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黒須花火プロローグ


少女にとって不幸だったのはその通路が人々の死角になっていたことと、その時彼女が考え事に没入して周囲に注意を払わなかったことだった。
すなわち、それは突然の襲撃。

背後から現れた男の刃が少女の身体に突き刺さった。
そして、少女の身体が力を失っていく。

「お前が悪いんだ!お前が嗅ぎまわったりなけりゃこんなことにはならなかったんだぞ!」

それはとある館で発生した殺人事件。
それは遺産をめぐる探偵の物語(すいりしょうせつ)にありふれた事件。
殺された男の周囲に浮かび上がる幾人もの容疑者たち。
男はその人位だった。
そしてそれを捜査と称して色々と嗅ぎまわっていた探偵を名乗る少女。
このままでは男が事件の真犯人であることが発覚してしまう。
だから、殺すことにした。好奇心は猫を殺す。これも探偵の物語(すいりしょうせつ)によくある話だ。

「さて、あとは強盗の仕業にでも見せかけて」
財布なりを盗んでおけば警察も金に困った行きずりの強盗犯行とみなすだろう。
そう短絡的に考えた男が路地に倒れた少女の死体に細工をしようとしたその時であった。

「ひどいですよ」
「……あぁ?」

誰かがしゃべった?空耳か?

「これお気に入りの服だったんですよ。高かったのに」
いや、気のせいではない。間違いなく声がしたのだ。
死んだはずの少女の方だ。

「それに私じゃなかったら貴方殺人犯になっていたところですよ」
先ほどまで地面に転がっていた少女がまるで何もなかったかのように起き上がった。
「いえ、すでに殺人犯でしたね」
そして、悲しそうな表情で呟くと首を振った。

「ちっ」
殺し損ねたか。

「仕方ねえな」
男が再び懐にしまっていたナイフを取り出す。このまま少女を逃がすわけにはいかない。
そうなればどのみち身の破滅だ。

「死ねっ!!」
そう叫ぶと男がナイフを振り下ろした。
「遅いですね」
少女は冷静に男の腕をつかむと、そのまま投げとばした。
猫のような優れた動体視力を持つ少女には男の攻撃は遅すぎたのだ。
男の体が宙を舞う。
そして、コンクリートの地面にたたきつけられた男はそのまま意識を失った。


◆◆◆◆◆◆

「はい。そうです。これで事件は解決ということになりますね」
探偵の少女―――黒須花火は自分を襲ってきた男を引き渡すためケータイで警察に連絡していた。
男は周辺にあったロープで縛りあげられたため。もはや抵抗はできない

今回の事件において推理を披露する機会はなかったが、それで構わないと花火は考えている。
花火も探偵である以上解決編(すいりをひろうするば)がないのは残念なことだ。
過程はどうあれ、事件は解決した。だから、自分の命のストックも回復してる。
ならそれでいい。だから問題はない。
彼女の探偵としての名誉よりも重要なのは事件が解決し更なる悲劇を生み出さないことなのだから。

「はい。それではお願いします」
そういうと火花は携帯を切った。これで一件落着といったところか。

といっても探偵の仕事に終わりはない。解決しなければならない事件などいくらでもある。
「まあ、この事件に関しては現状では取りつく島もないんですけどね」
火花がため息をつく。

眠ったまま目覚めなくなる謎の怪事件。
調べてみたところ、犠牲者はあらゆる土地、あらゆる時代に存在していた。
今も被害者を出しているというの以上、それは止めなくてはならない
そして、発生原因が今に至っても誰も解決できない謎。それに純粋に探偵として興味が引かれる。
だから解決したい。

「簡単にできたら、苦労しないですけどね」
もう一度ため息をつく。
まあ、地道にやるしかないだろう。

そして、火花がその夢を見たのはその日の夜のことだった。