:Fateはやてルート73:2008/06/28(土) 17:10:00 ID:Qq0Y1lDX
1992年冬

つまりは7歳の冬、まだ海鳴という場所に一人で住んでいた頃
あの人は一通の手紙をしたためて送ってきた。仕事の件で来日する。君に直接会いたい。と
そうしてやって来たのは父の友人というおじさん。
彼は娘だという2人の女の子を連れ私の家へやって来た。

落ち着いていて物腰柔らか、優しげな眼差しが印象的なグレアムさん。
元気いっぱい、私を弄って、倒して、慌てるロッテさん。
途中まで一緒に遊んでいるのにロッテさんが慌てるようなことになる時には
要領よくいなくなっている、物静かで抜け目ない、けど、根は優しいアリアさん。

三人が滞在した時間は数ヶ月と短かい間やったけど確かに私に暖かいもんをくれた。
何故今になって突然とか、何をしにとか疑問に思わなかったわけやないけど。
初めて親兄弟みたいな感触を感じれた生活を壊したくなかった。
そんな思いは奥底に沈め、ただ明るい、気持ちのええ部分だけを見た。
独りで生きてきた私に対する神様からのご褒美やと思ったから。
せやけどそれは、長くない夢やったと、ある日突然思い知らされた。

空が緋色に染まり始めた頃に小さな呼び鈴が一つ、それが合図。

「はい、どちらさんです?」

車椅子を引き玄関を開けると30歳前後の男性がゆったりとした様子で佇んでいた。
はやてに気付くと、人なつこそうな笑顔を浮かべる。

「僕は仕事でグレアムさんの世話になっている者でして、グレアムさんはご在宅ですか?」
「いえ、おじさんは少し前からこっちには帰ってないです」
「今はどちらかわからないかな?彼は忙しい人でなかなか捕まえられないんだ」
「そうですね、確か冬木市の方にしばらく滞在するらしいんですよ。
ここからでも通える距離やのにほんま生真面目な人なんです」

はやてがそう嬉しそうに語ると青年は少し視線を逸らし、尋ねた。

「君は八神はやてちゃんかい?」
「ん?そうですよ」
「そうか…じゃあ、お休み」
「え?」

瞬間、視界は暗く沈み込む。青年に意識を刈り取られたなどと気付くことはなかった。


524 :Fateはやてルート74:2008/06/28(土) 17:12:20 ID:Qq0Y1lDX
戦いはこちらが優勢、ギル・グレアムはそう判断していた。
聖杯戦争が始まりはや数日、幾つかの陣営との数度の会戦経て、
今グレアムが相手にしているのは魔術使いとして名を馳せた男。
こちらの世界にいる割合は決して多くはなかったが、魔術協会の末席に在籍している彼にもその名は伝わってきていた。
金の為に魔術を振るい、その対象は要人から魔術師と見境がない――殺し屋。

魔術師としては初代であるグレアムは基礎は抑えていたが
この戦争に参加しようとする魔道の探究を何代と重ねた名門相手では歯が立たないだろう。
ただし、それはあくまでもこの世界の魔術で戦えばの話。

戦いの始まりは工場手前での相手の狙撃から、
夜の闇に溶け込み放たれた凶弾、だがオートで展開している防御魔法がその貫通を許さない。
相手に舌打ちと次の手段を採らせるほどにその守りは卓越していた。
狙撃のポイントを確認するや、三人は即座に緊迫し舞台は廃工場へと移っていく。

「ロッテ、そちらから回り込め。速さでは私達の方が上だ。
この距離ならもう、狙撃を恐れる必要もない。アリアと私は正面から突く」
「「はい!!父様!!!」」

幾つもの機械のなれの果てがあちらこちらに残る工場の鉄柱をすり抜けるようにロッテは駆けた。
追う男の背は這うように工場の奥へと走る。

「いい加減捕まればー?あたし達からは逃げられないって」

声に反応したのか、男は振り向きざまに拳銃による射撃を行う。
狙いは正確無比、だが、弾丸がロッテの体に届くことはない。
ロッテの体数十センチ手前で衝撃音を残し、殺傷力を失い地へと落ちる。
その、儚い抵抗に口元を歪め、舌なめずりを知らず、していた。
目には嗜虐の感情を浮かべ再びその足は空を蹴る。
獲物を狩ろうとするその思考はクリア。けれど、相手はただ、逃げ回る鼠ではなかった。

「んっあ!?」

工場内に爆光が炸裂する。暗く光のないはずの世界は昼間以上の輝きは放ち、爆音を撒き散らす。

「ロッテェェェ!!」
「…ロッテ!」


525 :Fateはやてルート75:2008/06/28(土) 17:14:56 ID:Qq0Y1lDX
「ギル・グレアム?アサシンの報告に拠れば奴の願いは闇の書をどうとか云う話だったな。
その手の名はよくある名なのでさらに詳細が知りたかったがなかなかに警戒が厳で
それ以上は聞くことはできなかったようだ」

教会の一室、朧気な明かりの下、座して語り合う姿があった。

「良く思い出せ、言峰。奴のサーヴァントはただのキャスターだが奴が使った魔術
あれはお前が知り得る物ではなかったであろう?」
「確かに私が知らない系統のものだったが魔術の系統は魔術協会のものが全てではない」

言峰の言葉に金髪の男は微笑みを湛えた表情で再度口を開く。

「言峰、この星の魔術の体系など我は全て把握している。
が、あれは我が今まで見た事のないものだ。いや、正確にはこの星ではと言おうか。
あれは融合型よ。異界で栄えた魔術と科学とのな」
「異界…だと?」
「分からぬか、まぁ無理もない。互いの神が滅びてから交流も長きに渡り絶えていたのだからな。
我としても異世界の事は面白き酒の肴よ。奴目を捕らえて色々と吐かせてみるのも一興か」

赤き瞳は獰猛な輝きを放ち虚空を見つめる。
言峰もまた、異界の人間が聖杯戦争に参加してまで叶えたい願いというものに興味を覚え始めていた。


「ハァ…ハァ…やって…くれるじゃん」

煙が晴れる頃には工場内は静けさを取り戻していた。
ロッテを襲ったのは魔力が付与された6000発を越える散弾。
僅かに開かつしていた場所でそれは四方八方からその身を砕かんと迫った。

「無事?ロッテ」
「一筋縄では行かぬ男だな。軍事兵器まで持ち出してくるとは」

後続してきた二人はロッテが原型を留めていることに安堵した

「父様、アリア、大丈夫だって、あたしのホイールプロテクションだって
アリアほどじゃないけど結構堅固だ」

にっと笑うロッテの顔は僅かに煤けているだけで外傷は見られなかった。

「でもさ、うまく逃げられて誘導される のはしゃくだし、アリアあれで捕まえちゃってよ」
「フープバインド?視界が悪いここじゃ成功率は落ちるよ」
「確実に勝利するためには必要だ。アリアやってくれ」
「わかりました」

アリアが小さく構え、詠唱を紡ぐ。足元に現れた円形に輝く魔法陣は廃工場の暗闇を照らした。


526 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/28(土) 17:15:03 ID:XT7ENjzO
>>477
クロスのマナー=片方のキャラ弱体化しての戦力の平均化なら、そんなマナーは無くて良いよ。
つぅーか、それは強さの違うキャラ同士を同じ土俵で闘わせようとする為の不自然な行為。

戦力不均衡なクロスは、強キャラが蹂躙か、強キャラを策で弱キャラが蹂躙するしかない。


527 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/28(土) 17:15:07 ID:n8wvy6VO
支援


528 :Fateはやてルート76:2008/06/28(土) 17:17:20 ID:Qq0Y1lDX
切嗣にとってここまでの苦戦はやや、想定外だった。
彼の情報網に拠れば、ギル・グレアムはぱっと出の魔術師であり、
魔術の腕もそこまで卓越しているという話は聞かない男。
この度の参加者の中では決して勝ち残れるほどの力量をもっている者ではない、
というのが彼を知る魔術協会関係者の一般的な弁であった。
けれど、ギル・グレアムは切嗣の嗅覚に厄介だと感じさせる何かを持っていた。
第一にこの男の普段の所在は全く掴めず、家とされている場所は仮住まいなのか工房さえ確認できない。
何で生計を立てているのかさえ、知る者は居らず、
偶に協会に顔を出しては世間話をして家に滞在し、消える。
そして、一番注意を引いたのが一度だけ妙な魔術を使用し、飛んだと、いう証言。
空を飛ぶとすればそれは大魔術の類、ぱっと出の魔術師がそんなことを為すなど有り得ない。
だが、切嗣の勘はそれも有りと判断し、この男との戦闘プランを建てた。
その判断は間違っていなかった。一般的に言ったならば、苦戦。
敵は意外にも手練であり、一対三の不利、けれども想定外のこの状況下でさえ、
切嗣は勝利を疑わなかった。札は…所持しているのだから。

切嗣は次なるポイントへと移る。今までで相手の防御力は理解した。
生半可な威力ではあの防壁は突破できない。
と、すればそれ以上を叩き込む。それで済む。
だが、切嗣は知らない。彼らが防御だけではないことを。
視線の先で眩い発光。それはミッドチルダ式魔法発動の光だった。

「!!?」

知覚した時には周囲に幾つもの魔力に輝く環が出現し、円周を次々と引き締める。
何を目的とする物か理解し、身を伏せ、やり過ごそうとするが
それを許すほど甘い相手ではなかった。

「サーチ完了。座標確認。締め上げろ」

切嗣の辺り沸き続けた円環はついに切嗣本人を包み形で出現した。

「ちっ…避けられはしないな」

諦めの言葉と体が締め上げられるのはほぼ、同時だったろう。
苦悶の言葉はなかった。
全身を拘束された切嗣にゆっくりと近づいてくる影は三つ。
互いの姿が確認できる5メートルの距離で両者は対面した。


529 :Fateはやてルート77:2008/06/28(土) 17:19:49 ID:Qq0Y1lDX
「衛宮切嗣、こうやって話すのは初めてとなるな」
「…こっちは話すことなんてない」
「管理局最強なあたし達に勝とうなんて甘いよ、君」

バインドにより身動き取れず床に座る男にロッテが胸をそらし自慢気に語る。

「ロッテ、まだ、勝負はついてないよ。この男も、諦めてない」

切嗣から視線を外さずアリアは警戒感を緩めない。
そこでグレアムは対照的な二人を落ち着かせるように肩を叩き二人の前へ身を乗り出した。

「では、決着をつけるか。衛宮切嗣、率直に言おう。ここでリタイアする気はないか?
私達はこれ以上抵抗しないなら君を殺しはしない。
君の願いも私達が代わって叶える事を約束しよう」
「そういうならそっちの聖杯に賭ける願いを教えるのが筋だな」

切嗣の抑揚の無い言葉に姉妹は父の反応を見守る。

「わかった。話そう」
「父様!?本気ですか?」
「ちょ、ちょ…って父様!?」
(アリア、ロッテ、私達が魔法を使って殺しをするのは避けるべきところだ。
彼らを捕らえる権限もない。ここは合意の上で彼らマスターを
退場させるのがベスト。という、方針だったろう?)
(あ…)
(あっはっは…忘れてたなぁ)
「では話そう。衛宮切嗣、私達が聖杯を望む理由をね」

そのままにグレアムが語った内容は転生機能を持った魔道書が
人間に取り憑き災厄を引き起こし続けているということ。
完全に書を消滅させる手段は見当たらず、ならばと、万能の力を持つこの地の聖杯頼ろうと決めたのだと。

「………大した正義感だ」
(父様、鼻で笑われてます。残念だけど私達の願いをこの男が理解するわけない)
(…大丈夫、人を見る目はあるつもりだ。彼は、これ以上抵抗する手段がなければ
こちらの願いを理解してくれる、そんな男だと私は思う)
「魔術師らしくなく俗物的なところは共感を覚える。
果たそうとする願いも僕から言わせれば悪くない、
けどね、この戦いにはすでに僕以外の命を賭けた。だから、止まるなんてできない。
そして、戦いの際中に長話のし過ぎだ。敵に脱出の機会を与えるなんて
間抜けとしかいいようがない」

瞬間、動きを拘束していたバインドは砕け散り、切嗣は素速く立ち上がるや後方へ跳躍した。


530 :Fateはやてルート78:2008/06/28(土) 17:22:51 ID:Qq0Y1lDX
「えっ!?」

その驚きは姉妹どちらのものか。その隙を突き正対しながら後方に下がりつつ
切嗣はリーゼロッテの柔肌目掛け弾丸を打ち込む。

「こっの…アリア!」
「わかってる」

その弾丸はガードされロッテ自身には届かない。
それでもロッテの動きを僅かに止めることには成功した。
が、もう片方はすでに詠唱に%9


531 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/28(土) 17:24:17 ID:ukn7r/Wr
支援


532 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/28(土) 17:24:40 ID:Qq0Y1lDX
に入り、視界に切嗣をとらえ、

「くらえ」

フープバインドが発動する。おびただしい数の環が標的を捕らえようと出現したが
いたはずの場所に男の影はなかった。

「見切られた!?」
「瞬間移動か?いや、違うな。アリアのバインド発動のタイミングを感じ取って
何らかの超加速で避けるとは驚嘆すべき戦闘センスだ。
二人とも下がれ。私がやろう」

渋々の姉妹を後ろ手にグレアムは前面へ出、
約二十メートル先に移動した切嗣に向き直る。切嗣はといえば何かに向かって駆け寄っている様子。
そこにグレアムは危険なものを感じとった。

「させんよ」

グレアムの周囲に十を超える光弾が浮かぶ。そして発射という間際、
突如、切嗣の背後の空間が開かれた。この廃工場内において、
唯一、光で照らされたその部屋には二人の人影。
一人は妙齢の女性。切嗣とグレアムら両者を冷静に見、
彼女は彼女に与えられた役割を全うする。
それは、キャリコM950を人間の頭部に突きつけること。
突きつけられているもう一人こそ、二人目の人影、両手両足を縛り上げられた八神はやてだった。
女性はグレアムの光弾を見据えると銃口を強く少女のこめかみに捻り、押し付け
る。

「い、痛い…グレアムさんっ助けっ」

苦悶に呻く少女を前にグレアム達の間に焦燥と怒りが渦巻く。

「ぬ、ぐ。はやて…」
「父様…退きましょう…このままでは不利です」
「逃げないよ。あたしらを怒らせたらどうなるか…」
「舞弥」

切嗣の呼びかけに無言で頷くと女性は少女の髪を掴み上げ、固い地面に頭から叩きつけた。

「!!ッ衛宮切嗣ッ!!!貴様ぁ!!!」
「逃がしなんかしない」
「…はやてを解放する条件はなんだ?」

睨みつけるグレアムと涼しい顔の切嗣。切嗣の答えは明快だった。

「死んでくれ」

切嗣が駆け寄って手にしたのは起爆装置。今、つまみが発火へと切られ、
グレアム達目掛け、何個という爆薬が炸裂する。


533 :Fateはやてルート79:2008/06/28(土) 17:27:39 ID:Qq0Y1lDX
アインツベルンの術により魔力付与された爆薬は元の性能の数倍の威力を叩き出す。
切嗣が用いたのは対人ではなく対戦車兵器。
元より数十センチの鉄板を撃ち抜くそれは今では数メートルの鉄板さえ砕くだろう。
四方よりグレアム達に迫る火線はそのような凶悪な代物だった。

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

瞬時に展開した三人のホイールプロテクションでさえ、強度は限界を超えた…
壮絶な爆音と砂煙が鎮まり静寂が戻ると爆点には赤い鮮血が広がる。

「グ、グレアムさん!?」

頭の痛みすら忘れ目の前の光景に食いつく。
血の海に横たわる三人はそれでも息があるようだった。
けれどもいずれも重傷なのは全身に広がる裂傷と出血からして明らかだった。
ロッテは片腕が無く、アリアは意識が無く、グレアムは足がなかった。

「ロッテ…。とうさ、いやアリアを連れて逃げろ…アリアはまだ…間…に合う
私は内…蔵と足をもっ…ていかれた…多分…一緒には…いけない…」
「……わかった。父様と出会ってから楽しかったよね…私達」
「ああ…アリアを頼んだ」

別れは短くにこやかに。
ロッテはアリアを抱き上げると切嗣に背を向け地を駆けた。

切嗣の前に残ったのはグレアムのみ。切嗣はグレアムの元へ足を向ける。

「クロノ…最後に…会…いたかった」

グレアムの呟きが終わると工場には銃声が響く。
時空管理局執務官長まで勤めた男。ギル・グレアムは故郷の地の惑星、
極東の地で魔術使いの凶弾に倒れ、その人生を終えた。
銃声の結果は少女の心をささくれ立たせる。

「なんてこと…するんや!!グレアムさんを返してぇな!!この、人でなし!!」

嗚咽を漏らすその姿を切嗣と女性は冷ややかに見下ろした。

「どうします?」
「まだ、人質として有効だ。持ち帰る。
あとはマスターが死んだことでキャスターは消えたか確認する」

切嗣はむせび泣くはやてを拾い上げると腰に抱え、工場の外へと歩き出した。

そうして私、八神はやては八神はやてとして最後の数日を
衛宮切嗣の隠れ家で過ごした。衛宮はやてに成るにあたって
私は彼の側にいて仇を討つつもりやった。

そやけど…それはいつしか薄れていった。切嗣の人となり、大河の優しさ、士郎との日々によって。


534 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/28(土) 17:31:06 ID:UOMjLTQs
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最終更新:2008年06月28日 22:55