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大空洞が揺れている。
この世全ての悪を名乗る禍々しい呪いが誕生を迎えようとうたっている。
壊さなければ。
仲間の救援が望めない以上、アレを壊せるのは現状で私だけだ。
士郎くんと共闘したとはいえ、黒く染まったセイバーさんとの戦いは決して軽いものではなかった。
それでも、私はまだ立って動ける。
凛さんと士郎くんは重症。
黒い影から開放された桜さんともども倒れ付している。


そしてもう一人。
セイバーさんと同じく黒く染められたライダーさんを足止めしている私のサーヴァント、ランサー。
レイラインから感じられる彼の存在が段々と希薄になってきている。
当然ながら楽な戦いはさせてもらえていないようだ。
彼に関してはどれだけ絶望的であろうと信じるほかはない。
……それに、非常に個人的なことではあるのだが、大洞窟突入前に軽やかに私のファーストキスを奪った報い受けさせなければならない。
具体的には顔面をレイジングハートでフルスイングだ。



魔力は万全とは程遠く、ブラスターの連続行使で肉体の至るところが軋みを上げ、視界もすでに色を帯びておらず、モノクロの世界のみを映し出している。

「あ……ぐ―――ぅ、ああ」

一度気を抜けば意識をすべて持っていかれそうな激痛に耐えながら、アンリマユへと向かう。
士郎さん達は大丈夫だろうか。
アンリマユの胎動は、大空洞を少しずつ崩壊させている。
それまでにあれを吹き飛ばして、みんなを非難させなければ。

衛宮士郎。
全てを助ける正義の味方を目指した少年は、その夢をかなぐり捨ててまで一人の少女を救うことを決意した―――たとえそれが世界を敵に回すとしても。
その選択は愚かしくも綺麗で尊いものだろう。
もし―――私にとって最愛の娘であるヴィヴィオが桜さんのような立場になったとして、私は士郎くんと同じ行動を取れるだろうか。
自分の持つ全てをかなぐり捨てて、あらゆるものを敵に回してでもヴィヴィオを守ることを選べるだろうか。
答えはNOだ。
ギリギリまで粘るだろうが、管理局の魔道師高町なのはとして公私混同はできず、大勢の人を見捨ててまでヴィヴィオをとることは出来ない。
歯を食いしばって、心を殺して、ヴィヴィオを切り捨てるだろう。
ああ―――自分はなんて冷たい人間なんだろう。
それとも、そんな状況になれば私も士郎くんと同じ選択をするのだろうか。

"ヴィヴィオの本当にママになれるように努力する"

あの言葉は、あの感情は偽りなどではない。
だが今の自分はどうだろうか。
ヴィヴィオを娘に迎えてからも変わらず、いつまた墜ちるともしれない前線の仕事を続けている。
もちろん建前はある。
管理局の慢性的な人手不足は深刻であり、後に続く人材を育て上げることがヴィヴィオを含む次世代の平和へと繋がると考えている。
だが、それは現在のヴィヴィオの為になっているのだろうか。
未来ばかりを見据えて、現在を疎かにしていないだろうか。

私は自分の魔法を正しい方向に使いたいと思い、この道を選んだ。
今も決して全てが間違っていたとは思わない。
今までの自分を否定するということは、それまで救ってきた大勢の人達の存在は否定することになってしまう。
しかし、それが正しかったのかは今も分からないし恐らく永遠に分からないことなんだろう。

思考をクリアにする。
今はそれらを考える時ではない。
この事件の全てを終わらせるためには、目の前にある元凶を跡形も無く消滅させる必要がある。
アレの足物まで近づいて、渾身のスターライトブレイカーで打ち抜く。
幸い、この付近の空間は膨大な魔力が漂っている。
おそらく過去最大級の威力が望めるはずだ。

長年使い続けた愛杖を構え、相棒に呼びかける。
それで全てが終わる。
この悲しみだけが募った争いを終結させることができる。

―――だというのに


「…………言峰綺礼……」


―――当然のように


「意外だな。衛宮が来ると思っていたのだが、少々思惑が外れた」


―――世界の理から外れた男が立ちはだかった

「……もし、まだ生きていたのなら、来るだろうとは予感していました」

なのはの顔に驚愕の色は無く、むしろ悲愴な面持ちを浮かべている。

「お前には言ったな。生まれ出でぬモノに罪科は問えぬ。あらゆる生命は誕生するその瞬間まで罪を持たず罰を受ける謂れは無い」

彼に迷いは無い。
放っておいても確実に数分で死に絶えるだろうその身体で確たる信念を持って立ち尽くしている。

「だから……アンリマユを守ると。たとえ大勢の人間が死ぬことが分かっていても。この世全ての悪といわれる存在を」

なのはの声は懇願に近い。
無駄だと分かっていながらも、常人とは真逆の価値観しか持ちえぬ地獄を味わっている男への最後の対話として。
既に数度言葉を交わして、自分では救いようがないのだと自覚しながらも、死の直前でもそれは変わってはくれないのかと。

「そうだ。私は今までそうやって生きてきた。たとえ人生の終着を目前にしようともそれが変わるものではない」

堂々としたその言葉。
自分の生き方に微塵の後悔も間違いもないと断言する黒き聖職者の姿は方向性こそ違えど、それは―――自分の憧れる姿そのものだった。

「だからこそ足止めのためにここまで足を運んだが、どうやらそれも適わぬようだ」
「……はい」
「私と同じく死に体の衛宮ならばともかく、お前が相手では足止めもできんだろう。お前も大概満身創痍のようだがそれは私とて同じこと。ならば本来の実力差が拮抗を許さんだろう。
お前は抵抗はしても最終的には世の理不尽に耐えられる人間だ。今のこの状況で私を殺すことをためらうほど、甘くはあるまい」
「…………レイジングハート。ファイアリングロック解除」

感情を押し殺した声で杖を構え、物理干渉設定に切り替える。
今の彼ならばたとえ非殺傷設定だろうとその衝撃のみで命を奪うに余りある。
だが、少しでも苦しみを減らすべくあえて殺傷モードを使う決断をした。
受け止めろ、これはこの先一生背負っていく業だ。
不屈の心はこの胸に。
これからも歩むであろうこの道を見据えろ。

この世界のため
大勢の人達のため
自分の大切な人達のため
そしてなにより、

「私の正義(エゴ)のために、あなたを殺します―――恨んでくれて構いません」
「恨みはせん。強者と弱者が対峙した際の当然の帰結だ」



そこで言峰綺麗という存在は終焉を迎えた。
なにをしても幸福を得られなかったその男には、死ぬ直前まで救いを与えられることはなかった。