彼の金一色の装備から放つ後光。
それが相変わらず眩しくて正視し難かったので今まで見逃していたのか―――

――― 極彩? ―――

その金色の中に微かな「違い」を感じ
なのははあらためて目を凝らしてまじまじと男を見返す。
いくら生まれながらの色物野郎であっても―――

――― 極彩のオーラは無いだろう……? ―――

戦隊モノのエフェクトじゃあるまいし。

(……あ、)

明らかにそれはおかしい。違和感バリバリだ。
ここに至りまるで見えなかった英雄王の爆釣の秘密――
その糸口を必死で模索するようになのはが傍と目を向ける。
眼前の王様は相変わらずほとんど微動だにせず――
最小の動きで針に餌を付け、獲物を釣り上げている。
ちょうど今――その自身の釣竿の針に………餌をくくり付けている…

「………ねえ」

「うん?」

「………何それ?」

――――なのはが指を指して問う

その……虹色光線を放つ
今まさに針に括り付けられようとしている物体を見て――

「ハ、、暢気なものだな端女。
 他の事に気を取られている余裕があるのか?その自堕落な有様で。」

「いや、だからその光ってるの何…?」

「む? ―――ああ、これか。」

「なっ!? そ、それは…!」

突如、驚愕の声を上げたのは最右列に陣取るアーチャー。
緊迫を帯びた声色。明らかにとんでもないモノを見たと言わんばかり。

「―――道理で食いつきが違うと思えば……」

舌打ちする弓兵である。
未来のルアーを引っ張り出してなお、覆せぬ形勢。
彼もまたギルガメッシュの攻勢に疑問を抱いていたのだろう。
声にはいつもの余裕が無く、敵意に満ちた色を含んでいる。

「相も変らぬ節操の無い蔵だな………
 まさか場末の釣り掘に――神木の果実を持ち出してくるとは!」

「あの………私もさっきから気になってたんだけど。」

そこにフェイトが更に追い討ち。

「彼の足元の壷、何なんだろうなって…」

執務官が指を刺した先をつーとなぞって
視線を泳がせていくなのはとアーチャー。
そう、その先には――指摘された通りの発光する壷があり…
中からトポトポと謎の液体が堀の中に流しこまれていたのだ。

「ぬおおっ!!!!??? それはもしや神酒かっ!? 
 撒き餌にそれを使うとはいくら何でも正気か英雄王!?」

「フハハハ――滑稽だなアーチャー。
 我の偉大さ。人類最古の宝物庫の力。
 既に重々承知していると思っていたが…」

三者の懐疑と驚愕の視線にゆうに晒され誇らし気に手を広げぶち上げる。
これこそ王の底力。

「未だに我が力を計り損なっていたか。
 愚か者めがッッッ!!! とくと見よ!! これぞ――」

アンブロシア・ネクタール―――

 ギリシア神話における不老不死を司る食物、飲料。
 オリュンポス山にのみある。

 アンブロシアの方の形状は桃の形をしているとされるが詳細は不明。

 神々、女神、英雄が主に口にし
 不思議な効き目があってどんな傷でもなおす軟膏になり
 また死体に塗れば腐敗を防止すると言われる。

 様々な経路を辿って地上に齎されるが
 しかし勝手にを味わう人間には災厄が待ち構えており
 それはタルタロスの刑罰と呼ばれ―――


宝具説明のナレーションを背景に
目を閉じてうんうんと満足気に聞く王様。
本当に満足気。俗に言うヘブン状態である。
そんな彼に、三人の(流石のアーチャーですらも)
冷ややかな視線が降り注いでいる事など全く意に介していない。

「あの……聞きたいんですけど。
 それ、どれくらいの散財になるんですか?
 執務官の月収、何ヶ月分に相当するのか想像もつかないのだけど…」

「うつけ――プライスレスだ。決まっておろうが」

「…………だろうね。
 少なくとも通販やネットオークションでお目にかかった事はないよ。」

というかそんなもんが市場に出回ったらそれこそ時空管理局の出番である。
十分にロストロギアだ。生態系が見事に狂ってしまいかねない。

「ハ――馬鹿めが!不老不死がそこらの有象無象に転がっていてたまるものか!
 あんなものは大半が神の戯言よ。ヒトを弄ぶ時、奴らは決まって不老不死を引き合いに出す。
 我の時もそうであったぞ? この力を恐れた神々が次々と揉み手で我が元に現れ――」

「不老不死いかーっすか~?」と飛び込みセールスをしてきたのだと言う。
神様、外回りのセールスマンか。
壮大なのかウソ臭いのか分からないヘブンズトークになおも入り浸る王様。
そんな彼を尻目にヒソヒソ声で作戦会議を開く三者。
チート発覚。これは由々しき事態だ。
だがしかし存在自体がドーピングみたいなこの男の事。
今更、審議に持ち込んだところで王の力がどうとか言って
有耶無耶にされてしまう確率が非常に高い。

「……アーチャーさん。あれはそんなに凄い宝具なの?」

「ソーマやアムリタと並び称される神界の食物だ。
 まさかそれを餌と撒き水双方に使用してくるとは……
 ちなみに私の投影は餌にまでは及ばない。このままでは勝算など皆無だぞ…」

「完全にガチじゃないか……
 日本史で習った成金が札束を燃やして焚き火したエピソードを思い出したよ…」

「――何にせよ、足りないものの正体は露呈したな。
 よかったではないか、ナノハ。」

「…………よくない。まともにやってた自分が馬鹿に思えてきた…」

少なくとも腕ではなく単なる餌の差である。
オチに関してはどうせそんな事だろうと納得は出来たが――
馬鹿がつくほど真面目な性格のなのはさん。
こんなんシャレで済ませられる筈が無い…収まりなんぞつくものか。
だがこうして三者三様、思いの丈をぶつけあっていても事態は一向に好転しない。

――さて、この現状。どうするか……

アーチャーの未だ底の知れない心象世界なら――
あの反則王に匹敵するものがまだ眠っているのだろう。
だがもはやなのはとフェイトの装備ではどうしようもない。
木剣で宝具と打ち合えと言っているようなものか。
さぞやご満悦の王の顔が鬱陶しい。
こそこそと惨めに内緒話に勤しむ貧乏人二人を嘲笑いつつ――

「――――くれてやっても良いぞ?」

「え?」

「我に二度、同じ事を言わせるか?」

突如、そう言い放ち――王が虚空に手を翳す。
するとなのはにとっては忌むべき光景――
あの恐ろしい宝具の射出口である空間に開け放たれた赤い穴。
そこから眩いばかりの光を放つ玉状のものが落ちてくる。

「よもやここまでの差がついては興も削がれるというもの。
 故に我が力の加護に預かる事を許すとそう言っているのだ。」

それは男の手にすっぽりと収まり
そして王はなのはに対し、怪しく光る果物大のそれを無造作に差し出した。
息を呑み、身構えるエース。

(……どういう風の吹き回し?)

この男が自分に対して無償で施しなど行う筈がない。
そんな関係では断じてない。

「罠だッ!! なのは気をつけて!  
 あとで法外な利子を請求される!!
 この前担当した事件に似たような手口があったんだっ!!」

「うむ――タダほど高いものはないと言うしな。」

「囀るな雑種ども。何が悲しくて王が民相手に詐欺請求などせねばならん?」

「民って………悪いけど受け取れないよ。
 そんな高価なもの……お返しも出来ないし。」

「気にする事はない。元より下民の返礼など期待しておらぬ。
 これは純然たる王の慈悲よ――」

いつになく親切な王様。

(下民……相変わらず口悪いなぁ…)

(油断しないで……なのは)

(分かってる)

悪魔の囁き――この世に甘い換言に乗って破滅する例はいくらでもある。
故に受け取る気はさらさら無い。
だが、例え内心がどうあれ賜り物を無下に突き返す事はしたくない。
それ即ち戦端を開く事と同義。
外交上、決してやってはいけない行動である。

(第一、こんなの貰っても私じゃ有効に運用できるかどうか…)

はやてちゃんなら有効に使えるんだけど…と思案する教導官。
どこかに流してしたたかに資金調達する狸が見える――

それはもしかしたら本当に自分の不甲斐なさに呆れ果てた彼の
哀れみを込めた好意なのかも知れない。
だが、だとしたら尚更受け取るのは癪すぎる。
そんなこんなでおずおずと手を出すか否か迷っている高町なのは。

「―――、」

「あ、」

そんな彼女の前で王は何を思ったか――
手元に光る果実を無造作に落とした。
カランと甲高い音を立てて地面に落ちる神実。
その男の足元に、球体がコロコロと転がる――

―――受け取りそこないではない

明らかにこちらが手を伸ばす前に
男は自らそれを離して床に落としたのだ。

「どうした? さあ、拾うが良い。
 雑種が与るには最高の栄誉を分け与えてやると言っているのだ。
 這いつくばって賜るのが礼儀であろう?」

「………」

そら来た。
一瞬でも好意なのか?と思ったのが間違いだ。
それを拾うには当然、彼の足元に這い蹲ってせこせこと拾い集めなければならない。

何の事はない――生意気な下女を見下してバカにしたいだけだ。

(…………)

上目使いに王を睨む高町なのは。
「んん?」と見下してくる黄金のサーヴァント。
ああ、もう憎たらしいったらありゃしない――やはり半端なく歪んだ男。

「どうした? 我の気が長くない事は貴様も知っていよう。
 元より今のままでは――」

「いらない」

もはや即答だった。
ここまで虚仮にされて今更そんなご相伴に与れるものか。
こうなったら意地でも初期装備でこの男に勝ってやる――
なのはの目がそんな断固とした決意に染まり燃え盛る。

対して――愉悦に染まっていた男の表情
大仰に手を組んで佇んでいた姿がピタっと止まり
無表情でゆっくりとなのはを見下ろす。
その灼眼には、えも知れぬ感情が渦巻いて――

「聞こえなかったが……今何と言った?」

答えない。もはや問答の価値なし。
自身の竿へと意識を移す高町なのは。

「……王の施しを無下にすると――そう聞こえたが?」

「………」

黙して語らぬエースオブエース。
口をへの字にして黄金の王をガン無視する。
つーんと視線をそらし、頑として目を合わさない。

「貴様……人間がこの神樹の実の恩恵に与るのがどれほどの栄誉か分かっているのか?
 宝具も持たぬ丸腰の貴様では勝負にならぬ。
 そう哀れんでこその我の善意を無下にするとは――」

「悪いけど秘密兵器ならこっちにもあるから……
 フェイトちゃん、出して。」

「う、うん。」

単なるイヤミにしてはやけに粘着してくる。
そんな男に聊か不信を感じるなのはとアーチャーだったが
どちらにせよ男の残飯を漁るような真似をする気は微塵もない。
はらはらと成り行きを見守るフェイトが懐から新聞紙で包んだ秘密兵器――
その「とっておき」のベールを自ら剥ぎ取った。

英雄王の宝具に匹敵するナニかをここに至って温存していたというのか?
流石は歴戦の魔道士たち。流石は無敵のスターズ&ライトニングコンビである。
後光の挿すソレが新聞紙から出され、衆目の目に晒される。
食らうが良い英雄王!
これがエースオブエース高町なのはと執務官フェイトテスタロッサの奥の手だ!!

――――赤虫

 ユスリカの幼虫。
 小型魚から中型魚まで、幅広い魚が好んで食べる。

 新鮮な取れたてのソレを栄養素を壊すことなく急速冷凍し
 商品としてショップで売り出されているもの。
 主にMサイズ以上のエンゼル等が好んで食べるようだ。


………………
………………
………………


 チョコのような形状をしているものもあり
 人間が誤って食べると酷い事になるので注意が必要だ。


「―――――、」

床にばら撒いた神樹の果実をせこせこと拾っていた英雄王。
その瞳が極限にまで見開かれていく。


 なのでお子様の手の届かないところに置くと良い。

 日本での棲息が近年危ぶまれ
 現在は主に中国からの輸入品に頼っているのが現状であり、その―――


「―――ゲートオブッッ、バビロォォォォン!!!」


突如、宝具の真名叫ぶ王。
無造作に王の財宝を展開し、虚空に浮かんだ赤虫トピックスを粉々に吹き飛ばす。

「っっ!!?」

なのはとフェイトが息を呑む中、灼熱の王気が吹き荒れ――
ナレーションを粉微塵に掻き消した。
その後にはビキビキと顔に鬼貌を漂わせながら怒りに震える英雄王が残るのみ。

「何をするの!?」

「――――黙れ」

「こんなところで暴力はやめて!」

「黙れと言っている不埒物がッ!!」

完全に本気で怒り出す男。
なのはもフェイトもわけが分からない。

「な、何で怒るんだ…! 完全に逆ギレだよ!」

「いや――思うに先ほどのアレだが」

弓兵が腕を組みながら唸る。

「案外、奴は本当に善意で施したのかも知れんぞ?」

「そんな馬鹿な! 悪意と蔑みに満ち溢れていたじゃないか!」

「まあ、アレは王だからな。」

一言で片付けられ、唖然とするフェイト。

―――そう、彼は王様
育ちが良すぎる彼は相手が平伏するのが当然の世界に育っていった。
故に一般大衆のようにアットホームに善意を表現できない。
不器用な男なのである――それはもうジャ○アン並に
故に此度のこれは悲しい行き違い。
たまにはこんなのもいいかな、と善行を施した彼のそれを額面通りに受け取る者は皆無であった。
まさに日頃の行い様様なのだが……王のアンニュイは収まらない。

「事もあろうに我が宝物の一品とミミズを同列の如く語るとは……
 神実を汚した罪――女……貴様は伝承通りタルタロスの刑罰に処す事としよう。」

「………」

自分の差し出したお宝とミミズを同列に薀蓄された。
ブランド嗜好の王様はこういう事がとても許せない。
故に結論―――女、貴様は万死に値する。

(不味いな……)

アーチャーが息を潜める。
いくらオフとはいえほのぼのパートでも平気で死者を出す事に定評のある王である。
いぢり過ぎは禁物。絶対に一緒に飲みたくない上司のような男である事は既に周知の事実。

「………結局、暴力任せになるんだ。
 やっぱり貴方はどうしようもない暴君だったね。」

残念だよ……と一言付け加えた後――
なのはの目が冷ややかに座っていく。
懐からレイジングハートを取り出したその仕草は臨戦態勢――いつでも来いという体勢だ。
彼女とて絶対に戦いたくないレベルの相手ではある。
さりとてこんな理不尽に頭を下げてやる義理もない。

「なのはっ!」

もはや一触即発。
アーチャーが密かに詠唱を唱え
息を呑んだフェイトが親友を庇おうと前に立つ。
戦場の空気が辺りに充満する。
誰もが、血を見なければ納まらない――そう覚悟した、その時

「――――――ク、、、」

怒りに燃えていた筈の王の表情が
こちらも冷たい冷笑へと変わっていた。

「…………?」

「どうやらつくづく貴様は性根が腐っているらしい―――」

まさかこのタイミングで矛を収めるとは…
男を知る者ならばそんな事は有り得ないと分かっていただけに
意外に感じるなのはとアーチャー。
そんな彼らを前に大仰に構えた王がゆっくりと一言――

「―――娘に見放されるのも道理よな」

「…………ッッッッッ!??」

爆弾を叩きつける。


――――――

ピシャーーーーーーーーン、と――今度はなのはの頭上に雷が落ちた。

10万ボルトに匹敵する電流は彼女の脊椎を直撃し
脳髄を貫き――全身に衝撃を行き渡らせる。

全く予想だにしなかった言葉が全く意外な人物の口から放たれた驚き。
両の目を見開き、端正に引き結ばれた口を半開きにして
目の前の男を呆然と見やるなのは。

「…………今……何て言ったの?」

あの不退の両足がヨロリと後ずさり
瞬きをする事も忘れて金魚のようにパクパクと口を開く。
静かに――静かに問いただす高町なのはの声に震えが走って止まらない。

「アレはなかなかに見所のある娘よ。
 我と共に歩み、一角の王道を極めようという気概。
 さぞ良い王になるであろう―――クク」

「ッッッッッ!!!!!」

大事にしていたポーチに付着した毛虫を見るた時のように
なのはの顔が焦燥に大きく歪む。

逆襲のギルガメッシュ。目には目を。歯に歯を。
そして屈辱には屈辱を―――
太古の昔、かのハムラビの法典に記されし理も
元はこの王の敷いた理から派生したものに他ならない。

戦いにも色々な形がある。
この場での武力行使は例えどのような理由があろうと蛮行に他ならない。
各々控えるのが暗黙の了解だ。
相手の挑発に怒り狂って手を出してしまっては三流。
即ち、負けに等しい行為――

では――どうするか?簡単だ。
己が尊きものを愚弄された報復ならば
相手のより尊きものを抉り屠ってこその王道。
故に王様。反撃は容赦なし。
それはなのはのウィークポイントを数分違わず打ち抜いた。

「…………ヴィヴィオに手を出したら…」

「出したら?」

「許さない…」

ブルブルと肩を震わせながら言う教導官。
空の女神が娘に手を出された瞬間、鬼子母神と化すのはJS事件で周知の事実。
本来なら自分を許さないなどという無礼をこそ許さぬ王であったが
今はそんななのはを面白そうに眺める。
何せ立場は完全に逆転していたのだから――

「許すも許さぬも我は強制などはせぬ。
 アレは自らの意思で我が元に来たのだぞ?
 不甲斐ない、どこぞの者に見切りをつけてな――」

「そんな筈……そんな筈、ない…」

冷静沈着なエースオブエースの声が震えている。
鉄壁の肉体も急所を撃ち抜かれれば一撃で崩壊する。
そしてなのはの急所は言わずもがな――愛娘のヴィヴィオだ
邂逅から今まで終始平静を保っていた彼女に今、明らかな動揺の色が浮かぶ。
愛する娘に特大の虫がついてしまった焦燥感。
そしてそれを満足気に見下ろすギル様の極めつけのドS顔が喜々に染まり切っている。

「ふん。大事な宝を放置し夢などという世迷言に現を抜かしているのは貴様であろうが?
 我のように全てをその手に治められるならともかく――
 矮小な身で二兎も三兎も追い求めれば全てが手から零れ落ちるは必定。
 道を誤ったな雑種。」

「騙されない……貴方みたいな人の言う事をあの子が聞くわけない。
 もので釣ったんでしょう? そうに決まってる…」

「貴様よりはアレの方が世の道理が分かるというだけの事。
 子の成長は案外に早いぞ? クク、、」

竿を握る事も忘れた手がポロっとレンタルの2mミドルを取り落とす。
そしてそれにすら気づかずにキッと男を睨み据えるなのはママ。
後ろで池に落ちそうになる彼女の竿をフェイトがあたふたしながらキャッチする。

「放置してるわけじゃない……でも、あの子には普通に幸せになってほしい…
 歩んでいく道まで私が決める事じゃないし自分の生き方をなぞって欲しいとも思わない。」

「否!! 真に愛するならば己が意を直に叩き込むが道理である。
 貴様はただ愛情に触れる事を恐れ慄き他の者に任せているだけに過ぎん。 
 現に今、お前の娘はどうしているのか?」

「信頼の置ける所に預けてあるよ……」

「預けてきたから大丈夫、だと……? 
 ハ、、ならば如何様な敵――例えばそうだな。
 その信頼のおける輩はどこぞのサーヴァント辺りに襲撃されても娘を守りきれるのか?」

「……それは…でも、そんな事を言ったらキリが無い…」

「我は守れる。いつ如何なる時、如何なる場所にあろうと――
 自身の宝に手をかける不埒の存在を一瞬たりとも存命はさせぬ。」

ぐっと言葉を飲み込むなのはだがここで引くわけにはいかない。
こんなわけの分からないオヤジに娘を奪われてなるものか!

「子供は自分の道具じゃないし投影機でもないよ…
 それに自分が傷つけてしまうかも知れないと恐れる事の何が悪いの?
 そうやって人は手探りながら理解を深めていくというのに…」

「何と弱気で脆弱な思考―――そのような戯言交じりの覚悟で
 子に魔魔などと呼ばせるでないわ!!」

「字が違う……どうルビればそうなるの…?
 バカにするのも大概にして…!」

空間が歪むほどの殺気を放ちあう両者。
なのはの泳いでいた瞳は今、大事なものに手を出す外敵に対する明らかな敵意に代わり
動揺はやがて言い知れぬ怒りへと育っていく。

「お前のような下女にはやはり任せておけぬな。
 喜べ。あの娘には我が元にて王道を徹底的に学ばせるとしよう。」

「………止めて」

   ふははははは! 私こそ古代ベルカの聖王である
   ふん、何故私が宿題などせねばならぬ? 
   そのような些事は雑種のすることよ!

「―――目も当てられない…」

本気で眩暈を覚えるなのはママ。
あの素直なヴィヴィオが金きらの衣装に身を包み
カイゼル笑いで踏ん反り返っている姿を想像してしまった。
悪いお友達と付き合って、子がどんどん非行に走ってしまう感覚とはこういうものだろう。
ほとんど子供を取り合う離婚後の夫婦のような会話であったが――
この二人がやると世界大戦に匹敵する凄まじさを醸し出すから恐ろしい。

沈んだ黒炎のようななのはの目とこの世の全てを焼き尽くす真紅の炎のようなギルガメッシュの目が
場末の釣堀屋さんでガチガチとぶつかりあう。

「己が手で抱かず全てを掌握出来ぬなら子など引き取るではない!!
 つくづく貴様のような女にヴィヴィオは任せておけぬわ!!」

「その自信の根拠はどこから来るの?
 人の家庭事情に口出さないで。そんな権利、貴方には無い……」

「あるに決まっておろう? 我は王である!」

「―――――フィーッシュ」

「………………あ」

「なっ!? 貴様ッ!??」

しかして間延びしたダンディな声がそんなやり取りの合間に響き渡り――

「熱くなるのは構わんが――キミら一体ここに何をしに来たのだ…?」

呆れたような口調のアーチャーが哀れみすら篭る視線と共に
淡々と漁夫の利を決め込んでいた。

「―――フェイカァァァ………!!!」

「何時の間に…」

「だからキミらが夫婦喧嘩をしていた間だと」

「誰が――」

「誰が……」

しれっと言う弓さん。
彼のボックス内は既に満杯。
口を合わせて男の言に反発するギルとなのはだったが――

「――― 誰がッッッッ! 夫婦だッッッッ!!!!!!!!! ―――」

――稲妻を思わせる絶叫が
――全てを切り裂き、かき消した

「―――、!」

「………!?」

「、、!!?」

至近でそれを受けたアーチャーのダメージは元より
なのはもギルガメッシュですらが一瞬言葉を失うほどの雷音。

「フーーーーー、、フーーーーー、、!」

それは言わずもがな……
フェイト執務官の憤怒の叫びに………他ならなかった。

「私だって……私だってヴィヴィオのママなんだ!!」

堀中の人間の視線を浴びる普段はシャイで温厚なフェイトさん。
そのな弓兵の夫婦宣言だけは許し難い。
両手を胸の前でぎゅーっと握り締め猫のようにフーー!!と
凄まじい怒りを露にするフェイト。
それを前に、なのはも弓兵もタラリラと冷や汗を拭うしかない。

「ご、ごめんねフェイトちゃん……
 ちょっと熱くなっただけで別に他意はないんだよ…?」

「ふん――誰だ貴様は?
 ヴィヴィオはお前の事など露ほども触れてはいなかったぞ?」

「ギルガメッシュさんっ!」

「ま、まあ……痴話喧嘩もほどほどにせねばな。
 双方名を汚す事になりかねぬわけだ……それに――」

――― バチ、バチ、バチ、バチ、 ―――

怒りのあまり、しまいには執務官の体の周囲にプラズマ現象が起きている。

「アーチャーさんは少し空気読んで…!」

「む……」

お得意の皮肉で締めようとした弓兵。
だがこれ以上余計な事を言ったらマジで殺られる。
戦場で磨いた自身の練達の勘がそう告げている。

(…………)

さりとて生涯において負け無し――敗走無しの彼。
更に数々の名言を遺して来た含蓄のある英霊として一目置かれている身だ。
このまま一言も言えず、オチも残せず引き下がるのはあまりにも情けない――
しばし、ふむ…と考える姿勢を取った後、なのはに向けて何を思ったか…
――シュババシュバ、シュバと身振り手振りでゼスチャーをし出す謎の英霊。

「……………」

それはまるで美しい蝶のように――舞踏の如きステップをタタン!と華麗に決めながら
ジャグラーのような身のこなしで何かを訴える。

「――――何だ貴様は」

英雄王がゴミでも見るような目で一瞥する。

「―――フ、」

弓兵は語らず、その指だけをチッチと振って――
最後は荒ぶる何たらのポーズで空中に一瞬静止した後――
華麗に着地して、謎のゼスチャーを終了させていた。

「……血迷ったのならば疾く申せ。
 無様を晒す前に終わりにしてくれる…」

「心配は無用だ英雄王――これも一つの約束事でな」

爽やかな笑顔で再び口を開く赤いサーヴァント。
その顔は何かをやり遂げた達成感で満ち溢れていた。

「ふん――貴様が血迷うのはいつもの事よ。
 昔の自分を殺しに侍るような輩が英霊を名乗るなど座も地に堕ちたというものだ。」

「その元祖である誰かなど昔の自分にため息をつかれているが?
 それについてはどう思うかね? ギルガメッシュよ」

「ふん――そんな道化がどこにいると言うのだ?
 我を謀るのも大概にするのだな」

お決まりの挨拶(ヒニク)を交わし、双方自身の竿へと戻っていくサーヴァント二人。
何か色々と有耶無耶になった気がするが――もはやどうでも良い雰囲気だった。
フェイトがスタンピートからようやく己を取り戻し、再びなのはと並んで堀に向かい合う

「落ち着いた? フェイトちゃん」

「ん……ありがとう…なのは」

フラフラとトランス状態から帰ってきたばかりの彼女。
堀中の客の恐怖と好機の入り混じった視線が
今まさに自身に注がれている事など気づく由も無い。

「何かフラフラする……私、今何か言った? 
 目の前が暗くなって何も覚えてないんだ…」

「な、何も言ってないよ、うん…
 いつも通りのフェイトちゃんだった。」

揺らぐ体を辛うじて支えながら眉間をトントンと叩いて
平静を取り戻そうとするフェイト。

「そう……うぅ、目の前がチカチカするよ…
 すいません。カテキンウォーター下さい。」

「毎度ー。」

まるで低血圧の二日酔いのOLだ。
頭痛に呻きながらカテキン入りアイソトニック飲料をガブ飲みするフェイト。
温厚な人をキレさせると怖い――それはもう、怖いのだ。
しみじみと感じ入り、暫く黙って見ていたなのはだったが――

「…………なのは?」

ようやく正気を取り戻したフェイトが見たなのはの顔は
フェイトに必死なフォローを入れる反面、彼女にも十分にそれが伝わるほどに――
何かさっきよりも余計に燃えていて……


――――――

   陽動ご苦労
   キミが英雄王をそうして引き付けてくれると何かとやり易い

   釣りだけに大した餌っぷりだ

   引き続き、検討を祈る――

――――――

「やってくれるよ……ホント」

「え?」

「ううん。何でもない。」

微笑交じりに答えるなのはである。

あのアーチャーの不思議な踊り。
その意味を、その意図をなのはだけは寸分違わず受け取っていた。

(つまりデコイに使われたわけだ。私達は…
 相変わらずの戦上手。感服したよ。)

嵌められた事に怒っているような苦笑いしているような
何とも言えない表情を作る戦技教導官である。

「ちょっと主導権握られすぎたね。そろそろ本気モードで行こう」

「??  ……?」

何か一人で納得している教導官を前に首をかしげるフェイトさんなのであった。

(ちなみにアレは…)


――――――

   付いてこれるか? 

   ならば―――死に物狂いで追って来い

――――――

(、ってとこかな……)

フェイトの体越しに見える影に――
なのはが目を向けて困ったような溜息をついた。

その先には、

赤いサーヴァントがこちらへと――

これ見よがしに男の背中を向けているところだった。


―― ここまでの戦績 ――

  • 英雄王ギルガメッシュ
spec/skill: 神の実、神酒、子供好き
10HIT

  • 高町なのは
spec/skill: 戦場の狼、赤虫、鬼子母神
0HIT

  • フェイトテスタロッサハラオウン
spec/skill: なのは不足、恋は盲目、嫉妬雷撃
0HIT

  • アーチャー
spec/skill: 解説Lv.1、漁夫の利、ボディランゲッジ
12HIT

  目次  

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最終更新:2010年11月29日 16:52