スバルとティアナは唖然としてその光景を見つめていた。
悪い意味……自分達が間に合わず、民間人を助けられなかったと言う事では無い。

全て終わった後だったのだ。

ガジェットの残骸の中心に立つナイフを持った一人の女性。それが全てを物語っていた。
ティアナは有り得ないと言った表情でそれを見ていた。
本来、ガジェットはその性能から管理局所属の魔導師もてこずる相手なのだ。
それがリンカーコアはあるとしても、デバイスを持たないただの一般人が魔法も無しに倒せる代物では無い。
最初は手に持っているナイフが何かしらの魔力を宿しているかと思ったが、自分のデバイスである「クロスミラージュ」がそれを否定した。
あれは何の変哲も無い唯のナイフだ。
それじゃあ一体どうやって倒したのか……。謎は深まるばかりだ。

「誰だ……そこのオマエ等?」

ティアナが考えに耽っていると、その女性が突然振り返りながら尋ねる。
声には殺気が、目には敵意が宿っており、敵であれば直ぐにでも殺すと言う意思表示。
その恐ろしさにスバルとティアナは思わず体が竦んでしまった。
それもそうだろう。彼女達は今までガジェットなどの、言ってしまえば只の機械を相手にしてきたのだ。
そんな中、本気の殺意を突然浴びせられれば体か竦んでも仕方が無い。
スバルはそんな恐怖を押し殺し、自分達の所属を名乗った。

「わ、私達は時空管理局の者です。貴女を保護しに来ました……。」

「時空管理局……?ああ、この街の警察みたいヤツらの事か……。なら、最初からそう言えよな……。」

そう言った後女の人はナイフを懐に収め、先程まで空気を圧迫していたかのような敵意が嘘のように消えた。
それに、安心したのかスバルとティアナは改めてその女の人の姿を観察する。

容姿は絹みたいに滑らかな黒髪をショートカットにした中性的な顔立ちの美人。
服装はミッドチルダでは見掛ける物では無く、以前任務で訪れたなのはの故郷「第97管理外世界」の「着物」に酷似している物の上に赤い革ジャンを羽織っている。
その出で立ちに疑問を持ったティアナはクロスミラージュに、ある事を尋ねた。

「ねぇクロスミラージュ……あの人から『次元質』の反応は?」

『出ていますマスター。この人物が次元漂流者で間違いありません。』

なるほど、それならばガジェットを破壊できた理由がある程度推測できる。


他の世界から転移して来た人間は、その身に何かしらの特殊能力を身に着けている事が多いらしい。
この人も多分その能力を使ってガジェットを破壊したのだろう。

(スバル、この人次元漂流者よ……)

(分かってる、ティア)

一応スバルにはその旨を伝えたが、必要は無かったらしい。

「おい、そこの青髪…。」

「え?わ、私ですか?」

突然自分の事を青髪と呼ばれたスバルがしどろもどろしていた。

「オマエ以外に誰がいるんだ・・・。取り敢えず、聞きたい事が幾つかあるんだが良いか?」

「あ、はい。構いませんよ。それと私の名前は青髪じゃなくてスバル・ナカジマです。」

「ヘぇ、スバルって言うのかお前。そこのオレンジ頭、オマエの名前は?」

「オ、オレンジ頭……」

「クスクス……」

笑い声の方向を見てみると、口元を押さえながらスバルが笑っていた。

「ちょっと黙ってなさいバカスバル!ゴホン……私の名前はティアナ・ランスターです。貴女の名前は?」

「オレの名前は式……両儀式だ。名字で呼ばれるのは嫌いだから式で良い」

「分かりました。スバル、対応はあんたに任せるわ。私はなのは隊長達に連絡を取ってくる。」

「うん、お願いティア。」

そう言うとティアナはデバイスを取り出し、なのは達に連絡を取り始めた。

「それで式さん、聞きたい事って何ですか?」

「まず一つ……此所は何処なんだ?この街の名前……確かクラナガンって言ったか。
オレの記憶じゃそんな名前の街は日本に存在しないし、他の国にも無い。一体どうなってるんだ?」

「式さん……落ち着いて聞いてくださいね?此所は貴女が住んでいて、貴女の知っている世界では無いんです。」

「どういう事だ……?」

「此所はミッドチルダ……貴女が住んでいた世界とは別の次元世界です。」


「聖王のゆりかご」内部

スカリエッティの前にはモニターがあった。
そこには何処かの路地裏で、青いクリスタルを持ったルーテシアが映されていた。

「どうやらうまくいったようだねウーノ。」

「はい、ドクター。予定通りジュエルシードはルーテシア様が確保し、間もなく転送でお戻りになります。」

「ふふふ……レリックの探索の為に出したクズ鉄からジュエルシードの反応があった時には驚いたが……これは思わぬ収穫だね。
それに……面白い人物の映像も手に入った。」

今度は別のモニターが現れ、ガジェットを破壊している式の映像が流れ始めた。

「強化魔法を使わないのにこの身体能力の高さ……更にはデバイスを使わずにあのクズ鉄を破壊した戦闘力の高さ!
素晴らしいではないか!バラバラに解剖して、体の構造がどうなってるか調べてみたくなるよ!」

「確保の為にガジェットを出撃させましょうか?」

「いや、まだ良いよウーノ。
もっと彼女の力を見せてもらおうではないか。
いずれは私達の計画の邪魔になる奴だ。ここでデータを集めておいて損は無いだろう。そうだろう……アラヤ君?」




ガジェットとの戦闘が終わった一時間後……。

ガジェットの残骸などの現場検証を陸士部隊に引き継いだ後、機動六課メンバーは帰還していた。
式は身体検査を受けた後、なのは達隊長陣の自己紹介を受け、状況とミッドチルダについての説明。
今は式がミッドチルダに来た状況や元いた世界の情報を話していた。

歳が近いと言う事もあり、お互いにタメ口で話している。


「……神秘を再現する魔術に、それらを操る魔術師。その魔術師を統括する『協会』と言う存在……。私達の世界とは大違いだね。」

一通り説明を聞き終えたなのは達は、驚きの声を漏らした。

大まかな世界の状勢などは以前に自分達が住んでいた「第97管理外世界」と瓜二つ。
だけど、自分達が使用している魔法にとは全く別の「魔術」を使う魔術師の存在。
時空管理局程には無いにしろ、「協会」という巨大な組織が別の世界にあったとは正直信じられなかった。

「式、その魔術と言うのは私らの魔法みたいにおおっぴらに使われてるもんなんか?」

「いや、使われていない。そんな事をすれば協会の連中から追われる事になるし、それが無くても自分からバラすような行為は誰もしないと思う。」

式は説明した疲れかあるのか、今はお茶を飲んで一休みしている。

「それで……はやてだっけか?俺が元いた世界を見つけるのにはどれくらいかかりそうなんだ?」

それを聞いたはやては申し訳なさそうな顔をした。

「それがな式……一応覚悟しておいてもらいたいんやけど……。もしかしたら元の世界に帰れへんかもしれへんのよ。」

それを聞いた式は眉をひそめた。

「それはどういう事だ……?」

「うん……今の話からして式のいた世界は、私やなのはちゃんがいた世界のパラレルワールドやと思うんよ。」

パラレルワールドと言うのは、ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界の事だ。
簡単に言えば「もしあの時こうしていれば」というifの世界である。

「そこまで分かってるんだったら何で……?」

「パラレルワールドについては時空管理局の方でも未知の部類に入るんや。
数はそれこそ数千数万……いや数億かも知れへん。そんな中から、一つの世界を特定できる確率は限り無く0%なんよ……。」

その言葉は式にとっては死刑宣告も同然の筈……なのだが当の本人はあっけらかんとしている。


「なるほど……だいたいの状況はわかった。それで、これからの俺の処遇はどうなるんだ?」

「あの……式?驚かへんのか?」

はやてが驚いた様子で式に質問した。

「何の事だ?」

「だから……もしかしたら元いた世界に帰れへんことにや。」

はやての疑問も尤もだ。

普通、自分の世界に帰れないと聞けば少なからずは驚く筈だからだ。

「別に俺は元の世界に戻れるかどうかなんて最初から気にしてない。戻れなかったらそれはそれで面白そうだしな。
それに、これに近い事はオレがいた世界じゃ日常茶飯事だったんだ、今更驚く理由も無いしな……。」

「日常茶飯事って・・・どんだけ物騒なんや式の世界は……。」

思わずツッコミを入れるはやて。
流石はエセ関西人、腐ってもツッコミの血が流れている。

「パキュ」

「「あれ?何の音?」」

見事にハモったフェイトとなのはが、音が鳴った方向を見てみると、はやての手の中で無残に折られたボールペンがあった。

「ど、どうしたのはやて……。」

「気のせいかな……。今誰かにかなりムカつく事を言われた気がしたんやけど……。」

「おい、話が脱線してるぞ……。」

そこに冷静なツッコミを入れる式。

「あ、ごめんやね式。それで処遇についてやね。
一応式の元いた世界が見つかるまで、うちの機動六課で保護すると言う事で決まったんやけど……。
なあ式……もし良かったから機動六課にはいらへんか?」


「俺がお前の部隊に?」

式が茶を啜りながら、はやてに聞き返した。

「そうや。スバルやティアナから聞いたんやけど、式は生身であのガジェットを倒したらしいやんか?その力を機動六課で生かして欲しいし、何より式にも魔導師になれる素質があるんよ。」

「素質……確かリンカーコアって言った物が俺にもあるのか?」

「そうやで。」

そう、はやてはその事と式の戦闘力を見込んでスカウトしてきたのだ。
機動六課はレリックや他のロストロギアの確保を目的とした部隊だ。
となるとこれから先、それを狙う魔導師や時空犯罪者、ガジェットなどの戦闘が増えてくるのは目に見えてる。
それは同時になのは達隊長陣やフォワードメンバーの危険が増えるのと同じ事だ。ならば今此所で式のような有能な人材が部隊に入れば戦力は上がるし、何よりメンバーの安全性も高まる。
それに式が元の世界に戻れるまでの間の居場所を作ってやりたい……。
はやてはそういう意味も含めて式を機動六課に誘ったのだ。

なのはやフェイトも同じ気持ちなのか、はやてを見ながら微笑んでいた。

「どうや式?別に今すぐに返事を言わなくても構わな……。」

「良いぜ、お前らの部隊に入ってやるよ…。」

「「「即答!?」」」

三人見事なハモり&ツッコミ。流石は十年の付き合いがある幼馴染み。
息がピッタリすぎて逆に怖くなる。

「な、何だよ。別にそんなに驚く事でも無いだろ?」

それには流石の式も驚き、一歩引いていた。

「い、いや式が別に良いなら構わないんやけど…。そんなに急いで決めて大丈夫なんか?」

「別にこの世界でやる事なんて何も無いんだ。ただ毎日無駄に過ごすより、オマエの部隊で何かをやる方がよっぽど有意義だ。
それに……オレをこの世界に飛ばした奴等にも近付けるかもしれないしな……。」


式の目には決意の意思が宿っており、それを見たはやて達も納得する。

「それじゃあ式、改めて……機動六課へようこそや!」

笑顔を浮かべながらはやては握手を差し出し、式はそれを握り返した。

「宜しくね式。」

「わからない事があったら遠慮無く聞いてね?」

なのはやフェイトも式と握手しながらそう言った。

「ああ、宜しく頼む……。」

式も無愛想ながら返事を返した。
そんな中フェイトは先程から気になっていた事を口にした。

「そういえば式……さっきから気になってたんだけど……貴女はどうやってあのガジェットを倒したの?」

それはなのはやはやても疑問に思っていたのだ。
式は自分達魔導師とは違い全く魔法が使えない身だ。
幾ら身体能力がずば抜けているとはいえそれにも限界があるし、何より所持していた只のナイフや刀でガジェットを破壊できる筈が無いからだ。

「ああ、その事か……。そうだな……説明するより見せた方が早いか……。なのは、今ナイフみたいな物持ってないか?」

「えっと……こんなんで良いかな?」

なのはが取り出したのは、そこら辺に売っているようなペーパーナイフだった。
それを受け取り式は魔眼のスイッチを入れた。

「あ、目の色が蒼色に……。」

フェイトがそう呟いた後、式は先程まで自分が座っていた椅子の『線』をナイフでなぞり始めた。
なのは達から見たら、椅子にナイフが突き刺さっているように見えただろう。

『線』を全てなぞり終わりナイフを椅子から離した途端、椅子は音を立ててバラバラに崩れ落ちた。
その光景をなのは達は唖然として見ていた。

「有機物、無機物に関係なくこの世に存在する物は生まれた瞬間から己自身に『死』を内包している。
オレはそれを『線』や『点』として見て殺すことができるんだ。それがオレの眼……『直死の魔眼』だ。」

式の説明を聞いていたなのは達は、あまりの反則技に驚きを隠せなかった。


「何か私達……えらいジョーカーを引いてしもうたみたいやな……。」

「にゃはは、そうだねはやてちゃん……。」

「幾ら何でも凄過ぎだよ……。」

そんなこんなで本日はお開きになりなのは達は夕食へ行き、式は案内された部屋のベットで寝っ転がっていた。

「はぁ……だけど、まさかこんな事になるなんてな……。」

式は今日一日あった事を思い出していた。

ガジェットとの戦闘。
ミッドチルダへの転移。
そこで初めて出会ったスバルとティアナ。
機動六課への入隊。

一日で色々な事があった。

元の世界に戻れないかもしれないと聞いた時には正直驚いたが、別にそれでも構わないと思っていた。

「まあ、幹也達に会えなくなるのは少し寂しいかな……。」

そんな事を考えながら、式は深い眠りに落ちていった

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年07月09日 04:51