#1

桜色の光弾が流星の如く降り注ぐ中を青と鉛の影が交錯する
砲撃の力押しで足止めが精々か、となのはは自分の力不足に歯噛みした

攻撃の通じる条件がいま一つ分かりにくい、
少なくてもランサーの言うところによれば
並みのサーヴァントならば落とせるだけの威力があるはずなのだが

―――ブラスターを使うか?

自問して首を振る、使ったところで通じるとは限らない、
まったく持ってやり辛いことこの上ない
責めてその辺りがわかりやすくグラフ化でもしてればなぁと思うが、
往々にして戦場はそう言うものだ、
理路整然とデータ化された状況などありはしないと思い直す

「ランサーさん!」

「む!」

囮役のランサーを退かせながら砲撃を二、三発叩き込んで動きを止める、
幸いにして純粋魔力砲の勢いそのものを打ち消すような力はないようなのが助かる

―――それでもやはり、止めるのに必要な威力が増してきているが

『なのはさん!』

「ヴァイス君?」

念話に振り返ると、JF-704ヘリが飛び立とうとするのが見えた
ここまで来るのに使ったヴァイスのヘリだ

『フェイトさん連れて地上本部に戻ります、
なんか向こうもまずい事態みたいですけど』

「まずいって、向こうにも出たの?」

ヴァイスの確認したところによれば地上本部に現在、
骸骨じみた不気味な魔法生物の群れが侵攻しているらしい
アルバートたちまで駆り出して応戦しているが、
単純な割りに指揮個体が見当たらず、現在こう着状態らしい

『スバルの方もこっちに向かってたらしいっすけど、
途中で別の奴にぶつかったみたいですし、
兎に角、こっちじゃ役に立ちそうも無いんで向こうの現場に行ってきます』

「うん、気をつけてね」

飛び立つヘリを見送ると、はやてから座標計算が終了したことが告げられた

『ヴァイス君……最近なんかなのはちゃんと話すの長くないか?
それに今の状況報告、私にするんが筋とちゃうんか』

「にゃはは、気のせいだよきっと
―――それよりはやてちゃん、行くよ!」

はやての愚痴を受け流す、
無駄口だが、無理にでもそれをたたけると言うことは
少なくて、絶望感だけは振り切れると言うことだ

「レイジングハート、バインドセット!」

空間にあらかじめ仕掛けておいた拘束用術式を開放すると
幾重もの桜色の魔法光が伸び、巨人の四肢を縛り上げ動きを封じる

「―――っ」

ギシギシとうなるバインドに引きつりながら魔力を上乗せする
それなりに自信があったんだけど、これは長く持ちそうに無いなとなのはは思った




#2

空港滑走路、旅客機の類を退避させたそこに一人の少女が立っていた
白と桃色を基調とし、黒い縁取りをしたバリアジャケットを着たその少女こそ、
元機動六課前線部隊陸戦隊員、キャロ・ル・ルシエ一等陸士であった

目を瞑って意識を集中し、魔力を制御するその姿は、
神に祈りを捧げる巫女さながらの厳かな空気をかもし出している

胸元で十字に合わされた両手に輝く宝珠がひときわ強く輝き、
幾重にも重ねられた魔法陣が輝きを増していく

「―――行きます!」

強い意志をこめてそう言うと共に、魔法陣の輝きが、明確な光に変わる
彼女の足元から始まったそれは、瞬く間に滑走路を覆い尽くし、
光が晴れた其処には、まったく別の光景が展開していた

「転移完了!
キャロご苦労さんやったな」

「はい、皆さんも」

はやてに答えながら、視線の先の巨人に驚くキャロ
召喚師ゆえの直感で、彼女は巨人がただならぬ存在だと理解した

「キャロ、さがって援護頼める?」

「はい、なのはさん」

舞い降りた桜色の輝きに頷いて、連れていた子竜とともに巨人から距離をとる
途中すれ違った男が、その連れに軽く驚いていたが、
彼の顔を見ていなかったため彼女は気付かなかった

「ほう、幻想種を連れておるのか?」

「えぇ!?」

十分な距離をとり、振り返ったところで、
横合いから胴間声をかけられてキャロは目を丸くした

振り返ると、其処には燦然と輝くチャリオットに乗った大男が
眼光鋭く戦場を見据えており、
そう言えば、今なのはたちと一緒に戦ってる男性も見たことの無い魔導師だ
一体何処の所属の人だろうと彼女は首を傾げた

「―――さて、それでは行くとするか」

大男が手綱を引くと戦車を引く神牛が大きく嘶き、一際大きな輝きを放つ
それは広域魔法に匹敵する大規模な魔力の放出によるものだ

「キャロ、こっちへ、
―――なのはちゃん、ランサーさん、合図と同時に離脱してな」

キャロを手招きしながら二人に指示を出す

「了解!」

「承知した」

ゴウと轟く魔力の奔流に巨人が本能的にコチラを向く、
それこそ合図、はやての指示に合わせて二人が飛びのくと同時、
滑走路の舗装を蹴立ててそれが発動する

「彼方にこそ栄え在り―――いざ征かん! 遥かなる蹂躙制覇!!」

真名を開放し、解き放たれる魔力はこれまでの比ではない
居合わせた魔導師たちは改めて宝具と言う存在に驚愕していた

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

雄叫びも勇ましく真っ向から巨人に挑みかかる征服王
大質量の神格同士がぶつかりあい、衝突の余波に大気が震える
やがて猛々しく振り上げられた蹄が巨人の躯をを踏みにじり、
車輪が押しつぶし雷撃が焼き払い、
瞬きする間も無く戦車が滑走路を横断する頃には、
巨人は消し炭も残らず討ち滅ぼされていた

―――はずだった

「■■■■■■■―――!!!」

蹂躙され硝煙を上げる滑走路で仁王立ちする巨人を見下ろして、
はやてはいよいよ打つ手が無いと唇をかんだ

「今のであかんか……」

蹄に踏み砕かれ、車輪に引き裂かれたはずの躯も、
雷撃の硝煙が晴れる頃にはベキベキと音を立てて再生していく

「流石に対軍宝具の一撃ともなれば瞬時にとはいかんらしいな」

「それでも再生はしてる―――ちょっと戦車に頼りすぎたのがまずかったかな」

「あり得るな、本番前に耐性が付いてしまったようだ
―――さて、どうするか」

双槍を構えながら歯噛みするランサーともども、
悩みながら巨人相手に不毛な戦いを続ける

これ以上の戦力は無い―――
駄目もとでスターライトブレイカーの使用に踏み切りかけたなのはは、
ふとあることに気がついた

普通のミッド式が通用しないとしても、あれはどうなんだろうか?

「ランサーさん、竜の力って効くと思います?」

「竜種の格にも寄ると思うが、
―――我々からすれば竜というのはそれだけで最高の幻想だ、
如何に奴の宝具が神域に達していようと、それが肉体に過ぎぬ以上、
竜の一撃には耐え切れまい」

だが、あの少女の連れ合いでは流石に足るまいと言うランサーに、
兎に角通じるのだなと念を押す

ランサーの言うとおり、キャロが連れている子竜フリードリッヒでは、
本来の若年竜としての姿でも通じるかどうか疑問ではある
だが、この少女が従えるのはフリードだけではない

「キャロ、頼める?」

「は、はい、何ですかなのはさん?」

これが本当に最後の切り札だ、これが通じなければ後が無い

「―――ヴォルテールやな、なのはちゃん?」

「うん、―――アルザスの守護竜、
あんまり頼るのはよくないと思うけど、もうこれしか手が無いと思う」

生半可な魔法は通じない、
あの戦車でしとめ切れなかった以上、最早頼るしかなかった

「分かりました」

キャロ自身、巨人の威容に畏怖するものがあったのだろう、
すぐさま頷くと、神に祈りを捧げる巫女のように恭しく呪文を唱え始めた

「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ」

厳かにして威厳に満ちたその詠唱は、比喩ではなく正しく神への祈りである
第6管理世界 アルザス地方少数民族「ル・ルシエ」の民が
『大地の守護者』『黒き火竜』と呼び、恐れ敬う希少種『真竜』にして
キャロ・ル・ルシエが巫女として仕え、守護を受ける神威

「黒き炎の大地の守護者。竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルテール!」

二本の足で大地を踏みしめ、巨大な豪腕を持つ人に似たシルエットの巨躯が
キャロの足元から広がる巨大な魔法陣から背の翼を大きく広げ浮き上がってくる

「おう、こりゃすごいな、
本物の竜種だぞ、おい!」

ランサーと共に巨人を押し留めながら、征服王は呼び出される神格に目を輝かせていた
英雄譚に謳われる者達にとっても竜種と相対する機会は少ない、
戦い、勝利するとなれば有に及ばず、共闘となれば在ったかどうか

巨人の攻撃をいなしながらランサーもまたその威容に畏怖を抱いていた
すれ違う最中に見た限りでは、儚げな印象すら抱かせた少女が呼び出したのは、
神格とはかくあるべしと言わんばかりの轟然たる存在であった

「行きます、離れてください」

キャロの手が高く掲げられ、それと共にヴォルテールがその翼を広げていく
『黒き火竜』の名の所以たる業火、ルシエの古語で『咆哮する炎』の意を持つ
殲滅砲撃『ギオ・エルガ』の発射体制である

湧き上がる魔力の奔流はサーヴァントをして戦慄させるほどの絶大な力
対人、対軍の領域を超えた真に万物を薙ぎ払う対城の領域に至る輝き

「■■■■■■■―――!!!」

本能によるものか、真竜を御する巫女へ向けて巨人が矛先を変える
だが、無防備かと思われた彼女は、雄雄しく羽ばたく白銀の飛竜の背に跨り、
空へと逃れた

「乗れい、ランサー!
コリャ、デカイのが来るぞ」

「恩に着る、征服王」

御者台に槍兵が飛び乗ったのを合図に、
征服王もまた、戦車を上空へと取って返す

直後、天地を焼く業火が空港滑走路を薙ぎ払った

「■■■■■■■―――!!!」

その中を咆哮する巨人の声が遠く響く、
やがて燃え尽きず立ち続けていたその巨躯がぴたりと動きを止めるのを見て取って
皆が見守る中、その前に少女はゆっくりと降り立った

鉛色のゴツゴツとした体へと手を伸ばし、
彼女はゆっくりと首を振り、もういいと静かに告げた
その声が届いたのか燃え盛るような狂気が潮が引くように薄れていく

彼はただ、暗闇に目が眩んでいただけ、さ迷い苦しんでいただけなのだ
それを止めるのにここまで傷つけなくてはならかった事を少女
―――キャロ・ル・ルシエは恥じた

「■■■■■■■―――」

静かに、穏やかに巨人が彼女に向き直り、
やがて、緩やかにその躯が風に流され始めた

真竜の業火だけではない、相次ぐ宝具、必殺の一撃は
確かに巨人の幾重にも重ねられた命の数を減らしていたのだ
あるいは、その身に宿る魂が、自らの狂気を押し止め、
少女の語る思いを受け入れたのか
それは、この場に居合わせた誰にも分からなかった

それでもその大部分を奪ったのは自分なのだろうと、思いながら
少女は崩れ行く巨躯の冥福を祈った




#3

見事に焼けたな―――と、滑走路を見渡してはやては一息ついた
やると決めた時点で予想はしていたが、
滑走路の補修代は果たして経費が下りるのだろうか
そういう世知辛い思考に行き着く辺り自分も管理職なのだなと自覚する

「はやてちゃん、あれ」

なのはが指し示す方を向くと虹色の結晶体が転がり落ちた
先ほどまで巨人がいた辺りだと当たりをつけ、どうにかしとめたのだとはやては納得した

「これが『カレイドスコープ』なのかな?」

「多分な、
しかし頑丈やな、ヴォルテールが焼き払って傷一つ無いってどうやねん?」

感心しながら、はやてはそれを拾い上げ、封を掛けた上でデバイスに収めた
魔力結晶を封じ持ち運ぶ為の基本形である

「まぁその当たりのカラクリはどうでも良いではないか」

繁々とヴォルテールを観察していた征服王が胴間声を張り上げて話の腰を折る
自分のおかれた状況を把握するよりも、目の前のことに興味心身でいる辺り、
まるで子供である

「―――それにしても、戦場の華は愛でる性質ではあるが、
こうも女丈夫ばかりとはな、この世界に益荒男はおらんのか?」

「いないわけじゃないですけど……」

さっきの男も何しに来たのかよく分からん、あれは従者の類だったのか?
と、フェイトと共にこの場を離れたヴァイスを指して言う
狙撃が通じなければ彼は唯のヘリパイロットに過ぎないので、
この場で見た限りではその認識は仕方が無かったが

「まぁあれの御者であるというのなら、それはそれで達者なのであろうが
―――ふむ、なかなかに面白いではないか」

なにやら一人勝手に納得する征服王
物言いにやや呆れ返りながら、はやてはふと、
ランサー達サーヴァントの姿に奇妙な幻影を見て、眉を顰めた

「どうしたんですか、はやてさん?」

「いやな、
今なんかランサーさんらの後ろにゲームのステータス画面見たいなんが見えてな」

そんなはず無いわなぁ? とはやては首を傾げた
なのはとキャロも見てみるが別にそんなものは見えない

「先ほどの石ころの仕業であろう、
聖杯戦争のマスターならばサーヴァントの得手不得手を“観る”力を授かるからな」

「なるほど、現状の所令呪を授かったマスターはおらず、
我ら自身を現界せしめたるは件の魔術品のみとなれば、
それを持つものに霊格を見通す力が備わったとて不思議ではないか」

もう一度そちらへ意識を向けてみてはどうだと言う提案に、
はやては改めて彼らを見てみた

CLASSランサー 属性:秩序・中庸
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力D 幸運E 宝具B

CLASSライダー 属性:中立・善
筋力B 耐久A 敏捷D 魔力C 幸運A+ 宝具A++

そう言った情報のほかに細々とした固有技能や神話のあらましが載っている一覧表が、
彼女の脳裏に広がっていく
どうやら本当にそういうことらしい

「さて、話が纏まった所でだ、
―――どこか書庫に案内してくれんか、国営の書庫となればそれなりの蔵書があろう?」

突然の申し出になのは達は大いに脱力した
聞けば冗談とも本気とも付かないが、世界地図とホメロスの詩集がほしいと言う
一体全体何がしたいのか非常に判断に困る申し出である

「ライダー……
よもやかつて召喚された折にもマスターにそう要求したのではあるまいな」

「うむ、流浪の身の上で自前の書庫などないと言うのでな、
仕方が無いのでそこいらの図書館から強奪したが」

「無茶苦茶言うとるな、この人……」

事ここに至っては呆れるしかない
ランサーすら閉口する状況下、沈黙を破ったのは新たな声だった

「なのはさん、はやてさん、キャロ」

「あ、シャ-リー」

血相変えてやってきた長髪に眼鏡の女性局員に首をかしげる、
一体なにをそんなに慌てているのか?

「地上本部が救援を求めてるんですけど」

言われて思い出す、地上本部とレールウェイではいまだ戦闘が続いているのだ

「とりあえず、どないしょうか?」

シャーリーの表示した、空間モニターの表示を見て取って、
ランサーはレールウェイ側の画像を指差した

「こちら側に俺が行こう」

「理由は?」

「宝具の相性の問題だ、
この相手ならば同じバーサーカーでも先の相手と違いこの槍を持つ俺に利がある」

紅い槍を指す、
いかに相手がどんな武器をも強化して使うことが出来る異能を持っていても、
それを無効化することが出来るならば確かに相性はいいかもしれない

「それは助かるわ
移動は―――キャロにお願いしよか」

「は、はい」

ヴォルテールの帰還作業を行っていたキャロが手を止めて答える、
彼女ならフルバックとしても優秀だ、連れて行って損は無い
問題があるとすればランサーの魔貌だけだろう

「ほんなら後は地上本部に戻ろうか
―――本の話はその後や」

余計なツッコミが入る前にそういうと翼を広げる
征服王もそれはそれで異論は無いようだ

もう一度だけ状況を確認しなおすと、
彼女達は空へと飛び立った

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最終更新:2010年01月09日 18:15