===== 一日目 ======
ひたすらに長い蒼が広がっていた。
雲ひとつない空とはこのことか。遮るものがなく我が物顔で太陽が燦然と輝く。
日差しがやや強いが気温が低くなってきてるこの季節には丁度いい。
まさに絶好の行楽日和。今すぐにでも友人や部下にもまとめて休暇に出して羽を伸ばしたい位だが、仕事柄そうもいってはいられない。
そうやって人々が何の不安も感じずに平和な一日を過ごせるようにするのも自分達の仕事だ。
そんな思いを馳せながら、私八神はやては今日も今日とて雑務に追われるのでした。まる。
ネコ歩く ep02:名前を呼んで ってもう最終話かよっ!?
◇――――――――――――――――――――――――――――
「――――はい、そうですか。やはりそんな子は見ていないですか。分かりました。
――いえ、こっちだけでも何とかしますよ。それじゃ失礼します、ゲンヤ三佐」
通信が切れるのを確認して、正面に立つ人物に目を移す。座って待っていてと言ったのに、相変わらずの真面目さだ。
「おまたせフェイトちゃん。ゴメンな、待たせちゃって」
「ううん、気にしてないよ。こっちから急に頼んだことだし。」
金の長髪をたなびかせる女性が答える。社交辞令のような決まり文句だが、 彼女にとっては
心からの本音なのだ。名をフェイト・T・ハラオウンという。
管理局内の数%に満たないオーバーSランクのエリート魔導士であり、自分とは十年来の親友だ。
「それで……どう?」
「残念ながら見事に総スカンやな。師匠も知らないとなると陸の線は薄いかな」
フェイトから突然に迷子の使い魔の連絡を受け、副官のグリフィスに陸―――地上本部の魔導士と使い魔のデータ洗ってもらい数時間、
あっさりと見つかるだろうと踏んでいた予想は全くの空振り、陸に就いて長く自分の師匠でもあるゲンヤ・ナカジマ三佐にも今しがた話を聞いてみたが
特徴に合致する人物は一人として出てこなかった。
「海まで探れば出てくるかも知れへんけど、さすがにそこまで行くと結構手間もかかりそうやしな」
時空管理局本局――通称海はあらゆる世界からあらゆる人材が集まるっている。
性質上数多の次元世界へ干渉するため人員も地上本部のそれの数十、数百倍に登る。人材難といわれる現在だが、
総員を調べ上げようものなら一朝一夕で済む話ではない。
「行方不明のリストかなんかはもう調べたんやろ?」
「うん………」
既に次元震等により行方不明となり捜索依頼が出されているリストはフェイトが事前に調べ上げている。
その成果がなかったからこそこうして組織的な捜査を頼んだわけなのだから。
「まあついさっき迷い込んだっていうなら有り得るかもな」
「―――次元震が、あったの?」
「うん、ついさっきシャーリから聞いたんや。時間にしては1時間位前かな。ギリギリ感知できる位小さい規模やったけど
起きてたらしいんよ。あの子猫ちゃんが入るくらいの穴は開いたかもしれんなぁ」
「それじゃあ……」
「うん、次元漂流者の可能性が高いな」
この世界は、複数の世界により成り立っている。
地上本部があるここミッドチルダ、かつてミッドと並びながらも時の流れに飲まれたベルカ、
そして自分達が生まれ育った地球―――100を超える世界が隣り合わせに並んでいる。
だが密接に繋がっている故に一つの世界の亀裂が他の世界にも影響を及ぼすことがある。
次元震、次元断層による世界の崩壊。その亀裂を産み出す主な要因が過去の禁忌の遺物―――ロストロギア。
過去(むかし)に現在(いま)、そして未来(このさき)もその力に魅せられ破滅する者は後を絶たない。
そうした次元災害によりもといた世界より切り離され異なる世界を彷徨ってしまうという事態も多々ある。
災害そのものの抑止はもとより、次元漂流者と呼ばれる遭難者を元の場所へ送還、保護するのも管理局の役目である。
「もっとも今回は規模が小さい分繋がってる所は把握出来なかったけど、な」
「……そう……」
結局解決に繋がる確かな答えが見つからなかった事に落胆するフェイト。
「まあまあ、しっかりパスも通ってるんやしそう悲観する程でもないでしょ。」
気落ちする親友をフォローするように付け加えておく。
使い魔はその名のとおり使われるモノ。従える主と契約を結び、魔力を供給されなければその肉体を維持できない。
こうして目の前の使い魔が問題なく活動している以上、マスターである魔導士もまた存在しているという事だ。
突発的な事故によりはぐれたというのならまず探し出そうとするだろうが、さすがに世界規模で使い魔の正確な居場所を把握することは
高位の魔導士であろうと難しい。既に次元漂流者や行方不明者のリストに登録はしておいたからそこを経由してこちら側と連絡を取ってもらうしかない。
もっとも――――いまだその遭難者から名前すら聞き出せていない状況なため、
顔写真と簡易な特徴位しか書き込むものがなかったのだが。
「まあ現状ではどうにもならんし、今はゆっくり構えていこうや。そこで」
「ただいまですー!」
まるで示し合わせたかのようなタイミングで、小さな妖精が隊長室へ飛び込んできた。
「おお、リイン、お帰り」
「はいっ!リインフォースⅡ軍曹、ただいま帰還しました!あ、フェイトちゃんもお疲れです!」
「はいな、お疲れさん」
「うん、お疲れ様リイン」
話しを切られたことに特に不快感を表さずにぴしりと胸を張る小さい軍曹殿を労うはやて。
重くなった雰囲気を払おうと話題を変えようとしたところだし、彼女の帰還を待つ間にフェイトからの話を受けたので、特に問題はないのだ。
「んー、こっちも進展なしか……って、なんやこの写真」
渡されたのは警備にあたっていた局員らの目撃証言や事件との関連性があると思われる被害、物的証拠等がまとめられたデータディスクだ。
だがいずれも以前と似たり寄ったりの、ネコらしき何かやら、機械仕掛けのメイドを見たという証言。数件しかなかったパンダを見たという証言が二桁ほどに増えているのが気になりながらも
軽く流し見をする中、一枚の画像に目が止まった。
荒らされたリビングに一つの大きな○。それを囲うようにに小さな○が均等に三つ、それが複数押されている。
小学校にあるスタンプのような、可愛らしい猫の肉球の跡だ。
「猫の足型?ますますもってファンシーやな」
「空き巣に入られた民家に残されてたんです。今調べてもらってますが確認されてるどの生物にも該当しないそうですよ」
次元世界には人間以外にも多くの生物が生息している。
ペットとして親しまれているものからキャロの従える竜種のような人よりも高位な超越種――召喚獣と呼ばれる存在までピンキリだ。
個体数が少ない希少種が裏で高値で売買されているものもあるが、そういった事態を取り締まる為自然保護隊という部隊も存在する。
しかしそれでも全ての種類を把握しているわけではない。未だ未開の世界に生息する新種、あるいは倫理に背き人工的に生み出された生命体が現われることも、有り得なくは無い。
「ちなみに盗まれたのは牛乳です。あとニボシです」
「――――ああ、そう」
最早突っ込むまい。そういう事件なのだと諦観していた。
何というか行為に悪意がない。確認されている直接の被害は空き巣、空の猫缶の不法投棄等々、いずれもまるで童話の妖精の悪戯のレベルの規模だ。もし犯人が101匹猫ちゃんでも1000体のメイド大隊でも今なら平然と受け入れてしまいそうだ。
大言吐いて部隊を動かしたはいいが―――ひょっとして自分はとんでもない大ポカをやらかしてしまったのではないか?
―――もっとも悪戯の度を越えた行為なのは確かなのでそれを取り締まるのに何の問題もないし、事件に大きいも小さいもあったものか、市民の安全を守るためには空き巣だろうが下着泥棒だろうが全力全壊で当たるべきだ、とそう自分に言い聞かせることにした。
「うん、まあちょっとは進展したのかな。重ね重ねお疲れさん」
とにかく確かな物証らしきものが手に入ったのだ。成果としては上々だ。不謹慎だが、こうやって地道に証拠を集めて少しずつ真実に近づいていく過程というのは中々楽しい。
もとは希少技能(レアスキル)を持つ特別捜査官という役職に就く自分だが、実を言えばこういった捜査の方が好きなタイプだ。
「はい、疲れました!それではリインはしばしお休みタイムです―――」
どうやら思ったより長丁場だったらしい。ユニゾンデバイスに組まれたプログラムといえど人同様に疲労もあるし睡眠もする。食欲も大変旺盛だ。必要かどうかはともかく本人は必要と感じるのだ。
あふぅ、と小さく欠伸をしながら自分の寝室へ腰を下ろそうとして、
「………む?」
そこに見慣れぬ先客が居座っていることにようやく気付いた。
「……………」
「………むむ?」
「……………」
「…………むむむー?」
今のリインと同じが一回り大きな黒い体躯、黒く整った毛並み、大き目の黒いリボン―――、を着けた黒猫が、自身のオーダーメイド、こだわりの素材による移動寝室、おでかけバッグの中でと眠っていた。
「……はやてちゃん、このネコさんはどうしたのですか?」
「ん、迷子。主人とはぐれちゃって此処で預かっとるんねん」
「……迷子、ですか」
明らかに不満そうな表情を浮かべるリイン。
まあ一仕事終えてようやく眠りに付こうとしたのに見知らぬ相手に寝室を選挙されては、気分を害せざるを得まい。
「………コホン、これこれネコさん、そこは私の席ですからどいてくださいな?」
なるべく感情を抑えつつ珍客に席を立つよう求めるリイン。
古代ベルカ融合騎―――ユニゾンデバイスとして再生されてはや十年。はやてや他の局員に比べれば大分幼く子供っぽいがこれでも管理局空曹を務める身だ。初対面の人物には相応に丁寧な対応を取れるくらいには彼女も精神的に成長していた。猫だが。
「…………………………」
猫、無反応。
「もしもーし」
「……………………………」
「朝ですよー」
「……………………………」
「―――――むむ」
一向に動く気配を見せない猫。さすがにちょっぴり苛立ちがつのる。
「ほーら、起きるですよーっ」
目の前に座り額をペチペチと叩く。そうしてようやく眠り猫は目を覚ました。
「よしよし、目を開けましたね。そこはリインのホームですからホントは入っちゃいけないんですけどリインは寛大だから許してあげるのです。さあ、分かったら早くそこを―――――」
その言葉が最後まで続くことはなかった。何故ならその言葉を発していた者は、
突然飛び掛ってきた黒い物体に押し倒されていたのだから。
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
六課隊舎内に、小さな絶叫が響き渡った。
◇――――――――――――――――――――――――――――
「は、放すですぅっ!!リインは食べ物じゃないですよ!おいしくないですよぅ!!」
全くの慮外の不意打ちに声を張り上げるリイン。だが昼寝を邪魔されたことへの報復なのか、寝ぼけてるだけなのか、それとも単に遊びたいだけなのか、猫は一向に収める気配は無い。
外から見る分には人形にじゃれついているようにしか見えないだろうが、リインにとっては獰猛な肉食獣に襲われてるようにしか感じられなかった。
「だから放しっひゃうっ!噛っそこ噛んじゃ駄目で……え!?えひゃい」
一見微笑ましい光景だが、弄ばれる人形にとってはそれこそ地獄の宴に匹敵するほどの恐怖だ。
リインの絶叫は、綿を掻き出され憐れな布切れと変わり果てていくもの言わぬぬいぐるみ達の怨嗟を体現してるようだった。
「―――いい加減にっ」
「!」
だが今襲われているのは無抵抗のまま蹂躙される人形ではない。確固たる意思を持ち、その意思を貫くだけの力を備えた魔導の結晶である。
「―――するですっ!!」
怒号一閃、次いで閃光弾じみた発光が辺りを包む。
一瞬早く飛び退き目が潰れるのを免れた黒猫は、少女の変化を見やった。姿は変わっていない。だが30センチ程のミニマムサイズから見た目相応の少女の大きさへと拡大されていた。
ユニゾンデバイス・リインフォースⅡの人間態。小人状態よりも燃費が悪いという事で自身の主が住むような魔法が存在しない世界以外でこの姿になることは少ないが、度重なる猫の暴行を鎮めるべくその姿を解禁した。
「さあ形勢逆転です!よくも今まで哀れな人形扱いにしてくれましたね!さすがのリインも怒りましたよ!!」
清らかな乙女の心と体を傷つけた代償は重い。今やリインの怒りは有頂天にも達する勢いだ。
「……………………………」
「不不不、そうやってだんまりしていられるのも今のうちです!すぐに恥ずかしい位にゃーにゃー鳴かせてあげます!」
手をわきわきしながら不敵な笑みをこぼすリイン。今自分の顔を鏡で見たらあまりの凶悪さに腰を抜かすことだろう。本人だけは。
「さあ覚悟しなさい!悲鳴をあげろ、猫のようなー!!」
がおーと怒号再閃。さすがに自身のデバイスにして半身たる「蒼天の書」は起動していないが本人にとっては通常の数十倍の質量と馬力を得ている。先程のように掴まれる心配は無い。
文字通り身を投げ出す勢いで飛び込んできた一撃(とっしん)は、
視界に突然現われた少女にあっけなく制止された。
「……はれ?」
そんな間抜けた声を出す。だってそうだろう。今まで足元程の大きさだった黒猫が、何の予兆もなく自分と同じ位の年齢の少女へと姿を変えたのだから。
そうしてる間に少女はリインの後ろに回り込む。リインは反応できない。
その無防備な背中から羽交い絞めにするように身を近づけあろうことか―――
耳を、甘く噛んだ。
「みゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
本日二度目の絶叫が、六課隊舎内に木霊した。
◇――――――――――――――――――――――――――――
―――結局、見かねたフェイトにより張り付いていた少女を引き剥がし、虫の息となっていたリインを救出するのに数分を要することになった。
「しかしホンマに使い魔やったとわなー。フェイトちゃんに言われなきゃまるでわからなかったわ」
目の前で行われていた戯れを諦観していたはやてが口を開く。そして冷静に、目の前で起きたそれのあまりの自然さに改めて驚嘆する。
使い魔には人の姿と元になった生物を象った姿の二つの種類がある。彼女に仕える守護騎士の一人、ザフィーラも種別は使い魔と異なるが同じ様に変身が可能だ。
だがそれでも姿を変える際、一瞬といえど「間」を必要とする。それがあの使い魔には一切無いのだ。
はやても、そして自分も目を離さずにいたがその意識をかいくぐるように姿を変えて見せた。
「私はアルフと一緒にいたから…それでも最初は分からなかったけど……というかはやて……」
「ん?」
「リイン、ちゃんと助けなきゃ駄目だよ。大事な家族なんだし」
「いや、あれで案外あのコもいきなり飛ばされてストレス溜まってそうやし。ここはひとつ戯れの場を授けるべきかな、と」
「いや…それは……そうかもけど……」
なにやらもっともらしい理由で納得させようとしてるが、明らかにそれ以外、というかそれ以上の理由があったように思える。主に弄くる的な意味で。
「は、はやてちゃん………リインを……売り渡したのですか……」
「おおリイン、生きとったか」
息も絶え絶えになりながらも、息を吹き返しバッグから這い出たリインが抗議する。いつもなら顔に飛びつくばかりの勢いだが今では浮遊する気力すらない。
「………汚されました……リインもうお嫁にいけません……もう誰も信じられません…………」
そのあまりにといえばあまりの対応に再びバッグの中へ落下するリイン
バッグの中から漏れて来る泣き声がなんともいえない哀愁を誘う。。
「泣かない泣かない、今度なのはちゃんに翠屋のケーキもってきてもらうから」
そのまま狸寝入りしそうなリインを引っ張り出し手の平に乗せとっておきの仲直りの呪文を唱える。
もう一人の親友の両親が経営する喫茶店のスイーツ。それが生まれてから約十年に至るリインご機嫌アップアイテムの一つだ。
「……リインがいつまでも食べ物で釣れると思ったら大間違いです……………ですがそれはそれでイチゴタルトを所望します」
―――そしてそれは現在でも有効らしい。
「ええもう、タルトでもセーキでもなんでもござれ。さあ今夜は一緒に飲み明かそか―――」
「……まあ、リインに関してははやてに任して問題ない、かな」
もう何か色々と駄目な気がするが、それでも彼女のことを誰よりも理解し、愛しているのははやてだろう。
あれも娘の可愛さ故の有り余る愛情表現の賜物なのだ。たぶん。そういうことにしておこう。
それより――とそもそもの騒動の要因である少女へ目を戻す。
あてがわれた大きめの椅子に座っている姿はそれこそ人形のようだ。小柄な体躯、黒の衣装、底の見えない赤い瞳。時折響く鈴の音。
そのどれもが人間味を薄くしある種の無機質さを強くしている。
視線に気付き、こちらを向く少女。相変わらずの無表情だがどこか違和感のようなものを感じていた。
そんな顔を見て不意に思った。
「やっぱり、寂しいよね」
その言葉に、少女の体が僅かに揺れる。どうやら正解らしい。
「………大丈夫」
少女と同じ目線に屈んで、その小さな肩に手を置く。
「君の家も、主人も絶対に見つけてあげる。私は、私達は君の味方だから」
少女は表情を変えない。目を逸らさず私を見つめる。その言葉の真偽を確かめるように。赤い鏡(ひとみ)に、自分の顔が映し出されている。
こちらも目を逸らさずに彼女を見つめる。彼女の心に応えるように。彼女の目に、自分の姿はどのように映っているのか。
「聞かせて欲しい、君の名前を。君の、声を」
柔らかに、だが確かな意志を持って問いかける。
「………………………………………………………………………………………………」
そんな、時間すら停まったかと錯覚する程の長い沈黙の中、
「…………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………レン」
まるで海に落ちる一滴の水のような静けさで、小さく呟いた。
「……レンか。いい名前だね」
ようやく聞けた少女の声。それがひどく嬉しくて、大切な誰かに似ている気がして無意識に少し強く頭を撫でる。
「ありがとう―――」
ただ、そう一言を告げる。言いたいことは多くあるが、それが今の感情を集約した言葉だった。
「……………………………………」
突然頭を撫でられる少女――レンは少々困惑したような顔をしながら、けれど決してその手を払いのけようとはせず、身を任せていた。
「はやて、この子のことだけど―――」
「フェイトちゃんが面倒見る、かい?」
自分が言うよりも一歩早く口にするはやて。ここにきて疲労がピークに達したらしい。見ればリインははやての膝の上ですやすやと寝息を立てている。
「うん、元々私が見つけたんだし、最後まで―――責任を取りたい」
はっきりと、自分の意思を告げる。
「―――分かりました。この子は機動六課にて一時保護します。その上でフェイトちゃんには身の回りの世話を任せたいんやけど、どう?」
少しあきれたような、まったくしかたないんだからなーもうといった表情で了承を告げる。
そんなやりとりをこなして、傍に立ち尽くす少女へと向き直る。
「それじゃあ―――少しの間だけど宜しくね、レン」
「……………………………………」
相変わらずの無言。けど何故かそれが了承なのだと理解出来た。少し、その顔が穏やかなものに見えたのは勝手な思い込みだろうか。
「うん、それじゃさっそく部屋の用意―――――」
「何言うてんねん。こんなちっちゃな子を一人で住まわすつもりか?」
「あ―――そうか。じゃあ――」
「いっそフェイトちゃん達との部屋にしたらどう?ヴィヴィオのいい遊び相手にもなるやろし」
「え?いや…それは―――」
「んん?何か?愛する子供は一人で充分ですか?それともこれ以上なのはちゃんとのプライベートタイムを削られるのは御免ですか?」
「そんなことな―――いや―――けど―――」
「んんんーーー?」
「…………………………」
凛、と鈴の音が静かに響いていた。
最終更新:2009年07月18日 12:39