光も闇も届かない
虚無のみが支配する空間にて
其れはただ戯れるためだけに存在した

己が掌を盤上に
己が腑分けした臓物を駒に
己が撒き散らした脳髄をルールに変えて

其れはただ戯れるためだけに存在した

彼は世界に強く囁きかける


――― 闘い候え ―――


今、蠱毒の壷は開かれた。


――――――

見渡す限りの小高い丘が幾重にも連なる山岳地帯―――
数百年の月日をかけて形を為したそれは、まさに天然の要塞の如き荘厳さを醸し出す。

その広大な渓谷が今――――――――戦場と化していた。

幾重にも重なる爆撃音。
飛び交う銃弾。
山は削られ、谷はこそぎ取られ、地形が形を変えてゆく。

それは洋画の戦争映画の一シーンを思わせる光景だった。
屈強な男達がガトリンク砲を打ち合い、兵器を駆使して地を蹂躙していく様。 
しかして今まさに眼前で行われている極めて物騒な破壊劇の下手人は
一国家の軍隊でも武装したハリウッドスターでもなく――― 

とある二人の、うら若き乙女(魔法使い)の仕業だったりする…………


――――――

Double Blaster ―――

一人は純白に青を基調としたローブに身を包んだ、栗毛をツインテールで縛った端正な顔立ちの女性だった。
一見少女のあどけなさを残した風貌はしかし幼さよりも凛々しさを醸し出す。
そのせいか―――業火を背に立つ姿の何と凛々しい事か。まるで戦女神のそれを思わせる。

一人は赤みがかった長髪にラフな格好のシャツ、ジーパンという 
どこかに遊びに出かけますといった気軽なファッションの女性。
飄々とした佇まいで白い法衣の女性と相対している姿はとても対照的で―――まるで遊興に勤しむかのよう。

互いに一定の距離を挟んだままの対峙―――
白い方の影、高町なのはがこの日、何度目かになる問いかけを口にする。

「話を聞きなさい!  どうしていきなりこんな……!」

両者の間を飛び交う縦横無尽の魔力弾。 
桃色の、そして色取り取りの弾丸を互いに交わしながらの応答である。

「どうもこう、ピンと来ないようだからね。お互いに」 

答えたのはラフな方の影、蒼崎青子。

「この方が手っ取り早い。」

「…………っ」

―――エースオブエース高町なのは。 
―――ミスブルー蒼崎青子。

互いに周囲から「無敵、最強」と称えられる不世出の天魔法使いである。
それぞれマジックガンナー、移動砲台などと数々の異名を持つ二人の戦いは
期せずして同タイプの壮絶な噛み合いとなった。
そこにはもはや魔法戦などという上品なものは無く、拳を魔力弾に変えての―――
足を止めての超ド級の殴り合いと化す。

二人は戦う。
導かれるように。

――――時は事の発端まで遡る。


――――――

NANOHA,s view ――――

私の生まれ故郷、地球―――

そのとある地点に異常なまでの次元振が観測されたと報告が入った。

同時期において局の収容所から何らかの方法で脱走した次元犯罪者・ジェイルスカリエッティ。
現時点で彼が関与している可能性が非常に高いという見解を出した時空管理局。
そこでJS事件で彼と交戦経験のある私達―――
元機動6課のメンバーが再び招聘される事になるのに然したる時間を要さなかった。

地球が戦火に晒されるかも知れないという焦りもあり
早急に現地の調査に入った私達を突如として襲う奇妙な感覚。
次元間、或いは時空間―――とにかく世界のあり得ざる壁。
それを抜けたかのような不思議な感触に戸惑う私達。

気が付けば共に降りた仲間と逸れ―――私一人がこの世界に立っていた………

いくら故郷が危険に晒されていたからと言っても、少し迂闊過ぎだったと思う。
母艦はもちろん共に降りたはずのフェイトちゃん、はやてちゃん。
そしてヴォルケンリッターの皆との連絡もつかない。
完全に孤立した現状だけど―――
それでも手をこまねいてはいられない。
通信手段の確保。情報収集。単機での調査を開始した私。

その私の前に現れた――――サーヴァントと呼ばれる存在。 

そして―――――交戦。


この地で何かが起こってる………

聖杯戦争―――
出会ったサーヴァントの一人、騎士王セイバーさんの口から出たこの言葉。
マスターでないのなら深く関わるべきではないと、詳しい事は教えて貰えなかった。

やっぱりスカリエッティが何らかの形で関わっているのかな……
とにかく引き続き調査を開始しよう、と……
そう思い立った私の前に――――この人は現れた。


――――――

「こんにちわ」

「……………!」

背後、完全に死角から声をかけられて思わず息を呑んでしまう。
こんな山岳地帯に人がいるとも思えなかったし、何より気配を全く感じなかった。 
レイジングハートが反応しなかった以上、敵意はないんだろうけど……

「……こんにちわ。………すいません。
 いきなり声をかけられてびっくりしちゃって。」

咄嗟に身構え、戦闘態勢を取った非礼を詫びる私。

「この付近の住人の方ですか?」

「ん? あはは……私、山師とかに見える?」

「いえ………では旅行か何かで?」

「んー、まあ物見遊山がてら色々見て回ってるって感じかな。貴方は?」

旅行者? こんなところに?
注意深く相手の動向を探る。 
あくまでも自然に―――

「私も似たようなものです。」

「んーと……そのカッコウで?」

「………………ぁ、」

しまった……BJ。(///)

確かにこんな出で立ちで山登りをする人はいない。
目の前の女の人がくくっ、と忍び笑いをする。

「いやいや、情景にかなーーりッ!ミスマッチなカッコの人がいたからさ。
 そりゃ声かけるさ。かけますよそりゃ。
 ………で、それ何のコスプレ?」

「はは……いえ、これは別に。」

「何か一昔前の魔法少女って感じだね。」

失礼な事を言われてる気がする。
アリサちゃんにも似たような事でからかわれた記憶が……
恥ずかしさで少し顔が熱い。

「――で? そのバカみたいな魔力は何なの?」

「……………」

え?と間の抜けた声を………出せなかった――――

不意打ちだった。
いきなり冷水を浴びせられたかのような。
思わず狼狽の念を表情に出してしまった迂闊さに自ら歯噛みする。
さっきまでのどことなく人懐こかった女の人の様子がからりと変わり
目の前のその口元は笑っているけれど―――目が笑っていない。
何よりも魔力を読まれた事に対する驚きが先立ってしまう。  
専用の計測器でもなければ普通の人間にそんな事分かるはずないのに。

「ねえ?  貴方は何者?」

「……………」

こちらが聞きたい事を逆に質問されてしまう。
にまあ、とゾっとするような笑みを灯しながら。

どうしよう……説明に窮する。 
管理外世界に対して時空管理局の存在は公にしてはいけない。
魔力という言葉を使った以上、目の前の人がまるで無関係な一般人という可能性はないだろう。
もしかしたらこの人も―――先の聖杯戦争というものに関係があるのかも知れない。

それでもいきなり局の名前を出すわけにはいかない。
懸命に言葉を選びながら何とか穏便に済むように説明しなきゃ……

「私は……とある機関に所属している魔法使いです。」

となると―――必然、出だしはこうなった。


――――――

AOKO,s view ――――

沈黙―――――――

流石の私も言葉に詰まってしまった。

「…………あの」

目の前の子。
私とトシもそう離れていないだろう……多分。

その子は今、あまりにも当たり前のように―――トンデモナイコトを言った。

「―――――――魔法使いっつった? 今?」

「はい。信じられないかも知れないけれど……」

「6人目が生まれたって話は聞いてない。」

「え?」

首をかしげる相手。 
私の言葉にピンときてないようだ。

私、蒼崎青子は謂わずと知れた魔法使いである。
魔法使いとは人知によっては決して辿り着けない領域に行き着いた者。
法を書き換え、この世を塗り替える地点に到達した存在。 
いや、自らを自賛する気はないが――そういうものなのだからしょうがない。

さて、まずは状況説明から始めよう。

気が付いたらここにいた。  
以上、終わり。

………………………

いや、ホントにそんな感じなんだから仕方ないでしょ。

地球とよく似た地球でないどこか――多分ここはそういう場所なんだと思う。
色々調べた結果、よく分からないままにそう評価せざるを得ないほどに
「ここ」は何かがおかしかった。

何でそうなったか、どうして自分がそんなとこに飛ばされたのか分からない。
また宝石の爺さんが何かしでかしたのかと思ったけど、どうもそれとも違うようだ。
レンを飛ばして情報収集すると何かとんでもないのがウヨウヨしてるみたい。
何これ?バトルロワイアル?

ちなみにその我が愛しき白ネコは偵察の帰りに不意の襲撃を受けて、叩き落されて捕獲されそうになっていた。
まあ、そいつらはちゃんと追っ払ったんだけど……こちらとしても甚だ面白くない状況。

――――そこへ持ってきてコレだ。 

事もあろうに私の前で「魔法使い」を名乗る目の前の痛いコスプレ女。
さて、どうしよう。

どうしたものか―――

「取りあえず………」 

自己紹介でもしとくか。

「私も魔法使いなの。」  

目の前の女が目を見開く。
我ながら返し技としては最上級。

驚いてる驚いてる……
さて、どんな反応をするかな。

「名前、蒼崎青子って言うんだけど……知ってる?」

「………………」

ついでに追い討ちを決めてやる。

案の定、言葉に詰まっている。 
まあ当然か。
どこのお登りさんか知らないけれど、いきなりこの広い世界の中における5人。
こんな天文学的な確率にブチ当たるとは夢にも思わなかったのだろう。
少し懲らしめてやろうか―――
そんなサドっぽい衝動にかられながら次の言葉を待つ。

「………貴方も、管理局の人ですか?」

――――――、へ?

「私達以外に突入した人がいるって話は聞いてない。 
 もしかしたら………行き違いがあったのかも。」

すると彼女は何かよく分からない事を言ってくる。

「通信…………ん、やっぱり上と連絡が取れない。 
 すいません。何か身分を確認出来るものを。」

「あー、あのさ。ミスブルーって、聞いた事ない、かな?」

「こちらのミスかも知れない。デバイスで照合してみますけど……
 これが私の認証番号です。貴方も確認を、」

あ、あれ? 
モグリかこいつ? 

……………ひょっとして滑った私? 
自分でも結構有名(主に悪名)になったと思ってたけれど実はそうでもないのかしら?
少し凹む。

ていうか、もう何か面倒になってきた。

1、現状の認識 → 目の前の娘が何か知ってそう。
2、私の使い魔をやってくれた奴らにおしおき → 目の前の娘が何か知ってればいいな。
3、魔法使いとして目の前の娘の考え違いを正す → 目の前の娘を(ry

脳内で見事な三段活用が組み上がる。
うーん、美しい。シンプルイズベスト。
多少強引な形になるが一度に片付けてしまおう。 

「見せて。」

「え?」

一番私らしいやり方で――――

ずいっと相手に歩み寄る。
私の敵意を感じ取ったのだろう。
女が一歩引く。

「認証だ何だと面倒な事しなくても証明する方法はあるじゃない?
 貴方の魔法、見せてよ。」

「………何を、するつもり?」

いや、引いただけじゃない。
何気に小高い丘―――有利なポジションを取ったのか。
咄嗟にして良い反応だ。 
この子、戦い慣れてるな……?

「待って……どうして? 局員がみだりに魔力を行使する事は禁じられて……」

「はッッ!」

問答無用。
何か言いかけた相手に軽いのを一発お見舞いする。
あくまで避けやすい軌道での挨拶代わりだ。
まあ、いくら何でもこれで終わる事は――   

―――――パパァァン!!!

「………………ありゃ?」

直撃しちゃったぞ……?

一瞬、あちゃって思ったけれど―――すぐに杞憂だと分かる。

相手が魔力を解放した瞬間が分かったからだ。
ああ、よかった。
魔法使いを名乗ってくれた以上、偽者とはいえそのくらいはやって貰わなくちゃ困る。

濛々と土煙の上がる中―――
それでも前面にハッキリと見えるドでかい盾はあの子が展開したものだろう。
私の魔力光を完璧に防ぐとは、なるほど……少しはやるね。

「結局、こうなるの……?」

一人愚痴る相手に続けて捻じ込む。
さあて、見せて貰いましょうかね……
怪しげな魔法少女さんの実力を。

「ブロウニング・スターマイン……」

私の号令の元に―――場に破壊の意思を

その根源を映し出す七色の光弾が姿を現した。


――――――

――――――

そして戦いは始まった。

蒼崎青子の初戦。
高町なのはにとっては―――

しかしなのはは当然、こんな戦いを継続するつもりはない。
必死に相手に呼びかけようとするのだが――
相手の攻撃の鋭さが彼女に対話の隙すら与えない。

「こちらにいきなり攻撃される謂れはありません! まずは話を聞いて……!」

「いいよ。言ってごらん」

「わ、私達はこの地一帯の………うっ!???」 

放たれた弾丸がなのはの頬を掠める。
一瞬でも気を抜けば一気に押し潰される。

「喋ると舌噛むよ?」

「っ! 仕方が無い………レイジングハートッ!!」

しかして高町なのはにとってはこの状況は割りといつもの事である。
話を聞かない相手に対して対話の場につかせるために何をすれば良いか――
彼女の体は嫌というほど理解していた。

「時空管理局機動6課……高町なのは1等空尉!
 魔力使用危険行為により貴方を拘束します!」

開かれた戦端。
応ずる白き翼。
管理局の若き魔導士の闘気がフィールドにはためき広がる。
その桃色の魔力の奔流―――まさに戦女神の如し

(…………これで三回目か。)

幼少の頃から数えて、問答無用で襲い掛かられるのに比較的慣れているとはいえ
流石にここまで来ると……

(私って対話能力……無いのかな?)

などと自問せざるを得なくなる高町なのは。   

<Don,t worry>

デバイスからいつもの優しい声が返ってくる。 
否定なのかフォローなのかいまいち判断に苦しむところだが。

「ありがとう……とにかく今はこの状況をどうにかしよう。」

愛杖を持つ手に力を込める。
やるからには―――容赦はしない!

「へえ……なかなか良い面構えじゃない。」

対して蒼崎青子。
敵がようやくやる気になった事を肌で感じる。
称えた微笑に危険な色が灯る―――

彼女としても強引な形になってしまった事は分かっている。

しかしこの不可思議な空間。
使い魔の物見だけでもかなり危険な存在が蠢いている事が分かる。
そんな中、得体の知れないモノと長々問答してやる暇は無い。

目の前の娘が中途半端に力を持っただけの何も知らない人間という可能性も捨て切れないが
そうであれば単に躾の一環として叩きのめしてやれば良い。
この世界を魔法使いなどと名乗って闊歩すればどうなるか――
多少、強引なカタチであっても分からせてやるべきだという親切心という事にしておこう。


今、ここに至って両者ファーストコンタクトは全くの五分。
双方共に一瞬で50近い魔力弾を展開しての空間の削り合い。
その膠着状態が――

(強敵………!)

まずはなのはに戦慄を与える。
先に強力なサーヴァントと交戦した事もあり、殊更に注意深くなっていた事もあった。

「このままじゃラチがあかない……レイジングハート!!」

<Yes Master> 

(相手は私と同じセンターからの射撃タイプか。
 なら私が相手にやられてイヤだった事……
 それがそのまま向こうの弱点になる!)

このまま打ち合っても無駄な魔力を消費するだけ――― 
早期の判断の元にそう判断した高町なのはが、ある算段の元に自ら敢えて均衡を崩す。
魔導士の弾幕が薄れた事で暴風のごとく迫る青子の色彩華麗な爆裂弾。 
それを―――

「テイク………オフ。」

彼女は上空に身を躍らせてかわしていた。


――――――

AOKO,s view――――――

相手の弾幕が急に薄くなっていく――――

それが故意に緩めたのは分かるが……
魔力切れだろうか? 

(だとしたら、案外あっけないわね……)

一瞬の対峙だったけど、その瞬く間とはいえ――敵は私の魔弾に拮抗した。
少しは手応えありそうだと感じたが、この一瞬でガスを使い果たしてしまうのではお話にならない。

微塵の容赦もなく相手の陣地に「雨」を降らせてやった。 
スタミナ切れか、それとも何かを企んでるのか。
どちらにせよこちらのやる事は変わらない。

だがしかし―――
次の瞬間、私の目に映ったのは破壊の跡から飛び立つ一羽の白い鳥。
あの子は自陣を完全にハチの巣にされながらも間一髪、上空に逃れていた。

「……飛べるんかい。」

げんなりとする私。

いやでも―――それは悪手でしょ。

飛行魔術―――
人を浮かせる術式は実はそれ自体は難しくない。
優れた魔術師ならば宙空を飛びながらの魔術戦を可能とする者もいる。

だが、それでも―――人は鳥にはなれない。

人間の三半規管。平衡感覚。
その他あらゆる器官が、鳥と異なり決して空を飛ぶようには出来ていない。
それは大地に根を生やして生きてきた人間の証であり
本来、在るべき姿に逆らって空を犯した所で人はその性能を―――10%も発揮できないのだ。

「ことに飛び道具持ちの私に対して中空に身を躍らせるなど愚の骨頂。」

浮いている標的なんて容易く打ち落として終わり。
まださっきまでの地の利と障害や遮蔽物を利用しての撃ち合いの方が余程、理にかなっている。
そんな所にいたらマトだよ………悪いけど。

上空に居を移した白き魔導士に―――散弾の雨を降らせる。

決まったね。
あれは避けられない。

私の魔弾の追撃はあの子を中心に直径20m間に豪雨のごとく降り注ぐ。
アリンコだって逃げられまい。
いつも通りのあるべき結果を、興奮も感慨もなくただ受け入れるのみ。

…………………
………………

だが――――


そこで私は信じられないものを見る。


そして知る事になる。


―――人は空を飛ぶようには出来ていない。
―――人間は鳥にはなれない。

その常識を覆す―――


空戦魔導士という存在を。


――――――

散弾の雨――

その爆撃の中――――白き魔導士は未だ健在だった。

「……………あ、ありゃ?」

首をかしげる私。
あれだけの集中砲火を一方的に降らせたのだ。
無事などという事はないはず。
初めに見せた防護の盾にしたって、あれだけの掃射を受けて無傷というのは考えにくい。
破壊に特化したとまで言われる私の魔弾はそれほど安くはない。

「シューーーーート!!」

「っ!」 

ちっ………撃ってきた。
どうやら0.2秒ほど思考がフリーズしてたようだ。情けない。

先ほどよりも更に激しく、今度は正面から「風」を叩きつける。
中央で交錯する私と彼女の魔力弾。
そこまではさっきと変わらない………


何ていうか、ね――――

その真っ只中を―――――

突っ込んでくる奴がいる事以外は――― 


「………ちょ、ウソっ!?」

流石に開いた口が塞がらなかった。
機関銃を撃ってくる相手に正面から突撃ですか?

私の弾幕はいささかも薄まってないというのに。
自らハチの巣になる気? 正直、破れかぶれの行動にしか見えない突撃だが――
とはいえ、手を緩めるつもりもない。 
迎撃する形で30の魔力光を叩きつける。 

「……………あら、何とまぁ……」

それを―――みるみる………掻い潜ってくるわけよ、うん。 

はっは、何だ。何の事はない。

避けてるんだ………私の弾幕を正面から。
人間ガトリンクなどと皮肉めいた異名まで付けられている私の無軌道に暴れ狂うあの弾幕を―――

それを、避ける、避ける。  
アリ一匹通さない対空放火を針の穴を通すような軌道で避けまくり 
余剰分はバリアで受け止め、自らの弾で打ち落とす。 

この神業じみた空の舞いを前に―――

「まぢで……?」

私とした事が、ちょっと笑いが引きつっちゃったよチクショウ。


――――――

――――――

高町なのはの元々の基本戦術――――――

高い防御力で相手の攻撃を無力化。
高性能の誘導弾で敵の動きを制限。
回避、反撃をさせずに主砲で撃墜。
または超距離からのスナイプショットによる撃破。

それが砲撃魔導士である彼女の基本スタイル。

だがなのはのもうひとつの側面にして最大の武器――

それは出力でも装甲でもなく、卓越した空間把握能力・空戦技術にある。
感覚により360度、どの角度に敵がいるか自分がどの位置にいるかを正確に掴み
理想的な軌道の滑空・旋回を行い、同時に精密な射撃と牽制を行える。
まさに戦闘機じみたドッグファイトや爆撃戦をこなす彼女。

元々化け物じみた素養を持ちながら
更に10年における空戦魔導士としての研鑽を積んだ高町なのは。
かくしてミッドの空に―――
重い装甲に巨大なエンジン。桁外れの主砲を搭載し 
その重さを微塵も感じさせない飛燕の如き運動性能を持つ規格外のバケモノ戦闘機が誕生した。

待ち主体の「移動砲台」から「撃墜王」
ミッドの空に生きる者達から尊敬と畏敬の念を込めて送られたその称号こそ――

――― エースオブエース ―――

航空教導隊に属して磨き抜かれたその戦技。
砲撃だけの魔導士では到底不可能な単騎での突入戦・救出戦を見事成功させてきた空の英雄が
今――――ミスブルーに迫る。


――――――

NANOHA,s view ――――

よし…………何とかイケる。

何をしてくるか分からない相手に長期戦は不利だ。

待って、相手の攻撃を受け止める――
そういうやり方で「今回」、幾度となく失敗してきた私は
だから今日はオフェンス主体の構えにシフト。

撃ち合って勝負がつかないなら肉迫する。
多少強引にでも抑え付けて捕縛魔法で動きを封じる。
牽制のシューターを撃ち、同時に地面スレスレに滑空して――

「たあぁぁぁっっ!!!!!!」

フィールドを纏ったチャージで相手を吹き飛ばす。

「ちっ!」

この戦いの開始から今まで一歩もその場を動かなかった相手が 
初めて横に飛んで私の攻撃を回避する。
でもフィールドの余剰分+衝撃波までは避けきれず、抉られた地面と共に吹き飛ばされる。

再び急上昇し旋回、敵を正面に見やる。
その身を起こす彼女の身体には、チャージの衝撃波やそれによって飛び散らされた破片による傷が――

(フィールドを張ってない………)

戦闘タイプは自分と似通っている。
でも彼女の使う術式は明らかにミッド、ベルカ式のものじゃない。
彼女もサーヴァント……異なる世界から来た存在なのだろうか?

(どうしよう……あれじゃ全力のチャージなんてしたら大ケガじゃ済まない…)

いや、そんな事より―――その傷つき具合
彼女は少なくとも肉体の頑健さにおいては明らかに前に戦ってきた人達より脆いように見える。
―――ガジェットを相手にするのとは違う
あれだけの攻撃手段を持ってる人が防御に関しては生身の人間だなんて………困ったな。

「っ!!」

こちらの思慮などお構い無しに撃ってきた。
相変わらず凄まじい弾幕。

だけど―――目が馴れてきた。  

パターンも読めてる。 
もう彼女の射撃は私の脅威にはならない。

今度は滑空からのチャージは使わず上空、相手の真上からの急降下で肩口を狙っての当身を狙う。 
これで沈黙してくれれればいいのだけれど……

「やあぁッッ!!」

レイジングハートを袈裟に打ち下ろす。
のけぞってかわす相手。
でも外し切れずに、肩からわき腹の下まで薄い切り傷がついてしまう。

このまま、押さえ込んで―――
そう思い、一気に間合いを詰めようとしたところに予想外の一撃。

「がら空きっ!」

「………つ!?」

逆に間合いを一気に詰めてきた彼女。
私のこめかみの辺りに全力で思いっきり――

右の拳を叩きつけてきたのだ。


――――――

急降下してきた空の魔導士の打ち下ろし。
それを何とか回避した青子が、なのはの横っ面に渾身の右拳を放つ。

マジックガンナーなどと言われても別にそれしか出来ないわけではない。
護身、格闘技その他諸々、戦う術は十分に嗜んでいる。

かくして――――

「!#”$%&&’’&%%~~~~~~~~~~!!!???」

その一撃はまるで実らず―――

殴った青子が一方的にダメージを受ける羽目になった。

剥き出しの顔面を狙ったはずの右拳は、しかし一方的に傷つき
対してなのはの顔に傷一つついていない。

「て、鉄で出来てんのかアンタはッ!」

「無駄だよ。BJの覆ってない部分にも防護膜はある……素手では破れない」

「そりゃまた面の皮の厚いことでっ! 痛ってー………」

右手をぶんぶんと振って弾け飛ぶように離脱する青子。

一定の距離をおいて三度、対峙する二人の魔法使い。
だが青子に近接で自分を破る攻撃手段はない。
そう判断したなのはは、もはや距離を開けるつもりもない。

「何とか動きを止めてバインド……
 その後、砲撃による魔力ダメージでノックアウト。
 一息で決めるよ……レイジングハート。」

白きエースが三度、標的に向かい飛翔する。

打つ手無し―――?

ブルーの口から今日何度目かの舌打ちが漏れる。


――――――

AOKO,s view ―――――

……ひょっとして私、押されてる? 

転がされたり吹っ飛ばされたりと散々である。

ここまでぼてくり回されたのっていつ以来だろうか?
どっかの死んで欲しい人形遣いの事なんかを思い出しつつ――

「強いわ…このコ」

素直な感想を漏らす。
気軽にケンカを売ったのをちょっと後悔とかしてみたり。

人間離れした魔力容量。 
卓越した運動性能と防御力。
自分と拮抗しうる火力。

穴が見当たらない。
戦闘者としての性能は明らかに私以上だ。

何ていうか、例えるなら―――モビルス(ピー)?

「シューーートッッッッ!!!!」

ミドルレンジから放ってくる魔弾。
それと同時に突っ込んでくる白いヤツ。

私の前方に展開する魔弾は、27くらいか……足止めにもなりゃしない

蝶のように舞い、ブルトーザーのように突っ込んでくる
物騒な自称・魔法使いを前にして――

どうしよう……
なんか、こう…
久々に楽しくなってきちゃった――


――――――

――――――

NANOHA,s view ――――

……終わったかな。

そう思い、青子さんの懐に入るべく最後の突撃を敢行する私。
相手に攻撃手段がない以上――これで詰む。


   ギアを――上げるわ


そう思った瞬間――――


パンッッッ、と……


「あッッ!!?」

爆裂音と共に、たった今避けたハズの後方のスフィア三つが爆ぜた。  
突然の衝撃に驚きの声をあげてしまう。
更に叩き落とした二つは地上をバウンドして跳ね返り
私はその直撃をモロに受けてしまう。  

(つっ……油断した…?)

仕切り直そうとバックステップしたところを―――
今度は噴水のような魔力波が私の足元の地面から噴出し 
空中に再び押し上げられてしまう。

「くっ!?」

下から突き上げられる奔流に呑まれ、飛行の軌道を大きく歪められてしまう。

(き、急にリズムが……!?)

そう、読めなくなった。
バリアでダメージは軽減しているものの面白いように被弾してしまう。
ダメ……まずは落ち着こう。

――― パン、パン、パァン、―――

でも駄目だった……
落ち着けば落ち着くほどに追い詰められ
飛べば飛ぶほどに逃げ場がなくなっていく。

これは―――リズムがどうとかって話じゃない。

単に――――速くなってる………

「見て」「詠唱」「撃つ」 

この動作が単に、壊滅的に速度を上げている、というだけの事。

目前にした勝利を逃がした事よりもむしろその妙技に目を奪われた。
もし自分がソレに晒されていたんじゃなければ思わず感嘆に唸っていたと思う。

――――後に知る事になるこれぞ、全方向同時に襲い来る魔力弾による不可避の連携コンボ 

―― ミスブルーのスターマイン ――

「無限回転」と称される高速詠唱が可能とした絶技だという事に――――


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最終更新:2010年02月23日 07:22