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#1

桜色の光が舞い降りてくるのが見えた気がして、
スバルはぼんやりとした頭でそちらを目で追った

「……なのはさん?」

さすがに血が足りなくなってきたのか、頭がくらくらする
いい加減この槍を抜かないと治療もままならないなと思い、
スバルは自分のわき腹に刺さる槍に手をかけた

「スバル、駄目!」

慌てた声が聞こえた気がしたがもう遅い、
鈍い音を立てて血濡れの黄色い短槍が地面に転がる
ようやく駆けつけた医療班が即座に止血の為に治療魔法を施すが、
程なくして彼らの顔が驚愕に彩られた

「血が止まらない?!」

抜いてしまった為勢いを増した出欠に全員が血相を変える
術の構成に手違いは無い、完治は望めないが外面を取り繕うぐらいの効果はあるはずだ
にも拘らず、傷口はまったく変化せず止まることなく血が流れ続けている

「この槍自体が治癒阻害の効果のあるロストロギアなんです、
スバル、まだ意識はある、返事は出来る?」

なのはの呼びかけに何とか意識をつなぎとめる
いずれにせよ早く何とかしなければ出血量がしゃれにならない
輸血しようにも設備はともかく戦闘機人に合う血液のストックがあるかどうか
いや、それよりも―――

「なのはさん、あの人……」

気になるのは幽鬼と戦っているこの槍の持ち主だ
あの幽鬼の剣は危険だ、一人で戦って何とかできる相手じゃない
まして片腕では……


「スバル、今危険なのはスバルの方だよ、
―――少し痛いけど、我慢できる?」

ヒューヒューと切れ切れの息で問いかける彼女の言葉をさえぎり、
なのはが傷口に手を触れる、
それだけで恩師の意図を理解すると、スバルは金の目でなのはを見上げ頷いた

「せぇの!」

極小規模の砲撃魔法で傷口を吹き飛ばす、
治る見込みが無い以上、血管を潰して流れないようにする以外に無いという判断である
幸い塞ぐことは出来ないが広げる分には問題は無いらしい
やられた側であるスバルからすれば、
実際のところショック死を起こしてもおかしくはなかったのだが、
耐え切れたのは戦闘機人の面目躍如といったところであろう

「無茶ですな」

「えぇ」

陸士隊の隊長に答えるなのはの顔には苦笑さえ浮かばない、
キャスターとの戦闘中からどうにも後手に回っている気がする
エース・オブ・エースとしてはなんとも情けない有様である

「しかし、これがロストロギアとすると、彼らの武器は……」

「えぇ、全て何らかのロストロギアだと考えていいそうです、
あの紅い槍には魔力阻害―――穂先そのものが高密度のAM物質ですね、
剣の方は―――」

言いながら幽鬼に意識を集中すると、
ロストロギアカレイドスコープの効果により、
なのはの意識にサーヴァントの能力が一覧として浮かび上がってきた



CLASSバーサーカー 属性:秩序・狂
筋力A 耐久A 敏捷A+ 魔力C 幸運B 宝具A

事前に確認したランサーとの基礎ステータスの差に驚きつつも更に意識を剣に向ける

『無毀なる湖光』 A++
種別・対人宝具 レンジ・1~2 最大補足・一人
装備者の全パラメーターを1ランク上昇させる、行動におけるST判定の成功率2倍
また、竜退治の逸話を持つため、竜属性に対して追加ダメージ

「能力向上、特に竜種に対して有効……という所のようですね」

単純だが、これだけの地力があればそれだけで脅威になる
ランサーの槍の効果ならその補正を打ち消しての反撃も可能だろうが
片腕ではそれもままならない
今となっては宝具の相性による有利ももはや役に立たない
“握りの合う剣を持つ”と言う事がいかに剣士を変えるかをなのはは知っている
この狂戦士であれば、それがたとえただ丈夫なだけのものであったとしても、
全ての不利を帳消しにして余りある

デバイスを構えるが、ランサーを巻き込まずに倒せるかと言えば、それは否だ
相手の機動力はもはやランサーすら上回っている、
彼が離脱すればその瞬間にこちらに踏み込まれ蹂躙されかねない

巻き添え覚悟で撃つことも考えるが却下した
射撃魔法程度では迎撃されるのが関の山だし、
砲撃魔法は現状では相手だけが離脱出来る可能性のほうが高いからだ

ジリ貧だと理解しつつもランサーが現状を打破するのを期待するしかない
問題はどう考えてもその望みがなさそうなことだったが




#2

「よっと」

ひょいひょいと身軽に岩場を登っていく、
その様子は少年を見ればただの散歩同然に思えるが、
周りを見ればそんなことはないのは一目瞭然だった

数本前の車両の脱線で乗っていたレールウェイが止まってしまったため、
仕方がないので途中下車して手近な道路に行くことにしたようだ、
実のところ、
窓をこじ開けて外に出るという行為を奇異な目で見られていたが少年は気にしない

上りきった先にあったのはどうやら車道のようだ
それなりに制限のゆるい道路らしくかなりの高速で飛ばしている車がある、
そのうちの一台がゆるゆると自分の近くの路肩で停車した
おそらくフェンスの上に立って歩いている自分を見咎めてのものだろう
少年は身軽にそこから飛び降りると音も無くその車の前に着地した

運転席から長髪の女性が降りてきて、何か、おそらくは決まり文句を口にしかけ、
息を呑むと、眉をひそめてから、改めて口を開いた

「貴方―――何?」

“誰”では無く“何”と問いかけたのはいかなる本能によるものだったのか、
いずれにせよ、彼女―――ギンガ・ナカジマの質問は、
奇しくもつい先程、彼女の妹が少年にしたものとまったく同じ内容であった

「何だかさっきも同じことを聞かれた気がしますけど
―――ふぅん、そんなに躯にガラクタを詰め込んでるなんて、
さっきのお姉さんといい、
そんなことをしても“ヒト以外のモノ”しか作れないってどうして判らないかな」

―――見抜かれた?

まぁ混ぜ物を創りたがるって言うならいつの時代もそうですけど、
などと続ける少年に彼女は戦慄した
確かに自分は戦闘機人だが、外から違いがわかるような特徴は無いはずだ
しいて言うなら瞳孔だが、これも通常状態ではまず違いなど判らない



「あ、その辺はお姉さんに言うのはちょっと違うのかな?
気に障ったのなら謝ります」

「それはまぁ、うん……」

警戒し始めたところを不意打ち気味に謝られてギンガは返って反応に困ってしまった
見た目が子供と言うのはあまりあてにならないが少なくても
あまり裏表のあるタイプではないのだろうか?

どこか毒気を抜かれて肩を竦めたところに通信が入ってきた、
向かう途中だった、スバルのいるレールウェイの現場の状況のようだが

「不治の傷?
そんなロストロギアが?」

スバルが槍に貫かれたことは聞き及んでいたが、
まさかそんなことが

「あぁ、ランサーさんの槍ですねー」

思わずギンガが呼び出した画像を横合いから覗き込み、
少年はスバルの傷に眉一つ動かさずにあぁと頷いた

「言っておきますけど、移植手術とかも無意味ですよ、
あれは“魂のカタチ”をそういう形に創りかえる宝具ですから」

この槍で傷付けた段階で魂の持つ記憶はそのカタチに上書きされる
傷が残るのは物理的にもたらされる結果でしかなく、それを繕ったところで意味は無い
故にそれを修復するには槍の存在そのものを破棄する以外に無い

「そんなことが……」

「なんなら、ご自分で試してみます?」

魂のカタチというものにいま一つ理解の及ばないギンガの前に、
背後から一振りの槍を取り出してみせる



少年の体格で隠し持てるような物ではない、
デバイスのような形に収納していたわけでもない
柄を先にしてまっすぐに水の中から浮かんでくるように、
空間に波紋を浮かべて槍が現れたのだ

今度こそギンガは戦慄に身を硬くした

この少年は異常だ、決して気を許していい相手ではない

「心配しなくても今の僕に害は無いですよ?
―――まぁ、茶番劇に巻き込んだ張本人が出てきたのなら、
話は変わりますけど」

目だけは笑っていない笑顔でそう言うと、それじゃ、そろそろ行きますねと言いながら、
軽業師のように身軽に柵の上へと戻ると、ギンガをよそに
少年はそのまま風のように立ち去ってしまった

残された槍とその後姿を交互に見ながら、
ギンガはしばらくの間、呆然と立ち尽くした




#3

「づ……」

相手の横薙ぎに対し穂先を地面に突き立てて支えを作り受け止める
両の手があればまだしも片腕ではそろそろ限界と言ったところだろう

相手の一太刀における速度はすでに此方のそれを上回っている
得物の重量や体力差ではない、おそらく万全な状態の自分すら超えるだろう

「騎士王の円卓において最強を謡われたのは伊達ではないということか、
だが、負けられん!」

円卓最高の誉れを受けたのは湖の騎士ランスロットであって、
断じてこのような狂戦士ではない

狂気のままに同胞を切り捨て、ブリテンを崩壊に導いた元凶
主君の妃との悲恋といえば聞こえはいいが、
その行き着いた先が主君を害するなど良しとしていい筈が無い

その“主君”を知るだけにそこについては思うところが無いではないが
何れにせよ、宝剣を抜いて尚、不忠を晒すこの騎士を捨て置くことは出来ない

一手で良い、ただ一手この状況を打開する何かがあれば良い
その一手を見出せぬまま、ランサーはジリジリと追い詰められていった




#4

ぼんやりとしていた頭が少しだけ回復した、
余計な出血がなくなったことで血の流れが安定してきたらしい
こういう時つくづく便利に出来てるよねこの躯と自分自身に思いながら、
周囲の状況を把握する

視界の先に、幽鬼と切り結ぶランサーの姿が映った
正直あの様でよく持つと言っていい状況だ

長柄の武器はリーチで相手を上回ってこそ意義がある
懐で振るわれる連撃相手に鍔競り合うなど本来論外だ
狭い間合いでは小回りの聞く武器のほうが有利である

何とか一度仕切り直すべきだが、おそらく自力では不可能だろう
手を貸すにしてもなのはが出しあぐねるような状況だ、一体どうすべきか

意識を躯に向ける、
依然バイタルは低下中、内臓に受けたダメージは正直なところ楽観どころか、
常人なら確実に死亡するレベル
先ほどの砲撃による傷口の焼き潰しによるダメージもあって
下半身の機能は半分以下、特に左足は神経ケーブルが一部断線しており、
まったく動かないわけではないが、自力での歩行、移動は非常に困難
それ以前に立ち上がるだけの体力が残っていないのだが

「くっ……」

なんとか上半身だけ身を起こす、
その目の前に、自分が引き抜いた短槍があった、
見たところ紅い槍よりも短いだけあって近い間合いでの取り回しもよさそうである
なんとかこちらに持ち替える事が出来れば今よりも状況は好転するかもしれない
問題はどうやってそうするかだが……



「キャロ、ちょっと……」

「は、はい、なんですかスバルさん?」

すぐ隣にいたキャロに声をかけ
思いついた策を彼女に耳打ちする

「スバルどうしたの?」

様子に気づいたなのはが問いかけてくる、
思い付きを説明すると、少し考えてから頷いた

「問題はスバルの体力だね、大丈夫?」

「はい、ちょっとだけですけどやれます」

「わかった、じゃぁ私の目眩ましと同時にスタートでいくよ、
いい?」

「「はい!」」

陸戦部隊を下がらせて配置につく、
デバイスを構え、なのはが砲撃の姿勢に入る
あからさまなその動きにランサーがこちらの動きをいぶかしみ、
思わずこちらに向けられた視線となのはの視線が交わる

―――後は信じてもらうだけだ



「ストレイト……バスター!!」

威力を絞った反応炸裂弾を足元に発射する、
爆発ばかり派手な攻撃に一瞬、ランサーとバーサーカーの動きが止まる、
そこに向け―――

「ウイング・ロード!!」

一筋の光の道が走る、
万全の状態からすれば細く頼りないが、
緩やかに弧を描いて輪を造ろうとするかのように伸びる光の先、
目の前を通り過ぎるそれの示す先を目で追って、
ランサーはその“先”へと向かうべく道へ飛び乗った
一拍遅れてバーサーカーもそれを追う

次第に勾配が上がって行くが、サーヴァントの脚力、
何より最速を誇るランサーとなれば、
例え垂直の壁であろうと速度に任せて駆け上がることが可能である

だが、宝具で強化された身体能力は伊達ではない
追いすがるバーサーカーとの距離が次第に詰まる

「かまわん、そのまま落とせ!」

後ろも見ずに気配だけで距離を測りながらランサーは上空に向けてそう叫んだ

「キュクルー!」

上空で何かがそれに答える
黄色の短槍を掴む鳥と見まごう影
なのはの目眩ましにまぎれて飛び立ったキャロの使役竜フリードリッヒ
その小竜形態である



叫びに答え、フリードが掴んでいた短槍を放す、
自由落下で落ちてくるそれに向けてランサーがウイングロードを蹴って飛ぶ

「今!」

なのはの指示にスバルがウイングロードの魔力を解除し、
続いて跳ぼうとしたバーサーカーが突如足場を失い空中に投げ出された

「勝機!」

短槍とその身が交錯する刹那でありながら、その不治の穂先を意に介した様子も無く
空中でランサーは手にした長槍を振るい、遠心力によって一転し、
そのまま回転する勢いに任せて長槍を投げ放つ

空中に投げ出されたバーサーカーの胸の真中に突き立てられたその槍は、
勢いを失わず、そのまま狂戦士を地に縫い止める楔と化す

「見せよう、戦場に咲いた徒花の心意気!」

言い放つランサーの右手には、傷一つ追うことなく掴み取った、
もう一つの己が愛槍にして『必滅の黄薔薇』の銘を持つ不治なる魔槍
伝承に曰く、
ディルムッドは立てた魔槍の穂先に飛び乗っても傷一つ負わなかったという
すれ違いざま、まさに穂先が躯と触れ合うかという瀬戸際において、
大振りの態勢から槍を投げると同時に持ち換えるという離れ業を、
恐れることなくやってのけたそれは伝承の再現に他ならない

独楽のごとき勢いで地に縫いとめたその敵を二度三度と切り刻む、
悲恋繚乱と名付けられし、二槍の騎士の槍術の秘奥

「貫け、必滅の黄薔薇!」

今一度大きく空中へ飛び上がったランサーが止めとばかりに槍を投げ放つ、
胸を貫かれ、全身を刻まれたバーサーカーにはかわすすべも体力も無い


「……ar……er……Ar……thur……!!」

そう思われた刹那、まさにランサーの腕から槍が離れるそのタイミングで、
咆哮と共に、バーサーカーもまた、己が愛剣を上空に投げ放っていた

二つの宝具が空中で交錯し、それぞれが互いの敵の胸を射抜く
ここに着て尚動くという事実に全員が戦慄を覚える目の前で、
ランサーが受身も取れずに地面に落ちた

「相打ち、か……」

血の混じった吐息とともにそう呟く、ザラリとその躯から灰が零れ落ちた
胸を貫いた魔剣は、正確にランサーの霊核を打ち抜いていた
まったくの苦し紛れでありながら、恐るべき技量である

「ランサーさん!」

駆け寄ったキャロが治癒魔法をかけようとするのを手で制し、
ランサーはスバルのほうへ向き直った、
なのはに支えられ息も絶え絶えといった様子で、
それでも尚、自分の身ではなくランサーの身を案じ、
己が至らなさに心を痛める彼女にランサーは柔らかな笑みを浮かべて頭を振った

確かに心残りはある、
黒く闇に落ちた騎士王、今尚どこかで跳梁しているであろう外道、事の真相、
ゲッシュに基づいて協力を確約した橙色の髪の乙女への誓いを志半ばで裏切る無念もある

だが、このまま消滅すれば彼女を襲う不治の呪いもともに消え去る、
この身は所詮一時の虚像、消え去ったとてそれはあるべき形に戻るだけのこと
ならば、失われるべきでない命の為に消え去るのであればむしろ本望

四肢の感覚だけでなく、意識そのものが希薄になっていく、
ふと気が付くといつの間にか陸士たちが彼に向けて敬礼していた
それが彼らなりの礼の形であり、自らに向けられた賞賛であると気づき、
彼は最後に、それに倣って礼を返した