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夜の帳が降りようとする冬木の街。その中の、ひどく暗き場所、人が住まうには些か
汚濁にまみれた地下に老人は一人笑う。和装を纏い、蠢く異物を眺めながら、カラカラと。
戦いは始まったのだ。待ち望むという程この十年は長くはなかった。むしろ、準備する時間は足りないくらいだった。
けれど、満足できる結果は得られるだろう。あれが成れば、彼は他の古き盟友の助力などいらなくなるのだ。
この度は目移りしそうなくらい、良き獲物が眼前にウロウロている。だが、急ぎはすまい時間はたっぷりとある。
寿命という概念においては誰にも引けはとらぬ身。
ある意味、超越したと言ってもよい。腐ることへの恐怖は拭えないとしても…
時間はたっぷりとある、はずだ…
拘るはただ一点のみ…

家の入り口に人の気配、打った手がいかなる結果となったか、
ねっとりとした風を肌に感じながら老人は報告を待つのだった。


「クロノさん、はやての奴はやばいのかい?そこんとこズバッと言ってくんねぇ」
「…原因はわかってるからなんとかはできる」
「しかし、衛宮の家は後ろに藤村組がついてるのですから、金銭的に困ることはないでしょうし、
現代医学でできそうなことは全て手を尽くしていると思うのですが」
「え?もしかして衛宮君の家ってお金持ちなの!?」
「由紀香、金と聞いて目の色変えるのははしたないのではないかな」
「ひ、ひどいよー鐘ちゃん、そういうつもりじゃないのにー」
「衛宮とは同じ部活だったし、何度か行ったことあるけど、ありゃ大層な屋敷だよ。
武家屋敷ってやつ?衛宮やはやてに聞いた話じゃ養父の人が買ったって言ってたかな。
正直、決して田舎じゃないこの冬木であれだけの家を購入するのにどれだけかかったのか、
あたしにはさっぱりだね。で、話をもどすけど少なくともこの二年弱、私の知っている限り
あんなはやては見たことない、蒔寺や氷室の話だと黒野さん、あなたは何かできるらしいけど、どういう意味?」

少し訝しげな視線がクロノに向けられる。

「ふっふっふ、教えてやろう美綴、この冴えない顔の兄ちゃんはMピー星雲から来た正義の味方なんだ!」
「は?」

一瞬の驚きの後、脇で得意顔の楓に綾子の嘲笑含みの顔が向けられたの言わずもがな。


「だって、だってお前もみたじゃんかよー飛んでくる土を光る壁でガーッ!と止めんのをさ」
「それは…そうだけど」
「だが蒔、Mピー星雲はなかろう」
「惑星ミッドチルダ出身のクロノ・ハラオウンそれが僕の素性だよ」
「は?えーと…」

クロノの突然の告白に綾子は今度こそ本当に目を丸くした。
家へ向かって進む一同の足は止まり、クロノに視線が集まる。

「クロノさん、私たちには素性ばらすのも渋ったくせに美綴には簡単に教えるのかよー
差別だー差別だー。あ、さては美綴が嫁さんに似てるんだろ。
よかったなー美綴ー」

やや、ぶーたれた楓は綾子を弄る方向へと興味をずらしたようである。
鐘と由紀香、綾子はクロノの次の言葉を待った。黒豹はとりあえず無視してる。

「氷室や蒔寺、君達には言う必要はなかったというか、黒野智和として普通に礼が出来ればよかったのだし
今日の件とは根本が違うのは理解してくれ。忠告するが、
二週間ほどは外に出ないといい。特に夜は。それか冬木市を出ておくとかかな。
今日体験したようなことがこれから日常になる」

淡々とクロノは語る。そこにこれといった感情の色は見えない。

「クロノさん、あなたの言うことが仮に本当だったとして冬木市長はこれを把握しているのだろうか」

鐘にとってはそれは重大な問題。クロノを見据える瞳には疑念と不安も見えた。
そのような真剣な思いに目の前の宇宙人はとりあえずの答えを示す。

「おそらく知らない。宇宙人が相手では知りようもない」
「あたしは今聞いたばかりでさっぱり実感が湧かないんだけど。
学校での爆発が宇宙人の仕業だとして、あんたも宇宙人だとしたら、
クロノさん、あんたはあたしたち地球人の味方なの?敵なの?」
「どちらでもない、ここは僕の管轄ではないんだ。遊びにでも来てると思ってくれればいい。
ただ、爆発を起こした奴も君達に害を及ぼそうと思ったわけではないはずだ。
この土地があることをするのに適地だったと言うだけだな」
「何なんですか?そのあることって」
「そこまでは知る必要はない」

由紀香が恐る恐る聞くも、クロノの答えはにべもない返事だった。

「危険があるということだけ認識していれば被害にはそう合わないはずだ」

それだけ言うとクロノは再び歩き出す。


「だー待った!正義の宇宙人なら市長さんや自衛隊とかと一緒になってそいつらやっつけちゃってよ!
クロノさんならできんだろー!」
「クロノさん、あなたがそう動いてくれると嬉しいが、私はまだあなたを信じ切れていない。
素性とさっきの現象について、常識から乖離し過ぎている」

クロノと出会ってからの違和感を鐘はそう結論づける。
出会ってから起こったこと、見せてもらった装束、共にあり得ないこと、知らないもの。
だからクロノ・ハラオウンという男はきっと

「何言ってんだ、クロノさんが素性隠した宇宙人だって気づいたのは鐘だろ?」
「確かに普通じゃなく素性も偽っていると感じたけれどもこの人は人間だ。
私達と何も変わらない。それを宇宙人だと決めるには相当に認識の変更が必要で…
写真の装束も日本にありそうなもので十分再現自体は可能だろう…」

鐘は眉間に指を添え皺を寄せる。

「つ…つまり鐘ちゃんはクロノさんの一家は家族揃ってコ、コスプレする一家だって言いたいの?…」
「「「「……」」」」

冬木の夜に寒風が吹きすさぶ。季節は冬のため風は冷たかった。
由紀香以外の沈黙はそれぞれに違う。言ってしまったかと思うもの、えっまじ!?と閃くもの、
小さく笑うもの、そう取られても構わないかと頷くもの
発した言葉におたおたするもの。

「あはは、三枝らしいね。あたしは面白いと思うよ、そうかこの人がそういう趣味の変態ね、だとしたら大変だ。
あたしらは夜の公園に連れてこられてしまったんだけどね。曰く付きの」

綾子の言葉にすぐさま反応するのは楓。
そんな様子をあらら、と綾子は意地悪な笑みを今にも逃げ出しそうな楓に向けた。

「でぇっ!?こ、ここ、ふ、冬木中央公園じゃねぇか!」
「のようであるな。家まで近道ではあるが…」

暴れそうな楓を鐘と綾子は後ろから捕まえ問答無用で歩かせる。

「やっやばいだろ、ここはさぁ!離せぇ!鐘!美綴!さてはクロノさんに買収されたなぁ!
私を悪の宇宙人に売る気だろ!ちくしょぉぉ!呪ってやるぅ」
「呪うだなんてここで叫ぶと実現しちゃうかもねー蒔寺?」
「望むとこだー!まず鐘っ!猫の幽霊に取り憑かれろ!人間サイズくらいなのに!」

楓はパニクりながら声だけはしっかりと公園中に響かせた。

静かに一日を終わろうとしていた公園が楓の呼び掛けに答えるように、蠢いたように
そこにいる人間には感じられた。

「初めて通ったが良くない場所だな。聖杯が活性化している影響か…
早く抜けた方がいい。ふざけるのもは止めて歩いてくれ」

立ち止まってはしゃぎ始めた4人をクロノは歩くように促す。

「猫の幽霊などと…蒔の悪ふざけにも困ったものだな…」
「ぷ、氷室、声と表情がひきつってるじゃんか。あたしもなんかやばいとは思うけどさ」
「別に…なんともないが、な」

声を強ばらせる鐘を綾子がカラカラと笑う。
ガサガサと葉の擦れる音が不気味に感じられる異様な空気の高まりに、誰もが足を速めた。
けれど一つだけピタリと止まる足音。クロノはその足音に振り返り問う。

「どうかしたのか?」
「クロノさん、本当に人くらいの猫さんが見えるよ」

由紀香がボーっと見つめる先にクロノも視線を向ける、が、
そこには冬らしく殺風景な公園が見えるのみだった。

「僕にはなにも見えないが?」
「あの奥に…あ…いっちゃった」

不思議そうな目を動かさない由紀香。女子三人は訝しげに由紀香に鋭い視線を向ける。
中の2人は足を震わせて。

「なんだったのかなぁ…」

首を傾げる由紀香に答える者はなく、クロノのさっさと帰ろうという声だけが公園に響いた。


「はい!シグナムそこに座り!」
「はい」

畳の間にはやての声が通る。凛とした声色に弱々しさは感じられなかった。
はやてに対面するのはシグナム、ヴィータ、ザフィーラ
はやての横にセイバー、士郎が位置した。

「今回の戦いは失敗や、実際の損害、迷惑料だけでも本来なら相当のもんになる。
どうしてこうなったか、シグナム、答えてや」
「はい、私の独断で計画した結果です。シャマルを行動不能に、主を危険に晒し、
士郎の不信も招いてしまいました。全てはこの将たる私の責、
私にのみに対する処分を願います」

シグナムが喋り終わると室内をは沈黙が支配した。はやては目を瞑りその言葉を静かに聞いた。

「そうやな。では何故、そんな独断を行ったのかも答えてや」
「それは…私が戦いたかったからです」
「嘘言うなよシグナム、はやてのことが心配だったからだろ!」

黙ってられないとばかりにヴィータはシグナムに食ってかかった。

「私の為いうた?」
「そうだよ。わかってるだろはやてだって」
「それはちゃう、私にとってなんも嬉しいことはなかったよ。遠坂さんが傷ついたのもシャマルが傷ついたのも
士郎の心を傷つけたことも、どれも私の喜ぶことではないんよ。
だから、今回のような勝手なことは私としてはもうみんなにして欲しない。
またやるようなら今度こそ私はみんなを戦わせんようにする。
ただ、みんなが早く聖杯ってのが欲しい思とるのはわかる。
せやから私から言いたいことはひとつや。突飛なことかもしれんけど、みんなが士郎の指揮で戦ってくれるようお願いするわ」

はやてがいつも通りの明るさで告げ、士郎を見ると士郎は意外という表情でみんなの視線を受けた。

「俺が?」
「そや、今回の件に一番多く、深く、関与しとるのはおそらく士郎やと思うから。
士郎の好きなようにやったらええ。そしてみんなも協力したってな。私からのお願いや」
「俺が深く関与ってどういう意味だ?」
「うーん私の感想。正義の味方っていうならやっぱ仲間がぎょーさんおった方が締まるやない」

あははと笑うはやては何か誤魔化してるように士郎には感じられたが

「俺のやりたいようにできるのは構わない。けどシグナム達はそれで納得するのか?
俺は今回の行動はすごく腹が立った。今も腹が立ってる。
俺やはやてに無断で…いや、俺達の考えを根本から裏切るような行動したことが許せない。
本当に俺の指示に従えるのか?答えてくれ。シグナム」

士郎の問いにシグナムは黙して語らない。シグナムとて悪戯に戦いがしたい訳ではない。
差し迫った「時間」との競合の中、成算があるとして下した決断が遠坂凛の殺害だった。
しかし、あと一歩というところで敵の使い魔に妨げられた。敵の動きはシグナムの予想を遥かに上回っていた。
あの妨害さえなければシグナムの目論見は達成され、今、このように糾弾されようと
シグナムは自らの意志を押し通すつもりであったが今のシグナムはそれをできない。
あのような人知を超越した動きは自分にもおそらくセイバーにもできまいと
士郎の隣にいる彼女に視線を向ける。その視線に込められた意味を知ってか知らずかセイバーは眉をひそめた。

「納得できん?シグナム、今回失敗したのは私としてはな。あの赤い人がとっても速かったからと思うんよ。
シグナムもザフィーラも対応できんみたいやった…」
「はい…」

その言葉は屈辱であるも真実。シグナムは奥歯を噛み締める。

「けどな仮に私と士郎がシグナムの話に賛同していて、セイバーさんがそばにおったら話は違ったんやない?」
「俺は賛同しないぞ」
「せやから仮の話やて」

仏頂面になるお隣をはやてはやんわり取り繕う。

「それは…無理でしょう。あの動き、セイバーとて応戦できたとは思えませんから」
「それは聞き捨てなりません!」

シグナムのセイバーに対する評は最優のサーヴァントと自負するが故に彼女にとって侮辱と感じられたようだった。

「マスター、そのサーヴァントが現れる前にトオサカは何かしませんでしたか?」
「え…?あ…うーん、どうだったかなぁ?あーあっ遠坂の手が光ってたかもしれない。
両手とも」
「そうですか、やはり。その赤いサーヴァントの動きは私にも可能です。
いや、さらに上回ることも可能でしょう」

手を腰に胸を張り出し、自信に溢れた確信の言は金髪の娘を可愛らしくもみせていた。
そんな姿を見てアーサー王?まさかと士郎の頭に浮かぶのも仕方のないことかもしれない。

「セイバーさんの話を信じるならどう?セイバーさんの力借りるならやっぱり士郎と一緒に動くのがええんやない?」
「…本当かセイバー?」
「ええ、マスターの求めがあれば限りはありますが限界を超えた力を振るうことができます」

シグナムの問いにセイバーは淡々と答える。

「士郎の力が必要か…そして、どの敵もそのような力持っているなら士郎の支持が確かに必要だな…
わかりました。主、主の言葉に従います。いままで勝手をいたし失礼いたしました」
「そか、よかった」

シグナムは深々と頭を垂れる。

「だがな、士郎、セイバーとてお前がだらしなかったらいつまでも付き従うとは思わないことだ。
セイバーは獅子だ。日和見な態度ばかりを示していると見放されるかもしれんぞ」
「な!?私はマスターを軽々しく裏切ったりはしない!」
「では、士郎が戦わないと言ったら?聖杯なんて要らないと言ったらどうする?」

シグナムの顔には笑いも怒気も浮かんではいない。どちらかといえば無表情に話しかけた。

「せ、聖杯を求めない…それは…本気…ですか…マスター…」

シグナムの言葉を聞いてセイバーは非常な衝撃を受けたようで愕然とする様はなんとも痛々しい。

「どうする士郎?セイバーも戦いを望んでいるようだが?」
「ったくセイバーをけしかけるな。俺は…戦わないなんて言ってない。
戦うさ。だから、シグナムも俺の言うこと聞いてくれよ。…わ!?セ、セイバー?落ち着け!む、胸倉掴むな!!」
「信じていいんですね?マスター?」

底冷えする顔で士郎に迫る少女は無意識に士郎を脅迫をしていた。それをからかうシグナム。

「なんとかなったんかな?」

安堵に胸を撫で下ろすはやての頭に男の声が響いた。

(主、もう休まれますよう)
(うん、ありがとな。休むよ、ザフィーラ。シャマルは…なんとかもちそうやな)
(はい、しばらくは主同様安静にする必要があるようですが)
(そか、また明日シャマルの顔看にいくわ)
「じゃあ私は寝るけど明日からまたみんな楽しくやろな」

ザフィーラに連れられ居間を去るはやてを見送り皆、静かに話始める夜が始まった。