293 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 03:09:43 ID:BoQMm6XS
「これは、もう駄目ね」

 そんな台詞を、悲壮感のカケラもなく言い放つ。
 声はむしろ、明るくさえあった。

 すみません、と杖に組み込まれた人工精霊は思う。

 自分が彼女をからかい続けなければ、ことあるごとにからかって遊び続けてオモチャにしていなかったら。
 彼女だって、もっと最初から自分を使っていただろうと思う。
 そうだ。

 すべては遅すぎたのだ。

 それの力は強大であった。
 それの力は奇跡であった。

 しかしそれでも足りぬ。
 
 敵は、あまりにも強く恐ろしすぎた。
 この世の全ての人の悪性の結露たるアンリ・マユと、その器たる聖杯の少女。
 
 もはや抑止力の直接の介入をもってするしか、倒すことは適うまい。

 それでも、思う。
 自分の力があれば。
 自分の力をマスターが最初から使っていれば。

 アンリ・マユなどは生まれることもなく、彼女は、この遠坂凛という少女は、なんの支障もなく聖杯戦争を勝ち抜いただろう。
 
 悔やんでも、悔やみきれない。
 自分が幼少の凛をオモチャにして遊んでたりしなければ、もっと積極的に、この自分を使用することをためらわなかったのだと。
 
「ガラじゃあないわね、ルビー」

 悔悟の言葉を、たったそれだけで彼女は切って捨てた。



294 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 03:11:06 ID:BoQMm6XS
「本当に、まったくガラじゃないわ。調子狂っちゃうじゃない」

 笑う。
 味方の誰一人いない地獄で。
 黒く魂を染められた英霊たちを前にして。
 笑う。

 自分の力を持ってしたら、例え英霊であろうとも互角の戦いはできる――ただし、相手が一体であれば。
 
 聖杯戦争に参加した全ての英霊を敵にしては、さすがにどういう手も打てない。
 たとえ平行世界の全てを見渡したところで、いかにこの少女が魔法に手をかけた天才であったところで。
 これほどの軍勢、これほどの悪意を敵にして能く抗し得る術はない。
 
 逃げましょう、と告げる。

 勝ち目はありません。

 逃げたって、誰も文句はいいません。

 そう言いながらも、知っている。

「馬鹿ね」

 この人が引く訳がない。
 ここで引くわけがない。
 そんな人なら、最初からここにはいないのだ。

「そう。そうよ。ルビー。
 風が空を流れるように。
 星が天に瞬くように。
 それは当たり前のこと。
 私がここにいるのは、そんな当たり前のことなのよ。
 ルビー」

 …………。

「きっと、どんな世界の私だってここにきていたわ。
 例えあなたを手にしていなくても。
 遠坂凛ってのはね、そういうものなのだから」



295 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 03:11:47 ID:BoQMm6XS
 ――――。

「あ、――訂正。
 あなたを手にしている今の自分は、きっと手にしていない私よりも心強く思っていると思うわよ。
 これだけは間違いないわよ」

 凛、さん。

「さあ、いきましょうか。
 ちょっとドジだけどリリカルな魔女っ子、遠坂凛の大活躍!」

 魔法少女です。

「似たようなもんじゃない」

 違いますよ。
 細くとも深い溝がそこにはあるんですよ。

 笑う。 
 遠坂凛は笑う。
 
「さあ、いくわよルビー! コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!
 Der Spiegelform wird fertig zum transport―――!

 ならば自分もいつもどおりだ。
 当たり前のように力を振るおう。
 当たり前のように戦おう。

「開けシュバインオーグ!我は我の望む場所へ、我は我の望む法を!
 せーの、Sesam, offne dich!」

 キャー☆素敵ですマイマスター!

「はぁい、お待たせみんな!」

 魔弾が飛んでくる。
 キャスターの魔力だ。

 ――なんて、無粋。

 それを遠坂凛、いや、魔法少女カレイドルビーは舞うようにステッキで叩き落とす。 
 続けて繰り出された弓の七連射も同様に。

「愛と正義の執行者カレイドルビーの」

 神速の踏み込みから繰り出された魔槍の穂先も。
 大地を砕こうとせんばかりの岩剣の刃も。
 黒く染められた人の幻想の結露たる聖剣ですらも。

 カレイドルビーは回避してみせた。

 さすがに目を見張る英霊たちに対し、彼女は着地してバトンを向けた。
 
「――プリズムメイクが、はじまるわよ♪」

 笑った。


296 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 03:18:03 ID:BoQMm6XS
 あれから何年もすぎた。
 あれからというのは彼女が前の主人と共に戦ってからで、それがもういつだったのかもよく覚えていない。
 果たしてその戦いで彼女の主人は勝てたのか、あるいは敗れたのか。
 彼女のほとんどの機能と共に、全ては遠い時間と闇の彼方に置き忘れてしまった。
 ひとつだけ覚えているのが主人である少女のこと。
 遠坂凛。
 とても強くて明るくて、消して挫けない、凄い人。
 思い出すだけで、作り物の心が震えてくるような。
 彼女と共に戦えて、本当によかったとルビーは思う。
 彼女のことだけは、ずっとずっと覚えていたかった。

 あれから何年もすぎた。
 もう彼女は、自分の名前すら思い出せない。
 ただ一つ、自分には主人がいて、その主人はとても強い人だったことを覚えている。
 ちょっとからかったおかげで、長い間、手にとってもらえなかったように思う。
 次に誰かに出会えたのなら、もうからかったりしないでおこう。
 主人の望むままに、力を貸してあげよう。
 そう思った。

 何年もすぎた。

 何年もすぎた。

 ………

「滅んだ世界の……ロスト……何かの素体に」
「……記録……魔法少女?」
「デバイスに……」
「――やはり、駄目だ。
 封印しよう」

 ……………。

「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に!
 レイジングハート、セットアップ!」 
 
 素敵ですよ、私の新しい、小さなマイマスター。

 ……

「ちょっと……、やりすぎたかな?」 
 Don't worry(いいんじゃないでしょうか) 

 本当に、問題ありませんとも♪


 おしまい。  


297 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 03:20:54 ID:BoQMm6XS
…某型月SS読んでたら変な電波を受けて書いた。今は反省してる。かなり。ごめん。
真剣に、ごめん…。

てきとーに流しといて。

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最終更新:2008年08月13日 12:05