「――――久しぶりね衛宮君。最後に会ってから何年かしら?」

「ん、ちょうど8年って所じゃないか。まあ……元気そうで何よりだ、遠坂」

 意図していなかったバッティングだったが、お互い昔と変わらない対応ができたことはたまらなく嬉しかった。
 しばらく昔語りにでも華を咲かせたいところであるのだが現在の状況がそうさせてはくれないのが非常に惜しい。
 遠坂凛もそれはわかっているのか口数も少なく情報交換を持ちかけてきた。


 ……筈だったのだが。


「まあ再会を懐かしむのは兎も角。詳しい話の前に……士郎、そっちの女の子はどちら様?
 私にも紹介してくれると嬉しいんだけど」

「――――ん、ああ、この子達は高町なのはとフェイト・T・ハラオウンと言ってだな。
 ……まあその、なんだ。一言では言えない人種というか、複雑な職業で遠坂には特に説明しづらい特殊な人達と言うかだな」

 と、なんと説明しようかと考えた所で自らが何も考えていないことに気づいた。
 流石に『彼女らはあなたの研究分野の並行世界という概念が当てはまるであろう異次元の世界からやってきた魔導師です』―――などと言えるはずがない。コロサレル。
 うまい言い回しが思いつかず答に詰まる。まずそこの部分をどう説明するべきか考えてもいなかった。

 さて、なんと説明したものか。
 義理の父の娘? ――――いや既にいる。
 突然命を救ってくれた剣士。――――ってモロバレだ。
 知り合いの魔術師の娘―――遠坂以外の魔術師だとルヴィア位しか知り合いがいない。
 やばい、正直に話すか? どうする……どうする?

 思考は空回りし会話は断線する。
 そしてそんな不意に言葉がぷっつりと途切れた元弟子の様子に遠坂凛が気づかぬはずはなかった。

「なによ珍しいわねアンタが言いよどむなんて…………ってまさか士郎?
 なんか見た目子供向け番組の魔法少女っぽいけどイリヤみたいな子が好きとか言うアレな趣味に走ったなんてことないでしょうね?」

「んなわけあるか! 大体確かになのはは童顔で子供っぽくて背も低いけどこれでももう1○だ! そんな趣味は毛頭ないし何より彼女らに失礼だろう!
 大体よくよく見れば遠坂よりよっぽど胸に将来の期待が持てるだ……ろ……し……え?」

 ――――――あ。

 気づけば愚かなほど未熟だった昔のように地雷を踏む自分がいた。
 眼前には満面の笑みで笑っていない赤いあくまが一人。
 己の迂闊さを呪う。できれば10秒前の過去の自分を抹殺死体、じゃなくて抹殺したい。
 ハハハ、まったく抹殺死体なんていうのは過去でなくこれからの未来の私に降りかかる末路のことだろう――――いいや待て、落ち着けオレ。

「そう、嬉しいわ衛宮君。貴方は○年間たった今もちっとも変わってないみたい。
 ――――それで、何かこの世に言い残すことはあるかしら士郎? 殴ッ血KILL」

「ちょ、ちょっと待て遠坂! 今のは口が滑ったと言うか、私が悪かった!
 私としてもいい加減選択肢一発ミス直行のタイガー道場なんて理不尽な展開は今更如何ともし難い。
 つまりは今の台詞は抑止力で人間の都合など考えもしない身勝手なアラヤとガイアの意識の後押しに
 寄る物とも言えんこともないこともないかも言えない訳でも無いような気がせんでも無いわけでな。だから
 ここは特別深い意味も無いその場の勢いで走ったただの記号だと思って今のはお互いのために聞き流そう。
 それに胸囲に関してはアレだ。まだ背も胸とも区別がつかない子供と張り合うのはよくないと思う……ヒィッ!
  ……クッ、高町なのは! すまないが助け舟の一つを貰え、る、と……」

 どう足掻いても抜け出せそうにない死亡フラグから抜け出そうと儚い抵抗を試みるも、図られたかのようにどんどん泥沼に嵌ってゆく。
 己の無力を歯噛みし、恥を捨て助力を請おうと隣に目を向けるとなんとそこには――――。

「……ふぅん衛宮さん。私のことそんな風に見てたんですか?
 童顔とか? 背とか? 胸とか?」

「白いあくま!? フェ、フェイト・T・ハラオウン! 2人がかりでは撤退すらままならんっ! 悪いがなのはだけでも押さえて――――」

「できません無理ですすみません士郎さん」
『Sorry』
『All right』

「お前ら既に退却済みかっ!? そして何が『問題ありません』なんだ答えろレイジングハート!!」

 適当にオールライトとか言ってんじゃねえぞーと叫ぶが一瞬のうちに100米程の距離を後方へ退避した発育の良いほうの彼女は他人事の振りを決める気かのようにこちらに視線を合わせようとしない――――とかそんな思考をした瞬間さらに両脇からの圧力(殺気)が倍増された。
 モノローグ読むなチクショウ。

 幾度の戦場を超えても早々お目にかかれないこの怨念に満ちた空間を諺で表すとしたらどうなるだろうか? 少し考えると驚くほど簡単に出てきた。
 曰く所の、『前門の虎、後門の狼』ならぬ―――『前門のあくま、後門のあくま』。
 この場においてこれ以上相応しい言葉があるだろうか、いやない。ああそうだこのなんの意味の無い戦場を乗り越えられたらこの身をもって知ったこの格言を
 辞書に加えてもらえるように知り合いの学者に頼んでみようか。意味は勿論どちらを選んでも避けられない死。クッ、こうなったらもはや腹をくくるしか無いのか。
 否、己の心眼を忘れたのか衛宮士郎。どんな状況下においても1%でも活路が存在するのであればどうにかしてそれを手繰り寄せろ! ……うあ、無理無理。
 活路なんて見当たらない見当たらない見当たらない! ほんの少しばかりの本音を漏らした結末がこれか。大体遠坂もいい加減胸のサイズなど諦めてしまえばいいのに。
 そんなんだから何時までたっても各方面でネタにされ続けるんだ。ああいいだろう世界よ。それが我が運命と言うならば喜んで受け入れようだが忘れるな私は決して貴様に屈したりなど――――。

「衛宮君?」

 思考(現実逃避)を脇に悪魔達が話しかけて来る。
 一縷の望みを抱いて視線をそちらに動かす、そこにはさらに先ほどより凄みを増したイイ笑顔達があった。
 あれ? もしかして今のも漏れてる?

「ねぇ、それでいいたいことは終わりなのかしら?」
「そうですよね。そろそろ私達ときちんとした『お話』、しませんか衛宮さん?」

 死刑執行までのカウントダウンを始めた彼女ら。
 世界よ、どうやら覚悟を決めろと言うらしい。
 このまま押し切られた流れに身を切られ、朽ち果て磨耗するのが我が宿命なのか……!?



  ・無理。運命を受け入れる。
 →・だが私はこの場を潜り抜ける天才的なアイディアを閃いた!













 ――――いや、だが。だがまだだ。
BGMエミヤ







 思い出せ、今彼女らは『話は終わりか?』と尋ねてきたのだ!

 キュイーンっ!と何処からか効果音が鳴り響く。
 エミヤの心眼はここに来て絶好の機会を感じ取ったのだ!
 そう、その『話は終わりか?』という言葉は裏を返せば存在しなかったはずの発言権を得る絶好の機会だろう――――!

 ココダ! ココガ1%の逆転への一歩! 恐らくこれが最後のちゃんす! 上手く答えられればキットたいがぁには会ワナクテすむかもしれナイ――――!



                BGM『エミヤ』から『GO!慎二OH』


 ――――だが忘れるな衛宮士郎



            お前はこの状況下で巻き返せる星の下には



                      決して、生まれてなどいないことを――――




 →・無理。運命を受け入れる。
   ・無理。運命を受け入れる。
   ・無理。運命を受け入れる。


                             選択肢が更新されました。



「う、え、あ。いや、だ、だだだだからだな遠坂、8年も経って君も様々な知と経験を有した妙齢とも
言える年齢となった今、淑女らしい落ち着きと優雅さは常に保ち歳相応の佇まいをするべきであって、
なのはぐらいの年齢と言うか年を感じさせない成長具合の子供だったらまだ話は別だが、もうお互い
2(ピー)才な時点で昔のような死亡フラグ乱立の空中エアリアル弱弱中強ゲージ技のようなコンボのごとき畳み掛けは私にも流石にきつ過ぎr――――」


 ……だが心眼スキルが発動しても望んだ通りに行動できるとは限らない。
 精神をこれ以上ないほど揺らされた衛宮士郎はただ己の危機を乗り越えようと無駄な足掻きに生存への唯一のチャンスと言ってよかった機会を感情に任せて使い切ってしまった……!

 そして今この時点での彼は、世界の修正とか周囲の期待とか、なんかもう勢いに任せて無意識に喋っていたので
1秒前の自分の台詞はどうにも記憶に残っていなかった。いや、自分で喋った台詞は耳に入っているがまだその意味が脳に届いていなかったのだった。

 故にこの瞬間、――――この永遠にも引き伸ばされたこの一瞬には自ら何を喋ったのかを理解していない男と極限まで魔力を高めた紅白の悪魔が2人という奇妙な舞台が出来上がる。
 ――――まあ彼は両脇から感じられる圧力(憎悪)が2乗になったことで口に出した台詞がどんなものだったのかを識る前には把握できたのだが。

 正直やばい、やばすぎる。
 判りやすく具体的に言うとその先を知っていて選ぶ即死ルート。
 おのれプレイヤーめ気安くそちらを選ぶんじゃない、一々死ぬ方の身になってみろ―――。

「…………ダレガ」
「…………成長?」

 あ、死んだ。現実逃避をしている彼を眺めながらフェイトは思う。
 そしてどうしてあんなにも見事すぎる墓穴が掘れるのだろうとも思う。
 既に傍観者である自分も思考を停止させながら、ただ耳をそっと塞いでこれから起こる断末魔に備え、そして――――。



「だれがいい歳年増だコラァァァァァァァァ!!!!」
「衛宮さんの馬鹿ァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 声無き悲鳴はただ遠く。
 だが私はこの状況を数分後(次のシーン)までには綺麗さっぱりと忘れているだろう。
 ただ早く時間をやり過ごすためだけに思考を停止させるフェイト・T・ハラオウン。
 なんかもう色々と黄昏ていた。

 助けようとは思わない。友人が怒ると恐ろしいのは身をもって知っているし衛宮さんの知り合いの女性―――遠坂凛といっただろうか? 彼女も同等かそれ以上だろう。
 2人が揃って我を失って、それでも被害が士郎さん一人というだけならばそれは最小限の損害に収まっているとも言えるではないだろうか、いや言える。
 ―――故に、余計な消耗を避けるため私がこうして避難をしておくことはきっと、間違いなんかじゃないんだから―――と結論付けた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」


 さて、今の咆哮は士郎さんのものか凛さんのものか、それともなのはのものか。
 最後のだったらやだなぁと思いつつ自らの親友にはこれ以上ないほど当てはまる声だとも思った。ああでもこれ以上変な想像すると私にまで矛先が向きかねないので断念しよう。
 仕方なしに雲の数でも数えようと空を見上げるのだった。
 ……あ、あの雲なのはに似てる。白くて黒くて雄雄しい所が特に。

 ――――つまり、誰でも己の身はかわいいものなのであった、まる、なの。


 タイガー道場へ行きますか?

 →はい。
  いいえ。


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最終更新:2008年05月10日 12:44