を防御に添えている状態だ。
だが魔導と機械の結晶たるインテリジェントデバイス。
ティアナ・ランスター唯一人のため造み出されたクロスミラージュは弾を撃ちだすだけの銃とは訳が違う。

≪Twin Dagger ≫

低く、意思のある声が銃より響く。刹那、先端より魔力で形成された刃が現われる。
光は銃身からグリップにかけて半円の形状まで伸び、そこからも薔薇の棘が如く幾多の尖りが生えてくる。

ダガーモードへと変形を終えたクロスミラージュ。その光刃は受け止めていた黒い腕へ侵食を開始していた。

「―――――――――」

ブスブスと、煙と綿が燃える匂いを出しながらも、パンダは引く気配を見せない。
むしろより深く、腕を突き出してくる。

「―――っせぇいっ!」

両手を思い切り振り切るティアナ。短刀程の長さの魔力刃でもこの密着状態なら胴まで届く。
だが着ぐるみはそれを読んだか後方に飛び退く。ずんぐりとした胴を刃が掠めるが、大した効果はない。
回避が完了し足に地が付くや否や再度飛び込みにかかる。まるで数秒前の焼き直し。
ただ以前と違う点は、標的は両の腕を左右に広げ、足は強く前へ踏み出していること。
回避も防御も望めない攻防の間隙を突く一撃。貪欲でありながらその手際は俊敏かつ狡猾。
ヒトの虚を突くことに特化した動きで、獣はまた一匹獲物へと牙を立てた。





ただのヒトであれば、立てられたはずだった。



着ぐるみの視界に浮かぶのは橙色の球。魔力スフィアと呼ばれるそれが3つ、高速で自分へ向かっている。

それを見て“彼”は理解した。目の前のモノはただ捕食者に喰われるだけの哀れな肉ではなく、
むしろ己を仕留めにきた狩人であると。
狩る側が罠にかかり狩られる側へと回った瞬間、勝負は決していた。


■―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ティアナが仕掛けた罠は何のことはない。
敵と至近距離に手肉薄している最中、死角となるティアナの背後、丁度頭の位置にスフィアを展開、
相手が引いたと同時に発射したのだ。
そのままでは後頭部に間抜けに誤爆するが、その時点でティアナは前方に体重を預け体を大きく沈めている。
自然光弾は頭上を素通りし、そのまま直線状にいる餓えた獣へと向かうことになる。
敵の獰猛ぶりはもはや疑うべくもない。目の前に肉があればすぐに飛びつく。例え罠があると理解していたとしても。

故に短期決戦に臨んだ。それでもやや確実性に欠ける手だったが、ティアナはあえてこの選択を取った。
ケモノという表現は比喩ではない。動きも本物の野生動物のように俊敏で、力強い。
接近戦に踏み切るのは分が悪く、距離を取ってもあの素早さではクリーンヒットは難しい。
むしろ撹乱戦なら望むところなのだが、それをしなかったのは、早く終わらせたかったという思いだろう。
捕らわれているかもしれない、無二の友達を救いたいという思いが。
自分も人のことは言えないな、僅かな雑念を抱いてしまうティアナ。



手負いの獣を前にそれがどれほど危険なことか知らずに。

「っ!!!」

脊髄反射で右手を前に出す。瞬間、手首に強い衝撃が走る。
バリアジャケットの上からでも響く感触だが後に響く障害にはならない。
だがより忌むべきことは、一丁の銃指から抜け落ちた。こと

「くっ………………」

自分の迂闊さに内心舌打つ。敵の沈黙を確認せずに感傷になど浸った結果だ。
左手に残った銃を構え、目の前に立つ着ぐるみを見据える。
見ればすんぐりとした胴体には2つの風穴が空いている。右腕は焦げ付き、
感触のよさそうな白い毛並みは見る影もなく泥に汚れ、愛らしさなど微塵も消え去っている。
満身創痍に見えるその姿はだがしかし、いまだ肉を求める肉食獣のような姿勢が崩れることなく、
獲物を見据える。

「…………………………」

今にもこちらの喉を食い破らんとしそうな敵を見据えたまま、彼我の戦力を分析する。
機動力―――タイプは陸戦、速さはAランク並。特に至近距離での動きは対応が困難。近接戦闘は避けるべき。
攻撃力―――攻撃手段は徒手空拳のみ。威力もバリアジャケットを抜くには至らないがいずれも急所狙い。
必勝でない限り一撃も喰らわないつもりで対応。
防御力―――特徴なし。着ぐるみにも防御能力は備わっていない様子。
ただし胴部分を貫通してもまるで意に介していない。まだ未知の能力を隠している可能性あり。
備考―――いずれの行動にも魔力反応は感じられない。だが動きは生身の人間の範囲を逸している。
何らかの特殊な体術を持っているのか、それとも人間以外の、機械的な存在か。

対してこちらの状態――肉体に損失なし、防御に回した右手も問題なし。
落としたクロスミラージュは後方、取りに行くのは―――無理。背を回せば途端に突っ込んでくる。
代替手段は既に構築済み、今は好機を待つべき。

最後に対処手段―――相手に接近を許さず、それでいて離脱させない付かず離れずの距離を保ち
中距離戦に臨むのが最上。

少ない時間で得られた情報を端的にまとめ次の行動に移るティアナ。その動きを


「いけないな。まだまだ詰めが甘いね。一発で仕留められないようじゃ狩人失格だぜ?
それじゃ獲物を怒らせるだけだ」


突如聞こえた声が止まらせた。



「………………」

しばし、困惑するティアナ。
まあ着ぐるみである以上中に人がいるのは自然でそれが男であっても何の不思議でもないのだが、
少し皮肉めいた声は思ったよりも若い。自分とそう変りない青年のようだ。声だけは。

「ん?パンダがしゃべるのは珍しいか?ああ珍しいだろうな。少なくとも俺は知らない」

勝手に疑問を投げかけ、勝手に自己完結するパンダ。
見た目と今までの行動と声のギャップが滅茶苦茶でもう何が何やらだ。

「……話せるなら始めからそうしてもらえないかしら。誤解を招いたってお互い損なだけでしょう」

「誤解?そんなもの何処にあるっていうんだ?
俺は喰らい、アンタは狩る。それだけ分かっていれば齟齬なんて起こるはずもないだろう」

ようやく気を取り直し言葉を返すティアナ。今の今まで押し黙ったまま襲いかかり
ここにきてようやく対話を行う相手の意図は読めないものの、
言葉が通じるのであれば交渉の余地はまだ―――ある。

「少し質問をさせてもらうわ。最近街で徘徊する着ぐるみの噂は貴方が原因?」

挑発と取れる発言は無視して会話を続ける。聞きたいことは山ほどある。
会話、というより尋問に近いものだろうが。

「へえ、そりゃおかしいな。俺がここに“いた”のは今日からなんだがね。
いや、影絵である俺に今日も昨日も明日もあったものじゃないんだがね。
そもそもいつどうやってここに来たなんてのがまず疑問だがな。
これはアレか?いつまでもおあずけを喰らってる俺へのご褒美なのかな?」

「……次の質問よ。貴方を追っていたはずの私の仲間はどこへやったのかしら」

「仲間―――ああ、あの女か。さあね、途中まで追われてたんだけど急に消えちまったよ。
ああ、やり合うならあっちの方が面白そうだったかな。空に道を作るなんて俺向きのモノを用意できたんだし」

自分に関係なくスバルは消えた、と男―――声のみで判断するなら―――は言う。
嘘、とするにはあまりにも白々しいが、この時点では真偽は計りかねる。
真実だとしても、忽然と姿を消したなどと到底納得できるものではない。

「さっき、局員に殴りかかったのはどういう訳かしら」

「別に。ただ近づいてきて有無を言わせず連れて行こうとしたから掃っただけだ。
殺人鬼にむざむざ寄って来る方が悪い。ナイフを持ててたら遠慮なく捌いてたね」

……着ぐるみで顔は見えないが、中の人は笑っているとティアナは思った。とても楽しそうに。
近づいてきたから殴った。右を向いたか左を向いたかなんて違いで誰かを襲う理由になる。
それは、理不尽か。不条理か。いずれにせよティアナにとってまるで理解の及ばない。
社会に生きる人であれば、鬱屈した感情を時として他者にぶつけてしまうこともあるだろう。
だがそれを、惜しげもなく、さも楽しそうに振り撒くこいつは一体何だ?
答えは知っている。たった今、本人の口から放たれている。

「殺人、鬼?」

まるで聞き慣れない単語に思わず聞き返す。
意味としては想像に難くはないが、それでも聞き返さざるを得ない言葉だった。

「その通り。この身は鬼を殺す人にして人を殺す鬼、人で無しのロクデナシさ。本職は暗殺だけどね。
……ああそうか。よくよく考えてみれば暗殺者が昼の往来で殺人なんて粗末に過ぎるし、
結果的にはそれでよかったんだな。
そうなると―――今なら絶好の雰囲気だな。深い都会の森に一人彷徨う少女。
シチュエーションとしちゃ最高だ」

親しい友人に語りかけるような口調で、
こいつ(俺)は私(お前)を殺したいと。負い目もなく、誇るように肯定した。

「―――最後の質問よ。この場で私に投降し捕まる気はある?」

これ以上ない敵意の宣言を前にして、だがティアナは管理局の魔導士として、最後の警告をする。
もはや答えなど聞くまでもないが―――出来ればここで頷いて欲しいと、星の空を掴むほどの僅かな望みを込めて。


「ないね。生け捕りにしたきゃ銃なり槍なり持ってきな。
従わないやつは力づく。そんなの、どんな国でも共通事項だろ」

―――それが、再戦の合図だった。

「そう、ならこれで話は終わりよ!」

望みは絶たれ、一筋ほどの糸はちぎられた。ならば最早、遠慮は皆無。
残った方の銃から弾が生成、すぐに放たれる。だがその時点で、既に敵は位置から外れていた。
休みなく、続けざまに3発の弾丸を空へ逃げた相手へ撃つ。
正面と左右に一発ずつ、囲い込むように弾き出される。背後には壁で逃げ場はない筈で、
だからこそ次の行動には目を疑った。

壁に足を突き、そのまま垂直に跳んだのだ。壁に対してではない、地面に対してだ。
物理法則など笑い飛ばすような動きは、多種多様な魔法が跋扈するこの世界に於いては珍しいことではないものの、
魔導士でない相手と判断したことが、ティアナの相手の行動の限界を読み誤らせていた。

そのまま標的を失い3方向から来た弾丸は壁へ正面衝突、そのまま消滅―――はしない。
むしろそのまま上方へ回避し敵を追うように上へ跳ね上がっていった。

魔導士の遠距離射撃魔法でスフィアを使うものには誘導性が多く見られる。
各々の魔導士の資質、性質、プログラムによって性能は大きく変化する。
何処までもロックオンしたものを追跡し続ける、あえて誘導性を無視して貫通力を高めるものもある。
前者はミッド式の砲撃魔導士、後者は近接魔導士や、ベルカの騎士などに見られる傾向だ。
ティアナのそれは誘導性はそれほど高くはなく、むしろ直線的なものが多い。
だが直射的な分一発の威力も高く、加えて壁を跳ねて敵の裏を突く「跳弾」を駆使して、
自分と同等の戦闘機人3人という絶対的に不利な戦況の中で、
相手のコンビネーションの欠点と狭い室内を計算して逆転するという快挙を成し遂げている。

今ここでしたのもそれの応用。壁の衝突を利用したイレギュラーバウンドによる追尾。
テニスなどでスマッシュなど強い衝撃を加えた場合ボールの形が変化し選手に予測不可能な軌道を起こすという現象だ。
イレギュラーと名の付く通り方向を計算して打つなど不可能だがそれはあくまで物理のみで動く世界での話。
スフィアの硬度を調整し、指定した方向へ誘導することで起動に指向性を与えた。
口で言うほど易しいものではない。魔法と科学の複合とでもいうべき高度な技術だ。

リアルタイムでの軌道修正を成功させたことを喜ぶ暇などあるはずもなく、
落ちたクロスミラージュを拾いに走るティアナ。
相手ははるか頭上、飛行や遠距離攻撃を持たないのはほぼ確実だ。この好機を逃す手はない。
目前には追尾する魔力弾。避けるか、弾くか、それとも被弾覚悟でこちらへ突っ込んでくるか。
敵が行ったのは3番目、だがティアナの想定と違うのは被弾する気などさらさらなかったことだ。

あろうことか、着ぐるみは壁を走っていた。傾斜もなければ手をかける凹凸もない垂直の壁を
地に着いてるが如く疾駆する。
この獣には重力などという枷はないのか、縦横無尽という言葉がふさわしい動きだ。
下方から向かう追尾弾は今度こそ宙を切り空へ飛び立つ。結果など分かり切っていたのか見向きもせず獲物へひたすら肉薄する。
狩られる側のはずの獲物に土をかけられた屈辱を晴らすにはその血潮で喉を潤す他ないのだ。
振り返るティアナ。だが銃一つでは手負いの猛獣を止めるには至らない。それは既に知っている。


だから、もう一度罠に嵌めることにした。


「―――クロスミラージュ、モードリリース」

≪All right.One-hund Mode≫

静かな宣言。直後、地に置かれていた方のクロスミラージュが光に包まれ、そして消えた。

クロスミラージュは2丁の銃から成っているがデバイス単体としては1丁の銃に過ぎない。
バリエーションに双銃のタイプがある、というだけのことだ。
ツーハンドモードを解除したことにより片割れの銃が消失、1丁のワンハンドモードへと変化した。

「リセット!」

≪Re-Set up.Two-hund Mode≫

高らかな宣言。瞬間、空の右手に馴染みの感触を覚える。顕現したのは、左に持つものと同じ造形。
再びツーハンドモードへと変形、ようやく持主の手に戻り本来の力を発揮するティアナ。

マガジンに込められた魔力の塊、カートリッジが打ち込まれる。身体に魔力が滝の様に流れ込んでいく。
痛みよりも体内に異物が入り込むような不快感を無視し銃把の感触の身に集中する。
退避体制を取るパンダ。だが遅い。どう動こうがこの距離なら確実に避け切れない――――――!

「Fire」

放たれる銃撃。魔力の込められたカートリッジをロードし増強された魔力により数、威力共に先の比ではない。
圧倒的な弾幕を前にして着ぐるみは、見た目にあるまじき軽やかさで身をひねり、受け流しを図る。
弾丸は幾らか体を掠めていく。だが如何せん後手に回ってからの緊急策であり何より距離が近い。
大部分は被弾し、黒を削り、白を黒く染めていく。
最早見た目はぼろ雑巾の様相、それでも獣を停止させるには未だ不足だった。
弾幕を耐えきり獲物へ降下する。ティアナは、力を出し切ったのか動く様子を見せない。
回避のために体をひねった勢いをそのまま利用して、今度は独楽のように縦に回転する。

「悪いね」

太く短い足は全体重と回転の速度の相互により凶器と化し、ティアナへと突き刺さる。
避けることも受けることもなく鉄槌は打ち下ろされ、少女の肉体は砕け散った。















……そう、砕け散った。
ティアナ・ランスターの体は粉々に砕けて消えた。
髪の毛から服の切れ端まで何の痕跡を残すことなく消え去った。






――――――まるではじめからそこにいなかったかのように――――――





“―――クロスファイアー、シュート”



ふと、そんな声が聞こえた。
声のした方向を振り返る。そこにいたのは今消したはずの少女。


それと、その周囲を囲む、無数と呼ぶに相応しい量の光の雨粒。
成程、さっきもっと早く撃てたはずだったのにそうしなかったのは、それを仕込む準備のためか。
その光景を見て“彼”はようやく思い至った。
今聞こえたのは、突撃を今かと猛りに震わな兵士への合図だったのだと。

声も出ず、頷きもせず、司令官はそれを肯定した。
号令。投射。圧倒的弾幕。
直線に、曲線に蟻も通さぬ筋道で、豹も逃げ切れぬ速度で張られる弾の網。
食欲に目が眩んだ獣に逃げ道などある訳もなかった。


■―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


フェイクシルエット。自身の分身を発生させる管理局内においても珍しいとされる幻影魔法。
使われない理由としては「消耗が激しい」「熟練が困難」「結果が浪費の割に合わない」「なんか地味」
などであるが、ティアナはこれを多用している。
理由という程のものはない。というか言ってしまえば「使える」というだけのことだ。
こういうのも才能というものだろうか。実際その方面においてのティアナの才は突出していた。
確かに1つの幻影の魔力消費も低くはなく、物理接触によりすぐ消えてしまう衝撃への脆さ、
多様性故の戦術の組み込みづらさがある。
だがそれらは殆どが己の錬度によって解消できる問題で、ティアナ自身それを克服しつつある。
身に付けようとした切欠は、誰も使おうとしない部門を使いこなすことで自分の力量を知らしめ
兄の無能の烙印を払拭させるというやや不純なものであったが。


「こっちこそ、悪いわね。騙し討ちみたいな真似して」

特に悪びれた様子もなく倒れ伏す着ぐるみへと言葉をかけるティアナ。
今まで散々言ってくれた意趣返しの意味も込めて。


相手が近距離での銃撃をかわすのにこちらから目を離した一瞬の間にシルエットを生成、
すかさず対象を透明にするオプティックハイドの併用で自分と幻影を入れ替える。
相手が幻影へと攻撃している隙にカートリッジで溜め込んでいた魔力を解放、
中距離誘導射撃魔法で相手を射抜く。
己の持ち得る技術を存分に奮い十分な効果を上げられたことにようやく溜飲が下がるティアナ。

もはや原形を留めぬほどズタズタにちぎれた元・着ぐるみを見下ろす。
やりすぎた、とは思わない。ここまで徹底的に打ちのめしておかないとこの敵は動く事を止めないだろう。
実際に相対しなければ感じられない、草原で植えた肉食獣に睨まれたような生理的な嫌悪感がまだ抜けない。
当然、非殺傷設定は維持しているが暫く意識を戻すことはないだろう。

「結局、何だったのかしら……」

答えなど返ってくるはずもないがずっと引っかかっていた疑問を口にする。
奇異な風貌、ただの暴漢には思えない卓越した動き、自らを殺人鬼とうそぶく“男”。
あらゆる意味で、ただものではない。
件の噂、及びスバル失踪に関わってる可能性は高いだろう。
前者は一致する特徴が多いし、後者は恐らく最後の目撃者だ。
本人が知ろうが知るまいが、何らかの手がかりになるはずだ。

「……まずは連絡が先ね」

とにかく犯人の無力化は成功。失踪の件も含めて本部へ通達するのが第一だ。
事情聴取はその後でも十二分に遅くない。
焦って事を仕損じては得られる情報も得られなくなる。
応援の到着を待つまでの僅かな間に一息をつこうと目を伏せたところで、




「にゃっにゃっにゃっ。ナイフも握れぬ状態とはいえパンダ師匠を屠るとは、
中々やりますなマドモアゼル」


まだ何も終わっていないことをすぐに思い知った。



……to be continued……?

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最終更新:2010年02月05日 02:47