一応、淫蟲と中将と蟲爺さんの続編みたいなの

「姉さん、今回の計画は成功だね。全ては姉さんの構想通りだよ。
これで僕らの夢に一歩近づけるね」

満面の笑みを浮かべてカリムを仰ぎ見るヴェロッサ。
重厚な椅子に座してカリムは、姉を讃える弟の祝辞を黙して聞いた。

「しかし、彼女がここまで完成するとは思わなかったよ。
ゆりかごを提供した甲斐があったというものだね。
もう次を作る必要はないかな」
「そうね」

コーヒーカップを口に運び黒い液体を啜る。
この黒々とした物質を体に入れる度に腹の中まで黒くなるのでは?
と、陽気になっている弟を見つめながら、カリムは苦笑する。

実際、弟がはしゃぐ程度に彼女の計画は図に当たった。
今や、管理局でカリムに対抗できる人物は小数であり、
管理局が収集したロストロギア、それをカリムは自由に扱える地位にまで上り詰めていた。
聖王教会を警戒し続け、最後の障害となっていた四人は
先刻、教会の手を汚さずに闇へ葬られたのだから。

「クイント型の性能も…素晴らしい完成度……姉さん…この気配は」
「ええ、お客様のようですね。
出てきたらどうですか?障気が滲み出てますよ」

言葉を切ったヴェロッサ。視線は厳しく調度品の裏側に向けられる。
カリムの指摘に答え、調度品の裏から現れたのは、妖怪のような面容に
とある管理外世界で和装呼ばれる服装の老人。
新たに現れた気配にカリムは変わらず、カップを口へ運びつつ、相手の出方を待った。

「ふぉふぉ、やるのお。儂の穏行を見破るとは」
「私達は近接戦闘が得意ですから。
それで、いかなる御用件でしょうか?最高評議会顧問殿。
騒動のさなか、ミッドにはおられなかったようなので見逃していましたが、
御用件次第では二度とこの場から帰ってもらわなくて結構ですが?」

カップを置き、和装の老人を見据える。目の前の老人は少なくとも
ミッドの歴史に100年前から出現した異世界からの来訪者。
最高評議会の3人に協力し、密に大きな影響力をミッドに示してきた男。
その目的はただただ、ロストロギアへの執着。
カリムが幼い頃初めて出会って以来、変化のない老人、間桐臟硯のロストロギアへの執着は
年々悪化しているように思え、
すでに醜い妄執とカリムには感じられた。


「なぁに儂らの目的は同じじゃろう?カリムよ。ロストロギアを有効活用する。
儂もロストロギア管理の一端を誰よりも長く担ってきた者よ。
あやつら3人は回収だけに心を砕いていたようじゃが、儂は違う。
せっかくの技術、使わず腐らせておくのは愚かなことよ。
お主も使う気なのじゃろう?ベルカの騎士よ?」

臟硯の誘惑するような、声色を眉一つ動かさず、静かに聞いた。

「さ~てお主は何をするつもりなのかのー。ところで、今回の事件、一つ賛辞を送っておこうか。
見事、じゃ。聖王教会は一切前面にでておらぬ。利を得たのは聖王教会のみなのにのぉ」

カカカと乾いた笑いを湛える老人に危険なものを感じたのか、
ヴェロッサは攻撃を意図し、けどられぬように態勢をとりはじめる。
けれど、カリムは目配せだけし、ヴェロッサの動きを制し、臟硯に向き直った。

「私達は、聖王教会とベルカが今より少しばかり、
少しだけ昔のような市民権を得られるよう活動しているだけですが、
あなたが引き続きロストロギアの研究・管理をしたいというなら許可しましょう。
魔術師・間桐臟硯」

この老人は世界をどうこうなどという思考は毛頭なく、
自らの延命だけをロストロギアに求めている
哀れな老人なのだと、カリムはかねてから理解していた。
だから、老人の研究さえ邪魔しなければ、決して敵になることはない。

静かに、威厳のある宣告に臟硯は気をよくする。

「カカ、お主らの大望を儂もまた邪魔する気はない。
存分に失われた技術を復活させるがよい。儂も期待しておる。
じゃがのぉ、まこと立派に成長したものよ。あの小さかったお主も今年で…
おっと禁句じゃったな。それにしても…儂に許可を与えるじゃと?
そこまで掌握したか。やりおるやりおる」
「ミッドには多くのロストロギアを使いこなすのは不可能。
私達が一番上手く管理できるでしょうから妥当な配置を換えをしただけです」

しれっと臟硯に答えるカリムは再びカップを口に運ぶ。

「間桐臟硯、こちらから質問をひとつよろしいですか?
扉の向こうに一人待機させているようですが、室内に講堂内にいれなくていいのですか?」

カリムの指摘に臟硯は虚を突かれたような顔になり、
また笑った。今度はやや自嘲気味に。


「忘れておったわい。才能に乏しい孫に少しばかり旅をさせようかと思い連れてきたのじゃった。
慎二、入るがよい」

臟硯に呼ばれて講堂に入ってきたのはまだ若い青髪の少年だった。
その顔にはありありと不満の色が浮かんでいた。

「御祖父様、ここはどこなんです!?朝起きたらわけがわからないところに…」
「挨拶するがよい慎二、しばらくお主をこのカリム・グラシアに預けようと思っての」
「「はぁ!?」」

と、声大きく反応したのは慎二とヴェロッサ。カリムは臟硯の真意を探ろうと常人離れした顔を窺う。

「忘れてたくらい本当にたいしたことではないのじゃが
単なる親心よ。こやつにはこっちの世界の方が合うかもしれんしの」

一方的に話を進める臟硯についに慎二は激昂した。

「御祖父様の知り合いなんていうババアに僕は用なんてないんだよ!
外見は若くても実はピー歳だったりするんだろ!?
そんなのを相手にするなんて御免だね!」

喚く慎二に喝を入れようとヴェロッサは動こうと…はできなかった。
次の瞬間絶対零度が一体を覆う。

「…臟硯…教育しても構わないんですね?」
「ひっ!?よ…寄るな!?」

椅子から立ち上がった女を前に慎二は後ずさり、顔を強張らせる。
顔には恐怖が浮かんでいた。

「カカ、もちろんじゃ。好きにしてくれてかまわんぞ。
では、儂は保管所に出向かせてもらおう」

臟硯が去ったあとの慎二の運命はまだまだ未定。
ベルカ式の厳しい教育が確定したのみ。はてさてどうなるか。

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最終更新:2009年04月08日 07:31