880 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/05(火) 20:51:08 ID:VWIPz8op
はやてルート続き投下します。


881 :fateはやてルート100:2008/08/05(火) 20:52:02 ID:VWIPz8op
(ホントにやるのかよ。はやてはそんなの…望んでない)
(わかっている、が、時間は貴重だ。機会があるなら活用しない手はない。
この件は私が責任を取ると言ったろう?主には気づかれずに終わすつもりだ。
サーヴァントという連中はやっかいだがな。
マスターという魔術師達は私達が不意をつけば比較的容易に始末できる。
心配するな、失敗の可能性は低いし心臓発作となれば目の前で殺しても
主に殺人の嫌疑がかかることもないだろう)
(そんなのシャマルの腕次第じゃんか。シャマルはやれるっていってるのか?)
(もちろんだ。湖の騎士を信じるんだな。もうすぐシャマルも学校に着く。
お前は主の意志を尊重して黙ってみてればいい)
(…知ってて何もしなかったら同じだろ…)
(邪魔だけはするな。今は私の指示に従え)
(…邪魔はしない。けど、はやてがトラウマ抱えるような結果にだけはしないでく
れよな、シグナム)
(承知した)


「まず、みんなに何して欲しいのか聞かないことには返事できんよ」
「あっとその辺から説明する必要があるわね。
もう、あなた達も巻き込まれてるから知らないでいるのはよくないし。
いいわ、説明する。あなた達に襲いかかってきたのはサーヴァントと言って――

(なんで、セイバーのこと話さなかったんだ?)
(遠坂さんが勝ちたがってた場合、士郎がサーヴァント喚んだってこと知られたら
、まずいことになるやろ?
だから、セイバーさんには遠坂さんに気取られない位置にいてもらってる)
(セイバーの存在知られたら遠坂が敵になるってのか?)
(私はそう思うよ。違う言える?そやから、聖杯戦争に対する遠坂さんの姿勢を確
認するまで黙っとくんが一番や。
そんで戦って勝つ気やったらそのまま黙っとく)
(騙すのかよ…)
(まぁ、そうなるな)

上からはやてを見下ろす士郎の目には不快感が浮かんでいた。
はやては何でもないように自然に士郎の視線を受け止める。
そんなはやての仕草に士郎の不満は高まっていく。
けれど士郎以上に不機嫌になりかけている人が一人。あかく染まり始めていた。




882 :fateはやてルート101:2008/08/05(火) 20:53:11 ID:VWIPz8op
「衛宮さ~ん?衛宮く~ん?あ・な・た・た・ち、話聞いてる?
夕暮れ時の屋上で見つめ合う二人とか演出してくれないでいいのよ?」
「え?」
「あ…」

どちらが漏らした呟きだったが二人が正面に向き直るとそこにはとてもいい笑顔
をしたツインテール。
警告を発するようにチラチラと青白く光る左腕がなんだがとっても印象的。

「私、気は長い方だと思うけど空気読めない人間て嫌いなのよね。
ついついお仕置きとかしたいと考えてしまうんだけどおかしいかしら?」

ふふ、と笑い左腕を持ち上げて何かの構えをとる姿はどこまでが冗談か。

「と、遠坂、短気はよくないぞ?俺達はきっと分かり合えるから!」
「そ、そうや、話だってちゃんと聞いとったよ?つまり、遠坂さんはこの戦いで
…」
「勝つわ、参加する以上は勝つ、それが遠坂の使命だもの」

その言葉は強い自信と彼女自身の固い決意の表れ。
それは揺るぎのない重いものと感じられた。

「…遠坂さんらしいわ。負けず嫌いやもんね」
「そう?ま、そうかもね。聖杯戦争の話はこんなものよ。駆け足になっちゃった
けど質問があれば随時受け付けるから。
で、あなたの使い魔にやって欲しいことというのはね、私のサーヴァントの支援

ぶっちゃけると殺し合いね。力は強そうでもその辺どうなのかと思ってたんだけ

あの青い奴と戦えたならそこも合格。彼らを私に貸したあとのあなた達の安全の
保証だけど
聖杯戦争間は私の家にいてもらって構わないわ。防御には自信あるし、悪くない
わよ」

魔術師の彼女が自分の工房である自宅を開放するというのは大きな譲歩なのだが
この二人は魅力的な条件とあまり感じないようだった。

「はやて、どうするんだ?みんなのことは」
「遠坂さん、みんなを貸すことはできんけど協力を頼むことはできる。
けどな、シャマルは仕事、ヴィータは学校、シグナムも顧問の仕事がある。
せやからいつでも助けるというのは無理や」
「そういえば使い魔に社会性持たせているんだったっけ。人型だし妥当と言えば
妥当ね。
それ以上の感情を寄せてるとかはあなた達の問題だし私から言うことは特にない
のだけど
この場で返事はできない?」




883 :fateはやてルート102:2008/08/05(火) 20:54:14 ID:VWIPz8op
「1日待ってくれんかな。みんなと話して決めたい」
「…言うこと聞かない使い魔ってのには私も馴れてきてるけど
あなたは考え方からして魔術師じゃないのね。そんな気はしてたけど。
衛宮君も同じ?」
「ああ、あいつらは家族なんだ、遠坂。使い魔じゃない」
「家族…ね…そういえばあなた達も血は繋がっていないんだっけ?
血の繋がってない家族ってどう?」
「どうかな、俺は血の繋がった家族のことは覚えてないから違いはよくわからな
い。
けど、何も変わらないと思う。いつもそばにいてくれる暖かい存在だ」
「私も士郎と同意見や。ヴォルケンのみんなは私達にとってそういう存在なんよ


凛は二人の回答を穏やかな表情で受け止める。

「そう…なら私が言うのもなんだけど家族、大切にね。
先程の要求を少し訂正するわ。この聖杯戦争において衛宮家は私に協力しなさい

回答の猶予は明日までよ」

凛の言葉に士郎、はやては互いに頷き凛を見る。

(周りにサーヴァントの気配はあるか?)
「了解や遠坂さん、前向き善処する方向で検討します」
「その答え、引っかかる言い方ね。あなたは本気か冗談かわかりにくいのよ…
その顔見てたらまたアレ思い出して腹が立ってきたじゃない」
(ない、近くにセイバーがいるだけだ)

苦虫を噛んだような凛とにんまり笑うはやて。ただ、士郎だけは内容を理解でき
ずにいた。

「なぁ二人になんかあったのか?」
「お、食いついたね、士郎。これはな生徒会と柳洞君が通称女狐と呼称した
運動系の部活の裏で暗躍していたエージェントとの戦いの話なんよ」
「ふん、あんたはその味方からも狸って言われてるくせに。最後まで話す気?
それは寛容な私でも我慢できないのですけど。どうする気でしょうか?衛宮さん
?」
(わかった。警戒を続けろ)
(承知)

再び凛の顔には士郎が恐怖するいやーな笑いが浮かんだ。

「まぁまぁ最後までは話さんから。士郎、柳洞君が予算の不平等を改善しようと
しとったのは知っとるね?」
「ああ」
「その改革をさせまいと立ちふさがったのが遠坂さんや。正直華麗な根回しやっ
たな。
優等生としての人脈と誰も知らなかった闘争心であっという間に大勢が決しそう
やった。
そこで私は裏技を使わせてもらったんや」




884 :fateはやてルート103:2008/08/05(火) 20:56:49 ID:VWIPz8op
「裏技?」
「もう正攻法やと勝ち目なかったからな。使ったんよ電話を」
「電話?それが裏技なのか?」
「わからないの衛宮君?そこの狸が私に対抗する方法?」

凛は不機嫌な顔で腕を組みながらそう士郎に尋ねる。

(標的は変わらない。私の合図でやれ。タイミングも指示する)
(わかったわ)
「士郎にも見せたことあったけどな。遠坂さんの声色の真似」
「あ!?あれか、それで電話…なるほど」
「本物の真似して偽情報流して混乱させたりとなかなかエグいことさせてもらい
ました」
「ったく本当よ。各部や先生方に調整しにいったらその話はさっきしただろとか

もう決めたじゃないかとか悪い夢かと思ったわ」

ぐぐっと拳を握る凛は口惜しそうにはやてを睨む。

「それで、私の偽情報によって足並みが乱れたり正しい現状の認識ができなくな
った運動系の部活の皆さんは
団結できなくなってそこを柳洞君に各個説得されて行ったというわけや」
「それじゃ遠坂の面目丸つぶれというか。確かに裏技だな。単に負かすだけじゃ
なくて
第三者的には遠坂の言うとおりにしたのに負けたと思わせる嫌な効果がある…」
「身に覚えないことでとやかく言われることがあれほど気分悪いとわね。
使い魔放って誰がこんなふざけた手を使ったのか探ったんだけど犯人を発見した
時は
本当に殺そうかと思ったわ」
「はやて、よく無事だったな…」
「その頃しばらくの間、対修羅場ウェポン、三枝さんと昼とか
ご一緒させてもらってたからやろか。特に闇討ちとかは受けんかったよ」
「そんなみっともない手は使わないわよ。予算決議の後、この屋上に呼び出して
あなたには言ったわよね。
次は負けないからって 。この聖杯戦争で借りを返してやろうかと思ってのだけど
令呪が浮かんでないんじゃ仕方ないわね。勝負はお預け。
私ね、これでもあなたの抜け目ないとことか割と嫌いな方じゃないから
できれば一緒に戦えればと思ってる。いい返事期待してるわ。
…私からもうないけどなんかある?」




885 :fateはやてルート104:2008/08/05(火) 20:58:34 ID:VWIPz8op
「特にないかな…俺も遠坂と戦わずに済んだら嬉しい」
「そうね、衛宮君、あなたとはあまり話したことなかったけど味方になったら宜
しく」

士郎に向けられた凛のその表情は猫かぶりでない純粋な笑顔。
向けられた本人の心臓はこんな状況に弱く激しく動揺せずにはいられない。
結果、喉に何か詰まったように様子がおかしくなった士郎を凛は訝しげに覗き込
んだ。

「衛宮君?どうかした?」
「あっと…その…なんだ…」

顔が近い…

「はい!はい!話は以上なんやね遠坂さん?私らと組めたらええね。
士郎もほら、しゃきっとする」

士郎の襟首をグイグイって引っ張って引き寄せる。おたおたしていた士郎は軽い
力でも
引っ張られ凛から引き離された。一瞬何事かと思った凛だが
すぐに面白いものを見つけたという顔になる。

「衛宮さん、私あなたの弱み掴んだような気がするわ」
「な、なんやろね。それより遠坂さんのあの最後の華麗な反撃の話してもええか
なぁ」
「ちょっと!その話喋ったたらあなたの弱みどんどん突くわよ!!」
「知らん、私に弱みなんてないもの」

シラっと澄ました顔で顔を背ける。

「本当に?じゃあそういうことで。ちょっといーい?衛ー宮君」
「え!?」

スッと軽やかな足取りで凛は踏み出すと…士郎の腕に組み付いた…。

「な、な、な……ふ、ふーん。節操無いんやね。遠坂さん。
碌に話したこともないような男子に抱きつくなんて、が…がっかりやね」
「くくく…あははっいい顔ね。衛宮さん。私あなたのそんな顔見たかったわ。
衛宮君には悪いけど時々こうやって彼女をからかわせてくれると嬉しいわね」
(緩んだな)
「あ…俺ならいつで…い…いやいや女の子が気安く男に抱きついたりしたらダメ
だ」
「へー衛宮君て堅い方なっ……」

凛が言葉を最後までは嗣ぐことはできなかった。気が緩むこの時を狙い続けてい
た者達は僅かな隙を逃さない。
彼女の背後から伸びた腕は背を貫き心臓を掴み、弄る。
呼吸は自由を失い血液はあらぬ方向へ流れ行く。

「がっ…はっ!?ゲ…ホッ…」
「遠坂!?」
「遠坂さん!?」

口から漏れた鮮血が西日刺すコンクリートに新たな色を加えた。



402 :fateはやてルート105:2008/08/16(土) 14:34:18 ID:Rgcl6M7E
十数分前―――

(そろそろ来てもいい頃だと思うんだけどな)

クロノは朝同様学園の校門の側に再び立っていた。時刻は16時を回り夜は間近である。
学園の生徒達は思い思いに家路へとついていた。
その中に探し人がいないか目を光らせているが一向に現れない。
あの金髪娘は昼間の約束を忘れたのではないかとクロノは疑い始めていた。
そのクロノに近寄る気配が一つ。

「なぁ、あんた誰か待ってるの?最近色々物騒だし不審者ならお帰り願いたいんだけどね」

クロノを前に話しかけてきたのは凛々しいという言葉が似合いそうな女生徒だった。

「君は?」
「あたしのことはどうでもいいよ。質問に答えなって。どうなの?
あたしは結構腕には自信があるよ」
「…特に怪しい者じゃない。一応人待ちをしてる。衛宮はやてって子だ」
「はやて?てっきり待ち合わせだとしたらさっきから
あそこでこそこそしてる三人かと思ったけど」
「彼女達じゃない」

女生徒が口を歪めて後ろに振り返るとこっちに振るなと抗議の声。

「あいつら結構バレないようにうまく隠れてたけど気づいてたとはね。お兄さん結構できる人?」
「人並みだよ」
「…まぁいいか。で、はやてに用ねぇ。あいつとどういう知り合い?」
「君が彼女の友人だと思って話すけど、僕は彼女の養父の知り合いになる。
その人のことで少し相談があったんだよ」
「へー、家のことなら部外者のあたしが関わる話じゃないけど、確か衛宮の親父さんは亡くなっていたような…
ああっと…すいません詮索する気はないです」
「誤解ないように言っとくと衛宮士郎の養父とは別の人だよ。
彼女は衛宮切嗣より前にも世話になっていた人がいるんだ」
「えっ!?知らなかった。それで衛宮のとこに引き取られたってことはその人は…」
「行方不明。ただ、手掛かりが見つかったって警察から連絡があったからそのことを彼女と話そうと思ってね」
「そうなんですか。あ、あと一ついいですか?」
「なんだい?」

言おうかためらい悩んでいる少女の視線の先には例の三人が顔を覗かせていた。

「あいつらとはどんな関係?」
「えーとだな。彼女達とは…」

眉間に皺を寄せて苦慮する。陸上部三人娘の存在はクロノにとって一番頭の痛い問題となってきていた。

404 :fateはやてルート106:2008/08/16(土) 14:38:45 ID:Rgcl6M7E
空間を越え、距離を無にする術法により胸部は背後から抉られる。
暗殺者の腕は狂いなく少女のそれを掴み意識を刈り取る激痛を全身に与えていた。

(やったか?)
(ええ、心臓は掴んだわ。でも…)
(躊躇いは…今はよせ。長引けば主にも攻撃だと気づかれる)
(…そうね…やるわ)

言葉の途中、和やかな雰囲気での凛の突然の変調は
士郎、はやてを驚かすに十分だった。

「遠坂、どうしたんだよ!?」
「胸が苦しいん?保健室行く?」

二人が声をかけた時、胸を押さえ苦しみ咽ぶ凛は明らかな異変をきたした。
嗚咽とともにもれたのは赤い液体。それは屋上だけでなく凛の顔を覗き込んでいた士郎も巻き込み
表面に毒々しい模様を添えた。

「遠坂!?」
(やって…くれ、る…じゃない。こ…うなったら…)

残された意識を総動員してただ一言だけ伝える、いや命じる。
マスターとして3つと限られた力を、最強を自負する尊大な男を呼び出すために、
飛び来て異物を排除せよ!心奥で強く念じ古き家系が築き上げた奇跡の聖痕を起動させる。
端的な命令ならば亜光速をも可能とするであろうこの大魔術。
ならばかの英霊をこの場に召喚するなど

(シグナム!来るぞ!)
「なにっ!?」

容易きこと。
人では到底知覚できぬほどの極限速度、できたならばその者はいかに優れた感覚の持ち主か。
眩い光を身に人の形を以て冷たき石の上に顕現した英霊は他には目もくれずただ主を害する者へ力を振るう。

「引くんだ!シャマル!!」
「えっ!?い、ああああああああああああああああああああああ!!!!!?」

誰の目にも捕らえられぬ圧倒的な速度で刃を手に虚空から主へと伸びる腕を根元から両断に処す。
令呪によって支えられた行動は何の妨害もなく抵抗もなく、ただ当然に自然に行われた。
士郎達は目の前に現れた男が凛の体に食い込んでいた不埒な腕を抜き、投げ捨てるという行為に移っても
尚、何が起こったのか理解できなかった。

「凛!だから一人で学校に行くなとっ!?……貴様は…衛宮…士郎」

凛を片手で抱き寄せ小言を言おうとした男の眼前には宿願を果たすための獲物が男を驚き見つめていた。


405 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 14:38:57 ID:foZwgh/S
>>403
無限分の一の可能性で星くず英雄伝思い出した


406 :fateはやてルート107:2008/08/16(土) 14:42:50 ID:Rgcl6M7E
「ククク…アーハッハ、これは…天佑か。今貴様を殺しても凛とて文句は言うまい。
貴様が凛をこんな目に合わせたかは聞かん。そんなことはどうでもいい、ただ、貴様はここで死ね」
「あかん!士郎逃げるよ!」

男の剣幕は一昨日の青い男同様、殺しを厭わない狂気のそれ。
はやては固まっている士郎の腕を掴むと彼女なりの全速で屋上からの出口を目指す。
だが、そんな抵抗など英霊の前では児戯に等しい。

「凛は…まだ息はあるが…そんなにはもたんか…では、一撃で終わらせてやる衛宮士郎」

凛の容態を確認すると再び獲物に目をやる。獲物はいまだに出口からかなり離れている所で右往左往しているようだった。

「はやてっ!?どうした?」
「…ごめんな…今日の限界、もう、歩けへん…士郎は行ってや」
「ばっか野郎!そんなことできるか!」
「大丈夫、セイバーさんがすぐ来てくれるやろうし口振りから狙いは恐らく士郎や。
私はやられんて。せやから士郎は行って!」

地面に膝をつき下から見上げるはやての手を士郎は離せなかった。

「親父に頼まれたんだ!はやてを置いてくことなんてできない!
セイバーが来るまで俺がここで耐える」

上着を脱ぎ強化を…と考えた士郎だったが白髪の男はそんな時間を与えてはくれない。
凛を地面に横たえた男は黒い短刀を投擲する構え。
唇の端をつり上げた男の腕から凶器は放たれ勇躍、標的へと滑空する。
サーヴァントの攻撃と二人が気づいた時にはすでに遅く、士郎の額に刃が突き刺さる。
はずだった。

「やらせるかよ!!」

宿願を潰えさせたのハンマー。弓兵とは別にもう一つの赤いイメージが両者の間に降り立ち、
細い足で力強く地面を踏み締め対の刃を強大なハンマーで打ち据えた。

「マスター!、はやて!無事ですか?」
「セイバーも来たか…フン、ここは引く」

即断即決。凛を抱えての不利を悟った弓兵は凛を抱えると逃走を試みる。

「サーヴァント、我がマスターに攻撃を加えておきながら悠々と逃げられると思っているのか?」
「よせ!よしてくれセイバー…いいんだ…行かせてやってくれ…」
「マスター…」
「フッ後悔することになるぞ間抜けが」

口を歪めて挑発的な顔のまま、弓兵は跳躍し徐々に視界から消える。


407 :fateはやてルート108:2008/08/16(土) 14:48:50 ID:Rgcl6M7E
凛と弓兵が去った屋上に残されたのは凛が吐いた僅かな血反吐と
それより大量の血とともに転がっている細く長いおそらくは女性の腕。
そしてその腕を見つめる士郎、はやてと二人を見守る二人の騎士。

「なぁヴィータ…あれは誰の腕だか知ってるか?」
「…腕だけで誰かなんて判別できっかよ…」
「なんで、セイバーより速く来れる距離にいたんだ?」
「…それは…学校が早く終わったから会いに来たんだ…」

小さな声で返答するヴィータを前に士郎は座ったまま叩き落とされた凶器をいじっていた。

「そうかよ。俺には言う気はないってわけか。もう…勝手にしろ」

士郎は立ち上がると短刀を片手に階段に向け歩き始めた。

「マスターどこに行くのですか?」
「セイバーも来るな…」
「しかし…」
「一人に…させてくれ」

立ち去る士郎を誰も止められはしなかった。士郎の姿が見えなくなると
セイバー、ヴィータは座り込んだままのはやてに向き直る。

「はやて…士郎はあたしがなんとかする。少なくともあいつの身は守ってやる」
「…頼んでええか?」
「はやては…何も聞かないのか?」
「なんも…みんながしたことは私には責められん。けど、士郎にとっては…な」
「そっか…。許してくれとは言わないけどさ…ごめんな、はやて。
じゃ、あいつ追っかけてくる」
「ん、気をつけてな」

残されたのははやてとセイバー。

「私もマスターを狙って勝ち上がるという手段が悪いとは思いませんが
今回の件はあなた達らしくなかった。マスターが腹を立てるのも仕方のないことです。
理想を知ってもらって尚、それを無視されるのはとても…辛い」
「セイバーさんは切嗣と一緒に戦ったんやったな。そういえば。
あれとは合わんかったやろなぁ」
「…立場は私と似ていると思いますがあなたはどうしてそんなに平然としていられるのです?」
「ちゃうよ。平然とはしとらん。血の海見て気分は悪いし、
みんながしたことは私としては嬉しないことやけど、
何故そんなことしたかゆうたら私のためにしてくれたって、それを知っとるから。
怪我までして…説教してやらんと、と思とる」
「そうですか…あなたの大事なものは在り方ではなく家族でしたね」


408 :fateはやてルート109:2008/08/16(土) 14:54:27 ID:Rgcl6M7E
「あの腕はシャマルのものだと思いますが。シャマルは無事なのですか?」
「大丈夫やないけど生きとる。シグナムに確認とった」
「それは、よかった…あれは私が見えないようにして持ち帰るとしましょう」
「見えない剣の応用というわけやな」
「はい。話は変わりますがはやて、クロノという者と会う気はありますか?」

クロノという名にピタリと動きを止める。

「驚いた、セイバーさんからその名前が出てくるなんて」
「放課後、校門前で待っているとのことです。今頃いるのでしょう。
会うとしても今のあなたの状態からすると私も同行しますが…」
「ええよ、ええよ遠慮はいらんて。今私は一人だと動くこともできんし、
私からも同席お願いするよ」
「わかりました。では肩を」


「で、黒野さんとあんたらの関係は?」
「ふふふ、知りたいー美綴?あたし達とクロノさんは秘密を共有する仲でさ~
な~?クロノさん」
「ああ。少しだけどな…」
「どーせ蒔寺のことだから飯だとか遊びの話なんでしょ」
「バーカそんなんじゃねぇって、もっとでっけぇんだよ。宇宙だよSFだよ」
「また始まっ――」
「蒔ちゃん!だめだよクロノさんが困っちゃう!」
「えっ三枝、もしかして少しマジ入ってんの?」
「あう、そ、そんなことないよクロノさんが宇宙人だなんて真面目に言ったりしないよ」
「三枝さん…」
「!?ご、ごめんなさい」

クロノに平謝りする由紀香を綾子は凝視し男をも見据える。

「あんた」
「宇宙人なんているわけない。気にすることは――」
「そうじゃないよ。こいつらとはなんか微笑ましい関係じゃないなって
よくない感じ?あんま関わらない方がいい気がするんだ」
「…それは僕も同感なんだけど」
「ふふふ、いかんな美綴嬢、そこのいい男をそうやって独占する気かな?」
「はぁ!?」

口を大きく開き、目をも見開き信じらんねぇとばかりに絶句する。

「クロノさんは衛宮とはやてを取り合ってもいるからな参入するのなら速いことを勧めておくぞ」

鐘はどこからか取り出した羽扇を揺らし慇懃な態度で綾子に接する。

「あ、あのなぁ……お、衛宮だ」
「…衛宮士郎、無事だったか」

そんな五人の前に士郎は俯きハンドポケットのまま遅い歩調で現れた。


409 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 14:55:22 ID:Rgcl6M7E
今日は以上です。
644 :はやてルート110:2008/08/24(日) 23:46:10 ID:5vHb3Eu8
「待てよ。士郎」

騎士甲冑を解き、私服姿になったヴィータは門へ歩いていく士郎の背中を追いかけた。
足取りが重い士郎にはすぐに追いつき、その血の気の失せた腕を掴んだ。

「離せよ。俺は、今は誰とも話したくない」
「…士郎達を騙してたのはさ…本当に、本当に悪かったよ。
けど、みんなの気持ちも少しは分かってくれよ」
「俺に…人殺しの気持ちを分かれって言うのかよ!遠坂は俺達との戦いは望んでなかった。
なのにっ!なのにっ!…」

士郎の心の中に渦巻く葛藤に耐えるように拳を握りしめ、歯を噛み締めている姿を
ヴィータは悲しげに見上げた。

「士郎は本当ははやてのことなんてどうでもいいんだ」
「ち…違うっ!俺はできるだけ犠牲を出したくないんだ。もっと違うやり方があったはずだ!」
「あたし達は時間があんまり無いってわかってるからあんな方法をとった。
士郎の戦い方じゃ時間がかかる。あの遠坂って女との決着はどうするつもりだったんだよ」
「それは…互いに話し合って…はやての命がかかってるって知ったら遠坂だってわかってくれるはずだ…」
「あたしは遠坂ってやつのことはよく知らないけどセイバーの話だと二百年かけてこの戦いで勝とうとしてるんだろ?
きっとそんな甘くないと思う。だからはやてはセイバーを隠匿しながら協力して
最後にはあたし達とセイバーであの女のサーヴァントを倒すって考えだった。
あたしもそっちでなら賛成した」
「…俺は聞いてない…」

士郎は不機嫌な顔をさらに渋くする。

「そ、そこはよ士郎は隠すなんて器用なことはできへんしってはやてが…さ」
「はやてまで俺を信じてなかったのか…そうなのか…」

感情も失せるほど消沈した士郎はヴィータに背を向け再び校門へと歩き出す。

「待てって!」
「まだ…なにかあるのかよ…」

ヴィータは士郎に追いすがり後ろから抱きすくめ止めようとする、が士郎はもう聞く耳持たないという様子だった。

「お前が…そんなこと言うなよぉ…はやてはお前のこと信じてるし、
頼りにしてるんだよ…士郎がそんなだったら誰がはやての支えになってやるんだよ…」

後ろからの声はあからさまに涙声となり始め、腰に回された腕も心なしか震えていた。


645 :はやてルート111:2008/08/24(日) 23:49:00 ID:5vHb3Eu8
「お前達がいるだろ…」
「違うっ…あたし達は結局ははやてを苦しめてる存在だ。
本当に全てわかって支えてやれるのはお前だけなんだよ」
「…俺だってはやてを苦しめてる」
「そんなことないっ!絶対ないっ!」


「ちょっ…おいおい、衛宮の奴小学生を泣かせてるぞ」

士郎とヴィータを数十メートル離れて眺め見ているのは故意ではなく
ただ、成り行きでいきなり始まった事態を呆気にとられて眺めるしかなかったからであった。
それでも陸上部の黒豹や策謀の鐘やらは恰好の肴を手に入れたと舌なめずりせずにはいられない。

「フム、そして二人はただならぬ仲な様子。冷たくあしらおうとする衛宮に
あの子がなにかせがんでいるようにも見えるな」
「くくく、あの便利屋にこんな危ない趣味があったとはねぇ。
こいつはスクープだ!明日の一面は決まりですぜ!」
「新聞でも作るのか蒔の字」
「へへへ、これをネタに衛宮を揺することもできますぜぇ。
美綴も衛宮に貸しの一つや二つあるっしょ?」

調子に乗りまくってきた黒豹に綾子はため息とともに呆れ顔になる。

「はぁ…こんなことでゆすれるなら苦労しないわよ。あの子は衛宮の義理の妹だよ、確か。
なんでランドセルしょったままここに来たかはしらないけど家の事情でしょ」
「そうだよ。衛宮君はそんな人じゃきっとないよ」

綾子に続いて由紀香がフォローを入れるがこんなことで収まるなら黒豹の異名はとらない。

「ぎ、義理の妹だぁ~なんだそりゃ!?お兄ちゃーんな世界か!?ああ!?
一体どんな恋愛シミュレーションだっつーの、衛宮のクセに!」
「蒔ちゃん酷いよ」
「あの子が義理の妹か。まぁ、衛宮の家庭が特殊なのは事実だ。
情報に拠れば本当の両親はすでに亡く親は養父。その人も亡くなったらしい。
はやてもその養父の養女。養父の後妻に後妻の連れ子に後妻の妹。
ん、なんとハーレムではないのかあの男」
「ががが…衛宮のクセに…」
「あの子は気が強い感じだったけど泣くなんてどうしたんだろうね。
衛宮もなんからしくないしあたしはその方が心配だよ」
「そうだね」

唸る楓とは逆に綾子と由紀香は二人を思んばかりじっと見つめる。


646 :はやてルート112:2008/08/24(日) 23:51:42 ID:5vHb3Eu8
「離せよ…」
「士郎が機嫌直してくれるまでは…このままだからな」

後ろからがっちり掴んで離さない。頑なな士郎にヴィータもまた
顔を膨らせ意地になっていた。

「いつまでやってる気だ…」
「士郎次第だぞ。嫌だったらその拾った黒い剣であたしを斬ったりすればいいじゃんか」
「そんなことできるわけないだろ。確かにこの剣は―――」
「魔力!?――」

士郎が黒い剣を持ち上げ刀身に目を通したときそれは起こった。
突如、刀身から解放される膨大な魔力の奔流。
爆発的に拡散する魔の暴力は轟音を響かせ周囲数メートルを抉りとった。


「うわ!?」
「下がれ!」

士郎達を眺めていたクロノ達の前で突然の爆発。考えられない事態に固まる綾子達、
わいわいと賑やかな空気の中では、我関せずを貫いていたクロノは
この異変には素早く反応し、綾子らの前へ立つ。
爆風とともに五人に襲いかかる砂塵、つぶて、魔力の負荷を加えられたそれらは
鋭い脅威をもって全方位へ弾け飛ぶ。
クロノが爆発方向に対し手をかざすと、そこには水色に光る輪が展開され、クロノ達全員を包み込んだ。
つぶてはけたたましい打撃音を発生させ、光に激突するも水色の光は微動だにしない。

「黒野さん!衛宮達が!」
「美綴だったか離れるな。危険だぞ」
「はっ…はい。でも!」

4人の女子の中で綾子はこの異常の中何が起こっているのか冷静に判断し、理解していた。
それ故に飛び出したい衝動に駆られたが思い虚しくクロノに制止された。

「あいつらなら無事だ。横を見るんだ」
「えっ!?」

クロノの見る方向を見ると綾子の目に映ったのは、クロノとは別の赤い光に覆われたヴィータと
ヴィータに抱えられた士郎の姿だった。爆心地から実に三十メートル。
わずかの時間でそれだけ移動している、綾子にとってそれだけでも驚異的な出来事だった。
魔力によって巻き起こった暴風はやがて沈静化する。
そんな中いち早く動いたのはヴィータだった。


647 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 23:54:41 ID:5KZL0z0i
しえん


648 :はやてルート113:2008/08/24(日) 23:56:24 ID:5vHb3Eu8
「士郎!士郎!」

地面に横たわっていた状態から飛び起き、無反応な状態で抱えられている士郎の上半身を起こして揺すり意識を確かめる。
必死の形相で名前を呼び続けると士郎はうっすらと目を開いた。

「聞こえてるよ…それにそんなにゆするなって…助かったのか…ありがとうなヴィータ」
「バカやろうっ!驚いたじゃねぇかよ!本当にびっくり…させやが…てぇ…
バカ…やろ…」

苦笑いを浮かべる士郎と泣きべそをかくヴィータ。
あの爆発の瞬間とっさに騎士甲冑を纏い、プロテクションを展開して士郎を抱え前方へ跳躍したが
ヴィータの感覚では防御範囲が士郎をカバーするまでに少しばかり誤差があり、
いくらかの衝撃が士郎にいったはずとヴィータは認識していた。
ヴィータ自身も出血をしている以上士郎の状態は安心できるものではない。

「制服が…ボロボロ…だぞ…シャマルやはやてが…さ…困るじゃねぇかよ。
シグナムは笑うかもしんないけど。どこか痛くないのか?」
「痛みを感じたと思ったんだけどな…どこも痛くない」
「士郎は鈍いから…って頭から出血してるじゃねぇか!なんで気づかなかったんだあたしは」

わたわたとハンカチを取り出すと額に添えた。

「いや、これは俺の血じゃない。きっと遠坂とヴィータのだ。貸せって」
「あ…」

ハンカチを取り上げると破れた騎士甲冑の隙間から見える血を拭っていく。

「帰ったらちゃんと治療してやるからな。ちょっとここ持ち上げるぞ」
「!?いいって…そんなの」
「遠慮するなって」
「そうじゃなくて…さ……さっきから何見てやがるんですか?」

ヴィータが顔を向けた方向には二人を見つめる5つの視線。
1つは無関心、2つは心配気に…もう2つは興味津々といった様子。

「ふむ、この不可解な状況の中私の理解が及ぶ範囲でまず納得しておこうかと。
ニヤニヤできる程仲がよい。私はいいことだと思う」
「衛宮の趣味はよくわかったしね~充分楽しませてもらったぜぃ」
「は?何のことだ?」
「いや、なに衛宮がハンカチで拭ってやってる時のその子の照れ顔はなかなか絵になっていた。
仲がよくなければそんないい絵にはならない」


649 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 23:58:05 ID:5KZL0z0i
しえんっ


650 :はやてルート114:2008/08/24(日) 23:59:38 ID:5vHb3Eu8
「そうなのか?」

ヴィータに視線合わせるあからさまに視線をそらした。

「し、しらねぇ…」
「むふふ、かわいい、かわいいねぇ、照れちゃって」

追い討ちをかけるように黒い獣の忍び笑い。その笑いに
ヴィータのイライラゲージがあっという間に溜まっていく。

「士郎!いくぞ!」
「うっおい!?」

身長差が数十センチある体格差をものともせず士郎の腰を一掴にみすると
脇腹に抱えて駆け出す。

「どうも失礼しますです!」
「あ、あ気をつけてくださいね」
「衛宮をよろしくね」
「夜間の単独行動は控えておけよ」

心配と無関心を向けていた三人の言葉を背中で受けてヴィータ達は校門を抜けていった。

「二人も学友達も無事だったようですよ、はやて。マスターをまた守られるとは
私の立つ瀬がないとも言いますが…頼りになる妹分です」
「そ…やな…さすがヴィータや…」
「…苦しそうですね…急ぎましょう」

セイバーの肩を借りたまま階段の窓から、見下ろすはやては呼吸も荒く目も虚ろだった。
はやての容態の急変はあまりに急過ぎた。セイバーはそんなはやてを厳しい顔つきで見つめる。
明らかに昨日より悪化している様子にシグナム達の焦りを少し、共有した気分だった。

「はやてっ!あんたどうしたのっ!」
「持病の…体…調不良といった…とこやな…」

校門前に未だいたクロノ達の前まで来た時、全員目の前の姿を意外に感じた。
快活な雰囲気は微塵も無く顔色も真っ青で弱々しい。
無関心を貫いていたクロノさえ驚き、腕組みを解き注視する。

「サーヴァント、今の様子だと碌に話もできないだろう。今日はゆっくり休ませるべきだ」
「ええ、そうするつもりです」
「そんな…気に…せんでも」
「何を言っているのです!今のあなたには喋らすだけでも危うい。
すぐに家に戻ります。クロノあなたはこの子達を送ってあげてください」
「そうだな」

門の前でセイバー達とクロノ達は別れた。異常なことが続き学生4人は落ち着きがなく
ちらちらとセイバー達の帰った方向を振り返っていた。


651 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 00:00:14 ID:MnWnxLqW
今日は以上です

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最終更新:2008年08月25日 03:41