「やるようだが、まだまだだな…はっ!ちったぁ歳食ってから出直してきな嬢ちゃん」
「く、次は負けません!」
「ははははは、楽しみにして待っているぜ」

「よぅ、ウーノの姉ちゃん、無事か?」
「ランサー…来るのが遅いですよ」
「そりゃすまんな。で、どうだ…」
「失敗よ…ゆりかごは沈み、妹達も皆…ゼストは死んだわ」
「そうか…ゼストのおっちゃんも死んじまったか…んじゃ俺はいくぜ」
「どこにいくの?」
「トーレが呼んでいる」

「ああああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

冷静であるはずの自分が咆哮し、己の拳を叩きこもうとする。それは怒りであった、ドクターが吹っ飛ばされた、
自分の妹が呆気なく負けた、そして自分ですら相手にならなかった。私には誇りがあった、ナンバーズの妹達を導きそして慕われる姉として、
ドクターの下で戦える誇りが…だがそれも砕け散った、ドクターの夢はゆりかごと共に沈み、妹達も管理局との戦いに敗れ捕えられた、
そして残りは私一人…負けは分かっていたかも知れない。長年戦場を駆け巡った事によって研ぎ澄まされた感覚はこちらの敗北である事を導き出していた。

―――だけど…

それでも私は拳を振るおうとする、それは意地、自分のあるべき姿、戦闘機人として為すべき事を成すため…それが無理でもせめて、
一発は…一発を打ち込みたかった。だがその拳はかわされ、そして自分の視界に移るのは金色の刃。それを腕のブレードで受け止めるが、
こちらの耐久より刃の威力が遥かに上なのだ、そしてブレードはへし折れ、刃は自分に振り落とされ、吹き飛ばされる。

―――嗚呼、畜生、畜生…畜生畜生畜生畜生…

「無力」その二文字が自分の心に突き刺さる、理不尽な終わり方に私は心の中で悪態をつくだけだ…だが自分の背中は、冷たく硬い壁ではなくて、温かき人の手に押しとめられた。

「おおっと、大丈夫かトーレ?」

――嗚呼、来てくれたのか…

私を受け止めてくれた人、ある日、とあるロストロギアに触れた私の下に現れた男、
そして私を「マスター」と呼んで忠誠を貫いた男…青色の甲冑、それも必要最低限以外の装甲を外し、
軽量化に拘った甲冑、その甲冑と同じ色の髪、手に握られた赤い魔槍


「ランサー…」

私は男の名前を呼び、男の顔を見つめる、そして男はほっとした顔をした。

「派手にやられたなぁ、ま、あの嬢ちゃんがここまで出来るとは思わんかったよ」
「ほっとけ」

こんな状況にも関わらず私はそっぽを向き、そして言う、「せめて一撃は加えたかった」とそして男は言う。

「んじゃ、その役目、俺が貰った」

丸で演劇で主役に抜擢された子供のように、お菓子を貰った子供のように、嬉嬉した顔で私の願いを代行してくれた。
だけどトーレは知っているランサーの寿命を…

ランサーは手に持つ魔槍を女に向ける。

「と、言うわけだ…トーレの願いで一発すかした顔の嬢ちゃんにブチかますってな」
「シャッハは!アコースは!」
「お、あのおかっぱの嬢ちゃんと色男か?まぁ結構楽しませてくれたな」
ランサーは楽しかったように言い、そして何か思い出したように言う。
「無論、殺っちゃいないぜ、そうマスターに言われたからな」

「…ゆりかごも沈み、貴方の仲間もすでに全員逮捕されました、これ以上の争いは無意味です、大人しく投降してください」
女、フェイト・テスタロッサは言う。

ランサー…第5次聖杯戦争で理不尽に振り回され続け、最後まで主の為に戦う事が敵わなかった
97管理外世界にあるアイルランドの大英雄にして「クランの猛犬」クー・フーリン…だが何かの因果で彼は再び召還された、
そしてその主は自分の理想ともいえる女性であった、気が強くて、胆がすわっており、そして美人…

「それにどっちみち聖杯の力なくして無理矢理召還されたんだ…俺の命も…もう…」
ランサーは遠くを見るように言う。
「尚更、私達の力があれば貴方の事を…」
「ハン…やっと理想のマスターの下で戦えるんだ、俺は…俺の心情に肩入れしているだけ、
 せめて最後はマスターの願いを敵えてやらないとな!赤枝の騎士の誇りが廃れるって言うもんだよ!」
「分かりました…」

フェイトは説得が無駄と知り、ライオットザンバーを構える…どこかランサーに羨ましさ
もあるかもしれない最後の最後まで自分の主に忠を尽くす男に、あの時自分は母親を裏切
った…だからこそ目の前の男が羨ましかった、そして心のどこかでこの男との戦いを望ん
でいたかもしてない。

あの時、アグスタで現れ局員を蹴散らした男
あの時、地下水道でルーテシアを助ける為にスバル達の目の前に現れた男
あの時、6課襲撃の際にシグナムと刃を交えた男、心躍る光景だった。
やはり自分も「闘争マニア」なんだなと思う…不思議とその感情に不快感を覚えなかった。


「ランサー…」
トーレはポツリと呟くと自分の使い魔…いや戦友の背中を見る。

―――自分が主である事に喜ぶ彼…
―――自分を始めて満たすことが出来た彼…
―――妹達の面倒を見てくれて、すっかり懐かれた彼…
―――ドクターの事を蛇蠍のように嫌っていた彼…
―――逃げ出した聖王の器にまで懐かれた彼…
―――彼と一緒に釣りにいって、同じ時を過ごした…
―――彼と一緒に買い物、いやデートにいった…
―――そうだ私は…

ランサーの事が好きだったんだな…初めて湧き出た感情、戦闘機人では不要である感情、
だけどトーレにとってその感情は心地よかった。

「トーレ姉さま…ランサー…」
フェイトに撃破されのびていたが、なんとか復帰したセッテが起き上がる。
「「フェイトさん!」」
フェイトが引き取った子供にして大きく成長したエリオとキャロも現れ、そして目の前の光景に息を呑んだ。

「へっ、今ごろ目がさめたか、セッテ」
「エリオ、キャロ、来てくれたんだね…」
「だが」「でも」
「「手出しは無用だ(よ)」」

そしてランサーは槍を、フェイトはライオットザンバーを構える。
「ああ、そうだ」
何かを思い出したようにランサーは言う。
「いい、餓鬼を持ったな、嬢ちゃん」
「ええ」
それを誇るようにフェイトは笑顔で言う。
「だって、私の自慢の子供達ですから」
「そうかい」
ランサーもそれにつられて笑顔で答え、そして猟犬の如き目つきになる。

「じゃあ、始めようか、嬢ちゃん!」
「ええ、負けませんよ!」

青き疾風と雷光は激突する―――

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最終更新:2008年06月30日 17:18