既に原型を留めていない地形―――

フルメタルジャケットで武装した小隊同士の貪欲な、殲滅戦じみた撃ち合い。
犯し合い、滅ぼし合い、食らい合う、この砲弾による削りあいはしかし―――
この二人にとっては牽制の鍔迫り合い以上の意味を持たなかった。

先に仕掛けたのは高町なのは。
自らの陣地を捨て、王将に楔を打たんと滑空する。
しかし相手の弾幕をものともせずに蹴散らし、一度は敵を追い詰めたかのように見えたエースの飛翔は―――
相手の「弾幕」を超えた更なる魔弾の「壁」によって自陣に押し戻されれる事となる。

「くっ………」

強襲は失敗。 
防壁のおかげで致命傷はないものの、被弾によってペースを乱され
決めにいって決められなかったという精神的な焦りも相まり
状況はなのはに約一秒のフリーズを強要する。

そして――彼女は識る。
現状、自分の置かれている状況を。
そして歯噛みするのだった。

「………いつの間に、こんな…」

「――――貴方がピュンピュン飛んでる時にコツコツとね。」

現在二人の立ち位置は地上の青子に宙空のなのは。
その周囲を色とりどりのスフィアが囲んでいる。
本来ならば仕切り直しの状態だが、スタート時と今とでは決定的に違うところがあった。 

それは―――周囲を取り巻く100を超える魔力弾の中に桃色のスフィア……
つまりなのはのものが一つも無いという事。

「凄い空中戦法だったね。かなりビックリしたよ」

決して無傷ではないブルー。  
身体のそこかしこに空戦魔導士の二度の近接攻撃を受けた擦過傷をしっかりと負っている。 
だというのに涼しい顔をまるで崩さずに、彼女はその表情に笑みすら灯して語りかけた。

「でもさ、一つ聞きたいんだけど……二度目のアレ。  
 いやひょっとすると一度目からか。本気でやってなかったでしょ?」 

そう、彼女とて気づいている。
この相手は自分に対して明らかに攻撃の手を緩めた。
仕留められる所で仕留めず、故に自分に三回もの反撃の機会を与えてしまっている。
自分らのレベルの戦いで相手に三回もチャンスを与えれば――引っくり返されるのは自明の理。
故に魔法使いはその迂闊さ、不明を責める。

「さっきので私を吹き飛ばすなんて造作もなかったハズ―――どうしてそうしなかったの?」

だが、その問いはなのはに取っては愚問でしかない。
相手をみだりに殺傷しない事を前提に戦うのが管理局の魔導士。
ひいては自分に科したルールなのだから。

「貴方も………手加減していた。」

「ん? ああ。これは別にね……手を抜いてたってワケじゃないよ?」

「嘘つかなくてもいいよ。だからこちらもこういう戦法を取ったんだから」

「で、まんまとしてやられたと? その余裕面は照れ隠しかね?」

「………」

初めの撃ち合いは二人にとっての鍔迫り合いだった。
だが、なのはとて百戦錬磨のエース。  
多くの魔導士や騎士と交戦してきた経験から、手を合わせた時点で自ずと相手の力量を肌で感じる事が出来る。
故に敵の力量の底知れなさ――深さは十二分に感じていたし警戒も怠らなかった。

このまま撃ち合いを続ければ不利になるかも知れない―――
その前に何とかペースを握ってしまわなくてはと思い立ってのチャージはしかし
相手に些細なダメージを与えた代償として、ガンナー同士の力比べの優劣を相手に譲ってしまった事になった。

周囲に散開する100以上のスフィア。
自分が操作出来る限界の――倍以上の魔力弾を縦横無尽に操作し 
相手の軌道を読み、敵を追い詰める。
いつも相手に対して自分がやっていた事を遥かに高い次元でやられた。
なのはとて敵が自分の力量を上回る事など常に想定して戦っている。
場合によってはオーバードライブによるビット射出も視野に入れていたのだが―――この手数の差は……

「凄いね………ケタが違う。」

「――それはどうかな?」

なのはの呟きを勝手に拾い、答えるのは蒼崎青子。

「単に選択肢の問題じゃないかしら。  
 貴方には空という逃げ場があって私にはない。
 逃げ場がないから必死で撃ちまくる。
 相手のタイプがどうであれ、それしか出来ないからそうする――それだけの事よ。」

それは特化型ゆえに一つの武器を磨き上げるという事だ。

「私もそのつもりで技を磨いてきたんだけど……」

「そうでもないでしょ? 
 そんだけ飛べて、硬くて、敵と殴り合えればいくらでも選択肢はある。  
 少なくとも私よりはね―――」

翼もなければ立派な盾や鎧も持っていない。
脆弱なこの身で地上に根を下ろして戦わなくてはいけない。
故により速く、より多く、より強く―――

そんな条件の下に、一息で間合いを詰めてくる疾風のケモノや不死身のバケモノ。 
無限に増殖する怪異を砲殺してきた――――それはマジックガンナーの矜持。

「私の方が尖ってたって事かな。撃ち合いで負けたら商売あがったりですから♪」

「……………」

なのはの戦力が劣っていたのでは決して無い。
だが管理局に所属し、様々な任務をこなしていかねばならない身では特化した技術だけでは対応出来ない。
だから苦手な近接も必死で覚えた。幅を広げざるを得なかった。  
どちらが悪いとか間違っているとかそういう事ではないのだ。
互いの在り方の違いが、今日ここで今回、たまたま結果に現れたに過ぎない。

なのはも重々それを理解していた。
故に曲がりなりにも自らの得意分野で上回られた事実に対し、動揺など微塵もなく――

「じゃあ、そうゆう事で。」

ブルーの無慈悲な一言の元、今まさに襲い来る弾丸の雨を前にして
彼女は危機を脱するために高速で思考を巡らせる。

引き出しの中をまさぐる―――10年に渡る戦技の追求。
絶望的な戦況を幾多も引っくり返してきた「勝利の鍵」に諦めるなどという言葉はない。

そして辿り着いたのは最も古い―――なつかしい記憶。
親友にして最大のライバルである一人の魔導士との激戦。
その1000発にも及ぶ雷光の槍をその身で受けきった。
我が身の鎧を信じて耐え切った―――そんな記憶。

「あれは戦技っていうか不器用な力押しだね。
 でも今はこれしか無い………原点回帰だよ、レイジングハート。」

<Yes Master>

数多の戦場を共に駆けてきた相棒に語りかけるやいなや―――
迫り来る魔力光をキッと睨みつけ―――

白い魔導士はほどなく、宙を焦がす爆炎にその身を包まれる。


――――――

AOKO,s view ―――

「あー…………」

髪の毛をくしゃっとかきあげる私。

ちょっと誰かに聞きたいのだけど――― 
どなたか、あの子の知人がいたら是非、教えて欲しいんだけど―――


―――― 死徒か何かですか? あのコ

と、私は降って沸いた疑問を誰とも無しに場に撒き散らしてみる。

格好から言ってアンドロイドの未来型・魔法少女とかそんなんか……と一人ツッコミも忘れない。
まあ、とにかく言いたい事はだ。 
あのコは一体何なの?って話であり―――

突然なのは百も承知。
でもこんな突拍子も無い疑問を持った私を果たして誰が責められるだろうか。いや責められない。

予想してた展開はこうだ。
まず完全包囲されたあの子は360度、どの方向でもいいから逃げる。
一か八かのフライトで被弾しながら逃げまくる。   
そこに―――半分ほど叩き込んであげる予定だった。

敵を包囲した場合、一点に逃げ道を作ってやれば
相手は溺れる者が藁を掴むかのように必死でそこへ逃れようとする。
包囲ボッコの基本はその作った逃げ道に相手を誘導し
自在にコントロールしながら的確に少しずつ削っていく事にある。
今回の相手は硬い子だから特に念入りにこねてあげようと思ったんだけど……

そして殻を剥いだ彼女に対し、残り半分は当たる前に相殺。
周囲で破裂でもさせて耳や目にダメージを与えるって寸法。
これでだいたい適量のダメージ―――気絶。
晴れて魔法使いを名乗る不届き者にお仕置き完了&情報搾り取ってメデタシメデタシ。
と、脳内でこういう絵を描いてたんだけど―――

だからかね。
全く逃げもせずに仁王立ちでスターマインに対して向き合ったあの子を見た時、完全に絶句してしまった私。
多分、親にも見せられないマヌケ面をしていたと思う。

恐怖で硬直して食らったとかじゃない。
自ら受けた。受けるべくして受けた。 
防護膜がどうとか言ってたから耐久力には余程、自信があるのだろうけど……それでもあれだけの魔弾の直撃よ?
どれだけの衝撃になるか分かったもんじゃないでしょ?

だから、撃たれれば死ぬ弱っちい人間に過ぎない身で―――
しかもあんな細い線の女が―――
そのテの選択肢を選ぶ光景を脳が受け入れられなかった………
それだけの事なんだけどね。

さて、濛々と立ち込める硝煙の中――――

相手の姿は見えないが、いる。
私の魔弾掃射を虚仮にしてくれた女があの煙の向こうで私を狙っている。

見えなくても分かる。
小さいのをチマチマ撃ってたさっきまでとは明らかに違う。
控え目に見てもドデカイ魔力が爆発的に高まっている。
更にそれが一点に集中して―――その砲身が今、私の方に向いている。

「なるほど……ソレが切り札か」

私の攻撃を、耐えられるという確信を持って耐え切り
あの煙の向こうで童顔の顔に似合わない獰猛な牙を研いでいるワケだ。

ああ、何かゾクゾクしてきた―――
両手をグーとパーにして胸の前でパン!と合わせる。

あれだけの魔力だ。  
豆鉄砲で迎撃できるハズもなく、こちらもそれなりの物を用意しないといけないね。  

さて………私に火をつけてくれた責任は重いからね………

「さっさと来なさい―――受けたげるから」 

煙に巻かれて未だ見えない空の相手に対し、私は一方的に吐き捨てた。


――――――

NANOHA,s view ―――

「いたた………」

時間にして数秒。
感覚にして永遠に思えた爆撃。
でも―――何とか………耐えたよ…

<master...>

途中、何度か意識が飛ばされそうになった。
今も油断すると視界がブラックアウトしそうになる。
結構、激しく脳を揺らされたみたい……唇を噛んで意識をハッキリさせる。
これで終わっちゃったら何のために耐えたんだか分からない。

<master condition yellow>

「うん、大丈夫……全開のプロテクションで何とかなったね。」

正直、キツかったけど――
でものんびりなんてしてられない。
敵はさっきの地点から一歩も動いていない。
レイジングハートが今、確認してくれた。

狙い通りってとこかな………
速攻で弾道計算・射角修正といつもの手順を完成させて煙の向こうの見えない相手をロックオン。
勇気の心の名を冠する私の相棒。その柄をぎゅっと握り締める。
慣れ親しんだその感触――それが私にいつも力をくれる。

「今度は……………こっちの番だよ!」


――――――

――――――

今まさに破壊の鉄槌を振り下ろそうとするSランク魔導士。
それを真っ向勝負で斬り返さんとする魔法使い。
尋常ではない力量の二人の魔力の高まり、気力の昂ぶりに渓谷全体の空気が震える。

その押さえ切れないほどの魔力を先に放出したのはSランク魔導士。
砲撃魔法――高町なのはの代名詞にして自信のキャリアにおいても最も愛用した
その技の名前を歌うように高らかに紡ぎ出す。

「ディバイイン………バスタァァァァァーーーーーー!!!!!」

桃色の荒れ狂う閃光はまるでブレがなく、見事なまでの直線を描く。
大気を切り裂き、煙幕を吹き飛ばし、その向こう―――
目標、ミスブルー蒼崎青子に迫る。

「ふぅぅぅ―――」

コンマ一秒後には始まるであろう
野蛮で、粗野で、ひたすら暴力的な力比べを前に一息――

身体中に万遍なく酸素を取り入れるべく一息――
魔法使いは深く深く、その場で深呼吸をする。

「ふっっ!!」

そして短い息吹を一息!

用意していた渦巻く破壊の力。
その爆発的に暴れ狂う渦をカタチに変えて―――

青子は左手から解放する。
己が渾身の一撃を。


――――――

NANOHA,s view ―――

耳をつんざくような衝突音――――

「く、うっ……!?」

予想外の衝撃に驚く私……!
この感覚は間違いなく魔力がぶつかり合った時のものだ……!

こっちの砲撃が読まれていた?
敵を撃ち抜く筈のディバインバスターがカチ合った、まさかのカウンター。

煙は晴れ、私と青子さんの姿が浮き彫りになる。
大気が一瞬のうちに霧散し―――
そこにはデバイスから桃色の砲撃を撃ち放つ私と
左手から青白い魔力砲を撃ち出す相手。
その中央で相争う極大魔砲の奔流を映し出す。

ギャリギャリギャリギャリ、!と、鼓膜を捻じ切るような
互いの相反する力が激突する音が周囲に木霊し世界を震わせる。
私の放った砲撃に真っ向から砲撃を被せてきた。
そうだ……あれだけの砲戦を行える人だ―――
大砲を持ってないと考える方が不自然だった……!

レイジングハートは相手の砲撃の動作や魔力波を感知しなかった。
という事はこれだけの砲撃をまるっきりタメ無しで撃ってきたんだ。
抜き打ちの砲撃でカウンターを狙ってきてこの威力……つくづく油断出来ない相手だ。

私のバスターと相手の砲撃は今のところ、全くの五分。
空間の中央で耳障りな音を立てて押し合い鬩ぎ合っている。 
だけど―――

「ブラスター…………1」

私はすかさずオーバードライブ―――限界突破モードの安全装置を外す。 

相手はまだ全然底が見えない。
余力を残して不利な状況へ追い込まれては意味が無い。
なら、今日はここで一気に決めた方がいい……! 

「ブラスターシステム起動………モードリリース!!」

私の言葉が届くや否や、ドクン、という体幹の芯に響くような衝撃がこの体を襲う。
限界を突破した事による過負荷が全身を貫く。  

この感覚だけは――何度味わってもキツイ……

しかしその代償と引き換えに私の砲撃は加速度的に水増しされていき
相手の砲撃を飲み込んでいく――――

「なっ!??」

敵が目を疑い、驚きの声をあげる。
見る見るうちに私の砲撃に飲み込まれていく彼女の青白い砲撃。
こういう勝負に持ち込めば――少しは自信、あるんだ……
相手があの聖剣や乖離剣でなければの話だけど。

「ぎっ――――」

飄々としていた彼女の顔に焦りが浮かぶ。
互角に見えた力比べ――まさか相手の力が一気に倍近くにアップするなんて事態
想像できる人はそうはいない。

今度こそ決まった、かな? 
出来ればこれでKOしたい。

これは感だけど―――彼女相手にあまり長引かせたくないという予感があったから……

………………………

だけど――――そこで彼女は信じられない事をしてきたんだ……

………………………

あるいは私の予感はもうそこで当たっていたのかも知れない。
この相手の底知れぬ力。
何をしてくるか分からない天衣無縫な様相。
こういう時、悪い予感は当たるものだって改めて思う。

「どっこいしょおおおおっ!!!!」

彼女のスゴイ掛け声と共に、私の目の前でそれは起きた。

自己ブーストにより水増しされた私の砲撃が自分を凌いでいる。
それをいち早く察知したあの人は―――
バスターに飲み込まれる前に力勝負を捨て、何と自らの砲撃をカットしたのだ。
当然、そんな事をすれば拮抗していたエネルギーの余波が全て自分に降りかかり
防御も迎撃もならないまま、為す術も無く吹っ飛ばされる。

だから目の前の相手も当然、そうなる筈だったんだけど―――

何て言ったらいいのか…………結論だけ言うと…

私の砲撃はスレスレで青子さんに当たらず
その横を掠め、誰もいない大地を抉り取っていた……

「そ、そんな……!?」

思わず声をあげてしまう。
砲撃同士がぶつかり合ってる最中に――
強引に半身を切って体をずらし――
まるで当然のように回避行動をしてきた事に対する、それは尽きせぬ驚きの声。 

何ていう、無茶……
彼女のTシャツの背中の部分が私の砲撃で軒並み吹っ飛び、その肌を露にしている。
左手のみの片手撃ちの体勢だったから比較的容易に出来た半身切りの回避。
とはいえ―――成功する確率は絶望的に低いはず。
下手をすれば体の半分を砲撃に薙ぎ払われて勝負はここで終わっていた。

「よーし―――賭けは私の勝ちだ! 
 支払いはキャッシュでね。」

「くっ!!?」

まずい………
私も急いで自身の砲撃をカットする。
シューター同士の戦いで相手の大出力の砲撃を透かしたその時こそが自信の決定的なチャンスになる。
つまり今、砲撃中の硬直時間に囚われ、間抜けな横っ腹を晒している私こそ――彼女にとってのまな板の鯉……!

「せぇぇぇぇぇいっ!!!!!!!」

「!!」

そして今の無茶苦茶な曲芸じみた回避とは違う本物の神業。
それを私は見る事に―――ううん、その身に受ける事になる。

回避した敵が右手を私にかざす。
その一連の動作は私がディバインバスターをカットする動作より二拍子は速かった。
捨て身のブラスターで決め切れなかった事で隙を晒した私に対し
回避行動による反動を利用して、彼女は地を踏み締め、二発目を撃つ!

大砲の連射―――― 

迫り来る青白い光を見据えて唇を噛む。
私だって砲撃は沢山撃ってきたし、少しは理解してるつもり。
だから断言出来る。
大砲は連射出来ないから大砲っていう名前がついている。
だから本来、あんな頻度で撃てる者じゃないという事を……

無理すれば出来ない事もない。
けれど、まず間違いなくデバイスや魔力回路に多大な負荷をかけてしまい
悪くすれば砲身その他が焼け付いてしまう事だってある。
それを―――見たところ素手で
デバイスすら持たない人がやってのけるだなんて、出鱈目としか言いようが無い……

「………間に合って!」

ともあれ今は、あれをどうにかしなくちゃ……!
いくらBJを纏っていても直撃したらただじゃ済まない!

ほとんど強引に砲撃を中段し、無理やりシールドを形成する。
まるで練りあがってない粗末なものだけど――無いよりはマシだ!

――――――、そして、被弾が………来た!

「く、うぁっ……っ、」

凄まじい衝撃が体を襲う。
防御ごと削られていく感覚。
魔力と魔力の激突する余波が全身に突き刺さり
受け止めたニの腕が引きつりそうになる。

ひたすら耐える………
耐えるしかない!

つくづく信じられない。
連射によって威力は下がってるだろうと、そんな希望的観測をぶち壊すような
さっきの一撃目と何ら変わらない二撃目の砲撃が私の防御を犯していく。

ああ、そうか……
多分―――これ、一連の技だ。

じゃないと、苦し紛れに撃ったモノでこの威力は説明が付かない。

一撃目は左。
二発目が右。
左右一対の高出力連砲撃があの人の切り札だったんだ……

彼女のその言葉通りのまさしくそれは賭けだったんだろう。
配当の高い賭けに出た相手を私が一撃目で潰せればよし。
それができなかったばかりに――敵に高い支払いを与えてしまった。

(手に、力が入らなくなってきた……)

BJの耐久力に任せてもう一度チャージを敢行する?
そんな考えが頭をよぎるのも一瞬―――

「あ、…………」

そういえばこんな光景、前にあったような――
そんな場合じゃないハズなのにまたも昔の記憶に苛まれる。

ああ、そうだ……
これ、私がフェイトちゃんに勝った時の光景に似てる。

総合力で遥かに上回るフェイトちゃんに対し、起死回生のチャンスを掴んで砲撃を捻じ込んだ。
ただ記憶と違うのは今、砲撃を打ち込まれてるのは私だって事。
皮肉にもまた私は自分の得意パターンでこの人にやられてる。
何かちょっと悔しいな……

と、そんな事よりも―――どうしてここでそのような光景を思い出してしまったのか

それは多分、意味の無いデジャビュなんかじゃない―――

それは私と相手が互いにガンナーを目指す者同士だから―――

だから………理解したんだ。
だから同じ光景を見る事が出来たんだと思う。

そのフィニッシュに繋がる一連の光景を―――


しかして二発目を何とか凌いだ私の目に―――最初に飛び込んできた光景。


「これで、どうよッ! 
 スヴィアブレイクッ スライダァァーーーーー!」 

それはあまりにも予想通りの――

私に向かって飛翔し―――
伸び上がって右足で蹴り上げるように撃たれた―――

魔法使い、蒼崎青子さんの――――

有り得ない、三連発めの砲撃だった……………


――――――

――――――

―――スヴィア・ブレイク・スライダー

「破壊に特化した」ミスブルーの魔術最大の奥義。

高速詠唱による全開魔力放出の三連撃。
幾多の闇に巣食うバケモノ達を問答無用で消し去ってきた破壊の極地。
10の力に対し15の砲撃で一度は優位に立ったかに見えたなのはだったが
10+10+10の力を叩き込まれては為す術も無く――――

青白い破壊の奔流が巨大な蛇の如く鎌首をもたげ
宙空に真っ直ぐな線を描いて高町なのはを飲み込み―――
ここに勝負は………決した?

なのはのいた空に既に人影はなく、その真下の大地に堕ちた形跡もない。
三発目の砲撃に対し、彼女はバリアもシールドも張る事が出来なかった。
いかに重装甲を誇る彼女でも完全に無防備の状態であの力の塊をまともに受ければただでは済まない。 

エースオブエース・空の英雄の消えた大空に
その名残を惜しむかのように一陣の風が吹き付ける。


――――――

AOKO,s view ―――

私が力負けって…………何つう馬鹿力だ。

一瞬、マジでびびったけれどそこはホラ、勝手知ったる何とやら。
体が何とか対応してスヴィアブレイクに繋げましたよっと。

もっと、二発目で決めるつもりだった―――

三発目なんて撃つつもりなかった―――

力自慢の人間ほどあの一撃目のスカしに対応できない。
完璧なタイミングでのクロスカウンター。
ほとんどまぐれだったんだけれど………

しかし彼女はそれにすら反応して防護盾を形成。
私の二発目すら凌ぎかねなかった。
並の反応速度、判断能力じゃない。

追撃してしまったのは私自身が自分で考えるよりも遥かに火がついてたのと
こいつは撃っても大丈夫、という予感めいたものだった。

そもそも、戦ってすぐにこのコに違和感を感じていた―――

何の躊躇いも無く「魔法使い」を名乗っている。 
私が魔法使いだと言っても無反応。
まるで何も知らない駆け出しのヒヨッコじゃない?

だのに……えらく強い。
魔術師にしろ何にしろ強いに越した事はないけれど、目的はあくまで真理の探求。
根源の渦。6法。何でもいい。
普通では到達し得ない境地への挑戦とかそんな感じのやつ。 
多くの魔術師がそういう場所を求めて現世を這い回るんだと思う。 

だからはっきり言ってしまうと―――
魔術師とかそういう人種は戦い専門ってわけじゃない。
ソレを専門にしてるのは戦士って言うんだよね………RPG的に。

そう、彼女に抱いたのはそんな違和感。

あの子はまるで魔力を「戦う」事自体を目的として磨き上げたような―――
魔法使いはもちろん魔術師とも一線を画した在り様の娘である事を、その戦いにおいて私に感じさせた。

魔術における技術では私の勝ちだった。
撃ち合いという(恐らくは)相手の得意分野でねじ伏せてやった。

にも関わらず―――
力で負ければ技でいなし
技で上をいかれたら力で押し返し
全て負けたら戦略で覆す。

あげく私に全開三連打を出させて、なお―――

「こういう事になっちゃってるワケで……」

何とも言えないといった表情で
たった今、動きを封じられた自分の姿を見やり………一人愚痴る。

三発目の自分の追撃―――
レイジング・スターレイの直撃を受ける瞬間
相手の高速移動(フラッシュムーブと言うんだそーだ)による回避がギリギリ間に合う。

そのまま私の斜め後方の上空に身を移した彼女(と言っても私にはその動きを追えなかった)が
全魔力弾を解放。
私の周囲を完全包囲。
そのまま捕獲魔法で形成された、四肢を縛る手械のようなものでこちらを捕獲する。

そして立ち位置的にも私が何らかの方法で枷を破って反撃に出たとしても
必ず自分の砲撃が早い――
そんなベストポジションにて完全にこちらをロックオンしていた。

僅か数秒―――それが、私の三発目が彼女に届いたと見てから費やした時間。

全力魔力放出後のこちらの僅かな隙を突き返してきた――
こちらが反応すら出来ない電光石火の早業を敢行した白いヤツが――

私の上空、斜め後ろから偉そうにこっちを見下ろしていた。


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最終更新:2010年02月24日 15:20