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flame&Lancer3 ―――

ミッドの空においては
セオリーとして遠距離の魔道士、近距離の騎士、と言われている

だが高町なのはやフェイトテスタロッサハラオウン
それに6課フォワードのティアナランスター等に代表されるミッド式魔法の使い手達は
何も騎士と近接で相対した場合でも全く術無く打ち取られるというわけではない

ミッドの魔道士が武装局員と言われる所以
それは戦場に出る嗜みとして当然、厳しい教導の元
近接の制圧技術も叩き込まれるからだ

これはサーヴァントにも言えた事で
セイバー、ランサー等の明らかに斬り合いに特化したクラスは元より
アーチャーやライダーなどのように、真価は他にあろうとも卓越した近接技法を持つ輩は数多くいる

だが、、、

「おら降りて来いや!! そんなとこにいちゃ俺を斬れねえぜ!!」

衝突する剣圧

「っ、、、舐めるなッ!!!!」

吹き荒ぶ剣風

やはり近接のスペシャリスト同士

ソードマスターとして生まれ出た生粋の騎士であるシグナムと
生来ののグラディエイターであるランサー

その血肉を賭した打ち合いは――
近接が 「出来る」 といったレベルのそれとは確実に一線を画していた

金属同士がぶつかり合う音は爆音となって鼓膜を震わせ
大地に、木々に刻まれた踏み込みの跡、刀傷は
もはや何かの災害が通り過ぎたとしか思えない

戦場は烈火と疾風渦巻く天災地へ――


「てぇぇぇあああああッッ!!!!!」

「どうだい! ウダウダと何も考えずにやりあった方が楽しいだろうが!」

踏み込みの鋭さや限界領域での見切りもさる事ながら両者の抱いたその覚悟が違う

戦場において決して引くものか!押されてなるものか!という意地がまるで違う

それが前線を任され、先陣にて敵の先鋒を押し留め
鬨の声を上げながら相手を切り裂く役目を担う「騎士」という人種の力であったのだ

「少し黙っていろッ!」

「は、つれないねぇ!!」

降りかかる五月雨のような猛撃を凌ぎ、払い
後ろで縛った長髪を振り乱しながら躍動する女剣士は
先ほどとは違い今、存分に空を使っている

飛んでいるのだ、、
そして自分の極意である空からの襲撃を思うがままに相手に叩きつけている

(何も考えずに、だと……ふざけるな!)

騎士の脳裏に浮かぶ金髪の魔道士の顔

こんな、、こんな所で私がついていながら…
あいつの命を散らせてなるものか、、!

その思いの元に騎士は飛ぶのだ
目の前の槍持つ魔人を斬り伏せ
一刻も早く魔道士の下にかけつけるために

ならばそのような強行軍

―― 離陸前の致命的な隙 ――

相手に与えてしまう攻撃の機会
初めに危惧されたそれはどうしたのか、、?

当然―――――作用している

空を飛ぶ瞬間、その下方を通り過ぎていく突きが
脇腹を、太腿を、内腿を、くるぶしの肉を容赦なく削っていく

だが、構わない

ヴォルケンリッターはそんなにヤワではない
並の人間ならば動けなくなる傷、出血を伴おうと彼女達は止まらない
そのプログラムに重大な支障を来たす程の損傷を受けない限り
動き続け、剣を振るい続ける不沈の騎士なのだ

この槍兵は、どだい無傷で勝とうと思う事事態がおこがましい相手だ
そう認めたからこそ………将はもはや躊躇わない

己が腹を食い破りたいならそうしろ……
だがその肢体に食いついた瞬間
がら空きになった間抜けな脊椎に我が刃を叩き込んでやる!

その覚悟の下に舞い上がり、飛び荒ぶ将の姿はまさに捨て身の炎纏う荒鷲だった


(良い女だ――――)

それに対して何の躊躇いもなく
牙を剥き出しにしてどこまでもどこまでも追い縋り
食らい付き、喉笛を噛み千切ろうとするは猛り狂った魔犬であった

突き突き突き払い突き払い突き突き突き突き払い――――

ツキツキハライツキツキツキツキハライツキハライツキ――――

(良いねぇ……こりゃあ良い
 強え女ってのはホント、いる所にはいるもんだ)

強者であり、愛でるべき女を前にして戦士の感慨は今、最高潮に達した
その不可避の連携が今、間違いなく神域へと移行する

男の刺突による攻撃パターン
それ自体は至極単純で、基本九種の太刀筋を持つ剣技に比べると
それは 「突き」 と 「払い」 の繰り返しによる単調とも言える連戟であった

にも関わらず―――

(到底、裁き切れんか……だがっ!)

今、押されているのは変わらず剣士の方だった

それもそのはずだ

それは単調が故に明快――
槍術はその二つの技を極限まで鋭く、速く磨くことによって
他の技など要を為さぬと言わんばかりの鉄壁無双の術技と相成るのだから

ならばこそ槍を極めしこの英霊の繰り出す連戟に一分の隙もあろうはずがない
こちらが一振りする毎に五つ、、大振りする毎に十以上の刺突を捻じ込まれ
確実にジリ貧へと追い込まれていくシグナム

空へのエスケープポイントがあるが故に要所要所で相手の勢いを断ち切れる彼女であったが
ここに来て槍兵はサーヴァントの、その恐るべき跳躍力をも解禁
対空砲の如き鋭さを以て上空に打ち出される槍を前に
もはや空でさえ、完全なセーフティゾーンにはなり得ない

通例の型において頭上からの攻撃がセオリー外だとすれば
足元の遥か下方から伸び上がってくる攻撃もまたセオリー外

足や下腹を下から突き上げられる攻撃というのは、ただでさえ人の視点の死角となってしまう
それをこの最速の槍でやられる事を想像すると、、もはや安全どころの騒ぎではない
宙に浮いたからといって少しでも油断をすれば
打ち上げられたロケット弾のような槍の一撃に串刺しにされる

かといって、完全に相手の一撃の届かぬ上空へ退避するなど論外
その地点で、こちらの攻撃手段が全くないわけではない、、無いが……
それこそ卓越した砲撃魔道士でもない自分が
この埒外の速度を持つ相手から遠距離でクリーンヒットを奪う事など出来る筈もない

何より近接主体のベルカの騎士が打ち合いを避ける、、
それ即ち己が負けを認める事と同じだ
騎士としての自分、その有り様が相手の猛撃からシグナムを踏み止まらせている

(決める、、一撃で…)

相手の凄まじい乱撃に全身を晒されながら
剣士の戦意は衰えるどころか、より激しく燃え盛るばかり

もはや彼女とてランサーと手数で勝負をしようなどとは思わない
歯を食い縛り、肉を裂かれながら
三倍以上の運動量を以ってこちらを圧倒してくる相手の、、、その衰えを待つ

戦法は変えない
今まで幾多の敵を打ち倒してきた己が剣を信じる

肉はいくらでもくれてやる――
その代わり一撃で骨を絶つ――

顔を付して、ひたすらに待つのだ

その勝機の訪れる瞬間を……


それが――


向こう五分前の光景だった


――――――


―――ガツン、と

再び頭と頭
そして右肩同士がぶつかる音が戦場に鳴り響いた

体ごとぶつかって突き崩さんとする槍兵に対し
体ごとぶつかってそれを受け止める烈火の将

この内側に入れた時こそ
将の剣が槍兵を両断するチャンス――

にも関わらず、、、

「は、は、は、、、、は、ぁ………」

彼女のその瞳
鷹のように鋭い切れ長の眼光はそのままに
敵をまっすぐに見据えていながら――

(く、、そっ……)

身体が全く動かない――

余力が無い、、

限界を圧して相手の旋風を搔い潜り
ここに辿りつく事、数回

この槍兵相手にそれが出来る騎士など果たして全次元を探してどれくらいいるか、、
将の卓越した力と決して引かない勇気――いかに凄まじいものであるかの証明だった

だが――この騎士をしてそれまで、、

懐に飛び込むまでにシグナムは全ての力、全ての助走を使い果たし
とても無双の一撃を放てる姿勢を維持できない

ベストの踏み込みが完全に殺されてしまい
あと一歩――あと一歩、男を斬るには足りない

槍の柄を諸刃が走り、互いの肉体が勢い良く接触する
戦闘機と装甲車の正面衝突
内臓からひり出た息の詰まるような声を発したのはどちらか、、?

軋む肉体
力比べに震える筋肉
少しでも優位な位置を取らんとガツ、ガツとぶつかる肩と肩

大量の汗を滲ませた額が相手の額とこすれあい、荒い息がかかる
すぐ傍に敵の表情が見てとれる位置だ


一歩も譲らぬ猛禽と魔獣の睨み合い――


その膠着も時にして一瞬、、

(崩す…もはやそう何度も機会は無い……)

今や全身から滲む出血と体力、魔力の衰えに悲鳴を上げる肉体に鞭打って男と相対するシグナム
このままでは結局、剣が男の身を捉える前に――
何も出来ないまま自分は力尽きて負ける

この接触で勝負だ――

体力、気力共に最強の一撃を打てる
その余力の残っているうちに!

「解放ッッ!!」

<Ya ! explosion !!!>

将でありマスターであるシグナムの命を受け
デバイスが紡ぐは「爆発」の意を込めた言霊

それを受けた瞬間―――シグナムの全身が爆ぜた

「ぬぅ――!」

それは高町なのはが得意とするバリアブレイクと同種のもの
アーマーブレイクとでもいうべきか

ベルカの騎士の纏う分厚い甲冑
そこに内在する魔力の塊を臨界を越えて放出しながら装甲をパージ
密着した相手を、その魔力の奔流で吹き飛ばす

鍔迫り合いにて彼女の至近距離にいたランサーが
炎に巻き上げられ、その体ごと後方に弾かれる

「おおおぉぉぉおおッッッッ!!」

甲冑を脱いでまで作った僅かな隙
炎に巻かれ、魔力の爆発に巻き込まれて構えを保てる人間などいる筈がない

ならば、これこそが勝機

行動不可になっている相手に向かって
容赦なくその剣を薙ぎ払おうと踏み込むシグナム

だが、、、

「なに……!」

騎士の前方
炎に巻かれて吹っ飛んだ筈のランサーが
二間ほど離れた地に着地したと同時に

「でやぁぁッ!!!」

その場で槍、、
否、全身を横に薙ぎ払うようにして一回転
周囲に小型の竜巻が発生したのかと錯覚するかの如きその回転は
彼の体に纏わりついていた炎を瞬く間に吹き飛ばす

そしてその目は些かも前後不覚になど陥ってはおらず
自らの敵――女剣士を両の瞳に称えたままに、、

またも爆発的な踏み込みで相手に突撃を敢行

「しゃあああぁぁぁああッッ!!」

猛烈な槍撃が再び始まる

繰り出す手を休めない男
そして相手にも微塵の休みも与えない

「ぐっ! 再装着ッ!!」

<ya ! Panzergeist>

再び甲冑を纏い、周囲にフィールドを張るシグナム

何という事……

起死回生のアーマーブレイクがまるで功を奏さない
鎧を形成するための膨大な魔力を一回分、無駄使いしただけだ

再び剣と槍が両者の間を飛び交うが
押される、、このままでは押し潰される

状況を打破しようとしても相手を崩せない、、
何をやっても通用しない、、

「は、、は、、はぁぁあああっっっ!!!」

裂帛の気合を以って振るわれる炎の太刀

だが、、同時に出した筈の剣が――何故こうも遅れる?

それは理不尽だ
どれほど戦略を練っても、技を磨いても
ただの自動車がF1カーの前を走る事など出来ないというような――


―――絶対的な壁がある


どこの童謡だったか?
兎と亀が徒競走する話を思い出す

確かゴール前で寝こける兎を追い抜いて、亀が勝つという物語だったか、、、?

あれは、「どんな状態でも諦めねば軌跡が起こる」 という教義を謳ったものなのだろう
少なくとも子供の情操を育てるための方便としてはそうだ

だが、、、少し考えれば分かる

それは裏を返せば、兎がそこまで間抜けな事をしなければ
圧倒的な奇跡と状況が揃わねば――
亀は兎には逆立ちしても勝てないという事を如実に現しているのではないか?


今現在、状況にして五分前と全く同じような光景が続いていた

違う事があるとすれば―――剣士の様子

動くたびに傷から鮮血が飛び散り
吐く息は荒く
聊か蒼ざめた顔はチアノーゼによるものだろう

痛みと苦痛を決して表に出さない強い精神力をを持つ彼女
だがもはや、、それも限界だった

肩で大きく息をする
滅多な事では顔色一つ変えない烈火の将の
明らかに苦しげな表情が今、確実に見て取れる

(衰えを知らんのか……この男、、)

二人の戦場は決して止まらず
決して流れを塞き止められる事はない
まるで息継ぎすら許さぬ深海の攻防だった

そしてこちらがここまで消耗しているというのに相手はまるで失速しない
スタミナ切れどころか、時を経るごとに凄まじさを増していく目の前の男の切っ先にもはや舌を巻く事しか出来ない将
このままでは、、、

先ほどのフェイトの声がシグナムを更に焦燥の渦に巻き込んでいく
何とかしなくては、という思いが頭をもたげ
しかしこの攻防は一瞬の思案に耽る時間をも許してはくれない

もう一回、鍔迫り合いに持ち込み、フルドライブで一気に潰すか――

だが、大きな突きの戻しに合わせて踏み込むにせよ
やはり自分ではこの男を仕留めるには一歩足りない
とにかく相手の動きを止めないことにはどうしようもないのだ

(焦るな……相手も、苦しい筈だ、、
 ならばこちらも変わらず圧力をかけて相手が崩れるのを待つしか無い)

焦燥にかられていても苦しくても
しかし彼女はベルカ最強の騎士だった
ここで我慢出来なくて何が最強か?
焦って出て行って、相手の槍に狙い打ちされるような
そんな未熟な騎士ならば、当の昔にこの戦いは終わりを告げている


終局はゆっくりと――確実に迫ってきている

敵もまた並ではない
シグナムが敵の隙を待って狙っているように
ランサーもまた剣士の防御のリズムを読み始めていた

時が立つにつれ、急所を外せなくなってきた女剣士
それは多分に彼女自身の動きの衰えによるものもあったのだろうが
明らかに先読みを施された槍が、一つ、二つ、、その連撃に混ざり始めた

一息に打ち込まれる穂先は全て急所に打ち込まれてくるものだ
少しでもアーマーを抜け、肉体に届いたら……抉られたら即終わり
それで致命傷となる

体を捻り、歩法を駆使し
そして空を飛びながら何とか往なし続ける将

対して揺さぶりに揺さぶりをかけて
堅固な要塞から顔を出すのをじっと待つ槍兵
後の先を取ろうという女剣士に対し
更に後を取り、全てを刺し貫く瞬間を虎視眈々と狙っているのだ

一寸の切っ先の乱れも決して見逃さず
そこに無双の一撃を叩き込む――

どちらが先に必殺を突きつけられるのか――

まるで予測が付かない

付かないが、、

この攻防、ここで先に動かねばやられると思い立ったのは
やはり敵の攻めを許し続け、心身ともに苦しかったシグナムの方であった

100を数える紅い線が巻き起こすソニックブームで
既に彼女の耳の鼓膜からは血が滲んでいる

だがそれでも目を逸らさない
その中、、、一つで良い

牽制でもなく
陽動でもない
こちらの防壁をぶち抜き、決めにくる一撃

奴の趣向か、それとも戦法の穴か
この戦いを通じて一つだけ確実に分かった男の槍の癖


槍兵の攻撃は――心臓狙いが圧倒的に多い、、という事


もはや自分はそこに餌を蒔くしかない
敢えて左胸を剥き出しにする構え
右の下段に剣を構えながら――

溜めの大きい突きをランサーが放つのを
その暴風の中、目を凝らして待ち続ける、、

そして、、、

「シィッッ!!」

ようやくその本命――

自身の心臓に向けられた一撃と今、、
自分の剣の呼吸がパズルのピースのようにピッタリと合う

(勝機!!)

やっと食いついてきた
餌を蒔いたそこに、相手の獰猛な牙が迫る
その紅い槍が変わらぬ速度でこちらを貫こうと翻る

それを―――

「っ!!!」

何とこのタイミングで防壁をカットする蛮行に出るシグナム

男の槍は自身の張った防壁によって辛うじて一瞬止まるからこそ
速度に劣る自分が今まで受けてこられたのだ
故に彼女のその行動は自殺行為以外の何物でもない

だが、、、その蛮行の先にある勝因をこそ騎士は欲する

防壁でなく体捌きによって相手の攻撃を透かす――
どちらが相手を崩せるかは言うまでもない

一撃だ、、
高望みはしない
ただ一撃のために
相手の一突きを見切れればそれでいい

その決死の蛮行によって曝け出された彼女の心臓に――
今、紅い閃光が放たれた


――――――

間一髪――

魔槍が脇の下を抜けていく

不可避の刺突
到底、目で見て反応できるものでは無かったその一撃

感覚が、、その騎士として生きてきた本能が
ただひたすらに体を動かしていた

暴風の中に身を預け続け
今の今まで耐え忍んできたその肉体が
男のリズムを完全に自分のものにしたのだ

脇を通り抜けた朱槍が
その衝撃波だけで彼女の肉を巻き込み、裂いていく
ゴリゴリと肋骨を削っていく感触

苦悶の表情を浮かべるシグナムであったが、、、
それは同時に勝ちに繋がる心地よい痛みであろう

―――読み勝った

フェイントではない、、確実に透かした

今まで終始、防壁に遮られていた自身の槍がいきなり何も抵抗の無い所を突いたのだ
これはいくら男といえど崩れる

元々「突き」という技は外した時の隙のデカさでは全ての技の中で随一だ

この恐るべき使い手から今、一本に限りなく等しい見切りにて
これ以上ないほどの踏み込みで相手の間合いを犯すシグナム

体勢は今、男の中段突きを脇に逃がしたシグナムが
その身を極限まで捻り、右下段に下げた剣を振り上げ
逆袈裟に切り落とすところだった

こうなれば騎士の独壇場
流麗なプロセスを描いたその過程をしくじるシグナムではない

痛みに顔をしかめている暇などない
突かれた穂先が戻ってくるその前に、、

「取った、、! 私の勝ちだランサー!!!」

静かなる闘将が今、猛る
敵の懐、決して槍の先端が届かぬ間合いにて
待ちに待った一撃を相手の肩口に叩き込まんと――その剣が唸りを上げた

大気が震える

将の心象を模したかのような愛剣の業炎が槍兵に叩き落される

これはいくら何でも無事には済まない
その一薙ぎは男の体を両断――否、爆散させて余りあるものだった


戦場が、

決着へと集束していく

そんな中、、、


「――― 悪いな、誘いだ ―――」


渦中の男は静かに告げる


時がキチリ、と―――音を立てて凍った


――――――

二人の戦士が凌ぎ削る壮絶なフィールド
両者、その二つ名に恥じぬ力と技と誇りを以って相対する
激しくもどこか人の胸を打つような美しさを醸す戦場にて――


「、が、あッッ!??」

止めの一撃が振るわれ断末魔の叫びが木霊する

一撃を振るったのはヴォルケンリッター・烈火の将シグナム

その身を切らせ、切らせ、、
斬らせ続けて待ち焦がれた一撃を
今まさに赤熱の気概を込めて放つ

それを受けたのがサーヴァント=ランサー

槍兵のクラスの召還された聖杯戦争における英霊の一人
その正体は生前、呪いの朱槍を持ちて戦場を駆けた光の御子と呼ばれし英雄だ

その英雄を今、将の剣が薙ぎ払った―――――


にしては、、、今の声はおかしかった

その甲高い声は、どう考えても男の放つソレではなく、、


―――否、

もはや勿体つけるまでもない……

男は言ったのだ
全ての勝負が決まる瞬間――


――― それは誘いだ、、と… ―――


ならば、、、そう

シグナムが決死の思いで見つけた隙は
読み勝ったと確信したそれはしかし
全てが男の作った更なる罠――

男はその手に握られる槍によって英雄と呼ばれるまでになった
だが彼は何も槍術だけの男ではない

何でもやった、、強くなるために

剣、徒手、戦斧、戦車、魔術、――

まさに「戦」というジャンルを極めし、蒼い装束を身に纏う戦いの化身

そんな男が――簡単に隙を見せるはずが無いのもまた
当たり前すぎる事実であったのだ

ならば即ち、先ほどの声は
どれだけの猛攻を受けても声一つあげなかった女剣士が――始めて上げた悲鳴、、

あらゆる戦闘術をその身に凝縮した男の肉体
相手が剣使いならば、その癖、狙い――
どうされればイヤなのかは重々理解していた

踏み込もうとしたシグナムが、その言葉に息を呑み
背筋を駆け巡る寒気に反応した時にはもう遅い

あれほどの連携の中、硬い防御に閉じ篭った相手を崩そうと「あえて」出した大振りの突き――

それに釣られて、踏み込んできた剣士に対して
槍兵が狙うはズバリ、彼女の全体重の乗った軸足

―――そのヒザの皿だった

槍の切っ先ではない方の柄が回転するかのように翻り
男の渾身の力をもって彼女の膝上に叩きつけられていたのだ

「ぁ、…………くう、、、、、!!」

膝の半月盤は人体において痛覚の集中している箇所の一つ
そこを打たれた衝撃は相当のものだ
失神するほどの激痛が全身に響くように伝わり、肉体は嫌が応にも硬直する

槍や薙刀が正面に敵を置いての白兵戦にて無敵と言われる要因の一つとして、、
剣では有り得ない、そのリーチから来る足元への強襲がある

剣で相手の足を払う場合と槍でそれをやる場合の有用性…
もはや語るまでも無い

自分は全く体勢を崩さずに相手の軸足を刈れるという圧倒的な利点
それによって相手の踏み込みや、その他の攻防を大幅に牽制出来る
それが長物の恐ろしさ――

もっとも下段に落とした構えは頭部や上半身がガラ空きになる
並の使い手では、足を狙う前に頭をカチ割られるという光景も珍しくないのだが、、

ともあれ、これまで全弾急所狙いだった事も手伝って
槍兵の始めて行った末端部位への攻撃に全く反応できなかった彼女
男と競り合っていた距離で一瞬だがガクン、と――完全に動きを止めてしまう

そしてこの槍兵を前にして、それが絶対的敗北である事は言うまでもない

「――――飛べ」

麻痺したように動かない大腿に歯噛みし、声もなく唇を噛む騎士
体勢を崩され、僅かに前傾姿勢でつんのめった形になっていた剣士に対し
近距離で放たれた槍兵の蹴りが――下からシグナムを打ち上げた

「ご、、ふッッ!!」

こみ上げた胃液をゴホ、っと吐き散らし
その威力で足が浮き上がり、後方に飛ばされる剣士

まさに今、森林にてフェイトを相手に猛威を奮っているライダーほどの多彩さは無いが
この槍兵の蹴撃もまた、かつてセイバーのマスターを数十mほども吹っ飛ばした経緯がある
まともに貰えば内臓破裂では済まない

防壁のほとんど無い状態で食らった打撃二連
さしもの将もたまらず、遥か後方に着地し
ほどなくヨロリとぐらついてしまう

(く、、、そ……しくじった――私が、、崩されてどうする………)

打突を貰った箇所が酸素と血液を求めて吼え狂い
脳への血液供給が滞り、意識を飛ばしそうになる騎士

―――空へ

そんな彼女が無意識のうちに選択した行動がそれ、、
敵の隙を誘うはずが一転、自身の最大の危機を迎えた今
思考が無意識に上空へのエスケープを選ぶのも無理からぬ事であった

だが、、

「行かせねえよっ!!!!」

飛翔したシグナムに猛追するは蒼の流星

それは彼女自身も既に思い至った事だ、、
既に――空はセーフティゾーンではないと

まるで打ち上げられた迫撃砲のように彼女に迫り
遥か上空で騎士を捕縛したのは他ならぬ槍兵
勇に上空5mと浮かび上がれずに捕まってしまうシグナム

「、ぐッ―――」

翼持たぬ者の、その埒外の脚力は先ほどから見せて貰っていたのだ
だからそんな相手に対してフィールドも張れず、対処も遅れてしまったのは彼女の負った打突によるダメージと―――
計10分に届く無呼吸運動による酸欠が、脳の判断を鈍らせたためであろう

宙空にて絡み合う剣士と槍兵
だが半失神状態の女剣士と今まさに止めを刺そうという戦場の英雄
どちらの膂力が相手を組み伏せたかなど、、言うまでも無い

その頭部の後ろに縛られた長い髪を掴まれ
苦悶の声を漏らすシグナム

「済まねえが、ここしか掴むとこなかったんでな」

一応は紳士な槍兵だ
女性の髪を手荒に扱う事に対し、取りあえずの謝意を述べてから―――

「だからな、、逢引の続きは地上でやろうじゃねェかぁ!!!!」

その表情に鬼気が灯り
投擲自慢の右腕がギシギシと軋む

筋肉で膨張した利き腕が獲物である女剣士の髪と頭部を容赦なく掴み上げ
存分に振りかぶったと思ったら――

それをそのまま地上に向かい、叩きつけるように投げ抜いたのだ

「――――ぅあッッッッ!!!」

風を切る音が将の鼓膜を劈く

ジェットコースターなど問題にならないような急降下によって人体に催される
下半身が裏返るような感覚

それを感じている己の体は今現在
地面に突き刺さり木っ端微塵に砕ける寸前なわけで、、

「ぐ、、ぬううううっ………!!!!」

地に叩きつけられる寸前、烈火の将は一時的に機能停止していた感覚
デバイスによる補助の全てを半強制的に復帰させ、受身を取って地面に落着する

――ドゥン!!!という土煙

――アスファルトの削れる甲高い音

潰れる筈の肉体はすんでの所で制動を取り戻し
地に四肢をつけ、ザザザザ、と地面を滑りながらに10m――

まるでスノーボードに乗せられているような距離を以って、、地面に不時着する

ここで意地でも尻餅をつかなかったのは
騎士として、航空機動隊随一の使い手としての意地だった

「…………、、」

ともあれ墜落死という憂き目だけは防いだシグナム

だが、コンマに満たぬその思考
未だ体勢の整わぬ肢体の
その思考だけがめまぐるしく動く


そう、、、

―― 続きは地上で ――

そう言い放ったあの蒼い甲冑の姿を探す彼女の両目

ふらつく体、朦朧とする意識の中
それでもあの死神の槍から一刻でも目を離す事の危険性――
それが分からぬ彼女ではない

………どこだ? 

………どこから?

衝撃で咳き込みながらも
立ち上がり、強襲に備えようとするシグナム


   ああ――――


だが自分が落着した事によって立ち昇った土煙の
晴れた視界のその先に映るのは、、、


   何という事だろう――――


もはや目と鼻の先…
十分な余裕を以って前肢に体重を置き
槍の先端に自分を見据え、、、


   遅すぎる―――


腰を大きく落として構える……
蒼き槍兵の姿であった


   この男の前ではホントウに何もかもが―――


今度こそ、、

今度こそ、、

シグナムの顔が戦慄と死の予感に歪んだ


   取り巻くセカイそのものが遅すぎるのだ―――


「レヴァ、――」

己が相棒である剣を構え直し
目の前の敵に備え――

その行為の全てが男の前では手遅れである事を悟るまで、、
その目に見える槍が待ってくれる筈もなく、

無数の槍が再びボッ、ボッ、と分裂に次ぐ分裂を重ねる

それは本当に幾百の槍の束
否、百人の前線兵士に槍を持たせて突っ込ませたかのような――

「うおらああああああああああああ!!!」

咆哮と共に繰り出された突きの連打は
10、100、200と数え切れぬ刺突の紅き嵐

これぞ恐らくはランサーの最大出力


その何人の生存も許さぬ嵐の只中に、、


シグナムが飲み込まれていくのであった―――


――――――