#1

レールウェイの線路上での攻防に決着が付く少し前

このまま行けば片が付くな

ロジャー・バネット二等陸尉は状況を戦況にそう当たりをつけると司令部を呼び出した

「上空の戦況は?」

『あまり芳しいとはいえない状況です、
想定される襲撃者は魔導師ランクSSクラス相当の砲撃魔導師と推定されます、
尚、八神二等陸佐らによると何らかのロストロギアを所持している可能性が
きわめて高いとのこと』

「こちらを襲撃した魔法生物がそのロストロギアである可能性は?」

『可能性はあります』

いずれにせよ油断はならない訳か……

通信を切りながら司令部の返答をそう解釈し、空を仰ぎ見る
ちかちかと瞬く昼間の星と見まごう光景はその実、地を焼き払うほどの砲撃の光である
ニアSとはいえヴィータ空尉達だけで大丈夫だろうか

『地上本部、応答どうぞ、
こちら八神はやて』

「八神二佐、こちら地上本部正面ロジャー・バネット二等陸尉です」

ノイズ交じりの通信が聞こえ、ロジャーは空間モニターを開いた
画像が映ると同時に音声がクリアになる

『ようやく繋がった
まもなくそちらに到着します、状況は?』

「ヴィータ空尉が上空にて交戦中、
地上本部正面での戦闘は既に収まりつつあります」

『なるほど、それで中は、
先ほどから中との通信が繋がらないのですが?』

「先ほどまで自分は問題なく通信していましたが、
二佐、周辺空域のジャミングの可能性は?」

首を傾げて問い返す、実際そうなのだからこちらからは首を傾げざるを得ない

『その可能性はありますね、
―――そうなると、AMF反応は無いから、別系統か……』

モニターの向こうで部下に指示を出す八神二佐
とりあえず、彼女の質問に答えるべく、司令室を呼び出す

「司令部応答どうぞ、こちらロジャー・バネット二等陸尉、
本局特別捜査官八神はやて二等陸佐より問い合わせあり、内部の状況はどうか?」

『状況は現在問題な―――いや、侵入者あり、
数は、八、九……まだ増える?』

答えかけたオペレーターから悲鳴が上がる
モニターに中継画像を表示すると、黒ずくめの集団が本部内のあちこちに出現していた
いったい何処から、いつの間に?

「くっ……二分隊、中の支援に回れ、残りは引き続き処理を、
陣形を変更、人手が減ったからと言って抜かせるなよ」

指示を出しながら彼は自分もデバイスを構えなおした




#2

モニターに映った中継画像に黒ずくめの集団が映っていた

「アサシン―――って、多!」

五人十人の話ではない
しかも全員がこれまで目撃されたアサシンとは別人なのである

「いったいどういう……たしかあの子らが言うとった数は十二個やったはず―――」

全員サーヴァントだとしたら数が多すぎる、
偽者ということだろうか?

「まぁ、それが奴の宝具なのであろうよ、
それで、そっちは先ほどから何をやっておるのだ?」

こともなげにはやての疑問を受け流しながらシャーリーに視線を向ける
その彼女はと言うと、携帯用のコンソールを展開し、モニターとにらめっこをしていた
AMFの反応が無いにも拘らず地上本部との通信がつながらないことに対し、
電子的な通信阻害の可能性を考えて探査をかけている訳であるが
征服王イスカンダルの生前にそんなものは無かったわけなので疑問に思うのは当然である
もっとも、彼の場合、興味と言ったほうが正しかったが

「ロジャー二尉、こちらも急ぎますんで、
もう暫く、がんばってください」

『了解』

はやてが通信を打ち切る、状況から言って通信している余裕などないからだ
いずれにせよ後数分で着くが、急いだほうがいいだろう

「はやてさん」

「何やシャーリー?」

加速をかけようとしたはやてにシャーリーが声をかける、
何事かと振り向いたはやての前で、ライダーが抜刀していた

「どうやら、そう簡単にはいかんらしい」

片手で手綱を引き鋭い目で虚空を見据える
視線を追うと空間が僅かながら歪んでいる

はやての視線に反応するように空間の歪みから直径2メートルあまりの球体が現れ、
ついで周囲に同型の機械が数体姿を現した

「まさか……ずっと囲まれとった?」

ガジェット・ドローンに似ているが、Ⅳ型を除けばそんな偽装能力は無かった、
外装のデザインからしても別のものだろう

「シャーリー?!」

「はい、
―――該当データ出ました、
二年前の『サクセサーズ事件』で運用された魔導機械『アイネ・プッペ』です
事件当時の運用は聖王教厳格派『真王会』ヴォルフガング派の説が有力ですね」

現在カリム・グラシアらが所属し、一般に聖王教会と呼ばれているものとは違う、
より厳格な戒律を有している派閥、それが『真王会』である
とは言えそれもピンキリであり、カリム達と友好的である者達もいれば、
徹底的に彼らの言うところの“異端”を排除しようとするものも存在する
ヴォルフガング派は後者の代表的な例に当たる
ちなみに、ヴォルフガングと言う名は一般に男性のファーストネームに使われるもので、
ファミリーネーム等には使われない、
ヴォルフガング派の構成員(彼らを『教徒』と呼ぶのはいささか疑問が多い)は、
ほぼ全員、ヴォルフガングの名をファーストもしくはミドルネームにつけており
その組織構造は宗教と言うより軍隊もしくはマフィアなどのそれに近い

「そうやと仮定して、アサシンもその下におるとすると、
―――ヴィヴィオを狙ったのも分からんでもないな」

聖王の遺伝子コピーであるヴィヴィオの扱いについては、
聖王教会内部でも意見の分かれるところである
ヴォルフガング派を含めほとんどの聖王教会は彼女を“聖王”とは認めていないが、
かと言って政治的なカードとして無意味と思っている派閥もまた存在しない

「そうなるとなおさら足止めを食うわけにはいかん
ここは強行突破といこか」

「ふむ、では余も少しばかり飛ばすぞ、
付いてこれるか小娘?」

気合を入れなおすはやてに征服王も口の端を吊り上げる、
状況を理解しているかどうかは脇において、この男が心強い存在なのは間違いない

「当然!
シャーリー、しっかり捕まっときや!」

「はい!」

シュベルトクロイツを掲げて呪文をつむぐはやてを合図に戦車が雷光を纏って加速する
一拍の間を置いて、全てをなぎ払い彼女たちはその場を後にした




#3

「ちぃ!」

何度目かの打ち込みを防がれて、舌打ちしながらヴィータは相手と距離をとった
隣でヴィヴィオが射撃魔法でけん制しながら敵を見据えてつぶやく

「硬い、って言うか術の構成が早いの、かな?」

「あぁ、こっちの出方に合わせて盾を出してるのは間違いねぇ、
問題はその一瞬で構成できる威力がとんでもないって事だ」

手元でカートリッジの残りを数えながら答える
大技を使うには少々心もとない、もともと落ち着いて用意したわけではないが、
こうも強敵となると、いずれにせよいくらあっても足りない

「下も気になるし、そろそろ決めねぇとな」

「うん、そろそろ私も魔力が危ないし」

むぅ、と難しい顔で唸りながらヴィヴィオが構えなおす
そもそも彼女の魔法運用はレリックと聖王のゆりかごによるバックアップが前提であり、
本人単体の魔力量はせいぜい平均よりやや上程度でしかない
それ故聖王の鎧をはじめとした魔力消費の多い魔法はほとんど使えないか、
使える威力が限られる

ヴィータはカートリッジの数、ヴィヴィオは魔力量から
二人とも大技は後1、2回が限度だと認識する

その2回で魔女の盾を射抜き打ち倒さねばならない

「手札はあるか、最初の飛び蹴りじゃ効果はねぇぞ?」

「うぅ……難しいなぁ」

実のところヴィータの言うところの飛び蹴り―――
ヴィヴィオの中距離突撃攻撃魔法『アブソリュート・ブレイカー』が
なのはの実家に行った折に見た特撮番組から飛び蹴りという形になったのは事実だが、
魔法としての原型はなのはやスバルの使うA,C,Sを用いた突撃連撃である
現在使用している飛び蹴りの部分はいわば前振りで、
本来は叩き込んだ相手をゼロ距離魔力砲で打ち抜いて完成する
(使わないのは現在のヴィヴィオの魔力量ではとどめの魔力砲まで使うと一気に
魔力切れになる為である)

ちなみに余談だが、
名称の元はヴィータのツェアシュテールングスハンマーであったりする

「今の魔力で出せる大技だと……やっぱり“あれ”かなぁ」

時間かかっちゃうんだけどなぁ、と眉を寄せる
一応それなりの大技の持ち合わせはあるらしい

「わかった、なら私がぶち抜くからお前がトドメ役だ、いいな?」

「うん」

残りのカートリッジを一気にロードし、ツェアシュテールングスフォルムを起動する
ギガントを上回る威力と一転突破能力に長ける回転衝角、
力押しの推進システムを搭載するヴィータ最後の切り札である

「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」

向けられる砲撃をある物は最小の動きでかわし、掠めるそれを防御陣でそらし、
大振りの構えから大上段に鉄槌を振り下ろす、
座標固定型の魔方陣に陣取っているが故に、
相手は攻撃を避けると言う選択をほとんどとることが無い
今回もその例に漏れず、回転する巨大衝角が相手の防御魔法と衝突する

「な―――!」

激突の瞬間倍以上の大きさに膨張した鉄槌に魔女の口から思わず間の抜けた声が上がる
ギシギシと鳴る障壁の強度に内心舌を巻きつつもヴィータは確かな手ごたえを感じていた

いける―――後一押しで相手を防御陣ごとぶっ飛ばせる

「うっらぁぁぁ!!」

気合とともにアイゼンの噴射炎がさらに勢いを増す
空間に浮かぶ波紋の広がりに皹が入り相手の息を呑むのが分かる
ヴィータ自身は知りえないことであったが、
この時、グラーフ・アイゼンの一撃は並みの対軍宝具に匹敵していた

ダメ押しの加速に相手の防御がついに砕ける、
多重に仕込んでいたらしい防御陣でかろうじて受け止めるが、今更遅い

「ヴィータさん!」

大きく跳ね飛ばされた相手を追って、前に出かけたヴィータをヴィヴィオが止める、
ぎりぎりで思い直し相手の反撃を警戒して急ブレーキをかけたヴィータの後ろから、
それは現れた

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

雷ほとばしる轟音と、それをも上回る大音声
紫電を纏う戦車に轢かれかけ、ヴィータは慌ててその軌道上から退避した

「ちょうストップ、ストーップ!
ヴィータ大丈夫か?」

「な、なんとか……」

肩で息をしながら問いに答える、振り返るとはやてがこちらを心配そうに見ていた
心なしか帯電しているように見えるのは自分の気のせいだろうか?

その戦車はというと、一頻り走って魔女の仕掛けを吹き飛ばしてから、
空間を踏んでようやく止まったところだった

「ふむ……
つくづく女丈夫ばかりよな、今度は小娘どころか童子ではあるが」

「轢き逃げしかけといて言うことはそれか?!」

ヴィータならずとも激昂してしかるべき状況である、
今が戦闘中で無ければ行動で怒りを示していたかもしれない

「ゼウス神の眷属に戦車―――まさか……マケドニアの王?」

こちらがごたついている合間に体勢を立て直した魔女が、
ライダーの戦車を見て唇を噛む

「ほう、一目で見抜くとは、さてはギリシャ縁の英雄だな?
その魔女ぶりからして、
―――差し詰めコルキスの皇女あたりであろう」

「メーディア皇女、だっけ?
こんな魔女なイメージだったかなぁ」

昔読んだ地球の神話を記憶から引っ張り出して首を傾げるヴィヴィオ、
彼女的には、もっとお姫様なイメージがあったらしい

「あれか……ギリシャ神話の典型的なパターンで神様に振り回されるやつやね
ちょっと前の映画でえらい綺麗なラブストーリーに脚色されてた気がするけど」

男に都合のいい話ともいうわなといいつつも油断はしていない
はやてに余裕があるのはこの布陣あってのものである
ここに到着するまでの情報で見る限り、
実際に一対一でやりあえば術の発動速度で確実に負けるのが明らかである

一方、魔女のほうも状況の不利は察している、
何より設置型の魔法陣を全てなぎ払われたのが大きいようで、
にらみ合いの姿勢のまま機をうかがっていた

「さすがにあれだけの魔法陣は一瞬で再構成ってわけには行かないみたいだな」

「うん、こうなったらみんなで取り押さえちゃおう」

じりじりとこちらも機を窺いながらヴィヴィオが少しあせりを声に滲ませる
下も心配なようだが、どうやらそろそろ本気で魔力が足りなくなってきたらしい
とは言えそんな不利は悟らせるわけには行かない
彼女の言うとおりここで仕留めるべきだろう

『状況は不利なようだなキャスター』

魔女の後ろから声が響く
見ると最初に彼女が乗っていた機械に空間モニターが展開し、
黒衣に髑髏面の女が移っていた

「アサシン!」

魔女が歯を鳴らしてモニターを睨み付ける、
こうして姿を現したということがこいつがアサシンのリーダーだろうか?

『こちらの目的は達した、
我々は退くが、手助けは必要か?』

「群体風情に借りる手などあるものですか!」

これ見よがしに挑発的な口調で問いかける髑髏面
どう贔屓目に見ても仲がいいようには見えない

「どうやら雇い主は同じみたいやね」

「みたいだな、
兎に角、とりあえずこいつを捕まえちまおう」

アサシンの物言いに引っかかるものは有るが、
この魔女を捕らえてから考えれば済むことだとひとまず割り切る
幸いにして大きな被害の報告は無い

たたみかけようと前に出かける一同に対し、魔女が杖を振り上げて身構え、
空間モニターを引っ込めながら機械を前に出す

今の今まで使わなかった物だけにどんな仕掛けがあるのかといぶかしんだ直後―――

「な―――!?」

轟音と閃光を上げて機械が爆発した

咄嗟に警戒も兼ねて広域防御を展開したものの視聴覚ともに数秒完全に遮られ、
全員が魔女を見失った

暫くして
ようやく視力が回復し、あたりを見渡すと

「いない……」

「逃がしたか、まぁそりゃそうだわな
もとより直接戦闘を行う柄で無し、
咽喉元に刃をつきたてられては尻尾をまくほかなかろう」

肩をすくめて征服王が感想を述べる
さほど事態に慌てていないのは追うにしたところで手がかりも無いので
早々に見切りをつけたといったところだろうか

ヴィータにしてもこうなれば諦めるより無いため、
舌打ちしながら地上本部の様子を確認する
地上本部内も常駐の魔導師らに負傷者が出ているが、
死者や何かしらの工作の痕跡は今のところ無し
わざわざ潜入していったい何がしたかったのかはまるで不明である

「“潜入した”という事実を作ることが目的やった可能性もあるな」

何しろ奇襲による多少の混乱があったとはいえ地上本部に結構な数の集団が
誰の目にも留まらずに侵入していたのである
今回のことはJS事件以上の衝撃となるだろう

「そっか、どうしても調査に人手を割かれちゃうし、
“いつでも潜入できる”ってこっちに思わせるだけでも効果あるんだよね」

「朝起きたら枕元に、とか言うだけでこわいしなぁ
―――そんなことになったら眼を覚ます前に死にそうやけど」

何しろ暗殺者である、
それが本業というものだろう

「シャーリー、
レールウェイの方はどうなった?」

「…………」

声をかけるが返事が無い、
いったいどうしたのか、彼女の乗っている征服王の戦車、
その御者台を覗き込むと―――

「気絶してるな」

「どおりで静かだと思ったが、
さすがに文官までは並ということか」

「えっと……」

苦笑いでごまかす、
とはいえ、終わったものは終わったのである
ひとまず一区切り、収拾をつける為にもひとまず降りるとしよう

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最終更新:2010年01月26日 12:28